目次
第1 子どもに渡した物から相手の居場所が分かる場合第2 紛失防止タグに関する法改正第3 物に取り付ける場合と,中に入れて渡す場合第4 無承諾,目的及び反復を分けて確認する1 承諾の有無2 行為の目的3 反復と刑事責任第5 発見時に記録しておく事情第6 親子交流の実施方法とは別に検討する第7 会報の事例と一次資料の関係第8 出典
第1 子どもに渡した物から相手の居場所が分かる場合
親子交流の際に渡されたぬいぐるみなどにAirTag等の紛失防止タグが入っており,その位置情報から,同居親や子どもの居場所が把握されていた場合,どう考えればよいか。
令和7年のストーカー規制法改正では,紛失防止タグを利用した位置情報の取得等に対応する規定が設けられ,関係部分は令和7年12月30日に施行された。
ただし,タグが見つかったという事実だけで,直ちにストーカー行為の犯罪が成立すると結論付けることはできない。
誰の位置情報を,どのような目的で,承諾を得ずに取得したのか,物をどのように渡したのか,行為が反復されているかなどを分けて確認する必要がある。
本記事の親子交流の例は,大阪弁護士会の会報に掲載された被害者支援実務意見交換会の架空事例を手掛かりにした説明である。
実際の事件や裁判例を紹介するものではない。
第2 紛失防止タグに関する法改正
警察庁は,改正により,紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得等を規制対象に加えたと説明している。
警察庁の令和8年3月9日付け通達では,紛失防止タグ等に関する規定の解釈と運用が示されている。
通達によれば,いわゆる紛失防止タグは法律上の「位置特定用識別情報送信装置」に当たると解され,紛失防止タグ等を用いた位置情報の取得等の行為は,ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「法」という。)2条3項の「位置情報無承諾取得等」に含まれる。
同通達の説明によれば,位置情報の無承諾取得等は,特定の者のほか,その配偶者,直系若しくは同居の親族その他その者と社会生活において密接な関係を有する者に対して行われる場合も問題になる。
そのため,子どもの所持品にタグがある場合でも,「子どもの物だから,同居親への追跡とは無関係」と直ちに判断することはできない。
子どもが特定の者の直系又は同居の親族に当たる場合,好意又は怨恨の感情を向けられた特定の者が同居親であれば,子どもに対する行為も対象となり得る。
警察庁「ストーカー規制法が改正されました!」
第3 物に取り付ける場合と,中に入れて渡す場合
タグを衣服やかばんに固定した場合だけが問題になるわけではない。
警察庁の通達は,対象となる者の所持品に紛失防止タグ等を差し入れる行為や,タグ等を差し入れた物を渡す行為についても説明している。
したがって,ぬいぐるみの中にタグを入れて渡す行為は,相手方の承諾がなければ,位置情報を実際に取得したかどうかとは別に,タグを差し入れた物の交付(法2条3項3号,同法施行令3条2号)として問題になり得る(目的の要件は後記第4の2)。
「縫い付けていない」「本人の持ち物に直接取り付けていない」という事情だけで,規制の対象外と決めることは適切ではない。
もっとも,タグを渡した行為(同項3号)と,その後に位置情報を取得した行為(同項2号)は別の行為であるから,事実として分けて整理するべきである。
発見された物,発見場所,渡された時期,端末に表示された通知及び関係する連絡内容などが,事情を説明する手掛かりになる。
第4 無承諾,目的及び反復を分けて確認する
1 承諾の有無
警察庁の通達は,承諾について,任意かつ真意によるものであることを求めている。
脅迫された場合やだまされて誤信した場合の承諾は,任意かつ真意に基づく承諾とはいえないとされている。
合意の下で位置情報を共有していた場合でも,今後の共有を断る旨を伝えられた後も引き続き取得すれば,「承諾を得ないで」に該当し得る。
警察官や第三者を通じて拒絶が伝えられた場合も同様である。
親子交流について親の間で合意していることと,位置情報の取得について承諾があることは,確認すべき対象が異なる。