選挙違反者にとっての平成時代の恩赦

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目次
第1 平成時代の恩赦における公民権の回復方法
1 平成時代の恩赦の概要
2 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦における公民権の回復方法
3 平成2年の御即位恩赦における公民権の回復方法
4 平成5年の皇太子御結婚恩赦における公民権の回復方法
第2 公民権を有しない人,並びに選挙運動の禁止及び公民権の回復
1 公民権を有しない人
2 選挙運動の禁止及び公民権の回復
第3 選挙違反者が平成2年の御即位恩赦を受けるために必要であった条件
1 執行猶予付きの有罪判決を受けた後,執行猶予期間の3分の1以上を経過した人が恩赦を受けるために必要であった条件
2 (a)実刑判決を受けた人(刑の執行前の人を含む。),又は(b)執行猶予付きの有罪判決を受けた後,執行猶予期間の3分の1も経過していない人が恩赦を受けるために必要であった条件
第4 平成2年の御即位恩赦で必要であった条件の具体的内容
1 皇太子ご結婚恩赦について(法律のひろば1993年8月号及び同年9月号に掲載されたもの)の執筆者
2 「社会のために貢献するところがあること」の意義
3 「刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること」の意義
4 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」の意義
第5 平成時代に実施された,選挙違反者に対する特別基準恩赦の実績
1 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦の場合
2 平成2年の御即位恩赦の場合
3 平成5年の皇太子御結婚恩赦の場合
第6 関連条文
1 刑法
2 公職選挙法
3 政治資金規正法
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第1 平成時代の恩赦における公民権の回復方法
1 平成時代の恩赦の概要
(1) 平成時代の恩赦は以下の三つです。
① 平成元年 2月24日の恩赦
・ 昭和天皇の大喪の礼に伴い,大赦令及び復権令,並びに特別基準恩赦が実施されました。
② 平成 2年11月12日の恩赦
・ 現在の上皇の即位の礼に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
③ 平成 5年 6月 9日の恩赦
・ 皇太子殿下(徳仁親王)ご結婚に伴い,特別基準恩赦が実施されました。
(2)ア 特別基準恩赦は,特別恩赦基準に基づく恩赦のことでありますところ,平成時代の特別恩赦基準は以下の三つです。
① 昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定)
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定)
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準(平成5年6月8日閣議決定)
イ 特別恩赦基準に関する法務省の通達等を以下のとおり掲載しています。
(平成元年の昭和天皇御大葬恩赦)
① 恩赦の実施について(平成元年2月6日付の法務事務次官の依命通達)
(平成2年の御即位恩赦)
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成2年11月12日付の法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
③ 即位の礼に当たり行う特別基準恩赦の事務処理について(平成2年11月12日付の法務省保護局恩赦課長の通知)
④ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成2年11月14日付の法務省保護局恩赦課長の文書)
(平成5年の皇太子御結婚恩赦)
⑤ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成5年6月9日付けの法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
⑥ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別基準恩赦の事務処理について(法務省保護局恩赦課長の通知)
⑦ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)
(3) 自治省選挙部長の通知を以下のとおり掲載しています。
① 昭和天皇の崩御に際会して行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成元年2月13日付の自治省選挙部長の通知)
② 即位の礼に当たり行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成2年11月12日付の自治省選挙部長の通知)
③ 御結婚恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成5年6月8日付の自治省選挙部長の通知)
(4) 公民権とは,選挙権及び被選挙権をいいます(労働基準法7条参照)。
2 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦における公民権の回復方法
(1) 罰金前科がある場合の公民権の回復方法
   復権令に基づき,当然に公民権の停止が解除されて公民権を回復しました。
(2) 公職選挙法違反の懲役前科がある場合の公民権の回復方法
   復権令に基づく公民権停止の解除は実刑期間経過後5年を経過したものに限られていました。
   そのため,特別基準恩赦としての特赦,復権等に基づき公民権の停止が解除されて初めて,公民権を回復しました。
3 平成2年の御即位恩赦における公民権の回復方法
(1) 罰金前科がある場合の公民権の回復方法
   復権令に基づき,当然に公民権の停止が解除されて公民権を回復しました。
(2) 公職選挙法違反の懲役前科がある場合の公民権の回復方法
   復権令に基づく公民権停止の解除は罰金前科に基づくものに限られていました。
   そのため,特別基準恩赦としての特赦,復権等に基づき公民権の停止が解除されて初めて,公民権を回復しました。
4 平成5年の皇太子御結婚恩赦における公民権の回復方法
   復権令が出ませんでしたから,特別基準恩赦としての特赦,復権等に基づき公民権の停止が解除されて初めて,公民権を回復しました。



皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)からの抜粋

第2 公民権を有しない人,並びに選挙運動の禁止及び公民権の回復
1 公民権を有しない人
(1) 以下の人は公民権(選挙権及び被選挙権)を有しません(総務省HPの「選挙権と被選挙権」参照)。
① 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者(公職選挙法11条1項2号)
・ 例えば,仮釈放中の人及び刑の執行停止中の人は,刑の執行が終わっていませんから,公民権を有しません。
② 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者は除く。)(公職選挙法11条1項3号)
・ 禁錮以上の刑に処せられた人について,刑の時効(刑法31条)が完成し,又は恩赦としての「刑の執行の免除」(恩赦法8条)があった場合,刑の執行が終わっていない点で2号に該当したままであるものの,3号に該当しなくなる結果,公民権を回復します(前科登録と犯歴事務(五訂版)118頁参照)。
・ 政治家が詐欺罪,弁護士法違反等により執行猶予付の有罪判決を受けた場合,公民権は停止しません。
③ 公職にある間に犯した収賄罪,又は公職者あっせん利得罪により刑に処せられ,実刑期間経過後5年間(被選挙権は10年間)を経過しない者(公職選挙法11条1項4号及び11条の2),又は刑の執行猶予中の者(公職選挙法11条1項4号)
・ 平成 4年12月16日法律第 98号に基づき,同日以降の行為に基づく収賄罪により執行猶予付きの判決が確定した場合,公民権が停止することとなりました。
・ 平成 6年 2月 4日法律第 2号に基づき,収賄罪により実刑判決を受けた場合,実刑期間経過後5年間,公民権が停止されることとなりました。
   例えば,令和元年7月21日投開票の第25回参議院議員通常選挙・比例区で当選した鈴木宗男参議院議員(日本維新の会)の場合,平成9年ないし平成10年の行為に基づくあっせん収賄罪等により懲役2年の実刑判決を受けたものの,刑期満了から5年が経過した平成29年4月30日に公民権を回復しました。
・ 平成11年 8月13日法律第122号に基づき,平成11年9月2日以降の行為により刑に処せられた場合,実刑期間経過後10年間,被選挙権が停止されることとなりました。
・ 公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(平成12年11月29日法律第130号)に基づき,平成13年3月1日以降の行為により公職者あっせん利得罪により刑に処せられた場合,実刑期間経過後5年間,選挙権が停止され,実刑期間経過後10年間,被選挙権が停止されることとなりました。
④ 選挙に関する犯罪で禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行猶予中の者(公職選挙法11条1項5号)
・ 「衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の選挙」(公職選挙法2条)以外の選挙(例えば,海区漁業調整委員会委員の選挙,水害予防組合の組合会議員の選挙)において執行猶予付で禁錮以上の刑に処せられた場合,本号に基づき,猶予期間中,公民権を停止され,実刑に処せられた場合,2号に基づき,刑執行終了時まで公民権を停止されます。
・ 一般の犯罪により執行猶予付で禁錮以上の刑に処せられた場合,3号括弧書きに基づき,公民権は停止しません。
⑤ 公職選挙法等に定める選挙に関する犯罪により,選挙権及び被選挙権が停止されている者(公職選挙法11条2項及び252条)
・ 例えば,一定の罪で罰金刑に処せられた場合,裁判確定の日から5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます(公職選挙法252条1項)。
・ 一定の罪で禁錮刑に処せられた場合,執行猶予付きであれば猶予期間中,実刑であれば刑執行終了まで及びその後5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます(公職選挙法252条2項)。
・ 以下の罪について刑に処せられた人がさらに以下の罪について刑に処せられた場合,裁判確定の日から10年間,選挙権及び被選挙権を停止されます(公職選挙法252条3項)。
(a) 買収及び利害誘導罪(221条)
(b) 多数人買収及び多数人利害誘導罪(222条)
(c) 公職の候補者及び当選人に対する買収及び利害誘導罪(223条)
(d) 新聞紙,雑誌の不法利用罪(223条の2)
・ 裁判所は,情状により,選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず,又はその規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告できます(公職選挙法252条4項)。
・ 公職選挙法252条4項に関する裁判所の裁量は,一般犯罪の法定刑の範囲内における量刑と何ら変わりませんから,憲法31条及び21条に違反しません(最高裁昭和38年10月22日決定参照)。
・ 公職選挙法違反の内容については,ベリーベスト法律事務所岡山オフィスHP「公職選挙法違反とはどんな罪?一般の有権者でも逮捕されることはある?」が参考になります。
⑥ 政治資金規正法に定める犯罪により選挙権及び被選挙権が停止されている者(政治資金規正法28条)
・ 平成 6年 2月 4日法律第 4号に基づき,平成7年1月1日から適用されています。
・ 例えば,一定の罪で罰金刑に処せられた場合,裁判確定の日から5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます(政治資金規正法28条1項)。
・ 一定の罪で禁錮刑に処せられた場合,執行猶予付きであれば猶予期間中,実刑であれば刑執行終了まで及びその後5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます(政治資金規正法28条2項)。
・ 裁判所は,情状により,選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず,又はその規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告できます(政治資金規正法28条3項)。
(2)ア 警察署留置場(法的には代用刑事施設(刑事収容施設法15条)です。)又は拘置所に勾留されているものの,有罪判決が確定していない人は,留置業務管理者又は拘置所長を通じて(公職選挙法施行令50条4項)を通じて,期日前投票をすることができます(公職選挙法48条の2第1項3号)。
イ 青森県HPに「刑事施設、労役場、監置場、留置施設、少年院、婦人補導院における不在者投票制度の概要(平成27年5月) 」が載っています。
2 選挙運動の禁止及び公民権の回復
(1)ア 公職選挙法252条又は政治資金規正法28条に基づき公民権を有しない人は選挙運動をすることもできません(公職選挙法137条の3)。
イ 公職選挙法239条1号の罪の構成要件である同法129条にいう選挙運動とは,特定の選挙の施行が予測され,又は確定的となった場合に,特定の人がその選挙に立候補することが確定しているときのほか,その立候補が予測されるときにおいても,その選挙につきその人に当選を得しめるため投票を得若しくは得しめる目的を以て,直接又は間接に必要かつ有利な周施,勧誘若しくは誘導その他諸般の行為をなすことをいいます(最高裁昭和38年10月22日決定)。
ウ 政治活動とは,政治上の目的を持って行われる一切の活動から,選挙運動にわたる行為を除いたものをいいます(千葉県浦安市HPの「選挙運動と政治活動」参照)。
(2) ①ないし④の人は特赦を受ければ公民権を回復しますし,⑤及び⑥の人のうち,罰金刑を受けたにすぎない人は復権を受けるだけで公民権を回復します。
(3)ア 公民権停止期間は,裁判確定の日から常に5年ですから,公民権回復の日は罰金前科の消滅の日より早いのが一般的です。
イ 仮納付の裁判の執行(裁判確定前の罰金刑の執行)により裁判確定の日に刑の執行終了となる場合(刑事訴訟法494条1項),公民権回復と刑の消滅は同じ日になります。
(4) 公職選挙法252条3項による10年間の公民権停止期間の経過前であっても,刑法34条の2により刑の言渡しの効力が消滅した場合,その時点で選挙権及び被選挙権を回復します(前科登録と犯歴事務(五訂版)104頁参照)。

恩赦願書の記載例(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)からの抜粋)



身上関係書の記載例(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書からの抜粋)

第3 選挙違反者が平成2年の御即位恩赦を受けるために必要であった条件
1 執行猶予付きの有罪判決を受けた後,執行猶予期間の3分の1以上を経過した人が恩赦を受けるために必要であった条件
(1) 特赦を受けるために必要であった条件
① 基準日の前日までに執行猶予期間の2分の1以上が経過していること
② 刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること
③ 犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,特赦が特に相当であること
(2) 減刑を受けるために必要であった条件
① 基準日の前日までに執行猶予期間の3分の1以上が経過していること
② 刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること
③ 犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,減刑が特に相当であること
2 (a)実刑判決を受けた人(刑の執行前の人を含む。),又は(b)執行猶予付きの有罪判決を受けた後,執行猶予期間の3分の1も経過していない人が恩赦を受けるために必要であった条件
(1) 特赦を受けるために必要であった条件
① 社会のために貢献するところがあること
② 刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること
③ 犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,特赦が特に相当であること
(2) 減刑を受けるために必要であった条件
① 刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること
② 犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,減刑が特に相当であること
(3) これらの条件につき,①過失犯を除く刑法の罪,②法定刑の短期が1年以上である特別法の罪及び③薬物に係る罪は恩赦の対象外でしたが,公職選挙法違反(以下「選挙違反」といいます。)等は恩赦の対象でした。

第4 平成2年の御即位恩赦で必要であった条件の具体的内容
1 皇太子ご結婚恩赦について(法律のひろば1993年8月号及び同年9月号に掲載されたもの)の執筆者
   当時の法務省保護局恩赦課長及び法務省保護局恩赦課長補佐です。
2 「社会のために貢献するところがあること」の意義

   法律のひろば1993年8月号53頁には以下の記載があります。
   「社会のために貢献するところがあり」とは、社会的に評価されるような功績が現に存在し又は過去に存在した場合をいい、その有無については、諸般の具体的状況から総合的に判断することとなる。例えば、市町村議会議員のほか、民生委員、PTA役員、自治会役員、消防団の役員、同業組合の役員等一定の地位に基づく社会への貢献のほか、過去に人命救助あるいは福祉施設や更生保護施設等に対しての物心の支援などの事実があり、それが社会的に評価されていることがこれに該当する。
   なお、この要件についても、その疎明資料(在籍証明書、表彰状等の写し等)を提出して根拠を明らかにする必要がある。
3 「刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること」の意義
(1) 平成5年の皇太子御結婚恩赦における「近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている」という記載は,平成元年の昭和天皇御大喪恩赦及び平成2年の御即位恩赦における「その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている」という記載を明確にしたものであって,その内容に変更はありません(法律のひろば1993年8月号52頁)。
(2) 法律のひろば1993年8月号52頁及び53頁には以下の記載があります。
   公共的職務への就任又は公共的職務の遂行に当たっての障害とは、近い将来において具体的に一定の公職又はこれに準ずる役職(以下「公職等」という。)に就任する上で資格の制限その他の障害があること、及び現在従事している公職等を遂行する上で障害があることをいう。法令に基づき資格を喪失し、あるいは、これを停止されているため一定の公職等に就任できないなど法令上障害のある場合のみならず、刑に処せられたことによる負担から、現在従事している公職等において部下の指導、意見の表明、外部との交渉等が満足に行えない事情にあるなど事実上障害のある場合であってもよい。小地域又は小範囲の関係者の団体の役員も、公共的職務に含まれる。例えば、国会議員、都道府県知事、市区町村長又は地方議会議員の選挙への立候補はもちろんのこと、地元地域団体(消防団、自治会、土地改良区等)、同業組合(農業、漁業、畜産、森林、青果、古物商組合等)等の役員への就任、農業委員、教育委員、民生委員等への就任あるいはPTA役員への就任等が考えられる。
   公共的職務への就任又は公共的職務の遂行に当たり障害となっていることを理由として出願する際には、その事実を具体的に記載し、就任すべき公職等ないしその団体の名称、就任の時期等を特定することが必要である(例えば、公職への立候補の場合は「平成五年○月○日施行予定の○○市議会議員への立候補」、団体役員に就任する場合は「平成五年○月○日○○団体の○○役職に就任」などと記載する。なお、団体役員への就任の時期は現職者がいる場合はその者との交替時期、資格回復と同時に団体役員に就任する場合はその旨を明らかにする。)。また、これらを証するに足る資料(推薦者、関係団体等本人以外の者の推薦書、上申書、証明書等)を恩赦願書に添付することが必要である。
   選挙の期日は未定であるが当該選挙への立候補を理由とする出願は、数か月先にその選挙が行われることが客観的に確実である場合には、近い将来における公共的職務への就任に当たり障害となっていると解して差し支えない。
(3) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)13頁及び14頁によれば,「近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている」として認定された先例は以下のとおりであって,例えば,選挙運動に従事することは公共的職務には当たりません。
・ 公職選挙に立候補する上での障害
・ 財産区議員に立候補する上での障害
・ 弁護士,税理士,弁理士として登録する上での障害
・ 宅地建物取引業者として登録する上での障害
・ 宅地建物取引主任者の資格を取得する上での障害
・ 行政書士,土地家屋調査士,社会保険労務士の資格を取得する上での障害
・ 義肢装具士の資格取得上の障害
・ 公務員試験を受験する上での障害
・ 中小企業診断士試験を受験する上での障害
・ 医師会代議員に就任する上での障害
・ 漁業生産協同組合長に就任する上での障害
・ 工業会会長に就任する上での障害
・ 国会議員公設秘書に就任する上での障害
・ 商工会役員に就任する上での障害
・ 町内会の会長,区長,組長に就任する上での障害
・ 民生委員に就任する上での障害
・ 医師としての医療業務活動上の障害
・ 開発計画審査会委員としての活動上の障害
・ 各種技能士の技能検定委員としての活動上の障害
・ 議会議員としての活動上の障害
・ 交通指導員としての活動上の障害
・ スポーツ少年団の指導員としての活動上の障害
・ 宗教法人総代としての活動上の障害
・ 人権擁護委員としての活動上の障害
・ PTA,幼稚園の父母の会等の役員としての活動上の障害
・ ライオンズクラブ役員としての活動上の障害
・ 老人クラブ会長としての活動上の障害

4 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」の意義
(1) 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」は,恩赦を行うに当たっての一般的な判断基準であって,「かんがみ事項」といいます。
(2) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)9頁及び10頁によれば,それぞれの考慮要素の具体的内容は以下のとおりです。
① 「犯情」とは,犯罪の軽重を含む犯罪の情状をいい,判決書に記載されているものです。
② 「本人の性格」とは,性質,素行,知能程度,精神的疾患の有無を含む健康状態,遺伝,常習性の有無等をいいます。
   事案にもよりますが,凶悪重大事犯やいわゆる傾向犯の対象者については, この調査はかなり重要な要素を占め, この認定に資する資料はできる限り添付する必要があります。
   受刑者については,刑務所における分類調査の結果が重要な資料となりますし,出願に当たって提出される「身上関係書」の性格の記載内容も参考とされます。
③ 「行状」とは, 当該犯罪行為以外の一般的な生活態度をいい,刑の言渡し以前のものをも含みます。
④ 「犯罪後の状況」とは,改しゅんの情及び再犯のおそれの有無のほか,服役中の行状,保護観察中の行状,保護観察終了後恩赦出願までの行状を含むものの,必ずしも両者は明確に区別できるものではありません。
⑤ 「社会の感情」とは,第一義的には犯行及び恩赦に対する地域社会(犯罪地,本人の居住地及び在監者の帰住予定地)の感情を指すこととなるものの, さらにこれを踏まえて,広い視野からの良識ある社会人の法感情に基づく評価をも考慮すべきであります。
   また,応報感情の融和が刑罰の機能の一つであることにかんがみ,社会一般及び被害者(遺族)の応報感情が融和されているか否かについても重視しなければなりません。
⑥ 「犯情本人の性格及び行状,犯罪後の状況.社会の感情等」には,共犯者との均衡,近親者の状況等が含まれます。

第5 平成時代に実施された,選挙違反者に対する特別基準恩赦の実績
1 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦の場合
(1) 選挙違反に関する総受理件数は773件であり,恩赦相当件数は635件であり,恩赦相当率は82.1%でした。
(2) 選挙違反に関する特赦の件数は545件であったところ,全体の特赦の件数は566件でしたから,選挙違反以外の特赦の件数は21件だけでした。
(3) 選挙違反に関する減刑の件数は80件であったところ,全体の減刑の件数は142件でしたから,選挙違反以外の減刑の件数は62件だけでした。
(4) 選挙違反に関して,刑の執行の免除の件数は4件(全体で56件),復権の件数は6件(全体で25件)でした。

2 平成2年の御即位恩赦の場合
(1) 選挙違反に関する総受理件数は478件であり,恩赦相当件数は327件でしたから,恩赦相当率は68.4%でした。
(2) 選挙違反に関する特赦の件数は266件であり,全体の特赦の件数は267件でしたから,選挙違反以外の特赦の件数は1件だけでした。
(3) 選挙違反に関する減刑の件数は54件であったところ,全体の減刑の件数は77件でしたから,選挙違反以外の減刑は23件だけでした。
(4) 選挙違反に関して,刑の執行の免除の件数は1件(全体で10件),復権の件数は6件(全体で44件)でした。

3 平成5年の皇太子御結婚恩赦の場合
(1) 選挙違反に関する総受理件数は1255件であり,恩赦相当件数は945件でしたから,恩赦相当率は75.2%でした。
   このうち,罰金刑の復権事案の総受理件数は691件であり,復権相当件数は631件でしたから,復権相当率は91.3%でしたから,それ以外の総受理件数は564件であり,恩赦相当件数は314件であり,恩赦相当率は55.6%であったこととなります。
(2) 選挙違反に関する特赦の件数は82件であり,全体の特赦の件数は90件でしたから,選挙違反以外の特赦の件数は8件だけでした。
(3) 選挙違反に関する減刑の件数は231件であり,全体の減刑の件数は246件でしたから,選挙違反以外の減刑は15件だけでした。
(4) 選挙違反に関して,刑の執行の免除は0件(全体で10件),復権(禁錮以上の刑)の件数は1件(全体で30件),復権(罰金刑)の件数は631件(全体で901件)でした。

第6 関連条文
1 
刑法
・ 27条の2(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
・ 27条の7(刑の一部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その懲役又は禁錮を執行が猶予されなかった部分の期間を刑期とする懲役又は禁錮に減軽する。この場合においては、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行を受け終わったものとする。
・ 34条の2(刑の消滅)
① 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。
② 刑の免除の言渡しを受けた者が、その言渡しが確定した後、罰金以上の刑に処せられないで二年を経過したときは、刑の免除の言渡しは、効力を失う。
2 公職選挙法
・ 11条(選挙権及び被選挙権を有しない者)
① 次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
一 削除
二 以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
三 
以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)
四 公職にある間に犯した刑法(明治四十年法律第四十五号)第百九十七条から第百九十七条の四までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(平成十二年法律第百三十号)第一条の罪により刑に処せられ、その執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から五年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者
五 法律で定めるところにより行われる選挙、投票及び国民審査に関する犯罪により禁以上の刑に処せられその刑の執行猶予中の者
② この法律の定める選挙に関する犯罪に因り選挙権及び被選挙権を有しない者については、第二百五十二条の定めるところによる。
③ 市町村長は、その市町村に本籍を有する者で他の市町村に住所を有するもの又は他の市町村において第三十条の六の規定による在外選挙人名簿の登録がされているものについて、第一項又は第二百五十二条の規定により選挙権及び被選挙権を有しなくなるべき事由が生じたこと又はその事由がなくなつたことを知つたときは、遅滞なくその旨を当該他の市町村の選挙管理委員会に通知しなければならない。
・ 11条の2
(被選挙権を有しない者)
公職にある間に犯した前条第一項第四号に規定する罪により刑に処せられ、その執行を終わり又はその執行の免除を受けた者でその執行を終わり又はその執行の免除を受けた日から五年を経過したものは、当該五年を経過した日から五年間、被選挙権を有しない。
・ 252条
(選挙犯罪による処刑者に対する選挙権及び被選挙権の停止)
① この章に掲げる罪(第二百三十六条の二第二項、第二百四十条、第二百四十二条、第二百四十四条、第二百四十五条、第二百五十二条の二、第二百五十二条の三及び第二百五十三条の罪を除く。)を犯し罰金の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から五年間(刑の執行猶予の言渡しを受けた者については、その裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間)、この法律に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
② この章に掲げる罪(第二百五十三条の罪を除く。)を犯し禁以上の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から刑の執行を終わるまでの間若しくは刑の時効による場合を除くほか刑の執行の免除を受けるまでの間及びその後五年間又はその裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間、この法律に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
③ 第二百二十一条、第二百二十二条、第二百二十三条又は第二百二十三条の二の罪につき刑に処せられた者で更に第二百二十一条から第二百二十三条の二までの罪につき刑に処せられた者については、前二項の五年間は、十年間とする。 裁判所は、情状により、刑の言渡しと同時に、第一項に規定する者(第二百二十一条から第二百二十三条の二までの罪につき刑に処せられた者を除く。)に対し同項の五年間若しくは刑の執行猶予中の期間について選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず、若しくはその期間のうちこれを適用すべき期間を短縮する旨を宣告し、第一項に規定する者で第二百二十一条から第二百二十三条の二までの罪につき刑に処せられたもの及び第二項に規定する者に対し第一項若しくは第二項の五年間若しくは刑の執行猶予の言渡しを受けた場合にあつてはその執行猶予中の期間のうち選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告し、又は前項に規定する者に対し同項の十年間の期間を短縮する旨を宣告することができる。
3 政治資金規正法
・ 28条
① 第二十三条から第二十六条の五まで及び前条第二項の罪を犯し罰金の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から五年間(刑の執行猶予の言渡しを受けた者については、その裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間)、公職選挙法に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
② 第二十三条、第二十四条、第二十五条第一項、第二十六条、第二十六条の二、第二十六条の四及び前条第二項の罪を犯し禁の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から刑の執行を終わるまでの間若しくは刑の時効による場合を除くほか刑の執行の免除を受けるまでの間及びその後五年間又はその裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間、公職選挙法に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
③ 裁判所は、情状により、刑の言渡しと同時に、第一項に規定する者に対し同項の五年間若しくは刑の執行猶予中の期間について選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず、若しくはその期間のうちこれを適用すべき期間を短縮する旨を宣告し、又は前項に規定する者に対し同項の五年間若しくは刑の執行猶予の言渡しを受けた場合にあつてはその執行猶予中の期間のうち選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告することができる。
 公職選挙法第十一条第三項の規定は、前三項の規定により選挙権及び被選挙権を有しなくなるべき事由が生じ、又はその事由がなくなつたときについて準用する。この場合において、同条第三項中「第一項又は第二百五十二条」とあるのは、「政治資金規正法第二十八条」と読み替えるものとする。

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