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恩赦の効果――五種類の違いと前科・資格・再審への影響(AIリライト)

第1 恩赦の効果を理解するための基本線

1 恩赦には五つの種類がある

恩赦は,刑事裁判をなかったことにする一種類の制度ではない。恩赦法1条は,大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権という五つの種類を定めており,何が変わるかは種類によって異なる。

内閣が恩赦を決定し,天皇がこれを認証する(憲法73条7号,7条6号)。政令で罪又は対象者の範囲を定める恩赦と,特定の者について行う個別恩赦があり,後者は中央更生保護審査会の申出に基づいて行われる(恩赦法12条)。

2 「前科が消える」という説明には注意を要する

「前科」は法律上の効果,検察庁が管理する犯歴,地方公共団体の犯罪人名簿,警察が発給する犯罪経歴証明書及び民間に知られた過去の犯罪事実を一括して表す法律用語ではない。そのため,「恩赦で前科が消える」とだけ説明すると,異なる制度を混同することになる。

大赦又は特赦は刑の言渡しの効力を失わせるのに対し,復権は資格を回復する制度である。また,恩赦法11条は,有罪の言渡しに基づいて既に生じた効果は恩赦によって変更されないと定めている。どの効果が問題となっているかを分けて確認する必要がある。

第2 五種類の恩赦とそれぞれの効果

1 大赦

大赦は,政令で罪の種類を定めて行う一般恩赦である(恩赦法2条)。有罪の言渡しを受けた者についてはその言渡しの効力を失わせ,まだ有罪の言渡しを受けていない者については公訴権を消滅させる(同法3条)。

公訴提起後に大赦があったときは,裁判所は刑事訴訟法337条3号により免訴判決をする。免訴は,犯罪事実について無罪と判断する判決とは異なる。

2 特赦

特赦は,有罪の言渡しを受けた特定の者について行い,その言渡しの効力を失わせる(恩赦法4条,5条)。有罪の言渡し前の者を対象とする大赦とは異なり,特赦の対象は有罪の言渡しを受けた者に限られる。

刑の言渡しの効力が失われるため,将来の累犯加重の基礎や,刑の言渡しに伴う資格制限にも影響する。ただし,既に生じた効果が当然に遡って取り消されるわけではない。

3 減刑

政令による減刑は,政令に特別の定めがある場合を除き,刑を軽いものに変更する。特定の者に対する減刑は,刑を軽いものに変更し,又は刑の執行を軽減する(恩赦法7条1項,2項)。

全部執行猶予中の者については刑を軽くする減刑を行い,猶予期間を短縮できる場合がある。一部執行猶予中の者については,刑を軽くするほか,執行が猶予されなかった部分の執行を軽減し,刑を軽くするとともに猶予期間を短縮できる場合がある(同条3項,4項)。

4 刑の執行の免除

刑の執行の免除は,刑の言渡しを受けた特定の者について,将来の刑の執行を免除する制度である(恩赦法8条)。刑の言渡しの効力そのものを失わせる特赦とは異なり,刑の言渡しの効力は残る。

全部執行猶予中の者には行われない。また,一部執行猶予の判決を受け,執行が猶予されなかった部分の執行を終えたものの,まだ猶予期間中である者にも行われない(同条ただし書)。刑の執行の免除だけでは資格は回復しないため,資格制限を解消するには復権が必要となることがある。

5 復権

復権は,有罪の言渡しにより法令上喪失し,又は停止された資格を回復する制度である(恩赦法9条,10条)。刑の執行を終え,又は刑の執行の免除を得た後でなければ行うことができず,特定の資格だけを回復する復権も可能である。

復権は,刑の言渡しの効力そのものを失わせるものではない。有罪の言渡しを受けた歴史的事実や検察庁の犯歴情報まで一律に消去する制度でもない。

6 効力が生じる時期と恩赦状

政令による大赦,減刑及び復権は,それぞれの政令が定める施行日に効力を生ずる。個別恩赦は,内閣の決定を天皇が認証した時に効力を生ずると解されている。

個別恩赦があったとき,法務大臣は本人に恩赦状を下付し,検察官は判決原本にその旨を付記する(恩赦法13条,14条)。同条は,恩赦状及び判決原本への付記に関する規定であり,効力発生時期を定める規定ではない。

第3 恩赦が変えないものと刑法上の刑の消滅

1 既に生じた効果

恩赦法11条によれば,有罪の言渡しに基づいて既に生じた効果は,大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権によって変更されない。例えば,既に納付した罰金や既に執行された没収が,恩赦によって当然に返還されるわけではない。

また,犯罪行為によって生じた損害賠償債務は,刑事裁判の有罪の言渡しとは別の民事上の責任である。そのため,大赦又は特赦によって刑の言渡しの効力が失われても,損害賠償債務が当然に消滅することはない。

2 刑法34条の2との違い

刑法34条の2は,拘禁刑の執行を終え,又は執行の免除を得た後,罰金以上の刑に処せられないで10年を経過したときに,刑の言渡しが効力を失うと定める。罰金以下の刑については,罰金以上の刑に処せられないで5年を経過したときであり,刑の免除の言渡しについては2年である。

これは一定期間の経過とその間の再犯がないことを要件とする刑法上の制度であり,恩赦とは別である。「前科抹消」という見出しで両者を一括りにせず,刑の言渡しの効力,資格,記録及び証明書上の取扱いを区別すべきである。

3 累犯加重と併合罪

最高裁昭和25年2月14日第三小法廷判決(昭和24年(れ)第2420号,刑集4巻2号221頁)は,復権は資格の回復にとどまるため,復権前の刑を累犯加重の基礎とすることを妨げないとした。

これに対し,最高裁昭和28年10月16日第二小法廷判決(昭和28年(あ)第168号,刑集7巻10号1940頁)は,大赦によって効力を失った有罪の言渡しを累犯加重の基礎とすることはできないとした。復権と大赦又は特赦とで効果が異なることを示す裁判例である。

なお,併合罪について一個の刑で処断された者が,その一部の罪について大赦を受けたときは,残る罪について改めて刑を定める(刑法52条)。

第4 犯歴・犯罪人名簿・犯罪経歴証明書

1 検察庁の犯歴

法務省の犯歴事務規程は,検察庁が行う犯歴事務を定めている。同規程18条は,有罪の裁判を受けた者が死亡したことを確認した場合に,電子計算機に記録された事項の抹消又は犯歴票等の廃棄を行う取扱いを定めている(同規程10頁)。

復権は資格回復の制度であるから,復権を受けただけで検察庁の犯歴情報が一律に消去されるとはいえない。

2 地方公共団体の犯罪人名簿

地方公共団体の犯罪人名簿は,選挙資格その他の行政事務のために用いられる内部資料であり,検察庁の犯歴とは別の制度である。例えば,東京都の犯罪人名簿事務処理要綱は,復権があった場合に該当事項を消除する取扱いを定めている。

これは東京都の名簿上の処理であり,有罪の言渡しを受けた歴史的事実がなくなることを意味しない。他の地方公共団体については,それぞれの規程を確認する必要がある。

3 警察の犯罪経歴証明書

警察庁の令和8年4月1日付け通達「犯罪経歴証明書発給要綱について」は,罰金以上の刑の言渡しを受けた経歴を犯罪経歴とした上で,一定の場合には証明書発給事務上「犯罪経歴を有しないものとみなす」と定めている(同要綱3頁)。

その対象には,全部執行猶予期間の経過,刑法34条の2による刑の消滅,大赦若しくは特赦又は復権が含まれる。恩赦又は復権によりこの取扱いを受ける場合,申請書の注記に従い,特赦状,復権状等を添えて申し出る(同要綱5頁)。これは証明書上の取扱いであって,過去の犯罪事実そのものを消去する制度ではない。

第5 資格制限,行政処分及び企業法務

1 将来の資格回復と既成の処分

刑の言渡しに伴う資格制限には,刑の種類,罪名,刑の執行状況及び執行終了後の期間など,個別法ごとに異なる要件がある。復権は,将来に向かう資格制限を回復する制度である。

もっとも,既に適法になされた許可取消し,免許取消し,登録抹消又は懲戒処分が,恩赦によって当然に遡及失効するわけではない。他方,取消し後の再申請又は再登録では,大赦,特赦又は復権によって刑の言渡しに由来する欠格状態が解消することがあるため,「恩赦は行政処分と無関係」ともいえない。

2 会社役員,建設業及び宅地建物取引業

会社法331条は取締役の欠格事由を定めているが,前科があれば一律に取締役に就任できないという制度ではない。会社法等の一定の罪による刑,刑の執行状況及び経過期間を条文に即して確認する必要がある。

建設業法及び宅地建物取引業法には,一定の刑や刑の執行終了後の期間を基準とする欠格事由がある。法人の役員等の欠格事由が法人の許可又は免許にも影響する場合があるため,恩赦の種類と個別業法の条文を組み合わせて判断する必要がある。復権が将来の欠格状態に影響する場合でも,既になされた法人の許可取消し等が自動的に撤回されるわけではない。

3 公民権

公職選挙法11条,11条の2及び252条は,一定の刑に処せられた者の選挙権,被選挙権等の停止を定めている。制限の内容は罪名,刑の種類,刑の執行状況及び経過期間によって異なる。

大赦又は特赦によって刑の言渡しの効力が失われる場合や,復権によって資格が回復する場合には,将来の公民権制限に影響する。ただし,過去の選挙結果その他の既成の効果が遡って変更されるわけではない。

4 公務員等の懲戒免除との区別

公務員等の懲戒免除等に関する法律は,大赦又は一定の復権が行われる場合に,政府が別の政令によって,公務員等が既に受けた懲戒を将来に向かって免除し,又はまだ受けていない懲戒を行わないことができると定めている。

これは恩赦法による刑事恩赦の当然の効果ではない。刑事上の恩赦と,別の法律及び政令に基づく懲戒免除を区別する必要がある。

第6 大赦と再審――横浜事件

1 再審開始と再審公判は別である

大赦を受けた事件でも,新証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとして再審開始が認められることはある。しかし,再審開始後の公判では大赦が免訴事由として適用されるため,必ずしも無罪判決に至るわけではない。

横浜事件では,東京高裁平成17年3月10日決定が再審開始を認めた。その後,横浜地裁平成18年2月9日判決が大赦及び刑罰法令の廃止を理由に免訴を言い渡し,東京高裁平成19年1月19日判決も控訴を棄却した。これらの裁判は,現在の裁判所HPでは判決又は決定の本文を確認できない(裁判所HP未掲載)。

2 最高裁平成20年3月14日判決

最高裁平成20年3月14日第二小法廷判決(平成19年(れ)第1号,刑集62巻3号185頁)は,再審公判にも通常の公判手続に関する規定が適用され,大赦等の免訴事由があるときは免訴判決をすべきであるとした。その上で,被告人が無罪判決を求めて免訴判決に上訴することはできないとした。同判決も現在の裁判所HPでは判決本文を確認できないため(裁判所HP未掲載),公刊判例集の書誌及び判例解説で確認した。

恩赦は有罪の言渡しの効力等を法的に変更する制度であり,犯罪事実がなかったと判断する無罪判決とは異なる。この区別は,大赦と再審の関係を理解する上で重要である。

第7 令和元年の即位恩赦と最新統計

1 令和元年復権令は一回的な政令である

令和元年10月22日施行の復権令は,一つ又は二つ以上の罰金刑について,基準日の前日までにその全部の執行を終え,又は執行の免除を得てから3年以上を経過し,その後罰金以上の刑に処せられていない者等の資格を,同日に回復した。

したがって,罰金刑の執行終了等から3年を経過するたびに自動的に復権する恒久制度ではない。また,回復したのは法令上の資格であり,罰金刑の事実や検察庁の犯歴情報を消去する制度でもない。

2 特別恩赦基準と処理結果

即位の礼に当たり定められた特別恩赦基準は,刑の執行の免除と復権を対象とし,令和元年10月22日から令和2年1月21日までの出願期間を設けた。刑の執行の免除については,病気その他の理由により長期にわたり執行が停止され,なお長期にわたり執行に耐えられない事情などが考慮された(基準1頁~2頁)。

復権については,罰金刑の執行を終え,又は執行の免除を得た者のうち,刑に処せられたことが現に社会生活上の障害となっていること,犯情,行状,犯罪後の状況及び社会の感情などを考慮して,特に相当な場合を対象とした(基準2頁)。同基準による処理結果は,刑の執行の免除8人,復権20人であった。

3 令和7年の常時恩赦

e-Stat「常時恩赦人員」によれば,令和7年(2025年)中の新規受理人員は23人であり,内訳は特赦5人,減刑6人,刑の執行の免除3人,復権9人であった。

同年中に処理されて「相当」とされた人員は7人であり,刑の執行の免除1人,復権6人であった。特赦及び減刑について相当とされた人員は,いずれも0人であった。

第8 個別恩赦の手続と証明

1 申出,上申及び出願

個別恩赦は,中央更生保護審査会の申出により行われる。刑の確定,収容又は保護観察の状況に応じて,検察官,刑事施設の長又は保護観察所の長等が中央更生保護審査会に申出をするほか,本人が上申又は出願をする経路もある(恩赦法施行規則1条~3条)。

本人の申請だけで恩赦を受ける権利が生じる制度ではない。復権の出願は刑の執行を終え,又は執行の免除を得た後に限られ,不相当とされた後の再出願は原則として1年を経過してからである(同規則7条,8条)。

2 上申までの標準期間

特赦,減刑又は刑の執行の免除について,恩赦法施行規則6条は,上申までの標準期間を定めている。拘留又は科料は6か月,罰金は1年,有期拘禁刑は刑期の3分の1かつ1年以上,無期拘禁刑は10年以上が原則であり,事情による期間短縮の余地がある。

具体的な手続では,判決謄本その他の証明資料,行状,生活状況,恩赦を必要とする事情等の資料が必要となる。恩赦状の下付後は,検察官が判決原本に恩赦の事実を付記する。

3 恩赦願書の様式

恩赦の上申手続で用いられる恩赦願書の様式は,次の画像のとおりである。上申の経路や必要書類の詳細は,恩赦の手続の記事も参照されたい。

恩赦願書(恩赦上申事務規程様式第8号)

第9 関連記事

恩赦の種類及び手続
恩赦の実例
恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放
死刑囚及び無期刑受刑者に対する恩赦
選挙違反者に対する平成時代の恩赦
令和時代の罰金前科に対する復権
前科抹消が認められる場合
恩赦に関する記事の一覧
司法修習生採用選考の内容の変化(6期以降)

第10 出典・参考資料

1 法令

① e-Gov法令検索・日本国憲法
② e-Gov法令検索・恩赦法
③ e-Gov法令検索・恩赦法施行規則
④ e-Gov法令検索・刑法
⑤ e-Gov法令検索・刑事訴訟法
⑥ e-Gov法令検索・会社法
⑦ e-Gov法令検索・建設業法
⑧ e-Gov法令検索・宅地建物取引業法
⑨ e-Gov法令検索・公職選挙法
⑩ e-Gov法令検索・公務員等の懲戒免除等に関する法律
⑪ e-Gov法令検索・令和元年復権令

2 裁判例

① 最高裁昭和25年2月14日第三小法廷判決(昭和24年(れ)第2420号,刑集4巻2号221頁)
② 最高裁昭和28年10月16日第二小法廷判決(昭和28年(あ)第168号,刑集7巻10号1940頁)
③ 東京高裁平成17年3月10日決定,横浜地裁平成18年2月9日判決及び東京高裁平成19年1月19日判決(横浜事件。裁判所HP未掲載)
④ 有斐閣Online・最高裁平成20年3月14日第二小法廷判決(平成19年(れ)第1号,刑集62巻3号185頁)(裁判所HP未掲載)

3 法務省・警察庁・統計資料

① 法務省・恩赦
② 法務省・即位の礼に当たり行う特別恩赦について(「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準」1頁~3頁)
③ 法務省・令和3年版犯罪白書(即位恩赦の個別恩赦処理結果・87頁)
④ e-Stat・常時恩赦人員
⑤ 法務省・犯歴事務規程(令和7年5月29日最終改正,規程10頁)
⑥ 警察庁・犯罪経歴証明書発給要綱について(令和8年4月1日付け,3頁及び5頁)
⑦ 東京都・犯罪人名簿事務処理要綱

4 文献

① 武内謙治・本庄武『刑事政策学』(日本評論社,2019年)弁護士ドットコムライブラリー・ビューア156頁~160頁