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和解のために出した試算書は後の訴訟で不利に使われるか――裁判上の自白との違いと,自分の書面を書証にするときの注意(AI作成)

第1 結論

和解の協議の中で,「こちらの計算では,多めに見積もっても相手方の損害は○円にとどまる」という趣旨の試算書を出すことがある。
その事件が和解で終わらず,あるいは別の事件が後から起きたとき,この試算書が相手方の手に渡り,「相手方自身が○円を認めている」と主張される場面がある。

結論としては,次の三つを分けて考えるのが整理しやすい。

①その書面は,後の訴訟における裁判上の自白ではない。裁判上の自白は,当該訴訟の口頭弁論又は弁論準備手続における陳述であることを要するからである(民事訴訟法179条参照)。

②しかし,書証として提出されれば,裁判所の自由な心証の対象にはなる。民事訴訟法には,和解の過程における譲歩を証拠から排除する規定が置かれていない。

③したがって,実際に効いてくるのは「自白かどうか」ではなく,「その書面が何を前提とした,どういう性質の数字を示したものとして読まれるか」である。

本記事では,この三つを条文に即して整理し,和解のための書面を作るとき,自分の書面を自ら書証として提出するとき及び相手方が前の訴訟の書面を出してきたときの実務上の注意を示す。

第2 裁判上の自白とは何か

1 条文

民事訴訟法179条は,「裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は,証明することを要しない。」と定めている。

同法159条1項は,「当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には,その事実を自白したものとみなす。ただし,弁論の全趣旨により,その事実を争ったものと認めるべきときは,この限りでない。」と定めている。
同条2項は,「相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は,その事実を争ったものと推定する。」としている。

自白が成立すると,その事実について証明が不要になる。
争点整理の場面では,どの事実に自白が成立しているかが,証拠調べの対象を決める。

2 対象は「事実」である

179条も159条1項も,対象を「事実」としている。
そのため,法律上の効果に関する意見,計算方法の当否についての見解及び評価の当否は,それ自体では自白の対象にならない。

遺留分侵害額,損害額,過失割合のような数字は,その内実が①算定の基礎となる事実と②その事実への法規の当てはめとに分かれる。
「○円である」という記載が,どこまで事実の陳述で,どこからが当てはめの結論かは,書面の文脈で決まる。

したがって,相手方から「その書面で○円を認めているではないか」と言われたときは,まずその数字がどの層の主張なのかを切り分ける。

3 「裁判所において」された陳述であること

179条は「裁判所において当事者が自白した事実」としている。
すなわち,当該訴訟の口頭弁論又は弁論準備手続の期日における陳述であることが前提になる。

訴訟の外で作った文書,交渉の場で相手方に渡した書面,別の事件で提出した書面は,この要件を満たさない。
これらは,講学上,裁判外の自白として,証拠資料の一つとして扱われるにとどまる。

4 争わないことによる効果も当該訴訟限りである

159条1項の擬制自白は,「口頭弁論において」争うことを明らかにしない場合の効果である。
同条3項は,口頭弁論の期日に出頭しない場合について同項を準用しつつ,公示送達による呼出しを受けた当事者を除いている。

前の訴訟で相手方の主張を争わなかったことは,前の訴訟における効果である。
後の訴訟では,改めてその事実についての認否が必要になる。
前の訴訟の認否書の写しが書証として提出されても,それは159条1項の適用の問題ではなく,証拠の評価の問題になる。

5 場面ごとの対照

自白の成否と証拠としての扱いを場面ごとに整理すると,次のとおりである。

場面民事訴訟法179条の自白証拠としての扱い
本件の口頭弁論での陳述成立する証明が不要になる
本件で争わないこと159条1項により擬制される同上
本件の訴訟外の交渉での言明成立しない書証として提出されれば心証の材料になる
別の訴訟で提出した書面成立しない同上
和解の協議で示した試算成立しない同上。和解のための計算であることは解釈の事情になる
成立した和解の調書問題にならない267条1項により確定判決と同一の効力

この表のとおり,自白が成立しない場面でも,書面の記載は心証の材料として残る。
したがって,自白の成否だけを確かめて安心することはできない。

第3 前の訴訟で出した書面は,後の訴訟の自白にならない

1 訴訟が違えば陳述にならない

前の訴訟で提出した準備書面又は上申書は,その訴訟における陳述である。
後の訴訟では,当事者が改めてその内容を陳述しない限り,179条の自白にはならない。

このことは,前の訴訟と後の訴訟の当事者が同じであっても変わらない。
前の訴訟の記録を後の訴訟へ持ち込むには,書証として提出する必要がある(民事訴訟法219条)。

2 書証として出された場合の扱い

書証として提出されれば,裁判所は,民事訴訟法247条により,「口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して,自由な心証により,事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。」

自分の側の代理人が署名した書面に「○円」と書いてあることは,この自由な心証の材料になる。
形式的にも,私文書について本人又はその代理人の署名又は押印があるときは真正に成立したものと推定される(同法228条4項)から,成立の真正を争う余地は通常ない。

つまり,「自白ではない」ということは,「証拠にならない」ということを意味しない。

3 和解の過程の譲歩を証拠から排除する規定はない

民事訴訟法89条1項は,「裁判所は,訴訟がいかなる程度にあるかを問わず,和解を試み,又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。」と定めている。

しかし,和解が成立しなかった場合に,協議の過程で示された譲歩や試算を証拠から排除する規定は置かれていない。
不必要と認める証拠を取り調べないことができる(同法181条1項)という一般的な規定があるだけである。

したがって,「和解の話だから証拠にならない」という前提で書面を作るのは,安全ではない。
和解のための書面であることは,記載の意味を解釈する事情として考慮されるにとどまる。

4 和解が成立した場合との違い

和解が成立し,裁判所書記官が電子調書を作成してファイルに記録したときは,その記録は確定判決と同一の効力を有する(民事訴訟法267条1項)。
この場合は,調書の記載そのものが効力を持つから,協議の過程の書面の証拠価値を論じる必要は基本的になくなる。

問題になるのは,和解が成立しなかった場合と,別の当事者又は別の請求について後から争いが生じた場合である。
和解の席に出す書面は,この二つの場面を想定して作る。

第4 書面に書いた数字がどう読まれるか

1 上限の表示

「多めに見積もったとしても,○円である」という書き方は,文理としては上限の表示である。
「少なくとも○円はある」という下限の表示ではない。

そのため,この書き方をした書面を相手方が引用しても,そこから直ちに「○円の存在を認めた」とは読めない。
もっとも,上限を示したこと自体は,和解の相場観として働く。
裁判所が和解を勧めるときに,その数字が基準として持ち出される場面は想定しておく必要がある。

2 仮定の表示

「相手方の主張する前提を仮に採用すれば○円になる」という書き方は,仮定の表示である。
この場合は,仮定の内容を書面の中で特定しておくと,後から切り離して引用されにくくなる。

実務上は,主位的な計算と予備的な計算を分け,それぞれの前提を番号を付けて書き並べる方法が分かりやすい。

3 前提が変われば上限も動く

上限の表示は,その時点の前提に依存している。
不動産の評価を一定の時点の価格で置いた試算であれば,評価の基準時が変われば上限も変わる。

そのため,後の訴訟で「以前に示した上限がそのまま上限である」と扱われると,かえって不利になることがある。
前提が変わり得ることを書面に書いておくか,後の訴訟でその数字を自分から持ち出さないかの,どちらかを選ぶ必要がある。

評価の基準時が数字を動かす仕組みについては,旧法事案の遺留分減殺請求における遺産の評価基準時で説明している。

4 主張額,上限額及び和解の提示額を混ぜない

一つの書面に,①当方の主張額,②前提を譲った場合の上限額,③早期解決のための提示額の三つが混在すると,どれが主張なのかが読み取れなくなる。

三つは,別の項に分け,見出しで区別する。
特に③は,紛争の早期解決という目的があって初めて説明がつく金額であるから,その目的を書き添える。

第5 自分が作った書面を自ら書証にするときの注意

1 全部が相手方の目に入る

前の訴訟の書面を自分の側の書証として提出すると,自分に有利な部分だけでなく,不利な部分も相手方と裁判所の目に入る。
枚数が少ない書面ほど,全部が読まれる。

提出する前に,全文を読み直し,自分の主張と食い違う記載がないかを確認する。
食い違いがあるときは,提出の当否とは別に,その説明を先に用意する。

2 立証趣旨で前提を特定する

証拠説明書の立証趣旨は,何を立証するために提出するのかを書く欄である。
前提条件の付いた数字を含む書面を出すときは,その前提を立証趣旨に書き込んでおくと,切り離した引用を受けにくくなる。

例えば,予備的な計算として示した数字については,どの前提を仮に採用した計算であるかを立証趣旨に明記する。
立証趣旨は,後から書き直すより,最初から書いておく方が手間が少ない。

3 書面の一部だけを引用しない

自分の書面の一部だけを引用して主張を組み立てると,同じ書面の別の部分を相手方から引用される。
引用する箇所は,書面の全体の構造(主位的な主張と予備的な主張の別,前提の置き方)とあわせて示す。

4 抄本で出すかどうか

書面が長い場合に,必要な部分だけを抜き出して提出することがある。
もっとも,抄本での提出は,都合の悪い部分を落としたのではないかという疑いを招きやすい。

抄本にするときは,抜き出した範囲と,省略した部分の見出しを証拠説明書に書く。
相手方から全部の提出を求められたときにすぐ応じられるよう,全文の写しを手元に用意しておく。

5 書証の申出の仕方

書証の申出は,文書を提出し,又は文書の所持者にその提出を命ずることを申し立ててする(民事訴訟法219条)。
前の訴訟の書面のように自分の手元に写しがあるものは,前者による。

提出するときは,号証を付した写しと証拠説明書を添える。
証拠説明書には,標目,作成者,作成年月日,原本と写しの別及び立証趣旨を書く。
前提条件の付いた数字を含む書面では,この立証趣旨が前提を特定する役割を果たす。

電子的に提出する事件では,紙の書面を電子化したものであることを証拠説明書に注記しておくと,原本の所在が分かりやすい。

第6 相手方が前の訴訟の書面を出してきたとき

1 文書の成立の真正

自分の側の代理人が作成した書面であれば,署名又は押印があるから,成立の真正は争えないのが通常である(民事訴訟法228条4項)。
争点は,成立ではなく記載の意味に移る。

他方,相手方が作成した書面については,作成名義,作成日及び提出先を確認する。
草案の段階のものが混ざっていることがある。

2 書面の全体を読ませる

抄本で提出されたときは,全部の提出を求める。
書面の冒頭に置かれた前提条件が落とされていることがあるからである。

3 反対の記載を探す

同じ書面の中に,引用された箇所と反対の方向の記載がないかを探す。
「主位的には○円である」「以下は仮定の計算である」といった記載は,引用箇所の意味を決める。

見つかった記載は,準備書面で箇所を特定して示す。
書面名と頁数だけでなく,行の位置まで示すと,争点整理が早く進む。

4 相手方又は第三者が持っている書面を出させる方法

抄本しか出てこない場合や,引用された書面の全体を見たい場合には,二つの方法がある。

第一は,文書提出命令の申立てである。
民事訴訟法220条1号は,「当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。」を,文書の所持者が提出を拒むことができない場合として掲げている。
相手方が書面の一部を引用している以上,この号に当たる余地がある。

申立てでは,文書の表示,文書の趣旨,文書の所持者,証明すべき事実及び文書の提出義務の原因を明らかにする(同法221条1項)。
裁判所は,申立てを理由があると認めるときは,決定で,文書の所持者に対し,その提出を命ずる(同法223条1項前段)。

第二は,文書送付嘱託である。
民事訴訟法226条本文は,書証の申出を「文書の所持者にその文書の送付を嘱託することを申し立ててすることができる。」と定めている。
ただし,同条ただし書により,当事者が法令により文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合は,この方法によることができない。

前の訴訟の記録は,自ら閲覧又は謄写を請求できる立場であれば,まずその方法で取得する。
どの方法によるかは,書面の所持者が誰か,自分に取得する権限があるかによって決まる。

第7 和解のための書面を作るときの書き方

和解のための試算書を作る段階で次を整えておくと,後の訴訟での扱いを制御しやすくなる。

①前提条件を書面の冒頭に置く。評価の基準時,採用した資料,仮に採用した相手方の主張を番号で列挙する。

②主張額と上限額を書き分ける。「当方の主張は○円である」と「前提を最大限に譲っても○円を超えない」を,別の項に分ける。

③評価の基準時を明示する。不動産の価格を用いるときは,価格時点と資料の種類(査定書か鑑定評価書か,固定資産税評価額か)を書く。

④和解のための計算であることを明記する。証拠から排除される効果はないが,記載の意味を解釈する材料にはなる。

⑤数字の根拠となる別紙を付ける場合は,別紙にも同じ前提を書く。別紙だけが引用されることがある。

⑥書面の控えを,当事者ごとに配布先とあわせて保存する。後の訴訟で相手方が出してきたときに,同一性をすぐ確認できる。

第8 指摘を受けたときの返し方

相手方から前の訴訟の書面を引用されたときは,次の順序で答えるのが分かりやすい。

①その書面が前の訴訟の書面であり,本件の口頭弁論における陳述ではないこと。

②当該記載が上限の表示又は仮定の表示であり,どの前提に基づくものかを,書面の該当箇所を示して説明すること。

③本件における主張がどれであるかを,計算の形で示すこと。

④前提が変わったのであれば,どの前提がどう変わったかを示すこと。

ここで「和解の話だから証拠にならない」とだけ答えると,根拠となる規定を示せないため,かえって説得力を欠く。
根拠は,自白の要件と前提条件の特定に置く方が確実である。

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④前の訴訟の確定判決が後の訴訟にどこまで及ぶかという問題は,本記事の扱う証拠の問題とは別である。訴訟物と理由中の判断の区別を確認する必要がある。

第10 出典・参考資料

1 法令

①民事訴訟法89条,159条,179条,181条,219条,220条,221条,223条,226条,228条,247条,267条(e-Gov法令検索

②民法1043条,1044条,1046条,1047条(e-Gov法令検索

2 裁判例の引用について

本記事は,民事訴訟法の条文と書面の書き方の整理であり,裁判例を引用していない。
自白の成否は,個々の陳述の内容と訴訟の経過によって決まるため,一般化した形で引用できる先例を選ぶには,事案の射程を個別に確かめる必要があるからである。
個別の事件で先例を用いるときは,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で,裁判所名,裁判年月日,事件番号及び判旨を確認してから引用する。