第1 仮釈放の許可基準の全体像
1 法律上の最短時期と許可基準は別である
仮釈放については,①法律上いつから許すことができるか,②刑事施設長等が地方更生保護委員会に申出をするか,③地方更生保護委員会が審理を開始するか,④審理の結果として仮釈放を許すか,という段階を分けて理解する必要がある。刑法28条が定める有期刑の刑期の3分の1又は無期刑の10年は,①の最短時期にすぎず,その時点で申出,審理又は仮釈放が当然に行われるという意味ではない。
仮釈放を許す実質的な基準は,犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則(以下「社会内処遇規則」という。)28条が定めている。同条は,①悔悟の情及び改善更生の意欲があること,②再び犯罪をするおそれがないこと,③保護観察に付することが改善更生のために相当であることを要件とし,④社会の感情が仮釈放を是認すると認められないときは許さない,という構造を採っている。
2 4基準は順番に判断される
法務省の公表資料及び平成20年5月9日付け依命通達の公表版によれば,4基準は横並びの事情を一度に比較する単純な総合判断ではない。まず悔悟の情及び改善更生の意欲を判断し,これが認められる者について再犯のおそれを判断し,さらに保護観察の相当性を判断した上で,社会の感情が是認するかを最終的に確認する。
もっとも,判断資料には相互に関係するものが多い。例えば,刑事施設内での処遇への取組,釈放後の住居,就労,医療及び福祉の計画は,改善更生の意欲,再犯のおそれ及び保護観察の相当性のいずれにも関係し得るため,各基準の意味と具体的資料の両方を見る必要がある。
第2 仮釈放を許すことができる最短時期
1 有期拘禁刑は刑期の3分の1,無期拘禁刑は10年
現行の刑法28条は,拘禁刑に処せられた者に改悛の状があるときは,有期刑については刑期の3分の1,無期刑については10年を経過した後,行政官庁の処分によって仮釈放をすることができると定めている。令和7年6月1日に懲役及び禁錮が拘禁刑に一本化されたため,現行条文は「拘禁刑」という文言を用いている。
同日前の行為について言い渡された旧懲役又は旧禁錮の受刑者については経過措置がある。社会内処遇規則28条の「拘禁刑」は「懲役又は禁錮の刑」と読み替えられるため,現行法の説明から旧刑名の受刑者を除外して考えることはできない。
2 少年法58条の特則
少年のとき拘禁刑の言渡しを受けた者には,少年法58条の特則がある。無期拘禁刑については原則として7年を経過した後に仮釈放を許すことができるが,犯行時18歳未満であったため死刑をもって処断すべきところ無期拘禁刑となった者は10年である。また,同条は有期拘禁刑及び不定期刑についても特則を置いている。
ただし,特定少年のとき刑の言渡しを受けた者には少年法58条及び59条が適用されない。したがって,受刑者の年齢及び言渡しを受けた刑の種類を確認しないまま,刑法28条又は少年法58条の期間だけを当てはめることはできない。
第3 仮釈放審理が始まり,決定に至るまで
1 刑事施設長等による通告と申出
刑事施設長又は少年院長は,刑法28条又は少年法58条の法定期間が経過したとき,その旨を地方更生保護委員会に通告しなければならない(更生保護法33条)。さらに,法定期間が経過し,かつ,法務省令で定める基準に該当すると認めるときは,地方更生保護委員会に仮釈放を許すべき旨を申し出なければならない(同法34条)。期間経過の通告と,許可相当と判断した上での申出は別の手続である。
刑事施設長等の申出判断についても,社会内処遇規則28条の基準が用いられる。平成20年依命通達の公表版は,申出をするかどうかの審査に当たり,犯罪の内容,刑事施設内での処遇経過,被害回復への取組,釈放後の生活計画及び生活環境等を調査する枠組みを示している。
2 地方更生保護委員会による職権審理
地方更生保護委員会は,刑事施設長等の申出がない場合でも,自ら仮釈放審理を開始することができる。この場合には,あらかじめ刑事施設長等の意見を聴かなければならない(更生保護法35条)。
したがって,受刑者本人に一般的な仮釈放申請権が認められている制度ではないが,刑事施設長等の申出がなければ審理が絶対に始まらない制度でもない。特に無期刑受刑者については,後記のとおり,一定期間経過後に職権審理を開始する特別な運用が公表されている。
3 面接,被害者等の意見及び検察官の意見
地方更生保護委員会の委員は,原則として審理対象者と面接するが,重い疾病等の法定例外がある(更生保護法37条)。面接では,犯罪及び自己の問題性についての認識,改善更生への取組,釈放後の生活計画等を確認するが,審理資料は本人の説明だけに限られない。
被害者等から申出があったときは,相当でないと認める場合を除き,地方更生保護委員会が仮釈放,保護観察及び生活環境の調整に関する意見並びに被害に関する心情を聴取する(更生保護法38条)。これに対し,検察官への意見照会は同条の被害者意見聴取制度ではなく,通達に基づく調査であり,両者を同じ根拠条文の制度として扱うことはできない。
4 3人の委員による許可決定
仮釈放を許す処分は,地方更生保護委員会の3人の委員で構成する合議体が決定によって行う(更生保護法23条及び39条)。許可決定では釈放日を定め,原則として釈放後の住居を特定する。
仮釈放された者は,仮釈放の期間中,保護観察に付される(更生保護法40条)。仮釈放は刑の執行を免除する制度ではなく,施設内処遇から指導監督及び補導援護を伴う社会内処遇へ移行させる制度である。
第4 4基準の具体的な判断資料
1 悔悟の情及び改善更生の意欲
平成20年依命通達の公表版は,悔悟の情を,犯罪による被害の実情及び犯罪に至った自己の問題性を正しく認識した上で,犯罪を悔いる気持ちが認められることと説明している。面接での発言又は申告書の文言だけで判断するのではなく,その気持ちに基づく言動その他の客観的事実を把握するとされている。
改善更生の意欲については,被害者等に対する慰謝の措置並びにその計画及び準備,矯正処遇への取組,反則行為その他の施設内での生活態度,釈放後の生活計画等が判断資料になる。形式的な反省文だけで足りるものではない一方,特定の一事情だけで当然に否定されるという基準でもない。
2 再び犯罪をするおそれ
再犯のおそれは,性格,年齢,経歴及び心身の状況,犯罪の性質,動機,態様,結果及び社会に与えた影響,犯罪傾向,施設内での処遇経過,釈放後の生活計画及び生活環境等から判断される。過去の犯罪の重大性だけでなく,刑の執行中に生じた変化と,釈放後に利用できる支援を含めて将来の危険を評価する基準である。
再犯のおそれを考える際には,保護観察による指導監督,住居及び就労の支援,医療又は福祉への接続等を前提とした評価が必要になる。支援が必要であることと,直ちに仮釈放が不相当であることは同じではなく,社会内処遇によって危険を管理し改善更生を図れるかが問題となる。
3 保護観察に付することの相当性
保護観察の相当性は,悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再犯のおそれがないと認められた者について,社会内処遇へ移すことが改善更生のために実質的に相当かを最終的かつ包括的に判断する基準である。刑期満了まで施設内処遇を続ける場合と,残刑期間を保護観察の下で生活させる場合を比較する視点が含まれる。
保護観察では,遵守事項に基づく指導監督と,住居,就労,医療,福祉その他の補導援護が行われる。帰住先又は身元引受人は社会内処遇規則28条に掲げられた独立の許可要件ではないが,生活環境の調整,住居の特定及び保護観察の実効性に関わるため,実務上重要な資料となる。
4 社会の感情
社会の感情は,前の3基準を満たす者について,仮釈放を許すことが刑罰制度の原理及び機能を害しないかを最終確認する消極的要件である。平成20年依命通達の公表版は,被害者等及び地域社会の感情,検察官及び裁判官から表明された意見,刑の執行期間,犯罪の性質,動機,態様及び結果,共犯者との均衡並びに社会に与えた影響等を判断資料としている。
もっとも,「社会の感情」は個々の被害者等の賛否又は一時的な世論と同一ではなく,被害者等に拒否権を与える基準でもない。被害者等の意見及び心情は重要な審理資料であるが,地方更生保護委員会が法令及び客観的資料に基づいて最終判断をする。
第5 有期刑の仮釈放に関する最新統計
1 仮釈放率62.8%の意味
令和7年版犯罪白書によれば,令和6年に刑事施設を出所した受刑者のうち,仮釈放による出所者の割合である仮釈放率は62.8%であった。この数値は,審理を受けた者の許可率でも,全受刑者が仮釈放される確率でもなく,満期釈放者と仮釈放者を合わせた出所者に占める仮釈放者の割合である。
同年に終了した仮釈放審理の許可及び不許可の合計に占める不許可の割合は4.0%であったが,この母数には刑事施設長等の申出に至らなかった者が含まれない。仮釈放率又は審理後の不許可率だけから,特定の受刑者について許否の見通しを算定することはできない。
2 実際には刑期の大部分を執行した者が多い
令和6年の定期刑の仮釈放許可人員9477人のうち,刑の執行率が80%以上の者は7718人であり,81.5%を占めた。また,刑期10年を超える120人のうち113人,すなわち94.2%は刑の執行率が90%以上であった。
したがって,刑法28条の「刑期の3分の1」は法的な最短時期を示すにとどまり,実際の中心的な釈放時期を示すものではない。もっとも,統計は集団の分布であり,個別事件では4基準と具体的な生活環境に基づく審理が行われる。
第6 無期刑受刑者の仮釈放
1 法律上の10年と職権審理の30年
無期拘禁刑について,刑法28条が定める10年は仮釈放を許し得る最短時期である。これとは別に,平成21年3月6日付け保護局長通達は,無期刑受刑者について刑の執行開始から30年が経過したときは,その日から1年以内に地方更生保護委員会が職権で仮釈放審理を開始する運用を定めている。
この審理で許可されず,その後も仮釈放が許されない場合には,最後の審理終結から10年が経過したとき,その日から1年以内に再び職権審理を開始する。また,無期刑受刑者の審理では,特に支障がない限り,複数委員による面接,検察官への意見照会及び被害者等への面接等調査を行う運用である。
2 令和6年の運用状況
令和8年1月更新の法務省資料によれば,令和6年末に刑事施設に在所していた無期刑受刑者は1650人であった。同年に実際に仮釈放された者は1人で,在所期間は38年1月であり,同年に刑事施設内で死亡した無期刑受刑者は32人であった。
平成27年から令和6年までに終了した無期刑受刑者の仮釈放審理412件では,許可79件,不許可332件,その他1件であった。他方,令和7年版犯罪白書は令和6年の無期刑の仮釈放許可人員を2人とし,いずれも刑の執行期間が35年を超え40年以内であったとしている。前者の1人は実際に釈放された者,後者の2人は許可決定を受けた者であり,集計対象が異なる。
第7 仮釈放審理に関する裁判例
1 東京地裁令和7年3月24日判決
東京地方裁判所民事第14部令和7年3月24日判決(令和2年(ワ)第4600号)は,無期刑受刑者の仮釈放審理中に肝細胞がんを疑う重要な検査結果が判明したにもかかわらず,刑事施設が地方更生保護委員会に通知しなかったことを違法と判断した。判決は,社会内処遇規則7条に基づく通知義務に違反したとしたものであり,仮釈放を許すべきであったと直接判断したものではない。
同判決は,受刑者本人が仮釈放審理を開始できない制度を前提としつつ,仮釈放制度の刑事政策上の重要性を踏まえ,適正な手続の下で判断を受けることに対する期待を法的保護の対象とした。仮釈放の許否だけでなく,判断に必要な情報が地方更生保護委員会へ適時に提供されること自体が重要であることを示した裁判例である。
2 東京地裁平成14年6月28日判決
東京地方裁判所民事第2部平成14年6月28日判決(平成8年(ワ)第12476号)は,旧犯罪者予防更生法下で,刑事施設長の仮釈放申出判断が当時の基準に照らして合理的であれば適法であり,受刑者には仮釈放の機会について法的に保護された利益がないとした。
平成14年判決と令和7年判決は,適用法令,問題となった行為及び争点が異なるため,後者が前者を変更したと単純に位置付けることはできない。現在の制度を検討する際には,申出判断の裁量に関する旧法下の判例と,審理中の情報提供及び適正手続に関する新しい判例を区別して読む必要がある。
第8 公式基準と制度改善意見を区別する
1 否認,再審請求及び帰住先
社会内処遇規則28条には,否認又は再審請求をしていることを独立の不許可事由とする明文はない。他方,悔悟の情について犯罪による被害及び自己の問題性の認識を重視する通達上の判断枠組みとの関係で,否認又は再審請求を続ける者が不利益を受け得るという問題が指摘されている。
日弁連は,平成22年12月17日付け意見書において,否認又は再審請求をしている無期刑受刑者の取扱い,帰住先の確保,定期的審理,判断理由の告知及び不服申立制度等の改善を求めた。これらは現行法の明文要件を説明したものではなく,制度及び運用に対する改善意見として位置付ける必要がある。
2 専門書及び国際的な基準
太田達也『仮釈放の理論―矯正・保護の連携と再犯防止』86頁~87頁は,仮釈放要件と社会内処遇規則28条の許可基準の関係を検討する章の導入として,判断構造の問題を示している。同書の分析は,公式基準の背景及び制度上の課題を理解するために有用であるが,学説上の分析と法令又は法務省の公式説明は区別しなければならない。
国連被拘禁者処遇最低基準規則(ネルソン・マンデラ・ルール)87は,刑の終了前に,監督及び社会的援助と結び付いた試験的釈放等によって,受刑者を段階的に社会生活へ戻すための措置を採ることが望ましいとしている。もっとも,同規則は日本の社会内処遇規則28条の個々の許可基準を直接定めるものではなく,国内法上の要件と国際的な処遇原則を同一視することはできない。
第9 要点
仮釈放の許可基準を確認するときは,法定の最短時期,刑事施設長等の申出,地方更生保護委員会による審理開始及び4基準に基づく許可判断を分ける必要がある。受刑者本人の反省の言葉だけで決まるものでも,身元引受人又は被害者等の賛否だけで決まるものでもなく,施設内での変化,釈放後の生活環境,保護観察による支援及び社会の感情を,地方更生保護委員会が資料に基づいて判断する制度である。
また,有期刑の3分の1及び無期刑の10年は法的な最短時期にすぎない。最新統計では,有期刑の仮釈放許可者の多くが刑期の80%以上を執行し,無期刑の実際の仮釈放は極めて長い在所期間の後に少人数について行われているため,条文上の期間と現実の運用を混同しないことが重要である。
第10 出典・参考資料
1 法令
① e-Gov法令検索「刑法」28条及び29条
② e-Gov法令検索「更生保護法」23条及び33条~40条
③ e-Gov法令検索「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」7条,12条及び28条並びに附則
④ e-Gov法令検索「少年法」58条及び67条
2 法務省資料
① 法務省「仮釈放,少年院からの仮退院等,生活環境の調整」
② 法務省「令和7年版犯罪白書 第2編第5章第2節1」
③ 法務省「無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について」及び令和8年1月更新資料
④ 法務省「更生保護における犯罪被害者の方々のための制度」
⑤ 平成20年5月9日付け法務省保観第325号矯正局長・保護局長依命通達「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務の運用について」8頁~9頁及び15頁~19頁
⑥ 平成21年3月6日付け法務省保観第134号保護局長通達「無期刑受刑者に係る仮釈放審理に関する事務の運用について」
3 裁判例
① 東京地方裁判所民事第14部令和7年3月24日判決(令和2年(ワ)第4600号,裁判所ウェブサイト)
② 東京地方裁判所民事第2部平成14年6月28日判決(平成8年(ワ)第12476号,裁判所ウェブサイト)
4 意見書,国際資料及び文献
① 日本弁護士連合会「無期刑受刑者に対する仮釈放制度の改善を求める意見書」(平成22年12月17日)5頁,12頁及び16頁~17頁
② 国連総会決議A/RES/70/175「国連被拘禁者処遇最低基準規則」87
③ 太田達也『仮釈放の理論―矯正・保護の連携と再犯防止』(慶應義塾大学出版会,平成29年)86頁~87頁