目次
第1 家事審判等に対する即時抗告
1 総論
2 抗告審の手続
3 大阪高裁第9民事部及び第10民事部(家事抗告集中部)の運用
第2 家事審判に対する特別抗告及び許可抗告
1 総論
2 特別抗告
3 許可抗告
第3 関連記事その他
* 本ブログ記事において家事法とあるのは家事事件手続法のことです。
第1 家事審判等に対する即時抗告
1 総論
(1)ア 例えば,以下の審判については即時抗告ができますから,審判の告知を受けた日から2週間後に確定し(家事法74条4項,86条1項本文参照),その時点で効力を生じることになります(家事法74条2項ただし書)。
① 婚姻費用の分担に関する審判(家事法156条3号)
② 子の監護に関する処分の審判(家事法156条4号)
③ 財産の分与に関する処分の審判(家事法156条5号)
④ 遺産分割審判(家事法198条1項1号)
⑤ 寄与分を定める処分の審判はいずれも即時抗告のできる審判です(家事法198条1項4号)
イ 即時抗告のできない審判の場合,言渡しによって効力が生じる判決(民訴法250条)と異なり,審判の告知を受けた時点でその効力が生じます(家事法74条本文)。
(2) 審判に不服がある場合,審判の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告をすることで(家事法74条),高等裁判所の判断を仰ぐことができます(家事法91条参照)。
その際,別表第二の審判事件に対する即時抗告ですから,1件につき1800円(1200円の1.5倍)の収入印紙が必要になります(民事訴訟費用等に関する法律別表第一18項(1))。
(3) 家事審判に対する抗告の場合,例えば,被相続人,未成年者,事件本人,不在者,遺言者といった,当事者ではないが表示しておくべき立場がありますから,原審判の当事者等の表示を参考に当事者目録を作成することとなります。
(4) 抗告を理由がないと認めるときは,原裁判所は,意見を付して事件を抗告裁判所に送付する必要があります(家事事件手続規則57条)。
(5) 家事抗告審では,即時抗告に関する準用条文である家事法93条3項が不利益変更禁止に関する条文(①附帯抗告に関する民訴法293条1項,②口頭弁論の範囲等に関する民訴法296条1項及び③第一審判決の取消し及び変更の範囲に関する民訴法304条)を準用していませんから,不利益変更禁止の原則の適用がありません。
そのため,即時抗告をした結果として,原審判よりも不利な決定が出る可能性があります。
2 抗告審の手続
(1) 抗告審の場合,当事者の呼称は「抗告人」,「相手方」となり,附帯抗告が提起された場合,「抗告人(附帯相手方)」,「相手方(附帯抗告人)」となります。
ただし,抗告手続は必ずしも当事者対立構造を有しませんから,事件によっては相手方が存在しない場合があります。
(2) 審判に対する即時抗告があった場合,抗告裁判所としての高等裁判所は,原則として,原審における当事者及び利害関係参加人(抗告人を除く。)に対し,抗告状の写しを送付しなければなりません(家事法88条)。
(3) 抗告裁判所としての高等裁判所は,原審における当事者及びその他の審判を受ける者(抗告人を除く。)の陳述を聴かなければ,原審判を取り消すことができません(家事法89条)。
(4) 抗告裁判所としての高等裁判所は,即時抗告を理由があると認める場合,原則として,家事審判事件について自ら審判に代わる裁判をしなければなりません(家事法91条2項)。
(5) 抗告審の手続には家事審判の手続が準用される他(家事法93条1項),民事訴訟法の規定が準用されます(家事法93条3項)。
(6) 抗告裁判所としての高等裁判所において,調停が成立することがあります(家事法274条3項参照)。
(7) 憲法32条は,何人も裁判所において裁判を受ける権利があることを規定したにすぎないものであって,裁判所の権限や審理の方法等について規定したものではありません(最高裁昭和59年10月4日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和25年2月1日判決参照)。
そして,家事審判に対する抗告審の決定は非訟事件についての裁判であることに変わりはありませんから,公開の法廷における対審又は当事者の審尋を経ないで審理,裁判されたとしても,憲法32条及び82条に違反しません(最高裁昭和59年10月4日決定参照)。
3 大阪高裁第9民事部及び第10民事部(家事抗告集中部)の運用
・ 平成29年3月6日開催の,「第29回 大阪高裁との民事控訴審の審理充実に関する意見交換会」(平成28年度懇談会報告集46頁)には,「2 家事抗告を取り扱う第9民事部及び第10民事部における運用状況」において以下の記載があります。
① 平均審理期間
平成27年度 平成28年度(途中)
遺産分割 94日 114日
子の監護に関する処分 70日 71日
婚姻費用の分担 59日 64日
② 抗告状の送達
家事法88条1項により原則全件送達する。抗告が不適法又は理由がないことが明らかな場合は送達しなくてよいが,そういった事案は少ない。
③ 相手方への求意見とその方法
抗告上の写しを送付する場合は,全件別表第2事件として,事務連絡で意見を求めるとともに,審理終結と決定の予定日を伝える。なお,事前に相当先の期日を指定しており,正当な理由がない限りは,終結の直前になって意見を提出することは避けられたい。
④ 調査官の活用
家裁調査官が2名配属されており,原審の調査報告書に重大な問題があったり,事情に大きな変更が生じたといった場合には,家事抗告において事実調査の調査命令を出すことがある。ただ,抗告審で提出された資料を基に結論を出すことができる場合が多く,迅速処理の要請から,調査命令を出す事案は少ない。
長期未済の件数は,平成27年度は,監護者指定・子の引渡しが4件,面会交流が3件,都道府県知事に対する児童福祉施設入所承認が2件,平成28年度は,看護者指定・子の引渡しが5件,保全処分が1件,面会交流が2件,児童福祉施設入所承認が1件である。
⑤ 抗告審での調停
家事法により高裁でも自庁調停ができるようになったが,平成27年度が2件(いずれも自庁),平成28年度が7件(6件が自庁,1件が原庁)である。事案は基本的に遺産分割である。既に原審で調停は不調になっており,迅速処理の要請から,裁判所から積極的に調停に付すことはない。
⑥ 審問期日の開催
家事法上,抗告審では必要的審問ではなく(家事法89条,93条),迅速性の要請から審問は原則書面で行っている。調停に付す前に主張整理をするような事案でない限り,審問期日を開くことはない。
⑦ 裁判告知の時期
別表第2事件については審理終結日や決定日を当初の段階で伝えている。別表第1事件や相手方のない事件であっても,後見人の解任事件等利害関係を有する者に対しては,別表第2事件に準じて指定告知する運用も考えられる。
4 家事審判以外の裁判に対する即時抗告
・ 家事審判以外の付随的又は派生的事項についての決定又は命令に対する即時抗告(家事法99条)は,1週間以内にする必要があります(家事法101条1項)。
第2 家事審判に対する特別抗告及び許可抗告
1 総論
(1) 即時抗告に対する決定が出た場合,憲法違反等の理由があるのであれば,当該決定の告知を受けた日から5日以内に(家事法96条2項・民事訴訟法336条2項),最高裁判所に対し,特別抗告の申立て(家事法94条)又は許可抗告の申立て(家事法97条)をすることができます。
ただし,これらの申立ては即時抗告と異なり確定遮断効はありませんから,家事審判自体は,即時抗告に対する決定の告知があった時点で確定します(民事訴訟法119条,及び最高裁昭和51年3月4日判決参照)。
(2) 双方の当事者に対する告知日が異なるときは,最後に告知を受けた者の告知日に確定します。
(3) 特別抗告を5日以内にする必要があることは憲法に違反しません(最高裁大法廷昭和24年7月22日決定)。
(4) 特別抗告及び許可抗告の両方を行う場合と,特別抗告又は許可抗告のいずれかだけを行う場合とで,申立手数料に違いはありません(民事訴訟費用等に関する法律3条3項後段)。
(5) 最高裁判所が抗告に関して裁判権を持つのは,裁判所法7条2号に従い訴訟法において特に最高裁判所に抗告を申し立てることを許した場合に限られます。
そして,裁判所法7条2号は憲法32条に違反しません(最高裁昭和37年5月31日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和23年3月10日判決,最高裁大法廷昭和25年2月1日判決参照)。
(5) 抗告人と相手方との間において,抗告後に,抗告事件を終了させることを合意内容に含む裁判外の和解が成立した場合,当該抗告は抗告の利益を欠くに至り,不適法として却下されます(最高裁平成23年3月9日決定)。
(6) 確定した審判は,金銭の支払,物の引渡し,登記義務の履行その他の給付を命ずる部分について,執行力ある債務名義と同一の効力を有します(家事法75条)。
そのため,確定した審判に違反した場合,強制執行をされる可能性があります。
2 特別抗告
(1) 特別抗告の理由として形式的には憲法違反の主張があるものの,それが実質的には法令違反の主張にすぎない場合であっても,最高裁判所が当該特別抗告を棄却することができるにとどまり,原裁判所がこれを却下することはできません(最高裁平成21年6月30日決定)。
そのため,憲法違反の主張さえすれば,必ず最高裁判所で判断してもらえます(ただし,ほぼ確実に定型文による特別抗告棄却決定が返ってくるだけです。)。
(2) 特別抗告理由は理由書自体に記載すべきであって,原審抗告理由書の記載を引用することは許されません(最高裁大法廷昭和26年4月4日決定)。
3 許可抗告
(1) 許可抗告制度(民事訴訟法337条及び家事法97条)は,法令解釈の統一を図ることを目的として,高等裁判所の決定及び命令のうち一定のものに対し,当該裁判に最高裁判所の判例と相反する判断がある場合その他の法令の解釈に関する重要な事項が含まれる場合に,高等裁判所の許可決定により,最高裁判所に特に抗告をすることができることとしたものであり,最高裁判所への上訴制限に対する例外規定です。
そして,下級裁判所のした裁判に対して最高裁判所に抗告をすることを許すか否かは,審級制度の問題であって,憲法が81条の規定するところを除いてはこれをすべて立法の適宜に定めるところにゆだねていますから,民事訴訟法337条は憲法31条及び32条には違反しません(最高裁平成10年7月13日決定)。
(2) 許可抗告制度の対象から,許可抗告の申立てに対する決定が除かれている(家事法97条1項本文)のは,許可抗告の申立てに対する決定に許可抗告を認めると際限なくこれが繰り返されることとなるからです。
第3 関連記事その他
1 抗告審は,相当の猶予期間を置いて審理の終結日を定めて審判をする日を定める必要があります(家事法93条1項前段・71条本文及び72条)。
2(1) 家事事件関係の各種一覧表(平成24年11月27日付の最高裁判所家庭局長の事務連絡)を掲載しています。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 家事審判に関するメモ書き
・ 離婚事件に関するメモ書き
・ 相続事件に関するメモ書き
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情
・ 即時抗告,執行抗告,再抗告,特別抗告及び許可抗告の提出期限