離婚事件に関するメモ書き


目次
1 総論
2 婚姻費用に関するメモ書き
3 養育費に関するメモ書き
3の2 離婚慰謝料に関するメモ書き
4 面会交流に関するメモ書き
4の2 子の連れ去りに関するメモ書き
5 性同一性障害に関するメモ書き
6 生殖補助医療に関するメモ書き
7 令和4年12月の民法(親子法制)等の改正項目
8 関連記事その他

1 総論
(1)ア 法務省HPに「離婚を考えている方へ~離婚をするときに考えておくべきこと~」が載っています。
イ 東京家裁HPの「養育費・婚姻費用算定表」に,令和元年12月23日に公表された改定標準算定表(令和元年版)が載っています。
(2) 二弁フロンティア2021年12月号「家庭裁判所から見た離婚や面会交流等の調停実務」が載っています。
(3)  離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥ります(最高裁令和4年1月28日判決)。


2 婚姻費用に関するメモ書き
(1)ア 裁判所HPの「婚姻費用の分担請求調停」には以下の記載があります。
    別居中の夫婦の間で,夫婦や未成熟子の生活費などの婚姻生活を維持するために必要な一切の費用(婚姻費用)の分担について,当事者間の話合いがまとまらない場合や話合いができない場合には,家庭裁判所にこれを定める調停又は審判の申立てをすることができます。調停手続を利用する場合には,婚姻費用の分担調停事件として申立てをします。
イ 裁判所HPに「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」が載っています。
(2) 婚姻費用を分担すべき義務者の収入は,現に得ている実収入によるのが原則であるところ,失職した義務者の収入について,潜在的稼働能力に基づき収入の認定をすることが許されるのは,就労が制限される客観的,合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず,そのことが婚姻費用の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合でなければならないと解されています(東京高裁令和3年4月21日決定(判例秘書に掲載))。
(3) 二弁フロンティア2022年12月号「家事事件の基礎と実践」には以下の記載があります。
    夫婦関係調整調停を申し立てる際に、併せて婚姻費用についても調停申立てをするのか、また面会交流についても併せて申立てをするのかについても確認、検討した方がいいと思います。
    婚姻費用が支払われていない場合には、同時に申し立てた方がいい、あるいは夫婦関係調整調停より先だってまずは婚姻費用調停を申し立てた方がいいという場合もあります。
(4) 最高裁令和5年5月17日決定は,婚姻費用分担審判において、夫と民法772条の推定を受けない嫡出子との間の父子関係の存否を審理判断することなく、上記父子関係に基づく夫の扶養義務を認めた原審の判断に違法があるとされた事例です。
(5) 福岡高裁平成29年7月12日決定は,「夫である抗告人が,妻である相手方に婚姻費用の減額を求めた事案において,抗告審で,抗告人による婚姻費用の支払を定めた前回審判後,相手方が給与収入を得るようになったことは婚姻費用を減額すべき事情の変更であるとして減額を認めた原審を相当とした上,原審の申立て時期に遡って婚姻費用を減額するため,同時期以降,抗告人が前件審判に従って支払った婚姻費用の過払部分につき,相手方に対し,同人の生活に配慮して分割支払による精算を命じた事例」です。


3 養育費に関するメモ書き
(1) 法務省HPに「養育費の取決めをしていない方へ 調停の簡単な申立書、つくりました」,及び「「こどもの養育に関する合意書作成の手引きとQ&A」について」が載っています。
(2) 交通事故により死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定については,幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなつた場合においても,将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきではありません(最高裁昭和53年10月20日判決。なお,先例として,最高裁昭和39年6月24日判決参照)。
(3) 東京地裁平成30年5月30日判決(担当裁判官は51期の栄岳夫。判例秘書に掲載)は,破産手続開始申立ての前々日に入金された生命保険金の解約返戻金のうち50万円を原資として,その翌日,つまり申立ての前日に滞納養育費を一括弁済した事案について,偏頗行為否認の成立を認めました。
(4)ア 令和2年4月1日,特別養子縁組における養子となる者の年齢の上限を原則6歳未満から原則15歳未満に引き上げられました(法務省HPの「民法等の一部を改正する法律(特別養子関係)について」参照)。
イ 厚生労働省HPに「特別養子縁組について」が載っています。
(5)ア 令和4年12月の民法改正により創設された民法821条は,「親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。 」と定めています。
イ 令和4年12月の民法改正により「親権を行う者は、第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。」と定めていた民法822条は削除されました。
(6) 養育費・婚姻費用算定表(Q&Aを含む)(令和元年12月の東京家裁の文書)12頁には以下の記載があります。
算定表では,公立中学校・公立高等学校に関する学校教育費を指数として考慮していますが,私立学校に通う場合の学校教育費等は考盧していませんので,義務者が当該私立学校への進学を了解していた場合や, その収入及び資産の状況等からみて義務者に負担させることが相当と認められる場合には,算定表によって求められた額に権利者と義務者の収入に応じて不足分を加算することを検討することになります。そして,私立学校の入学金,授業料,交通費や塾代等のうち,義務者がどのような費用を負担すべきかについては,裁判官の判断に委ねられることになります。
(7) 宇都宮家裁令和4年5月13日審判(判例タイムズ2024年3月号(2024年3月号))は,養育費減額の審判において,相手方が,相手方の夫の直近の収入資料の提出を拒否した場合に,相手方の夫が精神科の開業医であることに鑑み,少なくとも算定表の上限の金額の営業所得を得ていると推認して,養育費を算定した事例です。
(8) 法務省HPに養育費の支払義務者が自営業者等である場合における養育費額の算定の在り方に関する調査研究報告書(令和4年3月の商事法務研究会の文書)が載っています。


3の2 離婚慰謝料に関するメモ書き
(1) 夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,当該第三者が,単に不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできません(最高裁平成31年2月19日判決)。
(2) 最高裁令和4年1月28日判決には「被上告人の慰謝料請求は,上告人との婚姻関係の破綻を生ずる原因となった上告人の個別の違法行為を理由とするものではない。そして,離婚に伴う慰謝料とは別に婚姻関係の破綻自体による慰謝料が問題となる余地はないというべきであり,被上告人の慰謝料請求は,離婚に伴う慰謝料を請求するものと解すべきである。」と書いてあります。


4 面会交流に関するメモ書き
(1) 母の監護下にある2歳の子を有形力を用いて連れ去った略取行為は, 別居中の共同親権者である父が行ったとしても,監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情が認められず,行為態様が粗暴で強引なものであるといった事情の下では,違法性が阻却されるものではありません(最高裁平成17年12月6日決定)。
(2) 子の親権者を元妻と定めて離婚した後に元妻が死亡した場合,民法838条1号に基づき後見が開始され,未成年後見人選任の申立て又は親権者変更の申立てがなされることになります(デイライト法律事務所HPの「親権者が死亡した場合どうなる?親権者変更のタイミングが重要!」参照)。
(3) 父母以外の第三者は,事実上子を監護してきた者であっても,家庭裁判所に対し,家事事件手続法別表第2の3の項所定の子の監護に関する処分として上記第三者と子との面会交流について定める審判を申し立てることはできません(最高裁令和3年3月29日決定)。
(4)ア 最高裁令和4年6月21日決定は,ハーグ条約実施法134条に基づく間接強制の方法による子の返還の強制執行の申立てが不適法であるとされた事例です。
イ 最高裁令和4年11月30日決定は, 子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の方法による子の引渡しの強制執行の申立てが権利の濫用に当たるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(5)ア  離婚調停において調停委員会の面前でその勧めによってされた合意により,夫婦の一方が他方に対してその共同親権に服する幼児を期間を限って預けたが,他方の配偶者が,右合意に反して約束の期日後も幼児を拘束し,右幼児の住民票を無断で自己の住所に移転したなどといった事実関係の下においては,右拘束には,人身保護法2条1項,人身保護規則4条に規定する顕著な違法性があります(最高裁平成6年7月8日判決)。
イ  離婚等の調停の期日において調停委員の関与の下に形成された夫婦間の合意によってその共同親権に服する幼児との面接が実現した機会をとらえて,夫婦の一方が実力を行使して右幼児を面接場所から自宅へ連れ去って拘束したなどといった事情の下においては,右幼児が現に良好な養育環境の下にあるとしても,右拘束には,人身保護法2条1項,人身保護規則4条に規定する顕著な違法性があるといえます(最高裁平成11年4月26日判決)。


4の2 子の連れ去りに関するメモ書き
(1) 日本人である妻と別居中のオランダ国籍の者が,妻において監護養育していた2歳4か月の子をオランダに連れ去る目的で入院中の病院から有形力を用いて連れ出した判示の行為は,国外移送略取罪に該当し,その者が親権者の1人として子を自分の母国に連れ帰ろうとしたものであることを考慮しても,その違法性は阻却されません(最高裁平成15年3月18日決定)。
(2) 母の監護下にある2歳の子を有形力を用いて連れ去った略取行為は, 別居中の共同親権者である父が行ったとしても,監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情が認められず,行為態様が粗暴で強引なものであるなどといった下では,違法性が阻却されるものではありません(最高裁平成17年12月6日決定)。


5 性同一性障害に関するメモ書き
(1) 3条1項2号は合憲であること
・ 性同一性障害者につき性別の取扱いの変更の審判が認められるための要件として「現に婚姻していないこと」を求める 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項2号は,憲法13条,14条1項及び24条に違反しません(最高裁令和2年3月11日決定)。
(2) 3条1項3号は合憲であること
・ 性同一性障害者につき性別の取扱いの変更の審判が認められるための要件として「現に未成年の子がいないこと」を求める性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項3号の規定が憲法13条,14条1項に違反するものでない(最高裁令和3年11月30日決定)ことについては,裁判官宇賀克也の反対意見が付いています。
(3) 3条1項4号は違憲であること
ア 性同一性障害者につき性別の取扱いの変更の審判が認められるための要件として「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」を求める性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号は,憲法13条,14条1項に違反するものでない(最高裁平成31年1月23日決定)ことについては,裁判官鬼丸かおる及び裁判官三浦守の補足意見が付いています。
イ 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号に関する特別抗告事件について,最高裁第一小法廷は,令和4年12月7日,審理を大法廷に回付することを求め,最高裁大法廷令和5年10月25日決定は,最高裁平成31年1月23日決定を変更した上で,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号は憲法13条に違反すると判示しました。
(4) その他
・ 嫡出でない子は,生物学的な女性に自己の精子で当該子を懐胎させた者に対し,その者の法令の規定の適用の前提となる性別にかかわらず,認知を求めることができます(最高裁令和6年6月21日判決)。

6 生殖補助医療に関するメモ書き
(1) 生殖補助医療とは,人工授精又は体外受精若しくは体外受精胚移植を用いた医療をいいますところ,令和3年12月11日同日以後に生殖補助医療により出生した子については,生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律が適用されるため,以下の取扱いとなります。
① 女性が自己以外の女性の卵子を用いた生殖補助医療により子を懐胎し,出産したときは,その出産をした女性がその子の母となります(9条)。
② 妻が,夫の同意を得て,夫以外の男性の精子(その精子に由来する胚を含む。)を用いた生殖補助医療により懐胎した子については,夫は,その子が嫡出であることを否認することができません(10条)。
(2) 令和4年12月の法改正により,令和6年夏以降については,10条の主体に子及び妻が追加されます。


7 令和4年12月の民法(親子法制)等の改正項目
(1) 民法(親子法制)等の改正に関する要綱案(令和4年2月1日付)に基づき実施された,令和4年12月の民法(親子法制)等の改正項目は以下のとおりです。
① 懲戒権に関する規定の見直し
② 嫡出の推定の見直し及び女性に係る再婚禁止期間の廃止
③ 嫡出否認制度に関する規律の見直し
④ 第三者の提供精子を用いた生殖補助医療により生まれた子の親子関係に関する民法の特例に関する規律の見直し
⑤ 認知制度の見直し
(2) 令和4年12月の民法等の改正は令和6年夏までに実施される予定です。



8 関連記事その他

(1) 弁護士法人法律事務所DUON HP「離婚で重要な「証拠集め」の方法をパターン別に弁護士が解説」が載っています。
(2) 法制審議会 家族法制部会は令和3年3月30日に第1回会議を開催していますところ,「家族法制の見直しに関する中間試案」(令和4年11月15日)の取りまとめを作成しています。
(3)ア 夫婦間の協力扶助に関する処分の審判は憲法32条及び82条に違反しません(最高裁大法廷昭和40年6月30日決定)。
イ  離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき財産分与についての裁判をしないことは許されません(最高裁令和4年12月26日判決)。
ウ 直系血族間,二親等の傍系血族間の内縁関係は,我が国の現在の婚姻法秩序又は社会通念を前提とする限り,反倫理性,反公益性が極めて大きいと考えられるのであって,いかにその当事者が社会通念上夫婦としての共同生活を営んでいたとしても,厚生年金保険法3条2項によって保護される配偶者には当たりません(最高裁平成19年3月8日判決)。
エ 児童に姿態をとらせ,これをひそかに撮影するなどして児童ポルノを製造したという事実について,当該行為が同条4項
の児童ポルノ製造罪にも該当するとしても,なお同条5項の児童ポルノ製造罪が成立し,同罪で公訴が提起された場合,裁判所は,同項を適用することができます(最高裁令和6年5月21日判決)。
(4) 平成16年4月1日に人事訴訟法が施行された結果,離婚訴訟を含む人事訴訟は地方裁判所ではなく,家庭裁判所で審理されるようになりました(大阪家裁HPの「人事訴訟の概況説明」参照)。
(5) 大阪家裁HPの「人事訴訟事件について」には例えば,以下の資料が載っています。
・ 離婚訴訟に関する協力依頼について
・ 訴訟上の救助を申し立てる場合について
・ 住所等の秘匿について
・ 調査嘱託について
・ 親権者の指定について
(6)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 人事訴訟事件における事実の調査に関する控訴審書記官事務処理要領(平成16年3月の大阪高裁民事部書記官事務検討委員会の文書)
・ 人事訴訟事件に関する控訴審書記官事務の留意事項(平成16年3月の大阪高裁民事部書記官事務検討委員会の文書)
・ 民事訴訟法等の一部を改正する法律及び民事訴訟規則等の一部を改正する規則の施行に伴う人事訴訟手続及び家事事件手続に関する事務処理上の留意点について(令和4年12月1日付の最高裁家庭局第二課長等の事務連絡)
・ 戸籍記載の嘱託手続について(平成24年11月22日付の最高裁家庭局長及び総務局長通達)
→ 令和4年12月22日最終改正のものです。

イ 以下の記事も参照してください。
・ 家事事件に関する審判書・判決書記載例集(最高裁判所が作成したもの)
・ 離婚時の財産分与と税金に関するメモ書き


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