第1 まず契約日と面積表示の意味を確かめる
土地の登記簿上の面積(公簿面積)より実測面積が小さくても,その差だけで代金減額や損害賠償が決まるわけではない。まず,①いつ売買契約を結んだか,②売主が一定の実測面積を契約内容として引き受けたか,③不足面積とその影響をどの資料で示せるかを分ける。令和2年4月1日より前の契約には改正前民法,それ以後の契約には現行民法を基本として適用する(平成29年法律第44号附則34条1項)。
「公簿売買」「実測売買」という契約書の表題だけで判断せず,地積の記載,単価と総額の決め方,実測清算条項,説明資料,交渉経過及び買主の利用目的を併せて読む。境界未確定や測量方法の違いもあり得るため,不足面積の数字自体も図面と測量成果で確かめる。
第2 旧法の数量指示売買と不足面積
1 数量指示売買に当たるか
改正前民法565条の数量指示売買とは,実際に一定の数量があることを確保するため,売主が契約でその数量を表示し,その数量を基礎として代金を定めた売買をいう。最高裁平成13年11月22日判決の全文転載は,契約書が「公簿面積」と記していた土地についても,住宅敷地としての購入,坪単価による代金交渉,双方の面積認識,説明資料等から数量指示売買を認めた。公簿面積の記載だけで一律に結論を出した判決ではない。このリンクは裁判所原本ではなく,裁判所掲載判決に基づく転載資料である。
2 代金減額・解除・損害賠償
買主が不足を知らなかった場合,改正前民法565条は同563条・564条を準用する。買主は不足割合に応じた代金減額を求められ,不足部分がなければ契約しなかったと認められる場合には解除も問題となる。代金を全額支払済みなら,減額で過払いになった部分の返還請求も組み立てる。損害賠償は減額・解除と別に検討する。どの請求も,旧564条の「事実を知った時から1年以内に行使」という期間に注意する。これは現行566条の「通知」と同じではない。
最高裁昭和57年1月21日判決は,面積の表示が代金額決定の基礎にとどまり,契約目的を達する上で特段の意味を持たない場合,表示面積があれば得られたはずの土地値上がり益の賠償を認めなかった。したがって転売利益等を請求するなら,面積が利用計画にどのような意味を持ち,その利益がどのように得られたかを具体的に主張立証する。同判決は全ての面積不足について損害賠償を否定したものではない。
第3 現行法では契約不適合の内容と救済を分ける
1 追完,代金減額,損害賠償,解除
現行民法562条1項は,種類・品質・数量が契約内容に適合しないとき,不足分の引渡し等の追完を認める。ただし,土地の一部を追加で引き渡せるとは限らない。563条の代金減額は原則として相当期間を定めた追完の催告とその不履行を要し,追完不能や明確な拒絶など同条2項の事由があれば催告を要しない。損害賠償は564条・415条,解除は564条・541条・542条に沿って,帰責事由や不履行の程度など各要件を別に検討する。旧法の数量指示売買に関する結論を現行法へそのまま移さない。
2 1年通知と消滅時効を混同しない
現行民法566条の「知った時から1年以内の通知」は,条文上,種類又は品質の不適合に限られ,数量不足には及ばない。ただし,無期限に請求できるという意味ではない。追完・損害賠償等の請求権については民法166条の消滅時効を,代金減額・解除については形成権の性質と各行使要件を確認する。商人間の売買なら商法526条の検査・通知,契約に実測清算や責任期間の特約があればその文言も別に調べる。期間全体は契約不適合責任の期間制限で整理している。
第4 実務でそろえる証拠
1 契約上の面積と実際の面積
売買契約書・重要事項説明書・広告・媒介資料・価格交渉の記録を時系列に並べ,どの面積が売主の表示で,単価・総額とどう結び付いたかを確認する。登記事項証明書,公図,地積測量図,境界確認書,現況測量図,確定測量図及び測量者の説明から,不足の有無と測定条件を検証する。隣地との境界争いがあるときは,単なる面積計算と所有権の範囲の争いを分ける。
2 利用目的と損害
住宅建築なら配置図,建ぺい率・容積率の計算,設計変更,許認可又は融資条件,転売なら売却交渉や費用の記録を確保する。面積不足により契約目的が達せられない,あるいは特定の利益を失ったという主張は,契約時に共有された目的と,不足から結果までの因果関係を示して初めて検討できる。値上がり率に不足面積を掛けただけの損害計算では,上記昭和57年判決の問題を超えられない。
第5 通知・請求の順番と関連する記事
不足が分かったら測量の根拠と発見日を記録し,適用法・契約条項・請求の種類を確定する。売主への連絡には不足面積,根拠資料,求める追完・減額・解除・賠償を区別して記載し,到達の証拠を残す。旧法の1年内の権利行使や,現行法の請求権の時効を見越して,必要な手続を遅らせない。売主側は,契約書の文言に加え,面積の保証・価格決定・買主目的について実際に何を説明したかを復元する。
実測面積が逆に超過した場合は,数量指示売買で実測面積が超過したときを参照されたい。超過と不足では出発点となる請求権が異なる。
第6 出典と判例の射程
①民法・改正前法令を含む時点指定563条~565条,及び現行民法166条,415条,541条,542条,562条~566条。
②民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則34条1項。
③最高裁平成13年11月22日判決・全文転載(旧565条の数量指示売買該当性。本記事のリンク先は転載資料)。
④最高裁昭和57年1月21日判決・裁判所PDF(面積表示が代金算定の基礎にとどまる事案の値上がり益)。
本記事は令和8年10月2日現在の確認資料に基づく。個別事件の結論は,契約時期,面積表示の合意内容,測量の確かさ及び請求する損害の立証で変わる。