目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 遺言の解釈の基準1 最高裁昭和58年3月18日判決2 遺言で定められる事項は法律で決まっている3 文言の本来の意味第3 遺贈又は承継の趣旨と解された裁判例1 大阪高裁平成25年9月5日判決(「全てまかせます」)2 東京地裁令和2年11月16日判決(「すべて委託します」)3 東京地裁令和4年11月10日判決(「すべてたくします」)第4 遺言としての効力が否定された裁判例1 大阪高裁令和3年11月5日判決(「全てをまかせる」)2 東京地裁平成15年10月23日判決(手紙形式の書面)3 東京地裁令和4年4月28日判決(「託します」)第5 一部だけ無効とされた裁判例1 東京地裁平成15年3月25日判決(遺産の分配を一任する条項)第6 結論を分けた事情1 判断に用いられた事情の一覧2 読み方の注意第7 金融機関が払戻しを拒んだ場合の対応1 金融機関の立場2 相続人全員の了解を書面で得る3 払戻請求訴訟を起こす4 遺言執行者の選任を申し立てる5 払戻しを受けた後に遺言の効力が否定される危険第8 遺言を作る側の注意1 「遺贈する」又は「相続させる」と書く2 対象財産と相手方を特定する3 遺言執行者を指定し,権限を書く4 公正証書遺言又は法務局保管を検討する第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,自筆証書遺言に「財産を○○に任せる」「全てまかせます」「すべてたくします」「すべて委託します」のように,財産を与えるのか,管理や処理を頼むだけなのかがはっきりしない言葉が書かれている場合に,その遺言がどのように解釈されるかを扱う。
あわせて,このような遺言を示しても金融機関が預貯金の払戻しに応じない場合の対応と,遺言を作る側の注意点を整理する。
調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で確認し,最高裁判例は裁判所ウェブサイトで確認した。
下級審の裁判例はいずれも裁判所ウェブサイトに掲載されていないため,判例秘書で判決文を確認した。
2 結論
①遺言の解釈では,文言を形式的に判断するだけでなく,遺言書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して,遺言者の真意を探究する(最高裁昭和58年3月18日判決)。
②「任せる」「託す」「委託する」は,言葉の本来の意味では「頼む」「預ける」に近く,それだけで財産を与える意味になるわけではない。
③それでも,遺言者と相手方の関係,世話の実情,生前の言動,遺言書のほかの記載等から,財産の全部又は預貯金を遺贈する趣旨,又は相続させる趣旨と解された裁判例が複数ある(大阪高裁平成25年9月5日判決,東京地裁令和2年11月16日判決,東京地裁令和4年11月10日判決)。
④他方で,財産や死後に関する言葉が無く,「二代目」と宣言したメモや,生前の財産管理等を任せる念書である可能性が残るとして,遺言として無効とされた裁判例もある(大阪高裁令和3年11月5日判決)。
⑤遺言として有効でも,遺産の分配方法を一任する旨の条項が遺産分割の方法の指定の委託と解され,委託の相手が包括受遺者であったために,その部分だけ無効とされた裁判例もある(東京地裁平成15年3月25日判決)。
⑥金融機関は,このような遺言だけでは払戻しに応じないことがある。
相続人全員の了解を書面で得るか,受遺者等が金融機関を被告として払戻請求訴訟を起こすこと等が考えられる。
⑦遺言を作る側は,「遺贈する」又は「相続させる」と書き,対象財産と遺言執行者を明記すれば,このような解釈の争いを避けやすくなる。
第2 遺言の解釈の基準
1 最高裁昭和58年3月18日判決
最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決(昭和55年(オ)第973号,集民138号277頁)について,裁判所ウェブサイトに掲載された裁判要旨は,次のとおりである。
「遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書の特定の条項を解釈するにあたつても、当該条項と遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して当該条項の趣旨を確定すべきである。」
本記事で紹介する大阪高裁平成25年9月5日判決と大阪高裁令和3年11月5日判決はこの判決を参照しており,東京地裁の令和2年11月16日判決,令和4年11月10日判決及び平成15年3月25日判決も同じ趣旨の一般論を述べたうえで判断している。
2 遺言で定められる事項は法律で決まっている
遺言は,法律が定める事項についてだけ効力を持つ。
財産に関して遺言でできる主なことは,次のとおりである。
①包括又は特定の名義で財産の全部又は一部を処分すること,すなわち遺贈(民法964条)
②共同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三者に委託すること(民法902条1項)
③遺産の分割の方法を定め,若しくはこれを定めることを第三者に委託すること(民法908条1項)
④遺言執行者を指定し,又はその指定を第三者に委託すること(民法1006条1項)
なお,遺産の分割の方法の指定として特定の財産を共同相続人に承継させる遺言は,民法1014条2項で「特定財産承継遺言」と呼ばれている。
(続きを読む...)「任せる」「託す」と書かれた遺言は有効か―遺言の解釈の基準,有効・無効とされた裁判例,金融機関が払戻しを拒んだ場合の対応及び作成時の注意(AI作成)