恩赦の手続


目次
第1 総論

1 恩赦の種類
2 政令恩赦
3 個別恩赦
4 弁護士が代理人として恩赦の出願ができること
5 その他
第2 恩赦の出願
1 恩赦の出願先
2 恩赦の出願ができるようになる時期
3 恩赦願書の記載事項及び添付書類
第3 刑事施設の長等が行う上申
1 上申権者
2 恩赦上申書及び調査書の記載例
第4 中央更生保護審査会等が行う手続
1 中央更生保護審査会の位置づけ
2 中央更生保護審査会の審査基準
3 恩赦を実施しない場合の手続
4 恩赦を実施する場合の手続
第5 特別恩赦基準における「かんがみ事項」等
1 特別基準恩赦における「かんがみ事項」
2 常時恩赦における調査事項
3 仮釈放を許可する基準
第6 恩赦に関する法令及び訓令・通達
1 恩赦に関する法令
2 恩赦に関する訓令・通達
3 平成時代の特別恩赦基準に関する法務省の通達等
4 選挙事務の取扱いに関する自治省及び総務省の通達
第7 恩赦の実績
1 常時恩赦の実績
2 特別基準恩赦の実績
第8 令和元年の御即位恩赦の申請の弁護士費用及び依頼方法(令和元年10月29日追加)
1 令和元年の御即位恩赦の申請の弁護士費用
2 令和元年の御即位恩赦の申請の依頼方法
第9 関連記事
   
第1 総論

1 恩赦の種類
   恩赦を実施方法で分けた場合,政令恩赦及び個別恩赦の二種類があります(憲法7条6号,73条7号)。
2 政令恩赦
(1) 政令で罪の種類,基準日等を定め,該当する者に対して一律に行うものであり,大赦,減刑及び復権がこの方法で行われます。
   具体的には,大赦令,減刑令及び復権令は政令恩赦です。
(2) 復権令は要件を定めて行えば足り(恩赦法9条),大赦令(恩赦法2条)及び減刑令(恩赦法6条)と異なり,罪又は刑の種類を定める必要はありません。
(3) 政令恩赦を実施するに当たり,意見公募手続(「パブリックコメント」又は「パブコメ」ともいいます。)(行政手続法39条)を実施する必要はありません(行政手続法3条2項2号)。
(4) 令和元年10月22日の御即位恩赦における政令恩赦は,復権令(令和元年10月22日政令第131号)だけでした。
3 個別恩赦
(1) 特定の人に対して個別的に中央更生保護審査会の審査を経た上で行われるものであり,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権がこの方法で行われます。
(2) 個別恩赦には以下の二種類があります。
① 常時恩赦
   普段から随時,個別的に行われる恩赦です。
② 特別基準恩赦
   国家的慶弔などの際に,内閣が閣議決定で定める基準により,一定の期間に限り個別的に行われる恩赦です。
(3) 特別基準恩赦は内閣が閣議決定で定める基準に基づいて行われますから,政令恩赦に近い性格を帯びるものの,個別恩赦の一種です。
(4) 上申権者に対して恩赦申請(恩赦願書の提出)をした場合,相当又は不相当の意見を付した上申権者の上申に基づき,個別恩赦を実施するかどうかについて,中央更生保護審査会の審査が開始します。

4 弁護士が代理人として恩赦の出願ができること
(1)  「恩赦上申事務規程解説」の第12条関係4に「恩赦の出願は本人自身が行うことが望ましいが,代理人によっても可能である。この場合には,代理権限を証する書面を徴し, これを恩赦上申書に添付する必要がある。」と書いてあります。
(2)ア 自力で恩赦出願をした後に中央更生保護審査会において恩赦不相当とされた場合,これを争う手段は一切ありません。
   そのため,①罰金前科が2個以上あるとか,②過失運転致傷罪その他被害者のいる犯罪による罰金前科であるとか,③免許取消又は免許停止の処分を受けたことがあるなど,情状面で不利な事情がある場合,最初から恩赦実務に精通した弁護士に恩赦願書及び身上関係書並びに疎明資料を代理人として準備してもらう方が安全です。
イ 過去5年間の交通違反,免許停止又は免許取消しの年月日については,自動車安全運転センターの都道府県事務所において,運転記録証明書を取得することで確認できます(自動車安全運転センターHP「運転経歴に係る証明書」参照)。
ウ TAXI JOB「タクシー会社に提出が求められる?運転記録証明書について」には,「運転記録証明書は、申し込みをしてから3日後に自動車安全運転センターにて、受け取ることができます。郵送を選択した場合には、1週間から10日ほどで自宅などに届きます。」と書いてあります。
5 その他
(1) 恩赦は,刑事政策的には仮釈放及び保護観察制度と基本的思想において共通するものです(法律のひろば1989年4月号29頁参照)。
(2) 恩赦は,ある政治上又は社会政策上の必要から司法権行使の作用又は効果を,行政権で制限するものです(プラカード事件に関する最高裁大法廷昭和23年5月26日判決)。
(3) 大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権の効果については,「恩赦の効果」を参照してください。

皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)からの抜粋
   
第2 恩赦の出願
1 恩赦の出願先
(1) 特赦,減刑又は刑の執行の免除の出願をする場合

ア 被収容者は刑事施設の長,保護観察中の者は保護観察所の長,その他の者は有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官(「有罪裁判対応検察官」といいます。)に対し,特赦,減刑又は刑の執行の免除の出願を行えます(恩赦法施行規則1条の2)。
イ 例えば,保護観察が付いていない執行猶予中の人が,刑期及び執行猶予期間の両方を短縮して欲しいという減刑の出願をする場合,それが大阪地裁の有罪判決に基づくものであった場合,大阪地検の検察官が有罪裁判対応検察官となりますところ,後述するとおり上申権者は検察庁の長ですから,大阪地検検事正に対して減刑の出願を行うこととなります。
(2) 復権の出願をする場合
ア 保護観察に付されたことのある者は保護観察所の長,その他の者は有罪裁判対応検察官に対し,復権の出願を行えます(恩赦法施行規則3条)。
イ 例えば,刑務所から仮釈放された後に刑期を満了した人の場合,必ず保護観察に付されています(更生保護法40条)から,保護観察所の長に復権の出願を行うこととなります。
   これに対して罰金を支払った人の場合,それが大阪地裁の有罪判決に基づくものであった場合,大阪地検の検察官が有罪裁判対応検察官となりますところ,後述するとおり上申権者は検察庁の長ですから,大阪地検検事正に対して復権の出願を行うこととなります。
ウ 令和元年の御即位恩赦の場合,罰金復権しかありませんから,有罪裁判対応検察官が復権の出願先となります(ただし,罰金刑の保護観察付執行猶予の言渡しを受け,その後,執行猶予取消になり,罰金刑の執行を終了した場合,復権の出願先は保護観察所となります。)(法務省HPの「よくある御質問」参照)。
(3) 有罪裁判対応検察官の意義
ア 有罪裁判対応検察官とは,有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官をいいますところ,「有罪の言渡し」とは,有罪の言渡しをして確定したことをいいます。
   そのため,「有罪の言渡しをした裁判所」とは,実質的裁判をした裁判所をいうのであって,控訴棄却の言渡しをした控訴裁判所及び上告棄却の言渡しをした上告裁判所をいうわけではありません。
イ 例えば,大阪地裁の無罪判決に対して大阪高検で逆転有罪判決を受けた場合,有罪裁判対応検察官は大阪高検の検察官となります。
(4) 支部又は支所が事件を担当していた場合の出願先
ア   恩赦の上申は,刑務所の長,保護観察所の長又は検察庁の長(検事総長,検事長,検事正(区検察庁へ出願されたものを含む。)が行うこととされています。
   刑務支所又は拘置支所に収容されている者,保護観察所支部が現に保護観察を担当し若しくはかつて担当した者,又は検察庁支部若しくは区検察庁に対応する裁判所支部若しくは簡易裁判所において有罪の裁判があった者に係る恩赦願書は,支所又は支部若しくは区検察庁に提出して差し支えないものの,この場合においても,恩赦願書の宛先は支所又は支部の長等ではなく,刑務所の長,保護観察所の長又は検察庁の長(区検察庁にあっては検事正)とする必要があります(法律のひろば1993年8月号51頁参照)。
イ 上申権者が検察庁の長である場合,有罪の裁判が地方裁判所支部又は簡易裁判所でなされた案件に係る恩赦の出願の受理はもちろん,一般的な恩赦に関する照会又は相談の応接は,地方検察庁支部又は区検察庁においても行っています(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)6頁参照)。
ウ 大阪地検管内の区検察庁のうち,本庁及び支部とは別に存在しているのは,羽曳野区検察庁(富田林区検察庁の事務も取り扱っています。)だけです(大阪地検HPの「管内検察庁の所在地・交通アクセス」参照)。
2 恩赦の出願ができるようになる時期
(1) 特別基準恩赦の場合
ア 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)の場合,罰金刑に処せられた者は令和元年10月21日即位礼正殿の儀の前日)までに有罪判決(例えば,略式命令)を受け,令和2年1月21日までに有罪判決が確定していれば,直ちに個別恩赦の出願書を提出することができました。ただし,3ヶ月間の基準日の延長措置が適用される場合を除き,提出期限も令和2年1月21日でした。
イ 
即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定)の場合,懲役又は禁錮の受刑者平成2年11月11日(即位礼正殿の儀の前日)までに有罪判決を受け,平成3年2月12日までに有罪判決が確定していれば,直ちに個別恩赦の出願書を提出することができました。ただし,3ヶ月間の基準日の延長措置が適用される場合を除き,提出期限も平成3年2月12日でした。
(2) 常時恩赦の場合
ア 懲役又は禁錮の受刑者の場合,特赦,減刑又は刑の執行の免除の出願は,刑法28条所定の期間(有期刑の場合,刑期の3分の1であり,無期刑の場合,10年)が経過するまではすることができません(恩赦法施行規則6条1項3号及び4号参照)。
イ 復権の出願は,刑の執行を終わり又は執行の免除のあった後でなければできません(恩赦法施行規則7条)。
ウ 刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官が本人の出願によりした特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権の上申が理由のないときは,その出願の日から1年を経過した後でなければ,更に出願をすることができません(恩赦法施行規則8条)。
3 恩赦願書の記載事項及び添付書類
(1) 恩赦願書の記載事項
ア 
恩赦の出願書(書類の表題は「恩赦願書」です。)には以下の事項を記載し,かつ,戸籍の謄抄本を添付しなければなりません(恩赦法施行規則9条)。
① 出願者の氏名,出生年月日,職業,本籍及び住居
② 有罪の言渡しをした裁判所及び年月日
③ 罪名,犯数,刑名及び刑期又は金額
④ 刑執行の状況
⑤ 上申を求める恩赦の種類
⑥ 出願の理由
イ 恩赦の願書は,できる限り所定の様式によることが望ましい(恩赦上申事務規程12条1項)ものの,この様式によらないものでも,恩赦法施行規則9条1項の要件を具備しているものは,適法な願書として受理してもらえます(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)7頁及び8頁参照)。
(2) 恩赦願書の添付書類
ア 戸籍の謄本又は抄本は必須の添付書類です恩赦法施行規則9条)
イ 添付することが望ましい書類としては,以下のものがあります(恩赦上申事務規程12条2項参照)。
① 身上関係書
→ 法務省HPの「よくある御質問」に書式が載っています。
② 恩赦事由に該当することを証する資料
(3) 恩赦願書の記載例
① 無期刑仮釈放者の刑の執行の免除の例
② 対象刑が2刑ある有期刑仮釈放者の復権の例

恩赦願書の記載例(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書からの抜粋)



身上関係書の記載例(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)
からの抜粋)
   

第3 刑事施設の長等が行う上申
1 上申権者
(1) 特赦,減刑又は刑の執行の免除の上申

ア 本人から出願を受けた刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官は,意見を付して中央更生保護審査会更生保護法4条)
にその上申をしなければなりません(恩赦法施行規則1条の2第2項)。
イ 刑事施設の長等が行う,特赦,減刑又は刑の執行の免除の上申に当たっては,出願書に添えて,以下の書類を提出しなければなりません(恩赦法施行規則2条1項及び2項)。
① 判決の謄本又は抄本
② 刑期計算書
③ 犯罪の情状,本人の性行,受刑中の行状,将来の生計その他参考となるべき事項に関する調査書類
④ 恩赦願書の謄本
(2) 復権の上申
ア 本人から出願を受けた刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官は,意見を付して中央更生保護審査会にその上申をしなければなりません(恩赦法施行規則3条2項)。
イ 刑事施設の長等が行う,復権の上申に当たっては,出願書に添えて,以下の書類を提出しなければなりません(恩赦法施行規則4条1項,4条2項・2条2項)。
① 判決の謄本又は抄本
② 刑の執行を終わり又は執行の免除のあったことを証する書類
③ 刑の免除の言渡しのあった後又は刑の執行を終わり若しくは執行の免除のあった後における本人の行状、現在及び将来の生計その他参考となるべき事項に関する調査書類
④ 恩赦願書の謄本
(3) 刑務所長又は保護観察所の長が上申権者となっている理由
ア 受刑者については,その者の性行及び行状をよく知っている関係から,収容先の刑務所長が上申権者となっています。
イ 保護観察中の者については,その保護観察をつかさどる者がよく本人の性行及びその後の事情等について詳しく知っている関係から,保護観察所の長が上申権者となっています。
(4) 検察官が行う上申における上申権者
   検察官の上申は,恩赦上申事務の重要性に鑑み,最高検察庁の検察官がすべきものについては検事総長,高等検察庁の検察官がすべきものについては検事長,地方検察庁の検察官又は区検察庁の検察官がすべきものについては検事正が行うものとされています(恩赦上申事務規程の運用について(昭和58年12月23日付の法務省刑事局長・矯正局長・保護局長依命通達)1の(1))。
(5) 複数の罰金刑がある場合における上申事務
   2個以上の裁判により複数の罰金に処せられた者で, その有罪裁判対応検察官を異にするものについての特別復権の上申は, 出願を受けた有罪裁判対応検察官が他の有罪裁判対応検察官の意見を聴取し, これを書面上明らかにした上で一括して行います(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成5年6月9日付けの法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)第3の2の
(3))参照)。
2 恩赦上申書及び調査書の記載例
(1)ア 恩赦上申書の記載例を以下のとおり掲載しています。
① 職権で刑の執行の免除の上申をする場合
② 出願を受けて復権の上申をする場合
③ 出願を受けて特赦又は復権の上申をする場合
④ 出願を受けて減刑の上申をする場合
イ 恩赦上申書(甲)は職権で上申をする場合の書式であり,恩赦上申書(乙)は出願を受けて上申をする場合の書式です。
(2) 調査書の記載例を以下のとおり掲載しています。
① 罰金刑に処せられた者の特赦又は復権の例
② 無期刑受刑者の減刑の例
③ 無期刑仮釈放者の刑の執行の免除の例
④ 有期刑仮釈放事件の復権の例


第4 中央更生保護審査会等が行う手続
1 中央更生保護審査会の位置づけ
(1) 中央更生保護審査会(略称は「中更審」です。)は,更生保護法4条に基づき法務省に設置されており,国家行政組織法上は,いわゆる8条機関です。
(2) 個別恩赦は,中央更生保護審査会の審査の結果,相当と認めた者に対してのみ実施されます(更生保護法4条2項1号参照)。
(3) 中央更生保護審査会は,上申を待たずに職権で個別恩赦の当否を審査することは許されず,すべて上申権者の上申を待って,その当否を決定する仕組みになっています恩赦法施行規則1条参照)
2 中央更生保護審査会の審査基準
(1) 中央更生保護審査会は,恩赦を実施すべきである旨の申出を法務大臣に対してする場合,あらかじめ,申出の対象となるべき者の性格,行状,違法な行為をするおそれの有無,その者に対する社会の感情その他の事項について、必要な調査を行う必要があります(更生保護法90条1項)。
(2) 中央更生保護審査会は,刑事施設若しくは少年院に収容されている者又は労役場に留置されている者について,特赦,減刑又は刑の執行の免除の申出をする場合,その者が,社会の安全及び秩序を脅かすことなく釈放されるに適するかどうかを考慮しなければなりません(更生保護法90条2項)。
(3) 令和元年9月20日付の法務省保護局総務課恩赦係からの手紙によれば,中央更生保護委員会がする,特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権の実施についての申出に関する内規は存在しません。
3 恩赦を実施しない場合の手続
(1)   中央更生保護審査会は,特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権の上申が理由のないときは,上申をした者(=刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官)にその旨を通知しなければならず,この通知を受けた者は,出願者にその旨を通知しなければなりません(恩赦法施行規則10条)。
(2) 恩赦に係る保有個人情報については個人情報開示請求の対象ではありません(行政機関個人情報保護法45条1項)から,個人情報開示請求によって,自分の恩赦申請に関する処理の状況を知ることはできません。
(3) 中央更生保護審査会による恩赦不相当の議決に対する救済手段は設けられていません(「恩赦制度の概要」6頁及び7頁)。
4 恩赦を実施する場合の手続
(1)ア 中央更生保護審査会は,審査の結果,恩赦相当という結論に達した場合,「法務大臣に対し恩赦の申出をする」旨の議決をし,法務大臣に対し,その申出をします(更生保護法4条2項1号)。
イ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)9頁には以下の記載があります。
   審査会による恩赦上申の受理から恩赦の決定までの所要期間は通常おおむね3か月程度と見込まれるが,今次特別基準恩赦においては,罰金に処せられた者の出願により審査件数の増加が見込まれる上,諸般の事情から,特に迅速な処理が要請されると考えられるので,恩赦の上申に当たり,選挙期日の切迫等緊急を要する場合には弾力的運用を図り,いやしくも事務の遅滞により恩赦決定が本人の必要とする期日を徒過することのないよう上申手続を執る必要がある。このような案件については,緊急を要する理由を付せん等で明示すべきである。
(2) 中央更生保護審査会から恩赦の申出を受けた法務大臣は,恩赦の実施について閣議を請議し(内閣法4条3項),これを受けた内閣は,恩赦相当である場合はその旨を決定し(憲法73条7号),直ちに天皇の認証を受け(憲法7条6号),ここにおいて恩赦の効力が発生します。
5 恩赦の効力が発生した後の手続
(1) 特赦,特定の者に対する減刑,刑の執行の免除又は特定の者に対する復権があったときは,法務大臣は中央更生保護審査会をして,有罪裁判対応検察官に特赦状,減刑状,刑の執行の免除状又は復権状(いわゆる「恩赦状」です。)を送付させます(恩赦法施行規則11条1項)。
(2)ア 恩赦状の送付を受けた検察官は,自ら上申をしたものであるときは(「自庁上申」の場合です。),直ちにこれを本人に交付し,その他の場合(「刑務所上申」又は「観察所上申」の場合です。)においては,速やかにこれを上申をした者に送付し,上申をした者は,直ちにこれを本人に交付しなければなりません(恩赦法施行規則11条2項)。
イ 検察官,刑事施設の長又は保護観察所の長が本人に恩赦状を交付するに当たっては,恩赦法の趣旨,恩赦の行われた意義その他必要と認める事項を説示することとなっています(恩赦上申事務規程の運用について(昭和58年12月23日付の法務省刑事局長・矯正局長・保護局長依命通達)2の(2))。
(3) 恩赦状を本人に交付した者は,速やかにその旨を法務大臣に報告しなければなりません(恩赦法施行規則12条)。
(4)ア 恩赦状の送付を受けた検察官は,裁判書原本に恩赦事項を付記します(恩赦法14条,恩赦法施行規則13条)。
イ 恩赦事項を付記すべき裁判書原本が複数あり, その有罪裁判対応検察官を異にするときは,復権状の送付を受けた検察官は,他の有罪裁判対応検察官にその写しを送付します(皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成5年6月9日付けの法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)第9の8)。
(5) 恩赦があった場合,地方検察庁の本庁の犯歴担当事務官は,本籍市区町村長に対し,恩赦事項通知書を送付して恩赦に関し必要な事項を通知します(犯歴事務規程4条及び8条)。


恩赦事項通知書(甲)(犯歴事務規程様式第4号)→電算処理の対象となる犯歴で使用するもの

恩赦事項通知書(乙)(犯歴事務規程様式第22号)→電算処理の対象とならない犯歴で使用するもの
   
第5 特別恩赦基準における「かんがみ事項」等
1 特別基準恩赦における「かんがみ事項」
(1) 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」は,恩赦を行うに当たっての一般的な判断基準であって,「かんがみ事項」といいます。
(2)ア 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)9頁及び10頁によれば,それぞれの考慮要素の具体的内容は以下のとおりです。
① 「犯情」とは,犯罪の軽重を含む犯罪の情状をいいます。
② 「本人の性格」とは,性質,素行,知能程度,精神的疾患の有無を含む健康状態,遺伝,常習性の有無等をいいます。
   事案にもよりますが,凶悪重大事犯やいわゆる傾向犯の対象者については, この調査はかなり重要な要素を占め, この認定に資する資料はできる限り添付する必要があります。
   受刑者については,刑務所における分類調査の結果が重要な資料となりますし,出願に当たって提出される「身上関係書」の性格の記載内容も参考とされます。
③ 「行状」とは, 当該犯罪行為以外の一般的な生活態度をいい,刑の言渡し以前のものをも含みます。
④ 「犯罪後の状況」とは,改しゅんの情及び再犯のおそれの有無のほか,服役中の行状,保護観察中の行状,保護観察終了後恩赦出願までの行状を含むものの,必ずしも両者は明確に区別できるものではありません。
⑤ 「社会の感情」とは,第一義的には犯行及び恩赦に対する地域社会(犯罪地,本人の居住地及び在監者の帰住予定地)の感情を指すこととなるものの, さらにこれを踏まえて,広い視野からの良識ある社会人の法感情に基づく評価をも考慮すべきであります。
   また,応報感情の融和が刑罰の機能の一つであることにかんがみ,社会一般及び被害者(遺族)の応報感情が融和されているか否かについても重視しなければなりません。
⑥ 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況.社会の感情等」には,共犯者との均衡,近親者の状況等が含まれます。
イ 「犯情」は,判決書に記載されているものです。
2 常時恩赦における調査事項
(1) 常時恩赦における調査事項を定める更生保護法90条は以下のとおりです。
① 審査会は、前条の申出をする場合には、あらかじめ、申出の対象となるべき者の性格、行状、違法な行為をするおそれの有無、その者に対する社会の感情その他の事項について、必要な調査を行わなければならない。
② 審査会は、刑事施設若しくは少年院に収容されている者又は労役場に留置されている者について、特赦、減刑又は刑の執行の免除の申出をする場合には、その者が、社会の安全及び秩序を脅かすことなく釈放されるに適するかどうかを考慮しなければならない。
(2) 法務省HPの「第1回更生保護の犯罪被害者等施策の在り方を考える検討会(令和元年5月16日)」「配布資料1 更生保護制度の概要」2頁には以下の記載があります。
   保護観察所長による中央更生保護審査会に対する常時恩赦の上申に先立って,保護観察所が行う被害者等の感情などの調査が行われている。
   実際には,被害者等の居住地を管轄する保護観察所の保護観察官が,文書で調査を受けるか否か等の意向を確認のうえ,被害者等のもとを訪問し,被害者等から,加害者の恩赦についての考えや気持ちを聴取する方法で,行われることが通例。
3 仮釈放を許可する条件
(1) 仮釈放について定める刑法28条は以下のとおりです(刑法28条の「行政官庁」は,地方更生保護委員会です。)。
    懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。
(2)ア 犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則(略称は「社会内処遇規則」です。)28条は以下のとおりです。
   法第三十九条第一項に規定する仮釈放を許す処分は、懲役又は禁錮の刑の執行のため刑事施設又は少年院に収容されている者について、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない。
イ 社会内処遇規則28条は,仮釈放を許可する条件は以下の4つであると定めています。
① 悔悟の情及び改善更生の意欲があること
② 再び犯罪をするおそれがないこと
③ 保護観察に付することが改善更生のために相当であること
④ 社会の感情が仮釈放を是認すること
ウ  「仮釈放に関する公式の許可基準」も参照してください。
   

第6 恩赦に関する法令及び訓令・通達
1 恩赦に関する法令
(1) 根拠法令は以下のとおりです。

① 恩赦法(昭和22年3月28日法律第20号)
② 恩赦法施行規則(昭和22年10月1日司法省令第78号)
③ 更生保護法(平成19年6月15日法律第88号)
・ 犯罪者予防更生法及び執行猶予者保護観察法を整理・統合した法律であり,平成20年6月1日に施行されました。
④ 更生保護法施行令(平成20年4月23日政令第145号)
(2) 恩赦法に関する政令はありません(
法務省保護局HP「関係法令」参照)。
   また,更生保護事業法(平成7年5月8日法律第86号)に恩赦に関する定めはありません。
2 恩赦に関する訓令・通達
 恩赦上申事務規程(昭和58年12月23日付の法務大臣訓令)
・ 様式第8号が恩赦願書となっています。
② 恩赦上申事務規程の運用について(昭和58年12月23日付の法務省刑事局長・矯正局長・保護局長依命通達)
・ いわゆる「運用通達」です。
③ 
恩赦上申事務規程の解説の送付について(平成28年3月31日付の法務省保護局総務課長の通知)
・ 恩赦上申事務に関する一通りのことが書いてあります。
④ 恩赦事務処理要領の制定について(平成7年3月13日付の法務省保護局長の通達)
・ 保護観察所における恩赦に関する事務を定めています。
3 平成時代の特別恩赦基準に関する法務省の通達等
(1) 平成元年の昭和天皇御大葬恩赦
① 恩赦の実施について(平成元年2月6日付の法務事務次官の依命通達)
(2) 平成2年の御即位恩赦
① 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成2年11月12日付の法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
② 即位の礼に当たり行う特別基準恩赦の事務処理について(平成2年11月12日付の法務省保護局恩赦課長の通知)
③ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成2年11月14日付の法務省保護局恩赦課長の文書)
(3) 平成5年の皇太子御結婚恩赦
① 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準の運用について(平成5年6月9日付けの法務省刑事局長,矯正局長及び保護局長の依命通達)
② 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別基準恩赦の事務処理について(法務省保護局恩赦課長の通知)
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)
4 選挙事務の取扱いに関する自治省及び総務省の通達
① 昭和天皇の崩御に際会して行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成元年2月13日付の自治省選挙部長の通知)
② 即位の礼に当たり行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成2年11月12日付の自治省選挙部長の通知)
③ 御結婚恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成5年6月8日付の自治省選挙部長の通知)
④ 即位の礼に当たり行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(令和元年10月22日付の総務省自治行政局選挙部長の通知)
第7 恩赦の実績
1 常時恩赦の実績
(1) 平成9年以降の常時恩赦において,特赦及び減刑が認められたことはなく,刑の執行の免除及び復権が認められているだけです。
   そして,刑の執行の免除は,主として無期刑仮釈放者について行われています。
   また,復権は,主として罰金刑受刑者に対する法令上の資格制限を取り除くために行われています。例えば,赤切符による罰金前科のある,医師国家試験合格者が欠格事由としての罰金前科(医師法4条3号)を抹消するために行われています(平成18年4月6日の参議院法務委員会における杉浦正健法務大臣の答弁参照)。
   そのため,このような場合に該当しない限り,常時恩赦が認められることはありません。
(2) 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準に関する解説の送付について(平成5年6月9日付の法務省保護局恩赦課長の文書)28頁には,「常時恩赦の復権において,刑に処せられたことが,本人の就職・就業,結婚に限らず,子女の養育等広く日常の社会生活を営む上で本人の障害となっていれば復権が認められる運用とされている」と書いてあります。
(3) 「恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放」も参照してください。
2 特別基準恩赦の実績
(1) 平成時代,以下の3つの特別恩赦基準に基づく特別基準恩赦が実施されました(「戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦」参照)。
① 昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定)
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定)
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準(平成5年6月8日閣議決定)
(2) 恩赦相当率(恩赦相当件数/総受理件数)は以下の通りでした。
① 昭和天皇の崩御に際会して行う特別基準恩赦の場合,58.3%
② 即位の礼に当たり行う特別基準恩赦の場合,56.7%
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別基準恩赦の場合,75.2%(ただし,罰金刑の復権を除くと44.9%であり,罰金刑の復権に限ると91.3%
(3) 衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書(平成12年10月3日付)には以下の記載があります。
   戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮出獄中の者を除く。)は八十六人である。なお、無期懲役が確定した後、昭和三十五年以降に個別恩赦により減刑された者はいない。
   また、戦後、無期懲役が確定した後、政令恩赦により減刑された者については、十分な資料がないため、総数は不明である。なお、最後に政令恩赦により減刑が行われたのは、昭和二十七年四月の日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)の発効に際してである。




第8 令和元年の御即位恩赦の申請の弁護士費用及び依頼方法
1 令和元年の御即位恩赦の申請の弁護士費用
(1) 令和元年の御即位恩赦(締切は令和2年1月21日です。)の申請を私に依頼される場合の弁護士費用は税込みで以下のとおりです(カッコ内の罰金前科は前科抹消されていない罰金前科のことです。)。
① 法律相談料
・ 30分3000円
② 着手金
・ 11万円    (罰金前科1個の場合)
・ 16万5000円(罰金前科2個の場合)
・ 22万円    (罰金前科3個以上の場合)
③ 成功報酬金
・ 16万5000円(罰金前科1個の場合)
・ 24万7500円(罰金前科2個の場合)
・ 33万円    (罰金前科3個以上の場合)
④ 出張日当(大阪地検本庁は除く。)
・ 1万1000円~2万2000円
⑤ 切手代・レターパック代を除く実費
→ 記録閲覧を要する可能性がある場合,事件終了時に精算する予定の概算実費として2万円以上を頂きます。
(2) 恩赦申請をする実益がある人の例は以下のとおりです。
① 公職選挙法違反の罰金刑で公民権を停止されている人(「選挙違反者にとっての平成時代の恩赦」参照

② 罰金刑を受けたことが,医師,歯科医師,保健師,助産師,看護師,理学療法士,作業療法士,栄養士,調理師等の免許を申請する際の相対的欠格事由となっている人
③ 海外の公的機関(例えば,大使館,移民局)に対し,犯罪経歴証明書を提出する必要がある人(「前科抹消があった場合の取扱い」参照)
(3) ご依頼が多い場合,将来,弁護士費用を値上げをする可能性があります。

恩赦願書の書式(法務省HPの「よくある御質問」に掲載されていたもの)

身上関係書の書式1/2(法務省HPの「よくある御質問」に掲載されていたもの)
身上関係書の書式2/2(法務省HPの「よくある御質問」に掲載されていたもの)
   
2 令和元年の御即位恩赦の申請の依頼方法
(1) 私に法律相談をしたい場合,以下の記事を参照してください。
 私の略歴,取扱事件等
② 弁護士費用
③ 事件ご依頼までの流れ
④ 受任できない事件,事件処理の方針等
(2) 相談予約の電話番号は06-6364-8525です。
(3) メールでのお問い合わせは「お問い合わせ」をご利用ください。
(4) 私の法律相談を受けた後に依頼するかどうかを決めてもらえばいいです。
復権通知書(令和元年の御即位恩赦で使用されたもの)

復権証明書(令和元年の御即位恩赦で使用されたもの)

   
第9 関連記事
① 恩赦の効果
② 戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦
③ 恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放
④ 昭和時代の恩赦に関する国会答弁
⑤ 死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑
⑥ 選挙違反者にとっての平成時代の恩赦
⑦ 令和元年の御即位恩赦における罰金復権の基準
⑧ 恩赦申請時に作成される調査書
⑨ 前科抹消があった場合の取扱い
⑩ 恩赦に関する記事の一覧
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