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戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦――実施時期・対象人員・制度の変遷(AIリライト)

第1 恩赦の種類と人数の読み方

1 政令恩赦と個別恩赦

日本国憲法73条7号は,大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権の決定を内閣の権限とし,同法7条6号は,天皇がこれらを認証すると定めている。現行の恩赦法上,大赦は政令で罪の種類を定めて行い,減刑及び復権は政令による方法と特定人に対する方法の双方がある。特赦及び刑の執行の免除は,特定人を対象とする個別恩赦である。

個別恩赦には,平時から行われる常時恩赦と,内閣が定める基準により一定期間に限って行われる特別基準恩赦がある。特別基準恩赦は,政令恩赦の要件から漏れた者を補充する形で行われる場合が多いが,昭和27年の明仁親王立太子礼及び平成5年の徳仁親王御結婚のように,政令恩赦を伴わず単独で行われた例もある。

2 「該当人員」と個別審査後の人数

政令恩赦について公表される「該当人員」は,政令が定めた罪,刑又は基準日の要件に一律に該当する人数である。これに対し,特別基準恩赦の人数は,出願又は職権上申を経て個別審査の結果として恩赦を受けた人数である。両者は集計の性質が異なるため,同じ意味の「対象人員」として比較することはできない。

また,国立国会図書館「恩赦制度の概要」の注記によれば,昭和43年の明治百年記念恩赦及び昭和47年の沖縄復帰恩赦における復権令の人数は,復権通知及び証明事務がされた者の数である。平成元年及び平成2年の人数は概数であり,令和元年の約55万人は実施前の試算である。

第2 戦後に実施された政令恩赦

1 大赦令

戦後の大赦令は5回である。昭和20年及び昭和21年の大赦令は,日本国憲法施行前に勅令として実施されたものであり,「戦後の恩赦」と「日本国憲法下の恩赦」とは区別を要する。

実施の契機法令・施行日主な対象該当人員
第二次世界大戦終結大赦令(昭和20年勅令第579号),昭和20年10月17日施行陸軍刑法・海軍刑法違反等の罪の一部,治安維持法違反等26万4403人
日本国憲法公布大赦令(昭和21年勅令第511号),昭和21年11月3日施行陸軍刑法・海軍刑法違反等の罪の一部,治安維持法違反等4万4623人
平和条約発効大赦令(昭和27年政令第117号),昭和27年4月28日施行占領目的阻害行為処罰令違反等の罪の一部,公職選挙法違反等44万4208人
国際連合加盟大赦令(昭和31年政令第355号),昭和31年12月19日施行公職選挙法違反,政治資金規正法違反等6万9627人
昭和天皇大喪大赦令(平成元年政令第27号),平成元年2月24日施行軽犯罪法違反,未成年者喫煙禁止法違反,未成年者飲酒禁止法違反等約2万8600人

平成元年の大赦令は,公職選挙法違反,政治資金規正法違反及び最高裁判所裁判官国民審査法違反を対象に含めなかった。なお,治安維持法は昭和20年10月15日に勅令第575号によって廃止され,その2日後に同法違反の罪を対象とする大赦令が施行された。

2 減刑令

戦後の減刑令は,昭和20年,昭和21年及び昭和27年に実施され,昭和22年には先行する2件の減刑令を修正する政令が施行された。昭和20年及び昭和21年の減刑令は,原則として死刑を無期懲役に,無期懲役又は無期禁錮を20年の有期刑に,有期の懲役又は禁錮をその刑期の4分の3に減じた。放火,強盗及び強盗致死傷等の重大犯罪は対象外とされた。

実施の契機法令該当人員
第二次世界大戦終結減刑令(昭和20年勅令第580号)5万19人
日本国憲法公布減刑令(昭和21年勅令第512号)8万4776人
先行する減刑令の修正減刑令(昭和22年政令第233号)新たな集計なし
平和条約発効減刑令(昭和27年政令第118号)27万7814人

昭和27年の減刑令も,死刑を無期懲役に,無期懲役又は無期禁錮を20年の有期刑に,有期の懲役又は禁錮を原則として刑期の4分の3に減じた。政令恩赦による減刑が最後に行われたのは,この平和条約発効恩赦である。

3 復権令

復権は,有罪の言渡しに伴って法令上喪失又は停止された資格を回復させるものである。恩赦法11条により,有罪の言渡しに基づいて既に生じた効果まで変更するものではない。

実施の契機法令・施行日該当人員等
第二次世界大戦終結復権令(昭和20年勅令第581号),昭和20年10月17日施行10万9374人
日本国憲法公布復権令(昭和21年勅令第513号),昭和21年11月3日施行3万8855人
平和条約発効復権令(昭和27年政令第119号),昭和27年4月28日施行28万2470人
明仁親王御結婚復権令(昭和34年政令第113号),昭和34年4月10日施行4万5797人
明治百年記念復権令(昭和43年政令第315号),昭和43年11月1日施行14万8732人
沖縄復帰復権令(昭和47年政令第196号),昭和47年5月15日施行3万2329人
昭和天皇大喪復権令(平成元年政令第28号),平成元年2月24日施行約1014万人
即位の礼復権令(平成2年政令第328号),平成2年11月12日施行約250万人
即位の礼復権令(令和元年政令第131号),令和元年10月22日施行法務省の事前試算で約55万人

昭和43年及び昭和47年の人数は復権通知及び証明事務がされた者の数であり,他の欄と完全に同じ集計ではない。令和元年の約55万人について,法務大臣は令和元年10月23日の衆議院法務委員会で「試算」であり「見込まれております」と答弁しており,確定した実施後の人数ではない。同答弁によれば,罪名の約8割は道路交通法違反等の交通関係であった。

第3 戦後の特別基準恩赦全12回

1 種類別の実施結果

戦後の特別基準恩赦は,昭和時代に8回,平成時代に3回,令和時代に1回行われた。昭和20年及び昭和21年の2回は日本国憲法施行前であり,現在の独立した恩赦類型である「刑の執行の免除」はまだ設けられていなかった。

実施の契機基準の決定日特赦減刑刑の執行の免除復権合計
昭和20年・第二次世界大戦終結旧憲法下246人2人381人629人
昭和21年・日本国憲法公布旧憲法下1500人80人40人1620人
昭和27年・平和条約発効昭和27年3月18日1623人356人128人29人2136人
昭和27年・明仁親王立太子礼昭和27年11月10日2063人1391人24人3478人
昭和31年・国際連合加盟昭和31年12月18日337人84人224人1510人2155人
昭和34年・明仁親王御結婚昭和34年4月9日1211人286人931人513人2941人
昭和43年・明治百年記念昭和43年11月1日3250人259人119人458人4086人
昭和47年・沖縄復帰昭和47年5月15日2011人72人40人51人2174人
平成元年・昭和天皇大喪平成元年2月8日566人142人56人25人789人
平成2年・即位の礼平成2年11月9日267人77人10人44人398人
平成5年・徳仁親王御結婚平成5年6月8日90人246人10人931人1277人
令和元年・即位の礼令和元年10月18日0人0人8人20人28人

平成5年御結婚恩赦の実施日は平成5年6月9日であるが,特別恩赦基準の閣議決定日は前日の同月8日である。昭和27年の立太子礼恩赦は実施日と閣議決定日が同じであるため,両者を混同してはならない。

2 職権上申から本人の出願を原則とする制度への変化

明治憲法下の特別基準恩赦は上申権者の職権に係らせ,現行憲法下でも昭和31年の国際連合加盟恩赦までこの方式が踏襲され,基準も公表されなかった。昭和34年の明仁親王御結婚恩赦では,一部を職権上申としつつ,本人からの出願による上申を原則とし,基準の内容を明確にして公表する方式へ改められた。この方式は,昭和43年の明治百年記念恩赦以後に引き継がれた。

第4 令和元年の即位の礼に伴う恩赦

1 政令復権の範囲

令和元年の復権令は,罰金刑の全部の執行を終え,又は執行の免除を得た日から基準日前日までに3年以上が経過した者について,罰金に処せられたために喪失又は停止されていた資格を回復させた。ただし,他に禁錮以上の刑に処せられている者は除外された。法務省は,犯罪被害者及び遺族の心情等に配慮し,過去の政令恩赦より対象を限定したと説明している。

2 特別基準恩赦の出願100人と認容28人

法務省作成の「特別基準恩赦の結果について」によれば,受理件数は100件であり,内訳は刑の執行の免除18件,復権82件であった。恩赦相当とされたのは28件であり,内訳は刑の執行の免除8件,復権20件であった。全体の相当率は28%である。

同資料によれば,恩赦相当とされた28件には,性犯罪,児童の性的搾取等事犯及び選挙事犯は含まれていない。また,令和元年10月18日閣議決定の特別恩赦基準6項は,適用に当たり,本人の犯罪行為により被害を受けた者及び遺族の心情に配慮すると明記した。

第5 恩赦の制度目的と政令恩赦の手続統制

1 恩赦制度審議会が示した四つの機能

恩赦制度審議会は,昭和22年10月1日に設置され,昭和23年7月9日に最終意見書及び勧告書を提出した。同意見書は,恩赦の合理的機能として,①法の画一性に基づく具体的不妥当の矯正,②事情の変更による裁判の事後変更,③他の方法では救い得ない誤判の救済,④有罪の言渡し後の行状等に基づく刑事政策的な裁判の変更又は資格回復を挙げた。

これらは,皇室又は国家の慶弔に伴う記念的な恩赦だけを説明するものではない。法令又は社会事情の変化への対応,裁判後の事情の変化及び改善更生という制度機能を示すものである。他方,行政権が裁判の内容又は効力を変更する制度である以上,対象選定の透明性及び政治的濫用の防止が問題となる。

2 個別恩赦と政令恩赦の手続の違い

恩赦法12条により,特定人に対する特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権は,中央更生保護審査会の申出があった者について行われる。これに対し,政令恩赦について,昭和23年の最終意見書が構想した常設の外部的諮問機関は設けられていない。また,行政手続法3条2項2号は「恩赦に関する命令」を同法第6章の適用対象から除外しているため,通常の意見公募手続は法定されていない。

3 昭和32年提出の恩赦審議会設置法案

参議院議員高瀬荘太郎外4名は,昭和32年,政令恩赦の可否及び内容について,内閣があらかじめ恩赦審議会に諮問することを義務付ける恩赦法改正案を提出した。委員は,衆議院議長,参議院議長,法務大臣,最高裁判所長官,検事総長,日本学術会議会長及び日本弁護士連合会会長の7人とされた。

参議院法務委員会は昭和33年4月23日に法案と附帯決議を全会一致で可決し,参議院本会議は同月24日に法案を可決した。しかし,翌25日の衆議院解散により廃案となった。

第6 大赦後の再審と横浜事件

横浜事件の再審請求について,東京高等裁判所平成17年3月10日決定は,ポツダム宣言受諾により治安維持法が実質的に失効したとする原決定の判断には疑問を示した。他方,原確定判決が証拠とした自白の信用性に顕著な疑いが生じ,無罪を言い渡すべき新たな明確な証拠があるとして,再審開始決定を維持した。

再審公判では,横浜地方裁判所平成18年2月9日判決が,治安維持法の廃止及び大赦を理由として免訴を言い渡した。東京高等裁判所平成19年1月19日判決は,免訴判決に対して無罪を求める控訴は上訴の利益を欠くとして控訴を棄却した。

最高裁判所第二小法廷平成20年3月14日判決(平成19年(れ)第1号,刑集62巻3号185頁)は,再審の審判手続でも,刑の廃止又は大赦という免訴事由があるときは免訴規定を適用すべきであり,免訴判決に対して無罪を求めて上訴することはできないとした。同判決の補足意見は,再審公判の免訴判決が確定すれば原有罪判決は効力を完全に失うと説明している。

したがって,大赦を受けた事件について再審請求が許され得ることと,再審公判で免訴事由が実体判断に先行することとは区別を要する。

第7 常時恩赦と外国制度

1 現在も行われている常時恩赦

令和7年版犯罪白書によれば,令和6年に行われた恩赦は常時恩赦のみであり,刑の執行の免除1人及び復権10人であった。慶弔事に伴う政令恩赦又は特別基準恩赦が実施されていないことと,恩赦制度自体が運用されていないことは同義ではない。

2 イギリスの一般的恩赦と個別恩赦

国立国会図書館「恩赦制度の概要」によれば,イギリスでは1930年代以降,エリザベス2世即位,チャールズ皇太子結婚及びフォークランド紛争終結等に際して一般的・記念的恩赦は実施されなかった。他方,個人を対象とするRoyal Prerogative of Mercyによる恩赦制度は現在も存続している。国家的慶事に伴う一般恩赦が行われていないことを,恩赦制度そのものが存在しないという意味に理解してはならない。

第8 関連記事

仮釈放

仮釈放に関する公式の許可基準

常時恩赦等の件数及び無期刑受刑者の仮釈放

死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑

恩赦制度の存在理由

戦前の勅令恩赦及び特別基準恩赦

第9 出典・参考資料

1 法令

日本国憲法7条6号・73条7号(e-Gov法令検索)

恩赦法(昭和22年法律第20号)1条~12条(e-Gov法令検索)

恩赦法施行規則(昭和22年司法省令第78号)(e-Gov法令検索)

行政手続法(平成5年法律第88号)3条2項2号(e-Gov法令検索)

2 裁判例

最高裁判所第二小法廷平成20年3月14日判決(平成19年(れ)第1号,刑集62巻3号185頁,裁判所ウェブサイト。PDF1頁~8頁)

3 公文書・国会会議録・統計

① 小沢春希「恩赦制度の概要」国立国会図書館調査及び立法考査局『調査と情報―ISSUE BRIEF―』第1027号,2018年,1頁~13頁(本文の巻末表1は資料12頁・PDF14頁,巻末表2は資料13頁・PDF15頁)

② 国立公文書館「恩赦制度に関する恩赦制度審議会委員長よりの最終意見書及び勧告書」昭和23年7月9日

③ 法務省「恩赦

④ 法務省「『復権令』及び『即位の礼に当たり行う特別恩赦基準』について」令和元年10月18日

⑤ 法務省「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準」令和元年10月18日閣議決定

⑥ 法務省「特別基準恩赦の結果について」令和2年12月18日閣議後報道解禁文書(当サイト掲載PDF)

令和元年10月23日衆議院法務委員会会議録

昭和33年4月23日参議院法務委員会会議録

昭和33年4月24日参議院本会議会議録

⑩ 法務総合研究所「令和7年版犯罪白書」第2編第5章第5節

4 文献

① 武内謙治・本庄武『刑事政策学』(日本評論社,2019年)144頁~148頁

② 渋谷秀樹『憲法〔第3版〕』(有斐閣,2017年)612頁

③ 飯島暢「刑罰論から見た恩赦制度(1)~(4・完)」関西大学法学論集71巻3号,72巻2号,73巻1号,74巻1号

④ 「昭和天皇御大喪恩赦について」『法律のひろば』42巻4号,1989年,29頁~60頁