戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦

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目次
第1 総論
第2 戦後の政令恩赦(大赦令,減刑令及び復権令)の実例
1 戦後の大赦令の実例
2 戦後の減刑令の実例
3 戦後の復権令の実例
第3 平成元年以降の特別基準恩赦の実例
第4 特別基準恩赦の補足説明
第5 昭和33年4月に参議院を通過した,恩赦法の一部を改正する法律案(廃案)の内容
第6 関連記事
   
第1 総論
1 平成9年版犯罪白書「第6節 恩赦」によれば,戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦の実例は以下のとおりです。
(1) 昭和20年10月17日の恩赦
→ 太平洋戦争終結に伴い,大赦令,減刑令及び復権令,並びに特別基準恩赦が実施されました。
(2) 昭和21年11月 3日の恩赦
→ 日本国憲法公布に伴い,大赦令,減刑令及び復権令,並びに特別基準恩赦が実施されました。
(3) 昭和22年11月 3日の恩赦
→ 太平洋戦争終結の恩赦及び日本国憲法公布の恩赦における減刑令の修正です。
(4) 昭和27年 4月28日の恩赦
→ 対日平和条約発効に伴い,大赦令,減刑令及び復権令並びに特別基準恩赦が実施されました。
(5) 昭和27年11月10日の恩赦
→ 皇太子殿下(明仁親王)立太子礼に伴い,特別基準恩赦が実施されました。
(6) 昭和31年12月19日の恩赦
→ 国際連合加盟に伴い,大赦令及び特別基準恩赦が実施されました。
(7) 昭和34年 4月10日の恩赦
→ 皇太子殿下(明仁親王)ご結婚に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
(8) 昭和43年11月 1日の恩赦
→ 明治百年記念に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
(9) 昭和47年 5月15日の恩赦
→ 沖縄復帰に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
(10) 平成 元年 2月24日の恩赦
→ 昭和天皇の大喪の礼に伴い,大赦令及び復権令,並びに特別基準恩赦が実施されました。
(11) 平成 2年11月12日の恩赦
→ 現在の上皇の即位の礼に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
(12) 平成 5年 6月 9日の恩赦
→ 皇太子殿下(徳仁親王)ご結婚に伴い,特別基準恩赦が実施されました。
(13) 令和 元年10月22日の恩赦
→ 現在の天皇の即位の礼に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
2 大正天皇の即位恩赦,昭和天皇の即位恩赦及び今の上皇の即位恩赦の場合,大赦令は出されませんでした。
3 イギリスの場合,1930年代以降,例えばエリザベス 2 世女王の即位やチャールズ皇太子の結婚,フォークランド紛争終結など国家の慶事に際しても恩赦は実施されていません(「恩赦制度の概要」9頁)。
   
第2 戦後の政令恩赦(大赦令,減刑令及び復権令)の実例
1 戦後の大赦令の実例
① 大赦令(昭和20年10月17日勅令第579号。同日施行)
・ 昭和20年9月2日までに犯された①陸軍刑法,海軍刑法違反等の罪の一部(例えば,敵前逃亡の罪),②治安維持法違反等の罪が大赦となりました。
・ 対象人員は26万4403人でした。
・ 治安維持法は,昭和20年10月15日 「治安維持法廃止等ノ 件」と題する昭和20年勅令第575号が公布・施行されたことにより 同日,廃止されました。
ただし,同日以前に治安維持法が実質的に廃止されたかどうかについて,裁判所の明確な判断はありません(東京高裁平成17年3月10日決定参照)。
② 大赦令(昭和21年11月 3日勅令第511号。同日施行)
・ 昭和21年11月3日までに犯された①陸軍刑法,海軍刑法違反等の罪の一部(例えば,敵前逃亡の罪),②治安維持法違反等の罪が大赦となりました。
・ 対象人員は 4万4623人でした。
③ 大赦令(昭和27年 4月28日政令第117号。同日施行)
・ 昭和27年4月28日までに犯された占領目的阻害行為処罰令違反等の罪の一部,公職選挙法違反,最高裁判所裁判官国民審査法違反等の罪が大赦となりました。
・ 対象人員は44万4208人でした。
④ 大赦令(昭和31年12月19日政令第355号。同日施行)
・ 昭和31年12月19日までに犯された公職選挙法違反,政治資金規正法違反,最高裁判所裁判官国民審査法違反等の罪が大赦となりました。
・ 対象人員は 6万9627人でした。
⑤ 大赦令(平成 元年 2月13日政令第27号。平成元年2月24日施行)
・ 昭和64年1月7日までに犯された未成年者喫煙禁止法,未成年者飲酒禁止法,軽犯罪法違反等の罪が大赦となりました。
   ただし,公職選挙法違反,政治資金規正法違反,最高裁判所裁判官国民審査法違反等の罪は大赦の対象になりませんでした。
・ 対象人員は約2万8600人でした。
   
2 戦後の減刑令の実例
① 減刑令(昭和20年10月17日勅令第580号)
・ 昭和20年9月2日までに犯した罪について,死刑は無期懲役となり(2条),無期懲役は20年の有期懲役となり,無期禁錮は20年の有期禁錮となり(3条本文),有期の懲役又は禁錮については,原則として刑期が4分の3になりました(4条1項)。
   ただし,現住建造物等放火罪(刑法108条),強制わいせつ等致死傷罪(刑法181条),強盗罪(刑法236条),強盗致死傷罪(刑法240条),強盗強姦罪(現在の強盗・強制性交等罪)(刑法241条)等は対象外でした(5条)。
・ 対象人員は 5万  19人でした。
② 減刑令(昭和21年11月 3日勅令第512号)
・ 昭和21年11月3日までに犯した罪について,死刑は無期懲役となり(2条),無期懲役は20年の有期懲役となり,無期禁錮は20年の有期禁錮となり(3条本文),有期の懲役又は禁錮については,原則として刑期が4分の3になりました(4条1項)。
   ただし,現住建造物等放火罪(刑法108条),強制わいせつ等致死傷罪(刑法181条),強盗罪(刑法236条),強盗致死傷罪(刑法240条),強盗強姦罪(現在の強盗・強制性交等罪)(刑法241条)等は対象外でした(5条)。
・ 対象人員は 8万4776人でした。
③ 減刑令(昭和22年11月 3日政令第233号)
・ ①及び②の減刑令を修正したものです。
④ 減刑令(昭和27年 4月28日政令第118号)
・ 死刑は無期懲役となり(2条),無期懲役は20年の有期懲役となり,無期禁錮は20年の有期禁錮となり(3条本文),有期の懲役又は禁錮については,原則として刑期が4分の3になりました(4条1項)。
   ただし,現住建造物等放火罪(刑法108条),汽車転覆等致死罪(刑法126条),強制わいせつ等致死傷罪(刑法181条),強盗罪(刑法236条),強盗致死傷罪(刑法240条),強盗強姦罪(現在の強盗・強制性交等罪)(刑法241条)等は対象外でした(7条1項)。
・ 対象人員は27万7814人でした。
   
3 戦後の復権令の実例
① 復権令(昭和20年10月17日勅令第581号)
・ 対象人員は10万9374人でした。
② 復権令(昭和21年11月 3日勅令第513号)
・ 対象人員は 3万8855人でした。
③ 復権令(昭和27年 4月28日政令第119号)
・ 対象人員は28万2470人でした。
④ 復権令(昭和34年 4月10日政令第113号)
・ 対象人員は 4万5797人でした。
⑤ 復権令(昭和43年11月 1日政令第315号)
・ 対象人員は14万8732人でした。
⑥ 復権令(昭和47年 5月15日政令第196号)
・ 対象人員は 3万2329人でした。
⑦ 復権令(平成 元年 2月13日政令第 28号)
・ 対象人員は約1014万人でした。
⑧ 復権令(平成 2年11月12日政令第328号)
・ 対象人員は約 250万人でした。
⑨ 復権令(令和元年10月22日政令第131号)
・ 対象人員は約  55万人でした。

第3 平成元年以降の特別基準恩赦の実例
① 昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定)
・ 対象人員は,特赦566人,減刑142人,刑の執行の免除56人,復権 25人でした。
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定)
・ 対象人員は,特赦267人,減刑 77人,刑の執行の免除10人,復権 44人でした。
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準(平成5年6月8日閣議決定)
・ 対象人員は,特赦 90人,減刑246人,刑の執行の免除10人,復権931人でした。
④ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)
   
第4 特別基準恩赦の補足説明
1 特別基準恩赦は,政令恩赦が行われる際,同恩赦の要件から漏れた者などを対象として,内閣の定める基準により,一定の期間を限って行われる場合が多いです。
   ただし,政令恩赦と関係なく特別基準恩赦が単独で行われる場合がありますところ,その実例は以下の2例です(平成9年版犯罪白書「第6節 恩赦」参照)。
① 昭和27年11月10日の皇太子殿下(明仁親王)立太子礼に際し,同日付の閣議決定に基づく特別基準恩赦
② 平成5年6月9日の皇太子殿下(徳仁親王)ご結婚に際し,同日付の閣議決定に基づく特別基準恩赦
2 戦後の特別基準恩赦は,昭和時代に8回,平成時代に3回,令和時代に1回行われました。
   また,特別基準恩赦を伴わない恩赦は昭和22年11月3日施行の減刑令だけです。
3 明治憲法下において実施された特別基準恩赦はすべて上申権者の職権に係らしめ,現行憲法下においても昭和31年の国際連合加盟恩赦までは先例を踏襲して職権にかからしめており,基準が公表されることもありませんでした。
   しかし,昭和34年4月の皇太子御結婚特別基準恩赦の実施に当たり,従来の特別基準の在り方について抜本的な検討がなされ,その結果,同特別恩赦基準においては一部の基準については職権に係らしめたものの,本人からの出願による上申を原則とするとともに,基準の内容をより明確にした上でこれを公表することとなりました。そして,これらが明治百年記念特別基準恩赦(昭和43年2月1日実施)及び沖縄復帰特別基準恩赦(昭和47年5月15日実施)に引き継がれ(法律のひろば1989年4月号37頁参照),さらに,平成時代の三つの特別基準恩赦に引き継がれました。
 衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書(平成12年10月3日付)には以下の記載があります。
   戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮出獄中の者を除く。)は八十六人である。なお、無期懲役が確定した後、昭和三十五年以降に個別恩赦により減刑された者はいない。
   また、戦後、無期懲役が確定した後、政令恩赦により減刑された者については、十分な資料がないため、総数は不明である。なお、最後に政令恩赦により減刑が行われたのは、昭和二十七年四月の日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)の発効に際してである。
   
第5 昭和33年4月に参議院を通過した,恩赦法の一部を改正する法律案(廃案)の内容
1 高瀬荘太郎参議院議員(緑風会)は,昭和32年4月16日の参議院法務委員会において以下のとおり提案理由を説明しています。
   ただいま議題となりました恩赦法の一部を改正する法律案の提案理由を御説明いたします。
   恩赦は、沿革的には、君主の恩惠をその出発点としておりますが、今日におきましては、恩赦は、むしろ法の画一性に基く欠陥の矯正及び有罪の言い渡しを受けた者に対する刑事政策的な裁判の変更等にその重点がおかれており、憲法がその恩赦決定の権限を行政権の主体たる内閣に属せしめておりますことは、皆様もよく御存じのところであります。
   この恩赦には、政令により罪もしくは刑の種類を限りあるいは一定の条件を定めて一般的に行ういわゆる政令恩赦と、個々の者を対象として行ういわゆる個別的恩赦とがあり、そのうち政令恩赦は、個別的恩赦とは異なり、国家の慶事、社会事情の変化等があった場合に行われるものであります。従いましてこの政令恩赦を決定するに当りましては、個別的恩赦に比して一そう慎重であり、かつ、適正であるとともに、国民主権下の今日におきましては、常に公正な世論を基礎としていなければならないのであります。
   本法律案は、右の主旨に基き、内閣に諮問機関として恩赦審議会を設け、内閣は、大赦または政令による減刑もしくは復権の決定をすることの可否及びこれらの恩赦の内容に関する事項をあらかじめ恩赦審議会に諮問しなければならないといたしたのであります。
   恩赦審議会の構成につきましては、政令恩赦が社会一般に及ぼす影響の重大性にかんがみまして、国民全体の立場から代表的地位にある者のうち、恩赦に関係ある国家機関の最高の地位にある者として両院議長、法務大臣、最高裁判所長官、検事総長と国民の人権を擁護する地位の代表者として日本弁護士連合会会長及び世論を反映する良識ある者として日本学術会議会長の七人の委員をもって組織することにいたしました。
   以上が本法律案の要旨であります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。2 高瀬荘太郎参議院議員(緑風会)は,昭和33年4月24日の参議院本会議において以下のとおり提案理由を説明しています。
   恩赦法の一部を改正する法律案につきまして、法務委員会における審議の経過並びに結果につき御報告いたします。
   本法律案は、第二十六回国会に、本院議員高瀬莊太郎君外四名から発議されたものでありまして、その提案の趣旨は、政令恩赦の公正妥当を期するため、内閣に諮問機関として恩赦審議会を設け、その委員には、衆議院議長、参議院議長、法務大臣、最高裁判所長官、検事総長、日本学術会議会長、日本弁護士連合会会長を充てることとし、内閣は、政令恩赦の決定については、あらかじめこの恩赦審議会に諮問しなければならないとするものであります。
   当委員会におきましては、第二十六回国会において発議者から提案理由を聴取し、以来、継続して審議を重ねましたが、今国会においても慎重に審議を尽し、多くの委員から熱心な質議がなされました。特に、恩赦審議会の委員の顔ぶれと民意の反映との関係、恩赦制度の根本的あり方、日本弁護士連合会会長の任命上の問題等が論議の中心となったのでありますが、その詳細につきましては、会議録に譲りたいと存じます。
   かくして、四月二十三日質疑を打ち切り、討論に入りましたところ、大川、亀田、後藤の各委員から、それぞれ賛成の討論がなされ、かくて採決の結果、全会一致をもって、これを可決すべきものと決定いたしました。
   なお、亀田得治君から、本法律案につき、「恩赦制度の精神にかんがみ、政府は、恩赦法の運用に慎重を期すべきはもちろん、審議会委員の構成等については、民意を十分反映させ得るように検討すべきである。」旨の付帯決議案が提出され、これまた全会一致を、もって可決されました。
   以上、御報告申し上げます。(拍手)
3 恩赦法の一部を改正する法律案は,昭和33年4月24日に参議院本会議で可決されたものの,翌日,衆議院が解散されたために廃案となりました。

第6 関連記事
   以下の記事も参照してください。
① 仮釈放
② 仮釈放に関する公式の許可基準
③ 恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放
④ 死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑
⑤ 恩赦制度の存在理由
⑥ 戦前の勅令恩赦及び特別基準恩赦
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