第1 本記事の対象と結論
1 三つの手続を区別すること
破産者又は破産債権者が転居した場合,①免責許可又は免責不許可の裁判に対する即時抗告,②破産事件記録の閲覧・謄写,③免責許可決定の確定後に提起する請求異議の訴えを区別する必要がある。
即時抗告は係属中の破産・免責事件における不服申立てであるのに対し,請求異議の訴えは債務名義の執行力を排除するための新しい訴訟であり,相手方住所の扱いも異なる。
本記事は,令和8年9月10日現在の法令及び裁判所の公開案内に基づき,住所が分からない場合の確認順序を整理するものである。
個別事件では,裁判書の内容,事件番号,公告日,債務名義の種類,破産債権の発生原因及び裁判所からの補正指示を確認する必要がある。
2 結論
免責の裁判に対する即時抗告では,抗告人の住所,事件番号,原裁判及び抗告の趣旨・理由を明らかにする必要があるが,破産者が抗告する際に個々の破産債権者を被告として,その全員の現住所を調査・記載する手続ではない。
他方,免責許可決定の確定後に破産債権者を被告として請求異議の訴えを提起する場合,訴状の被告表示と送達先を定めるため,原則として被告の住所調査が必要となる。
相手方の現住所が分からないときは,まず自分の破産事件記録に提出された債権者一覧表,債権届出書,名義変更届その他の書類を確認するのが合理的である。
裁判所が別事件の記録に新住所を保有しているからといって,新しい訴訟で裁判所が当然にその住所を探索し,訴状の被告表示を補ってくれるわけではない。
かつて同じ本籍であっただけでは,自己の戸籍の附票又は附票の除票から,別戸籍となった相手方の現在住所が分かるとは限らない。
同じ本籍と同じ戸籍は別の概念であり,古い戸籍の附票に記録されるのは,原則としてその戸籍に在籍していた期間中の住所履歴までである。
第2 免責許可・免責不許可決定への即時抗告
1 即時抗告ができる裁判と通常の抗告人
破産法252条5項は,免責許可の申立てについての裁判に対して即時抗告をすることができると定める。
通常は,免責不許可決定に対して破産者が,免責許可決定に対して不服の利益を有する破産債権者が即時抗告をすることになる。
免責許可決定を得た破産者又は免責不許可を求めていた債権者には,通常,その結論を自己に有利に変更する不服の利益がない。
もっとも,誰に抗告権があるかは原裁判の内容と抗告によって求める結論に即して判断する必要がある。
2 抗告期間
免責許可決定は公告されるため,即時抗告期間は公告が効力を生じた日から2週間である(破産法9条,10条及び252条7項)。
官報への掲載日の翌日に公告の効力が生じ,その日から2週間を計算する。
免責不許可決定は公告されないため,破産法13条によって準用される民事訴訟法の規定により,裁判の告知を受けた日から1週間が即時抗告期間となる。
許可と不許可とで期間が異なるので,決定正本の受領日だけを見て一律に2週間と扱ってはならない。
3 抗告状と相手方の住所
抗告状には,抗告人を特定する氏名・住所,原事件の裁判所・事件番号,原裁判の表示,抗告の趣旨及び理由を記載する。
提出先は原裁判所であり,免責事件の記録と結び付けて処理される。
この手続は,破産者が各破産債権者を被告として提起する新しい訴訟ではない。
したがって,破産者が免責不許可決定を抗告する場合,個々の債権者の現在住所を一から調査して抗告状に列挙することが通常の出発点にはならない。
反対に,破産債権者が免責許可決定に対して抗告する場合は,抗告人自身の現在住所を正確に届け出なければ,裁判所からの書類を受領できないおそれがある。
原事件記録に記載された住所が古い場合又は裁判所が当事者等の表示の補正を求めた場合は,担当係の指示に従って補正する必要がある。
第3 破産事件記録で債権者の住所を確認する
1 破産者本人は利害関係人であること
破産法11条1項によれば,利害関係人は,裁判所書記官に対し,破産事件記録の閲覧,謄写等を請求することができる。
東京地方裁判所の破産手続に関するFAQも,利害関係人には破産者本人,申立代理人及び債権者等が含まれると案内している。
したがって,破産者本人が自己の破産事件記録を確認するために,第三者として別個の法律上の利害関係を疎明する必要があると一般化するのは正確でない。
本人確認書類,事件番号,閲覧・謄写申請書,費用その他の具体的な準備は,記録を保管する裁判所の担当係に確認する。
2 電話照会では記録内容を確認できないこと
裁判所が相手方の新住所を把握している可能性があっても,電話でその住所を教えてもらえるとは限らない。
東京地方裁判所の前記FAQも,破産事件記録上の債権者表示や破産者の住所等について電話では回答せず,記録の閲覧又は管財人・申立代理人への照会によるよう案内している。
実務上は,裁判所に事件番号,破産者本人であること及び閲覧目的を伝え,必要書類,予約の要否,閲覧可能日,謄写方法及び郵送対応の有無を確認する。
破産手続が終結又は廃止していても,記録が保存されている間は閲覧・謄写の可否を担当係に照会する余地がある。
3 確認すべき記録と限界
住所確認の対象となり得る書類には,債権者一覧表,債権届出書,債権譲渡又は代位弁済に伴う名義変更届,債権者から提出された意見書・上申書及び送達関係書類がある。
相手方が裁判所へ住所変更を届け出ていれば,その届出が記録に編綴されている可能性がある。
もっとも,裁判所が把握している住所が記録上の最新住所と一致するとは限らず,相手方が新住所を提出していなければ記録から判明しない。
また,閲覧等の制限,非開示部分又は記録使用中等により希望どおり閲覧できない場合もあるため,記録閲覧だけで必ず現在住所が分かると断定することはできない。
第4 免責確定後の請求異議の訴え
1 免責許可決定の効力
免責許可決定は,確定して初めて効力を生ずる(破産法252条7項)。
確定後は,破産者は,破産手続による配当を除き,原則として破産債権について責任を免れる(同法253条1項本文)。
ここでいう免責は債権を形式的に消滅させるものではなく,破産者に対する強制的な履行請求を制限するものである。
そのため,免責前に作成された確定判決,公正証書その他の債務名義が外形上残っている場合には,その執行力を排除する手続が問題となる。
2 非免責債権の確認
破産法253条1項各号は,租税等の請求権,破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権,一定の生命・身体侵害に基づく損害賠償請求権,扶養義務等に係る請求権,一定の使用人の請求権,知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権及び罰金等を非免責債権としている。
免責許可決定が確定したというだけで,問題となる債権が当然にすべて強制執行不能になるわけではない。
したがって,請求異議の訴えを提起する前に,債権の発生時期,原因,債権者一覧表への記載,債権者が破産手続開始を知っていたか,非免責債権該当性及び債務名義の内容を確認する必要がある。
破産法253条1項2号及び3号の区別については,破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為」で詳しく説明している。
3 請求異議の訴え
民事執行法35条の請求異議の訴えは,債務名義に表示された請求権について,口頭弁論終結後の弁済,相殺,免除,免責その他の事由により執行力の排除を求める訴えである。
免責許可決定の確定が債務名義成立後に生じ,対象債権が非免責債権に当たらない場合には,免責を請求異議事由として主張することが考えられる。
管轄は債務名義の種類によって異なる。
確定判決であれば第一審裁判所,公正証書であれば原則として債務者の普通裁判籍所在地を管轄する裁判所となるため,債務名義と執行文を確認して管轄を定める。
4 執行停止の申立て
請求異議の訴えを提起しただけでは,進行中の強制執行は停止しない。
差押え,取立て又は配当を止める必要がある場合は,同時に民事執行法36条の執行停止を申し立て,停止決定を得る必要がある。
執行停止では,請求異議事由に法律上の理由があるとみえること及び事実上の点について疎明があることが必要であり,裁判所が担保を求める場合がある。
免責許可決定及び確定証明書,債権者一覧表,債務名義,差押命令,配当期日の通知その他の資料を早急に揃える必要がある。
第5 請求異議で被告の住所が不明な場合
1 被告表示と送達先
請求異議の訴えは債務名義上の債権者を被告とする新しい訴訟であるから,訴状には当事者を特定する氏名又は名称及び住所を記載し,裁判所が訴状を送達できる状態にするのが原則である。
住所が不明のままでは直ちに訴状を送達できず,裁判所から住所調査や補正を求められることがある。
債務名義上の債権者と現在の債権者が異なる可能性がある場合は,債権譲渡,代位弁済,相続,法人の合併・商号変更及び執行文付与の内容も確認する。
単に旧住所が分からないという問題と,被告となるべき権利者自体が変わっている問題を混同してはならない。
2 住所調査の順序
住所調査は,次の順序で進めるのが合理的である。
① 債務名義,差押命令,過去の通知書,契約書,内容証明郵便及び返送封筒に記載された住所を確認する。
② 自己の破産事件記録を閲覧・謄写し,債権者一覧表,債権届出書,名義変更届,意見書,上申書及び送達関係書類を確認する。
③ 判明している本籍,旧住所及び戸籍関係から,本人等請求,正当な理由のある第三者請求又は弁護士の職務上請求によって住民票の写し,住民票の除票,戸籍の附票又は附票の除票を請求できるかを検討する。
④ 法人であれば商業登記及び法人番号公表サイトを確認し,個人であれば旧住所への送達結果,現地調査,郵便物,建物関係者その他の客観資料を整理する。
⑤ 通常の送達先を確定できない場合は,裁判所所定の調査報告書を作成し,公示送達の申立てを検討する。
東京地方裁判所は,民事訴訟手続の住所等調査の案内で,付郵便送達及び公示送達の上申書兼調査報告書と記載例を公開している。
必要な調査の内容は事件と裁判所の運用によって異なるので,申立先の担当係が示す書式と補正事項を確認する。
3 公示送達は最後の手段であること
民事訴訟法110条は,当事者の住所,居所その他送達すべき場所が知れない場合等に,公示送達を認めている。
公示送達は,住所が不明であると述べるだけで利用できる制度ではなく,通常行うべき調査を尽くしても送達先が判明しないことを資料で示す必要がある。
令和8年5月21日以後に申立て等があった事件の公示送達・公告事項は,裁判所ウェブサイトの公示送達・公告ページを通じて公示される。
公示送達の効力が生じても被告が現実に訴状を読むとは限らないため,原告は請求異議事由を裏付ける資料を自ら提出しなければならない。
第6 戸籍の附票・附票の除票で分かる住所
1 同じ本籍と同じ戸籍は異なること
本籍は戸籍の所在を示す場所であり,同じ本籍地に複数の戸籍が存在し得る。
二人が同じ本籍であったというだけでは,同じ戸籍の名欄に記載されていたことにはならない。
住民基本台帳法16条に基づく戸籍の附票は戸籍ごとに作成され,その戸籍に在籍する者の住所履歴を記録する。
横浜市も,同じ戸籍の名欄に記載がある者の間であれば本人として戸籍の附票を請求できると案内しているが,これは単に本籍地が同じという意味ではない。
2 相手方が別戸籍になった後の住所
婚姻,離婚,転籍その他の理由で相手方が旧戸籍から除かれ,別戸籍となった場合,旧戸籍の附票又は附票の除票に記録されるのは,原則として相手方が旧戸籍に在籍していた期間中の住所までである。
大阪市も,戸籍の附票には,その戸籍が作成されてから現在まで又はその戸籍から除籍されるまでの住所が記録されると案内している。
したがって,自分の旧戸籍に係る附票の除票を取得すれば,相手方の旧戸籍から除かれるまでの住所が記載されている可能性はあるが,その後に転居した相手方の現在住所まで自動的に追記されるものではない。
俗に「除附票」と呼ばれることがあるが,法令及び自治体案内では「戸籍の附票の除票」という名称が用いられる。
3 誰が交付を請求できるか
現在も同じ戸籍の名欄に記載されている者,配偶者,直系尊属又は直系卑属は,本人等として請求できる場合がある。
兄弟姉妹等がかつて同じ戸籍に在籍していても,現在は別戸籍であり,配偶者又は直系の親族にも当たらないときは,以前同じ戸籍だったという事情だけで相手方の現在の戸籍の附票を本人等として請求できるわけではない。
もっとも,住民基本台帳法20条は,自己の権利を行使し又は義務を履行するために必要である場合,国・地方公共団体へ提出する必要がある場合その他正当な理由がある場合の第三者請求を認めている。
請求異議の訴えを現実に提起するため相手方の送達先を確認する必要がある場合は,この第三者請求又は受任弁護士による職務上請求を検討し得るが,請求目的,対象者,必要な住所履歴及び裏付資料を具体的に示す必要がある。
横浜市及び大阪市の案内も,第三者請求では,権利行使・義務履行等の正当な理由と,契約書等の疎明資料を求める場合があるとしている。
好奇心,私的な監視又は相手方の居場所を知ること自体を目的とする請求は,正当な第三者請求又は職務上請求の根拠にならない。
4 附票の住所と実際の居所,DV等支援措置
戸籍の附票及び住民票に記載される住所は,住民登録上の住所であり,相手方が現実に生活している居所と常に一致するとは限らない。
転居届が未提出であれば旧住所が残り,住所異動の時期によっては請求時点の実際の居所を示さないことがある。
また,配偶者からの暴力,ストーカー行為,児童虐待その他の支援措置が講じられている場合は,住民票の写しや戸籍の附票の交付が制限されることがある。
訴訟上の必要があっても,保護対象の住所を相手方当事者へ直接開示することが適切とは限らないため,裁判所及び請求先市区町村の手続に従う必要がある。
第7 実務チェックリスト
① 免責許可又は免責不許可のどちらの裁判であるかを確認したか。
② 官報公告の有無,公告掲載日,公告の効力発生日及び即時抗告期限を確認したか。
③ 即時抗告と,免責確定後の請求異議の訴えを区別したか。
④ 破産事件番号,担当係,申立代理人又は破産管財人の連絡先を確認したか。
⑤ 自分の破産事件記録の閲覧・謄写を申し込み,債権者関係書類を確認したか。
⑥ 免責許可決定の確定証明書,債務名義,執行文及び差押命令を確保したか。
⑦ 対象債権が破産債権であり,非免責債権に当たらないことを確認したか。
⑧ 請求異議の管轄裁判所,被告となる現在の債権者及び送達先を確認したか。
⑨ 強制執行が進行中の場合,請求異議とは別に執行停止を申し立てる必要がないか確認したか。
⑩ 住民票,住民票の除票,戸籍の附票又は附票の除票のうち,必要な証明書と請求資格を区別したか。
⑪ 通常の住所調査を尽くしても判明しない場合,公示送達に必要な調査報告書と資料を準備したか。
第8 関連記事
① 即時抗告・執行抗告・再抗告・特別抗告・許可抗告の期限,理由書期限及び執行停止
② 民事事件記録の閲覧・謄写手続
③ 強制執行に対する債務者の対抗手段
④ 戸籍謄本・住民票の職務上請求
⑤ 破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為」
⑥ 民事訴訟法の送達に関するメモ書き
出典
① e-Gov法令検索「破産法」(9条~13条,252条及び253条)
② e-Gov法令検索「民事執行法」(33条,35条及び36条)
③ e-Gov法令検索「民事訴訟法」(103条,110条~112条,133条及び285条~286条)
④ e-Gov法令検索「住民基本台帳法」(16条,17条,20条及び21条の3)
⑤ e-Gov法令検索「住民基本台帳法施行令」(戸籍の附票の記載・消除及び保存に関する規定)
⑥ 東京地方裁判所「よくある質問(破産手続)」
⑦ 東京地方裁判所「民事訴訟手続の住所等調査の御案内」
⑧ 裁判所「公示送達・公告」
⑨ 大阪市「戸籍の附票の写しの交付請求」
⑩ 横浜市「戸籍の附票の写しを窓口で請求する」