目次
第1 罰金復権の対象者
1 政令恩赦の対象者等
2 特別基準恩赦の対象者
3 対象外となる人
第2 復権に関する特別恩赦基準
1 「復権の基準」を定める本件基準5項
2 「1個又は2個以上の裁判により罰金の刑に処せられ」の意義
3 「その全部の執行を終わり又は執行の免除を得た者」の意義
4 「刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっていると認められるもの」の意義
5 かんがみ事項の意義
6 3ヶ月間の基準日の延長措置を定める本件基準5項2号の意義
7 犯罪被害者等の心情の配慮
第3 平成5年の皇太子御結婚恩赦における恩赦相当率
第4 関連通達及び関連記事
第1 罰金復権の対象者
1 政令恩赦の対象者等
(1)ア 平成28年10月21日までに罰金刑に基づく罰金を支払い,その後に罰金刑に処せられたことがない人は,復権令(令和元年10月22日政令第131号)に基づき,当然に復権します。
イ 復権令によって公民権(選挙権及び被選挙権)を回復する人に対しては,令和元年10月下旬に復権通知書が送付されたみたいです(即位の礼に当たり行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(令和元年10月22日付の総務省自治行政局選挙部長の通知)参照)。
(2) 平成26年10月21日までに罰金刑に基づく罰金を支払い,その後に罰金刑に処せられたことがない人は,復権令(令和元年10月22日政令第131号)を待つまでもなく,刑法34条の2に基づき,既に前科が抹消されています(「前科抹消があった場合の取扱い」参照)。
2 特別基準恩赦の対象者
(1) 令和元年の御即位恩赦における特別基準恩赦は,即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)(以下「本件基準」といいます。)に基づいて実施されます。
(2) 平成28年10月22日から令和元年10月21日までに罰金を支払った人は,令和2年1月21日までに恩赦出願をすれば,特別基準恩赦が認められた場合に復権します(本件基準3項1号)。
(3) 令和元年10月21日までに略式命令の送達等を受け,令和2年1月21日までに罰金を支払った上で,令和2年4月21日までに恩赦出願をすれば,特別基準恩赦が認められた場合に復権します(本件基準3項3号)。
3 対象外となる人
いずれの場合であっても,前科抹消されていない懲役又は禁錮の前科がある人は対象外です(本件基準5項1号)。
第2 復権に関する特別恩赦基準
1 「復権の基準」を定める本件基準5項
(1) 復権は,1個又は2個以上の裁判により罰金の刑に処せられ,基準日の前日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た者(他に禁錮以上の刑に処せられている者を除く。)のうち,刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっていると認められるものであって,犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等を考慮して,特に復権することが相当であると認められるものについて行う。
(2) 前号に規定する者のほか,基準日の前日までに1個又は2個以上の略式命令の送達,即決裁判の宣告又は判決の宣告を受け,令和2年1月21日までにその裁判に係る罪の全部について罰金に処せられ,基準日から令和2年1月21日までにその全部につき執行を終わり又は執行の免除を得た者のうち,刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっていると認められるものであって,犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等を考慮して,特に復権することが相当であると認められるものについても復権を行うことができる。
2 「1個又は2個以上の裁判により罰金の刑に処せられ」の意義
(1) 「1個又は2個以上の裁判により」とは,1個の裁判により1個又は複数の刑に処せられた場合と,複数の裁判により複数の刑に処せられた場合を含み,本件基準による復権が裁判の数や刑の数によって制限されないことを注意的に規定したものです(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)27頁参照)。
(2) 2個以上の罰金前科がある場合,後述する「かんがみ事項」との関係で恩赦不相当となる可能性が高くなると思います。
3 「その全部の執行を終わり又は執行の免除を得た者」の意義
(1) 罰金刑の全部の執行が終わっている必要がありますから,全部の罰金について基準日までに納付済みである必要があります。
(2) 「執行の免除」というのは,恩赦としての「刑の執行の免除」(恩赦法8条)のことですが,年に数件しかありません(「恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放」参照)。
4 「刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっていると認められるもの」の意義
(1) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成5年6月9日付けの法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)第4の7には以下の記載があります。
「現に社会生活を営むに当たり障害となっている」とは,刑に処せられたことが本人の就職結婚のみならず,子女の養育などを含め,広く日常生活を営む上での障害となっている場合をいうが,これらの障害は,本人について現に具体的に生じていることが必要である。これらの認定に当たっては,単に本人の申立てのみによることなく,できる限りこれを疎明するに足る資料(本人以外の者からの上申書,嘆願書,証明書等)の提出を求め,これを恩赦上申書に添付するなどして認定の根拠を明らかにする。
(2) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)18頁には以下の記載があります。
「社会生活を営むに当たり障害となっている」というこの基準の要件は,昭和天皇御大喪恩赦及び今上天皇御即位恩赦の特別恩赦基準においては「社会生活上の障害」と記載されていたものであり,表現は改められたもののその意味するところに変更はなく,刑に処せられたことにより本人の就職,結婚のみならず,子女の養育など日常生活を営む上で本人自身が制約を受けていることである。当然のことながら,「近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり障害となっている」よりは広い概念であり,私企業の役員に就任するとか管理職に昇進することなどは「公共的職務への就任又はその遂行」に当たっての障害には含まれないが,「社会生活を営むに当たり障害となっている」ことには該当するものと解される(三局長通達第4の7) 。
(3) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)28頁には以下の記載があります。
この要件(山中注:「社会生活を営むに当たり障害となっている」という要件)は,常時恩赦の復権において,刑に処せられたことが,本人の就職・就業,結婚に限らず,子女の養育等広く日常の社会生活を営む上で,本人の障害となっていれば復権が認められる運用とされている点に着目されて規定されたものである。したがって,現実に特定の資格回復の必要がなくとも,潜在的に資格制限を受けている者に対し,一般社会人並みに各法令で定めている資格を取得することが可能な状態にする,いわば将来支障の生じることがあり得る資格の制限を事前に回復する趣旨が認められれば,本人の更生の促進を図る見地から復権が認められよう。
5 かんがみ事項の意義
(1) 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」は,恩赦を行うに当たっての一般的な判断基準であって,「かんがみ事項」といいます。
(2)ア 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)9頁及び10頁によれば,それぞれの考慮要素の具体的内容は以下のとおりです。
① 「犯情」とは,犯罪の軽重を含む犯罪の情状をいいます。
② 「本人の性格」とは,性質,素行,知能程度,精神的疾患の有無を含む健康状態,遺伝,常習性の有無等をいいます。
事案にもよりますが,凶悪重大事犯やいわゆる傾向犯の対象者については, この調査はかなり重要な要素を占め, この認定に資する資料はできる限り添付する必要があります。
受刑者については,刑務所における分類調査の結果が重要な資料となりますし,出願に当たって提出される「身上関係書」の性格の記載内容も参考とされます。
③ 「行状」とは, 当該犯罪行為以外の一般的な生活態度をいい,刑の言渡し以前のものをも含みます。
④ 「犯罪後の状況」とは,改しゅんの情及び再犯のおそれの有無のほか,服役中の行状,保護観察中の行状,保護観察終了後恩赦出願までの行状を含むものの,必ずしも両者は明確に区別できるものではありません。
⑤ 「社会の感情」とは,第一義的には犯行及び恩赦に対する地域社会(犯罪地,本人の居住地及び在監者の帰住予定地)の感情を指すこととなるものの, さらにこれを踏まえて,広い視野からの良識ある社会人の法感情に基づく評価をも考慮すべきであります。
また,応報感情の融和が刑罰の機能の一つであることにかんがみ,社会一般及び被害者(遺族)の応報感情が融和されているか否かについても重視しなければなりません。
⑥ 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況.社会の感情等」には,共犯者との均衡,近親者の状況等が含まれます。
イ 「犯情」は,判決書に記載されているものです。
6 3ヶ月間の基準日の延長措置を定める本件基準5項2号の意義
(1) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)18頁及び30頁を参照して記載しています。
(2) 「基準日の前日までに」略式命令の送達,即決裁判の宣告又は判決の宣告を受けていることが必要ですから,基準日以後に略式命令の送達等を受けた人は,いかなる場合であっても5項2号に該当しません。
ただし,本人の責めによらない事由により基準日にわずかに遅れて略式命令の送達を受けた場合,本件基準7項に基づき,常時恩赦を行うことを考慮してもらえます。
(3) 「略式命令の送達(中略)を受け,令和2年1月21日までにその裁判に係る罪の全部について罰金に処せられ」には,令和元年1月21日までに,略式命令の送達を受けてこれが自然確定した者のほか,略式命令の送達受領後正式裁判の請求をし,その正式裁判が確定した者やその正式裁判を取り下げて確定させた者を含みます。
(4) 上訴中の公職選挙法違反者が,これを取り下げて刑を確定させ,5項2号により恩赦出願をした場合,いわゆるかんがみ事項について慎重かつ的確な調査が必要となります。
7 犯罪被害者等の心情の配慮
(1)ア 本件基準6項は以下のとおりです。
前2項の規定の適用に当たっては,犯罪被害者等基本法(平成16年法律第161号)に基づき犯罪被害者等の視点に立った施策が推進されていることに鑑み,本人がした犯罪行為により被害を受けた者及びその遺族の心情に配慮するものとする。
イ 本件基準6項に相当する基準は,従前の特別恩赦基準にはありませんでした。
(2) 例えば,交通事故の被害者が,加害者の過失運転致傷罪に基づく罰金前科の復権に反対した場合,本件基準6項に基づき,罰金復権を認めてもらうためのハードルが上がります。
(3) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)10頁には以下の記載があります。
これまでの常時恩赦の上申において,捜査・公判段階における示談の成立,公判段階における減刑嘆願書の提出があった場合に,本人を恩赦にするについての被害者(遺族)の感情を調査せずに感情融和と認定したり, また,例えば保護観察中の者に対する的確な指導により被害弁償等の措置を講ぜしめるべきであるのにこれを欠いたまま上申に及ぶ事例が見受けられるなど,被害者(遺族)の感情に関する調査が必ずしも十分でない面のあったことも否めず,特に殺傷犯についてその弊が認められるので,十分に調査を尽くすはもとより,出願者に対する適切な指導を要する場合があるので留意する必要がある(三局長通達第4の1)。
復権通知書(令和元年の御即位恩赦で使用されたもの)
復権証明書(令和元年の御即位恩赦で使用されたもの)
第3 平成5年の皇太子御結婚恩赦における恩赦相当率
1 平成5年の皇太子御結婚恩赦の場合,特別基準恩赦における恩赦相当率は全体で75.2%であり,罰金刑の復権に限ると91.3%(997件中901件が恩赦相当)でした。
2 平成5年の皇太子御結婚恩赦の場合,復権令は出なかったものの,平成2年11月11日までの罰金前科については,同年の御即位恩赦で出された復権令(平成2年11月12日政令第328号)に基づく復権の対象となっています。
そのため,平成5年の皇太子御結婚恩赦において復権が問題となった罰金刑は原則として,平成2年11月12日から平成5年6月8日までの罰金前科(罰金納付後2年7月以内)であったこととなります。
そして,令和元年の御即位恩赦において復権が問題となる罰金刑は,罰金納付後3年以内のものですから,被害者のいない罰金前科の恩赦相当率は,平成5年の皇太子御結婚恩赦における罰金前科の恩赦相当率と同じようなものになるかもしれません。
第4 関連通達及び関連記事
1 関連通達
① 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の運用について(令和元年10月22日付の法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(令和元年10月22日付の法務省保護局総務課長の通知)
③ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の事務処理について(令和元年10月22日付の法務省保護局総務課長の通知)
2 関連記事
① 恩赦の手続
② 恩赦申請時に作成される調査書
③ 恩赦の効果
④ 前科抹消があった場合の取扱い
⑤ 選挙違反者にとっての平成時代の恩赦
⑥ 恩赦に関する記事の一覧