形式不備によって遺言が無効であっても,その書面及び作成経緯から贈与者の申込みを認定でき,受贈者が贈与者の生前に承諾していた場合には,死因贈与として効力が認められることがある。
もっとも,無効な遺言が当然に死因贈与へ転換するわけではない。
日付,押印,自書又は公正証書遺言の口授といった方式の不備であれば死因贈与を検討する余地がある一方,偽造,贈与者の意思能力の欠如,受贈者が死亡後に初めて内容を知った場合などは,通常,死因贈与としても効力を認めにくい。
以下では,成立要件,肯定・否定裁判例,主張立証,死因贈与執行者,不動産・預貯金・税金までを実務上の順序で整理する。
第1 結論―遺言が無効でも死因贈与が成立する場合がある
1 必要なのは「転換」ではなく別個の契約の認定である
死因贈与は,贈与者が死亡したときに効力を生ずる贈与契約である。
したがって,贈与者の一方的な意思表示で成立する遺言とは異なり,贈与者の申込みと受贈者の承諾が必要である(民法549条及び554条)。
形式不備の遺言書は,死因贈与の申込みを立証する証拠になり得る。
しかし,遺言書に受贈者の名前が書かれているだけでは足りず,受贈者が贈与者の生前に内容を知り,承諾したことまで立証しなければならない。
2 死因贈与としても救えない無効原因がある
方式の不備と,意思表示そのものの不存在又は無効とは区別する必要がある。
遺言書が第三者による偽造であれば,その書面から贈与者の申込みを認定することはできない。
また,贈与者が意思表示をした時に意思能力を欠いていた場合,その法律行為は無効である(民法3条の2)。
したがって,遺言能力の欠如を理由として遺言が無効となる事案では,同一時点の意思表示を基礎に死因贈与を主張しても,原則として同じ問題が残る。
贈与財産又は受贈者を特定できない場合,受贈者が贈与者の死亡後に初めて書面を見た場合,贈与者があくまで法定方式を備えた遺言だけをする意思であったと認められる場合も,死因贈与の成立は困難となる。
3 遺贈と死因贈与の違い
| 項目 | 遺贈 | 死因贈与 |
|---|---|---|
| 法的性質 | 遺言者の単独行為 | 贈与者と受贈者の契約 |
| 相手方の承諾 | 成立には不要 | 贈与者の生前の承諾が必要 |
| 方式 | 民法所定の遺言方式が必要 | 原則として遺言方式は不要 |
| 効力発生 | 遺言者の死亡時 | 贈与者の死亡時 |
| 撤回 | 遺言の方式により撤回できる | 原則として贈与者が撤回できるが,負担付死因贈与では例外が問題となる |
遺言の方式違反の内容を確認するには,自筆証書遺言特有の無効主張方法及び公正証書遺言の「口授」とは―要件・判例・無効訴訟の実務も参照されたい。
第2 死因贈与の成立と撤回に関する法的枠組み
1 申込み,承諾及び目的物の特定が必要である
死因贈与を主張する側は,少なくとも,①贈与者が特定の財産を死亡時に無償で与える旨を申し込んだこと,②受贈者が贈与者の生前に承諾したこと,③対象財産及び受贈者を特定できること,④贈与者が死亡したことを主張立証する必要がある。
申込み及び承諾は必ずしも一通の契約書に記載されている必要はない。
もっとも,死因贈与契約書,受贈者が署名した遺言書又は確認書,書面交付時の会話記録など,当事者双方の意思が同時に確認できる資料ほど証明力は高い。
2 遺言の方式は死因贈与に準用されない
最高裁昭和32年5月21日判決・昭和30年(オ)第392号・民集11巻5号732頁は,死因贈与には遺贈の方式に関する規定が準用されないとした。
そのため,自筆証書遺言として日付,押印又は自書を欠く場合や,公正証書遺言として口授その他の方式を欠く場合であっても,そのことだけで死因贈与まで無効になるわけではない。
ただし,同判決は,形式不備の遺言が常に死因贈与になると判示したものではない。
死因贈与という別個の契約が成立したかどうかは,申込みと承諾に関する事実から改めて判断される。
3 書面化と撤回の問題
書面によらない贈与は,各当事者が解除できるのが原則である(民法550条)。
また,最高裁昭和47年5月25日判決・昭和46年(オ)第1166号・民集26巻4号805頁は,死因贈与について,遺言の撤回に関する民法1022条が方式に関する部分を除いて準用されるとした。
したがって,死因贈与契約書があっても,贈与者による撤回の有無を別途確認する必要がある。
ただし,受贈者が贈与者の生前に負担の全部又はこれに類する程度を履行した負担付死因贈与では,契約の経緯,負担と贈与財産の価値,身分関係及び生活関係等により,撤回が制限される場合がある。
4 先行する遺言との抵触
有効な先行遺言がある場合でも,その後に成立した死因贈与が先行遺言と抵触するときは,先行遺言が抵触する範囲で撤回されたと扱われる可能性がある(民法1023条2項)。
もっとも,この結論は,後の死因贈与契約の成立が認定できることを前提とする。
第3 形式不備の遺言と死因贈与に関する裁判例
1 日付を欠く自筆証書遺言について成立を認めた例
東京地裁昭和56年8月3日判決(判時1041号84頁,裁判所ウェブサイト未掲載)は,日付を欠く自筆証書遺言について,受贈者が遺言書の交付を受け,記載された贈与の申込みを承諾したとして,死因贈与の成立を認めた。
この事例では,遺言書の文言だけでなく,書面が受贈者へ交付されたこと及び受贈者がその内容を受け入れたことが重視されている。
2 明示又は黙示の承諾を認めた広島高裁判決
広島高裁平成15年7月9日判決・平成13年(ネ)第482号は,形式不備の遺言書について,贈与者が作成当日に受贈者らへ内容を開示し,一人は書面に署名し,他の一人も異議がない旨を述べたなどの事情から,死因贈与の申込みと明示又は黙示の承諾を認定した。
同判決は,受贈者の署名が常に必要であるとしたものではない。
書面の開示,受贈者の言動及びその場の経過を総合して,贈与者の生前に意思の合致があったと判断した事例である。
3 当然の転換を否定した大阪高裁判決
大阪高裁昭和56年1月30日判決(判時1009号71頁,裁判所ウェブサイト未掲載)は,方式に瑕疵のある遺言そのものを死因贈与へ当然に転換する余地はないとした。
他方で,同判決は,遺言作成の機会に,遺言とは別個の死因贈与の申込みと承諾があれば,死因贈与契約が成立し得ることまで否定していない。
問題は書面の名称ではなく,贈与者と受贈者との間に契約としての意思の合致があったかどうかである。
4 受贈者が死亡後に初めて知ったため成立を否定した例
仙台地裁平成4年3月26日判決(判時1445号165頁,裁判所ウェブサイト未掲載)は,受贈者が贈与者の死亡後の葬儀の日に初めて遺言書を見た事案について,生前の承諾を認めず,死因贈与の成立を否定した。
同判決は,書面の作成及び保管の経緯から,贈与者による死因贈与の申込みも認めなかった。
したがって,受贈者と贈与者との関係が良好であったことや,受贈者が介護等をしていたことだけでは,申込みと承諾の立証に代えることはできない。
5 裁判例から導かれる判断要素
これらの裁判例からは,①遺言書を誰が作成したか,②贈与者が受贈者に内容を説明したか,③遺言書又は写しを受贈者に交付したか,④受贈者が署名,返答,謝意その他の反応を示したか,⑤その反応が贈与者に伝わったか,⑥書面を誰が保管していたか,⑦贈与者がその後に矛盾する処分をしたか,という事情が重要になると考えられる。
これは本記事による裁判例の整理であり,いずれか一つの事情だけで結論が決まるわけではない。
第4 死因贈与をめぐる主張立証
1 死因贈与の成立を主張する側
(1) 主張すべき事実
贈与者が,いつ,どこで,誰に対し,どの財産を,死亡時に無償で取得させると申し込んだのかを特定する。
次に,受贈者が,いつ,どのような言葉又は行動によって承諾し,その承諾が贈与者の生前にどのように示されたのかを特定する。
遺言書の記載内容と主張する死因贈与の内容が異なる場合には,その差異が生じた理由を合理的に説明する必要がある。
(2) 収集すべき証拠
中心となる証拠は,①遺言書の原本及び草案,②死因贈与契約書又は確認書,③書面交付時の録音・録画,④メール,メッセージ及び手紙,⑤作成又は交付に立ち会った者の陳述,⑥弁護士,司法書士,税理士,公証人その他の専門家への相談記録,⑦書面の保管経緯を示す資料,⑧贈与対象財産を特定する登記事項証明書,通帳その他の資料である。
遺言書の原本は,筆跡,印影,用紙,インク及び訂正状況を確認するために必要となることがあるため,コピーだけで判断しない方がよい。
(3) 想定すべき反論
相手方からは,①書面は遺言の意思だけを記載したもので申込みではない,②受贈者は死亡後に初めて知った,③返答は単なる謝意で承諾ではない,④対象財産が特定されていない,⑤贈与者に意思能力がなかった,⑥書面又は署名が偽造された,⑦後に撤回された,⑧先行遺言又は後の処分と矛盾する,という反論が予想される。
主張する側は,これらを時系列表に並べ,証拠と一対一で対応させる必要がある。
2 死因贈与の成立を争う側
(1) 申込みの不存在を争う
書面の表題,文言,作成目的,専門家への依頼内容及び保管方法から,贈与者が遺言だけをする意思であり,受贈者に対する契約の申込みをしていなかったと主張することが考えられる。
受贈者への交付がなく,第三者が死亡まで保管していた事実は,申込みの不存在を基礎付ける事情となり得る。
(2) 生前の承諾を争う
受贈者が書面を見た時期,贈与者と受贈者との連絡記録,立会人の供述及び書面の保管状況を確認し,死亡前に承諾が示されていないことを具体的に主張する。
受贈者が内容を知っていたことと,契約として承諾したことは同一ではないため,単なる認識と承諾の意思表示を区別する必要がある。
(3) 能力,真正及び契約内容を争う
贈与者の診療記録,介護記録,財産管理状況及び当時の言動から意思能力を争う場合は,遺言能力の主張と死因贈与契約に必要な意思能力の主張を混同しないことが重要である。
偽造を争う場合は,原本の成立の真正,筆跡,印影及び取得経緯を検討する。
また,遺言書の内容と主張される死因贈与の対象,割合又は法的効果が食い違う場合は,契約内容の不特定又は申込みの不存在を示す事情となる。
3 訴訟上の組立て
遺言の有効性を主位的に主張し,遺言が無効と判断される場合に備えて,死因贈与契約の成立確認又は同契約に基づく給付請求を予備的に組み合わせることがある。
最高裁令和3年1月18日判決・平成31年(受)第427号及び第428号の事案でも,遺言無効確認請求の本訴に対し,死因贈与契約の存在確認等が予備的反訴として提起されていた。
もっとも,同判決は公正証書遺言の方式に関する原審判断を破棄して差し戻したものであり,死因贈与契約の成否自体を判断したものではない。
控訴審で反訴を提起するには相手方の同意が必要であるが,相手方が異議を述べずに反訴の本案について弁論したときは,同意したものとみなされる(民事訴訟法300条1項及び2項)。
遺言無効確認判決の確定後に死因贈与契約に基づく別訴を提起した例もあるが,前訴の請求及び争点との関係,既判力,信義則並びに時効を個別に検討する必要がある(東京地裁平成16年9月28日判決,裁判所ウェブサイト未掲載)。
第5 請求内容と死因贈与執行者
1 考えられる請求
紛争の対象に応じて,①死因贈与契約が存在することの確認,②受贈者が特定の所有権又は債権を取得したことの確認,③不動産の所有権移転登記手続,④預貯金その他の金銭の支払を求めることが考えられる。
確認請求では確認の利益が必要であり,給付請求が可能であれば給付請求を選ぶべき場合がある。
また,誰が遺贈義務者に相当する履行義務者となるか,遺産分割が未了であるか,目的物が第三者へ移転しているかによって,当事者及び請求の趣旨は変わる。
2 所有権移転登記請求の記載例
不動産については,「被告らは,原告に対し,別紙物件目録記載の各不動産につき,贈与者の死亡日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ」とする構成が考えられる。
もっとも,実際の請求では,死因贈与契約の成立日,効力発生日,登記原因日付,持分,現在の登記名義及び相手方の範囲を確認して記載しなければならない。
東京地裁平成16年9月28日判決及び東京地裁令和3年8月24日判決には,死因贈与契約の有効性又は死亡日贈与を原因とする登記手続を命じた主文例があるが,いずれも裁判所ウェブサイト未掲載である。
3 死因贈与執行者の選任に明文はない
死因贈与の執行者を家庭裁判所が選任することについて,直接の明文規定はない。
実務では,民法554条により遺贈に関する規定が準用されることを介して,同法1010条を準用し,家事事件手続法別表第一の104の項に掲げる事件として取り扱われている。
東京家裁昭和47年7月28日審判(判時676号55頁,裁判所ウェブサイト未掲載)は選任を否定したが,水戸家裁昭和53年12月22日審判,広島家裁昭和62年3月28日審判,名古屋高裁平成元年11月21日決定及び東京高裁平成9年3月17日決定は,選任を認める立場を採った(いずれも裁判所ウェブサイト未掲載)。
東京高裁平成9年11月14日決定(家月50巻7号69頁,裁判所ウェブサイト未掲載)は,死因贈与が無効であることが一見して明らかな場合を除き,家庭裁判所は実体上の有効性を確定せずに執行者を選任し,契約の有効性は民事訴訟に委ねるのが相当であるとした。
4 選任申立てで示すべき事情
死因贈与の履行義務は第一次的には相続人が負うため,執行者選任の申立てをすれば当然に認められるわけではない。
申立てでは,死因贈与契約書その他の成立資料に加え,①相続人が履行を拒絶していること,②相続人間に対立があること,③相続人が不明又は多数であること,④対象財産の管理又は換価を急ぐ必要があることなど,執行者を選任する必要性を具体的に示すべきである。
なお,執行者選任の審判だけで,死因贈与契約の有効性が既判力をもって確定するわけではない。
第6 不動産と預貯金を死因贈与した場合
1 不動産の所有権移転登記
死因贈与による所有権移転の効力は贈与者の死亡時に生ずるため,登記原因日付は通常,贈与者の死亡日となる。
相続人の協力が得られる場合は共同申請により,相続人が協力しない場合は,死因贈与執行者の選任又は登記手続を命ずる判決の取得を検討する。
ただし,契約書があることだけで登記官又は裁判所が契約の有効性を当然に認めるわけではなく,契約の成立,対象不動産,撤回の有無及び死亡の事実を確認する必要がある。
2 始期付所有権移転仮登記
贈与者の死亡前に,贈与者の同意を得て,死因贈与を原因とする始期付所有権移転仮登記をする取扱いが実務上認められている。
もっとも,死因贈与に基づく仮登記を否定する見解もあり,仮登記は契約の有効性を確定するものでもない。
したがって,仮登記が常にできると断定せず,契約書の内容,贈与者の同意及び管轄登記所の取扱いを事前に確認する必要がある。
3 預貯金債権と譲渡制限特約
現行民法上,譲渡制限特約があっても債権譲渡の効力は妨げられない(民法466条2項)。
ただし,預貯金債権については,金融機関は,譲渡制限特約を知り,又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対し,その特約を対抗できる(民法466条の5第1項)。
このため,受贈者が金融機関へ直接払戻しを求められるかは,契約時期,預金規定,金融機関の承諾,受贈者の認識及び対抗要件等を個別に確認する必要がある。
預貯金債権の遺贈は遺言による単独行為であり,契約による債権譲渡ではないため,死因贈与と同一に扱うことはできない。
旧民法下の東京高裁平成9年10月30日判決(金法1535号68頁,裁判所ウェブサイト未掲載)には,個別事情の下で金融機関による譲渡禁止特約の主張を信義則違反とした例があるが,一般化はできない。
第7 死因贈与と税金・遺留分
1 相続税
相続税法は「遺贈」に死因贈与を含めており,死因贈与により取得した財産には相続税が課される(相続税法1条の3,国税庁「No.4105 相続税がかかる財産」)。
したがって,死因贈与による取得を「相続により取得したものとみなす」と説明するのではなく,相続税法上の遺贈に死因贈与が含まれると説明するのが正確である。
受贈者が贈与者の配偶者又は一親等の血族等に当たらない場合は,原則として相続税額の2割加算の対象となる(国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」)。
2 登録免許税
死因贈与を原因とする不動産の所有権移転登記の登録免許税は,受贈者が相続人であるかどうかにかかわらず,原則として固定資産税評価額の2%である。
これに対し,相続による所有権移転登記及び相続人に対する遺贈による所有権移転登記は,原則として固定資産税評価額の0.4%である。
相続人以外の者に対する遺贈による所有権移転登記は,原則として2%である(登録免許税法別表第一,国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」)。
3 不動産取得税
死因贈与による不動産の取得は,相続による取得には含まれず,原則として不動産取得税の課税対象となる。
標準税率は4%であるが,令和9年3月31日までに取得した土地及び住宅については3%,住宅以外の家屋については4%であり,同日までに取得した宅地等には課税標準を価格の2分の1とする特例がある(東京都主税局「不動産取得税」)。
相続による取得のほか,包括遺贈及び相続人に対する特定遺贈による取得は非課税であるが,相続人以外の者に対する特定遺贈は原則として課税対象である(東京都主税局「不動産取得税Q&A」)。
具体的な軽減措置及び申告手続は,不動産所在地を管轄する都道府県税事務所へ確認する必要がある。
4 遺留分侵害額請求
死因贈与が有効であっても,その内容が相続人の遺留分を侵害する場合には,遺留分侵害額請求が問題となり得る(民法1042条以下)。
基礎財産への算入期間,受贈者が相続人であるか,複数の贈与又は遺贈があるかによって計算及び負担の順序が変わるため,死因贈与の有効性とは別の論点として検討する必要がある。
遺留分の一般的な判例及び実務については,遺留分に関するメモ書きも参照されたい。
第8 作成時と紛争発生後のチェックポイント
1 これから死因贈与をする場合
紛争予防のためには,遺言書の形式不備に後から依存するのではなく,死因贈与契約書を別途作成し,贈与者及び受贈者が署名押印することが望ましい。
契約書では,①対象財産,②効力発生日,③負担の内容,④撤回の取扱い,⑤執行者,⑥登記又は払戻しへの協力,⑦費用及び税金の負担,⑧遺留分への対応を明確にする。
不動産について仮登記を予定する場合は,贈与者の同意と管轄登記所の取扱いを確認する。
2 遺言無効の争いが生じた場合
最初に,無効原因が方式違反,偽造,意思能力又は内容不特定のいずれであるかを分ける。
次に,贈与者の申込みと受贈者の生前の承諾を示す事実を時系列化し,原本,録音,通信記録,立会人及び専門家の記録を確保する。
その上で,遺言の有効性を主張するのか,死因贈与を予備的に主張するのか,死因贈与だけを別訴で主張するのかを決める。
不動産の処分,預貯金の払戻し又は証拠の散逸が予想される場合は,保全処分,処分禁止の仮処分,証拠保全その他の措置を早期に検討する必要がある。
第9 まとめ
形式不備の遺言が死因贈与として効力を持つかは,書面に「遺言」と書いてあるかではなく,贈与者の申込みと受贈者の生前の承諾を認定できるかによって決まる。
日付,押印,自書又は口授の不備は死因贈与を検討する出発点になり得るが,偽造,意思能力の欠如,承諾の不存在まで補うものではない。
実務では,①無効原因の分類,②申込みと承諾の時系列,③対象財産の特定,④撤回及び先行遺言との関係,⑤請求内容と当事者,⑥執行者,登記,預貯金,税金及び遺留分を順に検討する必要がある。
第10 出典
1 法令及び公的資料
e-Gov法令検索「民法」,「民事訴訟法」,「家事事件手続法」,「相続税法」及び「登録免許税法」を参照した。
国税庁「No.4105 相続税がかかる財産」,「No.4157 相続税額の2割加算」及び「No.7191 登録免許税の税額表」を参照した。
東京都主税局「不動産取得税」及び「不動産取得税Q&A」を参照した。
2 裁判例
最高裁昭和32年5月21日判決・昭和30年(オ)第392号・民集11巻5号732頁,最高裁昭和47年5月25日判決・昭和46年(オ)第1166号・民集26巻4号805頁,最高裁令和3年1月18日判決・平成31年(受)第427号及び第428号並びに広島高裁平成15年7月9日判決・平成13年(ネ)第482号は,裁判所ウェブサイトで確認した。
東京地裁昭和56年8月3日判決・判時1041号84頁,大阪高裁昭和56年1月30日判決・判時1009号71頁,仙台地裁平成4年3月26日判決・判時1445号165頁その他の本文記載の裁判例及び家事審判例は,掲載誌又は判例データベースで確認したが,裁判所ウェブサイト未掲載である。
3 書籍
本橋総合法律事務所編『死因贈与の法律と実務』新日本法規,2018年,37頁~48頁,113頁~123頁,137頁~170頁を参照した。
第一東京弁護士会司法研究委員会編『新版 遺言執行の法律と実務』ぎょうせい,2004年,133頁~134頁を参照した。
岡本和雄,荒堀稔穂,岡本篤典及び横田美和子『家事事件の実務と登記・税金』日本加除出版,2008年,370頁~385頁を参照した。
本橋総合法律事務所編『法律家のための相続預貯金をめぐる実務』新日本法規,2019年,80頁~82頁を参照した。
遺言・相続実務問題研究会,野口大及び藤井伸介『事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務』日本加除出版,2023年,241頁~243頁を参照した。
梶村太市,石井久美子,貴島慶四郎及び芝口典男『家事事件手続Ⅱ』青林書院,2024年,64頁~66頁を参照した。