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戸籍謄本・住民票の職務上請求――要件,DV等支援措置,不正取得の責任及びオンライン化(AI作成)

第1 職務上請求の対象と基本原則

1 この記事が扱う範囲

職務上請求とは,弁護士,司法書士,土地家屋調査士,税理士,社会保険労務士,弁理士,海事代理士又は行政書士という8士業が,受任している事件又は事務の遂行に必要な場合に,戸籍謄本等又は住民票の写し等を取得するための法定手続である。本記事は,令和8年8月9日現在の法令及び公表資料を前提として,主に弁護士による請求を扱い,戸籍謄本等,住民票,除票,戸籍の附票及び附票の除票の違いも整理する。

職務上請求は,依頼者本人から個別の委任状を受けて代理請求する方法とは別に設けられた制度である。しかし,資格者であれば自由に利用できる制度ではない。現実の受任事件又は事務が存在し,その業務が資格の法定業務に属し,対象となる証明書が業務遂行に必要であり,請求理由が真実かつ具体的で,取得範囲も必要最小限であることが必要となる。

2 窓口で交付されたことと実質的適法性

市区町村が統一請求書を受理して証明書を交付したことは,請求の実質的適法性を保証するものではない。架空の事件名を記載した場合,取得だけを目的とする依頼であった場合又は必要性を欠く情報まで取得した場合には,交付後であっても刑事責任,懲戒責任又は不法行為責任が問題となる。

本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,特定の個別事案について職務上請求が許されるかどうかは,受任内容,取得対象,利用目的及びDV等支援措置の有無を踏まえて個別に判断する必要がある。

第2 戸籍と住民票で異なる法的構造

1 各証明書が示す情報

戸籍法に基づく戸籍は,出生,親子,婚姻,離婚,養子縁組,死亡等の身分関係を登録し,公証する制度であり,通常は住所を記載事項としない。これに対し,住民基本台帳法に基づく住民票は住所を中核的な記載事項とし,戸籍の附票は当該戸籍に在籍する者の住所の履歴を記録する。

住民票から除かれた後の記録は除票として,戸籍の附票から除かれた後の記録は附票の除票として保存される。住民基本台帳法施行令34条は,除票及び附票の除票を,消除又は改製の日から150年間保存するものと定める。ただし,保存されていることと,職務上請求により当然に交付されることは別問題である。

2 戸籍法上の請求類型

戸籍法10条は,戸籍に記載されている者,その配偶者,直系尊属又は直系卑属による本人等請求を定める。同法10条の2第1項は,本人等以外の者による第三者請求を,自己の権利行使又は義務履行,国若しくは地方公共団体への提出その他正当な理由がある場合に限定する。

8士業による一般の受任事件又は事務の職務上請求は,同条3項に基づく。同条4項は,弁護士等が裁判手続又は裁判外手続における民事上若しくは行政上の紛争処理の代理業務等を行う場合の特則を置き,同条5項は刑事弁護,少年保護事件の付添人その他弁護士に固有の業務について特則を置く。

3 住民基本台帳法上の申出

住民票等について,住民基本台帳法12条の3第1項は,市町村長が,本人等以外の者から法定の必要性を示した申出を受け,その申出を相当と認めるときに,基礎証明事項だけを表示した住民票の写し等を交付できるとする。同条2項は,特定事務受任者の依頼者が同条1項各号の要件を満たし,申出が相当と認められる場合に,資格者へ交付できるとする。

職務上請求で当然の交付対象となるのは,氏名,出生年月日,男女の別,住所等の基礎証明事項である。本籍,世帯主との続柄その他の追加項目が利用目的の達成に必要な場合には,同条7項によりその旨を申し出た上で,市町村長が相当と認める必要がある。したがって,本籍又は続柄を「念のため」表示させるのではなく,項目ごとの必要性を検討しなければならない。

除票,戸籍の附票及び附票の除票についても,同法15条の4,20条及び21条の3が資格者による申出を定め,同法12条の3第4項から第9項までの手続規定を準用する。

4 戸籍証明書等の広域交付との違い

令和6年3月1日に始まった戸籍証明書等の広域交付は,本人,配偶者又は直系尊属・直系卑属が,本籍地以外の市区町村の窓口で戸籍証明書等を請求できる制度である。郵送請求及び代理人請求は対象外であり,弁護士が職務上請求を最寄りの市区町村に行える制度ではない。

第3 弁護士による請求の類型と統一請求書

1 依頼者名を示す請求と示さない請求

戸籍法10条の2第3項による一般の受任事件・事務の請求では,資格,業務の種類,依頼者の氏名又は名称及び同条1項各号に対応する具体的な必要性を明らかにする。これに対し,同条4項1号による民事上又は行政上の紛争処理の代理業務では,資格,事件の種類,代理する又は代理しようとする手続及び戸籍の記載事項の利用目的を示し,依頼者名を請求先へ明らかにしない。

住民票等も,住民基本台帳法12条の3第4項5号により,通常は依頼者名を明らかにする一方,紛争処理の代理業務その他政令で定める業務では,資格及び業務の種類を示す仕組みである。この区別は,紛争の相手方に依頼者名又は紛争の存在が伝わることによる守秘義務上・紛争処理上の支障を避けつつ,依頼者名を示さない請求の対象業務を限定するものである。

2 裁判外の手続と弁護士固有の業務

戸籍法10条の2第4項1号は,「裁判手続又は裁判外における民事上若しくは行政上の紛争処理の手続」を明記しているため,訴訟が提起された後に限られない。もっとも,単なる身元調査,住所の探索だけを目的とする依頼,好奇心又は報復のための調査は,紛争処理の代理業務には当たらない。

同条5項は,刑事事件の弁護人,少年の保護事件又は心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律上の付添人,逃亡犯罪人引渡審査請求事件の補佐人,人身保護法上の裁判所選任代理人,人事訴訟法上の裁判長選任訴訟代理人及び民事訴訟法上の特別代理人等について,別の請求根拠を置いている。

3 A号からD号までの用紙

弁護士実務では,A号・C号が戸籍謄本等,B号・D号が住民票等に対応し,A号・B号は受任している事件又は事務,C号・D号は破産管財人,成年後見人,遺言執行者等として法令上の権限に基づいて行う業務に対応すると整理されている。どの用紙を使うかは,必要な証明書の種類だけでなく,依頼者からの受任に基づく業務か,法令上の固有権限に基づく業務かによって決まる。

統一請求書は,発行した団体,会員名及び発行番号を追跡するための管理媒体でもある。戸籍法施行規則11条の2は,戸籍謄本等を窓口で請求するときの資格証明書等の提示,郵送請求における資格証明書等の写し及び職印を押した統一請求書の送付並びに資格者事務所を送付先とする方法を定めている。

第4 適法な職務上請求の要件

1 現実の受任と法定業務との結び付き

最初に確認すべきことは,証明書の取得以外に実体のある受任事件又は事務が存在するかである。「相続調査」「損害賠償請求準備」等の名目を付けても,実際の依頼が第三者の戸籍又は住所を取得することだけであれば,職務上請求の根拠にはならない。委任契約書の表題だけでなく,相談経緯,相手方との関係,法的課題,委任範囲及び取得後の利用経過が整合している必要がある。

また,受任が存在しても,その事務が当該士業の法定業務に属さなければならない。最高裁平成22年及び平成23年の家系図事件は,観賞用・記念用家系図の作成が行政書士法上の「事実証明に関する書類」の作成に当たらないとして行政書士法違反の成立を否定したものであり,職務上請求書の譲渡又は戸籍の取得を適法とした判決ではない。

2 証明書と記載事項ごとの必要性

必要性は,「訴訟に必要」「相続に必要」という事件単位の抽象論ではなく,請求対象者,証明書の種類,対象期間,全員事項か個人事項か,本籍・続柄の表示が必要かという単位で判断する。訴状を送達する住所の確認に住民票が必要であることから,当然に戸籍全部事項証明書,出生から死亡までの連続戸籍又は本籍入り住民票まで必要になるわけではない。

相続人調査では身分関係を示す戸籍が中心となり,現在住所又は住所履歴の確認では住民票,除票又は戸籍の附票が中心となる。同じ人物に関する公的証明書であっても,それぞれが証明する事項とプライバシーへの影響が異なるため,代替できる資料があるかも含めて選別する必要がある。

3 請求理由の真実性と具体性

請求理由は,実際の受任内容と一致し,市区町村が受任業務,対象者及び取得資料の関係を理解できる程度に具体的でなければならない。実在しない遺産分割調停,訴訟準備又は債権回収を記載する行為は,統一請求書の形式を整えていても不正取得となり得る。

4 取得後の利用,交付及び保管

取得した戸籍又は住民票を依頼者へそのまま交付することは,職務上請求の当然の帰結ではない。裁判提出,相手方の特定又は相続関係の整理等の委任目的に必要な範囲で利用し,目的外利用及び第三者提供を防止する必要がある。依頼者から写しの交付を求められた場合も,DV等支援措置,第三者情報,裁判提出の要否及びマスキングの可否を個別に検討する。

請求書控え,受任記録,取得した証明書及び利用・廃棄記録を相互に追跡できる状態にしておくことは,後日の本人通知,情報開示請求又は所属弁護士会の調査に対し,受任の実在,必要性及び利用経過を説明する基礎となる。

5 市区町村の審査と資格者の責任

市区町村は,法定の事項が記載されているかを確認するだけでなく,申出を相当と認められるかを審査し,必要に応じて説明又は疎明を求めることができる。他方,形式的な記載により交付を受けたとしても,架空事件,目的外取得又は必要性の欠如について資格者の責任が消えることはない。

第5 DV等支援措置と住所秘匿

1 住民票及び戸籍の附票

住民票及び戸籍の附票は住所を示すため,DV等支援措置と直接に関係する。平成30年3月28日総行住第58号通知は,支援措置の申出者の相手方からの第三者申出を不当な目的によるものとして拒否し,相手方の代理人,使者又は相手方から受任した特定事務受任者による申出も,相手方本人の申出と同様に扱うものとしている。この通知の全文は,後記の東京地方裁判所令和7年1月28日判決の別紙に収録されている。

これは,資格者一般を信用しないという制度ではない。住所を秘匿すべき相手方本人の権利又は目的を実現するための代理・受任である以上,資格者を介しても住所秘匿を貫徹するという規律である。必要な法的手続がある場合には,裁判所の調査嘱託,送達場所等調査又は情報を当事者へ直接開示しない方法を検討することになる。

2 戸籍謄本の個別審査

戸籍自体には通常,住所が記載されない。しかし,離婚後に編製された新戸籍の本籍が住所と一致する場合,届書の受理市町村から居住地を推知できる場合その他住所探索の端緒となる場合がある。令和2年4月3日付け法務省民事局民事第一課事務連絡は,事案に応じて,裁判所の調査嘱託を案内する処理,受理市町村をマスキングする処理又は請求者が既に本籍を知っている場合に交付する処理等を示している。この事務連絡も後記東京地方裁判所判決の別紙で確認できる。

したがって,支援措置対象者が戸籍に記載されているという理由だけで,住民票又は附票と同様に一律不交付とすることはできない。他方,戸籍上の具体的記載から住所探索の現実的な危険が認められる場合には,交付範囲,マスキング又は裁判所を介した取得方法を検討する必要がある。

3 東京地方裁判所令和7年1月28日判決

東京地方裁判所令和7年1月28日判決(令和6年(行ウ)第148号)は,DV等支援措置の対象者が記載された戸籍謄本の不交付処分を取り消した。同判決は,戸籍法10条2項の「不当な目的」の規定を職務上請求に類推適用できるかについて最終的に断定せず,「類推適用がされるとしても」と留保した上で,当該戸籍のどの記載が住所探索の端緒になるのかを個別具体的に審査した。

同判決の事案では,夫婦が婚姻中で同一戸籍にあり,離婚後の新戸籍又は届書受理者に関する記載もなく,戸籍から住所を推知できる具体的事情が認められなかった。また,家庭裁判所実務が面会交流調停で未成年者の戸籍謄本の提出を求めること,調査嘱託を案内された後も弁護士が職務上請求を維持したことだけでは,不当な目的を推認できないとした。

処分の名宛人は職務上請求をした弁護士であったが,同判決は,依頼者にも迅速で必要十分な代理業務を受ける法的利益があるとして,原告適格及び訴えの利益を認めた。もっとも,同判決の控訴の有無及び確定状況は,令和8年8月9日現在の公開資料から確認できない。

第6 不交付時の確認と代替手段

1 追加説明と不交付理由

市区町村から受任関係,対象者との関係又は必要性の補充を求められた場合には,守秘義務に配慮しながら,法的手続,対象資料及び利用目的の関係を具体化する。法定事項を記載したことだけを理由に,無条件の交付義務が生じるわけではない。

交付されない場合には,単なる窓口案内なのか,申請又は申出に対する不交付処分なのかを区別し,処分理由,審査請求の可否及び出訴期間を確認する必要がある。東京地方裁判所令和7年1月28日判決は,職務上請求の迅速性と依頼者の法的利益を認めた例であるが,すべての不交付事案で同じ結論になるものではない。

2 裁判所又は弁護士会を介する方法

住所秘匿又は第三者情報が問題となる場合には,裁判所の調査嘱託,送達場所等調査,文書送付嘱託又は弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会等が候補となる。ただし,それぞれ根拠法,審査主体,回答義務,取得できる情報及び当事者への開示方法が異なるため,職務上請求の代替として当然に利用できるわけではない。

第7 不正取得に伴う責任

1 戸籍法及び住民基本台帳法の罰則

戸籍法135条は,偽りその他不正の手段により戸籍謄本等の交付を受けた者を30万円以下の罰金に処する。住民基本台帳法46条2号も,偽りその他不正の手段により住民票,除票,戸籍の附票又は附票の除票の交付を受けた者を30万円以下の罰金に処する。

名古屋簡易裁判所平成17年11月7日決定は,旧住民基本台帳法の下で過料を科した事例である。現在の刑事罰と旧法下の過料を取り違えてはならない。

2 統一請求書の偽造と刑法上の責任

名古屋地方裁判所平成24年7月4日判決(平成23年(わ)第2811号)は,偽造した司法書士用職務上請求書を10回使用して戸籍謄本・住民票等を取得した行為について,有印私文書偽造・同行使,戸籍法違反及び住民基本台帳法違反等を認め,懲役2年,執行猶予4年とした。同判決は,未記入の統一用紙自体も,発行主体,資格者及び真正な用紙であることを示す文書性を有するとした。

3 懲戒及び不法行為

弁護士が職務上請求書を不適正に使用した場合,弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」として懲戒の対象となり得る。実在しない事件を記載した場合だけでなく,取得目的,依頼者への情報提供又は未使用用紙の管理も問題となる。

福岡地方裁判所令和元年6月26日判決(平成30年(ワ)第3348号)は,弁護士が存在しない遺産分割調停申立てを利用目的として住民票を取得した事案で,住所,本籍,生年月日,従前住所及び世帯情報を法的保護に値するプライバシーとし,慰謝料1万円及び弁護士費用1000円を認容した。認容額が合計1万1000円であることは,不正取得の違法性が軽いことを意味しない。

第8 職務上請求に関する裁判例の射程

裁判所ウェブサイトで判決又は決定の原本を確認できた直接関連裁判例は,次のとおりである。裁判所ウェブサイトにはすべての裁判例が掲載されているわけではないため,これは全国の裁判例の不存在又は完全網羅を示す一覧ではない。

裁判例事件番号・掲載誌判断の要点と射程
東京高等裁判所平成19年8月29日判決平成19年(行コ)第159号行政書士に対する業務停止1か月の取消訴訟について,控訴審は停止期間経過後の訴えの利益を否定して訴えを却下した。PDFに収録された千葉地方裁判所の原判決は,事件簿91件に対して請求書460枚が使用され,「所在確認の為」等の記載があることから,取得だけの依頼を多数推認した。控訴審自身が処分理由の実体を判断したものではない。
名古屋簡易裁判所平成17年11月7日決定平成17年(ア)第201号行政書士が調査会社4社の依頼により職務上請求を装い,79回交付を受けた事案で,旧住民基本台帳法により1件1万5000円,合計118万5000円の過料を科した。別の12回は交付を受けた証拠がないとして不処罰とした。
東京地方裁判所平成22年1月15日判決平成21年(行ウ)第439号職務上請求書の自己情報開示における弁護士の印影部分について,公表による偽造・悪用のおそれを理由に非開示を適法とした。不正請求の有無を判断した判決ではない。
最高裁判所第一小法廷平成22年12月20日判決平成20年(あ)第1071号,刑集64巻8号1291頁観賞用・記念用家系図は行政書士法1条の2第1項の「事実証明に関する書類」に当たらないとして,行政書士法違反について逆転無罪とした。職務上請求書の譲渡又は戸籍取得を適法としたものではない。
最高裁判所第一小法廷平成23年12月9日判決平成23年(さ)第1号,刑集65巻9号1371頁上記事件で職務上請求書を提供した行政書士に対する略式命令を非常上告により破棄し,行政書士法違反について無罪とした。射程は家系図作成と行政書士法の関係に限られる。
名古屋地方裁判所平成24年7月4日判決平成23年(わ)第2811号偽造司法書士用職務上請求書を10回使用した事案で,有印私文書偽造・同行使,戸籍法違反及び住民基本台帳法違反等を認めた。未記入の統一用紙の文書性も判断した。
福岡地方裁判所令和元年6月26日判決平成30年(ワ)第3348号存在しない遺産分割調停を理由とする住民票の取得について,プライバシー侵害の不法行為を認めた。
東京地方裁判所令和7年1月28日判決令和6年(行ウ)第148号DV等支援措置対象者が記載された戸籍謄本の不交付処分を取り消し,依頼者の原告適格・訴えの利益及び住所探索リスクの個別審査を示した。確定状況は公開資料から確認できない。

第9 本人通知制度と請求書の情報開示

1 本人通知制度は自治体ごとに異なること

本人通知制度は,全国一律の法定制度ではなく,市区町村が要綱等により独自に実施する制度である。大阪府の本人通知制度の案内も,法令に基づく制度ではなく,各市町村が独自に要綱等を定めて実施するものと説明している。事前登録の要否,対象証明書,通知対象,通知内容及び登録期間は自治体ごとに確認する必要がある。

大阪市の本人通知制度では,事前登録者について,第三者,代理人又は職務上請求による交付年月日,証明書の種別,通数及び申請者種別を通知するが,請求者の氏名及び住所は通知内容に含まれない。

2 職務上請求書の開示範囲

本人通知により交付の事実を知ったとしても,請求者名,依頼者情報,事件内容又は職印の印影がすべて開示されるとは限らない。保有個人情報の開示では,対象本人の情報,請求者又は依頼者の個人情報,職務上の秘密,偽造防止及び生命・身体の保護を個別に審査する。

東京地方裁判所平成22年1月15日判決は弁護士の印影を非開示とする処分を適法とし,大阪市情報公開審査会答申第193号も,第三者請求書に記載された請求者の個人情報等について不開示とすべき部分を認めている。

第10 制度の沿革とオンライン化

1 平成20年施行の現行枠組み

昭和51年の戸籍法改正は戸籍の公開原則を制限し,昭和61年には資格者団体の統一請求書による本人確認及び用紙管理が導入された。その後も資格者又は請求書の偽造による大量不正取得が問題となり,平成19年改正,平成20年5月1日施行の枠組みでは,請求できる場合の限定,本人確認,受任事件・必要性・依頼者等の明示及び不正取得に対する制裁の強化が行われた。

法務省の平成20年改正案内は,本人確認を法律上のルールとしたこと,第三者請求では請求理由を明らかにすること及び不正取得に対する制裁を強化したことを説明している。第166回国会衆議院法務委員会第7号では,依頼者名を示さない特則の対象となる弁護士業務の範囲や守秘義務との関係が審議された。

2 法令上のオンライン請求

戸籍法施行規則79条の2の4から79条の4までは,戸籍謄本等の請求を電子情報処理組織により行うこと,請求情報及び添付情報を送信すること,電子署名・電子証明書を用いること並びに職務上請求について法務大臣が定める措置を講じることを定めている。

法務省の令和8年3月26日付け「電子情報処理組織により職務上請求を行う際に必要な措置」は,資格者電子証明書の検証,失効確認,請求情報及び検証結果の保存等を具体化した。また,内閣官房・法務省の令和8年6月8日決定「職務上請求システムに係る共通化推進方針」は,共通システムに請求情報及び検証結果を送信年の翌年1月1日から3年間保存し,短期間の大量請求を検知する機能等を求めている。

もっとも,同方針は従前の運用を「窓口又は郵送」とし,オンライン請求は行われていないと説明した上で,システム開発と市区町村への導入を将来工程として示している。令和8年8月9日現在,弁護士が全国共通の仕組みによりオンラインで職務上請求できる実運用が開始しているとは,公開資料から確認できない。法令上請求できる仕組みが置かれたこと,将来システムの方針が決定されたこと及び現に弁護士が利用できることは区別する必要がある。

第11 職務上請求前後の実務チェック

① 依頼者,受任日,相手方,法的課題及び委任範囲を記録し,取得だけを目的とする依頼でないこと,当該事件又は事務が弁護士の法定業務に属することを確認する。

② 戸籍,住民票,除票又は戸籍の附票のどれが必要か,全員事項か個人事項か,必要な身分事項・住所履歴・対象期間はどこまでか,本籍・続柄等の追加表示が必要かを分けて検討する。

③ 請求理由が現実の事件,手続及び利用目的と一致すること,依頼者名を示す一般受任事件型か,依頼者名を示さない紛争処理代理型か,法令上の固有権限に基づく業務かを確認する。

④ DV,ストーカー行為,児童虐待,面会交流,離婚又は別居に関係する場合には,住所探索の危険,裁判所を介する代替手段,マスキング及び依頼者への交付可否を先に検討する。

⑤ 取得後の保管先,利用者,依頼者への交付範囲及び廃棄時期を定め,請求書控え,受任資料,取得証明書及び利用記録を相互に追跡できるようにする。

⑥ 不交付の場合には,処分理由,審査請求又は取消訴訟の可否,裁判所の調査嘱託,送達場所等調査,弁護士会照会その他の代替取得手段を確認する。

第12 関連記事

個人情報漏洩に関する弁護士会の懲戒事例(AI作成)

弁護士会照会

出典・参考資料

1 法令

戸籍法(昭和22年法律第224号)10条,10条の2,10条の3及び135条(e-Gov法令検索)

戸籍法施行規則(昭和22年司法省令第94号)11条の2,79条の2の4,79条の3及び79条の4(e-Gov法令検索)

住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)12条の3,15条の4,20条,21条の3及び46条(e-Gov法令検索)

住民基本台帳法施行令(昭和42年政令第292号)15条の2及び34条(e-Gov法令検索)

弁護士法(昭和24年法律第205号)23条,23条の2及び56条(e-Gov法令検索)

2 裁判例

東京高等裁判所平成19年8月29日判決(平成19年(行コ)第159号,懲戒処分取消請求控訴事件,裁判所ウェブサイト)

名古屋簡易裁判所平成17年11月7日決定(平成17年(ア)第201号,住民基本台帳法違反事件,裁判所ウェブサイト)

東京地方裁判所平成22年1月15日判決(平成21年(行ウ)第439号,公文書一部非開示決定取消請求事件,裁判所ウェブサイト)

最高裁判所第一小法廷平成22年12月20日判決(平成20年(あ)第1071号,行政書士法違反被告事件,刑集64巻8号1291頁,裁判所ウェブサイト)

最高裁判所第一小法廷平成23年12月9日判決(平成23年(さ)第1号,行政書士法違反被告事件に係る略式命令に対する非常上告事件,刑集65巻9号1371頁,裁判所ウェブサイト)

名古屋地方裁判所平成24年7月4日判決(平成23年(わ)第2811号,有印私文書偽造・同行使,住民基本台帳法違反,戸籍法違反等被告事件,裁判所ウェブサイト)

福岡地方裁判所令和元年6月26日判決(平成30年(ワ)第3348号,損害賠償請求事件,裁判所ウェブサイト)

東京地方裁判所令和7年1月28日判決(令和6年(行ウ)第148号,戸籍謄本不交付処分取消等請求事件,裁判所ウェブサイト)

3 公的資料

①法務省「戸籍の窓口での『本人確認』が法律上のルールになりました」(平成20年5月1日施行の戸籍法改正案内)

第166回国会衆議院法務委員会第7号(平成19年3月20日)

③法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)

④法務省「電子情報処理組織により職務上請求を行う際に必要な措置」(令和8年3月26日付け法務省民一第594号)

⑤内閣官房・法務省「職務上請求システムに係る共通化推進方針」(令和8年6月8日決定)

⑥大阪府「本人通知制度

⑦大阪市「住民票の写し等の交付に係る本人通知制度について

⑧大阪市情報公開審査会「答申第193号

4 文献

①伊藤諭・北周士『懲戒請求・紛議調停を申し立てられた際の弁護士実務と心得』(第一法規,2023年)110頁~112頁

②京野哲也ほか『Q&A若手弁護士からの相談374問』(日本加除出版,2019年)1頁~4頁

③民事証拠収集実務研究会編『民事証拠収集』(勁草書房,2019年)40頁~54頁

④東京弁護士会法友全期会編『証拠収集実務マニュアル 第4版』(ぎょうせい,2025年)12頁~15頁

⑤日本弁護士連合会『日弁連六十年』(日本弁護士連合会,2010年)387頁