第1 担保権を持つ債権者は不足額についてだけ配当を受ける
破産者の財産に抵当権などの担保権を持つ債権者(別除権者)は,担保権を破産手続によらないで行使することができる(破産法65条1項)。
他方で,破産手続の配当には,担保権の行使によって弁済を受けることができない債権の額についてのみ参加することができる(同法108条1項本文)。
この考え方は,不足額責任主義と呼ばれる。
もっとも,破産債権の届出書に書く「破産債権の額」は,担保で回収できる部分を差し引いた不足額ではなく,被担保債権の全額である。
不足額は,届出書の別の欄に「弁済を受けることができないと見込まれる債権の額」として書く。
この区別は,令和7年司法試験予備試験の論文式試験(倒産法)の出題趣旨でも,届出の額を不足見込額と取り違えないよう注意が促された点である。
本記事は,令和8年9月19日を基準に,破産法の条文を基に,別除権者が破産債権を届け出る方法と,中間配当・最後配当に参加するために必要な証明を説明する。
破産手続の電子化とオンラインの債権届出は破産手続のIT化――令和8年5月のウェブ期日と令和10年6月までに予定される全面デジタル化で,破産・個人再生の実務の全体は倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理で扱っている。
第2 債権届出書の書き方
1 全額と不足見込額を分けて届け出る
破産債権の届出では,すべての破産債権者が,破産債権の額及び原因などを届け出る(破産法111条1項)。
別除権者は,これに加えて,別除権の目的である財産と,別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額を届け出なければならない(同条2項)。
例えば,貸付金6000万円の担保として破産者の土地建物に抵当権を持ち,競売で4000万円を回収できると見込む債権者は,次のように届け出ることになる。
①破産債権の額 6000万円(貸付金)
②別除権の目的である財産 抵当権を設定した土地建物
③別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額 2000万円
①に不足見込額の2000万円を書いてしまうと,担保からの回収が見込みより少なかった場合に,届け出た額を超えて配当に参加することは難しくなると考えられる。
逆に,③の不足見込額はあくまで見込みであり,配当に参加するときは,後記のとおり実際の不足額を証明する必要がある。
2 破産財団に属しない財産の担保権者(準別除権者)
破産財団に属しない破産者の財産に抵当権などを持つ者も,別除権者と同じ扱いを受け(破産法108条2項),準別除権者と呼ばれる。
準別除権者も,別除権者と同じ事項を届け出る(同法111条3項)。
3 担保されない部分が生じた場合
被担保債権の全部又は一部が破産手続開始後に担保されないこととなった場合は,その部分の額について,破産債権者として権利を行使することができる(破産法108条1項ただし書)。
例えば,担保権を放棄した場合がこれに当たると考えられる。
担保の価値が乏しく,競売をしても回収の見込みが低いときは,担保権を放棄して全額で配当に参加するかどうかを比較することになる。
第3 破産管財人の認否
破産管財人は,届け出られた破産債権について,破産債権の額などとともに,別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額についても認否を記載した認否書を作成する(破産法117条1項4号)。
認否書に認否の記載がない事項は,破産管財人が認めたものとみなされる(同条4項)。
破産債権の額に異議がなければ額は確定するが,不足見込額はその時点の見込みであり,配当に参加できる額は,配当の段階で証明された不足額によって決まる。
そのため,実務上は,届出の段階では破産債権の額と原因を正確に書き,不足見込額は担保物件の評価の根拠とともに示しておくことが考えられる。
第4 配当に参加するために必要な証明
1 中間配当
別除権者が中間配当の手続に参加するには,中間配当に関する除斥期間内に,破産管財人に対し,別除権の目的である財産の処分に着手したことを証明し,かつ,その処分によって弁済を受けることができない債権の額を疎明しなければならない(破産法210条1項)。
処分に着手したことの証明としては,例えば担保不動産競売を申し立てたことを示す資料を提出することが考えられる。
疎明があった額に対する配当額は,破産管財人が寄託し,直ちには支払われない(同法214条1項3号)。
最後配当の除斥期間内に不足額を証明できなかった場合,寄託された配当額は他の破産債権者への最後配当に回される(同条3項)。
2 最後配当
別除権者が最後配当の手続に参加するには,最後配当に関する除斥期間内に,破産管財人に対し,担保されないこととなったことを証明するか,担保権の行使によって弁済を受けることができない債権の額を証明しなければならない(破産法198条3項)。
最後配当に関する除斥期間は,破産管財人がした最後配当の公告が効力を生じた日,又は届出をした破産債権者への通知が到達すべき時を経過した旨を破産管財人が裁判所に届け出た日から起算して2週間である(同法197条1項・3項,198条1項・2項)。
この2週間を過ぎると,別除権者は最後配当から除斥される。
競売が長引いて除斥期間までに不足額が確定しない場合は,最後配当に参加できないおそれがあるため,破産管財人による任意売却への協力や担保権の放棄を含めて,早めに方針を決めておくことが考えられる。
3 根抵当権の特則
根抵当権で担保される破産債権については,不足額を証明しない場合でも,破産管財人は配当表に記載しなければならず,その場合は極度額を超える部分の額が配当に参加できる額とされる(破産法196条3項)。
最後配当に関する除斥期間内に不足額の証明があればその額により,証明がなければ極度額を超える部分の額が不足額とみなされる(同法198条4項)。
第5 民事再生手続との違い
民事再生手続でも,別除権者は別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の部分についてのみ再生債権者として権利を行使することができ(民事再生法88条),債権届出の際には別除権の目的である財産と不足見込額を届け出る(同法94条2項)。
再生計画による弁済を受けられるのは,不足する部分が確定した場合に限られる(同法182条本文)。
再生手続では,再生債務者が事業を続けるために担保物件を使い続けることがあり,その場合は担保物件の評価額の支払について別除権者と合意する(いわゆる別除権協定)ことがあるなど,破産の場合とは交渉の場面が異なる。
第6 担保権者が確認しておく事項
担保権者の側では,次の事項を確認しておくことになる。
①破産手続開始決定の通知と債権届出期間
②被担保債権の元本,利息,遅延損害金の額(届出の「破産債権の額」)
③担保物件の評価額と先順位の担保権(不足見込額の根拠)
④競売を申し立てるか,破産管財人による任意売却に協力するか,担保権を放棄するか
⑤中間配当・最後配当の公告と除斥期間の起算日
第7 出典
1 法令
①破産法65条・108条・111条・117条・196条・197条・198条・210条・214条
②民事再生法88条・94条・182条
法令は令和8年9月19日を基準とする。
2 試験の出題趣旨
①法務省「令和7年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨」倒産法の出題の趣旨(PDF34頁)