恩赦

令和元年の御即位恩赦における罰金復権の基準

目次
第1 罰金復権の対象者
1 政令恩赦の対象者等
2 特別基準恩赦の対象者
3 対象外となる人
第2 復権に関する特別恩赦基準
1 「復権の基準」を定める本件基準5項
2 「1個又は2個以上の裁判により罰金の刑に処せられ」の意義
3 「その全部の執行を終わり又は執行の免除を得た者」の意義
4 「刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっていると認められるもの」の意義
5 かんがみ事項の意義
6 3ヶ月間の基準日の延長措置を定める本件基準5項2号の意義
7 犯罪被害者等の心情の配慮
第3 平成5年の皇太子御結婚恩赦における恩赦相当率
第4 関連通達及び関連記事

第1 罰金復権の対象者
1 政令恩赦の対象者等
(1)ア 平成28年10月21日までに罰金刑に基づく罰金を支払い,その後に罰金刑に処せられたことがない人は,復権令(令和元年10月22日政令第131号)に基づき,当然に復権します。
イ 復権令によって公民権(選挙権及び被選挙権)を回復する人に対しては,令和元年10月下旬に復権通知書が送付されたみたいです(即位の礼に当たり行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(令和元年10月22日付の総務省自治行政局選挙部長の通知)
参照)。
(2) 平成26年10月21日までに罰金刑に基づく罰金を支払い,その後に罰金刑に処せられたことがない人は,復権令(令和元年10月22日政令第131号)を待つまでもなく,刑法34条の2に基づき,既に前科が抹消されています(「前科抹消があった場合の取扱い」参照)。
2 特別基準恩赦の対象者
(1) 令和元年の御即位恩赦における特別基準恩赦は,即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)(以下「本件基準」といいます。)に基づいて実施されます。
(2) 平成28年10月22日から令和元年10月21日までに罰金を支払った人は,令和2年1月21日までに恩赦出願をすれば,特別基準恩赦が認められた場合に復権します(本件基準3項1号)。
(3) 令和元年10月21日までに略式命令の送達等を受け,令和2年1月21日までに罰金を支払った上で,令和2年4月21日までに恩赦出願をすれば,特別基準恩赦が認められた場合に復権します(本件基準3項3号)。
3 対象外となる人
   いずれの場合であっても,前科抹消されていない懲役又は禁錮の前科がある人は対象外です(本件基準5項1号)。

第2 復権に関する特別恩赦基準
1 「復権の基準」を定める本件基準5項
(1) 復権は,1個又は2個以上の裁判により罰金の刑に処せられ,基準日の前日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た者(他に禁錮以上の刑に処せられている者を除く。)のうち,刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっていると認められるものであって,犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等を考慮して,特に復権することが相当であると認められるものについて行う。
(2) 前号に規定する者のほか,基準日の前日までに1個又は2個以上の略式命令の送達,即決裁判の宣告又は判決の宣告を受け,令和2年1月21日までにその裁判に係る罪の全部について罰金に処せられ,基準日から令和2年1月21日までにその全部につき執行を終わり又は執行の免除を得た者のうち,刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっていると認められるものであって,犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等を考慮して,特に復権することが相当であると認められるものについても復権を行うことができる。
2 「1個又は2個以上の裁判により罰金の刑に処せられ」の意義
(1)   「1個又は2個以上の裁判により」とは,1個の裁判により1個又は複数の刑に処せられた場合と,複数の裁判により複数の刑に処せられた場合を含み,本件基準による復権が裁判の数や刑の数によって制限されないことを注意的に規定したものです(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)27頁参照)。
(2) 2個以上の罰金前科がある場合,後述する「かんがみ事項」との関係で恩赦不相当となる可能性が高くなると思います。
3 「その全部の執行を終わり又は執行の免除を得た者」の意義
(1) 罰金刑の全部の執行が終わっている必要がありますから,全部の罰金について基準日までに納付済みである必要があります。
(2) 「執行の免除」というのは,恩赦としての「刑の執行の免除」(恩赦法8条)のことですが,年に数件しかありません(「恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放」参照)。
4 「刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっていると認められるもの」の意義
(1) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成5年6月9日付けの法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)第4の7には以下の記載があります。
   「現に社会生活を営むに当たり障害となっている」とは,刑に処せられたことが本人の就職結婚のみならず,子女の養育などを含め,広く日常生活を営む上での障害となっている場合をいうが,これらの障害は,本人について現に具体的に生じていることが必要である。これらの認定に当たっては,単に本人の申立てのみによることなく,できる限りこれを疎明するに足る資料(本人以外の者からの上申書,嘆願書,証明書等)の提出を求め,これを恩赦上申書に添付するなどして認定の根拠を明らかにする。
(2) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)18頁には以下の記載があります。
   「社会生活を営むに当たり障害となっている」というこの基準の要件は,昭和天皇御大喪恩赦及び今上天皇御即位恩赦の特別恩赦基準においては「社会生活上の障害」と記載されていたものであり,表現は改められたもののその意味するところに変更はなく,刑に処せられたことにより本人の就職,結婚のみならず,子女の養育など日常生活を営む上で本人自身が制約を受けていることである。当然のことながら,「近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり障害となっている」よりは広い概念であり,私企業の役員に就任するとか管理職に昇進することなどは「公共的職務への就任又はその遂行」に当たっての障害には含まれないが,「社会生活を営むに当たり障害となっている」ことには該当するものと解される三局長通達第4の7) 。
(3) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)28頁には以下の記載があります。
   この要件(山中注:「社会生活を営むに当たり障害となっている」という要件)は,常時恩赦の復権において,刑に処せられたことが,本人の就職・就業,結婚に限らず,子女の養育等広く日常の社会生活を営む上で,本人の障害となっていれば復権が認められる運用とされている点に着目されて規定されたものである。したがって,現実に特定の資格回復の必要がなくとも,潜在的に資格制限を受けている者に対し,一般社会人並みに各法令で定めている資格を取得することが可能な状態にする,いわば将来支障の生じることがあり得る資格の制限を事前に回復する趣旨が認められれば,本人の更生の促進を図る見地から復権が認められよう。
5 かんがみ事項の意義
(1) 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」は,恩赦を行うに当たっての一般的な判断基準であって,「かんがみ事項」といいます。
(2)ア 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)9頁及び10頁によれば,それぞれの考慮要素の具体的内容は以下のとおりです。
① 「犯情」とは,犯罪の軽重を含む犯罪の情状をいいます。
② 「本人の性格」とは,性質,素行,知能程度,精神的疾患の有無を含む健康状態,遺伝,常習性の有無等をいいます。
   事案にもよりますが,凶悪重大事犯やいわゆる傾向犯の対象者については, この調査はかなり重要な要素を占め, この認定に資する資料はできる限り添付する必要があります。
   受刑者については,刑務所における分類調査の結果が重要な資料となりますし,出願に当たって提出される「身上関係書」の性格の記載内容も参考とされます。
③ 「行状」とは, 当該犯罪行為以外の一般的な生活態度をいい,刑の言渡し以前のものをも含みます。
④ 「犯罪後の状況」とは,改しゅんの情及び再犯のおそれの有無のほか,服役中の行状,保護観察中の行状,保護観察終了後恩赦出願までの行状を含むものの,必ずしも両者は明確に区別できるものではありません。
⑤ 「社会の感情」とは,第一義的には犯行及び恩赦に対する地域社会(犯罪地,本人の居住地及び在監者の帰住予定地)の感情を指すこととなるものの, さらにこれを踏まえて,広い視野からの良識ある社会人の法感情に基づく評価をも考慮すべきであります。
   また,応報感情の融和が刑罰の機能の一つであることにかんがみ,社会一般及び被害者(遺族)の応報感情が融和されているか否かについても重視しなければなりません。
⑥ 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況.社会の感情等」には,共犯者との均衡,近親者の状況等が含まれます。
イ 「犯情」は,判決書に記載されているものです。

6 3ヶ月間の基準日の延長措置を定める本件基準5項2号の意義
(1) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)18頁及び30頁を参照して記載しています。
(2) 「基準日の前日までに」略式命令の送達,即決裁判の宣告又は判決の宣告を受けていることが必要ですから,基準日以後に略式命令の送達等を受けた人は,いかなる場合であっても5項2号に該当しません。
   ただし,本人の責めによらない事由により基準日にわずかに遅れて略式命令の送達を受けた場合,本件基準7項に基づき,常時恩赦を行うことを考慮してもらえます。
(3) 「略式命令の送達(中略)を受け,令和2年1月21日までにその裁判に係る罪の全部について罰金に処せられ」には,令和元年1月21日までに,略式命令の送達を受けてこれが自然確定した者のほか,略式命令の送達受領後正式裁判の請求をし,その正式裁判が確定した者やその正式裁判を取り下げて確定させた者を含みます。
(4) 上訴中の公職選挙法違反者が,これを取り下げて刑を確定させ,5項2号により恩赦出願をした場合,いわゆるかんがみ事項について慎重かつ的確な調査が必要となります。
7 犯罪被害者等の心情の配慮
(1)ア 本件基準6項は以下のとおりです。
   前2項の規定の適用に当たっては,犯罪被害者等基本法(平成16年法律第161号)に基づき犯罪被害者等の視点に立った施策が推進されていることに鑑み,本人がした犯罪行為により被害を受けた者及びその遺族の心情に配慮するものとする。
イ 本件基準6項に相当する基準は,従前の特別恩赦基準にはありませんでした。
(2) 例えば,交通事故の被害者が,加害者の過失運転致傷罪に基づく罰金前科の復権に反対した場合,本件基準6項に基づき,罰金復権を認めてもらうためのハードルが上がります。
(3) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)10頁には以下の記載があります。
   これまでの常時恩赦の上申において,捜査・公判段階における示談の成立,公判段階における減刑嘆願書の提出があった場合に,本人を恩赦にするについての被害者(遺族)の感情を調査せずに感情融和と認定したり, また,例えば保護観察中の者に対する的確な指導により被害弁償等の措置を講ぜしめるべきであるのにこれを欠いたまま上申に及ぶ事例が見受けられるなど,被害者(遺族)の感情に関する調査が必ずしも十分でない面のあったことも否めず,特に殺傷犯についてその弊が認められるので,十分に調査を尽くすはもとより,出願者に対する適切な指導を要する場合があるので留意する必要がある(三局長通達第4の1)。

復権通知書(令和元年の御即位恩赦で使用されたもの)

復権証明書(令和元年の御即位恩赦で使用されたもの)

第3 平成5年の皇太子御結婚恩赦における恩赦相当率
1 平成5年の皇太子御結婚恩赦の場合,特別基準恩赦における恩赦相当率は全体で75.2%であり,罰金刑の復権に限ると91.3%(997件中901件が恩赦相当)でした。
2 平成5年の皇太子御結婚恩赦の場合,復権令は出なかったものの,平成2年11月11日までの罰金前科については,同年の御即位恩赦で出された復権令(平成2年11月12日政令第328号)に基づく復権の対象となっています。
   そのため,平成5年の皇太子御結婚恩赦において復権が問題となった罰金刑は原則として,平成2年11月12日から平成5年6月8日までの罰金前科(罰金納付後2年7月以内)であったこととなります。
   そして,令和元年の御即位恩赦において復権が問題となる罰金刑は,罰金納付後3年以内のものですから,被害者のいない罰金前科の恩赦相当率は,平成5年の皇太子御結婚恩赦における罰金前科の恩赦相当率と同じようなものになるかもしれません。


第4 関連通達及び関連記事

1 関連通達
① 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の運用について(令和元年10月22日付の法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(令和元年10月22日付の法務省保護局総務課長の通知)
③ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の事務処理について(令和元年10月22日付の法務省保護局総務課長の通知)
 関連記事
① 恩赦の手続
② 恩赦申請時に作成される調査書
③ 恩赦の効果
④ 前科抹消があった場合の取扱い
⑤ 選挙違反者にとっての平成時代の恩赦
⑥ 恩赦に関する記事の一覧

恩赦申請時に作成される調査書

第1 恩赦上申書に添付される調査書
1 上申権者に対して恩赦申請(恩赦願書の提出)をした場合,相当又は不相当の意見を付した上申権者の上申に基づき,個別恩赦を実施するかどうかについて,中央更生保護審査会の審査が開始します。
2 上申権者は,刑務施設の長,保護観察所の長又は検察庁の長であって,恩赦申請をする人の立場によって異なります(「恩赦の手続」参照)。
3 恩赦法施行規則2条1項3号又は4条1項3号に基づき,上申権者が作成する恩赦上申書に添付される調査書類が調査書(恩赦上申事務規程様式第7号)です。
4 調査書の記載例を以下のとおり掲載しています。
① 罰金刑に処せられた者の特赦又は復権の例
② 無期刑受刑者の減刑の例
③ 無期刑仮釈放者の刑の執行の免除の例
④ 有期刑仮釈放事件の復権の例


恩赦上申書

調査書

恩赦上申事務規程の解説の送付について(通知)

第2 恩赦上申事務規程第10条関係の解説
   下記の記載は,恩赦上申事務規程の解説からの引用です(段落間のスペースは追加しました。)。

1 調査書(様式第7号)は,審査会における審査の資料として最も重視される書類である。更生保護法第90条は,第1項において,審査会が,法務大臣に対し恩赦の実施について申出をする場合に,あらかじめ調査すべき事項として, 「申出の対象となるべき者の性格,行状,違法な行為をするおそれの有無,その者に対する社会の感情その他の事項」を挙げ, さらに,同条第2項において「刑事施設若しくは少年院に収容されている者又は労役場に留置されている者について,特赦,減刑又は刑の執行の免除をする場合には,その者が,社会の安全及び秩序を脅かすことなく釈放されるに適するかどうかを考慮しなければならない。」と規定している。上申権者は,恩赦上申に際してこれら関係事項を調査するに当たり,その調査結果が, 当該事案について審査会の行う恩赦相当又は不相当の判断の基礎となり,審査に大きな影響を及ぼすもので,的確な調査結果が審査会の合理的な議決の裏付けとなるものであることを念頭に置いて,調査書を作成するべきである。

2 調査は,恩赦の性質上,本人その他関係人の名誉,信用及び人権に関することが多いから,秘密の保持には特に慎重な配意が必要である。 したがって, これらの調査を保護司等に依頼する場合には,あらかじめ秘密保持について注意を喚起するなどの配慮が望ましい。

3 調査に当たっては,公正な態度で臨み(規程第2条),本人又は関係人の申立てのみに依拠することなく, また,主観的,一面的な調査に偏せず,客観的,総合的に行い,かつ,豊富な資料に基づいて,その信用性を十分に確保する必要がある。

4 十分な調査を遂げるには,検察庁,刑事施設及び保護観察所の間で相互に協力を必要とする場合が少なくないので,連絡を緊密にする必要がある(規程第3条参照)。

5 調査書には,調査結果を簡明,平易に記載することが望ましいが,反面,問題点は深く掘り下げ, また,内容は抽象的でなく具体的に記載し,調査書を一読すれば,本人の過去及び現在の状況が明らかになるよう配慮する必要がある。

6 調査書に記載する事項のうち,正確な調査が困難な事項については,可能な範囲で調査した結果を記載し,必要に応じてその旨を付記する。

7 調査書の作成に当たっては,次のことに留意する。
(1) 「氏名及び年齢」欄の犯時年齢は,恩赦の対象刑が複数ある者,対象刑が一つであっても,複数の事件をじゃっ起している者の場合には,対象刑に係る犯罪事実のうち,最後のものをじゃっ起したときの年齢を「最終犯時」 として記載する。
(2) 「心身の状況」欄には,本人の健康状態,知能程度及び性格について記載する。なお,健康状態については,壮健,普通,虚弱,疾病等の別を明らかにし,虚弱,疾病の場合は具体的な病名,病状,治療の状況等を簡潔に記載し,また,性格については,犯行時以後上申時に至るまでの変化が判明するならば, これを含めて記載する。
(3) 「経歴及び行状」欄には,次の事項等を記載する。
ア 検察官上申の場合には,本人の経歴の概要,就業状況,その他平素の行状及び近隣の風評等
イ 刑事施設の長の上申の場合には,本人の経歴の概要,受刑中の作業や各種指導の状況を含めた矯正処遇等の進捗状況,職員に対する態度,他の受刑者との折り合い,賞罰の有無とその内容,面会や書信の受発信の状況及びその他の行状等
ウ 保護観察所の長の上申の場合には,本人の経歴の概要,保護観察の実施状況,就業状況,その他平素の行状及び近隣の風評等
(4) 「家族の状況」欄には,同居している家族,家族以外で同居している者(例:寮の同室者)は全員,別居している親族のうち両親,子(両親及び子が死亡している場合は死亡した年を記載),兄弟姉妹,経済的な依存・支援・協力関係にある者など本人の生活に相当程度影響を及ぼしている者について,それぞれ氏名,年齢,続柄,職業及び本人との折り合いを記載する。
   なお,刑事施設等に収容中の者については,家族の状況のほか,帰住予定地の状況についても記載する。
(5) 「資産及び生計並びに将来の生計方針」欄には,次の事項等を記載する。
ア 資産状況は,本人の所有している動産(車両や船舶など相応の価値があるもの),不動産の状況(土地は使用用途及び面積,建物は使用用途及び延べ床面積),その見積価格,預貯金の金額及び負債があるときはその原因や調査時における負債額等
イ 生計状況は,本人の収入, 同居者の収入,親族その他からの援助,資産から生ずる収入及び負債があるときはその返済状況,返済方法(定期的な支払額等)及び完済予定時期等
ウ 将来の生計方針は,本人の今後の生計方針のほか,本人や同居家族の資産状況及び生計状況を総合的に勘案した所見
(6) 「犯時の職業及び生活状況」欄は,犯時における本人の就業状況,家族の状況,交友状況及びその他本人の生活状況について記載する。
(7) 「犯罪の動機,原因及び概要」欄は,判決書にその記載があっても「判決書のとおり」 とせず,簡潔にまとめて記載する。
(8) 「犯罪に関する参考事項」欄には,発覚の端緒,検挙されるまでの本人の行状及び社会に及ぼした影響等参考となる事項を簡潔に記載する。
(9) 「被害者及び社会の感情」欄には,被害弁償又は慰謝・慰霊の状況,被害者(遺族を含む。(9)において同じ。)及び地域社会の感情等について記載する。
   被害者及び社会の感情は,恩赦を相当とするか否かについての意見を含むものであるので,例えば,裁判時に示談が成立し,被害者から嘆願書その他これに類する書面が提出されている場合であっても,恩赦上申時にこれらの者の感情が融和しているか否か,恩赦に異議があるか否かを明らかにする必要がある。
   複数の被害者がいる事案は,被害者ごとに①示談又は被害弁償の内容,②本人や関係者が行った慰謝・慰霊の措置,被害者感情等調査の結果をまとめて記載する。
   自動車の運行による交通事故で,保険等により損害賠償金が支払われている場合には,損害賠償金の内訳(保険による賠償金, 自己負担金の別)を明らかにする。
   社会の感情に関しては,犯行地,本人の居住地の有識者(例えば,保護司会長,町内会長,商工会長等)の意見を徴することが必要な場合もあると思われるが, このような場合には,本人及び被害者と利害関係のない公平な第三者から意見を徴する必要がある。また,社会の耳目をしょう動させたような事案にあっては, より広い視野から検討を加える必要があり,刑事施設の長又は保護観察所の長にあっては,事案に応じて検察官の意見を求めるなどして調査することとなろう。
   被害者及び社会の感情の調査に当たっては,調査に当たる者に,調査の趣旨,事案の内容,本人の現在の生活状況や心情等について熟知させ,適切な調査が行われるよう配慮する必要がある。また,被害者及び社会の感情について調査を行ったときは,その調査結果に関する報告書を添付する。
(10) 「その他参考となる事項」欄には,次の事項等を記載する。
ア 共犯者があるときは,その共犯者に係る裁判の状況,刑執行の状況,恩赦に関する状況及び本人との交際の有無等
イ 刑事施設等に収容又は留置中の者の場合には,仮釈放又は仮出場を許すべき旨の申出及び仮釈放又は仮出場を許すか否かに関する審理の開始の有無
ウ 先に恩赦の上申をして不相当とされた者についてはその年月日
エ 自動車運転免許の得喪,運転頻度,交通反則の有無等
オ 犯罪が飲酒と関係している場合には,現在の飲酒状況
(11) 「総合所見」欄には,犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情並びに恩赦を必要とする具体的事情等についての検討結果を明らかにした上で,それらの結果を総合して恩赦の可否についての所見を記載する。
   特赦又は減刑等数種類の恩赦について予備的又は択一的に上申するときには,恩赦の種類ごとに所見を記載する。
   被害者(遺族)の感情について言及する際には,被害者が全て死亡しているときは「遺族」,生存している被害者と遺族がいる場合は, 「被害者(遺族)」 と記載する。
   被害者(遺族)が本人の恩赦に積極的に賛成している場合は, 「被害者(遺族)感情は融和している」等の書き方が望ましい。被害者(遺族)の感情が「融和している」とは,本人からの被害弁償や慰謝・慰霊の措置を受け入れ,改善更生への努力を認めて,本人が恩赦に浴することを許容している状態をいう。また,感情が融和するまでには至っていないが,本人が恩赦に浴することによって感情を害したり,異議を唱えたりすることがないと認められる場合は, 「被害者(遺族)感情を刺激するおそれはない」等と記載する。

即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)

即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定・同月22日官報掲載)

(趣旨)
1 即位の礼が行われるに当たり,内閣は,この基準により刑の執行の免除及び復権を行うこととする。
(対象)
2 この基準による刑の執行の免除又は復権は,令和元年10月22日(以下「基準日」という。)の前日までに有罪の裁判が確定している者に対して行う。ただし,第5項第2号に規定する者については,その定めるところによる。
(出願又は上申)
3⑴ この基準による刑の執行の免除又は復権は,本人の出願を待って行うものとし,本人は,基準日から令和2年1月21日までに検察官又は保護観察所の長(恩赦法施行規則(昭和22年司法省令第78号)の定めるところにより刑の執行の免除又は復権の上申の権限を有する検察官又は保護観察所の長をいう。以下同じ。)に対して出願をするものとする。
⑵ 検察官又は保護観察所の長は,前号の出願があった場合には,令和2年4月21日までに中央更生保護審査会に対して上申をするものとする。
⑶ 第5項第2号の規定による復権の場合は,前2号の規定にかかわらず,それぞれ,第1号の出願は令和2年4月21日までに,前号の上申は令和2年7月21日までにすることができる。
⑷ 第1号及び第2号の規定は,この基準による刑の執行の免除又は復権について,検察官又は保護観察所の長が必要あると認める場合に職権により上申をすることを妨げるものではない。この場合においては,上申をする期限は,前2号に定めるところによる。
(刑の執行の免除の基準)
4 刑の執行の免除は,基準日の前日までに刑に処せられた者のうち,懲役,禁錮又は罰金に処せられ,病気その他の事由により基準日までに長期にわたり刑の執行が停止され,かつ,なお長期にわたりその執行に耐えられないと認められるものであって,犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情,刑の執行の免除を必要とする事情等を考慮して,特に刑の執行の免除をすることが相当であると認められるものについて行う。
(復権の基準)
5⑴ 復権は,1個又は2個以上の裁判により罰金の刑に処せられ,基準日の前日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得た者(他に禁錮以上の刑に処せられている者を除く。)のうち,刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっていると認められるものであって,犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等を考慮して,特に復権することが相当であると認められるものについて行う。
⑵ 前号に規定する者のほか,基準日の前日までに1個又は2個以上の略式命令の送達,即決裁判の宣告又は判決の宣告を受け,令和2年1月21日までにその裁判に係る罪の全部について罰金に処せられ,基準日から令和2年1月21日までにその全部につき執行を終わり又は執行の免除を得た者のうち,刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっていると認められるものであって,犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等を考慮して,特に復権することが相当であると認められるものについても復権を行うことができる。
 (犯罪被害者等の心情の配慮)
6 前2項の規定の適用に当たっては,犯罪被害者等基本法(平成16年法律第161号)に基づき犯罪被害者等の視点に立った施策が推進されていることに鑑み,本人がした犯罪行為により被害を受けた者及びその遺族の心情に配慮するものとする。
 (その他)
7 この基準に当たらない者であっても,刑の執行の免除又は復権を行うことが相当であるものには,常時恩赦を行うことを考慮するものとする。

*1 令和元年の御即位恩赦に関して,官報で公布された文書は以下のとおりです。
① 復権令(令和元年10月22日政令第131号)
② 刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(令和元年10月22日法務省令第39号)
③ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)
*2 法務省HPに「「復権令」及び「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準」について」が載っています。
*3 以下の文書を掲載しています。
① 令和元年10月18日付の閣議書(即位の礼に当たり行う特別恩赦基準)
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の運用について(令和元年10月22日付の法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
③ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(令和元年10月22日付の法務省保護局総務課長の通知)
④ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の事務処理について(令和元年10月22日付の法務省保護局総務課長の通知)
*4 全国の高検・地検の特別基準恩赦受理処理状況を以下のとおり掲載しています。
(令和2年)
1月11日付1月21日付1月31日付2月29日付3月31日付4月30日付
(令和元年)
10月31日付11月11日付11月21日付11月30日付12月11日付12月21日付12月末日付
*5 以下の記事も参照してください。
① 令和元年の御即位恩赦における罰金復権の基準
② 恩赦の手続
③ 恩赦申請時に作成される調査書
④ 恩赦の効果
⑤ 前科抹消があった場合の取扱い


刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(令和元年10月22日法務省令第39号)

刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(令和元年10月22日法務省令第39号)

令和元年十月二十二日(以下「基準日」という。)の前日までに懲役、禁錮又は罰金に処せられ、病気その他の事由により基準日までに長期にわたり刑の執行が停止されている者であって、なお長期にわたりその執行に耐えられないと認められる者は、恩赦法施行規則(昭和二十二年司法省令第七十八号)第六条第一項本文の規定にかかわらず、令和二年一月二十一日までは、同条の定める期間を経過する前においても、刑の執行の免除の出願をすることができる。
附 則
この省令は、公布の日から施行する。

*1 令和元年の御即位恩赦に関して,官報で公布された文書は以下のとおりです。
① 復権令(令和元年10月22日政令第131号)
② 刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(令和元年10月22日法務省令第39号)
③ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)
*2 法務省HPに「「復権令」及び「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準」について」が載っています。

復権令(令和元年10月22日政令第131号)

復権令(令和元年10月22日政令第131号)

 内閣は、恩赦法(昭和二十二年法律第二十号)第九条の規定に基づき、この政令を制定する。
 一個又は二個以上の裁判により罰金に処せられた者で、その全部の執行を終わり、又は執行の免除を得た日から令和元年十月二十二日(以下「基準日」という。)の前日までに三年以上を経過したものは、基準日において、その罰金に処せられたため法令の定めるところにより喪失し、又は停止されている資格を回復する。ただし、他に禁錮以上の刑に処せられているときは、この限りでない。
   附 則
 この政令は、公布の日から施行する。

法務大臣 河井 克行
内閣総理大臣 安倍 晋三

*1 令和元年の御即位恩赦に関して,官報で公布された文書は以下のとおりです。
① 復権令(令和元年10月22日政令第131号)
② 刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(令和元年10月22日法務省令第39号)
③ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)
*2 法務省HPに「「復権令」及び「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準」について」が載っています。
*3 令和元年10月18日付の閣議書(即位の礼に当たり行う特別恩赦基準)を掲載しています。
*4 復権令に関する法務省の通達は以下のとおりです。
① 復権令に基づく恩赦事務の取扱いについて(令和元年10月22日付の法務省刑事局長及び保護局長の依命通達)
② 復権令に基づく恩赦事務処理上の留意事項について(令和元年10月22日付の法務省刑事局総務課法務専門官(検務担当)の事務連絡)

特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(平成5年6月9日法務省令第25号)

特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(平成5年6月9日法務省令第25号)

第一条 平成五年六月九日(以下「基準日」という。)の前日までに刑に処せられた次に掲げる者は、恩赦法施行規則(昭和二十二年司法省令第七十八号。以下「規則」という。)第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成五年九月八日までは、同条の定める期間を経過する前においても、特赦の出願をすることができる。
一 少年のとき犯した罪により刑に処せられ、基準日の前日までにその執行を終わり又は執行の免除を得た者
二 基準日において七十歳以上の者のうち、有期の懲役又は禁錮に処せられ、基準日の前日までにその執行すべき刑期の二分の一以上につきその執行を受けた者
三 有期の懲役又は禁錮に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までに猶予の期間の二分の一以上を経過した者のうち、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者
四 有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法(明治四十年法律第四十五号)の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)のうち、社会のために貢献するところがあり、かつ、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者
五 罰金に処せられ、その執行を猶予されている者又は基準日の前日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得た者のうち、その刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっている者

第二条 基準日の前日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成五年九月八日までにその裁判に係る罪について刑に処せられた次に掲げる者は、規則第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成五年十二月八日までは、同条の定める期間を経過する前においても、特赦の出願をすることができる。
一 有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)のうち、社会のために貢献するところがあり、かつ、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者
二 罰金に処せられ、その執行を猶予されている者又は平成五年九月八日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得た者のうち、その刑に処せられたことが現に社会生活を営むに当たり障害となっている者

第三条 基準日の前日までに懲役又は禁錮に処せられた次に掲げる者は、規則第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成五年九月八日までは、同条の定める期間を経過する前においても、減刑の出願をすることができる。
一 少年のとき犯した罪により有期の懲役又は禁錮に処せられた者のうち、次に掲げる者
1 法定刑の短期が一年以上に当たる罪を犯した場合は、基準日の前日までに執行すべき刑期の二分の一以上につきその執行を受けた者(不定期刑に処せられた者については、言い渡された刑の短期のうち執行すべき部分の二分の一以上につきその執行を受けた者)
2 1以外の場合は、基準日の前日までに執行すべき刑期の三分の一以上につきその執行を受けた者(不定期刑に処せられた者については、言い渡された刑の短期のうち執行すべき部分の三分の一以上につきその執行を受けた者)
二 少年のとき犯した罪により有期の懲役又は禁掴に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までにその猶予の期間の三分の一以上を経過した者
三 基準日において七十歳以上の者のうち、有期の懲役又は禁錮に処せられ、基準日の前日までに執行すべき刑期の三分の一以上につきその執行を受けた者。
四 有期の懲役又は禁掴に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までに猶予の期間の三分の一以上を経過した者のうち、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者
五 有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)のうち、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者

第四条 基準日の前日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成五年九月八日までにその裁判に係る罪について有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)のうち、近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている者は、規則第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成五年十二月八日までは、同条の定める期間を経過する前においても、減刑の出願をすることができる。

第五条 基準日の前日までに懲役、禁錮又は罰金に処せられ、病気その他の事由により基準日までに長期にわたり刑の執行が停止されている者のうち、なお長期にわたりその執行に耐えられないと認められる者は、規則第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成五年九月八日までは、同条の定める期間を経過する前においても、刑の執行の免除の出願をすることができる。

附 則
この省令は、公布の日から施行する。

* 「皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準(平成5年6月8日閣議決定)」も参照してください

特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(平成2年11月12日法務省令第39号)

特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(平成2年11月12日法務省令第39号)

第一条 平成二年十一月十二日(以下「基準日」という。)の前日までに有罪の裁判が確定した次に掲げる者は、恩赦法施行規則(昭和二十二年司法省令第七十八号。以下「規則」という。)第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成三年二月十二日までは、同条の定める期間を経過する前においても、特赦の出願をすることができる。
一 少年のとき罪を犯した者であって、基準日の前日までにその罪による刑の執行を終わり又は執行の免除を得たもの
二 基準日において七十歳以上の者であって、有期の懲役又は禁に処せられ、基準日の前日までにその執行すべき刑の期間の二分の一以上につきその執行を受けたもの
三 有期の懲役又は禁錮に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までに猶予の期間の二分の一以上を経過している者であって、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの
四 有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法(明治四十年法律第四十五号)の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)であって、社会のために貢献するところがあり、かつ、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの
五 罰金に処せられ、その執行を猶予されている者又は基準日の前日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得た者であって、その刑に処せられたことが現に社会生活上の障害となっているもの

第二条 次に掲げる者は、規則第六条第一項本文の規定にかかわらず、同年五月十三日までは、同条の定める期間を経過する前においても、特赦の出願をすることができる。
一 基準日の前日までに有罪、無罪又は免訴の判決の宣告を受け、平成三年二月十二日までにその裁判に係る罪について有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)であって、社会のために貢献するところがあり、かつ、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの
二 基準日の前日までに略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成三年二月十二日までにその裁判に係る罪について罰金に処せられ、その執行を猶予されている者又は同日までにその執行を終わり若しくは執行の免除を得た者であって、その刑に処せられたことが現に社会生活上の障害となっているもの

第三条 基準日の前日までに懲役又は禁掴に処せられた次に掲げる者(その執行を終わり又は執行の免除を得た者を除く。)は、規則第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成三年二月十二日までは、同条の定める期間を経過する前においても、減刑の出願をすることができる。
一 少年のとき犯した罪により、有期の懲役又は禁錮に処せられた者であって、次の1又は2に掲げる場合に応じ、それぞれ、1又は2に定めるもの
1 その犯した罪につき定められた懲役又は禁錮の法定刑の短期が一年以上である場合にあっては、基準日の前日までに執行すべき刑の期間の二分の一以上につきその執行を受けた者(不定期刑に処せられたときにあっては、言い渡された刑の短期のうち執行すべき部分の二分の一以上につきその執行を受けた者)
2 1以外の場合にあっては、基準日の前日までに執行すべき刑の期間の三分の一以上につきその執行を受けた者(不定期刑に処せられたときにあっては、言い渡された刑の短期のうち執行すべき部分の三分の一以上につきその執行を受けた者)
二 少年のとき犯した罪により、有期の懲役又は禁錮に処せられ、その執行を猶予されている者であって、基準日の前日までにその猶予の期間の三分の一以上を経過したもの
三 基準日において七十歳以上の者であって、有期の懲役又は禁錮に処せられ、基準日の前日までに執行すべき刑の期間の三分の一以上につきその執行を受けたもの
四 有期の懲役又は禁錮に処せられ、その執行を猶予され、基準日の前日までに猶予の期間の三分の一以上を経過している者であって、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの
五 有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)であって、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているもの

第四条 基準日の前日までに有罪、無罪又は免訴の判決の宣告を受け、平成三年二月十二日までにその裁判に係る罪について有期の懲役又は禁錮に処せられた者(刑法の罪(過失犯を除く。)、同法以外の法律において短期一年以上の懲役若しくは禁錮を定める罪又は薬物に係る罪により刑に処せられた者を除く。)であって、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっているものは、規則第六条第一項本文の規定にかかわらず、同年五月十三日までは、同条の定める期間を経過する前においても、減刑の出願をすることができる。ただし、当該懲役又は禁錮の執行を終わり又は執行の免除を得た者を除く。

第五条 基準日の前日までに懲役又は禁錮に処する裁判が確定した者であって、病気その他の事由により基準日までに長期にわたり刑の執行が停止され、なお長期にわたりその執行に耐えられないと認められるものは、規則第六条第一項本文の規定にかかわらず、平成三年二月十二日までは、同条の定める期間を経過する前においても、刑の執行の免除の出願をすることができる。

附 則
この省令は、公布の日から施行する。

* 「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定)」も参照してください。

恩赦制度審議会の最終意見書及び勧告書(昭和23年6月30日付)

目次
第1 恩赦制度審議会の最終意見書及び勧告書(昭和23年6月30日付)
第2 関連記事その他

第1 恩赦制度審議会の最終意見書及び勧告書(昭和23年6月30日付)
・ 昭和43年発行の逐条恩赦法釈義(改訂三版)124頁ないし136頁に掲載されている,恩赦制度審議会の最終意見書及び勧告書(昭和23年6月30日付)は以下のとおりです(国立公文書館デジタルアーカイブ「芦田内閣閣議書類(その8)昭和23年6月25日~昭和23年7月12日」でPDFデータをダウンロードできますし,昭和23年7月9日付の閣議書もダウンロードできます。)。

最終意見書
第一 総括的意見
   恩赦は、司法作用に関し行政権に留保された極めて重要な権限であって、新潅法下の今日においてもその重要性はいささかも減ずるものではなく、むしろその刑事政策的意義に鑑みるときは、一層活溌な運用が期待されなければならぬ。しかるに、従来の恩赦の実績を見るのに、天皇の大権事項とせられていた関係もあって、その運用は甚だしく制限的であり、またその内容において恩恵的な色彩が濃厚であって、必ずしも合理的な趣旨において十分に行われたとはいい難い。もとより恩赦は沿革的には君主の恩恵をその出発点としていると考えられるが、今日においてこれを見れば、法の画一性に基く具体的不妥当の矯正、事情の変更による裁判の事後変更、他の方法を以てしては救い得ない誤判の救済、有罪の言渡を受けた者の事後の行状等に基くいわゆる刑事政策的な裁判の変更もしくは資格回復などその合理的な面がむしろ重視せられるべきであり、今後の恩赦は、その権限が内閣に属することになったのを機会に、これらの面を中心として刑事司法の機能を一層完全ならしめる方向に活溌に運営せられなければならないと信ずる。そのためには、恩赦の審査が従来の形式的なものより、より実質的なものに進まねばならぬことは当然であると同時に、これを受ける者に遺漏なからしめるため、あらゆる該当者にその審査を受ける十分な機会を与えるような考慮が払われることを特に必要とする。のみならず、一般的恩赦、個別的恩赦を通じて、それが従来のごとく政府部内の手のみによって決定されるということも、事の重要性に鑑み、適当を欠くであろう。恩赦は憲法上内閣の責任において行わるべきものであるけれどもそれに民意を反映せしることは民主主義の原理からいって正当であり、且つ、必要であると考える。
   また、それによって他面恩赦権濫用の弊を防止されると信ずるのである。

第二 恩赦法及び昭和二十二年司法省令第七十八号恩赦法施行規則に関する事項
一 恩赦の種類、効果等について
   恩赦の種類が大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権の五であることは憲法第七条及び第七十三条の明定するところであるし、そのそれぞれの内容も、恩赦法の規定するところで大体適当であると考えるが、なお次の諸点について立法上考慮の必要があると思う。
1 条件附の恩赦
   恩赦の効力を一定の条件にかからせること、たとえば一定期間内における本人の善行を待って確定的に恩赦の効果を発生せしめるというごとき方法は、場合によっては恩赦を一層有効ならしめるものとして適切であると考えられる。しかし、現行法上かような条件附の恩赦を行い得るかどうかは解釈上やや疑義があるので、この際法にその点につき明文を設けることが望ましい。
2 刑の執行猶予期間を短縮する減刑
   現行恩赦法によれば、刑の執行猶予期間の短縮は、刑の減軽と併せて行うことができるにすぎない。しかし、刑の執行猶予の言渡を受けた者に対しては、その後の情況に照し、当初定められた猶予の期間のみを短縮するのを適当とする場合が十分考えられるので、減刑の一態様としてこれを認めるのを相当とする。
3 刑の執行猶予中の者に対する復権
   刑の執行猶予の言渡を受けた者は一応諸種の資格を喪失するわけであるが、事情によっては、執行猶予中の者といえども資格を回復せしめることがかえって制度本来の目的を達するのに有効であることが少くない(改正刑法仮案第百ニ条参照)。従来復権は刑の執行を終り又はその執行の免除を得た者以外については行われなかったけれども、執行猶予中の者にもこれを行い得るようすべきものと思う。
(附帯意見)
   なお、これは恩赦法の問題ではないが、今日犯罪人名簿の制度は必ずしも法的に完備しているとはいえず、その結果、恩赦により復権し又は刑の言渡が効力を失った場合においても、その登録の除去、前科公表の禁止等に関して恩赦の事実上の効果を完全たらしめる方法が不十分な実情にある。よって恩赦制度の改正と関連し、この点については再検討を加え、適切な方策を講ずる必要があると考える。
二 恩赦運用の方針について
1 一般恩赦(政令による恩赦)の運用方針
   従来は皇室の慶弔時などに際してこの種の恩赦の行われることが多く、今後といえども国家の慶事に当りよろこびをわかつ意味で一般的恩赦が行われることはなんら差支ないと思うのであるが、それ以上に、たとえば社会事情の変化、法令の改廃等のあった場合に衡平の精神に基いて、さらにはまた刑事政策的観点より従前の裁判の効果を変更するような合理的な一般的恩赦が今後活溌に行われ、政令による恩赦の中心をなすように運用されることを期待する。
2 個別的恩赦の運用方針
   個別的恩赦も、従前は極めて狭い範囲で行われたにすぎず、ことに平素に、刑の執行終了後相当期間を経た者に対する復権が考慮された程度であった。しかし、今後においては、個別的恩赦は全面的に広く運用せらるべきものであって、一般的恩赦の行われた場合にこれに洩れたものを個別的に拾う任務はもとよりとして、それ以外に、刑の執行を終った者に対する資格回復、前科抹消的意味のものは勿論、受刑中の者、仮釈放中の者などに対しても、その事後の行状等を参酌して、あるいは刑期を短縮し、あるいは刑の執行を免除するなど刑事政策的見地よりする恩赦が十分に行わるべきであり、またかような刑事政策的意味のものが個別的恩赦の主たる地位を占めるべきものであると信ずる。而して、この場合においては、あらかじめ一定の基準を設け、これによって審査の公平を期するような方法をとることが望ましい。
三 恩赦の手続について
   恩赦の手続については、職権申出の手続と本人の出願による手続とが考えられるので、項を分けてこれを検討したい。
1 職権申出の手続
イ 職権申出の機関
   現行制度によれば、有罪の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官又は受刑者の在監する監獄の長のみが職権申出の権限を有しているのであるが、近く国会に提出を予想される犯罪者予防更生法案によれば、仮釈放中の者又は刑の執行猶予中の者等については、地方少年犯罪者予防更生委員会及び地方成人犯罪者予防更生委員会が観察官又ば保護委員をして観察又は保護の措置を行わぜることになっていて、これらの者については、直接その観察又は援護の措置に当っている観察官が最もよく本人の性質、行状、生活状態等に通じていると思われるので、職権申出機関ば次の通りとするのを可とする。
(一) 在監者については受刑者の在監する監獄の長。
(二) 仮釈放中又は刑の執行猶予中の者で観察又は援護中のものについては、その観察又は援護に当っている地方少年犯罪者予防更生委員会の少年保護事務局の地区事務所又は地方成人犯罪者予防更生委員会の成人保護事務局の地区事務所に所属する観察官の先任者。
(三) 罰金若しくは科料の刑に処せられた者、刑の執行停止中の者、刑の執行の免除を受けた者又は懲役若しくは禁この刑の執行を受け終った者で援護中のものについては、その援護に当る前記観察官の専任者
(四) 前記各項に属しない有罪の言渡を受けた者については、有罪の言渡を受けた裁判所に対応する検察庁の検察官。
(五) なお、各誤判の救済、法令の改廃等を理由とする恩赦については、検察官がその申出をするに適当であることが多いから、前記のごとく監獄の長又は観察官の先任者が職権申出権を有する場合においても、有罪の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官は別個にその者につき職権申出権を有するものとしたい。
ロ 職権申出をするについての必要な調査を行う機関
   恩赦の申出をするについてば、その審査に必要な事項を調査し、その資料を添附することになっているが、これらの調査を行う第一次的責任者は当然職権申出をする機関でなければならない。その調査で不十分なときにば、右の申出の経由する機関がそれぞれ独自に調査し、又は職権申出をした機関に再調査を委嘱するものとする。なお、この点に関し、当該機関は公務所に対し必要な調査、報告を求めることができる旨の法的根拠を明らかにすることが適当であろう。
ハ 職権申出の経由機関
   現行制度によれば、恩赦の申出は、検察官以外の者がこれをする場合において必ず有罪の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官を経由することになっている。これは、検察官が原裁判に関与してその内容をよく知っていることと、裁判の執行を指揮監督し、又公益の代表者として法の正当な適用を請求しその他法令上諸種の権限をもっている立場とに鑑み、当該恩赦に対する意見を附せしめることを適当としたものであって、その点は観察官が恩赦の申出をする場合にも同様でなければならないと思う。これに反し、検察官自らが申出をする場合には、その調査に際して監獄の長又は観察官の意見は自ずから反映するわけでもあるし、手続を簡明ならしめる意味においても、改めてこれらの機関を経由せしめることは適当でないと考える。
ニ 恩赦の申出又はその審査に当り裁判官の意見を聞くことの可否
   有罪の言渡をした裁判所の意見を聞くことは、実際上は当該裁判官の転退職により形式的なものに流れ易いのみならず、裁判官が行政権の作用たる恩赦に関与することはその性質上もともと疑義があるから、むしろ避けるのがよいと考える。
2 出願による恩赦申出の手続
イ 出願条件について
   恩赦の出願を認める現行制度は広く恩赦の機会を与える意味で最も好ましい制度である。その意味においては、出願条件はなるべくゆるやかであることが望ましいとも考えられる。しかし、期間に関する出願条件をこの際全面的に撤廃することは、かえって出願権濫用の弊を生ずる虞も考えられるので、さし当っては現行の恩赦の出願期間を今少しく短縮することを考慮すると共に右の期間に達しない者でも恩赦の出願をするについて相当の理由があると思われる者については期間短縮許可の制度を活用し、その実際の運用を完からしむくきものと思う。
ロ 出願権者について
   現在は恩赦の出願は有罪の言渡を受けた本人で今なければこれを行うことができないことになつているのであるが、受刑者の場合等を考えると、一定範囲の親族等にも出願権を認めることが恩赦の機会を広くする趣旨からも望ましいと思われる。
ハ 出願の名宛機関について
   恩赦法施行規則によれば、恩赦の出願は有罪の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官又は受刑者の在監する監獄の長に対してこれを行い、右の検察官又は監獄の長は必ずこれに意見を附して法務総裁に恩赦の申出をすることとなっているのであるが、今これを変更して出願権者に直接法務総裁宛の恩赦申出権を与えることは、諸種の調査を行う上からいっても適当でなく、現行制度をむしろ勝れりとしなければならぬ。よって出願は、その出願者につき職権で恩赦の申出をする権限のある機関に対してなさるべきである。
ニ 出願のあった場合の調査機関、経由機関
   出願は右のようにその出願者につき職権で恩赦の申出をする権限のある機関に対してこれを行うのであるから、必要事項の調査も右の機関が行うべきである。而して、右の出願に基く恩赦申出の経由機関については、職権申出の場合に準ずるものとする。
3 恩赦申出に当り添附すべき調査資料について
   現在恩赦申出に当り添附を要する資料は判決謄本又は抄本、戸籍謄本又は抄本、刑期計算書及び犯罪の情状、本人の性行、受刑中の行状、将来の生計その他参考となるべき事項に関する調査書類等であるが、本人の行状、性質、将来の生計見込等は一片の調査書のみによって僅かにこれをうかがい知る実情であつて、到底完全なものとは言い難い。この種の調査資料は恩赦の審査に当り最も重要なものであるから、できるだけ豊富、詳細であることが望ましく、かつ必要に応じて、行刑、観察若しく援護に関する資料等を参照するよう考慮する必要がある。
4 恩赦審議機関
   恩赦の決定は専ら内閣の職権に属するのであるが、総括的意見中にも述べたごとく、その決定に当って内閣部外の意見を斜酌する機会がないということは今日適当でない。よって、一般的、個別的恩赦を通じ、その決定に民意と専門的意見とを反映せしめるため、次のような機関を設置する必要があると考える。
イ 恩赦審議会(仮称)
   内閣に諮問機関として恩赦審議会(仮称)を置く。委員は国務大臣級の者を以てこれに充てる。なお、委員に委員補佐を附するものとする。
   審議会は次の事項につき進んで内閣に勧告し、又は内閣の諮問に対し答申するものとする。
(一) 政令による恩赦に関する事項、たとえば政令による恩赦を行うべきか否か、またその内容など。
(二) 個別的恩赦の運用能率に関する事項
ロ 恩赦審査会(仮称)
   法務総裁の諮問機関として法務庁に恩赦審査会(仮称)を置く。委員は内閣の恩赦審議会の委員補佐を以てこれに充て、審議会との人的つながりを保たせる。
法務総裁は、個別的恩赦の決定を内閣に求めるに当り、あらかじめ審査会に諮問するものとし、審査会は恩赦審議会の定める運用基準に従い、その可否を審査して、意見を答申する。審査会は、必要があるときは、自ら所要の調査をし、又は他の機関に調査を委嘱することができる。
第三 恩赦法及び昭和二十二年司法省令第七十八号恩赦法施行規則と仮釈放及び受刑者の分類、作業の賦課、累進処遇その他仮釈放に関係のある監獄法中の諸制度との関係に関する事項
   沿革的には、恩赦は主権者の仁慈であると考えられたのに反し、仮釈放の制度は近代的な純然たる刑事政策的制度として発足した。しかし、前述のように恩赦が合理的刑事政策的な色彩を強く帯びてくることとなると、在監者に対する個別的恩赦と仮釈放とは非常に接近して来る。すなわち、在監者に対するこの種の恩赦は、その刑執行中の行状、将来の生計見込等を考慮し、あるいは刑期を減じ、あるいはその執行を免除する方法によって行われ、場合によっては刑の言渡の効力を失わしめることすら考えへられるのであるが、その際審査の資料となる事項は、仮釈放を決定する場合のそれとほとんど異るところがない。のみならず、受刑者に対してさきに述べた条件附の恩赦が恩赦法上新たな形として考えられることとなれば、それは、実質において仮釈放と極めて近似する制度となることは明らかである。ここに恩赦と累進処遇、受刑者の分類、作業の賦課その他仮釈放に関係のある監獄法中の諸制度との密接な関連が生ずる。たとえば、上級の処遇を受けている者について主として仮釈放が行われるように、恩赦についてもまたその者の累進処遇の段階の如何が重要な意味を持つであろうし、初犯者たりや累犯者なりやの分類がその際考慮せらるべきととも当然であり、また賦課された作業の種類成績も、その者の将来の生計の問題を考える上において無視することの出来ぬ点だといわなければならない。受刑者に対する恩赦法及びその施行規則の適用に当っては、これらの諸制度との深い関係が常に考慮されなければならないのである。
   ただ、ここで、受刑者に対する恩赦と仮釈放との相違点を指摘しておく必要があろう。以上述べたごとく、この両者は極めて接近した性質をもつものではあるが、しかし、恩赦はあくまで仮釈放の足らざるところを補充する関係にあるべきであって、仮釈放の条件を具える者についてはやはりまず仮釈放が行われるのを本則とし、かような法定の条件を具備するに至らない者、また仮釈放期間を所定より短縮する必要のある者などについてはじめて恩赦がその機能を発揮するところにその意義があると考える。この両者のそれぞれの任務を混同することは、かえって無用の混乱を生ずる以外の何ものでもないのである。
第四 恩赦法及び昭和二十二年司法省令第七十八号恩赦法施行規則と受刑者の釈放の申請に関する書類作成(官庁における受刑者の釈放に関する記録作成を含む)との関係に関する事項
   現在恩赦法施行規則により恩赦申出に際し添附している調査資料は、前述のように審査資料としては甚だ不十分であるといわなければならないが、在監者については、その受刑中の行状その他を身分帳簿等に記入することとなっており、現在仮釈放の具申に使用されている書類は、本人の犯罪関係、身上関係、保護関係を表わす書類であって、行刑成績その他が詳細に記録されていることに鑑みても、在監者に対する恩赦の申出又は審査には、適宜この種の行刑資料を利用することが、仮釈放と恩赦との密接な関連性から見ても適当であり且つ必要であると考える。なお、観察又は援護中の者に関しても、今後この種の調査書類の作成が予想されるので、これらの者については、かような調査書類を参照することが同様の理由によって望ましい。

勧告書

   本審議会は、恩赦制度一般に関し、次のように勧告する。
第一 恩赦法及び昭和二十二年司法省令第七十八号恩赦法施行規則に関する事項
一 恩赦の種類、効果等について
1 恩赦法中に条件附の恩赦を行うことができる旨の明文を設けること。
2 刑の執行猶予の期間のみを短縮する減刑を認めること。
3 刑の執行猶予中の者に対しても復権を行うことができるようにすること。
二 恩赦運用の方針について
1 一般的恩赦(政令による恩赦)の運用方針
   社会事情の変化、法令の改廃等を理由とする合理的な一般的恩赦若しくは刑事政策的観点に基く一般的恩赦に重点が置かるべきこと。
2 個別的恩赦の運用方針
   個別的恩赦を全面的に広く活用すること。例えば刑の執行終了者に対する復権特赦はもとより、受刑中の者、仮釈放中の者に対しても、その事後の行状等を参酌し、刑事政策的観点より恩赦を行うこと。なお、個別的恩赦を行うに当っては、あらかじめ一定の基準を設け、これによって審査の公平を期すること。
三 恩赦の手続について
1 職権申出の手続
   仮釈放中の者、刑の執行猶予中の者、刑の執行停止中の者、刑の執行を終り又はその免除を受けた者等で、観察官の観察又は援護の対象とされるものについては、観察官にも職権申出権を与え、有罪の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官を経由して恩赦の申出をさせること。なお、検察官には、他の機関が職権申出権を有する場合にも、独自の職権申出権を与えること。
2 出願による恩赦申出の手続
イ 出願権者
   一定範囲の親族にも出願権を与えることを考慮すること。
ロ 出願の条件
   現行の恩赦の出願期間をいま少しく短縮すると共に、恩赦の出願をするについて相当の理由があると思われる者については期間短縮許可の制度を活用すること。
3 恩赦審議機関
   恩赦に民意と専門的意見とを反映せしめるため、次のような機関を設置すること。
イ 恩赦審議会(仮称)
   内閣の諮問機関としてこれを置く。委員は国務大臣級の者を以てこれに充て、委員には委員補佐を附することとする。
   審議会は政令による恩赦に関する事項、個別的恩赦の運用基準に関する事項及び恩赦制度一殻に関する事項につき進んで内閣に勧告し、又は内閣の諮問に対し答申する。
ロ 恩赦審査会(仮称)
   法務総裁の諮問機関として法務庁にこれを置く。委員は内閣の恩赦審議会の委員補佐を以てこれに充てる。法務総裁は、個別的恩赦の決定を内閣に求めるに当り、あらかじめ審査会に諮問するものとする。
第二 恩赦法及び昭和二十二年司法省令第七十八号恩赦法施行規則と仮釈放及び受刑者の分類、作業の賦課、累進処遇その他仮釈放に関係のある監獄法中の諸制度との関係に関する事項
   受刑者に対する個別的恩赦の運用に当っては、この種の恩赦等に条件附恩赦と仮釈放との密接な関連性に鑑み、累進処遇の段階、初犯者なりや累犯者なりやの分頬、作業の種類及び作業能力等を常に十分考慮すること。なお、この種の恩赦は、仮釈放制度に対して、その足らざるところを補充する関係に立つものであることに留意すること
第三 恩赦法及び昭和二十二年司法省令第七十八号恩赦法施行規則と受刑者の釈放の申請に関する書類作成(官庁における受刑者の釈放に関する記録作成を含む)との関係に関する事項
   仮釈放の具申に当りその審査資料として利用されている行刑資料は、恩赦の審査に際しても十分に利用せらるべきこと。なお、観察若しくは援護中の者についても、同様の資料の活用を考慮すること。

第2 関連記事その他
1 恩赦審査会に相当するものとして,中央更生保護審査会が設置されました。
2 法務庁は昭和24年6月1日に法務府となり,昭和27年8月1日に法務省となりました。
3 結果として,①条件付きの恩赦,②刑の執行猶予の期間のみを短縮する減刑及び③刑の執行猶予中の者に対する復権,並びに④恩赦審議会の設置に関する法改正は実施されませんでした。
4 令和2年11月17日付の答申書(平成31年2月22日以降,法務省が首相官邸との間で実施した恩赦に関する検討会の資料)を掲載しています。
5 以下の記事も参照してください。
・ 恩赦制度の存在理由
・ 恩赦の手続
・ 恩赦申請時に作成される調査書
・ 恩赦の効果
・ 前科抹消があった場合の取扱い

選挙違反者にとっての平成時代の恩赦

目次
第1 平成時代の恩赦における公民権の回復方法
1 平成時代の恩赦の概要
2 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦における公民権の回復方法
3 平成2年の御即位恩赦における公民権の回復方法
4 平成5年の皇太子御結婚恩赦における公民権の回復方法
第2 公民権を有しない人,並びに選挙運動の禁止及び公民権の回復
1 公民権を有しない人
2 選挙運動の禁止及び公民権の回復
第3 選挙違反者が平成2年の御即位恩赦を受けるために必要であった条件
1 執行猶予付きの有罪判決を受けた後,執行猶予期間の3分の1以上を経過した人が恩赦を受けるために必要であった条件
2 (a)実刑判決を受けた人(刑の執行前の人を含む。),又は(b)執行猶予付きの有罪判決を受けた後,執行猶予期間の3分の1も経過していない人が恩赦を受けるために必要であった条件
第4 平成2年の御即位恩赦で必要であった条件の具体的内容
1 皇太子ご結婚恩赦について(法律のひろば1993年8月号及び同年9月号に掲載されたもの)の執筆者
2 「社会のために貢献するところがあること」の意義
3 「刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること」の意義
4 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」の意義
第5 平成時代に実施された,選挙違反者に対する特別基準恩赦の実績
1 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦の場合
2 平成2年の御即位恩赦の場合
3 平成5年の皇太子御結婚恩赦の場合
第6 関連条文
1 刑法
2 公職選挙法
3 政治資金規正法
第7 関連記事その他

第1 平成時代の恩赦における公民権の回復方法
1 平成時代の恩赦の概要
(1) 平成時代の恩赦は以下の三つです。
① 平成元年 2月24日の恩赦
・ 昭和天皇の大喪の礼に伴い,大赦令及び復権令,並びに特別基準恩赦が実施されました。
② 平成 2年11月12日の恩赦
・ 現在の上皇の即位の礼に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
③ 平成 5年 6月 9日の恩赦
・ 皇太子殿下(徳仁親王)ご結婚に伴い,特別基準恩赦が実施されました。
(2)ア 特別基準恩赦は,特別恩赦基準に基づく恩赦のことでありますところ,平成時代の特別恩赦基準は以下の三つです。
① 昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定)
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定)
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準(平成5年6月8日閣議決定)
イ 特別恩赦基準に関する法務省の通達等を以下のとおり掲載しています。
(平成元年の昭和天皇御大葬恩赦)
① 恩赦の実施について(平成元年2月6日付の法務事務次官の依命通達)
(平成2年の御即位恩赦)
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成2年11月12日付の法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
③ 即位の礼に当たり行う特別基準恩赦の事務処理について(平成2年11月12日付の法務省保護局恩赦課長の通知)
④ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成2年11月14日付の法務省保護局恩赦課長の文書)
(平成5年の皇太子御結婚恩赦)
⑤ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成5年6月9日付けの法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
⑥ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別基準恩赦の事務処理について(法務省保護局恩赦課長の通知)
⑦ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)
(3) 自治省選挙部長の通知を以下のとおり掲載しています。
① 昭和天皇の崩御に際会して行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成元年2月13日付の自治省選挙部長の通知)
② 即位の礼に当たり行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成2年11月12日付の自治省選挙部長の通知)
③ 御結婚恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成5年6月8日付の自治省選挙部長の通知)
(4) 公民権とは,選挙権及び被選挙権をいいます(労働基準法7条参照)。
2 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦における公民権の回復方法
(1) 罰金前科がある場合の公民権の回復方法
   復権令に基づき,当然に公民権の停止が解除されて公民権を回復しました。
(2) 公職選挙法違反の懲役前科がある場合の公民権の回復方法
   復権令に基づく公民権停止の解除は実刑期間経過後5年を経過したものに限られていました。
   そのため,特別基準恩赦としての特赦,復権等に基づき公民権の停止が解除されて初めて,公民権を回復しました。
3 平成2年の御即位恩赦における公民権の回復方法
(1) 罰金前科がある場合の公民権の回復方法
   復権令に基づき,当然に公民権の停止が解除されて公民権を回復しました。
(2) 公職選挙法違反の懲役前科がある場合の公民権の回復方法
   復権令に基づく公民権停止の解除は罰金前科に基づくものに限られていました。
   そのため,特別基準恩赦としての特赦,復権等に基づき公民権の停止が解除されて初めて,公民権を回復しました。
4 平成5年の皇太子御結婚恩赦における公民権の回復方法
   復権令が出ませんでしたから,特別基準恩赦としての特赦,復権等に基づき公民権の停止が解除されて初めて,公民権を回復しました。



皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)からの抜粋

第2 公民権を有しない人,並びに選挙運動の禁止及び公民権の回復
1 公民権を有しない人
(1) 以下の人は公民権(選挙権及び被選挙権)を有しません(総務省HPの「選挙権と被選挙権」参照)。
① 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者(公職選挙法11条1項2号)
・ 例えば,仮釈放中の人及び刑の執行停止中の人は,刑の執行が終わっていませんから,公民権を有しません。
② 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者は除く。)(公職選挙法11条1項3号)
・ 禁錮以上の刑に処せられた人について,刑の時効(刑法31条)が完成し,又は恩赦としての「刑の執行の免除」(恩赦法8条)があった場合,刑の執行が終わっていない点で2号に該当したままであるものの,3号に該当しなくなる結果,公民権を回復します(前科登録と犯歴事務(五訂版)118頁参照)。
・ 政治家が詐欺罪,弁護士法違反等により執行猶予付の有罪判決を受けた場合,公民権は停止しません。
③ 公職にある間に犯した収賄罪,又は公職者あっせん利得罪により刑に処せられ,実刑期間経過後5年間(被選挙権は10年間)を経過しない者(公職選挙法11条1項4号及び11条の2),又は刑の執行猶予中の者(公職選挙法11条1項4号)
・ 平成 4年12月16日法律第 98号に基づき,同日以降の行為に基づく収賄罪により執行猶予付きの判決が確定した場合,公民権が停止することとなりました。
・ 平成 6年 2月 4日法律第 2号に基づき,収賄罪により実刑判決を受けた場合,実刑期間経過後5年間,公民権が停止されることとなりました。
   例えば,令和元年7月21日投開票の第25回参議院議員通常選挙・比例区で当選した鈴木宗男参議院議員(日本維新の会)の場合,平成9年ないし平成10年の行為に基づくあっせん収賄罪等により懲役2年の実刑判決を受けたものの,刑期満了から5年が経過した平成29年4月30日に公民権を回復しました。
・ 平成11年 8月13日法律第122号に基づき,平成11年9月2日以降の行為により刑に処せられた場合,実刑期間経過後10年間,被選挙権が停止されることとなりました。
・ 公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(平成12年11月29日法律第130号)に基づき,平成13年3月1日以降の行為により公職者あっせん利得罪により刑に処せられた場合,実刑期間経過後5年間,選挙権が停止され,実刑期間経過後10年間,被選挙権が停止されることとなりました。
④ 選挙に関する犯罪で禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行猶予中の者(公職選挙法11条1項5号)
・ 「衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の選挙」(公職選挙法2条)以外の選挙(例えば,海区漁業調整委員会委員の選挙,水害予防組合の組合会議員の選挙)において執行猶予付で禁錮以上の刑に処せられた場合,本号に基づき,猶予期間中,公民権を停止され,実刑に処せられた場合,2号に基づき,刑執行終了時まで公民権を停止されます。
・ 一般の犯罪により執行猶予付で禁錮以上の刑に処せられた場合,3号括弧書きに基づき,公民権は停止しません。
⑤ 公職選挙法等に定める選挙に関する犯罪により,選挙権及び被選挙権が停止されている者(公職選挙法11条2項及び252条)
・ 例えば,一定の罪で罰金刑に処せられた場合,裁判確定の日から5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます(公職選挙法252条1項)。
・ 一定の罪で禁錮刑に処せられた場合,執行猶予付きであれば猶予期間中,実刑であれば刑執行終了まで及びその後5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます(公職選挙法252条2項)。
・ 以下の罪について刑に処せられた人がさらに以下の罪について刑に処せられた場合,裁判確定の日から10年間,選挙権及び被選挙権を停止されます(公職選挙法252条3項)。
(a) 買収及び利害誘導罪(221条)
(b) 多数人買収及び多数人利害誘導罪(222条)
(c) 公職の候補者及び当選人に対する買収及び利害誘導罪(223条)
(d) 新聞紙,雑誌の不法利用罪(223条の2)
・ 裁判所は,情状により,選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず,又はその規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告できます(公職選挙法252条4項)。
・ 公職選挙法252条4項に関する裁判所の裁量は,一般犯罪の法定刑の範囲内における量刑と何ら変わりませんから,憲法31条及び21条に違反しません(最高裁昭和38年10月22日決定参照)。
・ 公職選挙法違反の内容については,ベリーベスト法律事務所岡山オフィスHP「公職選挙法違反とはどんな罪?一般の有権者でも逮捕されることはある?」が参考になります。
⑥ 政治資金規正法に定める犯罪により選挙権及び被選挙権が停止されている者(政治資金規正法28条)
・ 平成 6年 2月 4日法律第 4号に基づき,平成7年1月1日から適用されています。
・ 例えば,一定の罪で罰金刑に処せられた場合,裁判確定の日から5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます(政治資金規正法28条1項)。
・ 一定の罪で禁錮刑に処せられた場合,執行猶予付きであれば猶予期間中,実刑であれば刑執行終了まで及びその後5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます(政治資金規正法28条2項)。
・ 裁判所は,情状により,選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず,又はその規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告できます(政治資金規正法28条3項)。
(2)ア 警察署留置場(法的には代用刑事施設(刑事収容施設法15条)です。)又は拘置所に勾留されているものの,有罪判決が確定していない人は,留置業務管理者又は拘置所長を通じて(公職選挙法施行令50条4項)を通じて,期日前投票をすることができます(公職選挙法48条の2第1項3号)。
イ 青森県HPに「刑事施設、労役場、監置場、留置施設、少年院、婦人補導院における不在者投票制度の概要(平成27年5月) 」が載っています。
2 選挙運動の禁止及び公民権の回復
(1)ア 公職選挙法252条又は政治資金規正法28条に基づき公民権を有しない人は選挙運動をすることもできません(公職選挙法137条の3)。
イ 公職選挙法239条1号の罪の構成要件である同法129条にいう選挙運動とは,特定の選挙の施行が予測され,又は確定的となった場合に,特定の人がその選挙に立候補することが確定しているときのほか,その立候補が予測されるときにおいても,その選挙につきその人に当選を得しめるため投票を得若しくは得しめる目的を以て,直接又は間接に必要かつ有利な周施,勧誘若しくは誘導その他諸般の行為をなすことをいいます(最高裁昭和38年10月22日決定)。
ウ 政治活動とは,政治上の目的を持って行われる一切の活動から,選挙運動にわたる行為を除いたものをいいます(千葉県浦安市HPの「選挙運動と政治活動」参照)。
(2) ①ないし④の人は特赦を受ければ公民権を回復しますし,⑤及び⑥の人のうち,罰金刑を受けたにすぎない人は復権を受けるだけで公民権を回復します。
(3)ア 公民権停止期間は,裁判確定の日から常に5年ですから,公民権回復の日は罰金前科の消滅の日より早いのが一般的です。
イ 仮納付の裁判の執行(裁判確定前の罰金刑の執行)により裁判確定の日に刑の執行終了となる場合(刑事訴訟法494条1項),公民権回復と刑の消滅は同じ日になります。
(4) 公職選挙法252条3項による10年間の公民権停止期間の経過前であっても,刑法34条の2により刑の言渡しの効力が消滅した場合,その時点で選挙権及び被選挙権を回復します(前科登録と犯歴事務(五訂版)104頁参照)。

恩赦願書の記載例(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)からの抜粋)



身上関係書の記載例(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書からの抜粋)

第3 選挙違反者が平成2年の御即位恩赦を受けるために必要であった条件
1 執行猶予付きの有罪判決を受けた後,執行猶予期間の3分の1以上を経過した人が恩赦を受けるために必要であった条件
(1) 特赦を受けるために必要であった条件
① 基準日の前日までに執行猶予期間の2分の1以上が経過していること
② 刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること
③ 犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,特赦が特に相当であること
(2) 減刑を受けるために必要であった条件
① 基準日の前日までに執行猶予期間の3分の1以上が経過していること
② 刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること
③ 犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,減刑が特に相当であること
2 (a)実刑判決を受けた人(刑の執行前の人を含む。),又は(b)執行猶予付きの有罪判決を受けた後,執行猶予期間の3分の1も経過していない人が恩赦を受けるために必要であった条件
(1) 特赦を受けるために必要であった条件
① 社会のために貢献するところがあること
② 刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること
③ 犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,特赦が特に相当であること
(2) 減刑を受けるために必要であった条件
① 刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること
② 犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,減刑が特に相当であること
(3) これらの条件につき,①過失犯を除く刑法の罪,②法定刑の短期が1年以上である特別法の罪及び③薬物に係る罪は恩赦の対象外でしたが,公職選挙法違反(以下「選挙違反」といいます。)等は恩赦の対象でした。

第4 平成2年の御即位恩赦で必要であった条件の具体的内容
1 皇太子ご結婚恩赦について(法律のひろば1993年8月号及び同年9月号に掲載されたもの)の執筆者
   当時の法務省保護局恩赦課長及び法務省保護局恩赦課長補佐です。
2 「社会のために貢献するところがあること」の意義

   法律のひろば1993年8月号53頁には以下の記載があります。
   「社会のために貢献するところがあり」とは、社会的に評価されるような功績が現に存在し又は過去に存在した場合をいい、その有無については、諸般の具体的状況から総合的に判断することとなる。例えば、市町村議会議員のほか、民生委員、PTA役員、自治会役員、消防団の役員、同業組合の役員等一定の地位に基づく社会への貢献のほか、過去に人命救助あるいは福祉施設や更生保護施設等に対しての物心の支援などの事実があり、それが社会的に評価されていることがこれに該当する。
   なお、この要件についても、その疎明資料(在籍証明書、表彰状等の写し等)を提出して根拠を明らかにする必要がある。
3 「刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること」の意義
(1) 平成5年の皇太子御結婚恩赦における「近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている」という記載は,平成元年の昭和天皇御大喪恩赦及び平成2年の御即位恩赦における「その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている」という記載を明確にしたものであって,その内容に変更はありません(法律のひろば1993年8月号52頁)。
(2) 法律のひろば1993年8月号52頁及び53頁には以下の記載があります。
   公共的職務への就任又は公共的職務の遂行に当たっての障害とは、近い将来において具体的に一定の公職又はこれに準ずる役職(以下「公職等」という。)に就任する上で資格の制限その他の障害があること、及び現在従事している公職等を遂行する上で障害があることをいう。法令に基づき資格を喪失し、あるいは、これを停止されているため一定の公職等に就任できないなど法令上障害のある場合のみならず、刑に処せられたことによる負担から、現在従事している公職等において部下の指導、意見の表明、外部との交渉等が満足に行えない事情にあるなど事実上障害のある場合であってもよい。小地域又は小範囲の関係者の団体の役員も、公共的職務に含まれる。例えば、国会議員、都道府県知事、市区町村長又は地方議会議員の選挙への立候補はもちろんのこと、地元地域団体(消防団、自治会、土地改良区等)、同業組合(農業、漁業、畜産、森林、青果、古物商組合等)等の役員への就任、農業委員、教育委員、民生委員等への就任あるいはPTA役員への就任等が考えられる。
   公共的職務への就任又は公共的職務の遂行に当たり障害となっていることを理由として出願する際には、その事実を具体的に記載し、就任すべき公職等ないしその団体の名称、就任の時期等を特定することが必要である(例えば、公職への立候補の場合は「平成五年○月○日施行予定の○○市議会議員への立候補」、団体役員に就任する場合は「平成五年○月○日○○団体の○○役職に就任」などと記載する。なお、団体役員への就任の時期は現職者がいる場合はその者との交替時期、資格回復と同時に団体役員に就任する場合はその旨を明らかにする。)。また、これらを証するに足る資料(推薦者、関係団体等本人以外の者の推薦書、上申書、証明書等)を恩赦願書に添付することが必要である。
   選挙の期日は未定であるが当該選挙への立候補を理由とする出願は、数か月先にその選挙が行われることが客観的に確実である場合には、近い将来における公共的職務への就任に当たり障害となっていると解して差し支えない。
(3) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)13頁及び14頁によれば,「近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている」として認定された先例は以下のとおりであって,例えば,選挙運動に従事することは公共的職務には当たりません。
・ 公職選挙に立候補する上での障害
・ 財産区議員に立候補する上での障害
・ 弁護士,税理士,弁理士として登録する上での障害
・ 宅地建物取引業者として登録する上での障害
・ 宅地建物取引主任者の資格を取得する上での障害
・ 行政書士,土地家屋調査士,社会保険労務士の資格を取得する上での障害
・ 義肢装具士の資格取得上の障害
・ 公務員試験を受験する上での障害
・ 中小企業診断士試験を受験する上での障害
・ 医師会代議員に就任する上での障害
・ 漁業生産協同組合長に就任する上での障害
・ 工業会会長に就任する上での障害
・ 国会議員公設秘書に就任する上での障害
・ 商工会役員に就任する上での障害
・ 町内会の会長,区長,組長に就任する上での障害
・ 民生委員に就任する上での障害
・ 医師としての医療業務活動上の障害
・ 開発計画審査会委員としての活動上の障害
・ 各種技能士の技能検定委員としての活動上の障害
・ 議会議員としての活動上の障害
・ 交通指導員としての活動上の障害
・ スポーツ少年団の指導員としての活動上の障害
・ 宗教法人総代としての活動上の障害
・ 人権擁護委員としての活動上の障害
・ PTA,幼稚園の父母の会等の役員としての活動上の障害
・ ライオンズクラブ役員としての活動上の障害
・ 老人クラブ会長としての活動上の障害

4 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」の意義
(1) 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」は,恩赦を行うに当たっての一般的な判断基準であって,「かんがみ事項」といいます。
(2) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)9頁及び10頁によれば,それぞれの考慮要素の具体的内容は以下のとおりです。
① 「犯情」とは,犯罪の軽重を含む犯罪の情状をいい,判決書に記載されているものです。
② 「本人の性格」とは,性質,素行,知能程度,精神的疾患の有無を含む健康状態,遺伝,常習性の有無等をいいます。
   事案にもよりますが,凶悪重大事犯やいわゆる傾向犯の対象者については, この調査はかなり重要な要素を占め, この認定に資する資料はできる限り添付する必要があります。
   受刑者については,刑務所における分類調査の結果が重要な資料となりますし,出願に当たって提出される「身上関係書」の性格の記載内容も参考とされます。
③ 「行状」とは, 当該犯罪行為以外の一般的な生活態度をいい,刑の言渡し以前のものをも含みます。
④ 「犯罪後の状況」とは,改しゅんの情及び再犯のおそれの有無のほか,服役中の行状,保護観察中の行状,保護観察終了後恩赦出願までの行状を含むものの,必ずしも両者は明確に区別できるものではありません。
⑤ 「社会の感情」とは,第一義的には犯行及び恩赦に対する地域社会(犯罪地,本人の居住地及び在監者の帰住予定地)の感情を指すこととなるものの, さらにこれを踏まえて,広い視野からの良識ある社会人の法感情に基づく評価をも考慮すべきであります。
   また,応報感情の融和が刑罰の機能の一つであることにかんがみ,社会一般及び被害者(遺族)の応報感情が融和されているか否かについても重視しなければなりません。
⑥ 「犯情本人の性格及び行状,犯罪後の状況.社会の感情等」には,共犯者との均衡,近親者の状況等が含まれます。

第5 平成時代に実施された,選挙違反者に対する特別基準恩赦の実績
1 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦の場合
(1) 選挙違反に関する総受理件数は773件であり,恩赦相当件数は635件であり,恩赦相当率は82.1%でした。
(2) 選挙違反に関する特赦の件数は545件であったところ,全体の特赦の件数は566件でしたから,選挙違反以外の特赦の件数は21件だけでした。
(3) 選挙違反に関する減刑の件数は80件であったところ,全体の減刑の件数は142件でしたから,選挙違反以外の減刑の件数は62件だけでした。
(4) 選挙違反に関して,刑の執行の免除の件数は4件(全体で56件),復権の件数は6件(全体で25件)でした。

2 平成2年の御即位恩赦の場合
(1) 選挙違反に関する総受理件数は478件であり,恩赦相当件数は327件でしたから,恩赦相当率は68.4%でした。
(2) 選挙違反に関する特赦の件数は266件であり,全体の特赦の件数は267件でしたから,選挙違反以外の特赦の件数は1件だけでした。
(3) 選挙違反に関する減刑の件数は54件であったところ,全体の減刑の件数は77件でしたから,選挙違反以外の減刑は23件だけでした。
(4) 選挙違反に関して,刑の執行の免除の件数は1件(全体で10件),復権の件数は6件(全体で44件)でした。

3 平成5年の皇太子御結婚恩赦の場合
(1) 選挙違反に関する総受理件数は1255件であり,恩赦相当件数は945件でしたから,恩赦相当率は75.2%でした。
   このうち,罰金刑の復権事案の総受理件数は691件であり,復権相当件数は631件でしたから,復権相当率は91.3%でしたから,それ以外の総受理件数は564件であり,恩赦相当件数は314件であり,恩赦相当率は55.6%であったこととなります。
(2) 選挙違反に関する特赦の件数は82件であり,全体の特赦の件数は90件でしたから,選挙違反以外の特赦の件数は8件だけでした。
(3) 選挙違反に関する減刑の件数は231件であり,全体の減刑の件数は246件でしたから,選挙違反以外の減刑は15件だけでした。
(4) 選挙違反に関して,刑の執行の免除は0件(全体で10件),復権(禁錮以上の刑)の件数は1件(全体で30件),復権(罰金刑)の件数は631件(全体で901件)でした。

第6 関連条文
1 
刑法
・ 27条の2(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
・ 27条の7(刑の一部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その懲役又は禁錮を執行が猶予されなかった部分の期間を刑期とする懲役又は禁錮に減軽する。この場合においては、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行を受け終わったものとする。
・ 34条の2(刑の消滅)
① 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。
② 刑の免除の言渡しを受けた者が、その言渡しが確定した後、罰金以上の刑に処せられないで二年を経過したときは、刑の免除の言渡しは、効力を失う。
2 公職選挙法
・ 11条(選挙権及び被選挙権を有しない者)
① 次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
一 削除
二 以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
三 
以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)
四 公職にある間に犯した刑法(明治四十年法律第四十五号)第百九十七条から第百九十七条の四までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(平成十二年法律第百三十号)第一条の罪により刑に処せられ、その執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から五年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者
五 法律で定めるところにより行われる選挙、投票及び国民審査に関する犯罪により禁以上の刑に処せられその刑の執行猶予中の者
② この法律の定める選挙に関する犯罪に因り選挙権及び被選挙権を有しない者については、第二百五十二条の定めるところによる。
③ 市町村長は、その市町村に本籍を有する者で他の市町村に住所を有するもの又は他の市町村において第三十条の六の規定による在外選挙人名簿の登録がされているものについて、第一項又は第二百五十二条の規定により選挙権及び被選挙権を有しなくなるべき事由が生じたこと又はその事由がなくなつたことを知つたときは、遅滞なくその旨を当該他の市町村の選挙管理委員会に通知しなければならない。
・ 11条の2
(被選挙権を有しない者)
公職にある間に犯した前条第一項第四号に規定する罪により刑に処せられ、その執行を終わり又はその執行の免除を受けた者でその執行を終わり又はその執行の免除を受けた日から五年を経過したものは、当該五年を経過した日から五年間、被選挙権を有しない。
・ 252条
(選挙犯罪による処刑者に対する選挙権及び被選挙権の停止)
① この章に掲げる罪(第二百三十六条の二第二項、第二百四十条、第二百四十二条、第二百四十四条、第二百四十五条、第二百五十二条の二、第二百五十二条の三及び第二百五十三条の罪を除く。)を犯し罰金の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から五年間(刑の執行猶予の言渡しを受けた者については、その裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間)、この法律に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
② この章に掲げる罪(第二百五十三条の罪を除く。)を犯し禁以上の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から刑の執行を終わるまでの間若しくは刑の時効による場合を除くほか刑の執行の免除を受けるまでの間及びその後五年間又はその裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間、この法律に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
③ 第二百二十一条、第二百二十二条、第二百二十三条又は第二百二十三条の二の罪につき刑に処せられた者で更に第二百二十一条から第二百二十三条の二までの罪につき刑に処せられた者については、前二項の五年間は、十年間とする。 裁判所は、情状により、刑の言渡しと同時に、第一項に規定する者(第二百二十一条から第二百二十三条の二までの罪につき刑に処せられた者を除く。)に対し同項の五年間若しくは刑の執行猶予中の期間について選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず、若しくはその期間のうちこれを適用すべき期間を短縮する旨を宣告し、第一項に規定する者で第二百二十一条から第二百二十三条の二までの罪につき刑に処せられたもの及び第二項に規定する者に対し第一項若しくは第二項の五年間若しくは刑の執行猶予の言渡しを受けた場合にあつてはその執行猶予中の期間のうち選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告し、又は前項に規定する者に対し同項の十年間の期間を短縮する旨を宣告することができる。
3 政治資金規正法
・ 28条
① 第二十三条から第二十六条の五まで及び前条第二項の罪を犯し罰金の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から五年間(刑の執行猶予の言渡しを受けた者については、その裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間)、公職選挙法に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
② 第二十三条、第二十四条、第二十五条第一項、第二十六条、第二十六条の二、第二十六条の四及び前条第二項の罪を犯し禁の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から刑の執行を終わるまでの間若しくは刑の時効による場合を除くほか刑の執行の免除を受けるまでの間及びその後五年間又はその裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間、公職選挙法に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
③ 裁判所は、情状により、刑の言渡しと同時に、第一項に規定する者に対し同項の五年間若しくは刑の執行猶予中の期間について選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず、若しくはその期間のうちこれを適用すべき期間を短縮する旨を宣告し、又は前項に規定する者に対し同項の五年間若しくは刑の執行猶予の言渡しを受けた場合にあつてはその執行猶予中の期間のうち選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告することができる。
 公職選挙法第十一条第三項の規定は、前三項の規定により選挙権及び被選挙権を有しなくなるべき事由が生じ、又はその事由がなくなつたときについて準用する。この場合において、同条第三項中「第一項又は第二百五十二条」とあるのは、「政治資金規正法第二十八条」と読み替えるものとする。

第7 関連記事その他

1(1) 昭和38年1月26日施行の愛媛県知事選挙における公職選挙法違反により懲役1年6月・執行猶予3年の有罪判決を受けた白石春樹の場合,高松高裁昭和42年8月8日判決(控訴棄却。判例秘書に掲載)に対する上告を取り下げて明治百年記念特別基準恩赦(基準日は昭和43年11月1日)により公民権を回復し,昭和46年1月26日施行の愛媛県知事選挙に当選し,愛媛玉串訴訟に関する最高裁大法廷平成9年4月2日判決の直前である同年3月30日に死亡しました。
(2) 明治百年記念特別基準恩赦の場合,「公職選挙、経済統制または道路交通に関する法令に違反し、その刑に処せられたことが現に公共的社会生活の障害となっている者で、特赦の出願をしたもの」のうち,「犯情、行状、犯罪後の状況等にかんがみ、特に赦免することが相当であると認められるもの」について特赦が行われました。
2 以下の記事も参照して下さい。
① 恩赦の手続
② 恩赦の効果
③ 恩赦に関する記事の一覧
④ 百日裁判事件(公職選挙法違反)

恩赦に関する記事の一覧

第1 恩赦に関する記事を以下のとおり掲載しています。
1 一般論
① 恩赦制度の存在理由
② 恩赦の手続
③ 恩赦申請時に作成される調査書
④ 恩赦の効果
⑤ 前科抹消があった場合の取扱い
⑥ 恩赦制度審議会の最終意見書及び勧告書(昭和23年6月30日付)
2 過去の恩赦の説明
① 戦前の勅令恩赦及び特別基準恩赦
② 戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦
③ 恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放
④ 昭和時代の恩赦に関する国会答弁
⑤ 死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑
⑥ 選挙違反者にとっての平成時代の恩赦
⑦ 令和元年の御即位恩赦における罰金復権の基準
3 恩赦に関する一般的な法令及び通達
① 恩赦法(昭和22年3月28日法律第20号)
② 恩赦法施行規則(昭和22年10月1日司法省令第78号)
③ 恩赦上申事務規程
→ 恩赦上申事務規程の解説もあります。
④ 恩赦上申事務規程の運用について(昭和58年12月23日付の法務省刑事局長・矯正局長・保護局長依命通達)
⑤ 恩赦上申事務処理要領(平成7年3月13日付の法務省保護局長の通達)
→ 恩赦上申事務処理要領の解説もあります。
4 令和元年の御即位恩赦に関する法令及び特別恩赦基準
① 復権令(令和元年10月22日政令第131号)
② 刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(令和元年10月22日法務省令第39号)
 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)
5 平成時代の恩赦
(1) 平成時代の恩赦に関する個別の法令
① 昭和天皇の崩御に伴う大赦令,復権令,国家公務員等の懲戒免除等のあらまし
② 大赦令(平成元年2月13日政令第27号)
③ 復権令(平成元年2月13日政令第28号)
④ 昭和天皇の崩御に伴う国家公務員等の懲戒免除に関する政令(平成元年2月13日政令第29号)
⑤ 特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(平成元年2月13日法務省令第4号)
⑥ 復権令(平成2年11月12日政令第328号)
⑦ 特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(平成2年11月12日法務省令第39号)
⑧ 特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令(平成5年6月9日法務省令第25号)
(2) 平成時代の特別恩赦基準
① 昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定)
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定)
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準(平成5年6月8日閣議決定)
(3) 平成時代の特別恩赦基準に関する法務省の通達等
ア 平成元年の昭和天皇御大葬恩赦
① 恩赦の実施について(平成元年2月6日付の法務事務次官の依命通達)
イ 平成2年の御即位恩赦
① 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成2年11月12日付の法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
② 即位の礼に当たり行う特別基準恩赦の事務処理について(平成2年11月12日付の法務省保護局恩赦課長の通知)
③ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成2年11月14日付の法務省保護局恩赦課長の文書)
ウ 平成5年の皇太子御結婚恩赦
① 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成5年6月9日付けの法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
② 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別基準恩赦の事務処理について(法務省保護局恩赦課長の通知)
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)
6 令和元年の御即位恩赦に関する法務省の通達等
① 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の運用について(令和元年10月22日付の法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(令和元年10月22日付の法務省保護局総務課長の通知)
③ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の事務処理について(令和元年10月22日付の法務省保護局総務課長の通知)
(総務省の通達)
④ 即位の礼に当たり行う恩赦と選挙事務の取扱いについて(令和元年10月22日付の総務省自治行政局選挙部長の通知)

第2 その他
1 以下の記事も参照してください。
① 仮釈放
② 仮釈放に関する公式の許可基準
③ 保護観察制度
2 以下の資料を掲載しています。
・ 恩赦関係説明資料(令和3年3月の法務省保護局の文書)
・ 審査請求事件関係説明資料(法務省保護局観察課の文書)
3(1) 法務省保護局HP「「更生保護」とは」に,保護観察,応急の救護等及び更生緊急保護,仮釈放・少年院からの仮退院等,生活環境の調整,恩赦及び犯罪予防活動が書いてあります。
(2) 法務省HPに,更生保護のあり方を考える有識者会議が提出した,平成18年6月27日付の「更生保護制度改革の提言-安全・安心の国づくり,地域づくりを目指して-」が載っています。
(3) 更生保護ネットワークとしては,日本更生保護協会全国保護司連盟全国更生保護法人連盟日本更生保護女性連盟及び日本BBS連盟があります。
4 厚生労働省HPに「「再出発で、社会とつながる-「刑務所出所者等就労支援事業」におけるハローワークと事業所の取組-」(報告書)を公表します」(平成30年5月15日付)が載っています。
4 NHK解説委員室HP「恩赦の持つ意味は」(2019年9月23日付)が載っています。

恩赦制度の存在理由

目次
1 恩赦制度の存在理由
2 関連記事その他

1 恩赦制度の存在理由
(1) 恩赦制度の存在理由として以下の4点が挙げられています。
① 法の画一性に基づく具体的不妥当の矯正
   法は具体的事象に適応させるため制定されますものの,抽象的な規範とならざるを得ません。
   刑罰法規も同様であって,画一的な法律によっては律しきれない場合に当面した場合,具体的妥当性を求めて法の画一性を是正する必要が生じます。
   例えば,我が国の刑罰法規は法定刑の幅が広いものの,法律上及び酌量による減軽をしてもなお重いとされる言渡刑を変更するような場合(例えば,尊属殺に対するかつての量刑),恩赦による必要があります。
② 事情の変更による裁判の事後的変更
   大きな社会情勢の変化,刑の廃止又は変更,法の解釈に関する判例の変更等,客観的事情の変動により刑罰的評価が低減された場合,行為時又は裁判時の評価を維持することは適当ではありません。
   このような場合には恩赦による救済がなされるべきといわれています。
③ 他の方法をもってしては救い得ない誤判の救済
   少年法適用の前提事実である年齢誤認,累犯加重の条件に関する事実誤認については,再審(刑事訴訟法435条)又は非常上告(刑事訴訟法454条)の対象とされません。
   刑事手続が整備されている今日,誤判一般の救済を恩赦に求めることはできないものの,他の方法をもってしては救い得ない誤判の救済は恩赦によるほかないといわれています。
④ 有罪の言渡しを受けた者の事後の行状等に基づく,刑事政策的な裁判の変更又は資格回復
   有罪の言渡しを受けた後,刑罰の感銘力が発揮され,改しゅんの情を示し,性格,行状も改まり,再犯のおそれもない等犯罪者の主観的事情の変動により,言渡刑の執行又はその効力維持が不適当となった場合,恩赦を考慮すべきといわれます。
(2) 法律のひろば1989年4月号15頁及び16頁を全面的に参照しています。

2 関連記事その他
(1) 昭和23年6月の恩赦制度審議会の答申は,国家の慶事に当たり喜びを分かつ意味で一般恩赦が行われることはなんら差し支えないとした上で,衡平の精神及び刑事政策的な観点に基づく合理的な恩赦の実施を強調しています(「恩赦制度の概要」3頁)。
(2)ア 法務省保護局HPの「Q&A」には「恩赦にはいくつかの役割がありますが,その中で最も重要なものとして,「罪を犯した人たちの改善更生の状況などを見て,刑事政策的に裁判の内容や効力を変更する」というものがあります。」と書いてあります。
イ 衆議院議員丸山穂高君提出令和時代における恩赦に関する質問に対する答弁書(令和元年10月29日付)には,「恩赦には、罪を犯した者の改善更生の意欲を高めさせ、その社会復帰を促進するなどの刑事政策的な意義があると考えており、今後とも、恩赦を実施するか否かやその対象をどのように定めるかは、恩赦制度の趣旨、先例、社会情勢、国民感情等諸般の状況を総合的かつ慎重に勘案して判断してまいりたい。」と書いてあります。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 恩赦の手続
・ 恩赦申請時に作成される調査書
・ 恩赦の効果
・ 前科抹消があった場合の取扱い
・ 恩赦制度審議会の最終意見書及び勧告書(昭和23年6月30日付)
・ 恩赦に関する記事一覧

昭和時代の恩赦に関する国会答弁

第1 終戦記念恩赦,憲法公布記念恩赦及び平和条約恩赦に関する国会答弁
   笛吹亨三法務省保護局長は,昭和47年5月12日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
1 昭和二十年の終戦記念の恩赦における大赦令の該当でございますが、御承知のように、大赦令は罪を特定いたしまして赦免するわけでございますが、これは非常にたくさんございまして、これを全部読み上げると非常にたいへんなことになると思うのですが、刑法の中でも不敬罪。それから内乱関係。外患関係。外国元首に対する暴行、脅迫、侮辱関係。それから外国国章の損壊等。私戦の予備陰謀。中立命令違背。安寧秩序に関する罪。刑法関係ではこういったものが入っております。
   それからあと陸軍刑法の関係、海軍刑法の関係、これは全部じゃございませんが、陸軍刑法、海軍刑法の中から大部分が入っております。
   それから治安警察法違反。新聞紙法違反。出版法違反。選挙罰則違反。それから戦時刑事の特別法の関係。それから戦時の経済統制関係の法令、これがまたたくさんございます。そういった統制関係などが入っております。
   それから、減刑令はこれは除外するものだけが規定されて、その他のものは減刑に該当するという形式をとっておりますが、除外された罪名は強盗に対する罪、 それから外患に対する罪、建造物放火、通貨偽造、強姦致死傷、尊属殺人、尊属傷害致死、尊属遺棄あるいは尊属逮捕監禁、それから強盗関係。これは単純強盗を含んで強盗関係。強盗殺人、強盗致傷、強盗強姦致死、そういった刑法における凶悪な犯罪なども除外してございますが、そのほかに陸軍刑法、海軍刑法の中でも若干のものを除外いたしております。
   それから、復権令におきましては、対象を罰金以上、したがいまして罰金、禁錮、懲役、全部でございますが、罰金以上を全部対象といたしております。
2 それから、二十一年の憲法公布の記念の恩赦の場合も、これも非常に大赦令も相当大幅に出たわけでございますが、ただいま申し上げたのとやや似た非常に広範囲なもので、これを重複しますとまた時間もかかりますから、その程度でひとつごしんぼう願います。
   それから、減刑令につきましても、大体同じような凶悪なものを除外するという形をとっておりますし、復権令は対象がやはり罰金以上全部ということになっております。
3   それから、平和条約の場合も、そのように相当広い範囲のものを拾い上げておりますが、この場合はさらに大赦令におきまして、占領政策に、占領中のいろんな関係法令に違反したものを大赦令で救済するという形で大赦令が出ております。
   そのほかに、減刑令につきましても、先ほど申しましたのと大体似ております。
   復権令は、これは先ほどと同じように罰金以上全部ということになっております。
4 さらに、国際連合加盟の昭和三十一年の十二月の場合には、これは大赦令が出ておるわけでございますが、大赦令の内容は、対象になりますものは、公職選挙法に違反する罪、それから旧刑法の二百三十三条から二百三十六条、それから政治資金規正法に違反する罪、地方自治法の罪、それから最高裁判所裁判官国民審査法に違反する罪、こういったものが大赦令の対象にしてございます。
   国連加盟のときの政令はその程度でございます。
5 このように、いろいろそのときの恩赦も、どういう意味において恩赦が行なわれるかということによっていろいろ取り上げ方が変わったものだと考えております。

第2 国連加盟恩赦,皇太子ご成婚恩赦及び明治百年記念の恩赦に関する国会答弁
   笛吹亨三法務省保護局長は,昭和47年4月25日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
1(1) 昭和三十一年十二月の国連加盟恩赦、これは大赦が行なわれたのでございますが、ただいま御指摘のように、六万九千六百二十七の政令恩赦の該当者の中で、ほとんどが公職選挙法違反を中心としたものであるということで、これはそのとおりでございますが、私この恩赦がなぜ行なわれたのであろうかということを考えてみますと、日本が第二次大戦で負けまして、その後連合国軍の占領のもとにあって、ようやく二十七年に講和条約が結ばれて独立国として立ったわけでございますけれども、国際的には、まだやはり国際社会の中に十分復帰しておりません。
   いわば国際的な孤児のような形でおったものが、昭和三十一年に国際連合に加盟できまして国際社会に復帰したという、これは日本にとって政治的、外交的に非常に記念すべきときであったのであろうと思います。
(2) したがいまして、そういったことを記念するという意味で恩赦が行なわれたのではないかと思うのでございますが、そういった意味もございまして、政治的な色彩の濃い記念恩赦を行なうということから、公職選挙法を中心とした恩赦が行なわれたのではないかと考えておるのであります。
   そういった意味で、そういう政治的な犯罪を犯した人たちを、この際人心を一新しまして、新しく立ち直らして新出発させるという意味において行なわれました恩赦として、これまたやはりそういった意味における刑事政策的な意味があったのではなかろうか、このように考えております。
2 それから、次の昭和三十四年の皇太子御成婚の恩赦でございますが、これは復権令だけが行なわれまして、その際に、ただいまおっしゃいましたように公職選挙法を中心とした政治的な犯罪と、あと食管法とか物統令とかいいます経済関係法令違反といった者を含めた復権令が出されたわけでございます。
   この皇太子の御成婚というのは、やはり日本といたしましては国をあげてお喜び申し上げるといったような行事でございますので、そういったときに、国民に広く喜びを分かつという意味において恩赦が行なわれたのではないかと思うのでございますが、そういった日本が戦後非常な苦難をなめてきてここまで発展してきたという意味もあって、選挙関係を中心とした政治的な犯罪を犯された方々、あるいはまた経済統制でいろいろ戦中、戦後にわたって処罰されてきたような人がございますが、そういった人たちも、経済的に立ち直った日本の今日においては、そういった面で権利を回復さす必要があるのではないかということから出されたのではないかと考えておるのであります。
3 さらに、昭和四十三年の明治百年記念の恩赦でございますが、これは復権令が出されまして、ただいまおっしゃいましたように公職選挙法関係の政治関係の犯罪、それから物価統制令、食管法その他の経済関係法令、さらに道路交通法と自動車の保管場所の確保等に関する法律、こういった道路交通関係の犯罪といった者を対象にして復権令が出されたわけでございます。
   明治百年というのは、日本が徳川時代までの封建的な社会から明治の時代になって、新しい民主的な社会に一歩を踏み出した、そして明治になってから日本が国際的に発展していって今日の隆盛を見たということから、非常に記念すべきときである。
   これを記念して国民とともに喜ぶとともに、さらに将来に対して国家の発展を記念するという意味における明治百年記念の恩赦が行なわれたのも、また一つの意味があるのではないかと思うものであります。
   日本がこんなに立ち直ったというようなことは、その政治に当たられた方々の非常な功績もあるのではなかろうかと思っておりますが、そういった意味における政治的な犯罪に対する恩赦、これは復権でございますが、そういった意味において権利を回復さすということも意味があるのではないかと思っております。
4 さらにまた、経済統制関係の違反につきましては、そのようにもうすでにその当時、経済的にほとんど立ち直ってこんな隆盛を見ておる時代でございますから、そういった意味における犯罪を犯した人の権利を回復させたり、さらにまた道路交通につきましては、道路交通法違反というのはこれまでに非常に数が多かったわけでございます。
   該当者は、ちょっとお手元に差し上げております数字は、一応こちらでチェックできましたものだけが載っておるのですが、実際はこれは一千万以上ございます。何人かちょっと把握できないくらい多かったわけでございますが、それほど道路交通法違反者というものが、みな罰金を払ったりあるいはまたその他の刑罰に処せられて前科になっておったのでございますが、いわゆる交通反則金制度ができましたのと置きかえに、やはりこの際それらの人たちは権利を回復さすのが相当であろうといったような配慮から、この復権令の中に入れられたものと考えるのであります。
5 私は、そういう意味において、これらの恩赦はそれぞれ意味がございまして、合理性も盛った、やはり刑事政策的な意味も盛り込んだ恩赦ではなかったのではなかろうかというふうに考えておるわけでございます。

* 「戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦」も参照してください。

昭和天皇の崩御に伴う大赦令,復権令,国家公務員等の懲戒免除等のあらまし

〇平成元年2月24日に昭和天皇の大喪の礼が新宿御苑において国事行為として実施されましたところ,平成元年2月13日付の官報号外17号の「本号で公布された法令のあらまし」として以下の記載があります。

大赦令(政令第二七号)(法務省)
1 昭和六四年一月七日前に食糧管理法違反などの経済統制関係法令違反の罪の一部、外国人登録法違反の罪のうち法改正がなされたことによって罪とならなくなった行為に係る指紋不押なつの罪と外国人登録証不携帯など刑として罰金が法定刑とされている罪及び軽犯罪法等一二の法律に定められている刑として拘留又は科料が法定刑とされている罪を犯した者は、赦免することとした。(第一条関係)
2 1の各号に掲げる罪がその他の罪との一所為数法又は牽連犯の関係にあるときは、赦免しないこととした。(第二条関係)
3 この政令の施行期日は、平成元年二月二四日とすることとした。(附則関係)

複権令(政令第二八号)(法務省)
1 罰金に処せられた者で、次に掲げるものは、法令の定めるところにより喪失し又は停止されている資格を回復することとした(以下「復権する。」という。)(第一条関係)
(一) 昭和六四年一月七日(以下「基準日」という。)の前日までに罰金を完納した者(政令施行の日において復権する。)
(二)(1)基準日の前日までに罰金の一部又は全部を納めていない者で、平成元年五月二三日までに罰金を完納し、他に罰金に処せられていないもの(罰金完納が政令施行の日の前日までに行われた場合は政令施行の日において、それ以降の場合は罰金完納の翌日において、それぞれ復権する。)
(2) 基準日の前日までに判決の宣告(略式命令の送達を含む。)を受け、平成元年五月二三日までに罰金を完納した者で、他に罰金に処せられていないもの((1)に同じ。)
2 禁錮以上の刑に処せられた者で、刑の執行終了後基準日の前日までに五年以上を経過したものは、政令施行の日において、復権することとした。(第二条関係)
3 罰金及び禁錮以上の刑に処せられた者は、罰金については1の、禁錮以上の刑については2の、いずれの要件にも該当する場合に限り、復権することとした。(第三条関係)
4 この政令の施行期日は、平成元年二月二四日とすることとした。(附則関係)

昭和天皇の崩御に伴う国家公務員等の懲戒免除に関する政令(政令第二九号)(総務庁)
1 国家公務員、公証人、弁護士等及びこれらの者であった者並びに日本専売公社等の職員であった者のうち法令の規定により昭和六四年一月七日前の行為について平成元年二月二四日前に減給、過料、過怠金、戒告又は譴責の懲戒処分を受けた者に対しては、将来に向かってその懲戒を免除するものとすることとした。
2 この政令は、平成元年二月二四日から施行することとした。

昭和天皇の崩御に伴う予算執行職員等の弁償責任に基づく債務の免除に関する政令(政令第三〇号)(大蔵省)
1 昭和天皇の崩御に際会し、大赦及び一般的復権が行われることに伴い、公務員等の懲戒免除等に関する法律に基づき、次に掲げる国及び公庫等の予算執行職員等の弁償責任に基づく債務で昭和六四年一月七日前における事由によるものを将来に向かって免除することとした。
(一) 予算執行職員等の責任に関する法律に規定する予算執行職員
(二) 特別調達資金設置令等の規定により予算執行職員等の責任に関する法律の適用を受ける職員
(三) 会計法に規定する出納官吏等
(四) 物品管理法に規定する物品管理職員等
(五) 予算執行職員等の責任に関する法律等に規定する公庫等の予算執行職員等
2 この政令は、平成元年二月二四日から施行することとした。

*1 法律のひろば1989年4月号16頁には以下の記載があります。
   昭和天皇は、激動の時代に長く在位され、我が国及び世界の平和と国民生活の安定を念願された。その御遺徳を思うとき、御崩御に際して、誰しもが、我が身を慎しみ新しい時代に強く正しく生きようとする意欲を抱いたであろう。この点に思いを致せば、今次恩赦に対しては、一般的に犯罪者に対しても人心一新の効果と恩赦の感銘力を認めることができるので、刑事政策的観点に基づく恩赦としての評価を与えられると考える。
   また、その規模は、戦後最大の平和条約発効恩赦に次ぐものとなった。その後の恩赦の内容と昭和天皇の御崩御が国民一般に与えた影響を思えば納得し得ると言える上、右恩赦に含められた減刑令が除かれたことは、当時釈放者の相当数が再犯に出たことにかんがみ特別基準恩赦にゆだねたからであり、現在の犯罪情勢を加味し刑事政策的配慮を払ったものと言える。
*2 現在の上皇の即位の礼に際しては,①大赦,②国家公務員等の懲戒免除及び③予算執行職員等の弁償責任に基づく債務の免除は実施されませんでした。

恩赦の効果

目次
1 総論
2 大赦(恩赦法3条)
3 特赦(恩赦法4条及び5条)
4 減刑(恩赦法6条及び7条)
5 刑の執行の免除(恩赦法8条)
6 復権(恩赦法9条及び10条)
7 恩赦による公民権の回復
8 恩赦法に基づく復権を得た場合,犯罪経歴証明書に記載される前科ではなくなること
9 恩赦法に基づく復権を得た場合,犯罪人名簿に記載される前科ではなくなること
10 入管法所定の上陸拒否事由との関係
11 大赦令及び復権令が出た昭和天皇崩御に伴う恩赦における,検察庁の内部事務
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1 総論
(1) 令和元年の御即位恩赦
ア 令和元年の御即位恩赦における復権令(令和元年10月22日政令第131号)は,罰金刑に基づく罰金を支払った後,他に罰金刑(交通違反の青切符とは異なります。)に処せられずに3年が経過した時点で復権を認めるというものです。
   また,即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)は,罰金刑に基づく罰金を支払った後,3年が経過していない人について,出願により個別恩赦を認めるというものです。
イ 罰金刑に基づく罰金を支払った後,他に罰金刑(交通違反の青切符とは異なります。)に処せられずに5年が経過している人の場合,前科抹消に関する刑法34条の2に基づき,令和元年の御即位恩赦とは関係なく既に前科が抹消されています。
ウ 復権した場合,①警察庁が発行する犯罪経歴証明書(海外の大使館・移民局等に提出するもの)に記載される前科ではなくなりますし,②市区町村役場が作成する犯罪人名簿に記載される前科ではなくなりますし,③法令上の資格制限(例えば,選挙違反の罰金刑に基づく選挙権及び被選挙権の停止)がなくなります。
   ただし,前科調書作成のために検察庁が管理している犯歴の抹消は,有罪の判決を受けた人が死亡した時点で行われている犯歴事務規程18条参照)のであって,復権によって犯歴が抹消されるわけではないです。
(2) 恩赦の効果に関する一般論
ア 恩赦は刑事事件の有罪判決を対象とするものでって,行政処分等とは関係がないです。
   そのため,例えば,恩赦によって,①交通違反の違反点数が消滅して優良運転者免許証(ゴールド免許)又は個人タクシーの受験資格を回復できるようになったり,②運転免許の取消し又は停止が救済されたり,③運転免許証の欠格期間が短縮されたり,④交通違反の反則金の支払義務が消滅したり,⑤医師法違反等を理由とする医師に対する行政処分(戒告,医業停止及び免許取消)が消滅したり,⑥健康保険の不正請求等を理由とする保険医療機関指定の取消又は保険医登録の取消が消滅したりすることはありません。
イ 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦及び平成2年の御即位恩赦における復権令は,経過期間の制限なしに罰金刑を復権対象としていたものの,これは罰金刑に基づく罰金を支払い終えた人の罰金前科を抹消しただけであって,酒気帯び運転等に基づく罰金の支払義務を消滅させたわけではありません。
ウ 有罪の言渡しに基く既成の効果は,大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権によって変更されることはありません(恩赦法11条)。
   そのため,例えば,復権の対象になったとしても,納付した罰金を返金してもらうことはできません。
(3) 恩赦の効力が生じる日
ア 政令恩赦は,付則に定めた日に効力が生じるのであって,例えば,復権令(令和元年10月22日政令第131号)は令和元年10月22日に効力が生じました。
イ 個別恩赦は,天皇の認証があった日に効力が生じます(前科登録と犯歴事務(五訂版)159頁)。
(4) その他
ア 恩赦は,刑事政策的には仮釈放及び保護観察制度と基本的思想において共通するものです(法律のひろば1989年4月号29頁参照)。
イ 以下の外部記事が非常に参考になります。
① 法務省HPの「現行の恩赦制度」
② 国立国会図書館HPの「恩赦制度の概要」

2 大赦(恩赦法3条)
(1)ア 有罪の言渡しを受けた者についてはその言渡しの効力を失わせるものであり(恩赦法3条1号),まだ有罪の言渡しを受けない者については公訴権を消滅させるものです(恩赦法3条2号)。
イ 再審公判において,実体審理をせずに直ちに免訴の判決をすべきであるとしても,名誉回復や刑事補償等との関連では再審を行う実益があることから,大赦により赦免されたにもかかわらず,無罪を主張して再審を請求することは許されます(東京高裁平成17年3月10日決定)。
(2)ア 起訴されている犯罪について大赦があった場合,裁判所は免訴判決を下します(刑訴法337条3号)。
イ 免訴判決に対し被告人が無罪を主張して上訴することはできませんし(最高裁大法廷昭和23年5月26日判決,最高裁大法廷昭和29年11月10日判決,最高裁大法廷昭和30年12月14日判決),再審の審判手続においても,免訴判決に対し被告人が無罪を主張して上訴することはできません(最高裁平成20年3月14日判決)。
(3) 大赦の対象となった場合,有罪の言渡しを受けた者は, もはや刑の執行を受けることがなくなるばかりでなく,有罪の言渡しを受けたため法令の定めるところによって喪失し,又は停止されている資格も回復することになります。
(4) 大赦令により赦免され,刑の言渡しの効力を失った前科であっても,第一審においてその前科調書を証拠として取り調べ,右受刑の事実を審問し,又は第二審においてこれを前審の量刑当否の判断の資料に供したからといって,違法ということはできません(最高裁昭和32年6月19日判決)。

3 特赦(恩赦法4条及び5条)
(1)   有罪の言渡しの効力を失わせるものをいいます。
(2) 特赦が行われた場合,その者に対する有罪の言渡しの効力が失われますから,その者は,大赦になった場合と同様, もはや刑の執行を受けることがなくなるばかりでなく,有罪の言渡しを受けたため法令の定めるところによって喪失し,又は停止されている資格も回復することとなります。
(3)ア 大赦又は特赦により有罪の言渡しの効力が失われた場合,刑法56条に基づく累犯加重の要件を欠くこととなり(大赦につき最高裁昭和28年10月16日判決,執行猶予の欠格事由(刑法25条1項各号及び27条の2第1項各号)もなくなります。
   これに対して,恩赦としての復権を受けただけの場合,資格を回復するに過ぎませんから,累犯加重の対象となります(最高裁昭和25年2月14日判決)し,執行猶予の欠格事由が残ります。
イ 累犯加重というのは,懲役に処せられた者がその執行を終わった日から5年以内に更に罪を犯して有期懲役に処せられる場合,再犯者として刑を加重するというものです(刑法56条及び57条。なお,有期懲役の上限が30年であることにつき刑法14条2項)。
(4)ア 昭和54年から昭和63年までの常時恩赦による特赦は,業務上過失傷害又は道路交通法違反により罰金に処せられたことが藍綬褒章等の栄典を受ける上で障害となっていた人に対して実施されていました(法律のひろば1989年4月号28頁参照)。
イ 褒章条例取扱手続(明治27年1月6日閣令第1号)6条は以下のとおりです。
   褒章条例ニ依リ表彰セラルヘキ者具申後行賞前ニ於テ死亡シ又ハ罰金以上ノ刑ニ該ル罪ヲ犯シタル者ナルコトヲ知リタルトキハ地方長官ハ速ニ其ノ旨主務大臣ニ申報シ主務大臣ハ之ヲ賞勲局総裁ニ通知スヘシ
ウ 平成6年以降,常時恩赦による特赦は実施されたことがありません(「恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放」参照)。

4 減刑(恩赦法6条及び7条)
(1)ア 言渡しを受けた刑を減軽し,又は刑の執行を減軽するものをいいます。
イ 例えば,たとえば懲役5年を懲役4年に短縮し,又は懲役3年,5年間執行猶予を懲役2年,4年間執行猶予に変更するといったものをいいます。
(2) ①政令恩赦に基づく一般減刑(恩赦法7条1項),及び②個別恩赦に基づく特別減刑(恩赦法7条2項)があります。
(3)ア 刑の執行猶予の言渡しを受けてまだ猶予の期間を経過しない者に対しては,刑を減軽する減刑のみを行うものとし,また,これとともに執行猶予の期間を短縮することができます(恩赦法7条3項及び4項)。
   例えば,刑期及び執行猶予期間をそれぞれ4分の1短縮するという風に減刑を行います。
イ 恩赦法7条3項及び4項の文言上,執行猶予期間を短縮するだけの減刑を実施することはできません。
(4) 刑を減軽し,又はこれとともに執行猶予の期間を短縮する減刑が行われた場合,宣告刑自体が変更されますから,刑の執行終了日や執行猶予期間満了日に変動を生じます。
   また,刑の時効期間(刑法32条),刑の言渡しの効力の消滅期間(同法34条の2)の起算日,資格の喪失又は停止を規定した法令の適用にも変動を生じ,喪失し又は停止されている資格の回復が早まる結果となります。
(5) 平成9年以降,常時恩赦による減刑は実施されたことがありません(「恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放」参照)。

5 刑の執行の免除(恩赦法8条)
(1) 刑の言渡しが確定した人に対して,言い渡した刑を変更することなく,その執行を免除するものです。
   そのため,自由刑について刑の執行の免除を得た場合,残りの執行期間の全部の執行を免れることとなり,罰金刑など財産刑について刑の執行の免除を得た場合,納付義務を免れることとなるなど,刑の執行が終了したのと同じ状態となります。
(2) 刑の執行猶予の言渡しを受けた人は対象外です(恩赦法8条ただし書)。
(3) 刑の執行の免除は,有罪の言渡しを受けたことによって喪失し又は停止されている資格を回復させる効力はなく,その資格回復がなされるためには,更に恩赦法による復権が行われる必要があります。
   ただし,刑の言渡しの効力の消滅期間(刑法34条の2)の起算日及び満了日が早まるから,間接的には資格回復を早める効果があります。
(4)ア 昭和54年から昭和63年までの常時恩赦による刑の執行の免除のうち,検察庁からの上申に基づくものは,病気等により長期にわたり刑の執行を停止されている者又は追徴金未納者に対して実施されていました。
   前者については,本人が自己の刑責を反省し,行状が良好であって,改悛の情が認められ,再犯をしないことを誓っている上,刑の執行停止の事由となっている病気が治癒せず,今後も好転する見通しがなく,刑の執行の見込みがない場合などに行われていました。
   また,後者については,長期間にわたり納付状況に誠意が認められ,かつ,改悛の情顕著にして行状が良好な者で,資産がなく,収入状況も最低生活を維持しているに過ぎない上,老齢,病気,心身の障害等により今後就労することが困難である者などに対して行われていました(法律のひろば1989年4月号28頁参照)。
イ 常時恩赦における刑の執行の免除のうち,保護観察所の長からの上申に基づくものは,主として無期刑仮釈放者が更生したと認められる場合に,保護観察を終了させる措置として行われています(平成17年版犯罪白書の「第5節 恩赦」参照)。
ウ 平成29年に実施された刑の執行の免除は1件だけです(「恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放」参照)。

6
 復権(恩赦法9条及び10条)
(1) 刑の執行を終了した人等に対し,法令の定めにより喪失し,又は停止されている資格を回復させるものをいい,社会的活動の障害を取り除くために行われます。
(2) 執行猶予期間中の人が復権の出願をすることはできません。
(3)ア 復権の方法として,①政令恩赦に基づく一般復権,及び②個別恩赦に基づく特別復権があります。
イ 復権の効果として,①法令上の資格の全部を回復させる全部復権,及び②法令上の資格の一部を回復させる部分復権があります(部分復権につき恩赦法10条2項参照)ところ,少なくとも平成時代の政令恩赦による復権は全部復権です。
(4)ア 恩赦法による復権を得ていない場合であっても,再び罰金以上の刑に処せられていない限り,懲役刑若しくは禁固刑の終了から10年,又は罰金刑の終了から5年が経過した時点で,刑の言渡しが効力を失う(刑法34条の2第1項)結果,資格を回復することとなります。
イ 刑法34条の2は,刑法の一部を改正する法律(昭和22年10月26日法律第124号)によって追加された条文であり,施行前に刑の言渡しを受けた人にも適用されました。
ウ 恩赦の実施について(平成元年2月6日付の法務事務次官の依命通達)には以下の記載があります。
   法第34条の2により刑の言渡し若しくは刑の免除の言渡しの効力を失った者又は同法第27条により刑の言渡しの効力を失った者については,赦免及び復権の余地はない。
エ 前科調書作成のために検察庁が管理している犯歴の抹消は,有罪の判決を受けた人が死亡した時点で行われています犯歴事務規程18条参照)。
(5)ア 復権そのものは,処せられた刑についての刑事法上の効果そのものには何らの影響を与えるものではないのであって,執行猶予,累犯,刑の消滅等の刑法総則の適用上何らの変更も生じません(法律のひろば1989年4月号33頁)。
イ   裁判所が,刑の量定にあたって,復権した公職選挙法違反の前科を参酌することは憲法14条及び39条に違反しません(最高裁昭和39年12月15日判決)。
(6) 保護観察に付されたことがある者の復権については,保護観察所の長が上申権者となりますところ,法律のひろば1989年4月号29頁には以下の記載があります。
   保護観察に付されたことのある者については一般的には具体的な資格の回復が必要なものはほとんどなく、その大多数のものは結婚とか就職、あるいは妻子に前歴を秘匿するなど社会生活又は家庭生活において刑に処せられたことが精神的負担になっている場合が多いが、このように現実に特定の資格の回復の必要がなくとも、一般社会人並に各法令で定めている資格を取得することが可能な状態にする、いわば将来支障の生ずることがあり得る資格の制限を事前に回復する趣旨で復権が行われている。そして、復権が行われると市区町村役場に備え付けられている犯罪人名簿から抹消されるので、本人の精神的安定と健全な社会人としての自覚を高め、社会復帰を助ける大きな力となっています。
(7) 復権を得たとしても,自動車運転免許の停止のような行政処分は資格回復の対象とならず、反則行為により付された点数(道路交通法施行令別表第2)が消滅することもありません「恩赦制度の概要」7頁)。
(8)ア 明治憲法に基づく恩赦令(大正元年9月26日勅令第23号)(同日付の官報号外(リンク先PDF22頁以下)で公布)の場合,復権の恩赦についてだけ,本人の出願が認められていました(恩赦令13条及び15条1項参照)。
   これに対して,昭和22年5月3日施行の恩赦法の場合,刑の言渡しを受けた者に対し広く恩赦の機会を得させる趣旨で,大赦を除くすべての恩赦に一定の条件を付して出願が認められることとなりました(逐条恩赦法釈義(改訂3版)76頁)。
イ 明治憲法時代,復権の出願は刑の執行終了後3年が経過した後にできました(恩赦令15条2項)。
   これに対して,昭和22年5月3日施行の恩赦法の場合,復権の出願は刑の執行終了直後からできるようになりました(恩赦法施行規則7条)。


7 恩赦による公民権の回復
(1) 以下の人は公民権(選挙権及び被選挙権)(労働基準法7条参照)を有しません(総務省HPの「選挙権と被選挙権」参照)。
① 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者(公職選挙法11条1項2号)
・ 刑務所から仮釈放された場合であっても,刑期が満了するまでは公民権を有しないということです。
② 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者は除く。)(公職選挙法11条1項3号)

・ 政治家が詐欺罪,弁護士法違反等により執行猶予付の有罪判決を受けた場合,公民権は停止しません。
③ 公職にある間に犯した収賄罪,又は公職者あっせん収賄罪により刑に処せられ,実刑期間経過後5年間(被選挙権は10年間)を経過しない者(公職選挙法11条1項4号及び11条の2),又は刑の執行猶予中の者(公職選挙法11条1項4号)

・ 平成 4年12月16日法律第98号に基づき,同日以降の行為に基づく収賄罪により執行猶予付きの判決が確定した場合,公民権が停止することとなりました。
・ 平成 6年 2月 4日法律第2号に基づき,収賄罪により実刑判決を受けた場合,実刑期間経過後5年間,公民権が停止されることとなりました。
   例えば,令和元年7月21日投開票の第25回参議院議員通常選挙・比例区で当選した鈴木宗男参議院議員(日本維新の会)の場合,平成9年ないし平成10年の行為に基づくあっせん収賄罪等により懲役2年の実刑判決を受けたものの,刑期満了から5年が経過した平成29年4月30日に公民権を回復しました。
・ 平成11年 8月13日法律第122号に基づき,平成11年9月2日以降の行為により刑に処せられた場合,実刑期間経過後10年間,被選挙権が停止されることとなりました。
④ 選挙に関する犯罪で禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行猶予中の者(公職選挙法11条1項5号)
⑤ 公職選挙法等に定める選挙に関する犯罪により,選挙権及び被選挙権が停止されている者(公職選挙法11条2項及び252条)
・ 例えば,一定の罪で罰金刑に処せられた場合,裁判確定の日から5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます。
・ 裁判所は,情状により,選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず,又はその規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告できます(公職選挙法252条4項)。
⑥ 政治資金規正法に定める犯罪により選挙権及び被選挙権が停止されている者(政治資金規正法28条)
・ 平成6年2月4日法律第4号に基づき,平成7年1月1日から適用されています。
・ 例えば,一定の罪で罰金刑に処せられた場合,裁判確定の日から5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます。
・ 裁判所は,情状により,選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず,又はその規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告できます(政治資金規正法28条3項)。
(2) 公職選挙法252条又は政治資金規正法28条に基づき公民権を有しない人は選挙運動をすることもできません(公職選挙法137条の3)。
   ただし,①ないし④の人は特赦を受ければ公民権を回復しますし,⑤及び⑥の人のうち,罰金刑を受けたにすぎない人は復権を受けるだけで公民権を回復します。
(3) 「選挙違反者にとっての平成時代の恩赦」も参照してください。

8 恩赦法に基づく復権を得た場合,犯罪経歴証明書に記載される前科ではなくなること
(1)ア 犯罪経歴証明書(「無犯罪証明書」ともいいます。)は,海外の公的機関(大使館・移民局等)の求めに応じて取得するものであります(警視庁HPの「渡航証明(犯罪経歴証明書)の申請について」参照)ところ,警察庁HPに掲載されている「犯罪経歴証明書発給要綱について(通達)」には以下の記載があります。
5 警察本部長は、4の回答により申請者が犯罪経歴を有しないことを確認した場合には別記様式第2号の証明書を、申請者が犯罪経歴を有することを確認した場合には別記様式第3号の証明書を作成して申請者に交付するものとする。
6 5の確認において、次の(1)から(7)までのいずれかの場合に該当する申請者は、当該(1)から(7)までに規定する犯罪については犯罪経歴を有しないものとみなす。
(1) 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過しているとき。
(2) 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を受け、罰金以上の刑に処せられられないで10年を経過しているとき。
(3) 罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を受け、罰金以上の刑に処せられないで5年を経過しているとき。
(4) 恩赦法(昭和22年法律第20号)の規定により大赦若しくは特赦を受け、又は復権を得たとき。
(5) 道路交通法(昭和35年法律第105号)第125条第1項に規定する反則行為に該当する行為を行った場合であって、同条第2項各号のいずれにも該当しないとき。
(6) 少年法(昭和23年法律第168号)第60条の規定により刑の言渡しを受けなかったものとみなされたとき。
(7) 刑の言渡しを受けた後に当該刑が廃止されたとき。
イ 警察庁HPには「犯罪経歴証明書発給要綱の運用について(通達)」が別途,掲載されています。
(2) 恩赦法に基づく復権を得た場合,禁錮以上の刑について10年が経過する前,及び罰金以下の刑について5年が経過する前であっても,犯罪経歴証明書に記載される前科ではないこととなります。
   ただし,この場合,犯罪経歴証明書発給申請書(別記様式第1号)の注記欄にあるとおり,同申請書と一緒に,特赦状,復権状等を提出する必要があります。

9 恩赦法に基づく復権を得た場合,犯罪人名簿に記載される前科ではなくなること
(1) 犯罪人名簿は,もともと大正6年4月12日の内務省訓令第1号により市区町村長が作成保管すべきものとされてきたものですが,戦後においては昭和21年11月12日内務省発地第279号による同省地方局長の都道府県知事あて通達によって選挙資格の調査等の資料として引きつづき作成保管され,昭和22年に地方自治法が施行されてのちも明文上の根拠規定のないまま従来どおり継続して作成保管されています(最高裁昭和56年4月14日判決における裁判官環昌一の反対意見参照)。
(2)ア 罰金以上の刑に処する裁判が確定した場合,地方検察庁の本庁の犯歴事務担当官は,本籍市区町村長に対し,既決犯罪通知書を送付してその裁判に関し必要な事項を通知します(犯歴事務規程3条4項)から,本籍市区町村長はこれによって犯罪歴を把握しています。
イ 前科登録と犯歴事務(五訂版)9頁には,「昭和35, 6年ころから道路交通法違反事件が急増し,従来の方式のままではその犯歴を適正かつ的確に登録管理することが不可能になったため, 同37年6月には,道路交通法違反の罪に係る裁判で罰金以下の刑に処したものについては,市区町村長に対する既決犯罪通知をしない取扱いが実施され」と書いてあります。
 そのため,道交法違反の罰金前科については,そもそも本籍市区町村の犯罪人名簿に記載されていません。
(3) 恩赦があった場合,地方検察庁の本庁の犯歴担当事務官は,本籍市区町村長に対し,恩赦事項通知書を送付して恩赦に関し必要な事項を通知します(犯歴事務規程4条及び8条)。
(4) 令和元年10月10日付の総務省の行政文書開示決定通知書によって開示された,刑の消滅等に関する照会の書式について(昭和34年8月13日付の自治庁行政局行政課長の通知)を掲載しています。
(5) 恩赦法に基づく復権の対象となった犯歴については,犯罪人名簿から削除されます。
(6) その余の詳細は「前科抹消があった場合の取扱い」を参照してください。

10 入管法所定の上陸拒否事由との関係
(1) 出入国管理及び難民認定法(略称は「入管法」です。)5条1項4号は「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。」を上陸拒否事由としています。
(2) 「刑に処せられた」とは,歴史的事実として刑に処せられたことをいうのであって,刑の確定があれば足り,刑の執行を受けたか否か,刑の執行を終えているか否かを問いません。
   また,「刑に処せられたことのある者」には、執行猶予期間中の者、執行猶予期間を無事経過した者(刑法(明治四十年法律第四十五号)第二十七条)、刑法の規定により刑の言渡しの効力が消滅した者(同法第三十四条の二)及び恩赦法(昭和二十二年法律第二十号)の規定により刑の言渡しの効力が消滅した者(同法第三条及び第五条)も含まれます出入国管理及び難民認定法逐条解説(改訂第四版)208頁)。
(3) その余の詳細は「前科抹消があった場合の取扱い」を参照してください。

11 大赦令及び復権令が出た昭和天皇崩御に伴う恩赦における,検察庁の内部事務
   この点に関して,前科登録と犯歴事務(五訂版)186頁には以下の記載があります。
   昭和64年1月7日昭和天皇の崩御に際会し,平成元年2月13日政令第27号をもって「大赦令」が, 同第28号をもって「復権令」が公布され, また, 同日法務省令第4号をもって「特赦,減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令」が公布され, これらの政令及び省令は同月24日からそれぞれ施行された。
   この度の恩赦に該当する者は,個別上申に基づく特別恩赦該当者を除き,大赦令該当者28,300人,復権令該当者10,964,000人にのぼったといわれている。恩赦令の施行後,検察庁では,大赦令及び復権令に該当する者を一人一人調査した上,捜査中の事件の大赦令該当者については不起訴処分の手続,公判係属中の事件の大赦令該当者については免訴(刑訴法337条3号)又は刑の分離決定(刑法52条,刑訴法350条)の手続,刑未執行の大赦令該当者については刑の執行不能決定の手続がそれぞれとられ,また,有罪の裁判が確定している大赦令該当者又は復権令該当者については,判決原本へのその旨の付記(恩赦法14条,同規則13条, 14条),赦免又は復権証明申立人に対するその旨の証明(同規則15条),恩赦該当者に対する赦免又は復権の通知,犯歴用電子計算機又は犯歴票への恩赦事項の登録市区町村長に対する恩赦事項の通知等の事務手続が進められたが,その事務量が極めて膨大であるため,当面の措置として,大赦令該当者,公職選挙法違反事件により公民権停止中の復権令該当者,赦免又は復権証明の申立人に対するその旨の証明など,速やかな事務処理を要すると認める案件について優先事務処理が行われた。

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① 恩赦の手続
② 戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦
 恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放
 昭和時代の恩赦に関する国会答弁
⑤ 死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑
⑥ 選挙違反者にとっての平成時代の恩赦
⑦ 令和元年の御即位恩赦における罰金復権の基準
⑧ 前科抹消があった場合の取扱い
⑨ 恩赦に関する記事の一覧

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復権令(平成2年11月12日政令第328号)

復権令(平成2年11月12日政令第328号)

内閣は、恩赦法(昭和二十二年法律第二十号)第九条の規定に基づき、この政令を制定する。

第一条 一個又は二個以上の裁判により罰金に処せられた者で、平成二年十一月十二日(以下「基準日」という。)の前日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得たものは、基準日において、その罰金に処せられたため法令の定めるところにより喪失し又は停止されている資格を回復する。ただし、他に禁錮 以上の刑に処せられているときは、この限りでない。

第二条 基準日の前日までに一個又は二個以上の略式命令の送達、即決裁判の宣告又は有罪、無罪若しくは免訴の判決の宣告を受け、平成三年二月十二日までにその裁判に係る罪の一部又は全部について罰金に処せられた者で、基準日から平成三年二月十二日までにその全部の執行を終わり又は執行の免除を得たものは、その執行を終わり又は執行の免除を得た日の翌日において、その罰金に処せられたため法令の定めるところにより喪失し又は停止されている資格を回復する。ただし、他に罰金以上の刑に処せられているときは、この限りでない。

附則

この政令は、公布の日から施行する。

*1 平成2年11月12日,今の上皇について,即位礼正殿の儀が実施されました。
*2 令和元年10月22日,今の天皇について,即位礼正殿の儀が実施されました。
*3 施行日後3ヶ月が経過した平成3年2月12日までに罰金を完納した事例についても復権を認める内容になっています。
*4 復権令の対象には,平成2年2月18日実施の第39回衆議院議員総選挙の違反で罰金刑を受けた約4300人も含まれていたため,「政治恩赦」であるとする批判が展開されました(「恩赦制度の概要」5頁)。