目次第1 恩赦の法的な位置付け第2 恩赦制度を支える4つの理由1 法の画一性から生じる具体的不妥当の調整2 社会情勢や法的評価の変化への対応3 通常の救済手続では是正できない誤りへの対応4 改善更生と社会復帰の促進第3 現在の運用から見た恩赦の役割1 個別恩赦は限定的に運用されている2 政令恩赦と個別恩赦は役割が異なる第4 制度上の限界と検討課題1 司法判断との関係2 透明性と公平性第5 関連記事第6 出典1 法令2 裁判例・国会資料3 行政資料・歴史資料・統計
第1 恩赦の法的な位置付け
恩赦とは,行政権によって国の刑罰権を消滅させ,裁判の内容又は効力を変更する制度である。
日本国憲法73条7号は大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権を内閣が決定すると定め,憲法7条6号は天皇がこれを認証すると定めている。
恩赦法は恩赦を5種類に分けている。
政令で罪又は対象要件を定める恩赦と,特定の者について中央更生保護審査会の申出を経て行う恩赦とがあり,個別恩赦について本人の希望だけで当然に受けられる権利が認められているわけではない。
本記事は,令和8年9月23日を調査基準日とし,昭和23年6月の恩赦制度審議会最終意見書が示した4つの存在理由を,現行法,国会答弁,裁判例及び最新の公表統計と照合して説明する。
第2 恩赦制度を支える4つの理由
1 法の画一性から生じる具体的不妥当の調整
法律は多数の事案に共通して適用できる一般的・抽象的な規範であるため,個別事案の事情をあらかじめ完全に織り込むことはできない。
刑罰法規の適用によってなお具体的な不均衡が残り,通常の裁判手続では調整できない例外的な場合に,恩赦が補完的な調整手段となり得るという考え方である。
もっとも,この理由は,確定裁判を行政権が広く修正してよいことを意味しない。
法改正,刑の量定,再審その他の司法手続で解決すべき問題と,恩赦でなければ調整できない問題とを区別し,恩赦は抑制的に用いる必要がある。
2 社会情勢や法的評価の変化への対応
裁判確定後に社会情勢,刑罰法規又は法的評価が大きく変わり,従前の刑罰的評価をそのまま維持することが著しく不均衡となる場合がある。
恩赦は,そのような事情変更に応じて,確定裁判の内容又は効力を事後的に調整する役割を持ち得る。
ただし,一般的な制度変更は本来,国会による立法や司法手続によって処理されるべきである。
恩赦は法改正の代替ではなく,既に確定した裁判について残る不都合を例外的に調整する制度である。
3 通常の救済手続では是正できない誤りへの対応
再審と非常上告にはそれぞれ法律上の要件があり,確定裁判の誤りの全てを対象とするものではない。
最高裁大法廷昭和25年11月8日判決は,累犯加重の条件を備えない前科を備えるものと誤認して刑を加重したとしても,その問題が事実誤認を前提とする限り,非常上告の対象となる法令違反には当たらないと判断した。
このように他の制度では是正できない不利益が残る場合に,恩赦が最後の調整手段となり得る。
ただし,誤判一般の救済を恩赦に委ねる趣旨ではなく,再審等の司法的救済を優先した上で残る限定的な場面についての説明である。
4 改善更生と社会復帰の促進
有罪判決後に本人が行状を改め,再犯のおそれが低下するなどの事情が生じたときに,刑の残部の執行を免除し,又は失われた資格を回復することは,改善更生と社会復帰を促進する刑事政策上の意味を持つ。
昭和23年の最終意見書はこの理由を特に重視し,法務省も現在,恩赦の重要な役割として改善更生の状況に応じた裁判の内容又は効力の変更を説明している。
個別恩赦では,上申権者による上申,中央更生保護審査会の審査と申出,内閣の決定及び天皇の認証という手続を経る。
改善更生だけで自動的に恩赦が認められるものではなく,被害者や社会の感情を含む諸事情が考慮される。
第3 現在の運用から見た恩赦の役割
1 個別恩赦は限定的に運用されている
(続きを読む...)恩赦制度はなぜ存在するのか-4つの理由と現在の役割(AIリライト)