恩赦の効果


目次
1 総論
2 大赦(恩赦法3条)
3 特赦(恩赦法4条及び5条)
4 減刑(恩赦法6条及び7条)
5 刑の執行の免除(恩赦法8条)
6 復権(恩赦法9条及び10条)
7 恩赦による公民権の回復
8 恩赦法に基づく復権を得た場合,犯罪経歴証明書に記載される前科ではなくなること
9 恩赦法に基づく復権を得た場合,犯罪人名簿に記載される前科ではなくなること
10 入管法所定の上陸拒否事由との関係
11 大赦令及び復権令が出た昭和天皇崩御に伴う恩赦における,検察庁の内部事務
12 関連記事

1 総論
(1) 令和元年の御即位恩赦
ア 令和元年の御即位恩赦における復権令(令和元年10月22日政令第131号)は,罰金刑に基づく罰金を支払った後,他に罰金刑(交通違反の青切符とは異なります。)に処せられずに3年が経過した時点で復権を認めるというものです。
   また,即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)は,罰金刑に基づく罰金を支払った後,3年が経過していない人について,出願により個別恩赦を認めるというものです。
イ 罰金刑に基づく罰金を支払った後,他に罰金刑(交通違反の青切符とは異なります。)に処せられずに5年が経過している人の場合,前科抹消に関する刑法34条の2に基づき,令和元年の御即位恩赦とは関係なく既に前科が抹消されています。
ウ 復権した場合,①警察庁が発行する犯罪経歴証明書(海外の大使館・移民局等に提出するもの)に記載される前科ではなくなりますし,②市区町村役場が作成する犯罪人名簿に記載される前科ではなくなりますし,③法令上の資格制限(例えば,選挙違反の罰金刑に基づく選挙権及び被選挙権の停止)がなくなります。
   ただし,前科調書作成のために検察庁が管理している犯歴の抹消は,有罪の判決を受けた人が死亡した時点で行われている犯歴事務規程18条参照)のであって,復権によって犯歴が抹消されるわけではないです。
(2) 恩赦の効果に関する一般論
ア 恩赦は刑事事件の有罪判決を対象とするものでって,行政処分等とは関係がないです。
   そのため,例えば,恩赦によって,①交通違反の違反点数が消滅して優良運転者免許証(ゴールド免許)又は個人タクシーの受験資格を回復できるようになったり,②運転免許の取消し又は停止が救済されたり,③運転免許証の欠格期間が短縮されたり,④交通違反の反則金の支払義務が消滅したり,⑤医師法違反等を理由とする医師に対する行政処分(戒告,医業停止及び免許取消)が消滅したり,⑥健康保険の不正請求等を理由とする保険医療機関指定の取消又は保険医登録の取消が消滅したりすることはありません。
イ 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦及び平成2年の御即位恩赦における復権令は,経過期間の制限なしに罰金刑を復権対象としていたものの,これは罰金刑に基づく罰金を支払い終えた人の罰金前科を抹消しただけであって,酒気帯び運転等に基づく罰金の支払義務を消滅させたわけではありません。
ウ 有罪の言渡しに基く既成の効果は,大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権によって変更されることはありません(恩赦法11条)。
   そのため,例えば,復権の対象になったとしても,納付した罰金を返金してもらうことはできません。
(3) 恩赦の効力が生じる日
ア 政令恩赦は,付則に定めた日に効力が生じるのであって,例えば,復権令(令和元年10月22日政令第131号)は令和元年10月22日に効力が生じました。
イ 個別恩赦は,天皇の認証があった日に効力が生じます(前科登録と犯歴事務(五訂版)159頁)。
(4) その他
ア 恩赦は,刑事政策的には仮釈放及び保護観察制度と基本的思想において共通するものです(法律のひろば1989年4月号29頁参照)。
イ 以下の外部記事が非常に参考になります。
① 法務省HPの「現行の恩赦制度」
② 国立国会図書館HPの「恩赦制度の概要」

2 大赦(恩赦法3条)
(1)ア 有罪の言渡しを受けた者についてはその言渡しの効力を失わせるものであり(恩赦法3条1号),まだ有罪の言渡しを受けない者については公訴権を消滅させるものです(恩赦法3条2号)。
イ 再審公判において,実体審理をせずに直ちに免訴の判決をすべきであるとしても,名誉回復や刑事補償等との関連では再審を行う実益があることから,大赦により赦免されたにもかかわらず,無罪を主張して再審を請求することは許されます(東京高裁平成17年3月10日決定)。
(2)ア 起訴されている犯罪について大赦があった場合,裁判所は免訴判決を下します(刑訴法337条3号)。
イ 免訴判決に対し被告人が無罪を主張して上訴することはできませんし(最高裁大法廷昭和23年5月26日判決,最高裁大法廷昭和29年11月10日判決,最高裁大法廷昭和30年12月14日判決),再審の審判手続においても,免訴判決に対し被告人が無罪を主張して上訴することはできません(最高裁平成20年3月14日判決)。
(3) 大赦の対象となった場合,有罪の言渡しを受けた者は, もはや刑の執行を受けることがなくなるばかりでなく,有罪の言渡しを受けたため法令の定めるところによって喪失し,又は停止されている資格も回復することになります。
(4) 大赦令により赦免され,刑の言渡しの効力を失った前科であっても,第一審においてその前科調書を証拠として取り調べ,右受刑の事実を審問し,又は第二審においてこれを前審の量刑当否の判断の資料に供したからといって,違法ということはできません(最高裁昭和32年6月19日判決)。

3 特赦(恩赦法4条及び5条)
(1)   有罪の言渡しの効力を失わせるものをいいます。
(2) 特赦が行われた場合,その者に対する有罪の言渡しの効力が失われますから,その者は,大赦になった場合と同様, もはや刑の執行を受けることがなくなるばかりでなく,有罪の言渡しを受けたため法令の定めるところによって喪失し,又は停止されている資格も回復することとなります。
(3)ア 大赦又は特赦により有罪の言渡しの効力が失われた場合,刑法56条に基づく累犯加重の要件を欠くこととなり(大赦につき最高裁昭和28年10月16日判決,執行猶予の欠格事由(刑法25条1項各号及び27条の2第1項各号)もなくなります。
   これに対して,恩赦としての復権を受けただけの場合,資格を回復するに過ぎませんから,累犯加重の対象となります(最高裁昭和25年2月14日判決)し,執行猶予の欠格事由が残ります。
イ 累犯加重というのは,懲役に処せられた者がその執行を終わった日から5年以内に更に罪を犯して有期懲役に処せられる場合,再犯者として刑を加重するというものです(刑法56条及び57条。なお,有期懲役の上限が30年であることにつき刑法14条2項)。
(4)ア 昭和54年から昭和63年までの常時恩赦による特赦は,業務上過失傷害又は道路交通法違反により罰金に処せられたことが藍綬褒章等の栄典を受ける上で障害となっていた人に対して実施されていました(法律のひろば1989年4月号28頁参照)。
イ 褒章条例取扱手続(明治27年1月6日閣令第1号)6条は以下のとおりです。
   褒章条例ニ依リ表彰セラルヘキ者具申後行賞前ニ於テ死亡シ又ハ罰金以上ノ刑ニ該ル罪ヲ犯シタル者ナルコトヲ知リタルトキハ地方長官ハ速ニ其ノ旨主務大臣ニ申報シ主務大臣ハ之ヲ賞勲局総裁ニ通知スヘシ
ウ 平成6年以降,常時恩赦による特赦は実施されたことがありません(「恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放」参照)。

4 減刑(恩赦法6条及び7条)
(1)ア 言渡しを受けた刑を減軽し,又は刑の執行を減軽するものをいいます。
イ 例えば,たとえば懲役5年を懲役4年に短縮し,又は懲役3年,5年間執行猶予を懲役2年,4年間執行猶予に変更するといったものをいいます。
(2) ①政令恩赦に基づく一般減刑(恩赦法7条1項),及び②個別恩赦に基づく特別減刑(恩赦法7条2項)があります。
(3)ア 刑の執行猶予の言渡しを受けてまだ猶予の期間を経過しない者に対しては,刑を減軽する減刑のみを行うものとし,また,これとともに執行猶予の期間を短縮することができます(恩赦法7条3項及び4項)。
   例えば,刑期及び執行猶予期間をそれぞれ4分の1短縮するという風に減刑を行います。
イ 恩赦法7条3項及び4項の文言上,執行猶予期間を短縮するだけの減刑を実施することはできません。
(4) 刑を減軽し,又はこれとともに執行猶予の期間を短縮する減刑が行われた場合,宣告刑自体が変更されますから,刑の執行終了日や執行猶予期間満了日に変動を生じます。
   また,刑の時効期間(刑法32条),刑の言渡しの効力の消滅期間(同法34条の2)の起算日,資格の喪失又は停止を規定した法令の適用にも変動を生じ,喪失し又は停止されている資格の回復が早まる結果となります。
(5) 平成9年以降,常時恩赦による減刑は実施されたことがありません(「恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放」参照)。

5 刑の執行の免除(恩赦法8条)
(1) 刑の言渡しが確定した人に対して,言い渡した刑を変更することなく,その執行を免除するものです。
   そのため,自由刑について刑の執行の免除を得た場合,残りの執行期間の全部の執行を免れることとなり,罰金刑など財産刑について刑の執行の免除を得た場合,納付義務を免れることとなるなど,刑の執行が終了したのと同じ状態となります。
(2) 刑の執行猶予の言渡しを受けた人は対象外です(恩赦法8条ただし書)。
(3) 刑の執行の免除は,有罪の言渡しを受けたことによって喪失し又は停止されている資格を回復させる効力はなく,その資格回復がなされるためには,更に恩赦法による復権が行われる必要があります。
   ただし,刑の言渡しの効力の消滅期間(刑法34条の2)の起算日及び満了日が早まるから,間接的には資格回復を早める効果があります。
(4)ア 昭和54年から昭和63年までの常時恩赦による刑の執行の免除のうち,検察庁からの上申に基づくものは,病気等により長期にわたり刑の執行を停止されている者又は追徴金未納者に対して実施されていました。
   前者については,本人が自己の刑責を反省し,行状が良好であって,改悛の情が認められ,再犯をしないことを誓っている上,刑の執行停止の事由となっている病気が治癒せず,今後も好転する見通しがなく,刑の執行の見込みがない場合などに行われていました。
   また,後者については,長期間にわたり納付状況に誠意が認められ,かつ,改悛の情顕著にして行状が良好な者で,資産がなく,収入状況も最低生活を維持しているに過ぎない上,老齢,病気,心身の障害等により今後就労することが困難である者などに対して行われていました(法律のひろば1989年4月号28頁参照)。
イ 常時恩赦における刑の執行の免除のうち,保護観察所の長からの上申に基づくものは,主として無期刑仮釈放者が更生したと認められる場合に,保護観察を終了させる措置として行われています(平成17年版犯罪白書の「第5節 恩赦」参照)。
ウ 平成29年に実施された刑の執行の免除は1件だけです(「恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放」参照)。

6
 復権(恩赦法9条及び10条)
(1) 刑の執行を終了した人等に対し,法令の定めにより喪失し,又は停止されている資格を回復させるものをいい,社会的活動の障害を取り除くために行われます。
(2) 執行猶予期間中の人が復権の出願をすることはできません。
(3)ア 復権の方法として,①政令恩赦に基づく一般復権,及び②個別恩赦に基づく特別復権があります。
イ 復権の効果として,①法令上の資格の全部を回復させる全部復権,及び②法令上の資格の一部を回復させる部分復権があります(部分復権につき恩赦法10条2項参照)ところ,少なくとも平成時代の政令恩赦による復権は全部復権です。
(4)ア 恩赦法による復権を得ていない場合であっても,再び罰金以上の刑に処せられていない限り,懲役刑若しくは禁固刑の終了から10年,又は罰金刑の終了から5年が経過した時点で,刑の言渡しが効力を失う(刑法34条の2第1項)結果,資格を回復することとなります。
イ 刑法34条の2は,刑法の一部を改正する法律(昭和22年10月26日法律第124号)によって追加された条文であり,施行前に刑の言渡しを受けた人にも適用されました。
ウ 恩赦の実施について(平成元年2月6日付の法務事務次官の依命通達)には以下の記載があります。
   法第34条の2により刑の言渡し若しくは刑の免除の言渡しの効力を失った者又は同法第27条により刑の言渡しの効力を失った者については,赦免及び復権の余地はない。
エ 前科調書作成のために検察庁が管理している犯歴の抹消は,有罪の判決を受けた人が死亡した時点で行われています犯歴事務規程18条参照)。
(5)ア 復権そのものは,処せられた刑についての刑事法上の効果そのものには何らの影響を与えるものではないのであって,執行猶予,累犯,刑の消滅等の刑法総則の適用上何らの変更も生じません(法律のひろば1989年4月号33頁)。
イ   裁判所が,刑の量定にあたって,復権した公職選挙法違反の前科を参酌することは憲法14条及び39条に違反しません(最高裁昭和39年12月15日判決)。
(6) 保護観察に付されたことがある者の復権については,保護観察所の長が上申権者となりますところ,法律のひろば1989年4月号29頁には以下の記載があります。
   保護観察に付されたことのある者については一般的には具体的な資格の回復が必要なものはほとんどなく、その大多数のものは結婚とか就職、あるいは妻子に前歴を秘匿するなど社会生活又は家庭生活において刑に処せられたことが精神的負担になっている場合が多いが、このように現実に特定の資格の回復の必要がなくとも、一般社会人並に各法令で定めている資格を取得することが可能な状態にする、いわば将来支障の生ずることがあり得る資格の制限を事前に回復する趣旨で復権が行われている。そして、復権が行われると市区町村役場に備え付けられている犯罪人名簿から抹消されるので、本人の精神的安定と健全な社会人としての自覚を高め、社会復帰を助ける大きな力となっています。
(7) 復権を得たとしても,自動車運転免許の停止のような行政処分は資格回復の対象とならず、反則行為により付された点数(道路交通法施行令別表第2)が消滅することもありません「恩赦制度の概要」7頁)。
(8)ア 明治憲法に基づく恩赦令(大正元年9月26日勅令第23号)(同日付の官報号外(リンク先PDF22頁以下)で公布)の場合,復権の恩赦についてだけ,本人の出願が認められていました(恩赦令13条及び15条1項参照)。
   これに対して,昭和22年5月3日施行の恩赦法の場合,刑の言渡しを受けた者に対し広く恩赦の機会を得させる趣旨で,大赦を除くすべての恩赦に一定の条件を付して出願が認められることとなりました(逐条恩赦法釈義(改訂3版)76頁)。
イ 明治憲法時代,復権の出願は刑の執行終了後3年が経過した後にできました(恩赦令15条2項)。
   これに対して,昭和22年5月3日施行の恩赦法の場合,復権の出願は刑の執行終了直後からできるようになりました(恩赦法施行規則7条)。


7 恩赦による公民権の回復
(1) 以下の人は公民権(選挙権及び被選挙権)(労働基準法7条参照)を有しません(総務省HPの「選挙権と被選挙権」参照)。
① 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者(公職選挙法11条1項2号)
・ 刑務所から仮釈放された場合であっても,刑期が満了するまでは公民権を有しないということです。
② 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者は除く。)(公職選挙法11条1項3号)

・ 政治家が詐欺罪,弁護士法違反等により執行猶予付の有罪判決を受けた場合,公民権は停止しません。
③ 公職にある間に犯した収賄罪,又は公職者あっせん収賄罪により刑に処せられ,実刑期間経過後5年間(被選挙権は10年間)を経過しない者(公職選挙法11条1項4号及び11条の2),又は刑の執行猶予中の者(公職選挙法11条1項4号)

・ 平成 4年12月16日法律第98号に基づき,同日以降の行為に基づく収賄罪により執行猶予付きの判決が確定した場合,公民権が停止することとなりました。
・ 平成 6年 2月 4日法律第2号に基づき,収賄罪により実刑判決を受けた場合,実刑期間経過後5年間,公民権が停止されることとなりました。
   例えば,令和元年7月21日投開票の第25回参議院議員通常選挙・比例区で当選した鈴木宗男参議院議員(日本維新の会)の場合,平成9年ないし平成10年の行為に基づくあっせん収賄罪等により懲役2年の実刑判決を受けたものの,刑期満了から5年が経過した平成29年4月30日に公民権を回復しました。
・ 平成11年 8月13日法律第122号に基づき,平成11年9月2日以降の行為により刑に処せられた場合,実刑期間経過後10年間,被選挙権が停止されることとなりました。
④ 選挙に関する犯罪で禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行猶予中の者(公職選挙法11条1項5号)
⑤ 公職選挙法等に定める選挙に関する犯罪により,選挙権及び被選挙権が停止されている者(公職選挙法11条2項及び252条)
・ 例えば,一定の罪で罰金刑に処せられた場合,裁判確定の日から5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます。
・ 裁判所は,情状により,選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず,又はその規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告できます(公職選挙法252条4項)。
⑥ 政治資金規正法に定める犯罪により選挙権及び被選挙権が停止されている者(政治資金規正法28条)
・ 平成6年2月4日法律第4号に基づき,平成7年1月1日から適用されています。
・ 例えば,一定の罪で罰金刑に処せられた場合,裁判確定の日から5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます。
・ 裁判所は,情状により,選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず,又はその規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告できます(政治資金規正法28条3項)。
(2) 公職選挙法252条又は政治資金規正法28条に基づき公民権を有しない人は選挙運動をすることもできません(公職選挙法137条の3)。
   ただし,①ないし④の人は特赦を受ければ公民権を回復しますし,⑤及び⑥の人のうち,罰金刑を受けたにすぎない人は復権を受けるだけで公民権を回復します。
(3) 「選挙違反者にとっての平成時代の恩赦」も参照してください。

8 恩赦法に基づく復権を得た場合,犯罪経歴証明書に記載される前科ではなくなること
(1)ア 犯罪経歴証明書(「無犯罪証明書」ともいいます。)は,海外の公的機関(大使館・移民局等)の求めに応じて取得するものであります(警視庁HPの「渡航証明(犯罪経歴証明書)の申請について」参照)ところ,警察庁HPに掲載されている「犯罪経歴証明書発給要綱について(通達)」には以下の記載があります。
5 警察本部長は、4の回答により申請者が犯罪経歴を有しないことを確認した場合には別記様式第2号の証明書を、申請者が犯罪経歴を有することを確認した場合には別記様式第3号の証明書を作成して申請者に交付するものとする。
6 5の確認において、次の(1)から(7)までのいずれかの場合に該当する申請者は、当該(1)から(7)までに規定する犯罪については犯罪経歴を有しないものとみなす。
(1) 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過しているとき。
(2) 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を受け、罰金以上の刑に処せられられないで10年を経過しているとき。
(3) 罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を受け、罰金以上の刑に処せられないで5年を経過しているとき。
(4) 恩赦法(昭和22年法律第20号)の規定により大赦若しくは特赦を受け、又は復権を得たとき。
(5) 道路交通法(昭和35年法律第105号)第125条第1項に規定する反則行為に該当する行為を行った場合であって、同条第2項各号のいずれにも該当しないとき。
(6) 少年法(昭和23年法律第168号)第60条の規定により刑の言渡しを受けなかったものとみなされたとき。
(7) 刑の言渡しを受けた後に当該刑が廃止されたとき。
イ 警察庁HPには「犯罪経歴証明書発給要綱の運用について(通達)」が別途,掲載されています。
(2) 恩赦法に基づく復権を得た場合,禁錮以上の刑について10年が経過する前,及び罰金以下の刑について5年が経過する前であっても,犯罪経歴証明書に記載される前科ではないこととなります。
   ただし,この場合,犯罪経歴証明書発給申請書(別記様式第1号)の注記欄にあるとおり,同申請書と一緒に,特赦状,復権状等を提出する必要があります。

9 恩赦法に基づく復権を得た場合,犯罪人名簿に記載される前科ではなくなること
(1) 犯罪人名簿は,もともと大正6年4月12日の内務省訓令第1号により市区町村長が作成保管すべきものとされてきたものですが,戦後においては昭和21年11月12日内務省発地第279号による同省地方局長の都道府県知事あて通達によって選挙資格の調査等の資料として引きつづき作成保管され,昭和22年に地方自治法が施行されてのちも明文上の根拠規定のないまま従来どおり継続して作成保管されています(最高裁昭和56年4月14日判決における裁判官環昌一の反対意見参照)。
(2)ア 罰金以上の刑に処する裁判が確定した場合,地方検察庁の本庁の犯歴事務担当官は,本籍市区町村長に対し,既決犯罪通知書を送付してその裁判に関し必要な事項を通知します(犯歴事務規程3条4項)から,本籍市区町村長はこれによって犯罪歴を把握しています。
イ 前科登録と犯歴事務(五訂版)9頁には,「昭和35, 6年ころから道路交通法違反事件が急増し,従来の方式のままではその犯歴を適正かつ的確に登録管理することが不可能になったため, 同37年6月には,道路交通法違反の罪に係る裁判で罰金以下の刑に処したものについては,市区町村長に対する既決犯罪通知をしない取扱いが実施され」と書いてあります。
 そのため,道交法違反の罰金前科については,そもそも本籍市区町村の犯罪人名簿に記載されていません。
(3) 恩赦があった場合,地方検察庁の本庁の犯歴担当事務官は,本籍市区町村長に対し,恩赦事項通知書を送付して恩赦に関し必要な事項を通知します(犯歴事務規程4条及び8条)。
(4) 令和元年10月10日付の総務省の行政文書開示決定通知書によって開示された,刑の消滅等に関する照会の書式について(昭和34年8月13日付の自治庁行政局行政課長の通知)を掲載しています。
(5) 恩赦法に基づく復権の対象となった犯歴については,犯罪人名簿から削除されます。
(6) その余の詳細は「前科抹消があった場合の取扱い」を参照してください。

10 入管法所定の上陸拒否事由との関係
(1) 出入国管理及び難民認定法(略称は「入管法」です。)5条1項4号は「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。」を上陸拒否事由としています。
(2) 「刑に処せられた」とは,歴史的事実として刑に処せられたことをいうのであって,刑の確定があれば足り,刑の執行を受けたか否か,刑の執行を終えているか否かを問いません。
   また,「刑に処せられたことのある者」には、執行猶予期間中の者、執行猶予期間を無事経過した者(刑法(明治四十年法律第四十五号)第二十七条)、刑法の規定により刑の言渡しの効力が消滅した者(同法第三十四条の二)及び恩赦法(昭和二十二年法律第二十号)の規定により刑の言渡しの効力が消滅した者(同法第三条及び第五条)も含まれます出入国管理及び難民認定法逐条解説(改訂第四版)208頁)。
(3) その余の詳細は「前科抹消があった場合の取扱い」を参照してください。

11 大赦令及び復権令が出た昭和天皇崩御に伴う恩赦における,検察庁の内部事務
   この点に関して,前科登録と犯歴事務(五訂版)186頁には以下の記載があります。
   昭和64年1月7日昭和天皇の崩御に際会し,平成元年2月13日政令第27号をもって「大赦令」が, 同第28号をもって「復権令」が公布され, また, 同日法務省令第4号をもって「特赦,減刑又は刑の執行の免除の出願に関する臨時特例に関する省令」が公布され, これらの政令及び省令は同月24日からそれぞれ施行された。
   この度の恩赦に該当する者は,個別上申に基づく特別恩赦該当者を除き,大赦令該当者28,300人,復権令該当者10,964,000人にのぼったといわれている。恩赦令の施行後,検察庁では,大赦令及び復権令に該当する者を一人一人調査した上,捜査中の事件の大赦令該当者については不起訴処分の手続,公判係属中の事件の大赦令該当者については免訴(刑訴法337条3号)又は刑の分離決定(刑法52条,刑訴法350条)の手続,刑未執行の大赦令該当者については刑の執行不能決定の手続がそれぞれとられ,また,有罪の裁判が確定している大赦令該当者又は復権令該当者については,判決原本へのその旨の付記(恩赦法14条,同規則13条, 14条),赦免又は復権証明申立人に対するその旨の証明(同規則15条),恩赦該当者に対する赦免又は復権の通知,犯歴用電子計算機又は犯歴票への恩赦事項の登録市区町村長に対する恩赦事項の通知等の事務手続が進められたが,その事務量が極めて膨大であるため,当面の措置として,大赦令該当者,公職選挙法違反事件により公民権停止中の復権令該当者,赦免又は復権証明の申立人に対するその旨の証明など,速やかな事務処理を要すると認める案件について優先事務処理が行われた。

12 関連記事
① 恩赦の手続
② 戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦
 恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放
 昭和時代の恩赦に関する国会答弁
⑤ 死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑
⑥ 選挙違反者にとっての平成時代の恩赦
⑦ 令和元年の御即位恩赦における罰金復権の基準
⑧ 前科抹消があった場合の取扱い
⑨ 恩赦に関する記事の一覧

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恩赦の効果を含む前科抹消につき,この本を参照しながらブログ記事を作成しました。


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