目次
1 執行抗告
2 請求異議の訴え及び執行停止の申立て
3 差押禁止債権の範囲変更の申立て
4 民事調停法又は特定調停法に基づく民事執行手続停止命令
5 執行処分の効力
6 給料差押えの場合,裁判所からの郵便物の受け取りは拒否した方がいいこと
7 関連記事その他
1 執行抗告
(1) 敗訴した相手方としては,強制執行に対し,法令の違反又は事実の誤認があることを理由に(民事執行規則6条2項参照),強制執行の告知を受けた日から1週間以内に(民事執行法10条2項),執行抗告(債権差押えの場合につき民事執行法145条5項)により争うことができます。
ただし,この場合,原則として強制執行は停止しません(民事執行法10条6項参照)。
(2) 抗告裁判所は,抗告状又は執行抗告の理由書に記載された理由に限り,調査します(民事執行法10条7項本文)。
ただし,原裁判に影響を及ぼすべき法令の違反又は事実の誤認の有無については,職権で調査することができます(民事執行法10条7項ただし書)。
(3) 執行抗告の場合,民事訴訟法54条1項の規定により訴訟代理人となることができる者でない限り,代理人となることはできません(民事執行法13条1項参照)。
(4) 差押債権の不存在又は消滅は,債権差押命令及び転付命令に対する執行抗告の理由とはなりません(東京高裁平成21年8月19日決定。なお,先例として,最高裁平成14年6月13日決定)。
2 請求異議の訴え及び執行停止の申立て
(1) 総論
ア 敗訴した相手方としては,確定判決に基づく強制執行に対し,口頭弁論の終結後(=裁判の審理期日の後)に生じた事由に基づき,請求異議の訴え(民事執行法35条)を提起し,あわせて,担保の提供(民事執行法15条)をした上で,執行停止の申立て(民事執行法36条1項)をすることができます。
イ 請求異議の訴え及び執行停止の申立ては,判決を出した第一審裁判所が管轄裁判所となります(民事執行法35条3項・33条2項1号)。
(2) 請求異議の訴えの位置づけ
ア 請求異議の訴えは,債務名義に確定されている請求それ自体につき,事後の変動があったことを事由としてその債務名義の執行力の排除を求める訴えです(最高裁昭和30年12月1日判決)。
イ 請求異議の訴えは,債務名義の存在を前提とし,その執行力の排除を目的とする訴えです(最高裁昭和40年7月8日判決)。
そのため,債務名義が作成されれば訴えを提起することができるのであって,執行文が付与されたこと,又は執行が開始されたことは,請求異議の訴えの要件ではありません。
(3) 相殺の意思表示に伴う請求異議の訴え
・ 相殺の意思表示がなされたことによる債務の消滅を主張することは,請求異議の訴えにおいても認められていることです(最高裁昭和40年4月2日判決参照。なお,先例として,大審院連合部明治43年11月26日判決参照)。
(4) 請求異議の訴えが違法となる場合
・ 強制執行停止の申立てをした申立人主張の権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,申立人が,そのことを知り又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのに,敢えて強制執行停止の申立てをしたなど,強制執行停止の申立てが,制度の趣旨目的に照らして,著しく相当性を欠くと認められるときに限って,不当な訴訟行為による損害として,弁護士費用の賠償が求められるものと解されています(大阪高裁平成4年1月28日判決)。
(5) 不執行の合意の取扱い
・ 給付訴訟の訴訟物は,直接的には,給付請求権の存在及びその範囲であるから,右請求権につき強制執行をしない旨の合意(以下「不執行の合意」といいます。)があって強制執行をすることができないものであるかどうかの点は,その審判の対象にならないというべきであり,債務者は,強制執行の段階において不執行の合意を主張して強制執行の可否を争うことができます(最高裁平成5年11月11日判決)。
(6) その他
ア 執行文付与の訴えにおいて,債務者は,請求に関する異議の事由を抗弁として主張することはできないのであって,請求異議の訴えを反訴として提起する必要があります(最高裁昭和52年11月24日判決)。
イ 民事執行法36条1項は,執行停止のほか,執行処分の取消しまで認めている点で,民事調停法又は特定調停法に基づく民事執行手続停止命令とは異なります。
ただし,執行処分の取消しまで認められるのは請求原因について自白が成立したような場合に限られています。
3 差押禁止債権の範囲変更の申立て
(1) 敗訴した相手方の給料又は退職金を差し押さえた場合,差押禁止債権の範囲変更の申立て(民事執行法153条)により争ってくることがごくごく稀にあります。
この場合,支払禁止命令(民事執行法153条3項)を取得されると,一定の期間,給料又は退職金の取立てができなくなります。
(2) 国民年金等が年金受給者の銀行口座に振り込まれて預金債権となった場合,その法的性質は年金受給者の預金債権に変わり,執行裁判所は,申立てにより,その原資の属性を考慮することなく,当該預金債権について差押命令を発することができます(東京高裁平成22年4月19日決定)。
この場合において民事執行法153条に基づき差押禁止債権の範囲の変更の申立てがあったときは,執行裁判所は,当該預金債権の原資となった国民年金等の債権の額,当該差押えに係る債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して,差押命令の全部又は一部の取消しの裁判をすることができます(東京高裁平成22年4月19日決定)。
4 民事調停法又は特定調停法に基づく民事執行手続停止命令
(1) 執行証書(=強制執行受諾文言付の公正証書。民事執行法22条5号)に基づく強制執行の場合,相手方が民事調停の申立てをした上で,民事執行手続停止命令(民事調停規則6条1項)を得た場合(民事調停法12条の「調停前の措置」とは別の制度です。),民事調停が終了するまでの間,強制執行が停止します(民事執行法39条1項7号)。
この場合において,裁判所が担保の提供を命じているかどうかは,ケースバイケースですが,債権者は,続行命令(民事調停規則6条2項)を得られる余地はあります。
(2) 相手方が特定調停の申立てをした上で,民事執行手続停止命令(特定調停法7条1項)を得た場合,特定調停が終了するまでの間,強制執行が停止します(民事執行法39条1項7号)。
この場合において,裁判所が担保の提供を命じているかどうかは,ケースバイケースですが,債権者は,続行命令(特定調停法7条2項)を得られる余地はあります。
(3) 特定調停の申立てに伴う民事執行手続停止命令は,民事調停の申立てに伴う民事執行手続停止命令と異なり,確定判決又は仮執行宣言付の判決に基づく強制執行の場合でも利用することができます。
5 執行処分の効力
・ 民事執行法が執行処分に対する不服申立ての制度として執行抗告及び執行異議の各手続を設けている趣旨に照らすと,執行処分が執行手続に関する法令の規定に違反してされたものであったとしても,当該執行処分は,原則として,上記各手続により取り消され得るにとどまり当然に無効となるものではないとされています(最高裁令和5年3月2日判決。なお,先例として,大審院明治32年11月30日判決,大審院明治40年6月27日判決,最高裁昭和46年2月25日判決等参照)。
・ 執行処分が弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中にされたものであったとしても、そのことにより当該執行処分が当然に無効となるものではありません(最高裁令和5年3月2日判決)。
裁判だと最低一年近くは弁護士と依頼者の二人三脚が続くから受任時に耳障りの良いことを言ってもいずれはバレてクレームになる。しかも、最初に期待値を上げているから解決しにくい。一円にもならないクレーム対応に時間が取られ他の案件処理にも悪影響が出る。ロクなことがない。先輩弁護士の教え。 https://t.co/BOCO5kRJQr
— 山口貴士 aka無駄に感じが悪いヤマベン (@otakulawyer) June 21, 2022
6 給料差押えの場合,裁判所からの郵便物の受け取りは拒否した方がいいこと
(1) 給料差押えの場合,第三債務者である勤務先に債権差押命令が届いた後,債務者に債権差押命令が送達されますところ,債務者への送達が終わってから一定期間経過後に,差押債権者は第三債務者に対して差し押さえた給料を支払うように請求できることとなります(民事執行法155条1項)。
そのため,勤務先から債権差押命令のコピーを交付された場合,郵便局の受け取りは拒否し,かつ,郵便物等ご不在連絡票(日本郵便HPの「配達お申し込み受付」参照)も無視しておけば,債権差押命令の送達はできないこととなります。
イ 債権差押命令が裁判所に戻るまでの1週間余りの間,取立権の発生を引き延ばすことができます。
(2)ア 第三債務者である勤務先が陳述書を裁判所及び差押債権者に提出した場合,債務者の就業場所が判明することから,就業場所送達が実施されます(民事訴訟法103条2項)。
イ 第三債務者である勤務先が陳述書を裁判所及び差押債権者に提出しなかった場合,債務者の就業場所が判明しない結果,差押債権者は付郵便送達を利用することとなります(民事訴訟法107条)。
普通郵便で別途,その旨の連絡が届きます(民事訴訟規則44条)。
かわいそうだから法テラスでやったげるか〜と思って受任通知送って債権者対応して、書類整えて、連絡取れなくなって、辞任して、着手金を法テラスに返還、っていうのを全弁護士に経験してみてほしいな
— 家系弁護士@戦争反対NO WAR (@bengoshimentaru) April 24, 2022
7 関連記事その他
(1) 自然災害義援金については差し押さえることができません(自然災害義援金に係る差押禁止等に関する法律3条)。
(2)ア 民事訴訟においては,当事者の主張立証に基づき裁判所の判断がされ,その効力は当事者にしか及ばないのが原則であって,権利者である当事者を異にし別個に審理された確定判決と仮処分決定がある場合に,その判断が区々に分かれることは制度上あり得ます(諫早湾干拓事業に関する最高裁平成27年1月22日決定)。
イ 共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく潮受堤防排水門の開門請求を認容する判決が確定した後,当該確定判決に係る訴訟の口頭弁論終結時に存在した共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく開門請求権が消滅したことのみでは当該確定判決に対する請求異議の事由とはならないとされた事例です(諫早湾干拓事業に関する最高裁令和元年9月13日判決)。
ウ 民事執行法が執行処分に対する不服申立ての制度として執行抗告及び執行異議の各手続を設けている趣旨に照らすと,執行処分が執行手続に関する法令の規定に違反してされたものであったとしても,当該執行処分は,原則として,上記各手続により取り消され得るにとどまり,当然に無効となるものではありません(最高裁令和5年3月2日判決。なお,先例として,大審院明治32年11月30日判決,大審院明治40年6月27日判決,最高裁昭和46年2月25日判決等参照)。
(3) 令和2年4月1日以降,給与債権を差し押さえた場合に取立権が発生するのは原則として4週間後であるものの,請求債権が養育費等である場合は1週間後です(民事執行法155条2項)。
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 差押禁止債権が振り込まれた預貯金口座に係る預貯金債権の差押えについて(令和2年1月31日付の国税庁徴収部長の指示)
→ 大阪高裁令和元年9月26日判決(判例秘書に掲載。裁判長は36期の中村也寸志裁判官)を踏まえた取扱いを指示した文書です。
イ 以下の記事も参照してください。
・ 債権差押えに関するメモ書き
・ 倒産事件に関するメモ書き
専門家にとって「途中まで自分でやって途中から専門家に依頼する」というのは、「本人に途中までやってもらったから楽になる」のではなく「本人がやったことを最初から確認し、不適当な部分があれば修正して一からやる必要があるのでかえって大変になる」ので、依頼するなら最初から依頼した方がいい。
— 中村剛(take-five) (@take___five) April 12, 2022