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返済期限を決めていない貸金・親族間の貸付けの消滅時効はいつから進行するか(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

本記事は,親子・兄弟・夫婦・知人の間で「返すのはいつでもよい」「余裕ができたら返して」という程度の約束で金銭を貸した場合に,その返還請求権の消滅時効がいつから進行し,いつ完成するかを扱う。
あわせて,親族間の送金でよく争われる,そもそも貸付けか贈与かという問題と,時効の完成を防ぐ方法を取り上げる。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文と改正前民法(令和2年3月31日時点)の条文で確認した。

消滅時効全体の見取り図は,消滅時効に関するメモ書きで整理している。

2 結論

返済期限を決めていない貸金の消滅時効についての結論は,次のとおりである。
①返還の時期を定めなかった消費貸借では,貸主は相当の期間を定めて返還の催告をすることができる(民法591条1項)。
②東京高裁昭和41年6月17日判決(裁判所HP未掲載,判例秘書で全文を確認)は,催告をしていなくても,貸借成立の時から相当の期間を経過した時点から消滅時効が進行するとし,長くとも債務成立後1か月で相当の期間を経過したとみるべきであるとした。
③したがって,「催告するまで時効は進まない」とは考えない方が安全であり,貸付けの時から時効の管理を始める必要がある。
④令和2年3月31日以前の貸付けには改正前民法が適用され,時効期間は10年(改正前民法167条1項)であり,令和2年4月1日以後の貸付けには改正後民法が適用され,権利を行使することができることを知った時から5年又は権利を行使することができる時から10年である(民法166条1項)。
⑤貸主は通常,自分が期限を定めずに貸したことを知っているから,令和2年4月1日以後の貸付けでは,実際上は貸付けから相当の期間を経過した時から5年で時効が完成すると考えておくのが安全である。
⑥親族間の送金では,時効より前に,返還の約束があったか(貸付けか贈与か)が争われることが多く,返還の約束が証明できなければ請求は認められない。

毎月のように繰り返し送金した場合には,送金ごとに別々の貸付けとなり,それぞれについて時効が進行すると考えられる。

3 用語

本記事で「改正前民法」とは,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正前の民法をいい,同法の施行日は令和2年4月1日である。
「相当の期間」とは,借主が返済の準備をするのに通常必要な期間をいい,一律の日数は法律で定められていない。

第2 返済期限を定めない貸付けの法律関係

1 消費貸借の成立と返還の約束

民法587条は,「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」と定める。
貸付けであるためには,金銭の交付に加えて,返還の約束が要件となる。
令和2年4月1日以後は,書面(電磁的記録を含む。)でする消費貸借は,金銭の交付前でも合意だけで成立する(民法587条の2)。

2 返還の時期を定めなかった場合

民法591条1項は,「当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。」と定める。
この規定は改正前民法でも同じ文言である。
同条2項は,借主は返還の時期の定めの有無にかかわらずいつでも返還をすることができると定める。

期限の定めのない債務一般については,債務者は履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う(民法412条3項)。
ただし,消費貸借では591条1項が特則となり,貸主が催告しても,借主は相当の期間が経過するまでは返還しなくてよい。
遅延損害金が発生する時期(履行遅滞)と,消滅時効が進行を始める時期とは,別の問題である点に注意を要する。

第3 消滅時効はいつから進行するか

1 起算点についての考え方

消滅時効は,権利を行使することができる時から進行する(改正前民法166条1項,民法166条1項2号)。
返還の時期を定めなかった消費貸借では,貸主はいつでも相当の期間を定めて返還を催告することができるから,権利の行使について法律上の障害はない。
そこで,貸主が実際に催告したかどうかにかかわらず,貸借の成立から相当の期間を経過した時から時効が進行するという考え方がとられている。
仮に催告の時から時効が進行するとすると,貸主が催告しない限り時効が永久に進行しないことになり,権利の上に眠る者を保護しないという時効制度の趣旨に反する。

この点について,最高裁判例は裁判所HPで確認できなかった。

2 東京高裁昭和41年6月17日判決

東京高等裁判所昭和41年6月17日判決(昭和40年(ネ)第829号,東京高等裁判所判決時報民事17巻6号125頁,金融・商事判例14号8頁,金融法務事情449号8頁,裁判所HP未掲載,判例秘書で全文を確認)は,返済期の定めのない消費貸借上の債務について,貸主はいつでも相当の期間を定めて返還を催告することにより権利を行使できるから,催告をしていないときでも,貸借成立の時から相当の期間を経過した時点から消滅時効が進行するとした(元記事の消滅時効に関するメモ書きでも紹介している。)。
事案は,信用組合に対する手形借入金債務を水産物の卸売会社が重畳的に引き受けたもので,弁済期の協定が期限までに成立しなかったため,引受債務は昭和33年4月1日から期限の定めのない債務になったと認定されている。
同判決は,長くともその後1か月を経過することにより相当の期間を経過したものとして,同年5月1日を起算点とし,5年の商事時効(当時の商法522条)によって遅くとも昭和38年5月1日までに時効が完成したとした。
債権者側は,資力が回復したら支払う「出世払い」の約束であり,資力回復時に弁済期が来ると主張したが,同判決はこれを認めなかった。
相当の期間の長さは,貸付金額や当事者の関係等によって事案ごとに判断されるものであり,常に1か月となるわけではない。

3 改正前民法と改正後民法の振り分け

民法の一部を改正する法律附則10条4項は,「施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。」と定める。
したがって,令和2年3月31日以前に貸し付けた金銭の返還請求権の時効期間は,改正前民法167条1項の10年である。
貸付けが商行為に当たる場合(例えば会社が貸主又は借主である場合)には,令和2年3月31日以前の貸付けについて商法旧522条の5年の商事消滅時効が問題となるが,個人間の親族間の貸付けで商行為に当たることは通常ない。

令和2年4月1日以後の貸付けには,改正後民法166条1項が適用され,債権者が権利を行使することができることを知った時から5年(1号),又は権利を行使することができる時から10年(2号)で時効が完成する。
返済期限を定めずに貸した貸主は,貸付けの時点で,相当の期間の経過後にはいつでも返還を求められることを知っているのが通常である。
そのため,1号の5年が先に満了することが多いと考えられる。

経過措置の全体像は,消滅時効は改正前民法と改正後民法のどちらで判断するか―附則10条・35条の経過措置と振り分け表で,債権の時効期間の全体像は,債権の消滅時効は何年か―5年・10年の原則,短期消滅時効の廃止及び分野別の時効期間で扱う。

4 計算例

相当の期間を1か月とした場合の計算例を示す。
相当の期間が何日かは事案によるので,満了日は目安である。

貸付けの内容適用される規定時効期間の満了の目安令和8年9月19日時点
平成27年10月1日に返済期限を定めず50万円を貸付け改正前民法167条1項(10年)令和7年10月末頃満了済み
平成29年10月1日に返済期限を定めず50万円を貸付け改正前民法167条1項(10年)令和9年10月末頃未完成
令和3年10月1日に返済期限を定めず50万円を貸付け民法166条1項1号(5年)令和8年10月末頃未完成(満了が近い)
平成25年から令和4年まで毎月10万円を送金送金ごとに別に判断送金ごとに異なる古い送金から順に満了

5 返済期限を定めていた場合との比較

返済期限の定め方によって,時効の起算点は次のように異なる。
①「令和9年3月末日までに返す」のような確定期限を定めた場合には,その期限が到来した時から時効が進行する。
②「実家の土地が売れたら返す」のような不確定期限を定めた場合には,客観的起算点(民法166条1項2号)はその事実が発生した時であり,主観的起算点(同項1号)は貸主がその事実の発生を知った時である。
③返済期限を定めなかった場合には,本記事で述べたとおり,貸付けから相当の期間を経過した時から時効が進行すると考えられる。
履行遅滞の時期についても,確定期限は期限の到来時,不確定期限は期限の到来後に履行の請求を受けた時又は期限の到来を知った時のいずれか早い時,期限の定めがない場合は履行の請求を受けた時とされている(民法412条1項~3項)。

「ある時払いの催促なし」や「出世したら返す」といった約束は,返済期限を定めなかったものか,不確定期限を定めたものか,そもそも返還の約束といえるかの解釈が問題となり,時効の起算点もその解釈に左右される。
この種の約束について判断した最高裁判例は裁判所HPで確認できなかったので,本記事では結論を示さない。

第4 親族間の貸付けで争点になること

1 貸付けか贈与か

親族間の送金では,受け取った側から「もらったものだ」「援助だった」と主張されることが多い。
贈与は,「当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」(民法549条)契約であり,返還の約束がない点で消費貸借と異なる。
貸付けを主張する側が,返還の約束があったことを証明しなければならない。

東京地方裁判所令和7年9月1日判決(令和6年(ワ)第30419号,裁判所HP未掲載,判例秘書で全文を確認)は,兄が弟に対し,平成14年6月から返還の時期を定めずに毎月10万円(合計180万円)を貸し付けたと主張し,令和3年8月に催告書を送った上で貸金の返還を求めた事案である。
同判決は,平成14年6月から平成15年9月まで毎月10万円が弟の口座に振り込まれたこと(送金したのは兄が代表者を務める会社であった。)は認めたが,兄と弟との間で返還の約束がされたとは認められないとして,請求を棄却した。
兄は,弟が借入れを認めて時効を援用しないと記載したとする領収証を提出したが,同判決は,その領収証が弟によって作成されたとは認められないとして,債務の承認による時効の中断も援用権の喪失も認めず,仮に貸付けが成立していたとしても各貸金債権の消滅時効は完成しており,弟の援用によって消滅したとした。
貸付けとされた時期は平成14年から平成15年であるから,改正前民法の時効期間(10年)が問題となる事案である。
振込みの記録があるだけでは貸付けの証明として足りず,返還の約束の証明と時効の両方が壁になり得ることを示す例である。

2 返還の約束を裏付ける証拠

返還の約束を裏付ける証拠としては,次のものが考えられる。
①借用書,金銭消費貸借契約書又は念書。
②返済を約束するメール,LINE等のメッセージ。
③借主による一部の返済の記録(振込みの記録や手帳の記載)。
④振込みの際の依頼人名欄や通帳への「貸付」等の記載。
⑤贈与税の申告の有無や,当事者間で贈与として扱っていたかを示す事情。
親族間では書面を作らないことが多いから,送金の都度,メッセージで貸付けである旨と返済の予定を確認しておくことが,後の紛争を防ぐ最も簡単な方法である。

3 借主からの一部弁済と承認

借主が返済の一部をし,又は借金の存在を認めることは,債務の承認に当たり,時効はその時から新たに進行を始める(民法152条1項)。
親族間では,少額ずつの返済や「もう少し待って」という返事が繰り返されることがあり,その記録は時効の更新と返還の約束の両方の証拠になる。
承認による更新は,債務の承認による時効の更新―一部弁済,破産管財人の承認及び相続人への通知で扱う。

時効が完成した後に借主が一部を返済し,又は返済を約束した場合には,借主は信義則上その時効を援用できなくなることがある。
この点は,時効完成後に債務を承認・一部弁済したら時効を援用できないか―最高裁昭和41年4月20日大法廷判決と再度の時効で扱う。

4 夫婦間の貸付け

夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については,婚姻の解消の時から6か月を経過するまでの間は,時効は完成しない(民法159条)。
改正前民法159条も同じ内容を時効の停止として定めていた。
したがって,婚姻中に配偶者に貸した金銭は,婚姻中に時効期間が経過しても,離婚等による婚姻の解消から6か月が経過するまでは時効が完成しない。

5 貸主又は借主が死亡した場合

貸主が死亡すると,返還請求権は相続人に承継され,借主が死亡すると,返還債務は借主の相続人に承継される。
相続財産に関しては,相続人が確定した時,管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から6か月を経過するまでの間は,時効は完成しない(民法160条)。
被相続人の生前の親族への送金が,貸付けか贈与か,使途不明金かが相続の場面で争われることもあり,その時効の検討は,相続の使途不明金の消滅時効―請求原因・起算点・旧法の見分け方で整理している。

6 成年後見人が古い借金の返済を求められた場合

本人の成年後見人が,親族等から本人の古い借金の返済を求められる場面もある。
この場合には,債務の存否(返還の約束の有無)と,返済期限を定めない貸付けとして時効が完成していないかを確認する必要がある。
成年後見人が時効完成後に返済すると,本人の承認として扱われ,本人が時効を援用できなくなるおそれがある。
この場面での検討は,成年後見人は本人の古い借金を返してよいか――債務の存否の確認,消滅時効の援用及び家庭裁判所への連絡票で整理している。

第5 時効の完成を防ぐ方法

1 返済期限を定め直す

時効の完成が近い場合には,借主との間で改めて返済期限を定めた合意書や,残額を確認する書面を作ることが考えられる。
残額を確認する借主の署名がある書面は,債務の承認(民法152条1項)の証拠となり,その時から時効が新たに進行する。

2 催告・協議合意・裁判上の請求

借主が承認に応じない場合には,次の手段をとる。
①内容証明郵便で返還を催告すれば,その時から6か月間は時効が完成しない(民法150条1項)が,催告によって完成が猶予されている間の再度の催告には完成猶予の効力がない(同条2項)。
②権利についての協議を行う旨の合意を書面ですれば,原則として合意から1年間は時効が完成しない(民法151条1項)。
③訴えの提起や支払督促の申立てをすれば,その手続が終了するまで時効は完成せず,確定判決等で権利が確定すれば時効は新たに進行を始める(民法147条)。
催告と協議合意の使い方は内容証明による催告と協議を行う旨の合意―6か月の完成猶予,再度の催告及び民法151条の使い方で,支払督促の手続はmintsによる支払督促で扱う。

3 催告の文面

返済期限を定めていない貸金の催告では,民法591条1項に沿って,「本書面到達後2週間以内に返還してください」のように相当の期間を定めて返還を求める。
相当の期間を定めない催告や短すぎる期間を定めた催告の効果を直接判断した最高裁判例は裁判所HPで確認できなかったので,余裕をもった期間を定めておくのが無難である。
催告書には,貸付けの日,金額,返還の約束があったこと及び振込先を明記し,貸付けである旨を明確にしておく。

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mintsによる支払督促

第7 出典・参考資料

1 法令

①民法(明治29年法律第89号)145条,147条,150条~152条,159条,160条,166条,412条,549条,587条,587条の2,591条(e-Gov法令検索の現行条文)
②民法(令和2年3月31日時点)159条,166条,167条,591条(e-Gov法令検索の時点指定条文)
③民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条

2 裁判例

①東京高等裁判所昭和41年6月17日判決(昭和40年(ネ)第829号,貸金請求控訴事件,東京高等裁判所判決時報民事17巻6号125頁,金融・商事判例14号8頁,金融法務事情449号8頁)判例秘書で全文を確認(判例番号L02120265),裁判所HP未掲載
②東京地方裁判所令和7年9月1日判決(令和6年(ワ)第30419号,貸付金請求事件)判例秘書で全文を確認(判例番号L08032287),裁判所HP未掲載