この記事は,家庭裁判所の家事審判に不服がある場合の不服申立て,すなわち即時抗告(家事抗告),特別抗告及び許可抗告の手続について,条文を明示しながら整理したものです。なお,本記事において「家事法」とあるのは,家事事件手続法のことです。
第1 家事審判等に対する即時抗告
1 総論
(1) 不服申立ての方法としての即時抗告
民事訴訟では,抗告は,控訴及び上告と並ぶ独立の上訴の方法の一つにすぎません。これに対し,家事審判の手続においては,抗告は,家庭裁判所の審判その他の裁判に対する唯一の不服申立ての方法です。
そして,家事審判に対する不服申立ては,控訴のような一般的な上訴ではなく,法律が特に即時抗告を認めた審判に限って許されます(家事法85条1項)。手続費用の負担の裁判に対しては,独立して即時抗告をすることはできません(家事法85条2項)。
(2) 即時抗告をすることができる審判
ア 例えば,以下の審判については即時抗告をすることができますから,審判の告知を受けた日から2週間後に確定し(家事法74条4項,86条1項本文参照),その時点で効力を生じることになります(家事法74条2項ただし書)。
- ① 婚姻費用の分担に関する処分の審判(家事法156条3号)
- ② 子の監護に関する処分の審判(家事法156条4号)
- ③ 財産の分与に関する処分の審判(家事法156条5号)
- ④ 遺産の分割に関する審判(家事法198条1項1号)
- ⑤ 寄与分を定める処分の審判(家事法198条1項4号)
これらはいずれも,即時抗告をすることができる審判です。
(3) 即時抗告をすることができない審判の効力
即時抗告をすることができない審判の場合,言渡しによって効力が生じる判決(民事訴訟法250条)と異なり,審判の告知を受けた時点でその効力が生じます(家事法74条2項本文)。
(4) 即時抗告の期間及び起算点
審判に不服がある場合,審判の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告をすることで,高等裁判所の判断を仰ぐことができます(家事法91条参照)。
この2週間という期間は,判決に対する控訴期間に合わせて定められた不変期間です(家事法86条1項)。その起算点は,即時抗告をする者が審判の告知を受ける者である場合には,その者が審判の告知を受けた日であり,審判の告知を受ける者でない場合には,申立人が審判の告知を受けた日(告知を受けた者が2人以上あるときは,そのうち最も遅い日)です(家事法86条2項)。
(5) 抗告状に貼付する収入印紙
別表第二の審判事件に対する即時抗告の場合,1件につき1800円(1200円の1.5倍)の収入印紙が必要になります(民事訴訟費用等に関する法律別表第一18項(1))。
(6) 当事者目録の作成
家事審判に対する抗告の場合,例えば,被相続人,未成年者,事件本人,不在者,遺言者といった,当事者ではないが表示しておくべき立場がありますから,原審判の当事者等の表示を参考に,当事者目録を作成することとなります。
(7) 原裁判所による再度の考案及び事件送付
即時抗告があった場合,まず原裁判所(原審の家庭裁判所)が,その抗告に理由があるかどうかを検討します。原裁判所は,抗告に理由があると認めるときは,自ら原審判を更正することができます(いわゆる再度の考案。民事訴訟法333条参照)。
これに対し,抗告を理由がないと認めるときは,原裁判所は,意見を付して事件を抗告裁判所に送付する必要があります(家事事件手続規則57条)。
(8) 不利益変更禁止の原則の不適用
家事抗告審では,即時抗告に関する準用条文である家事法93条3項が,不利益変更禁止に関する条文(①附帯控訴に関する民事訴訟法293条1項,②口頭弁論の範囲等に関する民事訴訟法296条1項及び③第一審判決の取消し及び変更の範囲に関する民事訴訟法304条)を準用していませんから,不利益変更禁止の原則の適用がありません。
これは,家事事件手続においては,何が抗告人にとって不利益かが必ずしも判然としないこと,及び,家庭裁判所が公益的・後見的見地から合目的的な裁量によって妥当な権利関係を形成するという家事審判の性格によるものです。抗告裁判所も後見的な立場から,不服申立ての範囲を超えて審判に代わる裁判をすることがあります。
そのため,即時抗告をした結果として,原審判よりも不利な決定が出る可能性があります。
2 抗告審の手続
(1) 当事者の呼称
抗告審の場合,当事者の呼称は「抗告人」,「相手方」となり,附帯抗告が提起された場合,「抗告人(附帯相手方)」,「相手方(附帯抗告人)」となります。
ただし,抗告手続は必ずしも当事者対立構造を有しませんから,事件によっては相手方が存在しない場合があります。
(2) 抗告状の写しの送付
審判に対する即時抗告があった場合,抗告裁判所としての高等裁判所は,原則として,原審における当事者及び利害関係参加人(抗告人を除く。)に対し,抗告状の写しを送付しなければなりません(家事法88条1項)。
(3) 陳述の聴取(法的審問請求権の保障)
抗告裁判所としての高等裁判所は,原審における当事者及びその他の審判を受ける者(抗告人を除く。)の陳述を聴かなければ,原審判を取り消すことができません(家事法89条)。
この必要的な陳述の聴取は,単に裁判資料を収集するためのものではなく,利害の対立する相手方に反論の機会を与え,利害関係人の法的審問請求権(自らに不利益な裁判がされる前に主張する機会を保障される権利)を保障することを目的とするものです。
(4) 抗告裁判所による自判
抗告裁判所としての高等裁判所は,即時抗告を理由があると認める場合,原則として,家事審判事件について自ら審判に代わる裁判をしなければなりません(家事法91条2項)。
(5) 手続の準用
抗告審の手続には,家事審判の手続が準用されるほか(家事法93条1項),民事訴訟法の規定が準用されます(家事法93条3項)。
(6) 抗告審における調停
抗告裁判所としての高等裁判所において,調停が成立することがあります(家事法274条3項参照)。
(7) 審理の方式と憲法適合性
憲法32条は,何人も裁判所において裁判を受ける権利があることを規定したにすぎないものであって,裁判所の権限や審理の方法等について規定したものではありません(最高裁昭和59年10月4日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和25年2月1日判決参照)。
そして,家事審判に対する抗告審の決定は,非訟事件についての裁判であることに変わりはありませんから,公開の法廷における対審又は当事者の審尋を経ないで審理,裁判されたとしても,憲法32条及び82条に違反しません(最高裁昭和59年10月4日決定参照)。
3 家事抗告審の審理の実情
(1) 続審制と書面審理
家事抗告審は,原審の資料に加えて,抗告審で新たに提出された主張及び資料をも踏まえて判断する続審制を採っています。もっとも,事件記録が抗告裁判所に届いた時点で,通常は,抗告人から抗告状及び抗告理由書によって原審判の取消し又は変更を求める事由が主張され,これに関連する追加資料も提出されているため,抗告審で改めて審理をし直すことはそれほど多くありません。
また,家事抗告審は,書面審理が基本であるため,当事者と意思疎通を図る機会が少ないという特徴があります。
(2) 一般的な審理の流れ及び審理期間
家事抗告審における審理の一般的な流れとしては,審理を開始してから約2週間後に審理終結日を定め,その審理終結日の2週間ないし3週間後に決定日を定める,という運用がされることが多いとされています。抗告審において追加の主張や資料の提出を促したり,家庭裁判所調査官の調査を行ったりする事件は,少数にとどまります。
(3) 大阪高裁第9民事部及び第10民事部(家事抗告集中部)の運用
平成29年3月6日開催の「第29回 大阪高裁との民事控訴審の審理充実に関する意見交換会」(平成28年度懇談会報告集46頁)には,「2 家事抗告を取り扱う第9民事部及び第10民事部における運用状況」において,以下の記載があります。
ア 平均審理期間
| 事件類型 | 平成27年度 | 平成28年度(途中) |
|---|---|---|
| 遺産分割 | 94日 | 114日 |
| 子の監護に関する処分 | 70日 | 71日 |
| 婚姻費用の分担 | 59日 | 64日 |
イ 抗告状の送達
家事法88条1項により原則全件送達する。抗告が不適法又は理由がないことが明らかな場合は送達しなくてよいが,そういった事案は少ない。
ウ 相手方への求意見とその方法
抗告状の写しを送付する場合は,全件別表第2事件として,事務連絡で意見を求めるとともに,審理終結と決定の予定日を伝える。なお,事前に相当先の期日を指定しており,正当な理由がない限りは,終結の直前になって意見を提出することは避けられたい。
エ 調査官の活用
家裁調査官が2名配属されており,原審の調査報告書に重大な問題があったり,事情に大きな変更が生じたといった場合には,家事抗告において事実調査の調査命令を出すことがある。ただ,抗告審で提出された資料を基に結論を出すことができる場合が多く,迅速処理の要請から,調査命令を出す事案は少ない。
長期未済の件数は,平成27年度は,監護者指定・子の引渡しが4件,面会交流が3件,都道府県知事に対する児童福祉施設入所承認が2件,平成28年度は,監護者指定・子の引渡しが5件,保全処分が1件,面会交流が2件,児童福祉施設入所承認が1件である。
オ 抗告審での調停
家事法により高裁でも自庁調停ができるようになったが,平成27年度が2件(いずれも自庁),平成28年度が7件(6件が自庁,1件が原庁)である。事案は基本的に遺産分割である。既に原審で調停は不調になっており,迅速処理の要請から,裁判所から積極的に調停に付すことはない。
カ 審問期日の開催
家事法上,抗告審では必要的審問ではなく(家事法89条,93条),迅速性の要請から審問は原則書面で行っている。調停に付す前に主張整理をするような事案でない限り,審問期日を開くことはない。
キ 裁判告知の時期
別表第2事件については審理終結日や決定日を当初の段階で伝えている。別表第1事件や相手方のない事件であっても,後見人の解任事件等,利害関係を有する者に対しては,別表第2事件に準じて指定告知する運用も考えられる。
(4) 原審判が取り消され又は変更される割合
家事抗告審において原審判が取り消され又は変更される割合は,統計上の数字で見る限り,民事訴訟の控訴審において第一審判決が取り消され又は変更される割合と大差がないか,若干少ないとの指摘があります。したがって,即時抗告をしたからといって原審判が覆るとは限らず,むしろ多くの事案では原審判が維持されます。
4 家事審判以外の裁判に対する即時抗告
(1) 審判以外の裁判に対する即時抗告及びその執行停止効
家事審判以外の付随的又は派生的な事項についての決定又は命令に対しては,特別の定めがある場合に限り,即時抗告をすることができます(家事法99条)。この即時抗告は,1週間の不変期間内にする必要があります(家事法101条1項)。
もっとも,この即時抗告は,特別の定めがある場合を除き,執行停止の効力を有しません(家事法101条2項本文)。ただし,抗告裁判所又は原裁判所は,申立てにより,即時抗告について裁判があるまで,原裁判の執行の停止その他必要な処分を命ずることができます(家事法101条2項ただし書)。
(2) 記録の閲覧謄写の許可に関する即時抗告(具体例)
審判以外の裁判に対する即時抗告が「特別の定めがある場合に限り」認められることは,事件記録の閲覧謄写の許可に関する即時抗告に,分かりやすく表れています。
ア 当事者が事件記録の閲覧謄写等の許可を申し立てた場合(家事法47条1項),家庭裁判所は,原則としてこれを許可しなければなりません(家事法47条3項)。この当事者の申立てを却下した裁判に対しては,即時抗告をすることができます(家事法47条8項)。
イ これに対し,利害関係を疎明した第三者からの閲覧謄写等の許可の申立ては,家庭裁判所が相当と認めるときに許可されるにとどまります(家事法47条5項)。この第三者の申立てを却下した裁判に対しては,即時抗告をすることができません(家事法47条8項が「第3項の申立て」を却下した裁判のみを対象としているため)。
ウ なお,当事者による閲覧謄写等の許可申立ての却下に対する即時抗告が,家事審判の手続を不当に遅滞させることを目的としてされたものであると認められるときは,原裁判所は,その即時抗告を却下しなければなりません(家事法47条9項)。この却下の裁判に対しては,更に即時抗告をすることができます(家事法47条10項)。
第2 家事審判に対する特別抗告及び許可抗告
1 総論
(1) 特別抗告及び許可抗告の申立期間
即時抗告に対する決定が出た場合,憲法違反等の理由があるのであれば,当該決定の告知を受けた日から5日以内に(家事法96条2項・民事訴訟法336条2項),最高裁判所に対し,特別抗告の申立て(家事法94条)又は許可抗告の申立て(家事法97条)をすることができます。
(2) 確定遮断効がないこと
ただし,これらの申立ては,即時抗告と異なり確定遮断効はありませんから,家事審判自体は,即時抗告に対する決定の告知があった時点で確定します(民事訴訟法119条,及び最高裁昭和51年3月4日判決参照)。
(3) 告知日が異なる場合の確定時期
双方の当事者に対する告知日が異なるときは,最後に告知を受けた者の告知日に確定します。
(4) 申立期間の合憲性
特別抗告を5日以内にする必要があることは,憲法に違反しません(最高裁大法廷昭和24年7月22日決定)。
(5) 申立手数料
特別抗告及び許可抗告の両方を行う場合と,特別抗告又は許可抗告のいずれかだけを行う場合とで,申立手数料に違いはありません(民事訴訟費用等に関する法律3条3項後段)。
(6) 最高裁判所の抗告裁判権
最高裁判所が抗告に関して裁判権を持つのは,裁判所法7条2号に従い,訴訟法において特に最高裁判所に抗告を申し立てることを許した場合に限られます。
そして,裁判所法7条2号は,憲法32条に違反しません(最高裁昭和37年5月31日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和23年3月10日判決,最高裁大法廷昭和25年2月1日判決参照)。
(7) 裁判外の和解による抗告の利益の喪失
抗告人と相手方との間において,抗告後に,抗告事件を終了させることを合意内容に含む裁判外の和解が成立した場合,当該抗告は抗告の利益を欠くに至り,不適法として却下されます(最高裁平成23年3月9日決定)。
(8) 確定した審判の執行力
確定した審判は,金銭の支払,物の引渡し,登記義務の履行その他の給付を命ずる部分について,執行力ある債務名義と同一の効力を有します(家事法75条)。
そのため,確定した審判に違反した場合,強制執行をされる可能性があります。
2 特別抗告
(1) 特別抗告の理由と最高裁判所の審査
特別抗告の理由として形式的には憲法違反の主張があるものの,それが実質的には法令違反の主張にすぎない場合であっても,最高裁判所が当該特別抗告を棄却することができるにとどまり,原裁判所がこれを却下することはできません(最高裁平成21年6月30日決定)。
そのため,憲法違反の主張さえすれば,必ず最高裁判所で判断してもらえます(ただし,ほぼ確実に,定型文による特別抗告棄却決定が返ってくるだけです。)。
(2) 特別抗告理由書の記載方法
特別抗告理由は理由書自体に記載すべきであって,原審抗告理由書の記載を引用することは許されません(最高裁大法廷昭和26年4月4日決定)。
3 許可抗告
(1) 許可抗告制度の趣旨及び合憲性
許可抗告制度(民事訴訟法337条及び家事法97条)は,法令解釈の統一を図ることを目的として,高等裁判所の決定及び命令のうち一定のものに対し,当該裁判に最高裁判所の判例と相反する判断がある場合その他の法令の解釈に関する重要な事項が含まれる場合に,高等裁判所の許可決定により,最高裁判所に特に抗告をすることができることとしたものであり,最高裁判所への上訴制限に対する例外規定です。
そして,下級裁判所のした裁判に対して最高裁判所に抗告をすることを許すか否かは,審級制度の問題であって,憲法が81条の規定するところを除いてはこれをすべて立法の適宜に定めるところにゆだねていますから,民事訴訟法337条は,憲法31条及び32条には違反しません(最高裁平成10年7月13日決定)。
(2) 許可抗告の対象からの除外
許可抗告制度の対象から,許可抗告の申立てに対する決定が除かれている(家事法97条1項本文)のは,許可抗告の申立てに対する決定に許可抗告を認めると,際限なくこれが繰り返されることとなるからです。
(3) 家事事件における許可抗告の実情
家事事件は,許可抗告事件の中でも件数の多い分野です。その多くは事実審の合理的な裁量に属し,先例となる判断に至るものは限られますが,法令解釈の統一という許可抗告制度の趣旨に照らして重要な判断がされることもあります。
例えば,最高裁令和2年8月6日決定(財産分与審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件)は,家庭裁判所が,財産の分与に関する処分の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものについて,当該他方当事者に分与しないものと判断した場合,その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは,家事法154条2項4号に基づき,当該他方当事者に対し,当該不動産を明け渡すよう命ずることができる,と判示しました。
家事事件を含む許可抗告事件の統計的な動向や分野別の到達点については,平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析で詳しく取り上げています。
第3 関連記事その他
1 抗告審における審理終結日等の指定
抗告審は,相当の猶予期間を置いて審理の終結日を定め,審判をする日を定める必要があります(家事法93条1項前段・71条本文及び72条)。
2 関連記事
(1) 家事事件関係の各種一覧表(平成24年11月27日付けの最高裁判所家庭局長の事務連絡)を,家事事件関係の各種一覧表(平成24年11月27日付の最高裁判所家庭局長の事務連絡)に掲載しています。
(2) 以下の記事も参照してください。