第1 本記事の対象と結論
1 結論
売買の目的物の種類又は品質が契約の内容に適合しない場合,買主は,不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければ,履行の追完,代金の減額,損害賠償及び契約の解除のいずれも請求できなくなる(民法566条本文)。
請負の仕事の目的物についても,注文者に同じ1年以内の通知が求められる(民法637条1項)。
この1年は「通知」の期間であり,1年以内に訴えを起こす必要はない。
しかし,通知をすれば全ての権利が同じ期間だけ存続するという意味でもない。通知後の期間制限は,行使する権利の法的性質を分けて確認する必要がある。
履行の追完や損害賠償を求める権利などの債権には,民法166条1項の消滅時効が問題となる。これに対し,代金減額や契約解除は,意思表示により法律関係を変動させる形成権として整理されるため,これらを当然に「債権」とみて同項の5年・10年を一律に当てはめることはできない。
したがって,①民法566条又は637条の通知期間,②請求権の消滅時効,③形成権の行使期間その他の制限を,権利ごとに分けて管理するのが安全である。
売主が引渡しの時に不適合を知っていたか,重大な過失によって知らなかったときは,民法566条の通知期間の制限は働かないが,それだけで他の期間制限まで消えるわけではない。
また,数量不足や移転した権利の不適合には民法566条の通知期間は及ばないが,各救済手段の期間制限は別に検討しなければならない。
令和2年4月1日より前に締結された売買・請負には,改正前民法の瑕疵担保責任の規定が適用される(平成29年法律第44号附則34条1項)。
その場合,売買では,瑕疵を知った時から1年以内の権利行使(除斥期間)と,引渡しの時から10年の消滅時効が問題となる(最高裁平成4年10月20日判決,最高裁平成13年11月27日判決)。
請負では,改正前民法637条・638条の存続期間(原則として引渡しから1年,土地の工作物は引渡しの後5年又は10年)が問題となる。
2 本記事の対象と調査基準日
本記事は,民法の売買・請負の契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)について,期間制限だけを扱う。
不適合の有無,追完・減額・解除の要件及び損害額の算定は扱わない。
初稿の調査基準日は令和8年9月19日であり,旧数量指示売買に関する追記は同年10月2日に資料を確認した。
条文はe-Gov法令検索で取得した現行条文及び改正前条文と照合した。裁判例は原則として裁判所ウェブサイトの判決全文を確認し,最高裁平成13年11月22日判決については判決文の転載資料で確認した。
消滅時効全般の論点は,ハブ記事の消滅時効に関するメモ書きで整理している。
第2 現行民法の期間制限と権利ごとの確認
1 1年以内の通知(民法566条・637条)
(1) 売買
民法566条は,「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。」と定める。
同条ただし書は,「売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。」とする。
この規定の要点は次のとおりである。
①起算点は引渡しの時ではなく,買主が不適合を「知った時」である。
②期間内にすべきことは「その旨を売主に通知」することであり,条文上,裁判上の請求や損害額の特定までは求められていない。
③制限を受けるのは,履行の追完(民法562条),代金の減額(民法563条),損害賠償(民法564条・415条)及び解除(民法564条・541条・542条)の全部である。
④売主が悪意又は重過失の場合は適用されない。
対象は「種類又は品質」の不適合に限られる。
数量の不足(民法562条1項)や,移転した権利が契約の内容に適合しない場合(民法565条)には民法566条の通知期間は及ばない。ただし,追完・損害賠償等の請求権の消滅時効と,代金減額・解除等の形成権の行使要件・期間は,それぞれ確認する。
売買以外の有償契約にも,性質が許さない限り売買の規定が準用される(民法559条)。
(2) 請負
民法637条1項は,請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(民法636条本文に規定する場合)について,「注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。」と定める。
同条2項は,引渡しの時(引渡しを要しない場合は仕事が終了した時)に請負人が不適合を知り,又は重大な過失によって知らなかったときは,1項を適用しないとする。
改正前民法では,請負人の担保責任の存続期間は原則として仕事の目的物の引渡しから1年であり(改正前民法637条1項),建物その他の土地の工作物については引渡しの後5年,石造・コンクリート造等については10年とされていた(改正前民法638条1項)。
現行民法ではこの改正前民法638条から640条までは削除され,建物についても民法637条の知った時から1年以内の通知に一本化された。
2 消滅時効と形成権を分けて考える
(1) 追完請求権・損害賠償請求権等
民法166条1項は,債権が「債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき」(1号)又は「権利を行使することができる時から十年間行使しないとき」(2号)に時効によって消滅すると定める。
契約不適合を理由とする履行の追完請求権や損害賠償請求権等の請求権については,この規定を前提に,主観的起算点と客観的起算点を個別に確認する。
種類又は品質の不適合を知った時は,民法566条の通知期間の起算点となるだけでなく,請求権については民法166条1項1号の「権利を行使することができることを知った時」と重なることが多い。
もっとも,後者は不適合を知った事実だけで機械的に決まるものではなく,請求権を行使できることの認識を事案ごとに検討する必要がある。
(2) 代金減額・契約解除
法務省の民法(債権関係)部会資料は,代金減額権を形成権として整理している。契約解除も,解除の意思表示によって契約関係を解消する形成権である。
形成権については,債権の消滅時効を定める民法166条1項が当然にそのまま適用されると断定せず,各形成権の根拠規定,法的性質,行使障害及び判例・学説を確認する必要がある。
(3) 最高裁平成13年11月27日判決の射程
最高裁平成13年11月27日判決が直接判断したのは,改正前民法570条・566条に基づく瑕疵担保責任のうち,損害賠償請求権に改正前民法167条1項の消滅時効が適用され,その時効が目的物の引渡し時から進行するという点である。
同判決は,現行民法の追完・代金減額・解除を含む全ての救済手段について,客観的起算点を一律に引渡し時と定めた判決ではない。現行法では,損害賠償等の請求権を検討する際の重要な参照判例として用い,形成権にその結論をそのまま広げないことが必要である。
債権の消滅時効期間の全体像は,債権の消滅時効は何年か―5年・10年の原則,短期消滅時効の廃止及び分野別の時効期間で扱う。
3 権利ごとの整理と具体例
現行法の期間管理は,次のように救済手段を分けて行う。
| 救済手段 | 民法566条の通知 | 通知後の主な確認 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 追完請求 | 種類・品質の不適合は1年以内 | 請求権の消滅時効 | 起算点を個別に確認する |
| 損害賠償請求 | 同上 | 民法166条1項 | 平成13年判決は旧法下の損害賠償についての判例 |
| 代金減額 | 同上 | 形成権として行使期間等を確認 | 債権と一括しない |
| 契約解除 | 同上 | 解除権の発生・行使と個別の制限 | 民法541条~543条も確認する |
例えば,令和3年4月1日に引渡しを受け,令和7年6月1日に種類又は品質の不適合と損害を知ったとする。まず,民法566条の通知は令和8年6月1日までに行う必要がある。
その上で損害賠償請求権について,引渡し時から権利行使が可能であったと評価される事案では,民法166条1項2号の10年は令和13年4月1日を基準に管理し,同項1号の5年の起算点も別に確認する。通知だけでは時効の完成猶予・更新にならないため,必要に応じて訴えの提起等を検討する。
これに対し,同じ事案で代金減額又は解除を選択する場合には,上記の損害賠償請求権の満了日をそのまま転用せず,形成権として別に検討する。複数の救済手段を併記する通知・訴状では,期間管理表も救済手段ごとに行を分けるのが安全である。
4 通知をしても時効の進行は止まらない
民法566条・637条の通知は,権利を失わないための要件であり,請求権の時効について完成猶予事由又は更新事由になるものではない。
通知から何年経っても権利を行使できるということではない。もっとも,代金減額・解除等の形成権まで「5年・10年の消滅時効が進行する」と一括せず,権利ごとの期間制限を確認する。
通知の中で追完や損害賠償の支払を求めれば,その通知は催告(民法150条1項)にも当たり得る。
ただし,催告による完成猶予は「その時から六箇月を経過するまでの間」だけであり,催告を繰り返しても延長されない(同条2項)。
交渉を続けるなら,権利についての協議を行う旨の合意を書面でする方法(民法151条)がある。
催告と協議の合意の使い方は,内容証明による催告と協議を行う旨の合意―6か月の完成猶予,再度の催告及び民法151条の使い方で扱う。
第3 旧瑕疵担保責任の判例
1 最高裁平成13年11月27日判決(消滅時効の適用と起算点)
最高裁判所第三小法廷平成13年11月27日判決(平成10年(オ)第773号,民集55巻6号1311頁)は,改正前民法の下で,瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定が適用されるかが争われた事案である。
原審は,売主の瑕疵担保責任は法定責任であり,改正前民法167条1項の適用も準用もないとして,消滅時効の抗弁を排斥していた。
最高裁は,瑕疵担保による損害賠償請求権は売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって,改正前民法167条1項の「債権」に当たるとした。
そして,買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定め(改正前民法570条・566条3項)は,法律関係の早期安定のために権利行使の期間を特に限定したものであるから,これによって同項の適用が排除されるとは解されないとした。
さらに,引渡し後であれば通常の消滅時効期間の満了までに瑕疵を発見して権利を行使することを期待しても不合理でない一方,消滅時効の適用が無いとすると買主が瑕疵に気付かない限り権利が永久に存続し,売主に過大な負担を課すると述べた。
その上で,「瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり,この消滅時効は,買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行する」と判示した。
この判示の直接の対象は改正前民法下の損害賠償請求権であり,現行民法の代金減額権・解除権その他の形成権の期間制限まで判断したものではない。
事案は,昭和48年に宅地の引渡しを受けた買主が,平成6年に道路位置指定の存在を知って損害賠償を請求したもので,引渡しから21年余りが経過していた。
最高裁は消滅時効期間の経過を認めて原判決を破棄したが,自判はせず,消滅時効の援用が権利の濫用に当たるとの買主の再抗弁等について審理を尽くさせるため,事件を東京高等裁判所に差し戻した。
消滅時効期間が経過していても,援用が権利の濫用として許されない余地があることを前提とした差戻しである。
2 最高裁平成4年10月20日判決(1年の除斥期間と権利保存の方法)
最高裁判所第三小法廷平成4年10月20日判決(昭和63年(オ)第1543号,民集46巻7号1129頁)は,商人間の売買でストッキングの瑕疵を理由に損害賠償が請求された事案である。
同判決の裁判要旨は,①改正前民法566条3項にいう1年の期間は除斥期間であること,②瑕疵担保による損害賠償請求権を保存するには,除斥期間内に売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り,裁判上の権利行使をするまでの必要はないことである。
同判決は,権利を保存するには,少なくとも,売主に対し,具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し,請求する損害額の算定の根拠を示すなどして,売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要があるとした。
また,商法526条は,買主が損害賠償請求権等を行使するための前提要件を定めたにとどまり,行使し得る権利の内容及びその消長は民法の一般原則によるとし,商法526条の要件を満たしたこととは関わりなく,改正前民法570条・566条3項の1年の期間制限が働くとした。
現行民法566条は,期間内にすべきことを「請求」から「その旨を売主に通知」することに改めた。
条文の文言からすると,現行法の通知は,平成4年判決が求めた損害額の算定根拠の提示までは要しないと読むのが自然である。
もっとも,通知の内容として何をどこまで特定すべきかを判示した最高裁判例は,調査基準日時点で確認できなかった。
実務上は,不適合の種類・範囲をできるだけ具体的に記載し,追完や損害賠償を求める意思も示しておくのが安全である。
3 改正前民法と現行民法のどちらが適用されるか
平成29年法律第44号附則34条1項は,「施行日前に贈与、売買、消費貸借(旧法第五百八十九条に規定する消費貸借の予約を含む。)、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託又は組合の各契約が締結された場合におけるこれらの契約及びこれらの契約に付随する買戻しその他の特約については、なお従前の例による。」と定める。
施行日は令和2年4月1日であるから,同日より前に締結された売買・請負の担保責任には,改正前民法の瑕疵担保責任の規定(改正前民法570条・566条3項,634条・637条・638条等)が適用される。
消滅時効の期間についても,施行日前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合で,その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。)には改正前民法による(同附則10条4項)。
施行日前に締結された売買であれば,引渡しや瑕疵の発見が施行日以後であっても,改正前民法167条1項の10年の消滅時効が問題となる(商人間の売買等では,改正前商法522条の5年が及ぶかも検討を要する。)。
経過措置の振り分けの詳細は,消滅時効は改正前民法と改正後民法のどちらで判断するか―附則10条・35条の経過措置と振り分け表で扱う。
4 旧法の数量指示売買と1年の権利行使
改正前民法565条は,数量を指示して売買した物に不足があり,買主がその不足を知らなかった場合に,同法563条・564条を準用した。最高裁平成13年11月22日判決は,公簿面積を表示した売買でも,その面積が代金額を決める基礎とされた事情などから数量指示売買に当たる場合を認めた。単なる面積表示だけで結論を出さず,契約書と価格交渉を調べる。
旧564条では,不足の事実を知った時から1年以内に権利を行使する必要があった。現行566条の「種類・品質の不適合を知った時から1年以内に通知」とは対象も必要な行為も異なる。改正前後の適用法と権利ごとの期間を先に確定する。実測面積不足の請求と証拠も参照されたい。
第4 特則と特約
1 商人間の売買(商法526条)
商法526条1項は,商人間の売買において,買主は目的物を受領したときは遅滞なく検査しなければならないと定める。
同条2項は,検査により種類,品質又は数量に関する不適合を発見したときは「直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ」,追完請求,代金減額請求,損害賠償請求及び解除をすることができないとし,直ちに発見することができない不適合については「買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。」と定める。
売主が不適合につき悪意であった場合には適用されない(同条3項)。
商人間の売買では,民法566条の知った時から1年の通知期間より前に,受領後の遅滞ない検査と直ちの通知が求められ,受領から6か月を過ぎて見つかった不適合については,同項による権利行使ができなくなる。
平成4年判決の説示に照らせば,商法526条は権利行使の前提要件であり,その要件を満たしても,民法566条の通知期間や,各救済手段についての消滅時効・形成権の行使期間等は別に検討する必要がある。
2 新築住宅(住宅の品質確保の促進等に関する法律)
住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成11年法律第81号。以下「品確法」という。)94条1項は,住宅を新築する建設工事の請負契約において,請負人は,注文者に引き渡した時から10年間,住宅の構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるものの瑕疵について担保の責任を負うと定める。
同法95条1項は,新築住宅の売買契約の売主についても,買主に引き渡した時(請負人から売主に引き渡されたものである場合はその引渡しの時)から10年間,同じ責任を負うとする。
これらの規定に反する特約で注文者又は買主に不利なものは無効である(同法94条2項・95条2項)。
品確法でいう「瑕疵」は「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態」と定義され(同法2条5項),「新築住宅」は,新たに建設された住宅でまだ人の居住の用に供したことのないもの(建設工事の完了の日から1年を経過したものを除く。)をいう(同条2項)。
対象部分は,基礎,壁,柱,土台,床版,屋根版等の構造耐力上主要な部分と,屋根・外壁・開口部の建具及び一定の排水管等の雨水の浸入を防止する部分である(住宅の品質確保の促進等に関する法律施行令5条)。
品確法の10年の責任期間が適用される場合でも,民法637条・566条の知った時から1年以内の通知は読替えの上で適用される(品確法94条3項・95条3項)。
また,同法97条により,担保責任を負うべき期間を引渡しから20年以内まで伸長する特約をすることができる。
品確法の10年の責任期間が問題となる事案では,引渡しから10年近く経って瑕疵が見つかった場合,通知を急ぐとともに,選択する救済手段ごとに請求権の時効又は形成権の行使期間等を確認する必要がある。
3 特約による免責・期間の短縮
民法572条は,担保責任を負わない旨の特約をしたときであっても,売主は「知りながら告げなかった事実」等についてはその責任を免れることができないと定める。
期間を短縮する特約も,売主が知りながら告げなかった不適合については効力が制限されると考えられる。
宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地又は建物の売買では,宅地建物取引業法40条1項により,民法566条に規定する期間について目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き,民法の規定より買主に不利となる特約をすることができず,これに反する特約は無効である(同条2項)。
実務で「引渡しから2年間」の通知期間が多く見られるのは,この規定による。
消費者契約では,事業者の債務不履行による損害賠償責任の全部を免除する条項等は無効である(消費者契約法8条1項)。
ただし,契約不適合の場合に事業者が履行の追完又は代金・報酬の減額の責任を負うこととされているとき等は,同項1号・2号の適用が除外される(同条2項)。
4 不法行為構成との関係
建物の瑕疵については,契約関係に立たない設計者・施工者・工事監理者に対する不法行為責任が問題となることがある。
最高裁判所第二小法廷平成19年7月6日判決(平成17年(受)第702号,民集61巻5号1769頁)は,建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者は,契約関係にない居住者等に対する関係でも,建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い,これを怠ったために建物に基本的な安全性を損なう瑕疵があり,それにより居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合には,特段の事情がない限り不法行為による賠償責任を負うと判示した。
不法行為構成を採る場合の期間制限は,民法566条・637条の通知期間ではなく,民法724条(損害及び加害者を知った時から3年,不法行為の時から20年)である。
人の生命又は身体を害する不法行為であれば,3年は5年となる(民法724条の2)。
建設業者の不法行為責任の全体は建設業者の不法行為責任等―建築瑕疵,契約不適合,破産及び石綿判例で,不法行為の消滅時効の起算点は不法行為の損害賠償請求権の消滅時効―3年・5年・20年と「損害及び加害者を知った時」の意義で扱う。
第5 期間管理の実務
1 買主・注文者の側
不適合に気付いたら,まず気付いた日を記録し,そこから1年以内に売主・請負人へ通知する。
通知は,後に争いとならないよう,内容証明郵便など到達と内容を証明できる方法で行い,不適合の箇所・内容,発見の経緯及び求める対応(追完・減額・損害賠償・解除)を記載する。
通知後は,行使する救済手段を列挙し,追完・損害賠償等の請求権と,代金減額・解除等の形成権を分けて満了日を管理する。
請求権について交渉が長引きそうなときは,協議を行う旨の合意を書面で取り交わすか,満了日の前に訴えの提起・調停の申立て等をする。
時効の完成猶予・更新の全体像は,時効の完成猶予と更新の違い―旧法の中断・停止との対応関係と事由の一覧で扱う。
2 売主・請負人の側
請求を受けたら,①契約締結日(令和2年4月1日の前か後か),②引渡日,③買主が不適合を知った日と通知の日,④行使された救済手段が請求権か形成権か,⑤商人間の売買か,⑥新築住宅に当たるか,⑦契約書の期間特約の内容を確認する。
消滅時効は援用しなければ効果が生じない(民法145条)ので,期間の経過が見込まれるときは,援用の意思表示を明確にしておく。
時効完成後に不適合を認めて修補を約束するなどすると,信義則上,時効の援用が許されなくなることがある。
この点は,時効完成後に債務を承認・一部弁済したら時効を援用できないか―最高裁昭和41年4月20日大法廷判決と再度の時効で扱う。
第6 関連記事
①ハブ記事:消滅時効に関するメモ書き
②債権の消滅時効は何年か―5年・10年の原則,短期消滅時効の廃止及び分野別の時効期間
③消滅時効は改正前民法と改正後民法のどちらで判断するか―附則10条・35条の経過措置と振り分け表
④内容証明による催告と協議を行う旨の合意―6か月の完成猶予,再度の催告及び民法151条の使い方
⑤時効の完成猶予と更新の違い―旧法の中断・停止との対応関係と事由の一覧
⑥不法行為の損害賠償請求権の消滅時効―3年・5年・20年と「損害及び加害者を知った時」の意義
⑦時効完成後に債務を承認・一部弁済したら時効を援用できないか―最高裁昭和41年4月20日大法廷判決と再度の時効
⑧建設業者の不法行為責任等―建築瑕疵,契約不適合,破産及び石綿判例
第7 出典・参考資料
1 法令
①民法140条,141条,145条,150条,151条,166条,559条,562条~566条,572条,636条,637条,724条,724条の2(e-Gov法令APIで令和8年9月19日に取得した現行条文)
②民法(改正前条文)167条,563条~565条,566条,570条,572条,634条,637条~640条(e-Gov法令APIの時点指定で取得)
③民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条,34条
④商法526条(現行及び令和2年3月31日時点),改正前商法522条
⑤住宅の品質確保の促進等に関する法律2条,94条,95条,97条
⑥住宅の品質確保の促進等に関する法律施行令5条
⑦宅地建物取引業法40条
⑧消費者契約法8条
2 裁判例
①最高裁判所第三小法廷平成4年10月20日判決(昭和63年(オ)第1543号,民集46巻7号1129頁)
②最高裁判所第三小法廷平成13年11月27日判決(平成10年(オ)第773号,民集55巻6号1311頁)
③最高裁判所第二小法廷平成19年7月6日判決(平成17年(受)第702号,民集61巻5号1769頁)
④最高裁判所第一小法廷平成13年11月22日判決の判決文転載(RETIO掲載。裁判所公式掲載の原本は今回確認できていない。)
3 立案資料
①法制審議会民法(債権関係)部会資料(代金減額権を形成権として整理した立案資料)
②法務省「民法(債権法)の見直しに関する検討課題」(形成権の期間制限に関する検討資料)