恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放


目次

1 恩赦の件数
2 無期刑受刑者の仮釈放
3 無期刑受刑者の仮釈放に関する国会答弁
4 関連記事

1 恩赦の件数
(1)   法務省が毎年,発行している犯罪白書によれば,恩赦の人数の推移は以下のとおりです(平成18年版以降の犯罪白書では,「第2編 犯罪者の処遇」→「第5章 更生保護」→「第4節 恩赦」に,前年の実績が載っています。)。
(平成時代)
平成30年:             刑の執行の免除が 3人,復権が16人
平成29年:             刑の執行の免除が 1人,復権が22人
平成28年:             刑の執行の免除が 5人,復権が24人
平成27年:             刑の執行の免除が 6人,復権が24人
平成26年:             刑の執行の免除が 2人,復権が34人
平成25年:             刑の執行の免除が 5人,復権が29人
平成24年:             刑の執行の免除が 5人,復権が19人
平成23年:             刑の執行の免除が 2人,復権が52人
平成22年:             刑の執行の免除が 2人,復権が46人
平成21年:             刑の執行の免除が 6人,復権が35人
平成20年:             刑の執行の免除が 4人,復権が77人
平成19年:             刑の執行の免除が 6人,復権が63人
平成18年:             刑の執行の免除が 7人,復権が47人
平成17年:             刑の執行の免除が 8人,復権が73人
平成16年:             刑の執行の免除が18人,復権が64人
平成15年:             刑の執行の免除が16人,復権が64人
平成14年:             刑の執行の免除が21人,復権が75人
平成13年:             刑の執行の免除が16人,復権が92人
平成12年:             刑の執行の免除が14人,復権が77人
平成11年:             刑の執行の免除が14人,復権が84人
平成10年:             刑の執行の免除が14人,復権が88人
平成 9年:             刑の執行の免除が11人,復権が81人
平成 8年:       減刑が1人,刑の執行の免除が 5人,復権が82人
平成 7年:       減刑が2人,刑の執行の免除が11人,復権が70人
平成 6年:       減刑が4人,刑の執行の免除が10人,復権が55人
平成 5年:特赦が 2人,減刑が1人,刑の執行の免除が 9人,復権が45人
平成 4年:特赦が20人,減刑が3人,刑の執行の免除が20人,復権が53人
平成 3年:             刑の執行の免除が 2人,復権が28人
平成 2年:特赦が 1人,減刑が5人,刑の執行の免除が 8人,復権が62人
平成 1年:特赦が 6人,減刑が3人,刑の執行の免除が20人,復権が52人
(昭和時代)
昭和63年:                刑の執行の免除が 14人,復権が 97人
昭和62年:特赦が 1人,         刑の執行の免除が 22人,復権が 73人
昭和61年:特赦が 1人,         刑の執行の免除が 47人,復権が151人
昭和60年:        減刑が  1人,刑の執行の免除が 45人,復権が141人
昭和59年:                刑の執行の免除が 38人,復権が197人
昭和58年:        減刑が  1人,刑の執行の免除が 59人,復権が158人
昭和57年:特赦が  2人,        刑の執行の免除が 43人,復権が158人
昭和56年:                刑の執行の免除が 29人,復権が 91人
昭和55年:特赦が  2人,減刑が  2人,刑の執行の免除が 30人,復権が160人
昭和54年:        減刑が  4人,刑の執行の免除が 28人,復権が143人
昭和53年:特赦が  5人,減刑が  7人,刑の執行の免除が 47人,復権が187人
昭和52年:        減刑が  9人,刑の執行の免除が 30人,復権が165人
昭和51年:特赦が  4人,減刑が 19人,刑の執行の免除が 45人,復権が155人
昭和50年:特赦が 16人,減刑が 43人,刑の執行の免除が 58人,復権が139人
昭和49年:特赦が 26人,減刑が 35人,刑の執行の免除が 55人,復権が 86人
昭和48年:特赦が105人,減刑が 47人,刑の執行の免除が 97人,復権が165人
昭和47年:特赦が133人,減刑が 19人,刑の執行の免除が 46人,復権が116人
昭和46年:特赦が 33人,減刑が 29人,刑の執行の免除が 54人,復権が109人
昭和45年:特赦が 35人,減刑が 45人,刑の執行の免除が 36人,復権が 55人
昭和44年:特赦が410人,減刑が170人,刑の執行の免除が106人,復権が166人
昭和43年:特赦が  6人,減刑が 28人,刑の執行の免除が 20人,復権が 32人
(2) 平成9年以降の常時恩赦において,特赦及び減刑が認められたことはなく,刑の執行の免除及び復権が認められているだけです。
   そして,刑の執行の免除は,主として無期刑仮釈放者について行われています。
   また,復権は,主として罰金刑受刑者に対する法令上の資格制限を取り除くために行われています。例えば,赤切符による罰金前科のある,医師国家試験合格者が欠格事由としての罰金前科(医師法4条3号)を抹消するために行われています(平成18年4月6日の参議院法務委員会における杉浦正健法務大臣の答弁参照)。
   そのため,このような場合に該当しない限り,常時恩赦が認められることはありません。
(3)ア 平成17年版犯罪白書の「第5節 恩赦」には以下の記載があります(「仮出獄」は現在,「仮釈放」といいます。)(改行を追加しました。)。
   刑の執行の免除は,主として無期刑仮出獄者が更生したと認められる場合に,保護観察を終了させる措置として行われており,復権は,更生したと認められる者が前科により資格を喪失し又は停止されていることが社会的活動の障害となっている場合に,その資格を回復させるものである。
いずれも,これらの者の社会復帰を促進する刑事政策的役割を果たしている。

イ 仮釈放された無期刑受刑者は,社会内処遇ということで,刑の執行の免除がない限り,一生,保護観察を受け続けることになります(更生保護法40条及び48条3号)。
(4) 受刑中の者については,刑の執行停止又は仮釈放で対応すれば足りますから,昭和54年から昭和63年までの間に,常時恩赦の対象となった人はいません(法律のひろば1989年4月号28頁参照)。
(5) e-Stat HP(「保護統計」,「恩赦」等での検索結果)に,平成18年以降の,恩赦に関するエクセルの統計資料が載っています。

2 無期刑受刑者の仮釈放
(1) 平成20年11月,「無期刑受刑者の仮釈放に係る勉強会」の報告書が法務大臣に提出されました。
(2)ア 法務省HPの「無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について」に掲載されている「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について」(令和元年11月)等によれば,平成20年以降の無期刑仮釈放者の人数の推移は以下のとおりです。
平成20年: 5人,平成21年: 6人,平成22年: 9人
平成23年: 8人,平成24年: 8人,平成25年:10人
平成26年: 7人,平成27年:11人,平成28年: 9人
平成29年:11人,平成30年:10人
イ 平成21年以降に死亡した無期刑受刑者数の推移は以下のとおりです。
平成20年: 7人,平成21年:14人,平成22年:21人
平成23年:21人,平成24年:14人,平成25年:14人
平成26年:23人,平成27年:22人,平成28年:27人
平成29年:30人,平成30年:24人
(3) 法務省HPに載ってある「平成30年版 犯罪白書」の「第1節 仮釈放と生活環境の調整」に,無期刑仮釈放許可人員の推移が載っています(無期刑の仮釈放が取り消された後,再度仮釈放を許された人を除いた数字です。)。
(4)ア 無期懲役が確定し,矯正施設において服役している者の数は,平成12年8月1日現在,904人です(平成12年10月3日付の「衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書」参照)。
イ 平成29年末時点で刑事施設に在所中の無期刑受刑者(年末在所無期刑者)は,1795人です(法務省HPの「無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について」に掲載されている,「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について」(平成30年11月)参照)。
(5)ア 刑法28条からすれば,無期刑受刑者は10年を経過した時点で仮釈放される可能性があるものの,平成29年の無期刑仮釈放者の平均受刑在所期間は33年2月です。
イ 「量刑制度を考える超党派の会の刑法等の一部を改正する法律案(終身刑導入関係)」に対する日弁連意見書(2008年11月18日付)3頁には以下の記載があります。
(山中注:無期刑)仮釈放者の平均在所期間も,1989年から1994年までは18~19年(ただし,1990年は20年3月)であったものが,1995年以降は20年を常時超え,漸増を続け,2004年には25年を超え,2007年には31年10月にまで至っている(矯正統計年報)。平均在所期間が25年間から31年間に達しているということを考えると,仮釈放までの25年から30年をはるかに超える者が多数いることが容易に推定できる。
ウ 日弁連HPの「無期刑受刑者に対する仮釈放制度の改善を求める意見書」(平成22年12月17日付)には以下の記載があります。
   近年、無期刑受刑者の数が著しく増加する中、無期刑受刑者の仮釈放件数は逆に減少の一途をたどり、無期刑の事実上の終身刑化が進行している。こうした中、安全な社会復帰が見込める状態となり、本来であれば仮釈放の対象となるべき受刑者までもが仮釈放とされず、ひいては刑事施設内で生涯を終える事態が生じている。
(6)ア 犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務規程(平成20年4月23日付の法務大臣訓令)1/32/3及び3/3を掲載しています。
イ 犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務の運用について(平成20年5月9日付の法務省矯正局長及び保護局長の依命通達)1/32/3及び3/3を掲載しています。
ウ 長期刑受刑者に対する仮釈放の審理及び仮釈放者に対する処遇等の充実について(平成20年5月9日付の法務省保護局長通達)を掲載しています。
(7) 法務省HPの「無期刑及び仮釈放制度の概要について」には,「仮釈放の判断基準」として以下の記載があります。
ア 法律上の規定
   刑法第28条注2によれば,このような無期刑受刑者について仮釈放が許されるためには,刑の執行開始後10年が経過することと,当該受刑者に「改悛の状」があることの2つの要件を満たすことが必要とされています。
イ 省令上の規定
   どのような場合に「改悛の状」があると言えるのかについては,社会内処遇規則第28条に基準があり,具体的には,「(仮釈放を許す処分は,)悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再び犯罪をするおそれがなく,かつ,保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし,社会の感情がこれを是認すると認められないときは,この限りでない。」と定められています。
ウ さらに詳細な規定
   「悔悟の情」や「改善更生の意欲」,「再び犯罪をするおそれ」,「保護観察に付することが改善更生のために相当」,「社会の感情」については,それぞれ,次のような事項を考慮して判断すべき旨が通達により定められています。

   例えば,「悔悟の情」については,受刑者自身の発言や文章のみで判断しないこととされており,「改善更生の意欲」については,被害者等に対する慰謝の措置の有無やその内容,その措置の計画や準備の有無,刑事施設における処遇への取組の状況,反則行為等の有無や内容,その他の刑事施設での生活態度,釈放後の生活の計画の有無や内容などから判断することとされています。
   また,「再び犯罪をするおそれ」は,性格や年齢,犯罪の罪質や動機,態様,社会に与えた影響,釈放後の生活環境などから判断することとされ,「保護観察に付することが改善更生のために相当」については,悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再び犯罪をするおそれがないと認められる者について,総合的かつ最終的に相当であるかどうかを判断することとされています。
   そして,「社会の感情」については,被害者等の感情,収容期間,検察官等から表明されている意見などから,判断することとされています。
(8) 衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書(平成12年10月3日付)には以下の記載があります。
   戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮出獄中の者を除く。)は八十六人である。なお、無期懲役が確定した後、昭和三十五年以降に個別恩赦により減刑された者はいない。
   また、戦後、無期懲役が確定した後、政令恩赦により減刑された者については、十分な資料がないため、総数は不明である。なお、最後に政令恩赦により減刑が行われたのは、昭和二十七年四月の日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)の発効に際してである。

3 無期刑受刑者の仮釈放に関する国会答弁
(1) 今福章二法務省保護局長は,平成31年3月20日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 仮釈放制度は、出所者の実社会への適応を促して社会へのソフトランディングを図るという刑事政策上極めて重要な意義を有しております。そして、出所後に保護観察官や保護司が指導監督や補導援護を行うことで再犯を防止するという効果があるとも認識をしております。この点、無期刑受刑者につきましても違いはなく、同様の意義や効果を有していると認識しております。
   しかしながら、無期刑受刑者につきましては、重大な犯罪をしたことにより、終身にわたって刑事施設に収容され得ることを踏まえ、その仮釈放の判断は、地方更生保護委員会が仮釈放の許可基準に照らして、個別の事案ごとに特に慎重かつ適正に判断しているものと認識しております。
② ただいま委員が御紹介いただきましたとおり、平成二十九年末における無期刑在所者数は千七百九十五人のところ、同年中に仮釈放された無期刑受刑者は八人、その平均受刑在所期間は約三十三年二月となっております。
   無期刑受刑者と有期刑受刑者の仮釈放制度の運用状況を一概に比較することは困難ではございますけれども、参考までに申し上げますと、平成二十九年末における有期刑在所者数は四万四千九百七人のところ、同年中に仮釈放された有期刑受刑者は一万二千七百四十九人でございます。
③ この比較(山中注:有期刑と無期刑の比較)が難しゅうございまして、有期刑の方につきましては必ず刑期の終期というものがございます。その終期が来たときに、刑務所を出る仕方に仮釈放と満期釈放の両者しかないものですから、全体の中の仮釈放は幾らかというふうな計算が成り立つわけであります。それが現在、先ほど申し上げたものでいきますと五八%ほどとなるんですが、無期刑受刑者につきましては終期が刑法上ありませんから、そういう計算が成り立たないということで、単純な比較が難しいところでございます。
④ まず、受刑者の仮釈放を許すか否かにつきましては、地方更生保護委員会の専権に属しておりまして、個別の事案ごとに、三人の委員から成る合議体におきまして、御指摘の法の規定も含めた仮釈放の許可基準に照らしまして、この許可基準と申しますのは、悔悟の情、改善更生の意欲、再び犯罪をするおそれ、保護観察に付することが改善更生のために相当であるか、そして社会の感情が仮釈放を是認するかということでございますが、これらを考慮して判断しているところでございます。
   無期刑受刑者につきましては、重大な犯罪をしたことにより終身にわたって刑事施設に収容され得ることを踏まえまして、その仮釈放の判断は、この仮釈放の許可基準に照らしまして、先ほども申し上げましたが、個別の事案ごとに特に慎重かつ適正に行われております。
   お尋ねの無期刑仮釈放者の平均在所期間は、地方更生保護委員会による個々の事案についての判断の積み重ねの結果であると承知しております。
(2) 小山太士法務省刑事局長は,平成31年3月20日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 刑法二十八条におきましては、「懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、」「無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。」とされているところでございます。
   この規定の十年となりました制定経緯をひもとかせていただきますと、明治十三年制定の旧刑法におきましては、仮出獄が可能となりますのは、当時存在しました無期徒刑という刑について十五年経過後とされておりましたところ、明治四十年に現行刑法を制定した際に、無期の懲役又は禁錮の刑につき、これを十年としたものでございます。
   その理由でございますが、当時の政府提出案の理由書によれば、改悛の状がある囚人であるならば長期間在監させる必要がない、在監期間を長くすると囚人を自暴自棄に陥らせる弊害があるなどとされているものと承知しております。この規定が現在も維持されているところでございます。
② 御指摘の通達(山中注:最高検マル特無期通達のこと。)でございますが、これは、無期懲役の判決を受けた者の仮釈放の適否につきまして、矯正施設の長や地方更生保護委員会から意見照会を求められた場合における検察官の対応等を定めたものと承知しております。
   御指摘の通達では、特に犯情が悪質な者については、従来の慣行等にとらわれることなく、相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使等をすべきであると指摘しているところでございます。
   もっとも、一般に犯情とは、例えば犯罪の動機、手段、方法、被害の大小等の犯罪事実そのものの内容、あるいはこれと密接な関連を持つ情状を指すものとされているところでございますが、こうした犯情につきましては個々の事件ごとに様々でございまして、その内容を一概に申し上げることは困難でございます。
   また、御指摘ございます刑法二十八条で無期懲役刑につきましては十年を経過した後に仮釈放することができるとされておりますところ、お尋ねの通達における相当長期間にわたり服役させる場合とは、時期経過後、比較的早期に仮釈放を許すべきではない場合との趣旨で用いられておりますものの、これにつきましても個々の事件ごとに犯情が異なりますので、これを一概に申し上げることは困難でございます。

4 関連記事
① 恩赦の効果
② 恩赦に関する記事の一覧
③ 仮釈放
④ 仮釈放に関する公式の許可基準
⑤ マル特無期事件
⑥ 保護観察制度
 前科抹消があった場合の取扱い


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