刑事事件

刑事裁判の書証の証拠能力

第1 伝聞法則
第2 伝聞例外の体系
1 供述録取書(=甲の供述を乙が録取した書面)
2 供述書(=甲自身が作成した書面)
3 特に信用すべき文書(特信文書)
4 伝聞供述(=甲の供述を乙が証言したもの)
5 当事者が証拠とすることに同意した書面(刑訴法326条)
6 合意書面(刑訴法327条)
7 弾劾証拠(刑訴法328条)
第3 供述の任意性の調査
第4 供述書と供述録取書
第5 裁判官面前調書(裁面調書)
第6 検察官面前調書(検面調書)
第7 3号書面
第8 実況見分調書
第9 映像等の送受信による通話の方式による証人尋問調書
第10 被告人の供述書・供述録取書の証拠能力
第11 刑訴法326条1項の同意,及び合意書面
1 総論
2 刑訴法326条1項の同意
3 合意書面
第12 証明力を争うための証拠
第13 証拠開示に関する最高裁判例
第14 関連記事その他

第1 伝聞法則
1 ①公判期日における供述に代わる書面,及び②公判期日外における他の者の供述を内容とする供述は,原則として証拠とすることはできない(刑訴法320条1項)のであって,これを伝聞法則といいます。
2 実務上は,検察官及び弁護人が証拠とすることに同意する結果,「公判期日における供述に代わる書面」の大部分は,刑訴法326条に基づいて証拠能力が認められています。

第2 伝聞例外の体系
・ 伝聞例外とは,伝聞法則の例外として,伝聞証拠であっても証拠能力が認められることをいいますところ,伝聞例外の体系は以下のとおりです。
1 供述録取書(=甲の供述を乙が録取した書面)
(1) 被告人以外の者の供述について
① 被告人以外の者の供述を,裁判官が録取した書面(裁面調書,1号書面)は刑訴法321条1項1号により,供述不能(前段)又は不一致供述(後段)を条件として証拠能力が認められます。
   裁面調書の例としては,刑訴法226条又は227条の証人尋問による証人尋問調書があります。
② 被告人以外の者の供述を,検察官が録取した書面(検面調書,2号書面)は刑訴法321条1項2号により,供述不能(前段)又は不一致供述かつ相対的特信情況(後段)を条件として証拠能力が認められる。
   これは,検察官事務取扱検察事務官作成(検察庁法36条)の供述録取書も含みます。
③ 被告人以外の者の供述を,第三者が録取した書面(3号書面)は刑訴法321条1項3号により,供述不能かつ必要不可欠性かつ絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められる。
   3号書面の例としては,捜査報告書,捜索差押調書,司法警察職員が録取した書面(員面書面)があります。
④ 被告人以外の者の供述を,裁判所が録取した書面は刑訴法321条2項前段により,無条件で証拠能力が認められます。
   2項前段書面の例としては,当該事件の公判準備における裁判所の証人尋問調書があります。
⑤ 被告人以外の者の供述を,映像等の送受信による通話の方式により記録した記録媒体がその一部とされた調書は,刑訴法321条の2により無条件で証拠能力が認められます。
(2) 被告人の供述について
① 被告人の供述を,第三者が録取した書面は刑訴法322条1項により,不利益な事実の承認については任意性を条件として,それ以外については絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
② 被告人の供述を,裁判所が録取した書面は刑訴法322条2項により,任意性を条件として証拠能力が認められます。
2 供述書(=甲自身が作成した書面)
(1) 第三者が作成した書面は刑訴法321条1項3号により,供述不能かつ必要不可欠性かつ絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
   例としては,被害届,始末書及び上申書があります。
(2) 裁判所・裁判官が作成した書面(検証調書)は刑訴法321条2項後段により,無条件で証拠能力が認められます。
(3) 捜査官が作成した書面(検証調書)は刑訴法321条3項により,真正作成供述を条件として証拠能力が認められます。
   例としては,実況見分調書(最高裁昭和36年5月26日判決)及び酒酔い鑑識カード(最高裁昭和47年6月2日判決)があります。
(4) 刑訴法165条以下に基づき鑑定人が作成した書面(鑑定書)は刑訴法321条4項により,真正作成供述を条件として証拠能力が認められます。
(5) 刑訴法223条以下に基づき鑑定受託者が作成した書面(鑑定書)は刑訴法321条4項準用により,真正作成供述を条件として証拠能力が認められます(最高裁昭和28年10月15日判決)。
(6) 医師が作成した診断書は刑訴法321条4項準用により,新政策制供述を条件として証拠能力が認められます(最高裁昭和32年7月25日判決)。
(7) 被告人が作成した書面(供述代用書面)は刑訴法322条1項により,不利益な事実の承認については任意性を条件として,それ以外については絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
   供述代用書面の例としては,備忘録,日記帳,始末書及び上申書があります。
3 特に信用すべき文書(特信文書)
(1) 公務文書(刑訴法323条1号)
   例としては,戸籍謄本,公正証書謄本,不動産登記簿・商業登記簿の謄抄本,印鑑証明書,身上調書,前科調書及び指紋照会回答書があります。
(2) 業務文書(刑訴法323条2号)
   例としては,商業帳簿,航海日誌,漁船団の受信記録(最高裁昭和61年3月3日決定),裏帳簿及びカルテがあります。
(3) その他の特信文書(刑訴法323条3号)
   例としては,民事事件の裁判書があります。
4 伝聞供述(=甲の供述を乙が証言したもの)
(1) 被告人の公判廷外供述を第三者が証言したものは刑訴法324条1項・322条により,不利益な事実の承認については任意性を条件として,それ以外については絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
   例としては,(a)捜査官が捜査段階で聴取した被告人の供述を捜査官が証言する場合,及び(b)第三者が耳にした被告人の発言を第三者が証言する場合があります。
(2) 被告人以外の者の公判廷外供述を第三者が証言したものは刑訴法324条2項・321条1項3号により,供述不能かつ必要不可欠性かつ絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
   例としては,(a)捜査官が捜査段階で聴取した被告人以外の者の供述を捜査官が証言する場合,及び(b)第三者が耳にした被告人以外の者の発言を第三者が証言する場合があります。
5 当事者が証拠とすることに同意した書面(刑訴法326条)
→ 実務上,刑訴法326条に基づく書面が大部分です。
6 合意書面(刑訴法327条
   当事者は合意の上、文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述することが予想されるその供述内容を記載した書面を提出できる。
7 弾劾証拠(刑訴法328条)
   刑訴法321条ないし324条で証拠とし得ない書面・供述でも、公判準備又は公判期日における被告人・証人その他の者の供述の証明力を争うために証拠とすることはできます。


第3 供述の任意性の調査
1 裁判所は,刑訴法321条から324条までの規定により証拠とすることができる書面又は供述であっても,あらかじめ,その書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となった他の者の供述が任意にされたものかどうかを調査した後でなければ,これを証拠とすることができません(刑訴法325条)。
2 刑訴法325条の任意性の有無の調査は,裁判所が適当と認める方法によってこれを行うことができ,かつ供述調書の方式のみでなく内容自体も右調査の資料となりうるのであって,右調査の事実は,これを必ず調書に記載しなければならないものではありません(最高裁昭和32年9月18日決定)。
3 刑訴法325条の規定は,裁判所が,同法321条ないし324条の規定により証拠能力の認められる書面又は供述についても,さらにその書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となった他の者の供述の任意性を適当と認める方法によって調査することにより(最高裁昭和28年2月12日判決,最高裁昭和28年10月9日判決参照),任意性の程度が低いため証明力が乏しいか若しくは任意性がないため証拠能力あるいは証明力を欠く書面又は供述を証拠として取り調べて不当な心証を形成することをできる限り防止しようとする趣旨のものと解されます。
    そのため,刑訴法325条にいう任意性の調査は,任意性が証拠能力にも関係することがあるところから,通常当該書面又は供述の証拠調べに先立って同法321条ないし324条による証拠能力の要件を調査するに際しあわせて行われることが多いと考えられるが,必ずしも右の場合のようにその証拠調べの前にされなければならないわけのものではなく,裁判所が右書面又は供述の証拠調後にその証明力を評価するにあたってその調査をしたとしても差し支えありません(最高裁昭和54年10月16日決定)。

第4 供述書と供述録取書
1(1) ①供述書とは,上申書,被害届のように,供述者が供述する内容を自ら記載した書面をいうのに対し,②供述録取書とは,検察官面前調書,司法警察員面前調書のように,供述者が供述する内容を他の者が録取した書面をいいます。
   両者の区別の実益は,①供述書の場合,供述者の署名押印は証拠能力が生じるための要件とされていないのに対し,②供述録取書の場合,それが要件とされている点にあります(刑訴法321条1項柱書)。
(2)   署名・押印が要件とされているのは,①供述書の場合,供述者が作成した書面であることが明らかになれば供述者がその内容を供述したことが明らかになるのに対し,②供述録取書の場合,供述者の供述を他の者が記録した再伝聞であるから,供述者の署名押印により供述者が供述したとおりが記録されていることを認証させた上で,供述者自身が作成した供述書と同様に扱うためです。
2 供述録取書を除く,供述を内容とする書面はすべて供述書に含まれます。
   私人によって作成されるものには陳述書,上申書,被害届,告訴状,告発状等があり,裁判や捜査の過程で作成されるものには検証調書,実況見分調書,鑑定書,報告書,逮捕手続書,差押調書があり,証拠物たる書面も,供述の内容が証拠となるものは供述書に含まれます。
3 供述録取書には,公判調書,公判準備調書,検察官面前調書等はもとより,供述者以外のものが供述者の供述を録取したものであればすべてこれに含まれるのであって,録取の方法及び録取の権限の有無は関係ありません。


第5 裁判官面前調書(裁面調書)

1 裁面調書とは,裁判官の面前における供述を録取した書面をいいます(刑訴法321条1項1号)。
2 公判の供述と裁判官面前調書の供述とが相反する場合,刑訴法321条1項1号後段により,調書の供述の信用性を問題とすることなく,調書に証拠能力が認められます。
   これは,被告人に実質的に反対尋問の機会が与えられている上,裁判官の面前でされた供述であるところに信用性の情況的保障があるからです。
3 「裁判官の面前における供述を録取した書面」とは,当該事件において作成されたものであると他の事件において作成されたものであるとを問いません(最高裁昭和29年11月11日決定)。
4 証人が公判期日に証言を拒んだときは,刑訴法321条1項1号前段にいう公判期日において供述することができないときにあたります(最高裁昭和44年12月4日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和27年4月9日判決参照)。
5 刑訴法321条1項1号の「裁判官の面前における供述を録取した書面」には,被告人以外の者に対する事件の公判調書中同人の被告人としての供述を録取した部分を含みます(最高裁昭和57年12月17日決定)。
第6 検察官面前調書(検面調書)
1(1) 検面調書の許容要件としては以下のものがあります。
① その供述者が死亡,精神若しくは身体の故障,所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないこと(供述不能)(刑訴法321条1項2号前段)
② 公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なった供述をしたこと(相反供述・実質的不一致供述)
   ただし,公判準備若しくは公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存すること(相対的特信情況)(刑訴法321条1項2号後段)が必要です。
(2) 「検察官調書作成要領」も参照してください。
2 刑訴法321条1項2号前段書面に特信情況を必要とすると,かかる特信情況は後段のような相対的特信情況ではなく,絶対的特信情況になります。
   なぜなら,後段の場合,公判廷供述があるからそれとの比較で特信情況の有無を判断できるのに対し,前段の場合,比較の対象となる公判廷供述がそもそも存在しないからです。
3 自己矛盾供述を理由として証拠能力が認められるのは裁面調書及び検面調書だけであり,員面調書を始めとする3号書面では証拠能力は認められません。
   なお,検面調書の場合,一方当事者である検察官が作成した調書であるにもかかわらず,相対的特信状況が認められる限り,第三者の供述を録取した書面は常に証拠能力が認められることとなります。
4 刑訴法321条1項2号前段は憲法37条2項に違反しません(最高裁大法廷昭和27年4月9日判決)。
5 刑訴法321条1項2号ただし書により検察官の面前における供述を録取した書面を証拠とするに当り,当該書面の供述が公判準備又は公判期日における供述より信用すべき特別の情況が存するか否かは結局,事実審裁判所の裁量に委ねられています(最高裁昭和28年7月10日判決。なお,先例として,最高裁昭和26年11月15日判決参照)。
6 証人に対する検察官の面前調書の証拠調が,これら証人を尋問した公判期日の後の公判期日で行われたからといって憲法37条2項の保障する被告人らの反対尋問権を奪ったことになりません(最高裁昭和30年1月11日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和25年3月6日決定)。
7 憲法37条2項が,刑事被告人は,すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられると規定しているのは,裁判所の職権により又は当事者の請求により喚問した証人につき,反対尋問の機会を充分に与えなければならないという趣旨であって,被告人に反対尋問の機会を与えない証人その他の者の供述を録取した書類を絶対に証拠とすることを許さない意味をふくむものではなく,従って,法律においてこれらの書類はその供述者を公判期日において尋問する機会を被告人に与えれば,これを証拠とすることができる旨を規定したからといって,憲法37条2項に反するものでありません(最高裁昭和30年11月29日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和24年5月18日判決)。
8 証人が外国旅行中であって,これに対する反対尋問の機会を被告人に与えることができない場合であっても,その証人の検察官に対する供述録取書を証拠として採用することは憲法37条2項に違反しません(最高裁昭和36年3月9日判決)。
9 退去強制は,出入国の公正な管理という行政目的を達成するために,入国管理当局が出入国管理及び難民認定法に基づき一定の要件の下に外国人を強制的に国外に退去させる行政処分であるが,同じく国家機関である検察官において当該外国人がいずれ国外に退去させられ公判準備又は公判期日に供述することができなくなることを認識しながら殊更そのような事態を利用しようとした場合はもちろん,裁判官又は裁判所が当該外国人について証人尋問の決定をしているにもかかわらず強制送還が行われた場合など,当該外国人の検察官面前調書を証拠請求することが手続的正義の観点から公正さを欠くと認められるときは,これを事実認定の証拠とすることが許容されないこともあり得ます(最高裁平成7年6月20日判決)。


第7 3号書面
1 3号書面とは,被告人以外の者の供述を,第三者が録取した書面をいいます(刑訴法321条1項3号)。

2 3号書面に証拠能力が認められる要件は以下のとおりです。
① 供述者が死亡,精神又は身体の故障,所在不明若しくは国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができないこと(供述不能)
② その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであること(証拠の不可欠性)
③ 供述が特に信用すべき状況でなされたこと(絶対的特信情況)
3 同じ捜査機関でありながら,検面調書(2号書面)の要件が3号書面の要件よりずっと緩和されているのは,検察官は法律の専門家である上,法の正当な適用を請求すべき地位にある(検察庁法4条)という客観義務を負う立場にあるからです。
4 絶対的特信情況の典型例は,以下のような場合です。
① 供述の内容自体で信用すべき状況が認められる場合
   (a)自分の刑事上又は民事上の不利益な事実を内容とする供述,(b)客観的な資料等に基づいて説得力のある供述をしていて虚偽を供述する理由もない場合等です。
② 供述の動機から信用すべき状況が認められる場合
   (a)被害を受けた子供が直後に親に告げたような場合,(b)事件の直後に無関係な者が積極的に目撃情況を警察官等に申告して捜査に協力した場合,(c)被告人又は親族が積極的に警察官等の下に出頭して犯罪事実や目撃情況を告白した場合等です。
③ 供述者との親密な関係があって十分に信用のできる供述を聞き出している場合
④ 警察官等の録取者が供述者から十分に信用のできる供述を聞き出すために反対尋問に代わるようなテストをしながら客観性を保った録取をした場合
5 検察官は,3号書面については,できる限り他の部分と分離してその取調べを請求しなければなりません(刑訴法302条)。
6 刑訴法321条1項3号ただし書の「特に信用すべき情況」については事実審の裁量認定に関する事項です(最高裁昭和29年9月11日決定。なお,先例として,最高裁昭和28年7月10日判決参照)。
7 日本国からアメリカ合衆国に対する捜査共助の要請に基づき,同国に在住する者が,黙秘権の告知を受け,同国の捜査官及び日本の検察官の質問に対して任意に供述し,公証人の面前において,偽証罪の制裁の下で,記載された供述内容が真実であることを言明する旨を記載するなどして作成した供述書は,刑訴法321条1項3号にいう特に信用すべき情況の下にされた供述に当たります(最高裁平成12年10月31日決定)。

8 大韓民国の裁判所に起訴された共犯者が,自らの意思で任意に供述できるよう手続的保障がされている同国の法令にのっとり,同国の裁判官,検察官及び弁護人が在廷する公開の法廷において,質問に対し陳述を拒否することができる旨告げられた上でした供述を記載した同国の公判調書は,刑訴法321条1項3号にいう「特に信用すべき情況」の下にされた供述を録取した書面に当たります(最高裁平成15年11月26日決定)。

第8 実況見分調書
1 実況見分調書とは,捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載した書面をいいます(最高裁昭和36年5月26日判決)。
2 刑訴法321条3項所定の書面には捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載したいわゆる実況見分調書も包含するものと解するを相当とし,このように解したからといって同条項の規定が憲法37条2項前段に違反するものではありません(最高裁昭和35年9月8日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和24年5月18日判決参照)。
3 実況見分調書は,たとえ被告人側においてこれを証拠とすることに同意しなくても,検証調書について刑訴法321条3項に規定するところと同一の条件の下に,すなわち実況見分調書の作成者が公判期日において証人として尋問を受け,その真正に作成されたものであることを供述したときは,これを証拠とすることができます(最高裁昭和35年9月8日判決)。
4 捜査機関は任意処分として検証(実況見分)を行うに当り必要があると認めるときは,被疑者,被害者その他の者を立ち会わせ,これらの立会人をして実況見分の目的物その他必要な状態を任意に指示,説明させることができ,そうしてその指示,説明を当該実況見分調書に記載することができるが,右の如く立会人の指示,説明を求めるのは,要するに,実況見分の一つの手段であるに過ぎず,被疑者及び被疑者以外の者を取り調べ、その供述を求めるのとは性質を異にします。
   そのため,右立会人の指示,説明を実況見分調書に記載するのは結局実況見分の結果を記載するに外ならず,被疑者及び被疑者以外の者の供述としてこれを録取するのとは異なります。
   よって,立会人の指示説明として被疑者又は被疑者以外の者の供述を聴きこれを記載した実況見分調書には右供述をした立会人の署名押印を必要としません(最高裁昭和35年9月8日判決。なお,先例として,大審院昭和5年3月20日判決,大審院昭和9年1月17日判決参照)。

5 捜査官が被害者や被疑者に被害・犯行状況を再現させた結果を記録した実況見分調書等で,実質上の要証事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される書証が刑訴法326条の同意を得ずに証拠能力を具備するためには,同法321条3項所定の要件が満たされるほか,再現者の供述録取部分については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の要件が,再現者が被告人である場合には同法322条1項所定の要件が,写真部分については,署名押印の要件を除き供述録取部分と同様の要件が満たされる必要があります(最高裁平成17年9月27日決定)。

第9 映像等の送受信による通話の方式による証人尋問調書
1 いわゆる性犯罪が複数の犯人によって犯され,各被告人の公判が分離されている場合,被害者がそれぞれの公判において同一の被害事実について繰り返し証言をする必要のある場合がある。
   このような被害者等にとっては,一回の証言でさえ二次的被害及び強い精神的圧迫を受けることがあるのに,証言を繰り返させられることにより,そのような被害を重ねて受けることとなり,一層深刻な事態をもたらすこととなります。
   そこで,ビデオリンク方式により証人尋問を行う場合において,後に再度証人尋問が行われる可能性がある場合には,後の公判において,被害の状況を一から証言するといった弊害を避けるため,ビデオリンク方式による証人尋問の状況をビデオテープ等の記録媒体に録画し,訴訟記録に添付して調書の一部とすることができるとされ(刑訴法157条の4第2項及び第3項),これについて,後の公判において一定の要件の下に証拠能力を認めることとされています(刑訴法321条の2第1項)。
2 裁判所は,ビデオリンク方式による証人尋問を実施する場合,証人が後の刑事手続において同一の事実について再び証人として供述を求められることがあると思料する場合であって,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いた上で,その証人尋問の状況をビデオテープ等の記録媒体に記録することができます(刑訴法157条の4第2項)。
   これにより記録した記録媒体は,訴訟記録に添付して調書の一部とされます(刑訴法157条の4第3項)。記録媒体への記録は,証言の内容にかんがみ,証人の意思を尊重すべきであることから,証人の同意にかからしめられています。また,記録媒体には証人尋問の状況についての映像及び音声が記録されることとなるところ,これが添付される調書は通常,証人尋問調書と同様に作成されることとなるので,証言の内容は文字情報として調書に記載されることとなります。
   そして,後の公判においては,記録媒体がその一部とされた調書は伝聞証拠に該当することとなるものの,後の公判において,被害の状況を一から改めて証言するといった弊害を避ける必要があり,また,ビデオリンク方式による証人尋問を記録した記録媒体は,テレビモニターを通じてではあるものの,裁判官の面前で,かつ宣誓をした上で証言したものである上,その記録媒体に記録された内容は,まさに,元の公判で,裁判官がテレビモニターを見て心証を得たものと同一の内容であることから,これに証拠能力を認めることとし,なお,訴訟関係人に反対尋問の機会を保障するため,これを取り調べた後,訴訟関係人に対し,その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならないとされています(刑訴法321条の2第1項)。
3 記録媒体がその一部とされた調書の取調べ方法は,一般的には,朗読に代えて当該機録媒体を再生することであるものの,常に再生を必要とするのではなく,相当と認めるときは,当該調書に記録された供述の内容を告げることで足りるとされています(刑訴法305条3項)。
   しかしながら,刑訴法321条の2第1項により証拠能力が認められる場合,原則に戻り,必ず,その記録媒体を再生して取り調べなければならないとされています(刑訴法321条の2第2項)。
4 刑訴法321条の2第1項により取り調べられた調書に記録された証人の供述は,刑訴法295条1項前段並びに321条1項1号及び2号の適用については,被告事件の公判期日においてされたものとみなすとされています(刑訴法321条の2第3項)。
   よって,記録媒体に記録された証人尋問が後の公判期日において行われたものとして取り扱うこととなるのであるから,刑訴法295条1項前段により,当該調書の取調べ後に行われる証人尋問において,裁判長は,前の証人尋問(記録媒体に記録された証人尋問)と重複する尋問を制限することができ,これにより,同一内容の証言の繰り返しを避けるという趣旨に資することとなります。
   また,刑訴法321条1項1号及び2号の適用については,当該記録媒体に記録された供述の内容が,他の裁判官面前調書又は検察官面前調書と異なるいわゆる相反供述等であった場合,その裁判官面前調書等を後の公判においても証拠として採用することができることとなります。

5 ビデオリンク方式による証人尋問を記録した記録媒体については,当該記録媒体が,種々の者の目に触れるようなことがあれば,証人のプライバシーや名誉,心情が害されることが考えられる上,万一,これが流用されれば,その被害が拡大することから,検察官及び弁護人は,記録媒体の謄写をすることはできないとされています(刑訴法40条2項,180条2項,270条2項)。

第10 被告人の供述書・供述録取書の証拠能力
1 被告人のその他の供述を内容とするものは,特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り,証拠能力が認められます(刑訴法322条1項本文)。
   これは,検察官の反対尋問権を保障するためです。
2 被告人の自白その他の不利益な事実の承認を内容とするものは,任意にされたものでない疑いがあると認められる場合を除き,証拠能力が認められます(刑訴法322条1項ただし書)。
   これは,人は嘘をついてまで自分に不利益な事実を暴露することはないという経験則に基づくものです。
3 被告人の不利益な事実の承認を内容とする書面は,捜査段階で作成されたものであっても,それ以前に作成されたものであっても含まれます。
   また,捜査を意識しないで作成されたもの(手紙での告白,日記帳等)も含まれます。
4 弁護人が自白調書についての証拠能力を争う場合,これを不同意とするとともに,刑訴法322条1項ただし書に基づく証拠能力が生じないことを主張するため,任意性に疑いがある旨の意見を述べる必要性があります。
   この場合,自白するに至った経緯について,被告人質問等によって法廷に顕出することとなります。
5 検察官は,被告人又は被告人以外の者の供述に関し,その取調べの状況を立証しようとするときは,できる限り,取調べの状況を記録した書面その他の取調べ状況に関する資料を用いるなどして,迅速かつ的確な立証に努めなければなりません(刑事訴訟規則198条の4)。
6 公判廷外における被告人の自白の任意性の有無の調査は,必ずしも証人の取調べによるの要なく,裁判所が適当と認める方法によってこれを行うことができます(最高裁昭和28年2月12日判決)。


第11 刑訴法326条1項の同意,及び合意書面
1 総論

   訴訟関係人は,争いのない事実については,誘導尋問,刑訴法326条1項の同意,刑訴法327条の合意書面の活用を検討するなどして,当該事実及び証拠の内容及び性質に応じた適切な証拠調べが行われるよう努めなければなりません(刑訴規則198条の2)。
2 刑訴法326条1項の同意
(1) 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は,その書面が作成され又は供述されたときの情況を考慮して相当と認めるときに限り,刑訴法321条ないし325条の規定に関わらず,これを証拠とすることができます(刑訴法326条1項)。
   このように,当事者の同意だけで直ちに証拠能力を与えるわけではなく,相当性が要求されるのは,あまりに真実性を欠き,証拠価値の薄弱なものについてまで当事者の同意があることだけを理由に証拠能力を認めることは,事実認定の上で危険だからです。
(2) 刑訴法326条1項の同意は,公判調書に記載されます(刑訴規則44条1項29号)。
(3) 被告人において全面的に公訴事実を否認し,弁護人のみがこれを認め,その主張を完全に異にしている場合において,弁護人の同意のみを以て被告人が書証を証拠とすることに同意したとは言えないのであるから,裁判所は弁護人とは別に被告人に対して,証拠調べ請求に対する意見及び書類を証拠とすることについての同意の有無を確かめなくてはなりません(最高裁昭和27年12月19日判決)。
(4) 刑訴法326条1項ただし書の「相当と認めるときに限り」というのは,証拠とすることに同意のあった書面又は供述が任意性を欠き,又は証明力が著しく低い等の事由があれば証拠能力を取得しないとの趣旨です(最高裁昭和29年7月14日決定)。
(5) 挙示の証拠が証拠能力のあるものであることは,判文に特に説明する必要はありません(最高裁昭和29年7月14日決定)。
3 合意書面
(1) 裁判所は,検察官及び被告人又は弁護人が合意の上,文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述することが予想されるその供述の内容を書面に記載して提出したときは,その文書又は供述すべき者を取り調べないでも,その書面を証拠とすることができます(刑訴法327条前段)。
(2) 合意書面の場合,当事者双方に証拠申請の利益があることが前提となるものの,そのような事例は希有であることから,今日では原則として同意書面の活用によることが確立しており,合意書面はほとんど用いられていません。
(3) 合意書面は,これに証拠能力を与えるための制度であるにすぎず,その内容を真実と認めるものではないから,その内容の証明力を争うことはできます(刑訴法327条ただし書)。
第12 証明力を争うための証拠
1 刑訴法321条ないし324条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であっても,公判準備又は公判期日における被告人,証人その他の者の供述の証明力を争うためには,これを証拠とすることができます(刑訴法328条)。
   これは,伝聞証拠について事実認定に用いるのではなく,単に他の証拠の証明力を争うためだけに使用するならば,別段の弊害はないのでその使用が認められています。
2 証人の供述の証明力を争うことを弾劾といいます。
   弾劾の方法には,①反対尋問において体験したとされる事実について認識,記憶,記述の各面を追求する方法,②証人の性格,能力,利害関係,偏見等,証人の信用性を一般的に批判する方法,及び③証人が矛盾する供述をしていることを示す方法があります。
3 刑訴法328条は,①同一人の,②公判廷供述前の,③不一致供述のみ,④その供述を証拠とすることができることを規定したものであり,①に関しては自己矛盾供述に限られるのかが問題となり,②に関しては公判廷供述後に作成されたものでも良いのかが問題となり,③に関しては回復証拠及び増強証拠も含まれるのかが問題となり,④に関しては任意性に疑いのある供述も含まれるのかが問題となります。
   ①に関しては自己矛盾供述に限られ,②に関しては公判廷供述前に作成されたものに限られ,③に関しては回復証拠及び増強証拠も含まれ,④に関しては任意性に疑いのある供述は含まれないと解されています。

第13 証拠開示に関する最高裁判例
1  現行刑事訴訟法規の下で,裁判所が検察官に対し,その所持する証拠書類又は証拠物を,検察官において公判で取調べを請求すると否とにかかわりなく,予め,被告人又は弁護人に閲覧させるように命令することはできません(最高裁昭和34年12月26日決定)。
2  裁判所は,証拠調の段階に入つた後,弁護人から,具体的必要性を示して,一定の証拠を弁護人に閲覧させるよう検察官に命ぜられたい旨の申出がなされた場合,事案の性質,審理の状況,閲覧を求める証拠の種類および内容,閲覧の時期,程度および方法,その他諸般の事情を勘案し,その閲覧が被告人の防禦のため特に重要であり,かつこれにより罪証隠滅,証人威迫等の弊害を招来するおそれがなく,相当と認めるときは,その訴訟指揮権に基づき,検察官に対し,その所持する証拠を弁護人に閲覧させることを命ずることができる(最高裁昭和44年4月25日決定)。

第14 関連記事その他
1 「公訴事実記載の日時には犯行場所にはおらず,自宅ないしその付近にいた」旨のアリバイ主張が明示されたが,それ以上に具体的な主張は明示されず,裁判所も釈明を求めなかったなどの本件公判前整理手続の経過等に照らすと,前記主張の内容に関し弁護人が更に具体的な供述を求める行為及びこれに対する被告人の供述を刑訴法295条1項により制限することはできません(最高裁平成27年5月25日決定)。
2 刑事事件における証拠等関係カードの記載に関する実証的研究-新訂-16頁には「*9 現在の様式が「証拠関係カード」ではなく,「証拠等関係カード」と称されるのは,被告人の供述がなされた事実もカードに記載するからである。」と書いてあります。
3  検察官から証拠調の請求のあつた供述調書につき,被告人側から異議の申立があったにかかわらず,これを証拠に採用するとした決定のように訴訟手続に関し判決前にした決定は,刑訴法433条1項にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」に当たりません(最高裁昭和29年10月8日決定)。
4 以下の記事も参照してください。
・ 弁護人

刑事手続及び少年審判における被害者の権利

目次
第1 被害者等通知制度
第2 告訴及び告発
1 総論
2 公務員の告発と守秘義務の関係
3 京都府警の取扱い
第3 不起訴処分に対する被害者側の手段
1 総論
2 検察審査会に対する審査の申立て
3 高検検事長に対する不服の申立て
第4 犯罪被害者等の権利利益の尊重に関する最高検察庁の通達
第5 被害者参加制度,及び被害者参加人のための国選弁護制度
1 被害者参加制度
2 被害者参加人のための国選弁護制度
第6 刑訴法292条の2に基づく意見の陳述
第7 少年審判における被害者の権利
1 総論
2 少年事件記録の閲覧又は謄写
3 少年事件における意見陳述
4 少年審判の傍聴
5 被害者等に対する説明
6 被害者等に対する通知
第8 被害者が捜査によって受ける利益は事実上の利益に過ぎないこと
第9 犯罪被害者等給付金の支給制度の拡充

第10 関連記事その他

第1 被害者等通知制度
・ 被害者,被害者の親族及びそれらの代理人弁護士は,被害者等通知制度実施要領(平成28年5月27日最終改正)に基づき,検察官等から取調べ等を受けた際に希望し,又は検察官等に照会すれば,以下の事項を通知してもらえます。
(1)事件の処理結果については,公判請求,略式命令請求,不起訴,中止,移送(同一地方検察庁管内の検察庁間において,専ら公判請求又は略式命令請求のために行う移送を除く。),家庭裁判所送致の別及び処理年月日
(2)公判期日については,係属裁判所及び公判日時
(3)刑事裁判の結果については,主文(付加刑,未決勾留日数の算入,換刑処分及び訴訟費用の負担を除く。),裁判年月日,裁判の確定及び上訴
(4)公訴事実の要旨,不起訴裁定の主文,不起訴裁定の理由の骨子,勾留及び保釈等の身柄の状況並びに公判経過等(1)から(3)までの事項に準ずる事項
(5)有罪裁判確定後の加害者に関する事項
ア 懲役又は禁錮の刑の執行終了(刑のうち一部の執行を猶予された刑については,そのうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行終了を含む。以下アにおいて同じ。)予定時期,受刑中の刑事施設における処遇状況に関する事項,並びに仮釈放又は刑の執行終了による釈放に関する事項及びこれに準ずる事項
イ 懲役又は禁錮の刑の執行猶予の言渡しの取消しに関する事項
ウ 拘留の刑の仮出場又は刑の執行終了による釈放に関する事項及びこれに準ずる事項
(6)(5)に準ずる事項

第2 告訴及び告発
1 総論
(1) 告訴とは,犯罪の被害者その他一定の者が,捜査機関に対して犯罪事実を申告し,その訴追を求める意思表示をいいます(刑訴法230条ないし238条)。
    これに対して告発とは,告訴権者及び犯人以外の者が,捜査機関に対して犯罪事実を申告し,その訴追を求める意思表示をいいます(刑訴法239条)。
(2) 告訴は,公訴の提起があるまでこれを取り消すことができます(刑事訴訟法237条1項)。
(3) 告訴及び告訴の取消は,代理人がすることもできます(刑事訴訟法240条)。
(4) 弁護士会が人権侵害による犯罪の成立を信ずるにつき合理的な理由ある場合,弁護士会自身が告発することができます(最高裁昭和36年12月26日決定)。
(5) 告訴又は告発は,書面又は口頭で検察官又は司法警察員にする必要があります(刑訴法241条1項)。
検察官又は司法警察員は,口頭による告訴又は告発を受けたときは,調書を作らなければなりません(刑訴法241条2項)。
(6) 司法警察員は,告訴又は告発を受けたときは,速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければなりません(刑訴法242条)。
(7) 被害者が告訴までしていた場合,刑訴法260条に基づき,起訴不起訴の通知を受けることができますし,刑訴法261条に基づき,不起訴理由の告知を受けることができます。
(8) 検察官が告訴人,告発人又は請求人に対して書面で不起訴処分の理由を告知する場合には,不起訴処分理由告知書によります(事件事務規程73条2項)。
2 公務員の告発と守秘義務の関係
(1) 国家公務員が告発を行わなかったことが刑訴法239条2項に違反する場合,国家公務員法82条1項2号「職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合」に該当すると解されています(衆議院議員金田誠一からの質問主意書に対する平成14年3月26日付の内閣答弁書)。
(2) 刑事訴訟法239条2項は,「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」と規定しておりまして,この要件を満たす場合には,原則として,当該公務員は告発の義務を負うものと解されております。
    一方,国家公務員法100条等に規定する公務員の守秘義務は,公務員又は公務員であった者がその職務上知ることのできた秘密又は職務上の秘密に属する事項を故なく漏せつすることを禁止する趣旨の規定でありますから,正当な手続に従って,刑事訴訟法所定の告発義務の履行として告発する場合には,法令により当然に行うべき正当行為として許容され,守秘義務違反は成立しないものと解されております(平成16年6月11日の参議院内閣委員会における樋渡法務省刑事局長の答弁)。
3 京都府警の取扱い
・   京都府警HPにある,「告訴,告発事件の取扱要領について(例規)」 (京都府警察本部長の通達)に載っています。

第3 不起訴処分に対する被害者側の手段
1 総論
(1) 加害者が不起訴処分を受けた場合,被害者としては,以下の二つの手段により,加害者の起訴を求めることができます。
① 検察審査会に対する審査の申立て
② 処分庁,又は上級検察庁の長に対する不服の申立て
(2) 被害者が①又は②の手段をとった場合,事情聴取のため,警察署又は検察庁から呼出を受けて改めて事情を説明することとなります。
    事情を説明する際,①調書に書いて欲しいことがらをメモ書きした紙を持参することが望ましいですし,②検察官が起訴するに際し,交通事故直後の員面調書を提出するとは限らないから,検面調書に自分の言い分を全部,書いてもらうようにすることが望ましいです。
(3) 公務員職権濫用罪(刑法193条)等について検察官が不起訴処分とした場合,地方裁判所に対して付審判請求をし(刑訴法262条),地方裁判所の付審判決定(刑訴法266条2号)を得た上で,事件について検察官の職務を行う指定弁護士(刑訴法268条)を通じて,有罪判決を求めることができます。
    また,付審判請求の棄却決定(刑訴法266条1号)に対しては,通常抗告(刑訴法419条)をすることができます(最高裁大法廷昭和28年12月22日決定)。
    しかし,過失運転致死罪等について付審判請求をすることはできません。
(4) 平成25年版犯罪白書の「3 不起訴処分に対する不服申立制度」が参考になります。
2 検察審査会に対する審査の申立て
  「加害者の不起訴処分を争う検察審査会」を参照してください。
3 高検検事長に対する不服の申立て
(1) 検察官のした不起訴処分については,行政不服審査法に基づく不服申立てをすることはできません(行政不服審査法4条)。
    しかし,地方検察庁又は区検察庁の検察官のした不起訴処分に対しては,高等検察庁検事長の指揮監督権(検察庁法8条)の発動を促すという形で,不服の申立てをすることができます(事件事務規程191条1項)。
    この場合,検察庁の事件係事務官によって不服申立事件簿に所定の事項が記入され,かつ,不起訴処分をした検察官及び不服申立人に対して処理の結果を通知されます(事件事務規程191条2項参照)。
(2) 事件事務規程は法務省訓令の一つであり,事件の受理,捜査,処理及び公判遂行等に関する事務の取扱手続の大綱を規定し,もって,事件に関する事務の適正な運用を図ることを目的としています(事件事務規程1条)。
(3) 私の経験でいえば,事故直後の簡単な診断書に「加療2週間を要する傷害である。」等と書いてあったために不起訴処分となった事案において,結果として被害者に14級の後遺障害が残った場合,処分庁に対し,不起訴処分に対する不服の申立てをすれば通常,警察が再捜査をした上で,加害者に対して罰金刑を加えてくれます。
(4) 検察審査会に対する審査の申立てをした直後に,検察審査会に対する審査申立書等のコピーを添えて処分庁に対する不服の申立てをした方が,加害者に対する刑事処分を速やかに下してくれると思われます。
(5) 大阪高検に対する不服申立ての手続については,大阪高検の不服申立事件事務処理要領(平成15年1月6日付の検事長通達)に詳しく書いてあります。
(6) 事件事務規程191条は以下のとおりです。
(不服申立事件簿への登載)
第191条 地方検察庁又は区検察庁の検察官のした不起訴処分に対する不服の申立てがあったときは,事件担当事務官は,不服申立事件簿(様式第225号)に所定の事項を登載する。

② 不服申立事件が処理されたときは,不服申立事件簿に所定の事項を記入し,前項の不起訴処分をした検察官及び不服申立人に対して処理結果を通知する。

第4 犯罪被害者等の権利利益の尊重に関する最高検察庁の通達
1 「犯罪被害者等の権利利益の尊重について」(平成26年10月21日付の最高検察庁次長検事の依命通達)には,以下の記載があります。
   検事長,検事正及び区検察庁の上席検察官は,その指揮監督する検察官による事件の処理,公判における主張・立証又は上訴に関する判断について,被害者等から不服の申立てを受け監督権の発動を促されたときは,迅速に所要の調査を行い,検察権の適正な行使を旨としつつ,事案の内容等を勘案し,必要に応じ,当該判断の適否を再検討するなど,適切に対応するよう配意されたい。
2 「「犯罪被害者等の権利利益の尊重について(依命通達)」の発出について」(平成26年10月21日付の最高検察庁総務部長及び公判部長の通知)には,以下の記載があります。
    被害者等が,主任検察官の所属庁又はその上級庁の監督者に対し,主任検察官による不起訴処分等の事件の処理,訴因の設定,証拠調べの請求等の公判における主張・立証又は上訴に関する判断について,監督権の発動を促す申立てを行った場合には,これらの監督者たる検察官においては,必要に応じ,監督権限を適正に行使し,被害者津尾への対応に遺漏なきを期する必要がある。そこで,本依命通達9は,被害者等から上記申立てがあった場合には,速やかに,その申立て内容を検討するとともに,主任検察官に事実関係を確認するなど必要な調査を行い,被害者等の立場や心情にも十分配慮した上,監督者において,事案の内容,社会的影響等を考慮して,被害者等に対し,臨機応変かつ適切に説明を行い,あるいは,当該判断の適否を再検討し,必要に応じて,主任検察官に対し,所要の改善措置をとるよう指揮・指導するなど,監督者に対し,上記のような不服申立てへの迅速・適切な対応について,一層の配慮を求めるものである。

第5 被害者参加制度,及び被害者参加人のための国選弁護制度
1 被害者参加制度
(1) 平成19年6月27日法律第95号により刑訴法の一部が改正された結果,故意の犯罪行為により人を死傷させた罪なり,自動車運転過失致死傷罪なりといった一定の犯罪の被害者等が,裁判所の許可を得て,被害者参加人として刑事裁判に参加し,検察官との間で密接なコミュニケーションを保ちつつ,一定の要件の下で,以下の事項を行える被害者参加制度が創設され(刑訴法316条の33ないし39),同制度は平成20年12月1日から施行されました。
① 公判期日への出席(刑訴法316条の34)
→ 原則として,公判期日に,法廷で,検察官席の隣等に着席し,裁判に出席することができます。
② 検察官の権限行使に関する意見申述(刑訴法316条の35)
→ 証拠調べの請求なり,論告・求刑なりといった検察官の訴訟活動に関して意見を述べたり,検察官に説明を求めたりすることができます。
③ 証人尋問(刑訴法316条の36)
→ 情状に関する事項についての証人の供述の証明力を争うために必要な事項を質問できます。
④ 被告人質問(刑訴法316条の37)
→ ⑤の意見陳述をするために必要がある場合に行います。
⑤ 事実又は法律の適用についての意見の陳述(刑訴法316条の38)
→ 検察官の論告求刑(刑訴法293条1項)の後に,訴因として特定された事実の範囲内で,事実又は法律の適用について,法廷で意見を述べることができます。
   なお,刑訴法292条の2に基づく意見の陳述(=心情意見陳述)とは別のものであり,「被害者論告」ともいわれます。
(2) 被害者等とは,被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹をいいます(刑訴法290条の2第1項)。
(3) 被害者参加の申出は,あらかじめ検察官に対して行う必要があります(刑訴法316条の33第2項前段)。
(4) 被害者参加の手続の代理を弁護士に委託した場合,被害者参加人は,委託した旨を当該弁護士と連署した書面で裁判所に届け出る必要があります(刑訴規則217条の33第1項)。
   なお,委託事項の特定がない場合,すべての行為を委託したものとみなされます(刑訴規則217条の33第3項)。
(5) 被害者参加の申出をした場合,平成20年9月5日付の最高検察庁の「被害者参加制度の下での犯罪被害者等に対する証拠の開示に関する依命通達」に基づき,第1回公判期日の前であっても,公判提出予定記録の閲覧に応じてくれることがあります(刑訴法47条ただし書参照)。
(6) 被害者参加の許可決定が得られても,被害者参加人が手続に直接関与できるのは,第1回公判期日以後に限られるのであって,公判前整理手続(刑訴法316条の2ないし316条の27)に直接は関与できません。
(7) 被害者参加人は,①証人については,犯罪事実に関するものを除く,情状に関する事項だけを質問できるに過ぎません(刑訴法316条の36第1項)。
これに対して,②被告人については,犯罪事実に関する事項も含めて質問できます(刑訴法316条の37第1項参照)。
(8) 内閣府の平成22年版犯罪被害者白書(内閣府政策統括官(共生社会政策担当)のホームページに掲載)によれば,平成20年12月1日からの1年間で,被害者参加の申出は552件(うち,自動車運転過失致死傷罪は265件)・926名であり,被害者参加許可決定がされたのは522件・850名でした。
   また,内閣府の平成23年度犯罪被害者白書によれば,平成22年5月末までに参加の申出がなされた件数及び人員は,867件1,445名,そのうち,参加が許可された件数及び人員は,847件1,375名です。
2 被害者参加人のための国選弁護制度
(1) 被害者参加人のための国選弁護制度は,犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(=犯罪被害者保護法)5条ないし12条に基づく制度です。
(2)ア 被害者参加人の資力(現金,預金等の流動資産の合計額)から,当該犯罪行為を原因として,選定請求の日から6か月以内に支出することとなると認められる費用の額(例えば,療養費)を差し引いた額が200万円(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律施行令(平成20年9月5日政令第278号)8条)未満である場合,国選被害者参加弁護士の選定を請求することができます(法テラスHPの「被害者参加人のための国選弁護制度」参照)。
   この場合,被害者参加人は,裁判所に対し,法テラスを経由して被害者参加弁護士の選定を請求でき,法テラスでは,被害者参加人のご意見を聴いた上で,被害者参加弁護士の候補を指名し,裁判所に通知する業務等を行います。
イ 平成25年12月1日,被害者参加人の資力要件が緩和されました。
(3) 国選被害者参加弁護士と法テラスの関係については,「国選被害者参加弁護士の事務に関する契約約款」(平成20年11月13日法務大臣認可)及び同約款別紙「報酬及び費用の算定基準」において,詳細が定められています。
(4) 平成22年度法テラス業務実績報告書174頁によれば,国選被害者参加弁護士の選定請求受付件数及び人員の推移は以下のとおりであり,平成23年3月時点の合計は464件569名となっています。
① 平成20年度;29件32人(平成20年12月~翌年3月)
② 平成21年度:204件238人(平成21年4月~翌年3月)

③ 平成22年度:231件299人(平成22年4月~翌年3月)

第6 刑訴法292条の2に基づく意見の陳述
1 被害者等は,被害者参加の申出をしていない場合であっても,公判期日において,被害に関する心情その他の被告事件に関する意見の陳述をすることができます(刑訴法292条の2第1項)。
2 刑訴法292条の2に基づく意見の陳述(=心情意見陳述)の制度は,平成12年5月19日法律第74号による改正に基づき,平成12年11月1日に施行されました。
3 裁判長は,心情意見陳述に充てることのできる時間を定めることができます(刑訴規則210条の4)。
4 被害者等が意見陳述を希望する場合,あらかじめ,検察官に申し出なければならず,この場合において,検察官は,意見を付して,これを裁判所に通知します(刑訴法292条の2第2項)。
    これは,検察官は公益の代表者として被害者等の心情等を訴訟に適正に反映させる責務があり,被害者等の意見陳述の希望の有無を踏まえた訴訟の進行を考慮する必要があるからです。
5(1) 裁判所は,被害者等から申出があれば、原則として意見を陳述させます(刑訴法292条の2第1項)。
ただし,裁判所は,審理の状況その他の事情を考慮して,相当でないと認めるときは,例外的に,意見の陳述に代え,①意見を記載した書面を提出させ,又は②意見の陳述をさせないことができます(刑訴法292条の2第7項)。
(2) ①意見を記載した書面を提出させることとする場合としては,例えば,(a)意見陳述を希望する被害者が多数存在し,一部の者に口頭による意見陳述をさせることが適当な場合,及び(b)被害者が入院等の理由により法廷に出廷できない場合が考えられます。
    そして,書面が提出された場合,裁判長は,これを公判廷へ顕出する手続として,公判期日において,書面が提出された旨を明らかにしなければならず,また,相当と認めるときは,その書面を朗読し,又はその要旨を告げることができます(刑訴法292条の2第8項)。
②意見の陳述をさせないこととする場合としては,例えば,(a)被害者等が証人尋問において被害感情等を併せて詳細に証言した直後に,再度同一内容の意見陳述の申出があった場合,及び(b)暴力団の抗争事件で対立感情を煽るおそれがある場合が考えられます。
6 被害者等の意見陳述は,証拠調べ手続の後に,検察官の論告及び弁護人の弁論に先立って実施されることが一般的です。
    また,事前に用意した意見書を被害者が法廷で朗読することによって行われることが多いです。
7 被害者等に陳述させる意見の内容は,基本的には,被害感情及び被告人に対する処罰感情等の被害に関する心情その他の被告事件に関する意見ということとなります。
    ただし,このような内容の陳述は,被害者等が自己の実体験を基礎としてなすものであり,刑訴法293条2項の被告人の陳述に類似するものと考えて良く,裁判所は,これを単なる意見として斟酌するだけでなく,量刑上の資料の一つとすることができます。
8 性犯罪の被害者等が公判廷で意見陳述をする場合の精神的負担を軽減するため,①付添い(刑訴法157条の2),②被告人又は傍聴人との間の遮へい(刑訴法157条の3)及び③ビデオリンク方式(刑訴法157条の4)といった措置がとられることがあります(刑訴法292条の2第6項)。

第7 少年審判における被害者の権利
1 総論
(1) 平成12年12月6日法律第142号(平成13年4月1日施行)による少年法の改正により,①少年事件記録の閲覧又は謄写,②少年事件における意見陳述及び③被害者等に対する通知がされるようになりました。
(2) 平成20年6月18日法律第71号(平成20年12月15日施行)による少年法の改正により,①少年審判の傍聴が認められ,②被害者等に対する説明がされるようになりました。
2 少年事件記録の閲覧又は謄写
(1) 平成13年4月1日以降に発生した少年事件の場合,少年事件の被害者等又は被害者等の委託を受けた弁護士は,審判開始決定(少年法21条)の発令後,保護事件を終局させる決定が確定してから3年を経過するまでの間(少年法5条の2第2項参照),原則として法律記録の閲覧又は謄写ができます(少年法5条の2第1項)。
(2) 平成20年6月18日法律第71号(平成20年12月15日施行)による少年法の改正前は,法律記録の閲覧又は謄写については,損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合等に限られていました。
   また,閲覧・謄写の対象とされている記録は,保護事件の記録のうち,犯行の動機,態様及びその結果その他当該犯罪に密接に関連する重要な事実を含む非行事実に係る部分に限られていました。
(3) 記録の閲覧又は謄写をした者は,正当な理由がないのに,閲覧又は謄写により知り得た少年の氏名等を漏らす等の行為をしてはなりません(少年法5条の2第3項)。
3 少年事件における意見陳述
   家庭裁判所は,犯罪少年又は触法少年に係る事件の被害者等から,被害に関する心情その他の事件に関する意見の陳述の申出があるときは,自らこれを聴取し,又は家庭裁判所調査官に命じてこれを聴取してくれます。
   ただし,事件の性質,調査又は審判の状況その他の事情を考慮して,相当でないと認めるときは,この限りでありません(少年法9条の2)。
4 少年審判の傍聴
(1) 家庭裁判所は,以下の犯罪行為に関する犯罪少年又は触法少年(12歳未満の少年は除く。)に係る事件の被害者等から,審判期日における審判の傍聴の申出がある場合,少年の年齢及び心身の状態,事件の性質,審判の状況その他の事情を考慮して,少年の健全な育成を妨げるおそれがなく相当と認めるときは,その申出をした者に対し,これを傍聴することを許してくれます(少年法22条の4第1項)。
① 故意の犯罪行為により被害者を死傷させた罪
→ 例えば,殺人罪,殺人未遂罪,傷害致死罪,傷害罪,危険運転致死傷罪です。
② 過失運転致死傷罪
(2) 傍聴が認められた期日であっても,例えば,少年が性的虐待を受けていた事実など,プライバシーに深くかかわる事項に立ち入って話してもらう必要がある場合には,被害者等は退室させられることがあります。
(3) 家庭裁判所は,触法少年に係る事件の被害者等に審判の傍聴を許すか否かを判断するに当たっては,触法少年が,一般に,精神的に特に未成熟であることを十分考慮しなければなりません(少年法22条の4第2項)。
(4) 家庭裁判所は,被害者等が少年審判の傍聴を許すのを許す場合,あらかじめ,弁護士である付添人の意見を聴く必要があり(少年法22条の5第1項),少年に弁護士である付添人がないときは,原則として,弁護士である付添人を付す必要があります(少年法22条の5第2項及び3項)。
(5) 少年審判の傍聴をした者は,正当な理由がないのに,傍聴により知り得た少年の氏名等を漏らす等の行為をしてはなりません(少年法22条の4第5項・5条の2第3項)。
5 被害者等に対する説明
(1) 家庭裁判所は,犯罪少年又は触法少年に係る事件の被害者等から申出がある場合において,少年の健全な育成を妨げるおそれがなく相当と認めるときは,その申出をした者に対し,審判期日における審判の状況を説明します(少年法22条の6第1項)。
(2) 少年審判の結果が確定してから3年を経過したときは,被害者等に対する説明を申し出ることはできません(少年法22条の6第2項)。
(3) 被害者等に対する説明を受けた者は,正当な理由がないのに,説明により知り得た少年の氏名等を漏らす等の行為をしてはなりません(少年法22条の6第3項・5条の2第3項)。
6 被害者等に対する通知
(1) 家庭裁判所は,犯罪少年又は触法少年に係る事件を終局させる決定をした場合において,当該事件の被害者等から申出があるときは,その申出をした者に対し,以下に掲げる事項を通知します。
   ただし,その通知をすることが少年の健全な育成を妨げるおそれがあり相当でないと認められるものについては,この限りでありません(少年法31条の2第1項)。
① 少年及びその法定代理人の氏名及び住居
② 決定の年月日,主文及び理由の要旨
(2) 少年審判の結果が確定してから3年を経過したときは,被害者等に対する通知を申し出ることはできません(少年法31条の2第2項)。

(3) 被害者等に対する通知を受けた者は,正当な理由がないのに,通知により知り得た少年の氏名等を漏らす等の行為をしてはなりません(少年法31条の2第3項・5条の2第3項)。

第8 被害者が捜査によって受ける利益は事実上の利益に過ぎないこと
・ 最高裁平成17年4月21日判決は以下の判示をしています。
    犯罪の捜査は,直接的には,国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるものであって,犯罪の被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものではなく,被害者が捜査によって受ける利益自体は,公益上の見地に立って行われる捜査によって反射的にもたらされる事実上の利益にすぎず,法律上保護される利益ではないというべきである最高裁平成元年(オ)第825号同2年2月20日第三小法廷判決・裁判集民事159号161頁参照)から,犯罪の被害者は,証拠物を司法警察職員に対して任意提出した上,その所有権を放棄する旨の意思表示をした場合,当該証拠物の廃棄処分が単に適正を欠くというだけでは国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることができないと解すべきである。


第9 犯罪被害者等給付金の支給制度
1 最高裁令和6年3月26日判決は,犯罪被害者等給付金支給法に基づく犯罪被害者等給付金の支給制度の拡充について以下のとおり判示しています。
    犯給法は、昭和55年に制定されたものであるところ、平成13年法律第30号による改正により目的規定が置かれ、犯罪被害者等給付金を支給すること等により、犯罪被害等(犯罪行為による死亡等及び犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族が受けた心身の被害をいう。以下同じ。)の早期の軽減に資することを目的とするものとされた(平成20年法律第15号による改正前の犯給法1条)。
    その後、平成16年に、犯罪等により害を被った者及びその遺族等の権利利益の保護を図ることを目的とする犯罪被害者等基本法が制定され(同法1条)、基本的施策の一つとして、国等は、これらの者が受けた被害による経済的負担の軽減を図るため、給付金の支給に係る制度の充実等必要な施策を講ずるものとされた(同法13条)。
    そして、平成20年法律第15号による改正により、犯給法は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等の犯罪被害等を早期に軽減するとともに、これらの者が再び平穏な生活を営むことができるよう支援するため、犯罪被害等を受けた者に対し犯罪被害者等給付金を支給するなどし、もって犯罪被害等を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することを目的とするものとされた(1条)。
    また、平成13年法律第30号及び平成20年法律第15号による犯給法の各改正により、一定の場合に遺族給付金の額が加算されることとなるなど、犯罪被害者等給付金の支給制度の拡充が図られた。
2 犯罪被害者と同性の者は、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律5条1項1号括弧書きにいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当することがあります(最高裁令和6年3月26日判決)。

第10 関連記事その他

1(1) 弁護士白書2016に「犯罪被害者支援に関する活動」が載っています。
(2) 弁護士によるマンガ交通事故相談HP「警察との関係」が載っています。
2 検察庁作成のリーフレット「犯罪被害者の方々へ」のほか,岐阜地検被害者ホットラインが作成している「検察庁における主な対応一覧」が参考になります。
3(1) 以下の資料を乗せています。
・ 警察送致(付)事件における捜査書類の個人特定情報の不記載について(令和5年6月23日付の最高検察庁総務部長,刑事部長及び公安部長の通知)
・ 捜査書類における被害者等の人定事項の記載省略について(令和5年6月23日付の警察庁刑事局刑事企画課長等の通達)
・ 刑事損害賠償命令事件に関する書記官事務の手引(平成28年10月)1/2(本文)及び2/2(書式例)
・ 平成30年5月7日付の参考統計表(最高裁判所事務総局刑事局)を掲載しています。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 実況見分調書作成時の留意点
・ 交通事故被害者が警察に対応する場合の留意点
・ 検察庁における交通事故事件に関する記録閲覧等の概況
・ 刑事確定訴訟記録の保管機関が検察庁となった経緯
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

刑事事件の略式手続

目次
第1 略式命令の請求から発令まで
1 略式命令の請求まで
2 略式命令の請求後の取扱い
第2 正式裁判の請求
第3 交通切符の略式手続(=三者即日処理方式)
1 総論
2 交通事件即決裁判
第4 略式手続の沿革
第5 関連記事その他

第1 略式命令の請求から発令まで
1 略式命令の請求まで
(1) 略式命令の請求は,簡易裁判所に対し,公訴の提起と同時に,書面でなされます(刑訴法462条1項)。
実務上は,起訴状の冒頭に,「下記被告事件につき公訴を提起し,略式命令を請求する。」と記載されています(事件事務規程64条1項参照)から,「略式命令請求書」と呼ばれています。
(2) 略式手続によることについて異議がないことを被害者が書面で明らかにしない限り,略式手続とはなりません(刑訴法461条の2第2項,462条2項,刑訴規則288条)。
そのため,略式手続で処理されることについて不服がある場合,通常の刑事裁判を受けることができます。
(3) 略式手続によることについて異議がないことを被疑者が明らかにした書面は実務上,「略式請書」(=略請(りゃくうけ))といわれます。
略式請書は,①略式手続についての説明告知をし,異議の有無を確認した旨の検察官作成に係る告知手続書と,②略式手続によることについて異議がない旨の被疑者作成に係る申述書によって構成されています。
(4)ア 略式命令の請求をする場合,実務上,検察官の科刑意見(没収その他付随処分を含む。)を裁判所に申し出ることになっており,略式命令請求書とは別個に科刑意見書を作成して提出しています(事件事務規程67条3項参照)。
イ 検察官の科刑意見どおりに略式命令が発付された場合であっても,その後累犯前科を含む多数の同種前科の存在が判明するに至ったなどといった事情の下では,検察官がした正式裁判の請求は適法です(最高裁平成16年2月16日決定)。
(5) 逮捕中又は勾留中に略式手続がとられる場合を,「逮捕中在庁略式」又は「拘留中在庁略式」といいます。
(6) 略式命令の請求と同時に,略式命令をするために必要があると考える書類及び証拠物が裁判所に差し出されます(刑訴規則289条)。
これは,いわゆる起訴状一本主義の例外であり,裁判所は,検察官の提出した資料だけを調査して略式命令を発令します。
2 略式命令の請求後の取扱い
(1) 略式命令請求書において,起訴検察官の所属庁の記載並びに検察官の署名(記名)及び押印(刑訴規則60条の2第2項参照)をいずれも欠いている場合,公訴提起の手続がその規定に違反したため無効ですから,刑訴法463条1項・338条4号により,公訴棄却判決が下されます(最高裁平成19年7月5日判決)。
(2) 略式命令の請求を受けた裁判所は,その事件が略式命令をすることができないものであり,又はこれをすることが相当でないものと思料するとき,及び略式命令手続がその規定に違反するときは,通常の規定に従い,審判をしなければなりません(刑訴法463条。「略式不相当」)。
(3) 略式命令は,遅くともその請求のあった日から14日以内に発しなければなりません(刑訴規則290条1項)ものの,これは訓示規定に過ぎません(最高裁昭和39年6月26日決定)。
(4) 略式命令の告知は,裁判書の謄本の送達によってなされます(刑訴規則34条本文)。
(5) 略式命令の送達は,被告人に異議がないときに限り,就業場所,つまり,「その者が雇用,委任その他法律上の行為に基づき就業する他人の住居又は事務所」においてなされます(刑訴規則63条の2,事件事務規程64条4項)。
(6) 略式命令は,正式裁判の請求期間の経過(=14日間の経過)又はその請求の取下により,確定判決と同一の効力を生じます(刑訴法470条)。

第2 正式裁判の請求
1 いったん略式命令を受けたとしても,略式命令の告知を受けた日から14日以内であれば,略式命令を下した簡易裁判所に対し,書面により正式裁判の請求をすることができます(刑訴法465条)。
そして,簡易裁判所が下した正式裁判の判決に対して不服がある場合,高等裁判所に対して控訴の申立てをすることができます(裁判所法16条1号,刑訴法372条以下)。
2 正式裁判の請求があったときは,裁判所は,速やかにその旨を検察官又は被告人に通知し(刑訴法465条2項後段),書類及び証拠物を検察官に変換します(刑訴規則293条)。
これは,起訴状一本主義(刑訴法256条6項)に戻るためです。
3 略式命令をした裁判官は,正式裁判に関与することはできません(刑訴法20条7号)。
4 正式裁判の請求を適法とするときは,裁判所は,通常の規定に従い審判しなければなりません(刑訴法468条2項)。
この場合,裁判所は略式命令に拘束されません(刑訴法468条3項)から,事実認定,法令の適用及び刑の量定のすべてにわたって事由に判断することができ,被告人だけが正式裁判を請求したときでも,不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)も適用されません(最高裁昭和31年7月5日決定)。
5 正式裁判の請求は,被告人の明示した意思に反しない限り,弁護人もすることができます(刑訴法467条・355条及び356条)。
6 略式命令で仮納付の命じられた罰金,科料又は追徴に係る裁判について正式裁判の請求があったときは,徴収係事務官は,略式命令請求処理簿にその旨を記入します(徴収事務規程51条前段)。
この場合において,納付されていない仮納付金については執行しません(徴収事務規程51条後段)。
7 正式裁判の請求は,第一審の判決があるまでこれを取り下げることができます(刑訴法466条)。
そのため,刑事記録を閲覧・謄写した上で,略式命令の根拠となった一件記録を確認してから,正式裁判の請求を取り下げることもできます。
8 弁護士を弁護人に依頼した場合,弁護士の差支え日時を通じて,第1回公判期日の指定について裁判所と交渉することが可能です。

第3 交通切符の略式手続(=三者即日処理方式)
1 総論
(1) 三者即日処理方式における三者とは,警察,検察及び裁判所をいいます。
(2) 交通切符の略式手続(=三者即日処理方式。在宅在庁略式の方式)とは,(a)非反則行為に関する道路交通法違反,又は(b)自動車の保管場所の確保等に関する法律違反(以下「交通違反」といいます。)により,警察官から交通切符(赤色切符)の交付を受けて出頭日時・場所を告知された人について,以下の手続を1日で行う処理方式であり,違反者が出頭するのは一回だけで済みます。
① 警察の取調べ
② 検察庁の取調べ
③ 検察庁から簡易裁判所への略式命令請求(刑訴法462条)
→ この時点で「被疑者」から「被告人」に変わります。
④ 簡易裁判所の裁判所書記官からの略式命令謄本の交付(刑訴法463条の2参照)
→ 在宅事件の被告人が裁判所の庁舎で略式命令謄本の交付を受けることから,「在宅在庁」というわけです。
なお,在宅事件の対義語は,身柄事件(=逮捕又は勾留されている事件)です。
⑤ 仮納付の裁判(刑訴法348条)の執行として,検察庁での罰金の仮納付(刑訴法490条1項前段,494条1項参照)
(3) 大阪府の場合,新大阪駅の近くにある大阪簡易裁判所交通分室で三者即日処理方式が行われています。
(4) 通常の裁判手続によると,まず警察での取調べ,次に検察庁での取調べ,更に裁判所での裁判,最後に検察庁への罰金納付といった手続が採られ,手続が終了するまでに警察署・検察庁・裁判所に数回の出頭を余儀なくされます。
そこで,交通違反をした人達の便を考慮し,警察・検察庁の担当者がいわゆる交通裁判所に集まることで,2時間ぐらいですべての手続を終えるようにしています。
(5) 青色切符を切られたにもかかわらず,交通反則金を納付しなかった場合,刑事訴訟手続又は少年審判手続で処理されることとなりますところ,通常は,交通切符の略式手続に基づいて罰金刑を科せられます。
2 交通事件即決裁判
(1) 交通事件即決裁判手続法(昭和29年5月18日法律第113号。昭和29年11月1日施行)に基づく交通事件即決裁判は,昭和54年以降,実施されていません。
略式手続との最大の相違点は,交通事件即決裁判の場合,即決裁判期日を法廷で実施する必要があるという点でした。
(2)ア 交通事件即決裁判手続は,平成16年5月28日法律第62号による改正後の刑訴法に基づき,平成18年10月2日に導入された即決裁判手続(刑訴法350条の2ないし350条の14)とは異なります。
イ 即決裁判手続は憲法32条に違反しません(最高裁平成21年7月14日判決)。

第4 略式手続の沿革
1 平成元年版犯罪白書の「第3章 犯罪者の処遇」には以下の記載があります。
 略式手続は,大正2年4月公布(同年6月1日施行)の刑事略式手続法によって初めて認められ,区裁判所は,検察官の請求により,その管轄に属する刑事事件につき,被告人に異議のない場合に,公判前に略式命令で罰金又は科料を科することができるようになった(略式命令に対して7日以内に正式裁判の申し立てをすることができた。)。
 その後,大正11年5月に公布(13年1月1日施行)された旧刑事訴訟法も,これとほぼ同じ内容の規定が設けられ,略式命令で罰金又は科料を科することができた。昭和18年10月公布の戦時刑事特別法の一部改正(同年11月15日施行)により,略式命令で,1年以下の懲役(窃盗罪等については3年以下の懲役)若しくは禁錮又は拘留をも科することができるようになったが,21年1月に同法が廃止され,略式命令で懲役若しくは禁錮又は拘留を科することはできなくなった。23年7月公布(24年1月1日施行)の現行刑事訴訟法では,簡易裁判所は略式命令で5,000円以下の罰金又は科料を科することができると定められ,その後,略式命令で科することのできる罰金の最高額は,23年12月公布(24年2月1日施行)の罰金等臨時措置法により5万円となり,さらに,47年6月公布の同法の一部改正(同年7月1日施行)により20万円となった。
2 略式手続で科することのできる罰金の最高額は現在,100万円です(刑事訴訟法461条前段)。

第5 関連記事その他
1 審級制度については,憲法81条に規定するところを除いては,憲法はこれを法律の定めるところにゆだねており,事件の類型によって一般の事件と異なる上訴制限を定めても,それが合理的な理由に基づくものであれば憲法32条に違反するものではありません(最高裁大法廷昭和23年3月10日判決,最高裁大法廷昭和29年10月13日判決。なお,最高裁昭和59年2月24日判決,最高裁平成2年10月17日決定参照)。
2 以下の記事も参照してください。
・ 刑事事件の裁判の執行

刑事事件の費用補償及び刑事補償

目次
1 費用補償
2 刑事補償
3 関連記事その他
1 費用補償
(1)   無罪の判決が確定したときは,国は,当該事件の被告人であった者に対し,原則として,その裁判に要した費用の補償をしてくれます(刑訴法188条の2)。
(2) 費用の補償は,被告人であった者の請求により,無罪の判決をした裁判所が,決定をもって行います(刑訴法188条の3第1項)。
(3) 費用の補償の請求は,無罪の判決が確定した後6ヶ月以内にしなければなりません(刑訴法188条の3第2項)。
(4) 補償される費用の範囲は以下のものに限られます(刑訴法188条の6)。
① 被告人若しくは被告人であった者又はそれらの者の弁護人であった者が公判準備及び公判期日に出頭するに要した旅費,日当及び宿泊料
② 弁護人であった者に対する報酬
(4) 弁護士法人金岡法律事務所HPの「合理的な嫌疑を否定し公訴提起に国賠法上の違法を認めた事例」には「これは私自身も何度も経験していることであるが、費用補償事件は、「法テラスの国選弁護報酬基準を参考としつつ」報酬算定する等の考え方が定着してしまっており、私選弁護人費用からすれば、ごく一部しか補償されない。」と書いてあります。
2 刑事補償
(1) ①未決の抑留又は拘禁を受けた後に無罪の裁判を受けたり,②再審等の手続において無罪の裁判を受けた者が原判決によってすでに刑の執行を受けたりしていた場合,刑事補償法(昭和25年1月1日法律第1号。同日施行)に基づき,国に対し,抑留又は拘禁による補償を請求することができます(憲法40条参照)。
   ただし,①身体を拘束されずに起訴されて無罪となった場合,「未決の抑留又は拘禁」を受けていない以上,刑事補償請求権は認められませんし,②抑留又は拘禁を受けたとしても,被疑事実が不起訴となった場合,「無罪の裁判」を受けていない以上,刑事補償請求権は認められません(②につき最高裁大法廷昭和31年12月22日決定)。
(2) 未決勾留は,本刑に算入されることによって,刑事補償の対象としては刑の執行と同視されるべきものとなり,もはや未決勾留としては刑事補償の対象とはなりません(最高裁昭和34年10月29日決定)。
   また,本刑に算入された未決勾留日数については,その刑がいわゆる実刑の場合においてはもとより,執行猶予付きの場合においても,もはや未決勾留としては,刑事補償の対象とはなりません(最高裁昭和55年12月9日決定)。
   これらの取扱いは,未決勾留が刑の執行と同一視される場合,又はその可能性がある場合,未決勾留が本刑に算入されることが利益となり,本刑に算入された未決勾留について,更に刑事補償をすることは,二重に利益を与えることになると解されるからです(最高裁平成6年12月19日決定)。
(3) 抑留又は拘禁による損害が刑事補償による補償額を上回る場合,その抑留又は拘禁が国家機関の故意又は過失に基づくときは,国家賠償法により,その差額を国家賠償により請求できますし,最初から刑事補償によらず国家賠償を請求するということも可能です(平成12年2月3日の衆議院予算委員会における臼井法務大臣の答弁。なお,刑事補償法5条参照)。
(4) 刑訴法の規定による免訴又は公訴棄却の裁判を受けた者は,もし免訴又は公訴棄却の裁判をすべき事由がなかったならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由があるときは,国に対して,抑留若しくは拘禁による補償又は刑の執行若しくは拘置による補償を請求することができます(刑事補償法25条1項)。

3 関連記事
・ 弁護人上告に基づき原判決を破棄した最高裁判決の判示事項(平成元年以降の分)
・ 刑事の再審事件

刑事事件の裁判の執行

目次
第1 裁判の執行の時期等
第2 執行指揮
第3 自由刑の執行
第4 自由刑の執行停止及び執行延期
1 自由刑の執行停止
2 自由刑の執行延期
第5 未決勾留日数の通算
第6 財産刑及び労役場留置の執行
1 総論
2 徴収金の納付
3 徴収停止の処分,及び徴収不能決定の処分
4 労役場留置の執行
第7 関連記事その他

第1 裁判の執行の時期
1 裁判の執行とは,国家の強制力により裁判の内容を実現することをいいます。
裁判は,上訴又はこれに準ずる不服申立てによって争うことができなくなったときに確定し,その裁判内容に応じた執行力を生じることとなります。
2 裁判の執行については,刑訴法及び刑訴規則の他,執行事務規程に詳細な規定が設けられています(検察庁法32条,検察庁事務章程29条参照)。
3(1) 裁判は,原則として,確定した後に執行されます(刑訴法471条)。
(2) 以下の場合,裁判の確定を待たずに直ちに執行することができます。
① 即時抗告の許されない決定
執行停止決定(刑訴法424条1項ただし書,2項)がない限り,直ちに執行することができます。
② 仮納付の裁判
直ちに執行することができます(刑訴法348条3項)。
ただし,不完納の場合でも,労役場留置をすることはできません(刑法18条5項参照)。
4 以下の場合,裁判が確定しても直ちに執行することはできません。
① 訴訟費用の負担を命じる裁判
訴訟費用の執行免除の申立ての期間内(裁判が確定してから20日以内であることにつき刑訴法500条),及びその申立てがあったときは,その申立てについての裁判が確定するまで執行されません(刑訴法483条)。
② 罰金又は科料不納付の場合の労役場留置
裁判確定後,罰金については30日以内,科料については10日以内は,本人の承諾がなければ留置の執行はされません(刑法18条5項)。
③ 死刑の判決
法務大臣の命令がなければ執行されません(刑訴法475条1項,執行事務規程10条参照)。
④ 保釈の決定
保釈保証金の納付がなければ執行されません(刑訴法94条1項)。

第2 執行指揮
1 裁判の執行指揮は,原則として,その裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官が行います(検察庁法4条,5条,及び刑訴法472条1項)。
ただし,上訴審の裁判,又は上訴の取下げにより下級の裁判所の裁判を執行する場合,上訴裁判所に対応する検察庁の検察官が指揮します(刑訴法472条2項)。
2(1) 刑の執行指揮は書面で行い,裁判書又は裁判を記載した調書の謄本又は抄本を添える必要があります(刑訴法473条本文,刑訴規則36条1項・57条)。
(2) 刑の執行指揮に関する書面は,執行指揮書といわれます(執行事務規程19条)。
3 刑以外の裁判の執行は,必ずしも書面によることを必要とせず,裁判書の原本,謄本若しくは抄本又は裁判を記載した調書の謄本若しくは抄本に「認印」して,執行を指揮することができます(刑訴法473条ただし書)。
この認印は実務上,「指揮印」と呼ばれており,例えば,勾留状の執行は,指揮印によって行われています(事件事務規程23条1項)。

第3 自由刑の執行
1 自由刑の判決が執行される場合,被告人は刑事施設に収容されます(懲役につき刑法12条2項,禁錮につき刑法13条2項及び拘留につき刑法16条)。
2 拘禁中の被告人について自由刑の判決が確定したときは,検察官は,速やかにその者が収容されている刑事施設の長に対し,刑の執行を指揮します(執行事務規程17条1項)。
3(1) 拘禁されていない被告人について自由刑の判決が確定したときは,検察官は,執行のためにこれを呼び出すことを要し,被告人が呼出しに応じない場合,収容状を発付しなければなりません(刑訴法484条,執行事務規程18条1項)。
ただし,自由刑の言渡しを受けた被告人が逃亡し,又は逃亡するおそれがあるときは,検察官は呼び出すことなく直ちに収容状を発付し,又は司法警察員をしてこれを発付させることができます(刑訴法485条,執行事務規程21条)。
(2) 収容状(刑訴法487条)は,勾引状と同一の効力を有し(刑訴法488条),その執行については拘引状の執行に関する規定が準用されます(刑訴法489条)。

第4 自由刑の執行停止及び執行延期
1 自由刑の執行停止
(1) 自由刑の執行停止には,①必要的刑の執行停止,及び②任意的刑の執行停止がありますところ,刑の執行停止の間は,刑の時効は停止します(刑法33条)。
(2) 必要的刑の執行停止は,自由刑の言渡しを受けた者が心神喪失の状態にあるときに認められます(刑訴法480条及び481条,執行事務規程28条)
(3) 任意的刑の執行停止は,以下の事由があるときに認められます(刑訴法482条,執行事務規程29条)ものの,実際に刑の執行停止があるかどうかは,検察官の判断次第です。
① 刑の執行によって,著しく健康を害するとき,又は生命を保つことのできないおそれがあるとき。
② 年齢70年以上であるとき。
③ 受胎後150日以上であるとき。
④ 出産後60日を経過しないとき。
⑤ 刑の執行によって回復することのできない不利益を生ずるおそれがあるとき。
⑥ 祖父母又は父母が年齢70年以上又は重病若しくは不具で,他にこれを保護する親族がないとき。
⑦ 子又は孫が幼年で,他にこれを保護する親族がないとき。
⑧ その他重大な事由があるとき。
(4) 刑の執行指揮前に刑の執行が停止されたときは,執行係事務官は,刑執行停止者にその旨を通知します(執行事務規程31条2項)。
(5) 保護観察所の長は、刑執行停止者について,検察官の請求(執行事務規程31条7項参照)があったときは,その者に対し,適当と認める指導監督,補導援護並びに応急の救護及びその援護の措置をとることができます(更生保護法88条)。
2 自由刑の執行延期
(1) 自由刑の言渡しを受けた者が,病気等の理由で執行の延期の申立てをしたときは,検察官は,その事由について調査し,やむを得ない事情があると認めるときは,自由刑の執行を延期することができます(執行事務規程20条)。
(2) 自由刑の執行延期は,自由刑の執行停止と異なりますから,刑の時効は停止しません。

第5 未決勾留日数の通算
1 未決勾留とは,勾留状による被告人の勾留をいいますところ,未決勾留日数の通算には以下のものがあります。
① 法定通算(刑訴法495条)
法定通算とは,未決勾留日数を本刑に通算するかどうかの裁量権が裁判所にゆだねられておらず,本刑が執行される際,法律上当然に本刑に算入されるものをいいます。
(a) 上訴提起期間中の未決勾留日数
上訴申立後の未決勾留日数を除き,全部これを本刑に通算します(刑訴法495条1項)。
(b) 上訴申立後の未決勾留日数
検察官が上訴を申し立てたとき,又は検察官以外の者が状を申し立てた場合において,その上訴審において原判決が破棄されたときは,全部これを本刑に通算します(刑訴法495条2項)。
(c) 上訴裁判所が原判決を破棄した後の未決勾留は,上訴中の未決勾留日数に準じて,これを通算します(刑訴法495条4項)。
② 裁定通算(刑法21条)
裁定通算とは,裁判所の裁量によって,判決主文において刑の言渡しと同時に,未決勾留日数の全部又は一部を本刑に算入することをいいます。
2 控訴審が被告人の控訴に基づき第一審判決を破棄する場合,控訴申立後の未決勾留日数は,刑訴法495条2項2号により,判決が確定して本刑の執行される際当然に全部本刑に通算されるべきものであって,控訴裁判所には,右日数を本刑に通算するか否かの裁量権が委ねられていません。
そのため,刑法21条により控訴審判決においてその全部又は一部を本刑に算入する旨の言渡しをすべきではありません(最高裁昭和46年4月15日判決。なお,先例として,最高裁昭和26年3月29日決定)。

第6 財産刑及び労役場留置の執行
1 総論
(1)ア ①罰金,②科料,③没収等の財産刑のほか,④追徴,⑤過料,⑥没取(ぼっしゅ),⑦訴訟費用,⑧費用賠償,⑨仮納付,⑩犯罪被害者等保護法11条1項の費用及び⑪民事訴訟法303条1項の納付金の裁判は,検察官の指揮又は命令によって執行されます(刑訴法472条・490条1項。②没収につき刑訴法496条,⑤過料につき民事訴訟法189条及び非訟事件手続法163条,⑨につき刑訴法494条)。
イ   ③没収を除く10種類のものは徴収金といわれ(徴収事務規程1条),国の債権の管理等に関する法律(昭和31年5月22日法律第114号。昭和32年1月10日施行)の適用がありません(同法3条1項1号)。
(2) 罰金(刑法15条)は1万円以上であるのに対し,科料(刑法17条)は1000円以上1万円未満です。
(3)ア 没収(刑法19条)とは,物の所有権を原所有者から剥奪して国庫に帰属させる処分をいい,証拠品の没収手続については,証拠品事務規程26条ないし43条で定められています。
イ 没収の目的である株券が押収されて検察官に保管されている場合,没収の判決の確定と同時に没収の効力,つまり,株式の国庫帰属の効力を生じ,この場合,特に検察官の執行命令による執行を必要とするものではありません(最高裁昭和37年4月20日判決)。
(4) 犯罪による利得を犯人の手に残さないために,没収が不可能な場合,追徴されます(刑法19条の2)。
(5) 保釈の取消し等があった場合,保証金は没取されます(刑訴法96条2項及び3項)。
(6) 被害者参加人が,裁判所の判断を誤らせる目的で,その資力又は療養費等の額について虚偽の記載のある書面を提出したことによりその判断を誤らせたときは,裁判所は,決定で,当該被害者参加人に対し,被害者参加弁護士の報酬等の全部又は一部を徴収することができます(犯罪被害者等保護法11条1項)。
(7) 民事訴訟における控訴裁判所は,控訴を棄却する場合において,控訴人が訴訟の完結を遅延させることのみを目的として控訴を提起したものと認めるときは,控訴人に対し,控訴提起手数料として納付すべき金額の10倍以下の金銭の納付を命ずることができます(民事訴訟法303条1項)。
(8) 徴収金のうち,罰金,科料,刑事訴訟費用,追徴金又は過料の請求権は,「罰金等の請求権」に当たります(破産法97条6号)。
   そのため,これらの納付義務は,免責許可決定を受けたとしても免責してもらうことはできません(破産法253条1項7号)。
2 徴収金の納付
(1) 徴収金は,所定の納付期限までに,①検察庁が指定する方法で検察庁指定の金融機関に納めるか(徴収事務規程14条1項参照),又は②検察庁に直接納めることになります(徴収事務規程14条2項参照)。
(2) 徴収金が納付期限までに納付されなかったときは,検察官は,必要に応じ,徴収係事務官をして納付義務者に対し,納付書を添付した督促状その他適宜の方法により,その納付を督促させます(徴収事務規程15条)。
(3) 徴収金について納付義務者から納付すべき金額の一部につき納付の申出があったときは,徴収主任(各検察庁の検察事務官から選任されることにつき徴収事務規程3条)は,事情を調査し,その事由があると認めるときは,一部納付願を徴して検察官の許可を受けます(徴収事務規程16条1項)。
(4) 納付義務者から納付延期の申出があったときは,徴収主任は,事情を調査し,その事由があると認めるときは,納付延期願を徴して検察官の許可を受けます(徴収事務規程17条1項・16条1項)。
(5) 納付した罰金は,所得税における事業所得等の必要経費に算入されません(所得税法45条1項6号)し,法人税における各事業年度の所得の金額の計算上,損金に算入されません(法人税法55条4項1号)。
3 徴収停止の処分,及び徴収不能決定の処分
(1) 徴収停止の処分
徴収金の納付義務者について以下の事由がある場合,検察官は,徴収停止の処分をすることができます(徴収事務規程39条)。
   ただし,罰金又は科料に係る徴収金については,(a)納付義務者につき①又は②の事由があり,かつ,(b)納付義務者の所在不明以外の事由により労役場留置の執行をすることができないときに限ります。
① 強制執行をすることができる財産がないとき。
② 強制執行をすることによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。
③ その所在及び強制執行をすることができる財産がともに不明であるとき。
→ 非訟による過料又は訴訟費用に係る徴収金については,その所在が不明であれば足ります。
(2) 徴収不能決定の処分
ア 以下の場合,法律上執行不能ですから,検察官は徴収不能決定の処分をします(徴収事務規程41条)。
① 時効が完成したとき。
② 納付義務者が死亡したとき。
→ 罰金又は追徴に係る徴収金について刑訴法491条により相続財産に対し執行することができるときを除きます。
③ 罰金,科料又は追徴に係る徴収金についてその言渡しを受けた者に対し大赦,特赦又は刑の執行の免除があったとき。
④ 没取又は訴訟費用に係る徴収金についてその本案の裁判によって有罪の言渡しを受けた者に対し大赦又は特赦があったとき。
⑤ その他法律上執行できない事由が生じたとき。
イ 以下の場合,事実上執行不能ですから,検察官は,検事総長又は検事長の許可を受けた上で,徴収不能決定の処分をすることができます(徴収事務規程42条)。
① 納付義務者が解散した法人である場合において,その法人が無資力であるとき。
② 納付義務者が外国人であってその者が出国したとき。
4 労役場留置の執行
(1) 罰金又は科料を完納することができない場合,1日以上2年以下の期間,労役場に留置されます(刑法18条1項及び2項)。
ただし,少年に対しては,労役場留置の言渡しをされることはありません(少年法54条)。
(2) 労役場とは,法務大臣が指定する刑事施設に附置する場所をいいます(刑事収容施設法287条1項)。
(3) 裁判所が罰金の言渡しをするときは,その言渡しとともに,罰金を完納することができない場合における留置の期間を定めて言い渡します(刑法18条4項)。
   具体的には,罰金判決の主文において,以下のように言い渡されます。
被告人を罰金20万円に処する。これを完納することができないときは,金5,000円を一日に換算した期間(端数があるときは,これを一日に換算する)被告人を労役場に留置する。
(4) 労役場留置者の処遇に関しては,その性質に反しない限り,懲役受刑者に関する処遇が準用されます(刑事収容施設法288条)。
(5) 罰金については裁判が確定した後30日以内,科料については裁判が確定した後10日以内は,本人の承諾がなければ,労役場留置の執行をされることはありません(刑法18条5項)。
(6) 罰金又は科料に係る徴収金について納付義務者が完納しない場合において,労役場に留置するときは,検察官は,刑事施設の長に対し,労役場留置執行指揮書によりその執行を指揮します(徴収事務規程30条1項)。
(7) 検察官が労役場留置の執行をする場合,罰金等の言渡しを受けた者に対し,呼出状を送付したり,収容状を発付したりします(刑訴法505条・484条及び485条,並びに徴収事務規程32条及び33条)。

(8) 刑事施設の長,労役場留置の執行を受けている者又はその関係人から刑訴法480条又は482条各号に規定する事由(=刑の必要的又は任意的執行停止の事由)による労役場留置の執行停止の上申があった場合,検察官は,その事由を審査し,事由があると認めるときは,労役場留置執行停止書を作成し,釈放指揮書によりその者が収容されている刑事施設の長に対し,釈放の指揮をします(徴収事務規程37条1項)。

第7 関連記事その他
1 検察官又は裁判所若しくは裁判官は,裁判の執行に関して必要があると認めるときは,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができます(刑訴法507条)。
2 以下の記事も参照してください。
・ 仮釈放
・ 仮釈放に関する公式の許可基準
・ 死刑執行に反対する日弁連の会長声明等
・ 死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑
・ マル特無期事件
・ 弁護人

刑事事件の上訴及び不服申立て

目次
第1 総論
第2 控訴
1 控訴の申立て
2 控訴趣意書
3 控訴理由
4 被告人の移送
5 控訴審の公判審理の特則
6 控訴審の裁判
第3 上告
1 上告の申立て
2 上告趣意書
3 上告理由,及び上告受理の申立理由
4 跳躍上告
5 上告審の公判審理の特則
6 上告審の裁判
第4 非常上告
第5 勾留及び保釈に関する不服申立て
1 総論
2 勾留に関する不服申立て
3 保釈に関する不服申立て
第6 関連記事その他

第1 総論
1 検察官及び被告人は,第一審判決に対して上訴をすることができます(刑訴法351条1項)。
2 検察官又は被告人以外の者で決定を受けたものは,抗告をすることができます(刑訴法352条)。
3 被告人の法定代理人又は保佐人は,被告人のため上訴をすることができますし(刑訴法353条),原審における代理人又は弁護人は,被告人のため上訴をすることができます(刑訴法355条)。
    ただし,これらの者は,被告人の明示した意思に反して上訴をすることはできません(刑訴法356条)。
4(1) 上訴は,裁判の一部に対してこれをすることができます(刑訴法357条前段)。
(2) 「裁判の一部」とは,例えば,①併合罪の一部について有罪,他について無罪となったとき,あるいは,②一部について自由刑,他について罰金刑となった場合のように,主文が二つになったときのその主文のいずれかをいい,その主文の有罪あるいは自由刑となった部分だけについても上訴することができます。
(3)  数罪であっても併合罪として一個の刑が言い渡された場合,上訴の関係では不可分となり,これを分離して上訴することができないのであって,一部の事実のみを不服として上訴しても,その効力は全体について生じます。
5(1) 刑事施設にいる被告人が上訴の提起期間内に上訴の申立書を刑事施設の長又はその代理者に差し出したときは,上訴の提起期間内に上訴をしたものとみなされます(刑訴法366条1項)。
(2) 被告人が自ら申立書を作ることができないときは,刑事施設の長又はその代理者は,これを代書し,又は所属の職員に代書させなければなりません(刑訴法366条2項)。


第2 控訴
1 控訴の申立て

(1) 控訴は,地方裁判所又は簡易裁判所がした第一審の判決に対してこれをすることができます(刑訴法372条)。
(2)   刑事事件の控訴裁判所は常に高等裁判所となります(裁判所法16条1号)。
(3) 控訴の提起期間は14日です(刑訴法373条)。
(4) 控訴をするには,申立書を第一審裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法374条)。
(5) 平成20年6月18日法律第71号(平成20年12月15日施行)による少年法改正の結果,成人の刑事事件であっても,家庭裁判所が刑事事件を取り扱うことがなくなりました。
(6) 控訴の申立てが明らかに控訴権の消滅後にされたものである場合を除き,第一審裁判所は,公判調書の記載の正確性についての異議申立期間の経過後,速やかに訴訟記録及び証拠物を控訴裁判所に送付しなければなりません(刑訴規則235条)。
2 控訴趣意書
(1) 控訴申立人は,控訴裁判所が定める期間内に,控訴趣意書を控訴裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法376条,刑訴規則236条)。
(2) 控訴裁判所は,控訴趣意書を差し出すべき期間経過後に控訴趣意書を受け取った場合においても,その遅延がやむを得ない事情に基づくものと認めるときは,これを期間内に差し出されたものとして審判をすることができます(刑訴規則238条)。
(3) 控訴趣意書には,控訴の理由を簡潔に明示しなければなりません(刑訴規則240条)。
(4) 控訴裁判所は,控訴趣意書を受け取ったときは,速やかにその謄本を相手方に送達しなければなりません(刑訴規則242条)。
(5)ア 控訴の相手方は,控訴趣意書の謄本の送達を受けた日から7日以内に答弁書を控訴裁判所に差し出すことができます(刑訴規則243条1項)。
イ 検察官が相手方であるときは,重要と認める控訴の理由について答弁書を差し出さなければなりません(刑訴規則243条2項)。
(6) 控訴裁判所は,答弁書を受け取ったときは,速やかにその謄本を控訴申立人に送達しなければなりません(刑訴規則243条5項)。
(7) 裁判長は,合議体の構成員に控訴申立書,控訴趣意書及び答弁書を検閲して報告書を作らせることができます(刑訴規則245条1項)。
この場合,受命裁判官は,公判期日において,弁論前に,報告書を朗読しなければなりません(刑訴規則245条2項)。

3 控訴理由
(1) 控訴理由の体系
ア 控訴理由の体系は以下のとおりであり,これらの控訴理由を理由とするときに限り,控訴することができます(刑訴法384条)。
① 訴訟手続の法令違反(刑訴法377条ないし379条)
・ 後述するとおり,絶対的控訴理由(刑訴法377条及び379条)及び相対的控訴理由(刑訴法379条)があります。
② 法令適用の誤り(刑訴法380条)
・ 法令適用の誤りは,その誤りが明らかに判決に影響を及ぼす場合に限り控訴理由となりますところ,例としては,認定事実に対する実体法の適用の誤りがあります。
③ 量刑不当(刑訴法381条,382条の2)
・ 量刑不当を理由として控訴の申立てをした場合,控訴趣意書に,訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現れている事実であって量刑不当であることを信じるに足りるものを援用しなければなりません(刑訴法381条)。
④ 事実誤認(刑訴法382条,382条の2)
・ 事実誤認を理由として控訴の申立てをした場合,控訴趣意書に,訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現れている事実であって明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければなりません。
⑤ 再審請求理由の存在(刑訴法383条1項)
・ 再審請求理由は,刑訴法435条所定事由のことです。
⑥ 判決後の刑の廃止・変更,大赦(刑訴法383条2項)
・ 刑の変更とは,刑法6条の刑の変更をいいます。
イ やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に取調べを請求することができなかった証拠によって証明することのできる事実であって量刑不当又は事実誤認があることを信ずるに足りるものは,訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現れている事実以外の事実であっても,控訴趣意書にこれを援用することができます(刑訴法382条の2第1項)。
    第一審の弁論終結後判決前に生じた事実であって量刑不当又は事実誤認があることを信ずるに足りるものについても同様です(刑訴法382条の2第2項)。
   これらの場合,控訴趣意書に,その事実を疎明する思料を添付しなければなりません(刑訴法382条の2第3項前段)し,第一審の弁論終結前に生じた事実については,やむを得ない事由によってその証拠の取調を請求することができなかった旨を疎明する資料をも添付しなければなりません(刑訴法382条の2第3項後段)。
ウ 適法な証拠調べを経ていない証拠を他の証拠と総合して犯罪事実を認定した違法があっても,その証拠調べを経ない証拠を除外してもその犯罪事実を認めることができる場合には、右の違法は判決破棄の理由になりません(最高裁昭和29年6月19日決定。なお,先例として,最高裁昭和26年3月6日判決)。
エ 最高裁平成24年2月13日判決は,控訴審における事実誤認の審査の方法について以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行は筆者が行いました。)。
① 刑訴法は控訴審の性格を原則として事後審としており,控訴審は,第1審と同じ立場で事件そのものを審理するのではなく,当事者の訴訟活動を基礎として形成された第1審判決を対象とし,これに事後的な審査を加えるべきものである。
   第1審において,直接主義・口頭主義の原則が採られ,争点に関する証人を直接調べ,その際の証言態度等も踏まえて供述の信用性が判断され,それらを総合して事実認定が行われることが予定されていることに鑑みると,控訴審における事実誤認の審査は,第1審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものであって,刑訴法382条の事実誤認とは,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることをいうものと解するのが相当である。
   したがって,控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要であるというべきである。
② このことは,裁判員制度の導入を契機として,第1審において直接主義・口頭主義が徹底された状況においては,より強く妥当する。
(2) 訴訟手続の法令違反
ア 訴訟手続の法令違反のうち,絶対的控訴理由は以下のとおりです。
① 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと(刑訴法377条1項)
→ 例えば,合議体によるべき事件を一人の裁判官が審判した場合があります。
② 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと(刑訴法377条2項)
→ 例えば,除斥原因のある裁判官が判決に関与した場合があります。
③ 審判の公開に関する規定に違反したこと(刑訴法377条3項)
④ 不法に管轄又は管轄違いを認めたこと(刑訴法378条1項)
→ 例えば,事物管轄,土地管轄(刑訴法329条,331条)に違反した場合があります。
⑤ 不法に公訴を受理し,又はこれを棄却したこと(刑訴法378条2項)
⑥ 審判の請求を受けた事件について判決せず,又は審判の請求を受けない事件について判決したこと(刑訴法378条3項)
→ 「審判の請求を受けた事件」とは,(a)公訴の提起のあった事件又は(b)準起訴手続で審判に付された事件をいいます。
   「判決せず」の例としては,併合罪として起訴された数個の犯罪事実の一部について,証明がなかったのに,主文において無罪の言渡しをしなかった場合があります(札幌高裁昭和58年5月24日判決参照)。
   「審判の請求を受けない事件について判決した」の例としては,公訴事実と同一性のない別の事実について審判した場合があります(最高裁昭和29年8月20日判決,最高裁昭和33年2月21日判決参照)。
⑦ 判決に理由を付せず,又は理由に食い違いがあること(理由不備)(刑訴法378条4項)
→ 判決に理由を付さないというのは,全然理由を付さない場合,及び一部分だけ理由を各場合の両方を含みます。
   また,理由に食い違いがあるというのは,主文と理由との間,又は理由の内部において食い違いがあることをいうのであって,積極的な矛盾の他に,判決摘示の証拠によっては判示事実の認定ができないような場合を含みます(最高裁昭和24年6月18日判決,最高裁昭和25年2月28日判決参照)。
   しかし,判決に摘示されていない証拠と理由との食い違いは事実誤認の問題となります。
イ 刑訴法377条所定の控訴理由を主張する場合,控訴趣意書に,その事由があることの充分な証明をすることができる旨の検察官又は弁護人の保証書を添付しなければなりません。
ウ その他の訴訟手続の法令違反は,相対的控訴理由として,判決に影響を及ぼすことが明らかな場合に限り,控訴理由となります(刑訴法379条)。
   この場合,控訴趣意書に,訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現れている事実であって明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることを信ずるに足りるものを援用しなければなりません。
エ 「訴訟手続」とは,第一審判決の直接の基礎となった審判手続をいい,判決手続も含まれますものの,捜査,勾留,勾引,略式手続,更新前の公判手続は含まれません。
   「法令違反」とは,その結果訴訟手続が無効とされる場合をいいます。
   「判決に影響を及ぼす」とは,その違反がなかったならば現になされた第一審判決と異なる判決がなされたであろうという蓋然性のあることをいいます(最高裁大法廷昭和30年6月22日判決)。

4 被告人の移送
(1) 被告人が刑事施設に収容されている場合において公判期日を指定すべきときは,控訴裁判所は,その旨を対応する検察庁の検察官に通知しなければなりません(刑訴規則244条1項)。
   この場合,検察官は,速やかに被告人を控訴裁判所の所在地の刑事施設に移さなければなりません(刑訴規則244条2項)。
(2) 被告人が控訴裁判所の所在地の刑事施設に移されたときは,検察官は,速やかに被告人の移された刑事施設を控訴裁判所に通知しなければなりません(刑訴規則244条3項)。
5 控訴審の公判審理の特則
(1) 控訴審の公判審理については,刑訴法に特別の定めがある場合を除き,第一審の公判に関する規定が準用されます(刑訴法404条,刑訴規則250条)。
   例えば,①被告人が心神喪失の状態にあるときは公判手続を停止するという刑訴法314条1項,及び②開廷後裁判官が変わったときは,公判手続を更新しなければならないという刑訴法315条は控訴審に準用されます(①につき最高裁昭和53年2月28日判決,②につき最高裁昭和30年12月26日判決)。
(2) 控訴審では,弁護士以外の者を弁護人に選任することができません(刑訴法387条)。
(3) 控訴審では,被告人のためにする弁論は,弁護人でなければ,これをすることができません(刑訴法388条)。
(4) 控訴審の公判期日では,検察官及び弁護人は,控訴趣意書に基づいて弁論をしなければなりません(刑訴法389条)。
(5)ア 控訴審においては,裁判所の出頭命令がない限り,控訴人が公判期日に出頭することを要しません(刑訴法390条)。
イ 令和5年改正の刑訴法に基づき,保釈中の被告人に対する判決宣告期日については,原則として出頭命令が下されます。


(6) 控訴裁判所は,控訴趣意書に包含された事項は,これを調査しなければなりません(刑訴法392条1項)。
また,控訴裁判所は,控訴趣意書に包含されない事項であっても,第一審の弁論終結後の事情を除き,職権で控訴理由に該当する事由を調査することができます(刑訴法392条2項)。
(7) 控訴裁判所は,控訴趣意書に包含された事項等について調査をするについて必要があるときは,検察官,被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で事実の取調べをすることができます(刑訴法393条1項本文)。
ただし,刑訴法382条の2の疎明があったものについては,量刑不当又は事実誤認に該当する場合に限り,これを取り調べなければなりません(刑訴法393条1項ただし書)。
(8)ア 控訴裁判所は,必要があると認めるときは,職権で,第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状について取調べをすることができます(刑訴法393条2項)。
イ 「第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状」の典型例は,第一審判決後に成立した被害者との示談でありますところ,この事実を取り調べるかどうかは控訴裁判所の裁量となるのであって,控訴人としては,控訴裁判所の職権発動を求めることしかできません。
(9) 控訴審において事実の取調べをした場合,検察官及び弁護人は,その結果に基づいて弁論をすることができます(刑訴法393条4項)。
(10) 第一審において証拠とすることができた証拠は,控訴審においてもこれを証拠とすることができます(刑訴法394条)。
(11) 第一審における証拠とすることの同意を控訴審に至って撤回することは,原則として許されません(最高裁昭和37年12月25日判決)。

6 控訴審の裁判
(1) 控訴裁判所は,所定の期間内に控訴趣意書の提出がなかったり,控訴趣意書に記載された控訴申立理由が明らかに控訴理由に該当しなかったりした場合,決定で控訴を棄却しなければなりません(刑訴法386条1項)。
   ただし,控訴棄却決定に対しては即時抗告をすることができます(刑訴法386条2項)。
(2) 控訴裁判所は,控訴の申立てが法令上の方式に違反し,又は控訴権の消滅後にされたものであるときは,判決で控訴を棄却しなければなりません(刑訴法395条)。
(3) 控訴裁判所は,控訴理由に該当する事由がないときは,判決で控訴を棄却しなければなりません(刑訴法396条)。
(4) 控訴裁判所は,控訴理由に該当する事由があるときは,判決で原判決を破棄しなければなりません(刑訴法397条1項)。
(5) 控訴裁判所は,第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状を取り調べた結果,原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは,判決で原判決を破棄することができます(刑訴法397条2項)。
(6) 控訴裁判所は,不法に管轄違いを言い渡し,又は公訴を棄却したことを理由として原判決を破棄するときは,判決で事件を原裁判所に差し戻さなければなりません(刑訴法398条)。
(7) 控訴裁判所は,不法に管轄を認めたことを理由として原判決を破棄するときは,判決で事件を管轄第一審裁判所に移送しなければなりません(刑訴法399条本文)。
(8)ア 控訴裁判所は,管轄違い等以外の理由で原判決を破棄するときは,判決で,事件を原裁判所に差し戻し,又は原裁判所と同等の他の裁判所に移送しなければなりません(刑訴法400条本文)。
   ただし,控訴裁判所は,訴訟記録並びに控訴裁判所において取り調べた証拠によって,直ちに判決をすることができるものと認めるときは,被告事件について更に判決をすることができます(刑訴法400条ただし書)。
イ 最高裁令和5年6月20日決定は,公訴事実記載の事実の存在を認定した上で本件は被告事件が罪とならないときに当たるとして無罪とした第1審判決を法令適用の誤りを理由に破棄し,事実の取調べをすることなく公訴事実と同旨の犯罪事実を認定して自判をした原判決が、刑訴法400条ただし書に違反しないとされた事例です。
(9) 被告人が控訴をし,又は被告人のため控訴をした事件については,原判決の刑より重い刑を言い渡すことができません(刑訴法402条)。
(10) 控訴裁判所は,原裁判所が不法に公訴棄却の決定をしなかったときは,決定で公訴を棄却しなければなりません(刑訴法403条1項)。

第3 上告
1 上告の申立て
(1) 上告は,高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対してこれをすることができます(刑訴法405条)。
(2)ア 高等裁判所が第一審として判決を下すのは,内乱罪(刑法77条),内乱の予備又は陰謀罪(刑法78条)),及び内乱等幇助罪(刑法79条)(裁判所法16条4号)の場合です。
イ かつては独占禁止法89条ないし91条違反の罪については,東京高等裁判所が第一審として裁判をしていましたものの,平成17年4月27日法律第35号(平成18年1月1日施行)による改正後の独占禁止法では,通常の地方裁判所が第一審として裁判をするようになりました。
(3) 上告の提起期間は,14日です(刑訴法414条・373条)。
(4) 上告をするには,申立書を控訴裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法414条・374条)。
(5) 上告の申立てが明らかに上告権の消滅後にされたものである場合を除き,原裁判所は,公判調書の記載の正確性についての異議申立期間の経過後,速やかに訴訟記録を上告裁判所に送付しなければなりません(刑訴規則251条)。
2 上告趣意書
(1) 上告申立人は,最高裁判所の指定した日までに,上告趣意書を上告裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法414条・376条1項,刑訴規則252条・266条・240条)。
(2) 上告趣意書には,上告の理由を簡潔に明示しなければなりません(刑訴規則266条・240条)。
(3) 上告裁判所は,上告趣意書を差し出すべき期間経過後に上告趣意書を受け取った場合においても,その遅延がやむを得ない事情に基づくものと認めるときは,これを期間内に差し出されたものとして審判をすることができます(刑訴規則266条・238条)。
(4) 判例と送反する判断をしたことを理由として上告の申立てをした場合には,上告趣意書にその判例を具体的に示さなければなりません(刑訴規則253条)。
   なお,「判例を具体的に示す」とは,裁判所名,事件番号,裁判年月日,掲載文書名,掲載箇所等を指示して,その判例を具体的に示すことをいいます(最高裁昭和45年2月4日決定)。
3 上告理由,及び上告受理の申立理由
(1) 高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては,以下の上告理由がある場合に限り,上告の申立てをすることができます(刑訴法405条)。
① 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤りがあること。
→ 「憲法の違反」があるとは,原判決及びその訴訟手続における憲法違反をいい,例えば,(a)自白を唯一の証拠として犯罪事実を認定した場合(憲法38条3項違反),及び(b)刑罰法規を遡及して適用し,又は既に無罪判決が確定した事実について有罪判決をした場合(憲法39条)があります。
「憲法の解釈に誤り」があるとは,原判決が違憲の法令を適用したこと,及び原判決の理由に示された憲法の解釈に誤りがあることをいい,例えば,法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかについて示された判断に誤りがあることがあります。
② 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと
→ 判例と送反する判断をしたことを理由として上告の申立てをした場合には,上告趣意書にその判例を具体的に示さなければなりません(刑訴規則253条)。
③ 最高裁判所の判例がない場合に,大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又は刑訴法施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
(2) 最高裁判所は,上告理由がない場合であっても,法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件については,その判決確定前に限り,自ら上告審としてその事件を受理することができます(刑訴法406条)。
   その趣旨は,刑訴法405条2号及び3号によっては,新しい法令の解釈及び判例のない法令の解釈について最高裁判所の見解をただすことが的ないことに鑑み,これらの点に関する判例の出現を期する点にあります。
   その関係で,高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては,その事件が法令(裁判所の規則を含む。)の解釈に関する重要な事項を含むものと認めるときは,上訴権者は,その判決に対する上告の提起期間内に限り,最高裁判所に上告審として事件を受理すべきことを申し立てることができます(刑訴規則257条本文)。
(3) 判決に影響を及ぼすべき法令の違反がある場合,上告受理の申立てをしなくても,刑訴法411条1項1号に基づく職権破棄を促すことができます。
4 跳躍上告
(1) 跳躍上告には以下の2種類があります。
① 違憲判決に対する跳躍上告(刑訴規則254条1項)
→ 地方裁判所又は簡易裁判所がした第一審判決に対しては,その判決において(a)法律,命令,規則若しくは処分が憲法に違反するものとした判断,又は(b)地方公共団体の条例若しくは規則が法律に違反するものとして判断が不当であることを理由として,最高裁判所に上告をすることができます。
② 合憲判決に対する跳躍上告(刑訴規則254条2項)
→ 検察官は,地方裁判所又は簡易裁判所がした第一審判決に対し,その判決において地方公共団体の条例又は規則が憲法又は法律に適合するものとした判断が不当であることを理由として,最高裁判所に上告をすることができます。
(2) 上訴提起期間経過後の跳躍上告申立ては,控訴提起の有無にかかわらず不適法です(最高裁平成6年10月19日決定)。
5 上告審の公判審理の特則
(1) 上告審は,特別の定めがない限り,控訴審の規定が準用されます(刑訴法414条)。
   例えば,被告人が心神喪失の状態にあるときは公判手続を停止する旨を定めた刑訴法314条1項は上告審に準用されます(最高裁平成5年5月31日決定)。
(2) 上告審においては,公判期日に被告人を召喚することを要しません(刑訴法409条)。
   そのため,上告審において公判期日を指定すべき場合においても,被告人の移送は不要です(刑訴規則265条)。
(3) 上告審の公判期日では,検察官及び弁護士たる弁護人が,上告趣意書に基づいて弁論します(刑訴法414条・387条ないし389条)。
(4) 最高裁判所は,原判決において法律,命令,規則又は処分が憲法に違反するものとした判断が不当であることを上告の理由とする事件については,原裁判において同種の判断をしていない他のすべての事件に優先して,これを審判しなければなりません(刑訴規則256条)。
6 上告審の裁判
(1) 上告裁判所は,所定の期間内に上告趣意書の提出がなかったり,上告趣意書に記載された上告申立理由が明らかに上告理由に該当しなかったりした場合,決定で上告を棄却しなければなりません(刑訴法414条・386条1項)。
(2) 上告裁判所は,上告趣意書その他の書類によって,上告申立理由がないことが明らかであると認めるときは,弁論を経ないで,判決で上告を棄却することができます(刑訴法408条)。
(3) 上告裁判所は,以下の場合において,原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは,判決で上告を棄却します。
① 刑訴法405条各号に規定する事由があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかである場合(刑訴法410条1項)
→ 刑訴法405条各号の規定する事由というのは,(a)憲法違反,(b)憲法解釈の誤り及び(c)判例違反です。
② 判決に影響を及ぼすべき法令の違反がある場合(刑訴法411条1項1号)
③ 刑の量定が著しく不当である場合(刑訴法411条1項2号)
④ 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認がある場合(刑訴法411条1項3号)
⑤ 再審事由がある場合(刑訴法411条1項4号)
⑥ 判決があった後に刑の廃止若しくは変更があった場合(刑訴法411条1項5号前段)
⑦ 大赦があった場合(刑訴法411条1項5号後段)
(4) 原判決に判例違反のみがある場合において,上告裁判所がその判例を変更して原判決を維持するのを相当と認めるときは,上告棄却判決を下します(刑訴法410条2項)。
   この場合において最高裁判所の判例変更を伴うときは,大法廷判決として上告を棄却する(裁判所法10条3号)のであって,例としては,横領罪に関する最高裁昭和31年6月26日判決を変更した上で上告を棄却した,最高裁大法廷平成15年4月23日判決があります。
(5)  判事補の職権の特例等に関する法律1条の2第1項に基づいて最高裁判所から高等裁判所判事の職務を代行させる旨の人事措置が発令されていない判事補が構成に加わった高等裁判所により宣告された原判決は,その宣告手続に法律に従って判決裁判所を構成しなかった違法がありますから,刑訴法411条1号により破棄されます(最高裁平成19年7月10日判決)。
(6) 上告裁判所は,不法に管轄を認めたことを理由として原判決を破棄するときは,判決で事件を管轄控訴裁判所又は管轄第一審裁判所に移送しなければなりません(刑訴法412条)。
(7) 上告裁判所は,管轄違い以外の理由で原判決を破棄するときは,判決で,事件を原裁判所若しくは第一審裁判所に差し戻し,又はこれらと同等の他の裁判所に移送しなければなりません(刑訴法413条本文)。
   ただし,上告裁判所は,訴訟記録並びに原裁判所及び第一審裁判所において取り調べた証拠によって,直ちに判決をすることができるものと認めるときは,被告事件について更に判決をすることができます(刑訴法413条ただし書)。
(8) 上告裁判所は,原裁判所が不法に公訴棄却の決定をしなかったときは,決定で上告を棄却しなければなりません(刑訴法414条・403条1項)。
(9) 最高裁は法律審であることを原則としており,原判決の事実認定の当否に深く介入することにはおのずから限界があり,慎重でなければならないのであって,最高裁における事実誤認の主張に関する審査は,原判決の認定が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかどうかの観点から行われます(最高裁平成23年7月25日判決。なお,先例として,最高裁平成21年4月14日判決参照)。
(10)  刑訴法414条,386条1項3号により上告を棄却した最高裁判所の決定に対しては,同法414条,386条2項により異義の申立をすることができます(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定)(3日以内にする必要があることにつき刑訴法385条2項・428条2項及び3項・422条)。
(11) 上告審「判決」は,①判決の宣告があった日から10日を経過したとき,又は②訂正の判決(刑事訴訟法415条)若しくは訂正の申立てを棄却する決定があったときに確定します(刑事訴訟法418条)。
これに対して上告棄却決定に対し,刑訴法415条に基づく訂正の申立をすることは許されません(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定)。

第4 非常上告
1 検事総長は,判決が確定した後その事件の審判が法令に違反したことを発見したときは,最高裁判所に非常上告をすることができます(刑訴法454条)。
2 非常上告をするには,その理由を記載した申立書を最高裁判所に差し出さなければなりません(刑訴法455条)。3 公判期日には,検察官は,申立書に基づいて陳述しなければなりません(刑訴法456条)。
4 非常上告が理由のないときは,判決でこれを棄却しなければなりません(刑訴法457条)。
5 非常上告が理由のあるときは,以下の区分に従い,判決をしなければなりません(刑訴法458条)。
① 原判決が法令に違反したときは,その違反した部分を破棄します。
   ただし,原判決が被告人のため不利益であるときは,これを破棄して,被告事件について更に判決をします。
② 訴訟手続が法令に違反したときは,その違反した手続を破棄します。
6 非常上告の判決は,被告人について更に判決をした場合を除き,その効力を被告人に及ぼしません(刑訴法459条)。
7 非常上告は,法令の適用の誤りを正し,もって,法令の解釈適用の統一を目的とするものであって,個々の事件における事実認定の誤りを是正して被告人を救済することを目的とするものではありません。

   そのため,実体法たると手続法たるとを問わず,その法令の解釈に誤りがあるというのでなく,単にその法令適用の前提事実の誤りのため当然法令違反の結果を来す場合のごときは,法令の解釈適用を統一する目的に少しも役立たないから,刑訴454条の「事件の審判が法令に違反したこと」に当たりません(最高裁大法廷昭和27年4月9日判決)。

第5 勾留及び保釈に対する不服申立て
1 総論

(1) 勾留及び保釈に対する不服申立ての宛先は以下のとおりです。
① 起訴から第1審における第1回公判期日前まで
   裁判官(刑訴法280条1項)が勾留していますから,不服申立ては,地裁への準抗告(刑訴法429条1項2号)を経て最高裁への特別抗告(刑訴法433条)となります。
② 第1審の第1回公判期日から高裁に記録が到着するまで
   第1審の裁判所が勾留していますから,不服申立ては,高裁への通常抗告(刑訴法419条ないし427条)を経て最高裁への特別抗告(刑訴法433条)となります。
③ 高裁に記録が到着してから最高裁に記録が到着するまで
   控訴審の裁判所が勾留していますから,不服申立ては,別の高裁の合議体への異議申立て(刑訴法428条2項及び3項)を経て最高裁への特別抗告(刑訴法433条)となります。
④ 最高裁に記録到着後
   上告審の裁判所が勾留していますから,不服申立ては,最高裁への異議申立てとなります(最高裁昭和52年4月4日決定)。
(2) ①上訴の提起期間内の事件でまだ上訴のないもの,及び②上訴中の事件で訴訟記録が上訴裁判所に到達していないものについては,原裁判所が勾留及び保釈に関する決定をします(刑訴法97条1項及び2項,刑訴規則92条1項及び2項)。
2 勾留に関する不服申立て
(1) 勾留に対しては,勾留理由開示があったときは,その開示の請求をした者も,被告人のため上訴をすることができます(刑訴法354条前段)。
(2) 勾留の裁判に対する異議申立てが棄却され,右棄却決定がこれに対する特別抗告も棄却されて確定した場合においては,右異議申立てと同一の論拠に基づいて勾留を違法として取り消すことはできません(最高裁平成12年9月27日決定)。
3 保釈に関する不服申立て
(1) 保釈請求却下決定に関して特別抗告が申し立てられた後に,被告人が保釈により釈放された場合には,右抗告は,その理由について裁判をする実益がありません(最高裁昭和29年1月19日決定)。
(2) 保釈を許す決定に対する抗告事件において,抗告裁判所は,原決定が違法であるかどうかにとどまらず,それが不当であるかどうかをも審査することができます(最高裁昭和29年7月7日決定)。
(3) 保釈請求却下決定に対する準抗告申立棄却決定の謄本が,被告人と申立人である弁護人との双方に日を異にして送達された場合における抗告申立の期間は,被告人本人に送達された日から起算されます(最高裁昭和43年6月19日決定)。
(4) 最高裁判所がした裁判であっても,判決に対し刑訴法415条は訂正の申立を認め,また,上告棄却の決定に対し同法414条,386条2項による異議の申立が認められている(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定,最高裁昭和36年7月5日決定)とのバランスから,最高裁判所の保釈保証金没取決定に対しても,刑訴法428条準用により異議の申立てができます(最高裁昭和52年4月4日決定)。


第6 関連記事その他
1 最高裁令和4年5月20日判決は,検察官上告に基づき,外国公務員等に対して金銭を供与したという不正競争防止法違反の罪について,共謀の成立を認めた第1審判決に事実誤認があるとした原判決に,刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例です。
2 以下の記事も参照してください。
・ 刑事事件の上告棄却決定に対する異議の申立て
・ 刑事の再審事件
・ 最高裁判所における刑事事件の弁論期日
・ 弁護人上告に基づき原判決を破棄した最高裁判決の判示事項(平成元年以降の分)
・ 最高裁判所事件月表(令和元年5月以降)
・ 判決要旨の取扱い及び刑事上訴審の事件統計
・ 最高裁判所調査官
・ 最高裁判所判例解説

弁護人

目次
第1 弁護人選任権
1 弁護人選任権者
2 弁護人の種類
3 弁護人選任の効力
4 弁護人の数
5 主任弁護人
第2 弁護人選任の申出,並びに当番弁護士制度及び私選紹介弁護士制度
1 弁護人選任の申出
2 当番弁護士制度及び私選紹介弁護士制度
第3 国選弁護人の選任
1 総論
2 被告人国選弁護人
3 被疑者国選弁護人
第4 弁護人と被疑者・被告人との接見交通
1 接見交通権
2 接見指定権
3 最高検察庁の接見対応通達
4 面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音
5 弁護人になろうとする者としての接見には制限があること
6 接見指定権に関する判例
第5 被疑者国選対象事件,国選付添人対象事件及び裁判員裁判対象事件
1 総論
2 被疑者国選対象事件
3 国選付添人対象事件
4 裁判員裁判対象事件
第5の2 精神鑑定結果の採用に関する最高裁判例
第6 刑事弁護における弁護士倫理
第7 刑事弁護に関する弁護士職務基本規程の条文
第8 関連記事その他

第1 弁護人選任権
1 弁護人選任権者
(1) 被告人又は被疑者は,何時でも弁護人を選任することができます(刑訴法30条1項)。
(2)ア 被告人又は被疑者の法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹は,独立して弁護人を選任することができます(刑訴法30条2項)。
イ 原判決後被告人のために上訴をする権限を有しない選任権者によって選任された弁護人も,同法351条1項による被告人の上訴申立てを代理して行うことができます(最高裁大法廷昭和63年2月17日判決)。
2 弁護人の種類
(1) 刑訴法が認める弁護人には,①弁護士である弁護人(刑訴法31条1項,憲法37条3項「資格を有する弁護人」参照)及び②弁護士でない特別弁護人(刑訴法31条2項)があり,弁護士たる弁護人には私選弁護人及び国選弁護人があります。
(2) 刑訴法30条によって選任される弁護人は私選弁護人です。
3 弁護人選任の効力
(1)ア 公訴の提起前にした弁護人の選任は,弁護人と連署した書面を当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員に差し出した場合に限り,第一審においてもその効力を有します(刑訴法32条1項,刑訴規則17条,犯罪捜査規範133条)。
イ 公訴の提起後における弁護人の選任は,弁護人と連署した書面を差し出してこれをしなければなりません(刑訴規則18条)。
ウ 連署とは、弁護人になろうとする者と被告人とがそれぞれ自己の氏名を自書し押印することであります(最高裁昭和40年7月20日決定及び最高裁昭和44年6月11日決定)ものの,裁判所に提出する弁護人選任届に対する弁護人の署名押印については,記名押印で足ります(刑訴規則60条の2第2項2号・第1項)。
(2) 一の事件についてした弁護人の選任は,その事件の公訴の提起後同一裁判所に公訴が提起され,かつ,これと併合された他の事件についても,原則としてその効力を有します(刑訴規則18条の2)。
(3) 公訴の提起後における弁護人の選任は,審級ごとにこれをしなければなりません(刑訴法32条2項)。
(4)   差戻し前の第一審においてした弁護人の選任が,差戻し後の第一審においても効力を有するものとすることはできません(最高裁昭和27年10月26日決定)。
4 弁護人の数
(1) 被疑者の弁護人の数は,特別の事情があるものとして裁判所が弁護人の人数超過許可決定を出した場合を除き,各被疑者について3人を超えることができません(刑訴規則27条1項)。
(2) 刑訴規則27条1項ただし書に定める特別の事情については,被疑者弁護の意義を踏まえると,事案が複雑で,頻繁な接見の必要性が認められるなど,広範な弁護活動が求められ,3人を超える数の弁護人を選任する必要があり,かつ,それに伴う支障が想定されない場合には,これがあるものと解されます(最高裁平成24年5月10日決定)。
(3) 裁判所は,特別の事情があるときは,弁護人の数を各被告人について3人までに制限することができます(刑訴法35条,刑訴規則26条)。
5 主任弁護人
(1) 被告人に数人の弁護人があるときは,主任弁護人を定める必要があります(刑訴法33条,刑訴規則19条及び20条)。
(2)   主任弁護人に事故がある場合に備えて,副主任弁護人が指定されることがあります(刑訴規則23条)。


第2 弁護人選任の申出,並びに当番弁護士制度及び私選紹介弁護士制度
1 弁護人選任の申出
(1) 弁護人を選任しようとする被告人又は被疑者は,弁護士会に対し,弁護人の選任の申出をすることができます(刑訴法31条の2第1項)。
    この場合,弁護士会は,速やかに,所属する弁護士の中から弁護人となろうとする者を紹介しなければなりません(刑訴法31条の2第2項)。
(2) 弁護士会は,弁護人となろうとする者がないときは,当該申出をした者に対し,その旨を通知しなければなりません(刑訴法31条の2第3項前段)。
    また,紹介した弁護士が被告人又は被疑者がした弁護人の選任の申込みを拒んだときも,同様です(刑訴法31条の2第3項後段)。
(3) 刑事収容施設(例えば,警察署留置場及び拘置所)に収容され,又は留置されている被告人又は被疑者に対する刑訴法31条の2第3項の通知は,留置業務管理者等にします(刑訴規則18条の3第1項)。
    この場合,直ちに被疑者にその旨が告げられます(刑訴規則18条の3第2項)。

2 当番弁護士制度及び私選弁護人照会制度
(1)ア 当番弁護士制度とは,身体を拘束されている刑事事件(少年事件を含む。)の被疑者の要請に基づき,弁護士会が弁護士を1回,無料で派遣する制度をいい,平成2年9月14日に大分県弁護士会が全国に先駆けて開始し,その後,全国の弁護士会に広がりました(最高裁平成5年10月19日決定の裁判官大野正男の補足意見参照)。
    これに対して私選弁護人紹介制度とは,私選弁護人の選任を希望する被疑者又は被告人の要請に基づき,弁護士会が弁護士を1回,無料で派遣する制度をいい,被疑者国選制度(刑訴法37条の2参照)が導入された平成18年10月2日に開始しました(刑訴法31条の2参照)。
イ   大阪弁護士会の場合,当番弁護士制度と私選弁護人紹介制度はワンセットで運用しています。
(2)ア 刑訴法31条2項に基づく特別弁護人の選任が許可されるのは,裁判所に公訴が提起された後に限られます(最高裁平成5年10月19日決定)から,被疑者段階で弁護人になれるのは弁護士だけです。
イ 外国法事務弁護士はここでいう「弁護士」に含まれません(外国法事務弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法3条1項2号参照)。


第3 国選弁護人の選任
1 総論
(1)ア 国選弁護人は弁護士の中から選任されます(刑訴法38条1項)。
イ 被告人国選弁護人を弁護士の中から選任することは憲法37条3項前段の要請です。
(2) 国選弁護人は,裁判所が解任しない限りその地位を失うものではありませんから,国選弁護人が辞任の申出をした場合であっても,裁判所が辞任の申出について正当な理由があると認めて解任しない限り,弁護人の地位を失うものではありません(最高裁昭和54年7月24日判決)。
(3) 裁判所は,以下の場合,国選弁護人を解任することができます(刑訴法38条の3)。
① 30条の規定により弁護人が選任されたことその他の事由により弁護人を付する必要がなくなったとき。
② 被告人と弁護人との利益が相反する状況にあり弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき。
③ 心身の故障その他の事由により,弁護人が職務を行うことができず,又は職務を行うことが困難となったとき。
④ 弁護人がその任務に著しく反したことによりその職務を継続させることが相当でないとき。
⑤ 弁護人に対する暴行,脅迫その他の被告人の責めに帰すべき事由により弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき。
(4) 刑事事件の複数の共犯者の弁護を同時に引き受けると,犯罪への加功の程度や誰が主導的役割を演じたかなど,共犯者間で利益相反が生じた場合,弁護人は身動きがとれなくなります。
    そのため,国選弁護人は,被告人又は被疑者の利害が相反しないときに限り,数人の弁護をすることができます(刑訴規則29条5項)。
    また,受任段階で共犯者らの話を聞いた段階ではそのような危険が危惧されなかった場合でも記録を閲覧するなどして初めて利益相反が判明するということもありますところ,利益相反が判明した場合,一方だけ辞任すればよいとは限りません。
    よって,できる限り,当初より共犯者の同時受任をすることは避けるべきであると解されています。
2 被告人国選弁護人
(1) 総論
ア 被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは,裁判所は,その請求により,被告人に国選弁護人を付けてくれます(刑訴法36条本文)。
    ただし,被告人が国選弁護人の選任請求をする場合,①資力申告書を提出するか,又は事前に②私選弁護人紹介制度を利用しておく必要があります(刑訴法36条の2及び3)。
イ 国選弁護人の選任を請求する場合,その理由を示す必要があります(刑訴規則28条)。
ウ 積極的請求があるときだけに限るのは合理的でないから,選任請求権を告知することとし(勾引された被告人につき刑訴法76条,勾留された被告人につき刑訴法77条,公訴提起時につき刑訴法272条及び刑訴規則177条),さらに,公訴提起後遅滞なく請求するかどうかを照会し,一定期間内に回答を求めることにしています(刑訴規則178条)。
    ただし,刑訴規則178条により裁判所がなす弁護人選任の照会手続は,憲法37条3項前段の要請に基づくものではありません(最高裁大法廷昭和28年4月1日判決)。
エ 刑訴法36条本文に基づく制度は,被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任できない場合に,被告人の請求により裁判所が弁護人を付する制度であり,憲法37条3項後段の要請に基づくものです(最高裁大法廷昭和32年7月17日決定参照)。
(2) 必要的弁護事件
ア 死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件を審理する場合,弁護人がなければ開廷することができません(刑訴法289条1項。必要的弁護事件)。
そのため,被告人が弁護人を選任していないとき,裁判長は,直ちに被告人のため弁護人を選任しなければなりません(刑訴規則178条3項)。
イ 被告人が判決宣告期日の2日前に私選弁護人全員を解任し,その翌日国選弁護人選任の請求をした場合において,被告人がその時期に私選弁護人を解任するのもやむを得ないとする事情がなく,裁判所が判決宣告期日に間に合うように国選弁護人を選任するのが困難であったときは,裁判所が国選弁護人を選任しないまま判決の宣告をしても,憲法31条,37条3項に違反しません(最高裁昭和63年7月8日判決)。
なお,訴訟法上の権利は誠実にこれを行使し濫用してはならないものであることは刑訴規則1条2項の明定するところであり,被告人がその権利を濫用するときは,それが憲法に規定されている権利を行使する形をとるものであっても,その効力を認めないことができます(最高裁昭和54年7月24日判決)。
(3) 任意的弁護事件
   必要的弁護事件以外の事件を任意的弁護事件といい,刑訴法37条所定の以下の事由がない限り,弁護人の選任がないまま,公判期日を開廷することとなります。
① 被告人が未成年者であるとき。
→ ただし,少年の被告人に弁護人がないときは,裁判所は,なるべく,職権で弁護人を付す必要があります(刑訴規則279条)。
② 被告人が年齢70歳以上の者であるとき。
③ 被告人が耳の聞こえない者又は口のきけない者であるとき。
④ 被告人が心神喪失者又は心神耗弱者である疑いがあるとき。
⑤ その他必要と認めたとき。
(4) 被告人国選弁護人の報酬及び費用
ア 憲法37条3項後段は,刑事被告人に資格を有する弁護人を国が付することを保障していますから,刑訴法38条1項が,被告人の国選弁護人は弁護士から選任すべきことを定めるのは,憲法の要請を受けたものです。
    ただし,国選弁護人の報酬及び費用を何人に負担させるかという問題は,憲法37条3項後段が関知するところではありません(最高裁大法廷昭和25年6月7日判決参照)。
イ 国選弁護人は,裁判所が解任しない限りその地位を失うものではありませんから,国選弁護人が辞任の申出をした場合であっても,裁判所が辞任の申出について正当な理由があると認めて解任しない限り,弁護人の地位を失うものではありません(最高裁昭和54年7月24日判決)。
    なお,国選弁護人の解任理由を定めた,平成16年5月28日法律第62号による改正後の刑訴法38条の3は,平成18年10月2日に施行されました。
ウ 刑事訴訟費用の主たるものは,刑事事件における被疑者国選弁護人及び被告人国選弁護人の報酬及び費用のことです(総合法律支援法5条及び39条2項参照)。
エ 報酬及び費用が事件ごとに定められる契約を締結している国選弁護人等契約弁護士(=普通国選弁護人契約弁護士)の場合,法テラスが査定した報酬及び費用が訴訟費用となります(総合法律支援法39条2項1号)。
    そのため,①刑訴法38条2項及び②刑事訴訟費用等に関する法律(=刑訴費用法)2条3号の適用が排除されています(総合法律支援法39条1項)。
オ 司法支援センター(=法テラス)との一般国選弁護人契約(=基本契約)には,以下の2種類があります。
① 普通国選弁護人契約(国選弁護人の事務に関する契約約款2条4号)
→ 事件ごとに報酬及び費用が定まる契約のことであり,基本契約の締結を希望するすべての弁護士が結びます。
② 一括国選弁護人契約(国選弁護人の事務に関する契約約款2条6号)
→ 複数の即決被告事件について一括して,報酬及び費用が定まる契約のことであり,被告人段階で即決裁判を一度に複数件を受任する意思のある弁護士が,普通国選弁護人契約とは別に結ぶものです。
カ 国選弁護人に支給される報酬及び費用は,国選弁護人の事務に関する契約約款別紙「報酬及び費用の算定基準」において,算定基準が詳細に定められています(国選弁護人の事務に関する契約約款14条)。
キ 総合法律支援法(平成16年6月2日法律第74号)に基づき,司法支援センター(=法テラス)が平成18年10月2日に業務を開始する以前は,裁判所が,刑訴法38条2項に基づき,国選弁護人の旅費,日当,宿泊料及び報酬を定めていました。
    そして,国選弁護人の旅費,報酬等は,裁判所が相当と認めるところによるものとされ(刑訴費用法8条),刑訴法に準拠する不服申立ては許されませんでした(最高裁昭和63年11月29日決定)。


3 被疑者国選弁護人
(1) 裁判員法が施行された平成21年5月21日以降,死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件について被疑者に対して勾留を請求され,又は勾留状が発せられている場合において,被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは,裁判所は,その請求により,被疑者に国選弁護人を付けてくれます(刑訴法37条の2)。
    ただし,被疑者が国選弁護人の選任請求をする場合,①資力申告書を提出するか,又は事前に②私選弁護人紹介制度を利用しておく必要があります(刑訴法37条の3第1項及び第2項)。
(2) 被疑者国選事件の範囲は,弁護人がなければ開廷することができない必要的弁護事件の範囲(刑訴法289条1項)と同じです。
(3) 裁判官は,特に必要があると認めるときは,被疑者に対し,職権で更に国選弁護人1人を付けることができます(刑訴法37条の5本文)。
(4) 被疑者の国選弁護人は,被疑者がその選任に係る事件について釈放されたときは,その効力を失います(刑訴法38条の2)。
(5) 平成18年10月2日から平成21年5月20日までは,被疑者国選弁護人の対象事件は,「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件」でした。
(6) 被疑者国選対象事件が平成18年10月2日に開始し,平成21年5月21日に拡大することは,平成16年5月28日法律第62号によって定められていました。

第4 弁護人と被疑者・被告人との接見交通
1 接見交通権
(1) 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は,①弁護人又は②弁護人を選任することができる者(刑訴法30条)の依頼により弁護人となろうとする者と立会人なくして接見し,又は書類若しくは物の授受をすることができ(刑訴法39条1項),これを接見交通権といいます。
(2) 刑訴法39条1項は,身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり,憲法34条の補償に由来するものです(最高裁大法廷平成11年3月24日判決。なお,先例として,最高裁昭和53年7月10日判決,最高裁平成3年5月10日判決参照)。
(3) 依頼により弁護人となろうとする者とは,弁護人としての選任の依頼,委嘱の申込みを受けてから弁護人としての選任手続を完了するまでの者をいいます。
(4) 接見交通については,法令で,被告人又は被疑者の逃亡,罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができます(刑訴法39条2項)。
   そのため,裁判所は,身体の拘束を受けている被告人又は被疑者が裁判所の構内にいる場合においてこれらの者の逃亡,罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要があるときは,これらの者と弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者との接見については,その日時,場所及び時間を指定し,又,書類若しくは物の授受については,これを禁止することができます(刑訴規則30条)。
2 接見指定権
   検察官,検察事務官又は司法警察職員は,捜査のため必要があるときは,公訴の提起前に限り,接見交通に関し,その日時,場所及び時間を指定することができます。
   ただし,その指定は,被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものであってはなりません(刑訴法39条3項)。
3 最高検察庁の接見対応通達
(1) 平成20年5月1日付の接見対応通達(次長検事通達),及び同日付の接見対応通達(総務部長通知)を掲載しています。
(2) 接見対応通達等の運用状況については,法務省が平成23年8月に作成した「取調べに関する国内調査結果報告書」に記載されています。
4 面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音
(1)   日弁連は,平成23年1月20日,「面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての意見書」を法務大臣及び警察庁長官に提出しており,PDFファイルには「意見の趣旨」として以下の記載があります。

   弁護士が弁護人,弁護人となろうとする者もしくは付添人として,被疑者,被告人もしくは観護措置を受けた少年と接見もしくは面会を行う際に,面会室内において写真撮影(録画を含む)及び録音を行うことは憲法・刑事訴訟法上保障された弁護活動の一環であって,接見・秘密交通権で保障されており,制限なく認められるものであり,刑事施設,留置施設もしくは鑑別所が,制限することや検査することは認められない。
   よって,刑事施設,留置施設もしくは鑑別所における,上記行為の制限及び検査を撤廃し,また上記行為を禁止する旨の掲示物を直ちに撤去することを求める。
(2) 最高裁は,平成28年6月15日,いわゆる竹内国家賠償請求訴訟の上告審で,原告一部勝訴の第一審判決を取り消し,請求をすべて棄却するとの東京高裁平成27年7月9日判決に対する上告及び上告受理申立を退ける決定をしました(日弁連HPの「面会室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟の最高裁決定についての会長談話」(平成28年6月17日付))。


5 弁護人になろうとする者としての接見には制限があること
    平成21年12月16日付の日弁連綱紀委員会議決の議決要旨は以下のとおりです(弁護士自治を考える会HPの「「立場濫用」で再審査を要求 日弁連,京都弁護士会に」参照)。
    対象弁護士は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人になろうとする者に該当せず,かつ,「弁護人又は弁護人となろうとする者」以外の者との接見や書類の授受が禁止されていたにもかかわらず,自己が依頼を受けた被告人以外の利害対立のおそれがある他の共犯者と当該共犯者からの依頼がないにもかかわらず単に弁護人となる可能性があるとして接見した行為は,接見交通権の濫用であり,品位を失うべき非行に該当する。


6 接見指定権に関する判例
(1) 捜査機関は,弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは,原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり,同条3項本文にいう「捜査のため必要があるとき」とは,右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ,右要件が具備され,接見等の日時等の指定をする場合には,捜査機関は,弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し,被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければなりません。

   そして,弁護人等から接見等の申出を受けた時に,捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分,検証等に立ち会わせている場合,また,間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって,弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは,右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などは,原則として右にいう取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たりますす(最高裁大法廷平成11年3月24日判決。なお,先例として,最高裁昭和53年7月10日判決,最高裁平成3年5月10日判決,最高裁平成3年5月31日判決参照)。
(2) 弁護人の事務所,検察庁及び被疑者が勾留されている警察署の位置関係などから,検察庁において接見指定書を受領して右警察署に持参することが弁護人にとって過重な負担となるものではなく,弁護人が申し出た接見の日時までに相当の時間があるために,弁護人が検察庁まで接見指定書を受け取りに行くことにしても接見の開始が遅れることはなく,検察庁から弁護人の事務所に対して接見指定書をファクシミリで送付することができないなどといった事情の下においては,接見指定書を交付する方法により接見の日時等を指定しようとして,弁護人に対し検察庁において接見指定書を受領するよう求め,その間右指定をしなかった検察官の措置に違法があるとはいえません(最高裁平成12年2月22日判決)。
(3) 弁護人が警察署に赴き勾留中の被疑者との接見の申出をしたのに対し,申出を受けた留置担当官が,接見の日時等を指定する権限のある検察官から被疑者と弁護人との接見についていわゆる一般的指定書が送付されていたのに,具体的指定書を所持しているか否かを確認しないまま接見を開始させたが,その一,二分後に弁護人が具体的指定書を所持していないことに気付き,接見を中止させるとともに直ちに右検察官に電話で連絡したところ,右検察官から具体的指定書によって接見の日時等を指定するのでその日時まで接見をさせてはならない旨の指示を受けたなどといった事実関係の下においては,接見を中止させた上,右検察官から具体的指定書が届けられるまでの間弁護人を待機させた留置担当官の措置に違法があるとはいえません(最高裁平成12年3月17日判決)。
(4) 弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と被疑者との逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとっては,弁護人の選任を目的とし,かつ,今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって,直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないとする憲法上の保障の出発点を成すものであるから,これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要です。
   したがって,右のような接見の申出を受けた捜査機関としては,接見指定の要件が具備された場合でも,その指定に当たっては,弁護人となろうとする者と協議して,即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能かどうかを検討し,これが可能なときは,留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情のない限り,犯罪事実の要旨の告知等被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続及びそれに引き続く指紋採取,写真撮影等所要の手続を終えた後において,たとい比較的短時間であっても,時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認めるようにすべきであり,このような場合に,被疑者の取調べを理由として右時点での接見を拒否するような指定をし,被疑者と弁護人となろうとする者との初回の接見の機会を遅らせることは,被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものとなります(最高裁平成12年6月13日判決)。
(5) 同一人につき被告事件の勾留とその余罪である被疑事件の勾留が競合している場合,検察官は,被告事件について防御権の不当な制限にわたらない限り,被告事件についてだけ弁護人に選任された者に対しても,刑訴法39条3項の接見等の指定権を行使することができます(最高裁平成13年2月7日決定。なお,先例として,最高裁昭和55年4月28日決定)。
(6) 弁護人等から接見等の申出を受けた者が、接見等のための日時等の指定につき権限のある捜査機関(=権限のある捜査機関)でないため,指定の要件の存否を判断できないときは,権限のある捜査機関に対して申出のあったことを連絡し,その具体的措置について指示を受ける等の手続を採る必要があり,こうした手続を要することにより,弁護人等が待機することになり,又はそれだけ接見等が遅れることがあったとしても,それが合理的な範囲内にとどまる限り,許容されています(最高裁平成16年9月7日判決)。
(7)  保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあった場合に,その旨を未決拘禁者に告げないまま,保護室収容を理由に面会を許さない刑事施設の長の措置は,特段の事情がない限り,国家賠償法上違法となります(最高裁平成30年10月25日判決)。


第5 被疑者国選対象事件,国選付添人対象事件及び裁判員裁判対象事件
1 総論

(1) 罪名別各制度対象事件早見表(平成21年5月当時のもの)
    外部HPの「罪名別各制度対象事件早見表」を見れば,被疑者国選対象事件が拡大したり,裁判員制度が導入されたりした平成21年5月21日時点において,どの罪名の事件が,①被疑者国選対象事件(死刑,無期又は長期3年を超える懲役・禁錮),②国選付添人対象事件(死刑,無期若しくは短期2年以上の懲役・禁錮,又は故意犯の死亡結果)及び③裁判員裁判対象事件(死刑,無期の懲役・禁錮又は法定合議かつ故意犯の死亡結果)に該当するかが分かります。
(2) 少年が犯罪を犯した場合の適用される弁護制度
    少年が犯罪を犯した場合,以下の制度の対象となります(法務省HPの「現行法による国選弁護・国選付添製度の概要」参照)。
① 捜査段階
・   被疑者国選弁護制度(刑訴法37条の2)
② 家庭裁判所に事件が係属している段階
・   国選付添人制度
→ (a)検察官関与決定に伴うものにつき少年法22条の3第1項,(b)家庭裁判所の裁量によるものにつき少年法22条の3第2項,(c)被害者等の審判傍聴に伴うものにつき少年法22条の5第2項
③ 検察官送致決定後,起訴される前の段階
・   被疑者国選弁護制度(刑訴法37条の2)
④ 起訴された後の段階
・ (被告人)国選弁護制度(刑訴法36条,37条)
2 被疑者国選対象事件
(1) 被疑者国選弁護制度は,日本司法支援センターが本格的に業務を開始した平成18年10月2日に開始しました。
開始当時の被疑者国選対象事件は,死刑,無期又は短期1年を超える懲役・禁錮だけでした。
(2) 平成21年5月21日,被疑者国選対象事件が死刑,無期又は長期3年を超える懲役・禁錮となりました。
(3) 平成30年6月1日, 勾留状が発せられている身柄事件の全部が被疑者国選弁護人対象事件となりました。
3 国選付添人対象事件
(1) 平成13年4月1日,検察官関与決定があった場合,必ず国選付添人が付されることとなりました(少年法22条の3第1項・22条の2第1項)。
    ただし,平成13年4月1日から平成18年3月31日までにつき,検察官関与決定があった100人中,国選付添人が付されたのは25人だけです(最高裁HPの「平成12年改正少年法の運用の概況」8頁)。
(2) 平成19年11月1日,死刑,無期若しくは短期2年以上の懲役・禁錮,又は故意犯の死亡結果が,「裁量的な」国選付添人対象事件となりました(少年法22条の3第2項及び第1項・22条の2第1項)。
    ただし,その選任数は年間300人から500人程度に過ぎず(少年鑑別所に収容された少年は年間約1万人以上),被疑者国選対象事件と国選付添人対象事件の範囲が異なるため,家裁送致後,被疑者国選弁護人が引き続き国選付添人として活動できないという問題が生じていました(日弁連HPの「全面的国選付添人制度の実現(全面的国選付添人制度実現本部)参照」参照)。
(3)ア 平成26年6月18日, 死刑,無期又は長期3年を超える懲役・禁錮が,「裁量的な」国選付添人対象事件となりました(少年法22条の3第2項及び第1項・22条の2第1項)。   これにより,被疑者国選対象事件と国選付添人対象事件の範囲が一致することとなりました。
イ  日弁連によれば,少年鑑別所に収容され身体拘束された少年の約8割について,裁量的に国選付添人が選任されることとなりました(日弁連HPの「全面的国選付添人制度の実現(全面的国選付添人制度実現本部)」参照)。
4 裁判員裁判対象事件
(1) 裁判員裁判は平成21年5月21日に開始しました。
(2) 裁判員裁判対象事件は, 死刑,無期の懲役・禁錮又は法定合議かつ故意犯の死亡結果です(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条1項)。


第5の2 精神鑑定結果の採用に関する最高裁判例
1(1) 刑法39条にいう心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかの法律判断の前提となる生物学的,心理学的要素についての評価は,右法律判断との関係で究極的には裁判所に委ねられるべき問題です(最高裁昭和58年9月13日決定)。
(2) 責任能力判断の前提となる生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について,専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には,鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり,鑑定の前提条件に問題があったりするなど,これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り,裁判所は,その意見を十分に尊重して認定すべきです(最高裁平成20年4月25日判決)。
(3) 裁判所は,特定の精神鑑定の意見の一部を採用した場合においても,責任能力の有無・程度について,当該意見の他の部分に拘束されることなく,被告人の犯行当時の病状,犯行前の生活状態,犯行の動機・態様等を総合して判定することができます(最高裁平成21年12月8日決定)。
2 東弁リブラ2023年12月号「令和5年3月24日実施 講演録及びパネルディスカッション録「精神科医から見た責任能力が問題となる裁判員裁判」」には以下の記載があります。
(山中注:精神鑑定の結果に関する最高裁判例を)まとめると、基本的には鑑定人の意見を尊重しつつも、責任能力の判断は専ら裁判所に委ねられ、裁判所は精神鑑定の意見の一部を採用したとしても、他の部分には拘束されずに、犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機、態様等を総合して判定できるというふうにされています。

第6 刑事弁護における弁護士倫理
1 弁護士は,被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ,その権利及び利益を擁護するため,最善の弁護活動に努めます(弁護士職務基本規程46条)。
2 弁護士は,被疑者及び被告人に対し,黙秘権その他の防御権について適切な説明及び助言を行い,防御権及び弁護権に対する違法又は不当な制限に対し,必要な対抗措置をとるように努めます(弁護士職務基本規程48条)。
3 弁護士は,国選弁護人に選任された事件について,名目のいかんを問わず,被告人その他の関係者から報酬その他の対価を受領してはなりません(弁護士職務基本規程49条1項)。
4 日弁連又は所属弁護士会の会則に別段の定めがある場合を除き,弁護士は,国選弁護人に選任された事件について,被告人その他の関係者に対し,その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはなりません(弁護士職務基本規程49条2項)。


第7 関連記事その他
1 憲法34条前段は,身柄拘束被疑者の弁護人選任権を定めていますところ,刑訴法30条1項は,身柄拘束の有無を問わず,被疑者及び被告人の弁護人選任権を定めています。
2  刑訴法31条2項によりいわゆる特別弁護人を選任することができるのは公訴が提起された後に限られます(最高裁平成5年10月19日決定)。
3(1) 以下の文書を掲載しています。
① 刑事事件に関する書類の参考書式について(平成18年5月22日付の最高裁判所事務総局刑事局長,総務局長,家庭局長送付)
② 夜間及び休日の未決拘禁者と弁護人等との面会等の取扱いについて(平成19年5月25日付の法務省矯正局長通達)
→ 二弁フロンティア2018年11月号の「国選日誌 刑事弁護の「かゆいところ」、お答えします」によれば,(a)「当該面会希望日から起算して5日以内に公判期日が指定されている場合」及び(b)「上訴期限又は控訴趣意書等の提出期限が当該面会希望日から起算して5日以内に迫っている場合」でいうところの「5日以内」に土日祝日は含まれないのであって,5営業日以内であるとのことです。
③ 弁護人選任権の告知及び弁護人の選任に係る事項の教示等について(平成28年6月28日付の最高裁判所刑事局第二課長の事務連絡)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 被疑者の逮捕
・ 被疑者及び被告人の勾留
・ 被告人の保釈

警察及び検察の取調べ

目次
第1 取調べを受ける心構え
第2 警察の取調べに対する苦情の申し入れ方法等
第3 被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の運用状況
第4 検察の取調べに対する苦情の申し入れ方法等
第5 検察官面前調書
第6 黙秘権に関するメモ書き(捜査機関の取調べ一般の話です。)
第7 取調べに関する犯罪捜査規範の条文(犯罪捜査規範166条ないし182条の5)
第8 独占禁止法違反被疑事件の行政調査における供述聴取の留意事項
第9 冤罪事件における検事の取調べの実例
第10 被疑者に対する不起訴処分の告知
第11 関連記事その他

第1 取調べを受ける心構え
1 日弁連HPに最新版の被疑者ノート(2022年3月・第6版補訂2版)が載っています。
2 以下の文章は,日本弁護士連合会の「被疑者ノート」(第3版・2009年4月版)からの抜粋です。
ふりがなが不要な場合,こちらの方が読みやすい気がします。

① 取調官の作文を許さない~供述調書は,取調官の作文になりがちです~
   取調べで作成される供述調書は,まるで,あなた自身が書いたかのように,「わたしは,○○しました」という文章になっています。
   しかし,供述調書の内容は,あなたが話した内容をそのまま書いたものではありません。取調官がまとめて文章にしたものです。あなたの言い分と,取調官の作文が混ざってしまい,どこまでが本当のあなたの言い分で,どこからが取調官の作文かは,区別がつきません。日本の取調べは,弁護人の立会いもなく,録画も録音もされていませんので,どれがあなたのことばなのか,後から調べようがないのです。
   このため,日本では,裁判になって,供述調書の内容は自分の言い分とはちがう,取調官の作文が入っている,と争いになることが非常に多いのです。そのような争いには,多くの労力と時間が必要となります。しかも,そのような調書でも,それなりにもっともらしく作られていますので,弁護人が後からどれだけ必死に争っても,日本の裁判官は,それがすべてあなたの言ったことであるかのように考えてしまいがちです。
   このように供述調書はとてもおそろしい力をもっていますので,供述調書を作成する際には注意してください。
   以下,具体的なアドバイスです。
② ずっと黙っていることもできる~あなたはずっと黙っていることができます~
   憲法38条1項は,「何人も,自己に不利益な供述を強要されない」と定め,黙秘権を保障しています。また,刑訴法198条2項は,「取調に際しては,被疑者に対し,あらかじめ,自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない」と定めています。被疑者は,取調官から供述を迫られたとしても,黙秘権を行使し,供述を拒否することができます。一切の質問に対し,何も答えず,黙っていてもかまわないという権利です。
   黙秘権は,権力が,無実の人からも無理にウソの自白をさせてきたことの反省から生まれたものです。世界のどこでも,近代国家であるかぎり,このような黙秘権が認められることは,当然のことです。黙秘権を行使することは,けっして,間違ったことではありません。
③ 署名押印に応じる義務はない~署名押印を求められても,応じる義務はありません~
   取調官が長い供述調書を書き上げた後に,「署名押印をしたくありません」とは言いにくいかもしれません。しかし,供述調書に署名押印することは,あなたの義務ではありません。
刑訴法198条5項は「被疑者が,調書に誤のないことを申し立てたときは,これに署名押印することを求めることができる。但し,これを拒絶した場合は,この限りでない」と明確に規定しています。あなたには署名押印拒否権が認められているのです。
   調書が,100パーセントあなたの言い分どおり,正しく書かれていたとしても,署名押印する義務はないのです。あなたの供述調書には,あなたが本当に言ったことと,取調官が作文してしまったことばが,いっしょに書かれていることがよくあります。もし,あなたが「自分はそんなこと言っていないのに」と感じたら,そのような供述調書に署名押印する義務がないのは,なおさらあたりまえのことなのです。
④ 間違っている調書は訂正してもらう~調書の内容は訂正してもらえます~
   刑訴法198条4項は,取調官が供述調書を作成した後,「被疑者に閲覧させ,又は読み聞かせて,誤がないかどうかを問い,被疑者が増減変更の申立をしたときは,その供述を調書に記載しなければならない」と定めています。あなたは,取調官に対し,供述調書の記載内容を訂正することを求める権利があるのです。納得がゆく訂正がなされるまで,署名押印をする必要はありません。
   ただし,長い調書が作成された場合,その一部分だけをとりあげて,訂正を申し立てるのは,むずかしいものです。しかも,訂正が一部だけだと,訂正しなかった部分は,あなたが納得した部分だと思われてしまいます。訂正をするときは,よく考えて,すこしでも疑問がのこれば,供述調書の署名押印を拒否して,弁護人と相談することをおすすめします。
⑤ 調書は読んで確認する~あなた自身の目でじっくりと調書の内容を読んでください~
   刑訴法の規定では,取調官があなたに読み聞かせる方法でもかまわないことになっています。しかし,取調官が早口で読み聞かせたり,あなたが疲れていたりすると,うっかり聞き逃したり,勘違いしてしまうおそれがあります。調書への署名押印を考えている場合には,取調官に「わたし自身で読みたいので,読ませてください」と言って,必ずあなた自身の目でじっくりと調書の内容を読むようにしてください。あなたには署名押印拒否権が認められるのですから,もし取調官がこれに応じないのであれば,調書への署名押印を拒否してもかまわないのです。
⑥ けっして妥協しない~おかしいと思ったら調書にはサインしないでください~
   もし,あなたが否認したり,黙秘をしたり,調書の内容の訂正を求めたり,署名押印を拒否したりすれば,取調官が,認めないと不利になるとか,調書を作らなければ不利になるとかという話をしてくるかもしれません。怒鳴られたり,ときには暴行をふるわれた,あるいは,家族や関係者に不利になると言われたという元被疑者の人もいます。一部はあなたの言い分をそのまま書く代わりに,別のところで,取調官の言い分を認めるという取引を持ち出してくるかもしれません。
   しかし,調書の内容がおかしいと感じたら,けっして妥協したりせず,間違った調書にサインをしないでほしいのです。調書を作らないからと言って,すぐに不利になることはありません。弁護人と相談してからでも,おそくはありません。悩んだら,「弁護人を呼んでください。署名するかどうかは,相談してから決めます」と言ってください。取調官に遠慮する必要は,まったくありません。
⑦ 録画のときにこそ主張する~あなたの言い分を録画してもらいましょう~
   2008年(平成20年)4月から,重大な事件(裁判員対象事件)のうち「自白調書」を証拠請求する事件については,検察官の取調べの一部を録画(以下「一部録画」といいます)することになりました。また,警察官の取調べについても,2009年(平成21年)4月から一部録画を全国で試験的に導入することになっています。
   現在行われている一部録画は,「自白調書」が完成した後で自白内容等を確認する場面や,「自白調書」の文面作成後に読み聞かせ等をする場面にかぎって録画するというものです(警察庁が試験的に導入している一部録画も同様のものと考えられます。)。
   したがって,一部録画は少なくとも一定の取調べがなされた上で行われますから,それまでの取調べで,取調官に脅されて署名させられたとか,自分の言い分とちがう調書を作られたとか,訂正に応じてくれなかった,といった取調官の違法・不当な行為があった場合には,必ずそのことを主張して,録画してもらうようにしましょう。
   あなたの主張を,映像として残しておくことは,非常に大切なことです。


第2 警察の取調べに対する苦情の申し入れ方法等
1 平成21年4月1日施行の,被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則(平成20年4月3日国家公安委員会規則第4号)3条1項2号に基づき,被疑者取調べに際し,当該被疑者取調べに携わる警察官が被疑者に対して行う以下の行為は監督対象行為として規制されています。

① やむを得ない場合を除き,身体に接触すること。
② 直接又は間接に有形力を行使すること(①に掲げるものを除く。)。
③ 殊更に不安を覚えさせ,又は困惑させるような言動をすること。
④ 一定の姿勢又は動作をとるよう不当に要求すること。
⑤ 便宜を供与し,又は供与することを申し出,若しくは約束すること。
⑥ 人の尊厳を著しく害するような言動をすること。
2 取調べ監督官は,警察本部長又は警察署長の指揮を受け,以下の職務を行います(被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則4条2項)。
① 被疑者取調べの状況の確認を行うこと。
② 被疑者取調べの中止の要求その他の必要な措置をとること。
③ 巡察官が行う巡察に協力すること。
④ 取調べ調査官が行う調査に協力すること。
⑤ その他法令の規定によりその権限に属させられ,又は警察本部長若しくは警察署長から特に命ぜられた事項
3 取調べ監督官の職務を行う者及びその職務を補助する者は,その担当する被疑者取調べに係る被疑者に係る犯罪の捜査に従事してはなりません(被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則4条3項)。
4(1) 取調べ監督官は,取調べ室の外部からの視認,事件指揮簿(犯罪捜査規範19条2項)及び取調べ状況報告書(犯罪捜査規範182条の2第1項)の閲覧その他の方法により被疑者取調べの状況の確認を行います(被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則6条1項)。
(2) 警察官が,被疑者又は被告人を取調べ室等において取り調べたときは,当該取調べを行った日ごとに,速やかに取調べ状況報告書を作成しなければなりません(犯罪捜査規範182条の2第1項)。
5 警察職員は,被疑者取調べについて苦情の申出を受けたときは,速やかに,当該被疑者取調べを担当する取調べ監督官にその旨及びその内容を通知しなければなりません(被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則7条)。
6 警察本部長は,必要があると認めるときは,取調べ監督業務担当課の警察官のうちから巡察官を指名し,取調べ室を巡察させます(被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則8条1項前段)。
7 警察本部の犯罪捜査を担当する課の長又は警察署長(=警察署長等)は,その指揮に係る被疑者取調べに関し,取調べ状況報告書の写しの送付その他の方法により,当該被疑者取調べの状況について,取調べ監督業務担当課の長を経由して,警察本部長に報告しなければなりません(被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則9条1項)。
8 警察本部長は,①被疑者取調べについての苦情,②警察署長等の報告その他の事情から合理的に判断して被疑者取調べにおいて監督対象行為が行われたと疑うに足りる相当な理由のあるときは,取調べ監督業務担当課の警察官のうちから調査を担当する者(=取調べ調査官)を指名して,当該被疑者取調べにおける監督対象行為の有無の調査を行う必要があります(被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則10条1項)。
9 警視総監及び道府県警察本部長は都道府県公安委員会に対し,方面本部長は方面公安委員会に対し,毎年度少なくとも一回,被疑者取調べの監督の実施状況を報告しなければなりません(被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則11条)。
10 警察庁長官は,国家公安委員会に対し,毎年度少なくとも一回,この規則の施行状況を報告しなければなりません(被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則13条)。


第3 被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の運用状況
1 警察庁HPの報道発表資料には,「被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の施行状況」の直近2年分しか掲載されていないところ,直近のものは以下のとおりです。
・ 令和4年における被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の施行状況について(令和5年3月23日付)
・ 令和3年における被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の施行状況について(令和4年2月10日付)
2 インターネットアーカイブに掲載されている警察庁作成資料のバックナンバーは以下のとおりです。
・   平成28年における被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の施行状況について(平成29年2月16日付)
・   平成27年における被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の施行状況について(平成28年3月3日付)
・   平成26年における被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の施行状況について(平成27年2月19日付)
・   平成25年における被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の施行状況について(平成26年2月6日付)
・   平成24年度における被疑者取調べ監督に関する実地点検及び指導の実施状況について(平成25年4月18日付)


第4 検察の取調べに対する苦情の申し入れ方法等
1 平成20年9月1日施行の,取調べに関する不満等の把握とこれに対する対応について(平成20年5月1日付の次長検事依命通達)(=不満対応通達)は概要,以下のとおり定めています。
① 被疑者の弁護人等から,検察官等による被疑者の取調べに関して申入れがなされたときは,その申入れを受けた検察官等は,速やかに,取調べ関係申入れ等対応票を作成して申入れの内容等を記録した上,当該事件の決裁官に対し,これを提出して申入れの内容等を報告するものとする。
② 決裁官は,弁護人等の申入れを把握した場合,速やかに,所要の調査を行い,必要な措置を講ずるものとする。

③ 調査結果及び講じた措置については,捜査・公判遂行に与える影響等を考慮しつつ,申入れ等を行った弁護人等に対し,適時に,可能な範囲において説明を行うものとする。
④ 調査を行い,必要な措置を講じた当該事件の決裁官は,取調べ関係申入れ等対応票に,その調査結果,講じた措置等を記録するとともに,その上位の決裁官にこれを報告するものとする。
⑤ 検察官等が,司法警察職員による被疑者の取調べに関して,弁護人等から申入れを受けたときは,速やかに,当該事件の主任検察官にその旨を連絡し,当該連絡を受けた主任検察官において,検察官等による被疑者の取調べに関する申入れ等がなされた場合に準じて,取調べ関係申入れ等対応票を作成して申入れ又は不満等の内容等を記録し,当該事件の決裁官にこれを報告するとともに,当該事件の捜査主任官である司法警察職員に申入れ又は不満等の内容等を連絡し,必要な措置を講ずるものとする。
⑥ 決裁官とは,地方検察庁のうち,部制庁においては,当該事件の捜査又は公判を所管する部(当該申入れ等に係る取調べを担当した検察官等の所属する部)の部長(副部長が置かれている場合には,担当副部長)とし,非部制庁においては,次席検事とする。
区検察庁においては,上席検察官又は検事正が指定した者とする。
⑦ 取調べ当時に当該被疑者の身柄が拘束されているかどうかにかかわらず,以上の措置を実施する。
2 平成16年4月1日施行の,取調べ状況の記録等に関する訓令(平成15年11月5日法務省刑刑訓第117号)1条に基づき,検察官又は検察事務官(=検察官等)は,逮捕又は勾留されている者を取調べ室等において被疑者又は被告人(=被疑者等)として取り調べた場合,当該取調べを行った日ごとに,取調べ状況等報告書を作成しなければなりません。
    そして,検察官等は,取調べ状況等報告書を作成したときは,被疑者等にその記載内容を確認させ,これに署名指印することを求めるものとされています(取調べ状況の記録等に関する訓令2条)。


第5 検察官面前調書
1 検面調書の許容要件としては以下のものがあります。
① その供述者が死亡,精神若しくは身体の故障,所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないこと(供述不能)(刑訴法321条1項2号前段)
② 公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なった供述をしたこと(相反供述・実質的不一致供述)
    ただし,公判準備若しくは公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存すること(相対的特信情況)(刑訴法321条1項2号後段)が必要です。
2 刑訴法321条1項2号前段書面に特信情況を必要とすると,かかる特信情況は後段のような相対的特信情況ではなく,絶対的特信情況になります。
    なぜなら,後段の場合,公判廷供述があるからそれとの比較で特信情況の有無を判断できるのに対し,前段の場合,比較の対象となる公判廷供述がそもそも存在しないからです。
3 自己矛盾供述を理由として証拠能力が認められるのは裁面調書及び検面調書だけであり,員面調書を始めとする3号書面では証拠能力は認められません。
    なお,検面調書の場合,一方当事者である検察官が作成した調書であるにもかかわらず,相対的特信状況が認められる限り,第三者の供述を録取した書面は常に証拠能力が認められることとなります。
4 刑訴法321条1項2号前段は憲法37条2項に違反しません(最高裁大法廷昭和27年4月9日判決)。
5 令和4年4月現在,Wikipediaの「検察官面前調書」には以下の記載があります。
    司法警察員面前調書の場合と同様、被疑者の一人称(「私」)で記される、被疑者の供述内容を検察官が整理して記述する(担当の検察事務官に対する口授によりパソコンを使ってドラフトさせるのが通例である)ことから、しばしば「検察官の作文である」などと揶揄されることがある。記述が終わり次第、検面調書用の紙(端に赤い印が付されているのが特徴である)に印刷してそれを被疑者に提示し、読み聞かせを行って被疑者が納得すれば本人に最低限の署名または押印をさせ(現在の実務では、通常は最後の箇所に住所を書かせて署名と指印をさせ、さらに全てのページに指印させる)、完成する。


第6 黙秘権に関するメモ書き(捜査機関の取調べ一般の話です。)
1 条文及び判例

(1) 憲法38条1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」と定め,刑事訴訟法198条2項は「取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。」と定めています。
(2) 憲法38条1項は,何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれある事項について供述を強要されないことを保障したものです(最高裁大法廷昭和32年2月20日判決)。
ウ 供述拒否権を告知しないで取り調べたとしても憲法38条1項には違反しません(最高裁昭和28年4月14日判決)。


2 現行刑訴法施行当時の関係者の述懐
・ 「供述拒否権」(投稿者は本田正義福岡高検検事長)には以下の記載があります(ジュリスト551号(1974年1月1日付)94頁)。
    現行刑訴法が施行になった当初、検察官が頭をかかえこんだ問題のひとつは、被疑者に供述拒否権が認められ、取調に当たってこれを告知しなければならないと改められたことであった。というのは、従来の裁判では被疑者に対する取調によってその自供を求めるか、否認の場合にはその弁解をくわしく聞き出して、これらの供述が果たして真実かどうかを他の供述証拠と対比して決めるというやり方をとってきたからである。従って、もしも供述拒否権を告知したため、被疑者から「供述を拒否する」といわれて、弁解のひとことも聞き出すことができないとしたら、検察官は真相を究明することができず、全くお手あげになると危惧されたからである。
(中略)
    ところが施行以来二五年をむかえたわけだが、供述拒否権を行使して沈黙を守る被疑者は、特別の事件は別として、一般の事件では危惧されたほど多くないことがわかったのである。情況証拠だけで有罪無罪をきめなければならないケースも旧法当時より多くなったというものの、予想された数より遥かに少ないことがわかった。最も心配された贈収賄などの検挙摘発は、旧法当時のはなやかさはなかったとしても、どうにか曲がりなりにも行われてきて、検挙困難と推測したのはき憂であることがわかった。これは警察の捜査技術が長じたためでも、検察官の尋問技術が進歩したためでもない。日本人は供述拒否権の下においても供述してくれる国民だったためである。このため裁判は昔通り供述中心の審理が行われ、供述の証拠価値に関する攻防が裁判のやまとなっていることは、今日でも旧法当時と本質的に変わりがないといえるのである。


3 「黙秘権行使の戦略」の記載
(1) 「黙秘権行使の戦略」の記載には以下の記載があります(季刊刑事弁護79号(2014年7月20日付))。
(21頁)
    最強の防御は黙秘である。けれども、黙秘権行使には大きな障害がある。前記のとおり、実務は逮捕・勾留中の被疑者の取調べ受忍義務を前提としている。最初に述べた取調べの実態はその義務を前提として存在する。しかも、わが国の警察官、検察官は黙秘権を行使する被疑者に対して、黙秘権を放棄し供述するよう説得し続けることが黙秘権侵害には当たらないと考えている。取調べにあたって「あなたには黙秘権がある」と告げたその舌の根も乾かないうちから「黙秘なんかするな」と「説得」して当然であるかのように考えている。警察官、検察官だけではない。同じように考えている裁判官も少なくない。
    そのうえ、人は黙っているのが苦痛である。無実の人は無実であるというだけでなく、なぜ無実かを説明したい。犯罪の成立そのものでなくとも、事実を争うときは争う理由を説明したい。事前に争いがなくても言い訳をしたい。とにかく、人を前にして沈黙することには苦痛を伴う。ほとんどの人はしゃべりたいのである。
    説得され続けると、もともとしゃべりたいのであるから、黙秘することはますます困難となる。それでも黙秘することは強靭な精神力をもつ限られた被疑者にしかできなかった。
(22頁)
    取調べの可視化は、黙秘権行使の障害を確実に弱くするだろう。強靭な精神力を持つ限られた被疑者しかできなかった黙秘を普通の被疑者でもできるものにする。
    「黙秘する」と述べる被疑者に対して取調官が1時間以上も「供述せよ」「供述せよ」と「説得」している場面の映像を見れば、それでも権利の侵害ではない、と考える人がそれほど多いとは思えない。取調官もそれに気づいているはずである。「説得」は抑制的なものになる。
    したがって、取調べが可視化されているときの黙秘権行使は、カメラの前で、「黙秘します」と述べ、それ以降は沈黙することでよい。可視化されていないときのように、取調官が脅したり、弁護人に対する悪口を言うことはないだろう。「説得」の時間も短時間で終わると考えられる。
    可視化以前には黙秘権を行使するだけで大変な力業であったのが、黙秘権を戦略的に行使することが可能になる。
(23頁)
    民事事件で依頼者に対して、相手方代理人のところにいって事情聴取を受け、陳述書を作成してもらえ、ただし、サインするときには陳述書の内容が正確であることをよく確認するように、と助言する弁護士はおそらく一人もいないだろう。
 取調官のところに行くのは仕方がないとしても、そこで取調べを受け調書作成に応じよ、というのはそれと基本的には同じである。黙秘権の行使をそのような基本に立ち帰って考えてみる必要がある。
(2) 季刊刑事弁護79号(2014年7月20日付)41頁ないし73頁の「座談会 黙秘をどのように活用するか 具体的設例から考える」には,否認事件及び自白事件における個別のケースごとに,黙秘権を行使すべきかどうかに関する議論が載っています。


4 その他
(1) 共犯者がいる事件において黙秘権を行使して一切供述調書を作成しなかった場合,責任転嫁等を狙う共犯者の供述だけで捜査機関のストーリーが作成されるという怖さはあると思います。
(2) 被害者がいる事件において黙秘権を行使して一切供述調書を作成しなかった場合,自分には全く落ち度がないなどという被害者の供述だけで捜査機関のストーリーが作成されるという怖さはあると思います。

第7 取調べに関する犯罪捜査規範の条文(犯罪捜査規範166条ないし182条の5)
166条(取調べの心構え)
    取調べに当たつては、予断を排し、被疑者その他関係者の供述、弁解等の内容のみにとらわれることなく、あくまで真実の発見を目標として行わなければならない。
167条(取調べにおける留意事項)
① 取調べを行うに当たつては、被疑者の動静に注意を払い、被疑者の逃亡及び自殺その他の事故を防止するように注意しなければならない。
② 取調べを行うに当たつては、事前に相手方の年令、性別、境遇、性格等を把握するように努めなければならない。
③ 取調べに当たつては、冷静を保ち、感情にはしることなく、被疑者の利益となるべき事情をも明らかにするように努めなければならない。
④ 取調べに当たつては、言動に注意し、相手方の年令、性別、境遇、性格等に応じ、その者にふさわしい取扱いをする等その心情を理解して行わなければならない。
⑤ 警察官は、常に相手方の特性に応じた取調べ方法の習得に努め、取調べに当たつては、その者の特性に応じた方法を用いるようにしなければならない。
168条(任意性の確保)
① 取調べを行うに当たつては、強制、拷問、脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない。
② 取調べを行うに当たつては、自己が期待し、又は希望する供述を相手方に示唆する等の方法により、みだりに供述を誘導し、供述の代償として利益を供与すべきことを約束し、その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。
③ 取調べは、やむを得ない理由がある場合のほか、深夜に又は長時間にわたり行うことを避けなければならない。この場合において、午後十時から午前五時までの間に、又は一日につき八時間を超えて、被疑者の取調べを行うときは、警察本部長又は警察署長の承認を受けなければならない。
168条の2(精神又は身体に障害のある者の取調べにおける留意事項)
    精神又は身体に障害のある者の取調べを行うに当たつては、その者の特性を十分に理解し、取調べを行う時間や場所等について配慮するとともに、供述の任意性に疑念が生じることのないように、その障害の程度等を踏まえ、適切な方法を用いなければならない。
169条(自己の意思に反して供述をする必要がない旨の告知)
① 被疑者の取調べを行うに当たつては、あらかじめ、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。
② 前項の告知は、取調べが相当期間中断した後再びこれを開始する場合又は取調べ警察官が交代した場合には、改めて行わなければならない。


170条(共犯者の取調べ)
① 共犯者の取調べは、なるべく各別に行つて、通謀を防ぎ、かつ、みだりに供述の符合を図ることのないように注意しなければならない。
② 取調べを行うに当たり、対質尋問を行う場合には、特に慎重を期し、一方が他方の威圧を受ける等のことがないようその時期及び方法を誤らないように注意しなければならない。
171条(証拠物の呈示)
    捜査上特に必要がある場合において、証拠物を被疑者に示すときは、その時期及び方法に適切を期するとともに、その際における被疑者の供述を調書に記載しておかなければならない。
172条(臨床の取調べ)
    相手方の現在する場所で臨床の取調べを行うに当たつては、相手方の健康状態に十分の考慮を払うことはもちろん、捜査に重大な支障のない限り、家族、医師その他適当な者を立ち会わせるようにしなければならない。
173条(裏付け捜査及び供述の吟味の必要)
① 取調べにより被疑者の供述があつたときは、その供述が被疑者に不利な供述であると有利な供述であるとを問わず、直ちにその供述の真実性を明らかにするための捜査を行い、物的証拠、情況証拠その他必要な証拠資料を収集するようにしなければならない。
② 被疑者の供述については、事前に収集した証拠及び前項の規定により収集した証拠を踏まえ、客観的事実と符合するかどうか、合理的であるかどうか等について十分に検討し、その真実性について判断しなければならない。
174条(伝聞供述の排除)
① 事実を明らかにするため被疑者以外の関係者を取り調べる必要があるときは、なるべく、その事実を直接に経験した者から供述を求めるようにしなければならない。
② 重要な事項に係るもので伝聞にわたる供述があつたときは、その事実を直接に経験した者について、更に取調べを行うように努めなければならない。
175条(供述者の死亡等に備える処置)
    被疑者以外の者を取り調べる場合においては、その者が死亡、精神又は身体の故障その他の理由により公判準備又は公判期日において供述することができないおそれがあり、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるときは、捜査に支障のない限り被疑者、弁護人その他適当な者を取調べに立ち会わせ、又は検察官による取調べが行われるように連絡する等の配意をしなければならない。
176条(証人尋問請求についての連絡)
    刑訴法第二百二十六条又は同法第二百二十七条の規定による証人尋問の必要があると認められるときは、証人尋問請求方連絡書に、同法第二百二十六条又は同法第二百二十七条に規定する理由があることを疎明すべき資料を添えて、検察官に連絡しなければならない。この場合において、証明すべき事実及び尋問すべき事項は、特に具体的かつ明瞭に記載するものとする。


177条(供述調書)
① 取調べを行つたときは、特に必要がないと認められる場合を除き、被疑者供述調書又は参考人供述調書を作成しなければならない。
② 被疑者その他の関係者が、手記、上申書、始末書等の書面を提出した場合においても、必要があると認めるときは、被疑者供述調書又は参考人供述調書を作成しなければならない。
178条(供述調書の記載事項)
① 被疑者供述調書には、おおむね次の事項を明らかにしておかなければならない。
一 本籍、住居、職業、氏名、生年月日、年齢及び出生地(被疑者が法人であるときは名称又は商号、主たる事務所又は本店の所在地並びに代表者の氏名及び住居、被疑者が法人でない団体であるときは名称、主たる事務所の所在地並びに代表者、管理人又は主幹者の氏名及び住居)
二 旧氏名、変名、偽名、通称及びあだ名
三 位記、勲章、褒賞、記章、恩給又は年金の有無(もしあるときは、その種類及び等級)
四 前科の有無(もしあるときは、その罪名、刑名、刑期、罰金又は科料の金額、刑の執行猶予の言渡し及び保護観察に付されたことの有無、犯罪事実の概要並びに裁判をした裁判所の名称及びその年月日)
五 刑の執行停止、仮釈放、仮出所、恩赦による刑の減免又は刑の消滅の有無
六 起訴猶予又は微罪処分の有無(もしあるときは、犯罪事実の概要、処分をした庁名及び処分年月日)
七 保護処分を受けたことの有無(もしあるときは、その処分の内容、処分をした庁名及び処分年月日)
八 現に他の警察署その他の捜査機関において捜査中の事件の有無(もしあるときは、その罪名、犯罪事実の概要及び当該捜査機関の名称)
九 現に裁判所に係属中の事件の有無(もしあるときは、その罪名、犯罪事実の概要、起訴の年月日及び当該裁判所の名称)
十 学歴、経歴、資産、家族、生活状態及び交友関係
十一 被害者との親族又は同居関係の有無(もし親族関係のあるときは、その続柄)
十二 犯罪の年月日時、場所、方法、動機又は原因並びに犯行の状況、被害の状況及び犯罪後の行動
十三 盗品等に関する罪の被疑者については、本犯と親族又は同居の関係の有無(もし親族関係があるときは、その続柄)
十四 犯行後、国外にいた場合には、その始期及び終期
十五 未成年者、成年被後見人又は被保佐人であるときは、その法定代理人又は保佐人の氏名及び住居(法定代理人又は保佐人が法人であるときは名称又は商号、主たる事務所又は本店の所在地並びに代表者の氏名及び住居)
② 参考人供述調書については、捜査上必要な事項を明らかにするとともに、被疑者との関係をも記載しておかなければならない。
③ 刑訴法第六十条の勾留の原因たるべき事項又は同法第八十九条に規定する保釈に関し除外理由たるべき事項があるときは、被疑者供述調書又は参考人供述調書に、その状況を明らかにしておかなければならない。

179条(供述調書作成についての注意)
① 供述調書を作成するに当たつては、次に掲げる事項に注意しなければならない。
一 形式に流れることなく、推測又は誇張を排除し、不必要な重複又は冗長な記載は避け、分かりやすい表現を用いること。
二 犯意、着手の方法、実行行為の態様、未遂既遂の別、共謀の事実等犯罪構成に関する事項については、特に明確に記載するとともに、事件の性質に応じて必要と認められる場合には、主題ごと又は場面ごとの供述調書を作成するなどの工夫を行うこと。
三 必要があるときは、問答の形式をとり、又は供述者の供述する際の態度を記入し、供述の内容のみならず供述したときの状況をも明らかにすること。
四 供述者が略語、方言、隠語等を用いた場合において、供述の真実性を確保するために必要があるときは、これをそのまま記載し、適当な注を付しておく等の方法を講ずること。
② 供述を録取したときは、これを供述者に閲覧させ、又は供述者が明らかにこれを聞き取り得るように読み聞かせるとともに、供述者に対して増減変更を申し立てる機会を十分に与えなければならない。
③ 被疑者の供述について前項の規定による措置を講ずる場合において、被疑者が調書(司法警察職員捜査書類基本書式例による調書に限る。以下この項において同じ。)の毎葉の記載内容を確認したときは、それを証するため調書毎葉の欄外に署名又は押印を求めるものとする。
180条(補助者及び立会人の署名押印)
① 供述調書の作成に当たつては、警察官その他適当な者に記録その他の補助をさせることができる。この場合においては、その供述調書に補助をした者の署名押印を求めなければならない。
② 取調べを行うに当たつて弁護人その他適当と認められる者を立ち会わせたときは、その供述調書に立会人の署名押印を求めなければならない。
181条(署名押印不能の場合の処置)
① 供述者が、供述調書に署名することができないときは警察官が代筆し、押印することができないときは指印させなければならない。
② 前項の規定により、警察官が代筆したときは、その警察官が代筆した理由を記載して署名押印しなければならない。
③ 供述者が供述調書に署名又は押印を拒否したときは、警察官がその旨を記載して署名押印しておかなければならない。
182条(通訳及び翻訳の場合の処置)
① 捜査上の必要により、学識経験者その他の通訳人を介して取調べを行つたときは、供述調書に、その旨及び通訳人を介して当該供述調書を読み聞かせた旨を記載するとともに、通訳人の署名押印を求めなければならない。
② 捜査上の必要により、学識経験者その他の翻訳人に被疑者その他の関係者が提出した書面その他の捜査資料たる書面を翻訳させたときは、その翻訳文を記載した書面に翻訳人の署名押印を求めなければならない。
182条の2(取調べ状況報告書等)
① 被疑者又は被告人を取調べ室又はこれに準ずる場所において取り調べたとき(当該取調べに係る事件が、第百九十八条の規定により送致しない事件と認められる場合を除く。)は、当該取調べを行つた日(当該日の翌日の午前零時以降まで継続して取調べを行つたときは、当該翌日の午前零時から当該取調べが終了するまでの時間を含む。次項において同じ。)ごとに、速やかに取調べ状況報告書(別記様式第十六号)を作成しなければならない。
② 前項の場合において、逮捕又は勾留(少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第四十三条第一項の規定による請求に基づく同法第十七条第一項の措置を含む。)により身柄を拘束されている被疑者又は被告人について、当該逮捕又は勾留の理由となつている犯罪事実以外の犯罪に係る被疑者供述調書を作成したときは、取調べ状況報告書に加え、当該取調べを行つた日ごとに、速やかに余罪関係報告書(別記様式第十七号)を作成しなければならない。
③ 取調べ状況報告書及び余罪関係報告書を作成した場合において、被疑者又は被告人がその記載内容を確認したときは、それを証するため当該取調べ状況報告書及び余罪関係報告書の確認欄に署名押印を求めるものとする。
④ 第百八十一条の規定は、前項の署名押印について準用する。この場合において、同条第三項中「その旨」とあるのは、「その旨及びその理由」と読み替えるものとする。
182条の3(取調べ等の録音・録画)
① 次の各号のいずれかに掲げる事件について、逮捕若しくは勾留されている被疑者の取調べを行うとき又は被疑者に対し弁解の機会を与えるときは、刑訴法第三百一条の二第四項各号のいずれかに該当する場合を除き、取調べ等の録音・録画(取調べ又は弁解の機会における被疑者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録媒体に記録することをいう。次項及び次条において同じ。)をしなければならない。
一 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
二 短期一年以上の有期の懲役又は禁錮に当たる罪であつて故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件
② 逮捕又は勾留されている被疑者が精神に障害を有する場合であつて、その被疑者の取調べを行うとき又は被疑者に対し弁解の機会を与えるときは、必要に応じ、取調べ等の録音・録画をするよう努めなければならない。


182条の4(録音・録画状況報告書)
取調べ等の録音・録画をしたときは、速やかに録音・録画状況報告書(別記様式第十八号)を作成しなければならない。
182条の5(取調べ室の構造及び設備の基準)
取調べ室は、次に掲げる基準に適合するものとしなければならない。
一 扉を片側内開きとするなど被疑者の逃走及び自殺その他の事故の防止に適当な構造及び設備を有すること。
二 外部から取調べ室内が容易に望見されないような構造及び設備を有すること。
三 透視鏡を備え付けるなど取調べ状況の把握のための構造及び設備を有すること。
四 適当な換気、照明及び防音のための設備を設けるなど適切な環境で被疑者が取調べを受けることができる構造及び設備を有すること。
五 取調べ警察官、被疑者その他関係者の数及び必要な設備に応じた適当な広さであること。


第8 独占禁止法違反被疑事件の行政調査における供述聴取の留意事項
・ 独占禁止法審査手続に関する指針(平成27年12月25日付の公正取引委員会決定)には「(3) 供述聴取における留意事項」として以下の記載があります。
ア 供述聴取を行うに当たって,審査官等は,威迫,強要その他供述の任意性を疑われるような方法を用いてはならない。また,審査官等は,自己が期待し,又は希望する供述を聴取対象者に示唆する等の方法により,みだりに供述を誘導し,供述の代償として利益を供与すべきことを約束し,その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。
イ 供述聴取時の弁護士を含む第三者の立会い(審査官等が供述聴取の適正円滑な実施の観点から依頼した通訳人,弁護士等を除く。),供述聴取過程の録音・録画,調書作成時における聴取対象者への調書の写しの交付及び供述聴取時における聴取対象者によるメモ(審査官等が供述聴取の適正円滑な実施の観点から認めた聴取対象者による書き取りは含まない。)の録取については,事案の実態解明の妨げになることが懸念されることなどから,これらを認めない。

第9 冤罪事件における検事の取調べの実例
1 しんゆう法律事務所HP「プレサンス事件の無罪確定!なぜ、大阪地検特捜部は、可視化している中で自白強要をしたのか?ープレサンス事件の謎」には,52期の田淵大輔検事が行った取調べとして以下の記載があります(改行及び字下げを追加しています。)。
    法廷では再生されなかったそれまで4日半の約18時間(約1000分)もの取調べの間、Kは、山岸さんの関与を否定し続けていた。
山岸さんの関与を否認するKに対し、田渕検事は、「馬鹿な話あるわけない」「ふざけた話をいつまで通せると思ってる」などと罵詈雑言を浴びせかけ、大声で怒鳴りつけるといった取調べを延々と続けていたのである。
    特に12月8日には、「ふざけんな」「命かけてるんだ、こっちは」「検察なめんなよ」などの罵声が続いている。無罪判決が認定した翌12月9日の取調べは、そのような自白強要にも屈しなかったKの態度に業を煮やした田渕検事がした究極の脅しだったのである。
Kからすれば「詐欺」「大罪人」呼ばわりされ、山岸さんが共犯でないと「10億、20億の損害賠償を負う」と責められたことになる。
    しかも、その発言の主は、特捜部の現役検察官である。Kが田渕検事に屈し、山岸さんの関与を認める虚偽供述をするのは、あまりに自然な流れである。
    それにしても、田渕検事の取調べは、権力を笠に着た脅迫以外の何ものでもない。繰り返すが、この取調べは可視化されている中で行われたのである。
2 しんゆう法律事務所HP「【プレサンス元社長冤罪事件】山岸忍氏の意見陳述内容(6月13日)」には以下の記載があります(改行を追加しています。)。
    約半年前、私はこの隣の法廷で、無罪判決を宣告されました。私にとってはあまりにも当然の判決でした。巨額の横領を共謀したとして起訴されたものの、私には全く身に覚えがなかったからです。さらにその約2年前、私は逮捕勾留されていましたが、嘘の供述をして私を陥れている部下や取引先の社長を、恨んでいました。
    しかし、その後、弁護士から彼らの取り調べの反訳の差し入れを受け、それを読んで、驚きました。検事が彼らを脅して、嘘の供述をさせていたからです。
    突然逮捕され、拘置所に収容されて自由を奪われ、特捜部の検事に脅迫されたなら、誰しも、真実の供述を維持することは難しいです。これは経験した人でないと分かりません。私も、自分を取り調べた検事のことを、ずっと自分の味方だと思っていました。
 しかし、騙されていました。実際には、私の担当検事は、弁護人との信頼関係を崩そうとしたり利益誘導をしたりして巧妙に私に自白させようとしていたということが、今となっては、よく分かります。


第10 被疑者に対する不起訴処分の告知
1 検察官は,刑事事件を起訴しなかった場合において,被疑者の請求があるときは,速やかにその旨を告げる必要があります(刑訴法259条)。
   しかし,被疑者が検察庁に問い合わせをしない場合,検察官は,被疑者に対し,不起訴処分とした旨を伝える必要はありません。
2 検察官が被疑者に対して書面で不起訴処分の告知をする場合,不起訴処分告知書によります(事件事務規程73条1項)。

第11 関連記事その他
1 犯罪捜査規範166条ないし182条の3は取調べに関する条文です。
2 元検事が執筆した取調べに関する書籍としては,例えば以下のものがあります。
・ 自動車事故の供述調書作成の実務(2016年11月15日付)
・ 取調べハンドブック(2019年2月4日付)
3(1) 改正刑訴法が施行された平成31年6月1日の前日まで適用されていた通達等を以下のとおり掲載しています。
① 取調べの録音・録画の実施等について(平成29年3月22日付の最高検察庁次長検事の依命通達)
② 取調べの録音・録画要領について(平成29年3月22日付の最高検察庁刑事部長及び公判部長の事務連絡)
③ 取調べの録音・録画の実施等に関する報告及び記載要領について(平成29年3月22日付の最高検察庁刑事部長及び公判部長の事務連絡)
(2) 改正刑訴法が施行された平成31年6月1日から適用されている通達等を以下のとおり掲載しています。
① 取調べの録音・録画の実施等について(平成31年4月19日付の次長検事の依命通知)
② 取調べの録音・録画要領について(平成31年4月19日付の最高検察庁刑事部長及び公判部長の事務連絡)
③ 取調べの録音・録画の実施等に関する報告及び記載要領について(平成31年4月19日付の最高検察庁刑事部長及び公判部長の事務連絡)
(3) その他以下の資料を掲載しています。
・ 被疑者の取調べにおける弁護人立会い要求等に対する対応要領(令和4年8月の兵庫県警察本部刑事部刑事企画課の文書)
・ 監察調査の結果について(令和5年12月25日付の最高検察庁監察指導部の文書)
→ 令和元年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件に関するものです。
・ 取調状況DVD等に関する調査について(令和元年5月24日付の最高裁判所刑事局第三課長の事務連絡)
・ 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の運用等について(平成30年3月19日付の次長検事の依命通達)
4 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生による取調べ修習の合法性
・ 被疑者の逮捕
・ 被疑者及び被告人の勾留
・ 被告人の保釈

被疑者の逮捕

目次
第1 逮捕状の執行等
第2 弁護人選任権の告知,弁解録取及び勾留請求
第3 逮捕直後の指紋採取及び写真撮影
第4 指紋に関するメモ書き
第5 緊急逮捕
第6 現行犯逮捕及び準現行犯逮捕
第7 関連記事その他

第1 逮捕状の執行等
1 検察官,検察事務官又は司法警察職員は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは,裁判官のあらかじめ発する逮捕状により,これを逮捕することができます(刑訴法199条1項)。
2 逮捕状の請求を受けた裁判官は,逮捕の理由があると認めるときは,明らかに逮捕の必要がないと認められる場合(刑訴規則143条の3)を除いて,逮捕状を発付しなければなりません(刑訴法199条2項)。
3 逮捕状には,①被疑者の氏名及び住居,②罪名,③被疑事実の要旨,④引致すべき官公署その他の場所,⑤有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに⑥発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し,裁判官が,これに記名押印しなければなりません(刑訴法200条1項)。
4 逮捕状により被疑者を逮捕するには,逮捕状を被疑者に示さなければなりません(刑訴法201条1項)。
5 逮捕状を所持しない場合において,急速を要するときは,被疑者に対し,被疑事実の要旨及び令状が発付されている旨を告げて逮捕することができる(逮捕状の緊急執行。刑訴法201条2項・73条3項)。
6 検察事務官又は司法巡査が逮捕状により被疑者を逮捕したときは,直ちに,検察事務官はこれを検察官に,司法巡査はこれを司法警察員に引致しなければなりません(刑訴法202条)。


第2 弁護人選任権の告知,弁解録取及び勾留請求
1(1) 司法警察員は,逮捕状により被疑者を逮捕したとき,又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取ったときは,直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければなりません(刑訴法203条1項)。
これは,「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」と規定する憲法34条に基づく条文です。
(2) 検察官は,司法警察員から送致された被疑者を受け取ったときは,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければなりません(刑訴法205条1項)。
(3) 司法警察員及び検察官は,被疑者国選対象事件について弁護人選任権を告知する場合,被疑者国選弁護制度を教示しなければなりません(司法警察員につき刑訴法203条3項,検察官につき刑訴法205条5項・204条2項)。
2(1) 検察官は,逮捕状により被疑者を逮捕したとき,又は逮捕状により逮捕された被疑者(司法警察員から送致された被疑者を除く。)を受け取ったときは,直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければなりません(刑訴法204条1項)。
(2) 検察官は,被疑者国選対象事件について弁護人選任権を告知する場合,被疑者国選弁護制度を教示しなければなりません(刑訴法204条2項)。
(3) 刑訴法204条は,検察庁の独自捜査で被疑者を逮捕した場合に適用される条文です。
3 ①刑訴法203条に基づく司法警察員の被疑者に対する弁解録取書,又は②刑訴法204条若しくは205条に基づく検察官の被疑者に対する弁解録取書は,専ら被疑者を留置する必要あるか否かを調査するための弁解録取書であって,同法198条所定の被疑者の取調調書ではないから,訴訟法上その弁解の機会を与えるには犯罪事実の要旨を告げるだけで充分であって,同法198条2項所定のように被疑者に対し,あらかじめ,供述を拒むことができる旨を告げなければならないことは要請されていません(最高裁昭和27年3月27日判決)。
4(1) 刑訴法198条2項を受けて,犯罪捜査規範169条1項は,「被疑者の取調べを行うに当たつては、あらかじめ、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。」と定めています。
(2) 刑事弁護専門サイトの「黙秘する?しない?判断の参考になる3つのポイント」には以下の記載があります。
     黙秘するか否かは、捜査機関が信用性の高い証拠をどこまで収集しているかによります。捜査機関が信用性の高い証拠を確保しているのであれば、被疑者がどんなに頑張って黙秘しても起訴されてしまうからです。

司法警察職員捜査書類基本書式例からの抜粋であり,犯罪捜査規範178条1項に基づく第1回供述調書記載例が載っています。なお,犯罪捜査規範179条は「供述調書作成についての注意」を定めています。


第3 逮捕直後の指紋採取及び写真撮影
1 刑訴法218条3項は,「身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。」と定めています。
2 犯罪捜査規範131条1項は,「逮捕した被疑者については、引致後速やかに、指掌紋を採取し、写真その他鑑識資料を確実に作成するとともに、指掌紋照会並びに余罪及び指名手配の有無を照会しなければならない。」と定めています。
3 付審判請求事件における東京地裁昭和59年6月22日決定(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
逮捕されている被疑者が、犯罪捜査の必要のため、司法警察職員が出頭を要求したのにこれに応ぜず留置場から出房しないときは、必要最少限度の有形力を用いて、司法警察職員のもとに出頭させることができることは、刑訴法一九八条一項但書の趣旨により明らかであり、また刑訴法二一八条二項によれば、身体の拘束を受けている被疑者の指紋を採取し、写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、令状を要しないとされており、指紋採取及び写真撮影の性質は身体検査であるから、同法二二二条一項により、その拒否に対する直接強制に関する同法一三九条が準用され、右被疑者が右指紋採取や写真撮影に任意に応じず、これを拒否した場合において、間接強制では効果がないと認められるときは、そのままその目的を達するため必要最小限度の有形力をもって直接強制をすることは許されると解される。
4 早稲田大学 水島朝穂のホームページ「痴漢冤罪事件はなぜ起きるか(その2・完) 2012年3月5日」には以下の記載があります。
2009年12月10日午後11時頃、大学職員の原田信助さん(当時25歳)は職場の懇親会の帰り、新宿駅15、16番線の階段を登りかけたところ、すれ違った女子学生に「腹を触った」と言われ、仲間の大学生2人に階段から突き落とされて暴行を受けた。原田さんは新宿西口交番に任意同行を求められ、その後新宿署に移送された。暴行の被害者として事情を聞かれるものとばかり思っていたのに、痴漢容疑者として厳しい取り調べを受けることになった。「早く家に帰りたい。せめて友人に電話をかけたい」という申し出も無視された。他方、別室で行われた女子学生への事情聴取のなかで、「腹を触った」という男の服装が原田さんとは異なることが判明し、女子学生は被害届けも出さずに帰宅してしまった。原田さんが受けた暴行について、警察官は「被害届けを出して裁判で相手側と争うしかない」と言うばかりだった。23時から翌早朝5時までの長時間拘束。原田さんは心身ともに憔悴しきった状態で都内をさまよい、母校・早大のある地下鉄東西線早稲田駅まできて、列車に身を投げてしまった。


第4 指紋に関するメモ書き
1 指紋の付着は,犯人の体質,印象物体の材質,気候等の複雑な条件に左右され,犯人が手を触れたであろうところに指紋が印象されていないことも珍しくないことは裁判所に顕著な事実です(最高裁平成17年3月16日決定(判例秘書に掲載))。
2(1) 法科学鑑定研究所HPの「指紋鑑定の歴史」には「地震や津波などの災害で亡くなった方の身元を確認する手段として、圧倒的に重要な手掛かりとは、「指紋」と「歯型」なのです。」と書いてあります。
(2) 法科学鑑定研究所HPの「指紋検出試薬」には以下の記載があります。
全ての科学捜査は、戦略を立案し、目的を決め、指紋採取が実施されています。
そして、検出試薬の研究・開発は現在も確実に進化しています。
世界中で研究され、5年前には考えも及ばなかった物体からの指紋も検出で来るようになってきています。
3 指掌紋(ししょうもん)の取扱については以下の文書があります。
① 指掌紋取扱規則(平成9年国家公安委員会規則第13号)
② 指掌紋取扱細則(平成18年12月26日付の警察庁訓令)
③ 十指指紋の分類に関する訓令(昭和44年9月4日付の警察庁訓令)


第5 緊急逮捕
1 検察官,検察事務官又は司法警察職員は,死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で,急速を要し,裁判官の逮捕状を求めることができないときは,その理由を告げて被疑者を逮捕することができます(刑訴法210条1項前段)。
この場合,直ちに裁判官の緊急逮捕状を求める手続をしなければならないのであって,緊急逮捕状が発せられないときは,直ちに被疑者を釈放しなければなりません(刑訴法210条1項後段,犯罪捜査規範120条)。
2 「急速を要し」とは,裁判官に通常逮捕状を請求していたのでは,仮に逮捕状が発付されたとしても,被疑者の逃亡等により逮捕が不可能又は著しく困難となる場合をいいます。
3 緊急逮捕は,厳格な制約の下に,罪状の重い一定の犯罪のみについて,緊急やむを得ない場合に限り,逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発付を求めることを条件とし,被疑者の逮捕を認めるものであって,憲法33条の趣旨に反するものではありません(最高裁昭和32年5月28日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和30年12月14日判決)。
4 例えば,緊急逮捕のため被疑者方に赴いたところ,被疑者がたまたま他出不在であっても,帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索,差押がなされ,且つ,これと時間的に接着して逮捕がなされる限り,その捜索,差押は,なお,緊急逮捕する場合その現場でなされたとするのを妨げるものではありません(最高裁大法廷昭和36年6月7日判決)。
5 被疑者を緊急逮捕した場合,緊急逮捕状が発せられた後の手続は,通常逮捕の場合と同じです(刑訴法211条参照)。


第6 現行犯逮捕及び準現行犯逮捕
1 現行犯人は,何人でも,逮捕状なくしてこれを逮捕することができます(刑訴法213条)。
2 捜査機関であっても,その権限外の犯罪,例えば,管轄区域外の犯罪及び特別司法警察職員が与えられた犯罪捜査権の及ばない犯罪については,私人として逮捕することとなります。
また,税関職員,税務署職員,国税査察官,入国警備官及び公正取引委員会職員等は,それぞれ特定の法令違反の事実について調査権を与えられ,実質的に捜査に近い権能を有しているものの,捜査機関ではありませんから現行犯逮捕も私人として行うこととなります。
3 準現行犯逮捕とは,以下のいずれかに該当する者を,罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる場合に逮捕することをいいます(刑訴法212条2項)。
① 犯人として追呼されているとき。
② 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
③ 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
④ 誰何されて逃走しようとするとき。
4 現行犯・準現行犯逮捕後の手続は以下のとおりです。
① 通常人が現行犯人を逮捕した場合,直ちにこれを検察官又は司法警察職員に引き渡す必要があります(刑訴法214条)。
② 司法巡査が通常人から現行犯人を受け取ったときは,速やかにこれを司法警察員に引致しなければなりません(刑訴法215条1項)。
③ 逮捕後のその他の手続はすべて通常逮捕の場合と同じです(刑訴法216条)。


第7 関連記事その他
1 犯罪捜査規範118条ないし136条の3は被疑者の逮捕に関する条文です。
2(1) 逮捕・勾留中の警察署留置場における生活については,警察庁HPの「留置場における生活」及びポリスマニアックス.comの「取調室と留置場にありがちな事」が参考になります。
(2) 法務省HPに「諸外国の刑事司法制度(概要)」が載っています。
(3) NHK放送文化研究所HP「裁判員制度下の事件報道 新聞協会,民放連が対応指針等を発表」が載っています。
3(1) 58期の小畑和彦裁判官及び60期の山口智子裁判官は,判例タイムズ1502号(2023年1月号)に「捜査に対する司法審査の在り方等に関する研究[大阪刑事実務研究会]違法収集証拠(覚醒剤事犯における被疑者の留め置き・追尾・押し掛け)」を寄稿しています。
4(1) 東京高裁令和3年10月29日判決(判例タイムズ1505号85頁以下)は,捜索差押許可状,鑑定処分許可状及び身体検査令状の発付を受け,被疑者の肛門から大腸内視鏡を挿入して,その体腔内からマイクロSDカードを採取し,差し押さえた捜査手続について,強制処分として許容できるかについての実質的な令状審査を欠き,高度の捜査上の必要性(判文参照)が認められないのに発付された令状によるもので,重大な違法があるとして,マイクロSDカードの証拠能力を否定した事例です。
(2) 最高裁令和4年7月27日決定は,捜査機関による押収処分を受けた者の還付請求が権利の濫用として許されないとされた事例です。
5(1) 以下の資料を掲載しています。
① 刑事事件に関する書類の参考書式について(平成18年5月22日付の最高裁判所事務総局刑事局長,総務局長,家庭局長送付)を掲載しています。
② 司法検察職員捜査書類基本書式例(平成12年3月30日付の次長検事依命通達)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 警察及び検察の取調べ
・ 被疑者及び被告人の勾留
・ 被告人の保釈
・ 保釈保証金の没取
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

被疑者及び被告人の勾留

目次
第1 総論
第2 勾留質問
第3 勾留状の執行等
第4 勾留と弁護人等への通知
第5 勾留と,弁護人等以外の者との接見交通
第6 勾留理由開示
1 総論
2 勾留理由開示に関する判例
第7 勾留の取消
第8 勾留の執行停止
第9 被疑者勾留特有の事情
第10 被告人勾留特有の事情
第11 第一審裁判所の無罪判決後の勾留
第12 代用監獄及び被告人の移送
第13 未決勾留による拘禁関係に信義則上の安全配慮義務はないこと等
第14 未決拘禁者については施設内免許再取得試験を実施していないこと
第15 勾留請求と勾留状の発付数等に関する統計
第16 関連記事その他

第1 総論
1 勾留とは,被告人又は被疑者を刑事施設に拘禁する裁判及びその執行をいいます。
2(1) 勾留の要件は以下のとおりです。
① 犯罪の嫌疑(刑訴法60条1項柱書)
被告人が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があることです。
② 勾留の理由(刑訴法60条1項各号)
(a)被告人が定まった住居を有しないとき(住居不定),(b)罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき(罪証隠滅のおそれ),(c)逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき(逃亡のおそれ)のいずれかが存在することです。
③ 勾留の必要性(刑訴法87条1項参照)
(2) 少年法48条1項は「勾留状は、やむを得ない場合でなければ、少年に対して、これを発することはできない。」と定めています。
3 勾留に対しては,犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告又は準抗告をすることはできません(刑訴法420条3項・429条2項)。
4 弁護士は,身体の拘束を受けている被疑者及び被告人について,必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努めます(弁護士職務基本規程47条)。
5 裁判所HPの「Q.勾留とは何ですか。」には以下の記載があります。
A. 勾留は,身柄を拘束する処分ですが,その中にも被疑者の勾留と被告人の勾留とがあります。被疑者の勾留は,逮捕に引き続き行われるもので,罪を犯したことが疑われ,かつ,証拠を隠滅したり逃亡したりするおそれがあるなどの理由から捜査を進める上で身柄の拘束が必要な場合に,検察官の請求に基づいて裁判官がその旨の令状(勾留状)を発付して行います。勾留期間は10日間ですが,やむを得ない場合は,検察官の請求により裁判官が更に10日間以内の延長を認めることもあります。また,内乱等のごく例外的な罪に関する場合は,更に5日間以内の延長が認められています。
   これに対し,被告人の勾留は,起訴された被告人について裁判を進めるために身柄の拘束が必要な場合に行われますが,罪を犯したことが疑われ,かつ,証拠を隠滅したり逃亡したりするおそれがあるなどの理由が必要な点は,被疑者の勾留の場合と同様です。勾留期間は2か月で,特に証拠を隠滅するおそれがあるなど必要性が認められる限り,1か月ずつ更新することが認められています。


第2 勾留質問
1 勾留は,被疑者に対しては被疑事実を告げ,被告人に対しては被告事件を告げ,これに関する陳述を聴いた後でなければ,これをすることができません(刑訴法61条・207条1項)。
2 被告事件を告げるとは,事件の同一性を明らかにし,かつ,被告人がこれに対して適切な弁解をすることができる程度に,具体的に事案の内容を告げることをいい,公訴事実の要旨の告知(刑訴法76条1項,203条1項,204条1項)と同じことです。
3 勾留をする裁判所が,すでに被告事件の審理の際,被告事件に関する陳述を聞いている場合には,改めて刑訴法61条のいわゆる勾留質問をしなければならないものではありません(最高裁昭和41年10月19日決定)。
4 勾留質問には裁判所書記官を立ち会わせ(刑訴規則69条),調書を作成しなければなりません(刑訴規則39条,42条)。
    この場合の調書が勾留質問調書であり,①読み聞かせ及び②供述者の署名押印がなされる(刑訴規則39条2項・38条3項及び6項)ことから,被告人の供述を録取した書面として証拠能力を有します(刑訴法321条1項1号,322条1項)。
5 憲法32条は,すべて国民は憲法または法律に定められた裁判所によってのみ裁判を受ける権利を有し,裁判所以外の機関によって裁判をされることはないことを保障したものであって,裁判を行なう場所についてまで規定したものではありません。
    そのため,裁判官が裁判所の庁舎外において勾留質問を行ったとしても,憲法32条に違反しません(最高裁昭和44年7月25日決定)。


第3 勾留状の執行等
1(1) 勾留状は,検察官の指揮によって,検察事務官又は司法警察職員がこれを執行します(刑訴法70条1項本文)。
(2)   刑事施設にいる被告人に対して発せられた勾留状は,検察官の指揮によって,刑事施設職員がこれを執行します(刑訴法70条2項)。
2 検察官の指揮により勾引状又は勾留状を執行する場合には,これを発した裁判所又は裁判官は,その原本を検察官に送付しなければなりません(刑訴規則72条)。
    原本を検察官に送付するのは,勾留状の執行に当たって,原本を被告人に示す必要があるからです(刑訴法73条1項及び2項)。
3 遠隔の地で勾引状・勾留状の執行をした場合,引致すべき場所との距離等との関係で長時間を要し,あるいは利用する交通機関との関係で待ち時間ができたりすることが考えられ,そのようなとき,近接地にある刑事施設に一時的に身柄を留置することができます(刑訴法74条)。
4 勾留状の執行を受けた被告人は,その謄本の交付を請求することができます(刑訴規則74条)ところ,この場合,刑事訴訟法46条の摘要はなく,被告人は自己の費用を支払う必要はないと解されています(弁護士弓田竜の刑事事件ブログ「勾留状謄本交付請求」参照)。


第4 勾留と弁護人等への通知
1(1) 被疑者又は被告人が勾留された場合,接見交通(刑訴法39条1項),勾留理由開示請求(刑訴法82条2項),勾留取消請求(刑訴法87条1項)及び保釈請求(刑訴法88条1項)等,護人の活動すべき範囲は広く,弁護人が被告人の勾留されたことを直ちに知ることは人権保障の上で極めて重要ですから,刑訴法79条1項・207条1項による通知は弁護人依頼権を実質化するものです。
    被告人に弁護人がないときは,被告人の法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹のうち被告人の指定する者一人に通知しなければならないとされる(刑訴法79条2項・207条1項)のも,これらの者は独立して弁護人を選任することができる者である(刑訴法30条2項)から,弁護人依頼権を実質化しようとするものであるとともに,これらの者が被告人の所在を知って接見し(刑訴法80条),勾留理由開示請求(刑訴法82条2項,勾留取消請求(刑訴法87条1項)及び保釈請求(刑訴法88条1項)等をなし得るようにするものです。
(2) 弁護士弓田竜の刑事事件ブログ「勾留状謄本交付請求」には以下の記載があります。
東京地方裁判所では、平成28年7月から、勾留状謄本交付請求があった場合に勾留状のコピーの回付を受けて弁護人に交付する運用となりました。弁護人は、勾留状のコピーを受領する際に勾留状謄本交付請求を取り下げます。この運用により、弁護人は勾留状の記載内容を従来よりも早く確認することができるようになります。
2 被告人を勾留した場合において被告人に弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹がないときは,被告人の申出により,その指定する者1人にその旨を通知しなければなりません(刑訴規則79条)。


第5 勾留と,弁護人等以外の者との接見交通
1 勾留されている被疑者又は被告人は,弁護人等以外の者と,法令の範囲内で接見し,又は書類若しくは物の授受をすることができます(刑訴法80条前段)。
2 接見しようとする者が弁護人又は弁護人となろうとする者以外の者である場合,その者は通常,刑事司法の目的及び運営に暗い者であるから,法令による各種の制限を置くことはやむを得ないといわれています。
3 ①逮捕状により留置中の被告人(逮捕中公判請求の場合),及び②被疑者(刑訴法209条は同法80条を準用していない)については,弁護人又は弁護人となろうとする者以外の者との接見は認められていません。
4 裁判所は,逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは,検察官の請求により又は職権で,勾留されている被告人と弁護人等以外の者との接見を禁じ,又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し,その授受を禁じ,若しくはこれを差し押えることができ(刑訴法81条本文),これを接見等禁止決定といいます。


第6 勾留理由開示
1 総論
(1) 勾留理由開示は憲法34条後段の要請に基づく制度です。
(2) 勾留されている被疑者又は被告人は,裁判所に勾留の理由の開示を請求することができます(刑訴法82条1項・207条1項)。
(3) 勾留されている被疑者又は被告人の弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族,兄弟姉妹その他利害関係人も,裁判所に勾留の理由の開示を請求することができます(刑訴法82条2項・207条1項)。
(4) 勾留理由開示は,公開の法廷でなされ(刑訴法83条1項・207条1項),裁判官及び裁判所書記官が列席して開かれます(刑訴法83条2項・207条1項)。
なお,被告人及びその弁護人が出頭しないときは,原則として開廷することができません(刑訴法83条3項・207条1項)。
(5) 裁判長は,勾留理由開示の法廷において,勾留の理由を告げる必要があります(刑訴法84条1項・207条1項)。
(6) 検察官,弁護人等は,10分以内で意見を述べることができますし(刑訴法84条2項本文・207条1項,刑訴規則85条の3第1項),書面を差し出すことができます(刑訴法84条2項ただし書・207条1項,刑訴規則85条の3第2項)。
2 勾留理由開示に関する判例
(1) 刑訴法86条の趣旨に徴すれば,既に一度勾留理由の開示がなされたときは,その同一勾留の継続中は重ねて勾留理由の開示を請求することを許されません(最高裁昭和28年10月15日決定)。
    なお,刑訴法86条は同一時点における請求の競合について規定するものに対し,最高裁昭和28年10月15日決定は異なる時点における請求の競合について判示するものです。
(2) 勾留理由開示の請求を却下する決定で高等裁判所がしたものに対しては,たとえ判決後にしたものであっても,刑訴法428条2項により,その高等裁判所に通常の抗告に代る異議の申立てをすることができます(最高裁昭和31年12月13日決定)。
(3) 勾留理由開示の請求は,同一勾留については,勾留の開始せられた当該裁判所において一回にかぎり許されます(最高裁昭和44年4月9日決定。なお,先例として,最高裁昭和29年8月5日決定,最高裁昭和29年9月7日決定参照)。
(4) 裁判官が勾留理由開示の請求を却下した裁判に不服がある者は,刑訴法429条1項2号により,その取消又は変更を請求することができます(最高裁昭和46年6月14日決定)。
(5) 簡易裁判所の裁判官が発した勾留状により勾留されている被疑者の事件が地方裁判所に起訴された場合には,第一回公判期日前における勾留理由の開示は,その地方裁判所の裁判官が行なうべきものです(最高裁昭和47年4月28日決定)。
(6) 勾留理由開示の請求は,勾留の開始された当該裁判所にのみなすことを許されます(最高裁昭和48年6月20日決定及び最高裁昭和50年10月18日決定。なお,先例として,最高裁昭和29年8月5日決定,最高裁昭和29年9月7日決定参照)。
    そのため,被告人に対する勾留が第一審で開始されたものである場合,上告審において勾留理由開示の請求をすることはできません(最高裁昭和50年10月18日決定)。
(7)  最高裁判所がした勾留理由開示請求却下決定に対し,特別抗告をすることはできません(最高裁昭和60年12月12日決定)。
(8)ア 勾留理由の開示は,公開の法廷で裁判官が勾留の理由を告げることであるから,その手続においてされる裁判官の行為は,刑訴法429条1項2号にいう勾留に関する裁判には当たらないため,準抗告の対象とはなりません(最高裁平成5年7月19日決定)。
イ 勾留理由の開示は,公開の法廷で裁判官が勾留の理由を告げることであるから,刑訴法433条1項にいう「決定又は命令」に当たらないため,特別抗告の対象とはなりません(最高裁令和5年5月8日決定。なお,先例として,最高裁平成5年7月19日決定)。
(9)  公訴提起後第1回公判期日前に弁護人が申請した起訴前の勾留理由開示の期日調書の謄写について裁判官が刑訴法40条1項に準じて行った不許可処分に対しては,同法429条1項2号による準抗告を申し立てることはできず,同法309条2項により異議を申し立てることができるにすぎません(最高裁平成17年10月24日決定)。


第7 勾留の取消
1 勾留の理由又は勾留の必要がなくなったときは,裁判所は,検察官,勾留されている被告人若しくはその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により,又は職権で,決定を以て勾留を取り消す必要があります(刑訴法87条1項・207条1項)。
2 ①勾留に対する不服申立てが勾留の裁判自体に内在する瑕疵を原因とする勾留の否定であり,②保釈及び勾留の執行停止が勾留後の事情を考慮しての一時的効力の停止であるのに対し,③勾留の取消は,勾留後の事情を原因とするその撤回です。
3 刑訴法60条1項の勾留の理由は元々,勾留の必要のある場合の典型的な例ですから,勾留の理由がある以上,勾留の必要性も推定されます。
    そのため,勾留の理由があって必要性のない場合としては,住居不定ではあるものの確実な身元引受人がある場合が考えられるにすぎません。
4 勾留取消決定(ただし,刑訴法207条,280条の場合は勾留取消命令)をする場合,それが検察官の請求によるものでない限り,急速を要する場合を除き,検察官の意見を聴く必要があります(刑訴法92条2項)。

第8 勾留の執行停止
1 裁判所は,適当と認めるときは,決定で,勾留されている被告人を親族,保護団体その他の者に委託し,又は被告人の住居を制限して,勾留の執行を停止することができます(刑訴法95条・207条1項)。
2 勾留の執行停止は実務上,被告人の病気療養のための入院,親族の冠婚葬,就職試験といった場合に限り,認められているにすぎません。
    また,執行停止の期間は実務上ほとんどの場合に付されています。
3 勾留の執行停止をする場合は必ず,親族,保護団体その他の者に委託するか(刑訴規則90条参照),又は被告人の住居を制限しなければなりません。
    なお,ハイジャック犯からの要求で超実定法的に被告人の勾留の執行を一時停止するといったように,委託も住居制限もできない場合に勾留の執行を停止することは,刑訴法95条とは無関係です。
4 勾留の執行停止決定をする場合,急速を要する場合を除き,検察官の意見を聴く必要があります(刑訴規則88条)。


第9 被疑者勾留特有の事情
1 被疑者の勾留は原則として10日以内であり(刑訴法208条1項),やむを得ない事由があると認められる場合に限り,20日以内となります(刑訴法208条2項)。
2 刑訴法208条2項の「やむを得ない事由」とは,①被疑者若しくは被疑事実の多数,計算複雑,被疑者・関係人らの供述その他の証拠の食い違い,取調べが必要と見込まれる関係人・証拠物多数等,又は,②重要参考人の病気,旅行,所在不明若しくは鑑定等証拠収集の遅延,困難等により,起訴,不起訴の決定が困難な場合を指し,その存否の判断には,関連する事件も相当の限度で考慮に入れることができます(最高裁昭和37年7月3日判決)。
3 勾留期間の延長請求書には,勾留状と期間延長のやむを得ない事由があることを認めるべき資料を添付しなければなりません(刑訴規則152条)。
    通常は,取調べを要する関係者多数,重要参考人が遠隔地のため取調べ未了及び事案複雑等,その事由を具体的に記載し,一件捜査記録を資料として添付しています。
4 勾留の期間延長の裁判は,延長する期間及び理由を記載した勾留状を検察官に交付することによって効力を生じます(刑訴規則153条1項ないし3項)。
5 検察官は,勾留状の交付を受けたときは,ただちに刑事施設職員を通じてこれを被疑者に示す必要があります(刑訴規則153条4項)。


第10 被告人勾留特有の事情
1 被告人の勾留の目的は,①被告人の公判廷への出頭を確保し,罪証隠滅を防止する点,及び②有罪判決がなされた場合の刑を執行するために身柄を確保する点にあります。
2 第1回公判期日前の勾留は裁判官が行います(刑訴法280条1項)。
3 被告人勾留の場合,裁判所が職権で行うのであって,被疑者勾留の場合のように検察官の請求によって行う(刑訴法207条)わけではありません。
4 逮捕中の被疑者について逮捕の基礎となった犯罪事実につき公訴を提起する場合において,その者を勾留する必要があると認めるときに,実務上,検察官が被告人の勾留を求めること(逮捕中求令状)がありますものの,これは裁判官に対してその職権の発動を促す意思表示にすぎません。
5 勾留の期間は原則として2ヶ月である(刑訴法60条2項本文前段)ものの,特に継続の必要がある場合においては,具体的に理由を付した決定で,1ヶ月ごとにこれを更新することができます(刑訴法60条2項本文後段)。
    ただし,罪証隠滅,住居不定等の場合を除き,勾留の更新は1回しかできません(刑訴法60条2項ただし書)。
6 刑訴法60条2項本文前段の「勾留の期間」とは,勾留状の執行として拘禁できる期間をいいます。
7 勾留状の有効期間(刑訴法64条1項,刑訴規則300条)とは,勾留状を執行する有効期間をいい,被告人を交流すべき期間をいうものではありません(最高裁昭和25年6月29日決定)。
8 起訴前の勾留中における捜査官の取調べの当否は起訴後の勾留の効力に影響を及ぼしません(最高裁昭和44年9月27日決定。なお,先例として,最高裁昭和42年8月31日決定)。
9 勾留期間更新決定に関する抗告申立ての利益は,右決定による勾留の期間の満了により失われます(最高裁平成6年7月8日決定)。

第11 第一審裁判所の無罪判決後の勾留
1 刑訴法345条は,無罪等の一定の裁判の告知があったときには勾留状が失効する旨規定しており,特に,無罪判決があったときには,本来,無罪推定を受けるべき被告人に対し,未確定とはいえ,無罪の判断が示されたという事実を尊重し,それ以上の被告人の拘束を許さないこととしたものと解されるから,被告人が無罪判決を受けた場合においては,同法60条1項にいう「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は,無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては,第1審段階におけるものよりも強いものが要求されます(最高裁平成19年12月13日決定)。
2 第1審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の言渡しをした場合であっても,控訴審裁判所は,第1審裁判所の判決の内容,取り分け無罪とした理由及び関係証拠を検討した結果,なお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,かつ,刑訴法345条の趣旨及び控訴審が事後審査審であることを考慮しても,勾留の理由及び必要性が認められるときは,その審理の段階を問わず,被告人を勾留することができます(最高裁平成23年10月5日決定。なお,先例として,最高裁平成12年6月27日決定,最高裁平成19年12月13日決定参照)。


第12 代用監獄及び被告人の移送
1 被疑者及び被告人の勾留場所は本来,刑事施設としての拘置所です(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(=刑事収容施設法)3条3号)。
    しかし,拘置所の収容能力に限界があることから,被疑者の勾留場所はほぼ常に警察署留置場であり,被告人の勾留場所も当初は警察署留置場となっており(刑事収容施設法15条1項参照),これを代用監獄といいます。
2 検察官は,裁判長の同意を得て,勾留されている被告人を他の刑事施設に移すことができます(刑訴規則80条1項)。
3 検察官は,被告人を他の刑事施設に移したときは,直ちにその旨及びその刑事施設を裁判所及び弁護人に通知しなければなりません(刑訴規則80条2項前段)。
   被告人に弁護人がないときは,被告人の法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹のうち被告人の指定する者一人にその旨及びその刑事施設を通知しなければなりません(刑訴規則80条2項後段)。
4 勾留に関する処分を行う裁判官は職権により被疑者又は被告人の勾留場所を変更する旨の移監命令を発することができます(最高裁平成7年4月12日決定)。


第13 未決勾留による拘禁関係に信義則上の安全配慮義務はないこと等
1 最高裁平成17年12月8日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
拘置所に勾留中の者が脳こうそくを発症し重大な後遺症が残った場合について,第1回のCT撮影が行われて脳こうそくと判断された時点では血栓溶解療法の適応がなかったこと,それより前の時点では適応があった可能性があるが,その適応があった間に,同人を外部の医療機関に転送して,血栓溶解療法を開始することが可能であったとは認め難いこと,拘置所において,同人の症状に対応した治療が行われており,そのほかに,同人を速やかに外部の医療機関に転送したとしても,その後遺症の程度が軽減されたというべき事情は認められないことなど判示の事情の下においては,同人が,速やかに外部の医療機関へ転送され,転送先の医療機関において医療行為を受けていたならば,重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されたとはいえず,拘置所の職員である医師の転送義務違反を理由とする国家賠償責任は認められない。
2 
最高裁平成28年4月21日判決は,以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
   未決勾留は,刑訴法の規定に基づき,逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として,被疑者又は被告人の居住を刑事施設内に限定するものであって,このような未決勾留による拘禁関係は,勾留の裁判に基づき被勾留者の意思にかかわらず形成され,法令等の規定に従って規律されるものである。
   そうすると,未決勾留による拘禁関係は,当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上の安全配慮義務を負うべき特別な社会的接触の関係とはいえない。
   したがって,国は,拘置所に収容された被勾留者に対して,その不履行が損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の安全配慮義務を負わないというべきである(なお,事実関係次第では,国が当該被勾留者に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合があり得ることは別論である。)。
3 最高裁令和3年6月15日判決は,以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
 拘置所を含む刑事施設においては,これに収容されている者(以下「被収容者」という。)の健康等を保持するため,社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとされ(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律56条),刑事施設の長は,被収容者が負傷し,若しくは疾病にかかっているとき,又はこれらの疑いがあるとき等には,速やかに,刑事施設の職員である医師等(医師又は歯科医師をいう。以下同じ。)による診療を行い,その他必要な医療上の措置を執るなどとされている(同法62条1項等)。
 そして,刑事施設の中に設けられた病院又は診療所にも原則として医療法の規定が適用され(同法30条の2,医療法施行令3条2項参照),これらの病院又は診療所において診療に当たる医師等も医師法又は歯科医師法の規定に従って診療行為を行うこととなる。
 そうすると,被収容者が収容中に受ける診療の性質は,社会一般において提供される診療と異なるものではないというべきである。


第14 未決拘禁者については施設内免許再取得試験を実施していないこと
・ 日弁連の未決勾留期間中の運転免許失効に関する人権救済申立事件(令和3年9月22日付の要望)には以下の記載があります。
 同所(山中注:東京拘置所のこと。)では、2004年11月16日付け法務省矯保第5794号通知(「矯正施設における特定失効者に対する運転免許試験の実施について(通知)」、以下「本件通知」という。)に基づき、受刑者については上記3年の期間内に、施設内において技能試験等が免除された運転免許試験(以下「施設内免許再取得試験」という。)を年1回実施しているところ、未決勾留中の者を含む未決拘禁者については、本件通知がこれを対象としていないことから、施設内免許再取得試験を実施していない。そのため、運転免許失効後3年が経過した未決拘禁者は、将来運転免許を再取得するためには全ての試験を再受験しなければならなくなる。


第15 勾留請求と勾留状の発付数等に関する統計
 勾留請求と勾留状の発付数等に関する統計(地簡裁総数)は以下のとおりです。
・ 平成25年から令和4年まで
・ 令和2年分及び令和3年分
・ 平成30年分及び令和元年分
・ 平成30年分
→ 全国の地裁管内ごとの統計が含まれています。
・ 昭和49年から平成29年まで


第16 関連記事その他
1(1) リーガラスHP「「ある弁護士の獄中体験記」記事一覧(留置所・拘置所・刑務所での生活と出所の記録)」(筆者は44期の山本至 元弁護士(東弁))が載っています。
同人は,平成18年11月9日に突然,宮崎県警に逮捕され,宮崎地裁平成21年4月28日判決(判例秘書)により懲役1年6月・未決勾留日数50日算入の実刑判決となり,福岡高裁平成22年12月16日判決(判例秘書)により控訴棄却となり,最高裁平成24年10月22日決定により上告棄却となり,同年12月10日に福岡高検宮崎支部に出頭し,平成26年4月20日に刑期満了となり,翌日,大分刑務所を出所しました
(2) 東京弁護士会は,平成19年10月11日,「山本至会員に対する第1回公判にあたっての会長談話」を出しました(弁護士自治を考える会ブログの「山本至弁護士【東京】二審も実刑判決。別に犯人いると虚偽」参照)。)。
2 新刑事手続Ⅰ・257頁には「今後の捜査に応じるかどうか,将来の起訴状等の送達・公判廷への出廷が確実かどうかまでを含めて検討し,これが容易でないのが「逃亡のおそれ」であるということになろう。」(筆者は30期の渡辺咲子検事)と書いてあります。
3(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 勾留質問手続における遠隔通訳について(令和3年3月26日付の最高裁刑事局第二課長等の事務連絡)
3(2) 以下の記事も参照してください。
・ 被疑者の逮捕
・ 被告人の保釈
・ 保釈保証金の没取
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

警察庁交通局

目次
第1 総論
第2 警察庁交通局等の沿革
第3 警察庁交通局の組織及び担当事務
1 交通企画課(警察庁組織令32条)
2 交通指導課(警察庁組織令33条)
3 交通規制課(警察庁組織令34条)
4 運転免許課(警察庁組織令35条)
第4 警察庁交通局幹部の階級
第5 関連記事その他

第1 総論
1 警察庁交通局は,警察庁の所掌事務に関し,交通警察に関する事務をつかさどっています(警察法23条の2)。
主として,道路交通法,自動車の保管場所の確保等に関する法律及び自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律の施行に関する事務を実施しています。
2 警察庁交通局は,警察本部交通部及び警察署交通課と異なり,現場の執行事務は取り扱っていません。第2 警察庁交通局等の沿革
1 昭和29年7月1日に現在の警察法(昭和29年6月8日法律第162号)が施行された際,交通警察は,警察庁警備部警ら交通課が担当していました(警察庁組織令17条6号)。
    昭和33年4月1日,警察庁の部が局になるとともに保安局が刑事局から分離独立し,交通警察は,警察庁保安局交通課が担当することとなりました(警察法等の一部を改正する法律(昭和33年3月26日法律第19号))。
    昭和36年,交通企画課及び交通指導課が新設されました(警察庁HPの「日本警察50年史第2章 日本警察50年の軌跡と新たなる展開」参照)。
    昭和37年4月1日,警察庁交通局が設置されました(警察法等の一部を改正する法律(昭和37年3月20日法律第14号))。
2 警察庁保安局は,昭和43年6月15日,警察庁刑事局保安部となり(行政機構の簡素化等のための総理府設置法等の一部を改正する法律(昭和43年6月15日法律第99号3条(警察法の一部改正)),平成6年7月1日,警察庁生活安全局となりました(警察法の一部を改正する法律(平成6年6月24日法律第39号))。
3 平成16年警察白書の「日本警察50年の軌跡と新たな展開」が参考になります。第3 警察庁交通局の組織及び担当事務
1 交通企画課(警察庁組織令32条)
(1) 交通警察に関する制度の企画及び立案,交通統計,交通安全教育及び交通安全運動,高速道路交通警察隊の管理等に係る事務を所掌しています。
    また,道路交通関係法令の改正作業や各種計画の策定作業等を行っています。
(2) 平成29年4月1日現在の,交通局交通企画課事務分掌表を掲載しています。
2 交通指導課(警察庁組織令33条)
(1) 道路交通の秩序維持のため,交通指導取締り,交通事故事件捜査,暴走族対策に係る企画立案等のほか,白バイ・交通パトカーの運用に係る事務を行っています。
    また,放置違反金制度と放置車両確認事務の民間委託を柱とする駐車対策法制の運用にも取り組んでいます。
(2) 平成29年4月14日現在の,交通局交通指導課事務分掌表を掲載しています。
3 交通規制課(警察庁組織令34条)
(1)   信号制御や標識設置等によって交通流をコントロールし,安全かつ円滑な道路交通を支えています。
    また,大規模災害発生時は,速やかな災害対策が実施できるよう、緊急輸送ルートを確保する重責を担います。
(2) 平成29年4月1日現在の,交通局交通規制課事務分掌表を掲載しています。
4 運転免許課(警察庁組織令35条)
(1)   運転免許を取得しようとする者への教習・試験,運転免許保有者等への講習等の充実により安全運転を促進し、運転免許の取消し等により危険運転者を排除することで、運転者の資質向上を図っています。
(2) 平成29年5月8日現在の,交通局運転免許課事務分掌表を掲載しています。

第4 警察庁交通局幹部の階級
1 平成29年度警察庁交通局の事務分掌表によれば,平成29年4月現在,警察庁交通局幹部の階級は以下のとおりです。
(1) 警視監
    交通局長,長官官房審議官(交通局担当),交通企画課長
(2) 警視長
ア 交通企画課
    高速道路交通政策総合研究官,長官官房参事官(高速道路交通政策担当),交通安全企画官
イ 交通指導課
    交通指導課長
ウ 交通規制課
    交通規制課長
エ 運転免許課
    運転免許課長
(3) 警視正
ア 交通企画課
    高速道路管理室長,企画官1人,理事官1人,
イ 交通指導課
    交通事故事件捜査指導室長,理事官1人
ウ 交通規制課
    理事官
エ 運転免許課
    高齢運転者等支援室長兼外国人運転者対策官,理事官
2 46の道府県警察本部長のうち,警視監が警察本部長となっているのは27道府県ぐらいであり,警視長が警察本部長となっているのは19県ぐらいです。
    そのため,警察庁交通局交通企画課長は中小規模の県警本部長よりもランクが高いこととなりますし,警察庁交通局の課長等は中小規模の県警本部長と同格であることとなります。
3 警察庁の定員に関する訓令(昭和44年6月30日警察庁訓令第6号)によれば,警察庁内部部局の定員は,長官が1人,警視監又は警視長が30人,警視長又は警視正が88人,警視正又は警視が547人,警部が743人の合計1409人となっています。
    ただし,警察庁内部部局には警察官とは別に技官がいます。

第5 関連記事その他
1 警察庁交通局の平成27年度定員は,交通企画課が58人,交通指導課が26人,交通規制課が37人,運転免許課が25人であり,合計146人です。
2 平成28年4月1日,交通事故被害者サポート事業が,内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付交通安全対策担当から警察庁交通局に移管されました(警察庁HPの「交通事故被害者サポート事業」参照)。
3 警察庁交通局HPの「道路交通法等の改正」に,平成19年以降の道路交通法改正に関する情報があります。
4 警察官が,交通取締の一環として,交通違反の多発する地域等の適当な場所において,交通違反の予防,検挙のため,同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて,運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは,それが相手方の任意の協力を求める形で行われ,自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法,態様で行われる限り,適法です(最高裁昭和55年9月22日決定)。
5(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 交通事故抑止に資する交通指導取締りについて(平成26年4月3日付の警察庁交通局交通指導課長等の通知)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 交通警察
・ 実況見分調書作成時の留意点
・ 交通事故被害者が警察に対応する場合の留意点
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

被告人の保釈

目次
1 総論
2 必要的保釈(権利保釈)
3 任意的保釈(権利保釈)
4 義務的保釈
5 保釈に関する検察官の意見
6 保釈保証金及び保釈の手続
7 保釈の判断に対する抗告審
8 被告人の保釈に関する統計
9 保釈者等の視察に関する犯罪捜査規範の条文
10 出国確認の留保,カルロス・ゴーンの密出国及び国外逃亡被疑者等の追跡
11 GPS端末の実証事件に係る業務委託
12 保釈保証金に関する弁護士会照会
13 債務者が刑事事件の弁護人に対して預託金返還請求権を有する場合における債権回収方法
14 保管金事務処理システム
15 保釈保証金の還付
16 関連記事その他

1 総論
(1) 保釈とは,勾留を観念的には維持しながら,保釈保証金の納付を条件として被告人に対する勾留の執行を停止して,その身体拘束を解く裁判及びその執行をいいます。
(2) 保釈は,被告人が召喚を受けても出頭しなかったり,逃亡したりした場合には,保証金を没収することとして被告人に経済的・精神的負担を与えて被告人の出頭を確保する制度です。
(3) 保釈の種類としては,①必要的保釈(刑訴法89条),②任意的保釈(刑訴法90条)及び③義務的保釈(刑訴法91条)の3種があります。
(4) 勾留されている被告人又はその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹は,保釈の請求をすることができます(刑訴法88条1項)。

2 必要的保釈(権利保釈)
(1) 裁判所は,保釈の請求があった場合,以下の事由がある場合を除き,保釈を許す必要があります(刑訴法89条)。
① 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
② 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
③ 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
④ 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
⑤ 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
⑥ 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
(2) 禁錮以上の刑に処する判決の宣告があったときは,必要的保釈の適用がなくなります(刑訴法344条)。


3 任意的保釈(権利保釈)
(1) 義務的保釈の対象とならない場合でも,被告人に対して必要以上の苦痛を与えないため,公判廷への出頭を確保できる場合,裁判所の自由裁量により,職権で保釈してもらえます(刑訴法90条)。
(2) 被告人が甲,乙,丙の三個の公訴事実について起訴され,そのうち甲事実のみについて勾留状が発せられている場合において,裁判所は,甲事実が刑訴法89条3号に該当し,従って,権利保釈は認められないとしたうえ,なお,同法90条により保釈が適当であるかどうかを審査するにあたっては,甲事実の事案の内容や性質,あるいは被告人の経歴,行状,性格等の事情をも考察することが必要であり,そのための一資料として,勾留状の発せられていない乙,丙各事実をも考慮することを禁ずべき理由はありません(最高裁昭和44年7月14日決定)。

4 義務的保釈
(1) 勾留による拘禁が不当に長くなつたときは,裁判所は,保釈請求権者の請求により,又は職権で,決定を以て勾留を取り消し,又は保釈を許さなければなりません(刑訴法91条1項)。
(2) 憲法38条2項は不当に長い抑留,拘禁後の自白の証拠能力を否定しており,直接的ではないにせよ不当に長い被告人の拘禁を禁止する趣旨を表しているといえます。
そこで,刑訴法91条はそれに基づいて勾留による拘禁が不当に長くなったときに裁判所に義務的に勾留の取消又は保釈を許すことを命じたものです。

5 保釈に関する検察官の意見
(1) 裁判所は,保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには,検察官の意見を聴く必要があります(刑訴法92条1項)。
(2)  公訴提起後第1回公判期日前に弁護人が申請した保釈請求に対する検察官の意見書の謄写を許可しなかった裁判官の処分が許されないことがあります(最高裁平成28年10月25日決定)。


6 保釈保証金及び保釈の手続
(1)ア 裁判所は,保釈を許す場合,保釈保証金の金額を定める必要があります(刑訴法93条1項)。
イ 保釈保証金の金額は,犯罪の性質及び情状,証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して,被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければなりません(刑訴法93条2項)。
(2) 裁判所は,保釈を許す場合,被告人の住居を制限し,その他適当な条件を付けることができます(刑訴法93条3項)。
実務上は,召喚された場合の出頭,旅行制限,罪証隠滅を疑われる行為の禁止,善行保持,再犯禁止等の条件が付されることが多いです。
(3) 保釈を許す決定は,保釈保証金の納付があった後でなければ,これを執行することができません(刑訴法94条1項)。
(4) 裁判所は,保釈請求者でない者に保釈保証金を納付することを許すことができます(刑訴法94条2項)。
(5)ア 裁判所は,有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すことができます(刑訴法94条3項)。
イ 保釈の保証書には,保証金額及びいつでもその保証金を納める旨を記載しなければなりません(刑訴規則87条)。


7 保釈の判断に対する抗告審
・ 受訴裁判所によってされた刑訴法90条による保釈の判断に対して,抗告審としては,受訴裁判所の判断が委ねられた裁量の範囲を逸脱していないかどうか,すなわち,不合理でないかどうかを審査すべきであり,受訴裁判所の判断を覆す場合には,その判断が不合理であることを具体的に示す必要があります(最高裁平成26年11月18日決定)。


8 被告人の保釈に関する統計
(1) 裁判所HPの「刑事事件Q&Aの更新について」に保釈に関する統計が載っています。
(2) 最高裁判所の開示文書を以下のとおり掲載しています。
・ 勾留及び保釈に関する統計文書(令和4年8月の開示文書)
・ 通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の保釈の時期(昭和59年から平成28年まで)
(被告人の保釈の取消しに関する統計)
・ 勾留された被告人の保釈の取消しに関する統計(令和4年分)
・ 勾留された被告人の保釈の取消しに関する統計(令和3年)
・ 勾留された被告人の保釈の取消しに関する統計(令和2年)
・ 勾留された被告人の保釈の取消しに関する統計(2019年)
・ 勾留された被告人の保釈の取消しに関する統計(平成30年)
(被告人の保釈に関する人員数)
・ 被告人の保釈に関する人員数-裁判所種別(令和4年)
・ 被告人の保釈に関する人員数-裁判所種別(令和3年)
・ 被告人の保釈に関する人員数-全裁判所及び裁判所種別(令和2年)
・ 被告人の保釈に関する人員数-全裁判所及び裁判所種別(平成14年~平成30年)
・ 被告人の保釈に関する人員数-全裁判所及び裁判所種別(令和元年)


9 保釈者等の視察に関する犯罪捜査規範の条文
第十七章 保釈者等の視察
(保釈者等の視察)
第二百五十三条 
警察署長は、検察官から、その管轄区域内に居住する者について、保釈し、又は勾留の執行を停止した者の通知を受けたときは、その者に係る事件の捜査に従事した警察官その他適当な警察官を指定して、その行動を視察させなければならない。
2 前項に規定する視察は、一月につき、少なくとも一回行うものとする。
(事故通知)
第二百五十四条 
前条に規定する視察に当たり、その者について次の各号の一に該当する理由があるときは、これを前条に規定する通知をした検察官に速やかに通知しなければならない。
一 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
二 罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
四 住居、旅行、治療等に関する制限その他保釈又は勾留の執行停止について裁判所又は裁判官の定めた条件に違反したとき。
五 その他特に検察官に通知する必要があると認められる理由があるとき。
(視察上の注意)
第二百五十五条 
第二百五十三条(保釈者等の視察)に規定する視察は、穏当適切な方法により行うものとし、視察中の者又はその家族の名誉及び信用を不当に害することのないように注意しなければならない。
(視察簿)
第二百五十六条 
第二百五十三条(保釈者等の視察)に規定する視察を行つたときは、視察簿(別記様式第二十四号)により、これを明らかにしておかなければならない。

10 出国確認の留保,カルロス・ゴーンの密出国及び国外逃亡被疑者等の追跡
(1) 出国確認の留保
ア 外国人が国外に出国する場合,入国審査官から出国の確認を受けなければならず,出国の確認を受けなければ出国できません(入管法25条)。
イ 長期3年以上の罪で訴追されていたり,勾留状等が発せられたりしている場合,24時間以内で出国確認を留保されます(入管法25条の2)。
ウ 外国人被告人の出国確認留保の通知に係る事務の取扱いについて(平成12年8月28日付の最高裁判所刑事局長,家庭局長通達)を掲載しています。
(2) カルロス・ゴーンの密出国
ア 41期の島田一 東京地裁14刑部総括は,平成31年3月5日,保釈金10億円でカルロス・ゴーンの保釈を許可し,同年4月25日,保釈金5億円で被告人カルロス・ゴーンの保釈を再び許可しました(外部HPの「保釈をめぐる事件経過一覧」参照)。
イ カルロス・ゴーンは,保釈条件に違反して国籍国であるレバノンに出国していたことが令和元年12月31日に発覚しました。
    そのため,同日付で15億円の保釈保証金が没取されました。
ウ カルロス・ゴーンの国外出国に対する高野隆弁護士のコメントが,同人のブログの「彼が見たもの」(2020年1月4日付)に載っています。
エ igaki.workブログ「カルロス・ゴーン氏が逃げた理由、日本の刑事司法の10個の闇。」(2020年1月5日付)が載っています。
オ 佐々木聖子出入国在留管理庁長官は,令和2年1月30日の参議院予算委員会において以下の答弁をしています。
    入管法上、一定の罪につき訴追されていること又は逮捕状、勾留状等が発せられているなどの一定の事由があるとして関係機関から当庁に対して通知があった外国人が出国しようとした場合には、入国審査官は二十四時間に限り当該外国人の出国の確認を留保する、つまり出国をさせないことができることとされており、そのことが出国の審査ブースで分かる仕組みになっています。
    仮にカルロス・ゴーン被告人が出国確認手続を経ていれば、出国を止める体制ができておりました。
(3) 国外逃亡被疑者等の追跡
    令和元年警察白書の「第2部 本編」→「第4章 組織犯罪対策」→「第3節 来日外国人犯罪対策」→「第3項 国際組織犯罪に対処するための取組」には,「国外逃亡被疑者等の追跡」として以下の記載があります。
    国外逃亡被疑者等の数の推移は、図表4-18のとおりである。
    警察では、被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合には、出入国在留管理庁に手配するなどして、出国前の検挙に努めている。また、被疑者が国外に逃亡した場合には、関係国の捜査機関との捜査協力を通じ、被疑者の所在確認等を行っており、所在が確認された場合には、犯罪人引渡条約(注2)等に基づき被疑者の引渡しを受けるなどして、確実な検挙に努めている。
   このような取組の結果、平成30年中は、出国直前の外国人被疑者17人のほか、国外逃亡被疑者113人(うち外国人64人)を検挙した。
   このほか、事案に応じ、国外逃亡被疑者等が日本国内で行った犯罪に関する資料等を逃亡先国の捜査機関に提供するなどして、逃亡先国における国外犯処罰規定の適用を促し、犯罪者の「逃げ得」を許さないための取組を進めている。
(4) 犯人が他人を教唆して自己を蔵匿させ又は隠避させたときは,刑法103条の罪の教唆犯が成立します(最高裁令和3年6月9日決定。なお,先例として,最高裁昭和35年7月18日決定参照)。
(5)  逃亡犯罪人引渡法に基づく仮拘禁許可状の発付に対して特別抗告をすることはできません(最高裁令和5年11月6日決定)。
(6) 逃亡犯罪人引渡法に関する書式例(平成12年10月31日付の法務大臣訓令)を掲載しています。


11 GPS端末の実証事件に係る業務委託
・ 最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)462頁には,「GPS端末の実証事件に係る業務委託経費」として以下の記載があります。
<要求要旨>
 近時,保釈中の被告人の逃走事案が相次いで発生したことを受け,現在,法制審議会・刑事法(逃亡防止関係)部会において,保釈中の被告人の逃亡防止策の一つとして,当該被告人にGPS端末を装着させて位置情報を取得することにより逃亡を防止する制度(以下「本制度」という。)の導入についての検討が進められているところ,令和3年秋頃,これを盛り込んだ法制審議会の答申がなされる見込みである。これを踏まえ,法務省において,令和4年の通常国会に法案を提出する予定であり,遅くとも令和9年度までにその運用を開始するためには,本制度の確実な運用を実現する要求性能を備えたGPS端末を確保することが不可欠であるため,早期にその準備に着手する必要がある。
 本制度で求められるGPS端末は,装着対象者が逃亡の意思を惹起した場合においても身体からの取り外しや機能の無効化が困難であり,かつ,それらの行為が行われた時は直ちに関係機関が検知可能であるなど,既存の製品には見られない性能を備えるものでなければならない。そして,令和8年度中の試行運用開始に向け,要求性能を備えたGPS端末の設計・開発等を手戻りなく効率的に行うためには,令和4年度中に既存製品の技術・ノウハウを活用してGPS端末の試作品を製作し,日常生活における様々な条件の下での検証を通じて,その技術的困難性の有無・程度,測定した位置情報等の送信間隔とバッテリーの持続時間との関係,位置の測定が不可能又は困難なエリアの有無・範囲等を把握し,それらの諸課題を解決する方策を検証する必要があることから,高度の専門的知見を有する者に対して実証実験に係る業務を委託する必要がある。
 そこで,上記の業務委託に必要な経費を要求する。


12 保釈保証金に関する弁護士会照会

(1)ア 被告人以外の者が保釈保証金若しくはこれに代わる有価証券を納付し,又は保証書を差し出すのは,直接に国に対してするのであり,それによってその者と国との間に直接の法律関係が生ずるのであって,その還付もまた国とその者との間で行なわれます(最高裁大法廷昭和43年6月12日決定)。
イ 弁護人が保釈を請求し,かつ,保釈保証金を納付した場合において,たとえ実質上の出捐者が被告人であつたとしても,国に対して保釈保証金返還請求権を有する者は,弁護人であって被告人ではありません(最高裁昭和59年6月26日判決)。
(2) 仮差押え又は差押えのために保釈保証金の有無を調べたい場合,被告人の刑事事件が係属している地方裁判所に対し,照会事項として以下のような記載をして弁護士会照会をすればいいです(弁護士会照会ハンドブック196頁及び197頁)。
・ ○○地方裁判所令和2年(わ)第○○○○号・○○被告事件の被告人○○○○の保釈保証金について,以下の事項をご回答下さい。
① 保釈保証金の金額
② 保釈保証金の提出者の氏名及び住所
③ 保釈保証金納付の方法
④ 競合する仮差押え,差押えの有無
⑤ ④で有りの場合,その債権者の氏名及び差押え金額


13 債務者が刑事事件の弁護人に対して預託金返還請求権を有する場合における債権回収方法
(1) 総論
ア 債務者が実質的出捐者となって保釈保証金に充てるためのお金を刑事事件の弁護人に提供した場合,弁護士会照会によって保釈保証金の存在を確認した上で,債務者が弁護人に対して有する預託金返還請求権について差押え又は仮差押えをすることで債権回収を図ることができます。
イ 京都地裁平成19年9月25日判決の事例では,債務名義を負っている債務者が弁護人に対して有する預託金返還請求権の差押えを通じて債権回収しましたし,東京地裁平成18年1月18日判決の事例では,被告人が弁護人に対して有する預託金返還請求権の仮差押えをした後,実質上の出捐者とされた被告人の妻(被告人及びその妻はいずれも債務者でした。)から債権回収しました。
ウ 刑事事件の弁護人の立場から見た場合,保釈保証金を用意できそうな被告人の関係者が債務名義を負っているような場合,当該関係者からお金を預かるのは避けて,日本保釈支援協会保釈保証金立替システム,又は全国弁護士協同組合連合会保釈保証書発行事業を利用した方が無難であると思います。
(2) 京都地裁平成19年9月25日判決
ア 弁護人である被告に対する預託金返還請求権の債権差押命令を得た上での取立訴訟に関する京都地裁平成19年9月25日判決(判例秘書に掲載)の主文のうち,原告の請求を認容した乙事件の主文は以下のとおりです(条件付給付判決の主文の記載方法としても参考になります。)。
  被告は,原告に対し,被告人甲野太郎にかかる大阪高等裁判所平成17年(う)第1901号偽造有印私文書行使,詐欺被告事件の上告審又はその差戻審において,被告が京都地方裁判所に提出した3750万円の保釈保証金(うち3000万円について平成17年6月27日提出,保管金提出書進行番号平成17年度第40055号,うち750万円について平成17年11月2日提出,保管金提出書進行番号平成17年度第40198号,ただし,いずれも,平成19年3月14日付け決定をもって同月8日付け保釈許可決定における保釈保証金3800万円の一部に流用[代納])の還付がなされることを条件として,3750万円及びこれに対する同還付の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 京都地裁平成19年9月25日判決の事例では,平成17年6月27日に京都地裁で保釈許可決定を受け(保釈保証金は3000万円),実刑判決後の平成17年11月2日に京都地裁で再び保釈許可決定を受け(保釈保証金は4500万円),控訴棄却判決後の平成19年3月8日に大阪高裁で3度目の保釈許可決定を受けました(保釈保証金は3800万円であり,そのうちの50万円については控訴審の弁護人が現金で納付しました。)。
ウ 京都地裁平成19年9月25日判決には「刑事弁護事件を取り扱う弁護士の法律事務所において,保釈保証金に充てるための預託金を預かり金として経理処理をしないことは,通常考え難いこと(本件各預託金についての経理処理がされていれば,預託したのが太郎,一郎,三郎その他の第三者の誰であるかが容易に判明するものと考えられる。)」という記載があります。
(3) 東京地裁平成18年1月18日判決
ア 東京地裁平成18年1月18日判決は,「将来還付される保釈保証金に対する差押えを回避するため,Yに対して連帯保証債務を負っている被告人の妻CがX(被告人及びCの間の長女)に対して6000万円を貸し付け,XがB弁護士に6000万円を送金し,保釈保証金が5000万円と決定された後に弁護士がXに1000万円を返金した後,YがB弁護士に対する預託金返還請求権の仮差押えをしてXが第三者異議の訴えを提起し,Yが供託金還付請求権確認(主位的請求)及び債権者代位(予備的請求)の訴訟を提起したという事例」において以下の判示をしました。
① 第三者異議の訴え及び供託金還付請求権確認の訴えに対するもの 
・ CとXの間では,将来還付される保釈保証金に対する差押えを回避するため,Cが6000万円をいったんXに対して貸し付けることとし,その上で,XがこれをB弁護士に預託したものと認定し得ないではなく(ただし,このような手法の当否はさておくにしても,借用証書等の書面の存在がうかがわれないなどの点で必ずしも疑問が残らないというわけではない。),B弁護士に対する本件保釈保証金の返還請求権は,原告に帰属するものと認定することができるというべきである。
② 債権者代位の訴えに対するもの
・ Cと原告との間で平成15年3月20日に6000万円の消費貸借契約が締結されたものと認定できることは前記1で判示したとおりであるところ,被告は,その弁済期について,第一次的に,期限の定めがなかった旨主張するものの,この事実を認めるに足りる証拠はなく,むしろ,証拠(甲8,9)及び弁論の全趣旨によれば,Cと原告は,その際,原告がB弁護士から保釈保証金の返還を受けたときを弁済期とする旨合意したものと認められる。
 そして,この合意の具体的内容については,保釈保証金がB弁護士から返還されるか否かといった,将来発生するか否かが不確実な事実にかからせるものであるとすれば,それは条件に該当することになり,消費貸借契約成立の本質的要素である弁済期の合意を欠くことになるから,本件消費貸借契約が有効に成立したと強く主張する原告の主張内容からみても,結局,Cと原告の合理的意思としては,原告が保釈保証金の返還を受けたとき,又はその返還を受ける見込みのないことが確定したときを弁済期とする旨の合意をしたものと認めるのが相当であり,これに反する原告の主張は採用できない。
イ 東京地裁平成18年1月18日判決の事例における仮差押債権目録は以下のとおりでした。
   5000万円
 ただし,訴外Aが下記刑事事件の保釈保証金として納付するために第三債務者Bに対して預託した頭書金員の返還請求権
              記
       被告人   訴外A
       係属裁判所 金沢地方裁判所
       事件番号  平成15年(わ)第102号
       罪名    商法違反
ウ 東京地裁平成18年1月18日判決では,Yは,債権者代位権に基づき,Xに対し,Cに代位して,Cに対する連帯保証債務履行請求権を保全するため,CのXに対する消費貸借契約に基づく残元金5000万円及び遅延損害金の支払を予備的に請求しましたところ,当該請求は認容されました。


14 保管金事務処理システム
・ 最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)331頁には,「保管金事務処理システム」として以下の記載があります。
<要求要旨>
 保管金事務処理システム(以下「本システム」という。)は,裁判所内の事件処理システムの一部と連携し,保管金事務(例えば,刑事事件の被告人の身柄拘束を解放する要件の一つとなる保釈保証金や強制執行手続の進行・差押え等に関係する民事執行予納金等の事務)の適正かつ迅速な処理を行うことを目的とする基盤システムであり,財務省所管の歳入金電子納付システム及び官庁会計システムと連携して,裁判所における保管金の電子受払を可能としている。
 本システムは,平成17年4月から運用を開始し,平成19年度までに全ての裁判所への導入を完了している。平成22年度,平成28年度及び令和2年度にサーバ等機器等を更改し,現在までリースにより運用するとともに,安定的な稼働を維持するために必要な運用保守等を行っている。
 令和4年度には,歳入歳出外現金出納官吏の廃止に係る移行支援,最高裁判所データセンタ基幹インフラ切替対応及び新民事執行事件処理システム改修対応を予定している。また,上記リース対象のソフトウェアのうち,物理サーバの仮想化及びウイルスチェックをそれぞれ担っている各ソフトウェアのバージョンアップ等作業を実施する必要がある。さらに,最高裁判所近郊における大規模災害後に確実にシステムの復旧を進める観点から,バックアップテープ等の記録媒体を遠隔地保管する必要がある。
 そこで,令和4年度に要する本システムの機器等のリース経費,運用・保守経費,改修作業等経費,ソフトウェアのバージョンアップ等作業経費及びバックアップテープの保管業務に係る経費を要求する。
 なお,サーバ等機器等のリースについては,併せて5箇年の国庫債務負担行為によっており,令和4年度はその2年目である。


15 保釈保証金の還付
(1) 禁錮以上の刑に処する判決の宣告があったときは,保釈はその効力を失います(刑訴法343条本文)。
 このときに被告人を収監する場合,言い渡した刑並びに判決の宣告をした年月日及び裁判所を記載し,かつ裁判長又は裁判官が相違ないことを証明する旨を附記して認印した勾留状の謄本が被告人に示されます(刑訴規則92条の2)。
 一方で,刑訴規則91条1項2号に基づき,没取されなかった保釈保証金が還付されます。
(2) 無罪,免訴,刑の免除,刑の執行猶予,公訴棄却,罰金又は過料の裁判の告知があったときは,勾留状は,その効力を失います(刑訴法345条)。
 この場合,刑訴規則91条1項1号に基づき,没取されなかった保釈保証金は還付されます。


16 関連記事その他
(1)ア 判例タイムズ1484号(2021年7月号)に「捜査に対する司法審査の在り方等に関する研究[大阪刑事実務研究会]令状1・近時における勾留及び保釈の運用等について」が載っています。
イ 全国弁護士協同組合(全弁協)HPの「保釈保証書発行事業」に,全弁協が発行している保釈保証書に関する2件の東京高裁決定が紹介されています。
ウ 二弁フロンティア2021年10月号「トリビアではない!?東京拘置所あれこれ」が載っています。
エ 自由と正義2023年7月号21頁ないし28頁に「保釈保証書発行事業の成り立ちと利用の仕方、課題等」が載っています。
(2) 「デジタル遺品の探しかた しまいかた 残しかた+隠しかた」 36頁には,「スマホのロック解除を頼めるサービスは?」として以下の記載があります。
     スマホのロック解除を請け負うサービスは、かなり少ないのが現状で、データ復旧会社でもスマホは受け付けてくれないケースがほとんどです。
     なお、通信キャリア(NTTドコモやau、ソフトバンクなど)やメーカーは端末の中身に関しては非対応が原則ですので、対応を期待することはできません。
     スマホのデータ復旧を検討してくれる企業もありますが、それでも確実に解錠できる保証はなく、成功報酬は20万~50万円かかることも。作業期間も半年~1年がザラで、簡単な道のりとは言いがたいです。
(3) 31期の小泉博嗣 元裁判官は,情報公開・個人情報保護審査会の第1部会の委員として,以下の文書の存否自体が行政機関情報公開法5条4号(公共の安全等に関する情報)に該当すると判断しました。
・ 保釈中の被告人が保釈保証金を没取されることなく罪証隠滅に成功した事例に関して法務省が作成し,又は取得した文書(直近の事例に関するもの)(令和元年11月12日答申(令和元年度(行情)答申第296号))
・ 保釈中の被告人が事件関係人に接触した結果,事件関係人の供述を自己に有利に変更して無罪判決を獲得した事例に関して法務省が作成し,又は取得した文書(直近の事例に関するもの)(令和元年11月12日答申(令和元年度(行情)答申第297号))
(4)ア 刑の執行猶予の言渡し取消し請求において,被請求人が選任した弁護人に対して刑の執行猶予の言渡し取消し決定の謄本が送達されても,被請求人に対する送達が行われたものと同じ法的な効果は生じません(最高裁平成29年1月16日決定)。
イ 犯人が他人を教唆して自己を蔵匿させ又は隠避させたときは,刑法103条の罪の教唆犯が成立する(最高裁令和3年6月9日決定及び最高裁令和5年9月13日決定)ものの,裁判官山口厚の反対意見が付いています。
(5)ア 以下の資料を掲載しています。
① 平成30年5月7日付の参考統計表(最高裁判所事務総局刑事局)
② 通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の保釈の時期(昭和59年から平成28年まで)
→ 刑事裁判を考える:高野隆@ブログ「人質司法の原因と対策」(平成31年1月18日付)において,「最高裁事務総局が「会内限り」という限定付きで日弁連に秘密裏に提供した統計資料」と記載されている文書に該当すると思います。
③ 刑事事件に関する書類の参考書式について(平成18年5月22日付の最高裁判所刑事局長,総務局長及び家庭局長送付)
→ 保釈許可決定等の書式が載っています。
④ 保釈保証書による代用許可の申出事例等の調査について(平成25年7月23日付の最高裁判所刑事局第二課長事務連絡)
⑤ 控訴審において実刑判決を宣告された保釈中の被告人に対する収容手続(基準)について(平成18年6月14日付の大阪高検次席検事の依命通達)
→ 基準の中身は黒塗りです。
イ 以下の記事も参照してください。
・ 被疑者の逮捕
・ 被疑者及び被告人の勾留
・ 保釈保証金の没取
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

刑事の再審事件の各種決定及び無罪判決(榎井村事件以降の日弁連再審支援事件に限る。)

目次
第1 刑事の再審事件の各種決定及び無罪判決(榎井村事件以降の日弁連再審支援事件に限る。)
第2 関連記事その他

第1 刑事の再審事件の各種決定及び無罪判決(榎井村事件以降の日弁連再審支援事件に限る。)
* 弁護側に有利な判断は赤文字表記とし,無罪判決は太字表記にしています。
令和5年
6月5日,大崎事件第4次再審請求において,福岡高裁宮崎支部が即時抗告棄却棄却決定を出した。
3月13日,袴田事件第2次再審請求において,差戻審としての東京高裁が再審開始決定を出した。
2月27日,日野町事件第2次再審請求において,大阪高裁が再審開始決定を出した。
令和4年
12月12日,小石川事件再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
10月14日,福井女子中学生殺人事件第2次再審請求が出された。
6月22日,大崎事件第4次再審請求において,鹿児島地裁が再審請求棄却決定を出した。
4月7日,小石川事件再審請求において,東京高裁が即時抗告棄却決定を出した。
3月30日,姫路郵便局強盗事件再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
3月3日,名張毒ぶどう酒事件第10次再審請求において,異議審としての名古屋高裁が異議申立棄却決定を出した。
令和3年
11月11日,鶴見事件第2次再審請求が請求人死亡により終了した。
6月30日,姫路郵便局強盗事件再審請求において,大阪高裁が即時抗告棄却決定を出した。
4月12日,恵庭殺人事件第2次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
令和2年
12月22日,袴田事件第2次再審請求において,最高裁が破棄差戻決定を出した。
6月15日,姫路郵便局強盗事件再審請求において,差戻審としての神戸地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月31日,湖東記念病院事件において,大津地裁が無罪判決を出した。
同日,小石川事件再審請求において,東京地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月30日,大崎事件第4次再審請求が出された。
平成31年→令和元年
11月5日,難波ビデオ店放火殺人事件第2次再審請求が出された。
7月17日,難波ビデオ店放火殺人事件第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
6月25日,大崎事件第3次再審請求において,最高裁が再審開始取消決定を出した。
3月28日,松橋事件において,熊本地裁が無罪判決を出した。
3月18日,湖東記念病院第2次再審請求において,最高裁が検察側の特別抗告棄却決定を出した。
1月25日,豊川事件再審請求において,名古屋高裁が再審請求棄却決定を出した。
平成30年
10月10日,松橋事件において,最高裁が検察側の特別抗告棄却決定を出した。
10月9日,難波ビデオ店放火殺人事件において,大阪高裁が即時抗告棄却決定を出した。
6月11日,袴田事件第2次再審請求において,東京高裁が再審開始取消決定を出した。
3月20日,恵庭殺人第2次再審請求において,札幌高裁が即時抗告棄却決定を出した。
3月12日,大崎事件第3次再審請求において,福岡高裁宮崎支部が検察側の即時抗告棄却決定を出した。
平成29年
12月27日,鶴見事件第2次再審請求が出された。
12月20日,湖東記念病院第2次再審請求において,大阪高裁が再審開始決定を出した。
12月8日,名張毒ぶどう酒事件第10次再審請求において,名古屋高裁が再審請求棄却決定を出した。
11月29日,松橋事件再審請求において,福岡高裁が検察側の即時抗告棄却決定を出した。
10月30日,姫路郵便局強盗事件再審請求において,最高裁が検察側の特別抗告棄却決定を出した。
7月15日,豊川事件再審請求が出された。
6月28日,大崎事件第3次再審請求において,鹿児島地裁が再審開始決定を出した。
1月10日,恵庭殺人事件第2次再審請求が出された。
平成28年
8月10日,東住吉事件において,大阪高裁が無罪判決を出した。
6月30日,松橋事件再審請求において,熊本地裁が再審開始決定を出した。
6月13日,恵庭殺人第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
3月30日,難波ビデオ店放火殺人事件第1次再審請求において,大阪地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月15日,姫路郵便局強盗事件再審請求において,大阪高裁が破棄差戻決定を出した。
平成27年
11月6日,名張毒ぶどう酒事件第10次再審請求が出された。
10月23日,東住吉事件再審請求において,大阪高裁が検察側の即時抗告を棄却した。
10月15日,名張毒ぶどう酒事件第9次再審請求が請求人死亡により終了した。
9月30日,湖東記念病院第2次再審請求において,大津地裁が再審請求棄却決定を出した。
7月17日,恵庭殺人第1次再審請求において,札幌高裁が即時抗告棄却決定を出した。
7月8日,大崎事件第3次再審請求が出された。
6月24日,小石川事件再審請求が出された。
5月15日,名張毒ぶどう酒事件第9次再審請求が出された。
2月2日,大崎事件第2次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
1月9日,名張毒ぶどう酒事件第8次再審請求において,名古屋高裁が異議申立棄却決定を出した。
平成26年
12月10日,福井女子中学生殺人事件第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
7月15日,大崎事件第2次再審請求において,福岡高裁宮崎支部が検察側の即時抗告棄却決定を出した。
5月28日,名張毒ぶどう酒事件第8次再審請求において,名古屋高裁が再審請求棄却決定を出した。
同日,難波ビデオ店放火殺人事件において第1次再審請求が出された。
4月21日,恵庭殺人事件第1次再審請求において,札幌地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月28日,姫路郵便局強盗事件再審請求において,神戸地裁姫路市部が再審請求棄却決定を出した。
3月27日,袴田事件第2次再審請求において,静岡地裁が再審開始決定のほか,死刑及び拘置の執行停止決定を出した。
平成25年
11月5日,名張毒ぶどう酒事件第8次再審請求が出された。
10月16日,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
7月16日,マルヨ無線事件第7次再審請求が出された。
6月26日,マルヨ無線事件第6次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
3月6日,大崎事件第2次再審請求において,鹿児島地裁が再審請求棄却決定を出した。
同日,福井女子中学生第1次再審請求において,名古屋高裁が再審開始取消決定を出した。
平成24年
11月7日,東電OL殺人事件において,東京高裁が無罪判決を出した。
10月5日,恵庭殺人事件第1次再審請求が出された。
9月28日,湖東記念病院第2次再審請求が出された。
7月31日,東電OL殺人事件再審請求において,異議審としての東京高裁が検察側の異議申立棄却決定を出した。
6月7日,東電OL殺人事件再審請求において,東京高裁が再審開始決定を出した。
5月25日,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求において,名古屋高裁が再審請求棄却決定を出した。
5月23日,湖東記念病院第1次再審請求において,大阪高裁が即時抗告棄却決定を出した。
4月13日,鶴見事件第1次再審請求において,横浜地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月30日,日野町事件第2次再審請求が出された。
3月29日,マルヨ無線事件第6次再審請求において,福岡高裁が即時抗告棄却決定を出した。
3月12日,松橋事件再審請求が出された。
3月7日,東住吉事件再審請求において,大阪地裁が再審開始決定を出した。
3月2日,姫路郵便局強盗事件再審請求が出された。
平成23年
11月30日,福井女子中学生殺人事件第1次再審請求において,名古屋高裁金沢支部が再審開始決定を出した。
8月24日,湖東記念病院第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
5月24日,布川事件において,水戸地裁土浦支部が無罪判決を出した。
3月30日,湖東記念病院第1次再審請求において,大津地裁が再審請求棄却決定を出した。
平成22年
9月21日,湖東記念病院事件第1次再審請求が出された。
8月30日,大崎事件第2次再審請求が出された。
3月26日,足利事件において,宇都宮地裁が無罪判決を出した。
平成21年
12月14日,布川事件第2次再審請求において,最高裁が検察側の特別抗告棄却決定を出した。
8月7日,東住吉事件の女性被告人から再審請求が出された。
7月7日,東住吉事件の男性被告人から再審請求が出された。
6月23日,足利事件再審請求において,東京高裁が再審開始決定を出した。
平成20年
7月14日,布川事件第2次再審請求において,東京高裁が検察側の即時抗告棄却決定を出した。
4月25日,袴田事件第2次再審請求が出された。
4月5日,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求において,最高裁が破棄差戻決定を出した。
3月26日,マルヨ無線事件第6次再審請求において,福岡地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月24日,袴田事件第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
2月13日,足利事件再審請求において,宇都宮地裁が再審請求棄却決定を出した。
平成18年
12月26日,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求において,異議審としての名古屋高裁が再審開始取消決定を出した。
4月16日,鶴見事件第1次再審請求が出された。
3月27日,日野町事件第1次再審請求において,大津地裁が再審請求棄却決定を出した。
1月30日,大崎事件第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
平成17年
9月21日,布川事件第2次再審請求において,水戸地裁土浦支部が再審開始決定を出した。
4月5日,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求において,名古屋高裁が再審開始決定を出した。
3月24日,東電OL殺人事件再審請求が出された。
平成16年
12月9日,大崎事件第1次再審請求において,福岡高裁宮崎支部が再審開始取消決定を出した。
8月26日,袴田事件第1次再審請求において,東京高裁が即時抗告棄却決定を出した。
7月15日,福井女子中学生殺人事件第1次再審請求が出された。
平成14年
12月25日,足利事件再審請求が出された。
4月10日,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求が出された。
4月8日,名張毒ぶどう酒事件第6次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
3月26日,大崎事件第1次再審請求において,鹿児島地裁が再審開始決定を出した。
平成13年
12月6日,布川事件第2次再審請求が出された。
11月27日,日野町事件第1次再審請求が出された。
平成11年
9月10日,名張毒ぶどう酒事件第6次再審請求において,異議審としての名古屋高裁が異議申立棄却決定を出した。
平成10年
10月30日,マルヨ無線事件第6次再審請求が出された。
10月27日,マルヨ無線事件第5次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
10月8日,名張毒ぶどう酒事件第6次再審請求において,名古屋高裁が再審請求棄却決定を出した。
平成9年
1月30日,名張毒ぶどう酒事件第6次再審請求が出された。
1月28日,名張毒ぶどう酒事件第5次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
平成7年
4月19日,大崎事件第1次再審請求が出された。
3月28日,マルヨ無線事件第5次再審請求において,福岡高裁が即時抗告棄却決定を出した。
平成6年
8月9日,袴田事件第1次再審請求において,静岡地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月22日,榎井村事件において,高松高裁が無罪判決を出した。
平成5年
11月1日,榎井村事件再審請求において,高松高裁が再審開始決定を出した。
3月31日,名張毒ぶどう酒事件第5次再審請求において,異議審としての名古屋高裁が異議申立棄却決定を出した。
平成4年
9月9日,布川事件第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
平成2年
3月19日,榎井村事件再審請求が出された。
昭和63年
12月14日,名張毒ぶどう酒事件第5次再審請求において,名古屋高裁が再審請求棄却決定を出した。
10月5日,マルヨ無線事件第5次再審請求において,福岡地裁が再審請求棄却決定を出した。
2月22日,布川事件第1次再審請求において,東京高裁が即時抗告棄却決定を出した。
昭和62年
3月31日,布川事件第1次再審請求において,水戸地裁土浦支部が再審請求棄却決定を出した。
昭和58年
12月23日,布川事件第1次再審請求が出された。
昭和56年
4月20日,袴田事件第1次再審請求が出された。
昭和52年
5月18日,名張毒ぶどう酒事件第5次再審請求が出された。
昭和54年
2月1日,マルヨ無線事件第5次再審請求が出された。


第2 関連記事その他
1 えん罪被害者を一刻も早く救済するために再審法の速やかな改正を求める決議(2019年10月4日付)には以下の記載があります(改行を追加しています。)。
    1970年代から1980年代にかけては、「死刑再審4事件」で相次いで再審無罪判決が出たことによって、市民の関心が高まった時期もあった。
    しかし、その後の検察による激しい抵抗と裁判所の姿勢の後退によって、「再審冬の時代」、「逆流現象」などと言われるように、再審をめぐる状況は非常に厳しくなり、1990年代、当連合会の支援事件で再審が開始されたのは、榎井村事件(1993年(平成5年)11月に再審開始決定、1994年(平成6年)3月に再審無罪判決)のわずか1件にとどまった。
2 以下の記事も参照してください。
・ 刑事の再審事件
・ 刑事事件の上告棄却決定に対する異議の申立て
・ 司法研修所刑事裁判教官の名簿

刑事の再審事件

目次
第1部 未確定の再審事件(日弁連支援事件に限る。)
第1 日弁連支援の再審事件
1 再審事件に日弁連が支援するかどうかの基準
2 再審事件に対する日弁連の支援の内容
第2 再審開始決定が確定し,再審公判開始待ちの事件
1 袴田事件(最初の再審開始決定は平成26年3月27日,直近の決定は令和5年3月13日)
第3 再審開始決定が出たものの,特別抗告中の事件
1 日野町事件(最初の再審開始決定は平成30年7月11日,直近の決定は令和5年2月27日)
第4 再審開始決定が出たことがあるものの,その後に取り消されたため,改めて再審請求をしている事件(事件発生順)
1 大崎事件(最初の再審開始決定は平成14年3月26日。再審開始決定は3回)
2 名張毒ぶどう酒事件(唯一の再審開始決定は平成17年4月5日)
3 福井女子中学生殺人事件(唯一の再審開始決定は平成23年11月30日)
第5 再審開始決定が出たことがない事件(事件発生順)
1 マルヨ無線事件
2 鶴見事件
3 恵庭殺人事件
4 姫路郵便局強盗事件
5 豊川事件
6 小石川事件
7 難波ビデオ店放火殺人事件
第2部 日弁連支援事件で再審無罪が確定した事件
第1 個別の事件(免田事件以降の日弁連支援事件であり,無罪判決の年月日順)
1 免田事件(昭和58年7月15日無罪判決)
2 財田川事件(昭和59年3月12日無罪判決)
3 松山事件(昭和59年7月11日無罪判決)
4 徳島ラジオ商殺し事件(昭和60年7月9日判決無罪判決)
5 梅田事件(昭和61年8月27日無罪判決)
6 島田事件(平成元年1月31日無罪判決)
7 榎井村事件(平成6年3月22日無罪判決)
8 足利事件(平成22年3月26日無罪判決)
9 布川事件(平成23年5月24日無罪判決)
10 東電OL殺人事件(平成24年11月7日無罪判決)
11 東住吉事件(平成28年8月10日無罪判決)
12 松橋事件(平成31年3月28日無罪判決)
13 湖東記念病院事件(令和2年3月31日無罪判決)
第2 日弁連支援の再審無罪が確定した事件又は再審開始が確定した事件において,有罪方向の判断をした下級裁判所の裁判官
第3部 日弁連支援事件以外の再審事件
1 氷見事件(検察官の再審請求に基づき,平成19年10月10日無罪判決)
第2 再審無罪となった再審事件(事件発生日順)
1 暴力団組長覚醒剤密輸偽証事件(平成13年7月17日無罪判決)
2 ロシア人おとり捜査事件(平成29年3月7日無罪判決)
3 大阪市強姦虚偽証言再審事件(平成25年10月16日無罪判決)
第3 再審で免訴となった横浜事件
第4 有罪の判断が維持されている再審事件(事件発生日順)
1 三鷹事件
2 菊池事件
3 砂川事件
4 狭山事件
5 日産サニー事件(平成4年3月23日決定に再審開始決定が出たものの,その後に取り消された。)
6 飯塚事件(平成20年10月28日死刑執行)
7 和歌山毒物カレー事件
8 北陵クリニック事件
9 美濃加茂市長汚職事件
第4部 再審請求等に関する最高裁判例
第1 再審請求に関するもの
1 刑訴法435条6号の一般論に関する最高裁判例
2 再審事由の存否等の判断資料
3 前審に関与した裁判官の取扱い
4 再審請求事件の手続終了宣言
5 再審の審判手続は再審が開始した理由に拘束されないこと
6 その他の最高裁判例
第2 国家賠償請求に関するもの
1 司法警察員による留置の違法性
2 検察官による公訴の提起及び追行の違法性
3 裁判の違法性
4 公務員個人の責任は追及できないこと
第5部 関連記事その他
第1 日弁連HPの掲載資料
第2 再審に関する下級裁判所の決定を破棄した最高裁決定
第3 再審冬の時代
第4 再審請求で世論をあおるような行為は慎むべきとされていること
第5 再審事件の不服申立ての期限
第6 少年事件の再審制度
第7 民事事件の再審の請求期限
第8 関連記事その他メモ書き

* 私は,面識のない方からの刑事の再審事件のご依頼は一切取り扱っていません。

第1部 未確定の再審事件(日弁連支援事件に限る。)
第1 日弁連支援の再審事件
1 再審事件に日弁連が支援するかどうかの基準
(1) 「弁護士白書2022」「日弁連が支援している再審事件」には以下の記載があります。
    いわゆるえん罪は、基本的人権を踏みにじる最たるものである。日弁連人権擁護委員会は、次の3点を総合的に考慮して、人権侵犯事件として取り扱うか否かの判断を行っている。
(1)有罪の言渡をした確定判決又は控訴若しくは上告を棄却した確定判決が誤判である可能性
(2)再審請求に必要とされる新証拠が発見される可能性
(3)当該刑事事件の内容、性質、社会的影響等に照らし、本会が当該刑事事件の再審支援を行う必要性の程度及び相当性
    上記に基づき、再審の支援が決定された場合、同委員会内に当該事件の再審事件委員会が設置され、弁護人を派遣したり必要な費用の援助を行ったりするなどして、再審弁護活動を支援していくこととなる
(2) Wikipediaの「日本弁護士連合会が支援する再審事件」には「日本弁護士連合会が支援する再審事件が、冤罪ではなく確定判決の内容通り有罪だったと社会的に認知される形で支援を取り下げた例は一度もない。 」と書いてあります。
2 再審事件に対する日弁連の支援の内容
・ 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾101頁には「(3) 支援の内容」として以下の記載があります。
    再審請求の支援が決定されると,日弁連人権擁護委員会内に当該事件の再審事件委員会が設置される。再審事件委員会の構成としては,日弁連から当該事件の再審請求弁護人として派遣される弁護士が委員に選任されるほか,すでに当該事件の弁護団が編成されている場合は,その弁護団からも数人の弁護人が委員に選任され,これらの委員は当該事件の弁護人として再審請求の弁護活動に当たることになる。
    そして,再審事件委員会が設置されると,日弁連職員が担当事務局として配置され,記録の管理・謄写等の事務手続を担うことになる。また,再審事件委員会の会議費や委員の旅費のほか,再審開始・再審無罪を獲得するために必要な鑑定・実験等の費用の援助を日弁連から受けることができる。ただし,後者については,人権擁護委員会第1部会(再審部会)及び同常任委員会の承認が必要である。
    日弁連が当該事件には誤判の疑いがあると認定し,その再審請求の支援を決定することは,当該事件の当事者や支援者,そして弁護人にとって大きな励みになり,社会的には当該事件の再審開始・再審無罪獲得のための大きな原動力になっている。
    なお,日弁連が支援する再審事件の弁護活動は無償で行われており,上記各支援についても日弁連が費用を負担している。他方,日弁連が支援した再審事件につき無罪判決が確定したときは,申立人(当該事件の再審請求人)の御厚意により,今後の日弁連の再審請求支援活動の費用として役立てるため,申立人に支給される刑事補償金や費用補償金の一部を人権特別基金に寄付していただいている。


第2 再審開始決定が確定し,再審公判開始待ちの事件
1 袴田事件(最初の再審開始決定は平成26年3月27日,直近の決定は令和5年3月13日)
(1) 袴田事件は,昭和41年6月30日未明,静岡県清水市で発生した,味噌製造・販売会社の専務一家4人が殺害された強盗殺人・放火事件です。
(2)ア 昭和41年8月18日に袴田巌が逮捕され,同年9月6日に自白し,同月9日に起訴され,昭和42年8月31日,犯行現場近くの工場内味噌タンクから血痕が付着したズボン等「5点の衣類」が発見されました(自白調書では,犯行時の衣類はパジャマになっていました。)。
イ 袴田さん支援クラブHP「刑事司法の暗闇」には以下の記載があります。
    袴田事件の捜査会議では、こんな指示がありました。
8月29日静岡市内の本件警察寮芙蓉荘において本部長、刑事部長、捜一、鑑識両課長をはじめ清水署長、刑事課長、取調官による検討会を開催し、取調官から取調の経過を報告させ、今後の対策を検討した結果、袴田の取調べは情理だけでは自供に追込むことは困難であるから取調官は確固たる信念を持って、犯人は袴田以外にはない、犯人は袴田に絶対間違いないということを強く袴田に印象づけることにつとめる。

(中略)
    弁護士の面会(接見といいます)も制限してもよいことになっています。「捜査の都合」でほとんど接見を拒否するか、ほんのわずかな時間しか与えないのです。袴田事件の場合、捜査官の取り調べ時間は1日平均12時間、延べ280時間であったのに対して、その間の弁護人との接見時間はたった3回、ものの32分間でした。

(3) 静岡地裁昭和43年9月11日判決(担当裁判官は石見勝四,9期の高井吉夫及び15期の熊本典道)は死刑判決であり,東京高裁昭和51年5月18日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和55年11月19日判決は上告棄却判決でした。
(4) 日弁連は,昭和56年11月13日,袴田事件委員会を設置して再審支援を開始しました。
(5) 昭和56年4月20日に袴田巌本人から第1次再審請求が出されて,静岡地裁平成6年8月9日決定(裁判長は20期の鈴木勝利)は再審請求棄却決定であり,東京高裁平成16年8月26日決定(担当裁判官は21期の安廣文夫27期の小西秀宣及び28期の竹花俊徳)は即時抗告棄却決定であり,最高裁平成20年3月24日決定(担当裁判官は16期の今井功(元東京高裁長官),津野修(元内閣法制局長官),16期の中川了滋(元一弁会長)及び21期の古田佑紀(元次長検事))は特別抗告棄却決定(全員一致)でした。
(6)ア 平成20年4月25日に袴田ひで子(袴田巌の姉)から第2次再審請求が出されて,静岡地裁平成26年3月27日決定(担当裁判官は35期の村山浩昭51期の大村陽一及び新62期の満田智彦)は再審開始決定であり,その主文は「本件について再審を開始する。有罪の言渡を受けた者に対する死刑及び拘置の執行を停止する。」でありました。
    翌日午後6時頃,生き残っていた被害者一家の長女が亡くなっているのが自宅で発見されました。
イ 東京高裁平成30年6月11日決定(担当裁判官は32期の大島隆明39期の菊池則明及び57期の林欣寛)は再審請求棄却であり,最高裁令和2年12月22日決定裁判長は34期の林道晴)は破棄差戻決定でした。
    なお,最高裁令和2年12月22日決定の裁判官林景一,同宇賀克也の反対意見には,「原決定を取り消した上,本件を東京高等裁判所に差し戻すのではなく,検察官の即時抗告を棄却して再審を開始すべきであると考える。」とか,「私たちは,確定審におけるその他の証拠をも総合して再審を開始するとした原々決定は,その根幹部分と結論において是認できると考える。このような理由から,単にメイラード反応の影響等について審理するためだけに原裁判所に差し戻して更に時間をかけることになる多数意見には反対せざるを得ないのである。」と書いてありました(リンク先の21頁ないし32頁です。)。
ウ 差戻審としての東京高裁令和5年3月13日決定(裁判長は38期の大善文男)は再審開始決定となりました(NHK静岡放送局HPの「【詳報】袴田事件 再審開始決定! 東京高裁」(2023年3月13日付)参照)ところ,同決定では証拠捏造の可能性にまで言及しています。


(7)ア 日弁連HPに「袴田事件」のほか,「「袴田事件」再審開始支持決定を評価し、検察官特別抗告の断念を求める会長声明」(2023年3月13日付)が載っています。
イ 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾13頁ないし19頁に袴田事件が載っています。
ウ 「袴田事件 真犯人 自殺」で検索すれば,色々な憶測のネット記事が出てきます。
(8)ア 中日新聞HPの「家族で読み事件知って 袴田さん姉を漫画に」(2020年5月6日付)には「秀子さんは六人きょうだいの三女。中学卒業後に税務署に就職。民間の税理士事務所に移り、六六年の事件後は食品会社勤務を経て、袴田さんの弁護団の法律事務所で八十一歳まで働いた。」と書いてあります。
イ 平成21年3月,袴田ひで子が袴田巌の保佐人に選任され,令和4年4月,弁護団の弁護士が追加で袴田巌の保佐人に選任されました(あなたの静岡新聞HPの「袴田巌さん保佐人、弁護団から追加選任 東京家裁、姉高齢を考慮」(2022年6月30日付)参照)。


第3 再審開始決定が出たものの,特別抗告中の事件
1 日野町事件(最初の再審開始決定は平成30年7月11日,直近の決定は令和5年2月27日)

(1) 日野町事件は,滋賀県日野町豊田で酒店を営む女性店主が,昭和59年12月28日夜から翌朝までの間に行方不明となり,昭和60年1月18日,日野町内の宅地造成地の草むらの中で死体が発見され,さらに,同年4月28日,同町内の山中で被害者所有の手提げ金庫が発見された,強盗殺人事件です。
(2) 昭和63年4月2日に起訴され,大津地裁平成7年6月30日判決(担当裁判官は19期の中川隆司39期の坪井祐子及び42期の片山憲一)は無期懲役判決であり,大阪高裁平成9年5月30日判決(裁判長は13期の田崎文夫)は控訴棄却判決であり,最高裁平成12年9月27日決定(裁判長は7期の千種秀夫)は上告棄却決定でした。
(3)ア 平成13年11月27日に大津地裁に第1次再審請求が出されて,大津地裁平成18年3月27日決定(裁判長は37期の長井秀典)は再審請求棄却決定であり,平成23年3月18日に再審請求人が死亡したため,同月30日に終了しました。
イ 37期の長井秀典は,令和2年6月12日付の人事異動の結果,大阪高裁の裁判長として,日野町事件に関する第二次再審請求を担当することとなりましたところ,この点については,「日野町事件」について公平な裁判所による審理を求める会長声明(令和2年6月25日付)等で批判された結果,同月26日,裁判長を外れました。
(4)ア 平成24年3月30日に大津地裁に第2次再審請求が出されて,大津地裁平成30年7月11日決定(担当裁判官は52期の今井輝幸,57期の湯浅徳恵及び63期の加藤靖之)は再審開始決定を出し,大阪高裁令和5年2月27日決定(裁判長は39期の石川恭司)は検察側の即時抗告を棄却しました。
イ 日弁連HPに「「日野町事件」再審開始決定についての会長声明」(平成30年7月11日付)及び「「日野町事件」即時抗告棄却・再審開始維持決定についての会長声明」(令和5年2月27日付)が載っています。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾23頁ないし29頁に日野町事件が載っています。


第4 再審開始決定が出たことがあるものの,その後に取り消されたため,改めて再審請求をしている事件(事件発生順)
1 大崎事件(最初の再審開始決定は平成14年3月26日。再審開始決定は3回)
(1) 大崎事件は,昭和54年10月15日に鹿児島県曽於郡(そおぐん)大崎町の自宅併設の牛小屋堆肥置き場で,当時42歳で農業を営む家主の遺体が発見された殺人及び死体遺棄事件です。
(2) 鹿児島地裁昭和55年3月31日判決(裁判長は12期の朝岡智幸)は懲役10年の有罪判決であり,福岡高裁宮崎支部昭和55年10月14日判決(裁判長は9期の杉島廣利)は控訴棄却判決であり,最高裁昭和56年1月30日決定(裁判長は中村治朗)は上告棄却決定でした。
(3)ア 平成7年4月19日に第1次再審請求が出されて,鹿児島地裁平成14年3月26日決定(裁判長は32期の笹野明義)が再審開始決定を出し,福岡高裁宮崎支部平成16年12月9日決定(裁判長は24期の岡村稔)が検察官の即時抗告に基づき再審開始決定を取り消し,最高裁平成18年1月30日決定(裁判長は藤田宙靖)が特別抗告を棄却しました。
イ 日弁連HPに「会長談話(大崎事件再審開始決定の取消決定にあたって)」(平成16年12月10日付)が載っています。
(3) 平成22年8月30日に第2次再審請求が出されて,鹿児島地裁平成25年3月6日決定(裁判長は43期の中牟田博章)が再審請求を棄却し,福岡高裁宮崎支部平成26年7月15日決定(裁判長は30期の原田保孝)が弁護側の即時抗告を棄却し,最高裁平成27年2月2日決定(裁判長は21期の金築誠志)が特別抗告を棄却しました。
(4)ア 平成27年7月8日に第3次再審請求が出されて,鹿児島地裁平成29年6月28日決定(担当裁判官は47期の冨田敦史51期の山田直之及び57期の福田恵美子)が再審開始決定を出し,福岡高裁宮崎支部平成30年3月12日決定(担当裁判官は34期の根本渉56期の渡邉一昭及び57期の諸井明仁)が検察官の即時抗告を棄却したものの,最高裁令和元年6月25日決定(担当裁判官は29期の小池裕29期の池上政幸,29期の木澤克之,山口厚及び34期の深山卓也)が検察官の特別抗告に基づいて全員一致で再審開始決定を取り消しました。
イ 最高裁令和元年6月25日決定は,一,二審で認められた再審の開始を最高裁が覆した初のケースとされています(日弁連委員会ニュース2019年9月号所収の「日弁連人権ニュース81号」参照)。
    ただし,一審棄却で二審で認められた再審の開始を最高裁が覆したケースとしては,最高裁平成29年3月31日決定及び最高裁平成29年12月25日決定があります。
ウ 29期の池上政幸裁判官は,最高裁平成27年2月2日決定及び最高裁令和元年6月25日決定の両方に関与しました(西日本新聞HPの「大崎事件2次・3次最高裁決定 再審棄却 同じ判事関与 識者「公正中立さ欠く」」参照)。
エ 最高裁令和元年6月25日決定は,理由付けの結論として以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
    以上の検討を踏まえると,O鑑定にM・N新鑑定を含むその余の新証拠を併せ考慮してみても,確定判決の事実認定に合理的な疑いを抱かせるに足りるものとはいえない。
したがって,O鑑定が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとした原決定の判断には刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があり,O鑑定及びM・N新鑑定がそのような証拠に当たるとした原々決定の判断にも同様の違法があるといわざるを得ず,これらの違法が決定に影響を及ぼすことは明らかであり,これらを取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。


(5)ア 令和2年3月30日に第4次再審請求が出されて,鹿児島地裁令和4年6月22日決定(判例秘書に掲載。担当裁判官は46期の中田幹人,60期の冨田環志及び新64期の此上恭平)は再審請求を棄却しましたから,令和4年6月27日に即時抗告の申立てがありました。
イ 日弁連HPに「「大崎事件」再審請求棄却決定に関する会長声明」(令和4年6月22日付)が載っています。
ウ 日弁連委員会ニュース2022年9月号2頁の「真実から目をそらす裁判所 大崎事件第四次再審請求を鹿児島地裁が棄却」には以下の記載があります。
    第四次請求では、救命救急医による医学鑑定で、四郎の頸椎前出血は転落事故で生じ、頸椎前出血に伴って生じた頸髄損傷をIとTの不適切な救護活動が一気に悪化させ、死亡時期を早めたと明らかにする「澤野鑑定」、また、1.T供述について、犯罪捜査で採用されるテキスト・マイニングを用いたコンピュータによる供述分析の「稲葉鑑定」、供述者の「物語」ではなく「言葉」に焦点を当てたスキーマ・アプローチによる供述心理分析の「大橋・高木鑑定」を揃えました。これらの医学鑑定と供述鑑定は、車の両輪として、四郎は自宅到昔時に死亡していた可能性が高く、生きている四郎を土間に運んだという1.T供述が信用できないことを明らかにし、アヤ子さんらによる犯行が成立しないことを明らかにする「大崎事件史上、最強の証拠」でした。
    対する検察側の反論は不十分と言わざるを得ないもので、鑑定人の法医学者は、頸椎前出血が転落事故以外で起きたとするために、絞殺時に頸部の過伸展が生じて頸椎前出血が生じたという、自験例はもとより、法医学界で報告されたこともない機序を示したのです。
     裁判所は、五名の証人尋問を実施し、高齢のアヤ子さんを慮り迅速に審理すると明言するなど、積極的な姿勢を見せました。勝利を確信した弁護団は、再審開始決定を前提とした準備を始めました。私を含む三名の若手弁護士が「再審開始決定」の旗出し役を任され、決定日に備えました。

エ 15期の木谷明 元裁判官は,判例時報2535号(2022年12月21日号)に「再審における「明白性」の考え方──大崎事件第4次再審請求棄却決定に接して」を寄稿しています。
オ 福岡高裁宮崎支部令和5年6月5日決定は,
(6) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾20頁ないし23頁に大崎事件が載っています。


2 名張毒ぶどう酒事件(唯一の再審開始決定は平成17年4月5日)
(1) 名張毒ぶどう酒事件は,昭和36年3月28日の夜,三重県名張市葛尾の公民館で開かれた住民の懇親会において,ぶどう酒を飲んだ女性のうち,5名が死亡し,12名が入院した,殺人及び殺人未遂事件です。
(2) 津地裁昭和39年12月23日判決は無罪判決であり,名古屋高裁昭和44年9月10日判決は死刑判決であり,最高裁昭和47年6月15日判決は上告棄却判決でした。
(3) 昭和48年から昭和52年までの第1次ないし第4次再審請求は本人が行いました。
(4) 日弁連の支援を受けて昭和52年5月18日に第5次再審請求が出されて,名古屋高裁昭和63年12月14日決定(裁判長は3期の山本卓)は再審請求棄却決定であり,異議審としての名古屋高裁平成5年3月31日決定(裁判長は12期の本吉邦夫)は異議申立て棄却決定であり,最高裁平成9年1月28日決定(裁判長は6期の大野正男)は特別抗告棄却決定でした。
(5) 平成9年1月30日に第6次再審請求が出されて,名古屋高裁平成10年10月8日決定(裁判長は12期の土川孝二)は再審請求棄却決定であり,異議審としての名古屋高裁平成11年9月10日決定(裁判長は14期の笹本忠男)は異議申立て棄却決定であり,最高裁平成14年4月8日決定は特別抗告棄却決定(裁判長は13期の町田顕)でした。
(6)ア 平成14年4月10日に第7次再審請求が出されて,名古屋高裁平成17年4月5日決定(裁判長は19期の小出錞一)は再審開始決定を出し(13期の町田顕が最高裁判所長官をしていた時期です。),異議審としての名古屋高裁平成18年12月26日(裁判長は22期の門野博)は再審請求棄却決定を出し,最高裁平成22年4月5日決定(裁判長は19期の堀籠幸男)は原決定を取り消して事件を名古屋高裁に差し戻しました。
イ 差戻審としての名古屋高裁平成24年5月25日決定(裁判長は26期の下山保男)は再審請求を棄却し,最高裁平成25年10月16日決定は特別抗告を棄却しました。
(7) 平成25年11月5日,第8次再審請求が出されて,名古屋高裁平成26年5月28日決定(裁判長は30期の石山容示)は再審請求棄却決定であり,異議審としての名古屋高裁平成27年1月9日決定(裁判長は29期の木口信之)は異議申立棄却決定であり,平成27年5月15日に特別抗告が取り下げられました。
(8) 平成27年5月15日,第9次再審請求が出されたものの,同年10月4日に再審請求人が死亡したため,同月15日に終了しました。
(9)ア 平成27年11月6日,第10次再審請求(死後再審)が出されて,名古屋高裁平成29年12月8日決定(裁判長は34期の山口裕之)は再審請求棄却決定であり,異議審としての名古屋高裁令和4年3月3日決定(裁判長は37期の鹿野伸二)は異議申立棄却決定であり,令和4年3月8日に特別抗告したものの,最高裁令和6年1月29日決定は特別抗告を棄却しました(裁判官宇賀克也の反対意見の反対意見が付いています。)。
イ 日弁連委員会ニュース2022年6月号1頁に「科学的証拠を無視した不当決定 名張毒ぶどう酒事件第10次再審請求 ただちに特別抗告申立て」が載っています。
(10)ア 日弁連HPに「名張毒ぶどう酒事件」が載っている他,「「名張毒ぶどう酒事件」第10次再審請求異議申立棄却決定に対する会長声明」(令和4年3月3日付)が載っています。
イ 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾9頁ないし13頁に名張毒ぶどう酒事件が載っています。


3 福井女子中学生殺人事件(唯一の再審開始決定は平成23年11月30日)
(1) 福井女子中学生殺人事件は,昭和61年3月19日の夜に福井市内のアパートで発生した殺人事件です。
(2) 福井地裁平成2年9月26日判決(裁判長は20期の西村尤克)は無罪判決であり,名古屋高裁金沢支部平成7年2月9日判決(裁判長は14期の小島裕史)は懲役7年の判決であり,最高裁平成9年11月12日決定(裁判長は5期の大西勝也)は上告棄却決定でした。
(3)ア 平成16年3月19日に日弁連が再審支援を決定し,同年7月15日に再審請求が出されて,名古屋高裁金沢支部平成23年11月30日決定(裁判長は26期の伊藤新一郎)は再審開始決定であり,名古屋高裁平成25年3月6日決定(裁判長は27期の志田洋)は再審開始取消決定であり,最高裁平成26年12月10日決定(裁判長は24期の千葉勝美)は特別抗告棄却決定でした。
イ 福井弁護士会HPに「福井事件再審請求最高裁決定に対する会長声明」(平成26年12月18日付)が載っています。
(4) 令和4年10月14日に名古屋高裁金沢支部に第2次再審請求が出されました(中日新聞HPの「福井女子中学生殺人事件 前川さん第2次再審請求 「無罪勝ち取るまで戦う」 」参照)。
(5)ア 日弁連HPに「「福井女子中学生殺人事件」再審異議審決定(請求棄却)に関する会長声明」(平成25年3月6日付)が載っています。
イ 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾29頁ないし32頁に福井女子中学生殺人事件が載っています。

第5 再審開始決定が出たことがない事件(事件発生順)
1 マルヨ無線事件
(1) マルヨ無線事件は,昭和41年12月5日にマルヨ無線株式会社で発生した強盗殺人事件及び現住建造物放火事件です。
(2) 福岡地裁昭和43年12月24日判決は死刑判決であり,福岡高裁昭和45年3月20日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和45年11月12日判決は上告棄却判決でした。
(3) 第1次ないし第4次再審請求は被告人本人が請求しました。
(4) 昭和54年2月1日に日弁連支援により第5次再審請求が出されて,福岡地裁昭和63年10月5日決定(裁判長は19期の小出錞一)は再審請求棄却決定であり,福岡高裁平成7年3月28日決定(裁判長は12期の池田憲義)は即時抗告棄却決定であり,最高裁平成10年10月27日決定(裁判長は12期の金谷利廣)は特別抗告棄却決定でした。
(5) 平成10年10月30日に第6次再審請求が出されて,福岡地裁平成20年3月26日決定(裁判長は30期の林田宗一)は再審請求棄却決定であり,福岡高裁平成24年3月29日決定(裁判長は28期の服部悟)は即時抗告棄却決定であり,最高裁平成25年6月26日決定(裁判長は26期の山浦善樹(元弁護士))は特別抗告棄却決定でした。
(6) 平成25年7月16日に第7次再審請求が出されました。
(7) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾16頁ないし19頁にマルヨ無線事件が載っています。

2 鶴見事件
(1) 鶴見事件は,昭和63年6月20日に横浜市鶴見区で発生した強盗殺人事件です。
(2) 横浜地裁平成7年9月7日判決(裁判長は17期の上田誠治)は死刑判決であり,東京高裁平成14年11月14日判決は控訴棄却判決(裁判長は20期の中西武夫)であり,最高裁平成18年3月28日判決は上告棄却判決(裁判長は19期の堀籠幸男)でした。
(3) 平成18年4月16日に第1次再審請求が出されて,横浜地裁平成24年4月13日決定(裁判長は32期の大島隆明)は再審請求棄却決定であり,平成29年8月25日に日弁連が支援決定をして,同年12月27日に第1次再審請求が取り下げられました。
(4) 平成29年12月27日,第2次再審請求が横浜地裁に出されたものの,令和3年11月11日,再審請求人の死亡により再審請求終了決定が出ました。
(5) 令和3年12月24日,第3次再審請求(死後再審)が出されて,横浜地裁令和5年11月7日決定(裁判長は45期の丹羽敏彦)は再審請求棄却決定でした。
(6) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾32頁ないし35頁に鶴見事件が載っています。

3 恵庭殺人事件
(1) 恵庭殺人事件は,平成12年3月16日に北海道恵庭市で発生した殺人・死体損壊事件です。
(2) 札幌地裁平成15年3月31日判決(裁判長は32期の遠藤和正)は懲役16年の有罪判決であり,札幌高裁平成17年9月29日判決(裁判長は23期の長島孝太郎)は控訴棄却判決であり,最高裁平成18年9月25日決定(裁判長は16期の島田仁郎)は上告棄却決定でした。
(3) 平成24年10月5日に第1次再審請求が出されて,札幌地裁平成26年4月21日決定(裁判長は41期の加藤学)は再審請求棄却決定であり,札幌高裁平成27年7月17日決定(裁判長は33期の高橋徹)は即時抗告棄却決定であり,最高裁平成28年6月13日決定(裁判長は26期の山浦善樹(元弁護士))は特別抗告棄却決定でした。
(4) 平成29年1月10日に第2次再審請求が出されて,同年10月18日に日弁連が支援決定をして,札幌地裁平成30年3月20日決定(裁判長は47期の金子大作)は再審請求棄却決定であり,札幌高裁平成30年8月27日決定(裁判長は37期の登石郁朗)は即時抗告棄却決定であり,最高裁令和3年4月12日決定は特別抗告棄却決定でした。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾35頁ないし39頁に恵庭殺人事件が載っています。

4 姫路郵便局強盗事件
(1) 姫路郵便局強盗事件は,平成13年6月29日午後3時頃に兵庫県姫路市で発生した強盗事件です。
(2) 神戸地裁姫路支部平成16年1月9日判決(裁判長は43期の小倉哲治)は懲役6年の有罪判決であり,大阪高裁平成17年11月24日判決(裁判長は20期の瀧川義道)は控訴棄却判決であり,最高裁平成18年4月19日決定(裁判長は18期の才口千晴)は上告棄却決定でした。
(3)ア 平成24年3月2日に再審請求が出されて,平成25年4月19日に日弁連が再審支援を決定し,神戸地裁姫路支部平成26年3月28日決定(裁判長は44期の溝國禎久)は再審請求棄却決定であり,大阪高裁平成28年3月15日決定(裁判長は32期の笹野明義)は破棄差戻しであり,最高裁平成29年10月30日決定(裁判長は林景一)は特別抗告棄却決定でした。
イ 差戻審としての神戸地裁令和2年6月15日決定は再審請求棄却決定であり,大阪高裁令和3年6月30日決定(裁判長は35期の村山浩昭)は即時抗告棄却決定であり,最高裁令和4年3月30日決定(裁判長は山口厚)は特別抗告棄却決定でした。
(4) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾39頁ないし42頁に姫路郵便局強盗殺人事件が載っています。

5 豊川事件
(1) 豊川事件は,平成14年7月28日に愛知県豊川市で発生した未成年者略取及び殺人事件です。
(2) 名古屋地裁平成18年1月24日判決(裁判長は26期の伊藤新一郎)は無罪判決であり,名古屋高裁平成19年7月6日判決(裁判長は22期の前原捷一郎)は懲役17年の有罪判決であり,最高裁平成20年9月30日決定は上告棄却決定(裁判長は21期の古田佑紀)でした。
(3) 平成28年7月15日に再審請求が出されて,名古屋高裁平成31年1月25日決定(裁判長は34期の山口裕之)は再審請求棄却決定であり,令和4年12月20日現在,異議審が係属中です(読売新聞オンラインの「豊川男児殺害で弁護団が意見書 再審請求異議審」(2022年12月20日付)参照)。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾42頁ないし45頁に豊川事件が載っています。

6 小石川事件
(1) 小石川事件は,平成14年7月31日に東京都文京区小石川所在のマンションで発生した強盗殺人事件です。
(2) 東京地裁平成16年3月29日判決は無期懲役判決であり,東京高裁平成16年12月21日判決は控訴棄却判決であり,最高裁平成17年6月17日決定は上告棄却決定でした。
(3)ア 平成27年6月24日に再審請求が出されて,東京地裁令和2年3月31日決定(裁判長は44期の小森田恵樹)は再審請求棄却決定であり,東京高裁令和令和4年4月7日決定(裁判長は38期の大善文男)は即時抗告棄却決定であり,最高裁令和4年12月12日決定(裁判長は40期の渡邉恵理子(元弁護士))は特別抗告棄却決定でした。
イ 日弁連委員会ニュース2023年3月号4頁に「不当決定三たび~小石川事件 最高裁特別抗告棄却~」が載っています。
(4) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾46頁ないし51頁に小石川事件が載っています。

7 難波ビデオ店放火殺人事件
(1) 難波ビデオ店放火殺人事件は,平成20年10月1日に大阪市浪速区難波のビデオ店で発生した,殺人,殺人未遂,現住建造物放火殺人事件です。
(2) 大阪地裁平成21年12月2日判決(裁判長は34期の秋山敬)は死刑判決であり,大阪高裁平成23年7月26日判決(裁判長は28期の的場純男)は控訴棄却判決であり,最高裁平成26年3月6日判決(裁判長は24期の横田尤孝)は上告棄却判決でした。
(3) 平成26年5月28日に大阪地裁に再審請求が出されて,大阪地裁平成28年3月30日決定(裁判長は39期の橋本一)は再審請求棄却決定であり,大阪高裁平成30年10月9日決定(裁判長は34期の樋口裕晃)は即時抗告棄却決定であり,令和元年6月20日に日弁連が再審支援を決定し,最高裁令和元年7月17日決定(裁判長は31期の宮崎裕子)は特別抗告棄却決定でした。
(4) 令和元年11月5日に第2次再審請求が出されました。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾53頁ないし56頁に難波ビデオ店放火殺人事件が載っています。

第2部 日弁連支援事件で再審無罪が確定した事件
第1 個別の事件(免田事件以降の日弁連支援事件であり,無罪判決の年月日順)
1 免田事件(昭和58年7月15日無罪判決)
(1) 免田事件は,昭和23年12月30日に熊本県人吉市で発生した強盗殺人事件であり,免田栄が犯人として逮捕されました。
(2) 熊本地裁八代支部昭和25年3月23日判決は死刑判決であり,福岡高裁昭和26年3月19日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和26年12月25日判決は上告棄却判決でした。
(3) 第3次再審請求では,熊本地裁八代支部昭和29年5月18日決定は再審開始決定であり,福岡高裁昭和34年4月15日決定は再審開始取消決定であり,最高裁昭和34年12月6日決定は特別抗告棄却決定でした。
(4) 昭和47年に第6次再審請求が出されて,熊本地裁八代支部昭和51年4月30日決定(担当裁判官は松村利教,21期の神吉正則及び23期の牧弘二)は再審請求棄却決定であり,福岡高裁昭和54年9月27日決定(裁判長は1期の山本茂11期の川崎貞夫及び17期の矢野清美)は再審開始決定であり,最高裁昭和55年12月11日決定(判例秘書に掲載)は特別抗告棄却決定でありますところ,特別抗告棄却決定の理由付けは「記録によれば、請求人提出にかかる証拠の新規性及び明白性を認めて本件再審請求を認容すべきものとした原決定の判断は、正当として是認することができる。」というものでした。
(5)ア 再審公判において検察官は2度目の死刑求刑を行いましたが,熊本地裁八代支部昭和58年7月15日判決(担当裁判官は16期の河上元康,期外の豊田圭一及び32期の松下潔)は無罪判決となり,昭和58年7月28日に検察官は控訴を断念しました。
イ 死刑囚に対しては初となる再審無罪判決でした。
ウ 日弁連HPに「免田事件の無罪判決確定にあたって」(昭和58年7月28日付)が載っています。

2 財田川事件(昭和59年3月12日無罪判決)
(1) 財田川事件は,昭和25年2月28日,香川県三豊郡(みとよぐん)財田村(さいたむら)(現在の三豊市)で発生した強盗殺人事件です。
(2) 高松地裁昭和27年2月20日判決は死刑判決であり,高松高裁昭和31年6月8日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和32年1月22日判決は上告棄却判決でした。
(3) 昭和32年3月30日に第1次再審請求が出されて,高松地裁昭和33年3月20日決定は再審請求棄却決定であり,即時抗告されずにそのまま確定しました。
(4)ア 昭和44年4月に申立人が裁判所に提出した無実を訴える私信が第2次再審請求として受理されて,高松地裁昭和47年9月30日決定は再審請求棄却決定であり,高松高裁昭和49年12月5日決定は即時抗告棄却決定でしたが,最高裁昭和51年10月12日決定は破棄差戻しであり,高松地裁昭和54年6月7日決定は再審開始決定でした。
イ(ア) 第2次再審請求を受理した矢野伊吉高松地家裁丸亀支部長は再審請求人の無実を確信するに至ったものの,他の陪席裁判官の反対にあって再審を断念し,昭和45年8月6日に任期終了退官し,同年11月24日に高松弁護士会(現在の香川県弁護士会)で弁護士登録をしました。
(イ) 矢野伊吉は弁護人として財田川事件の再審請求をするようになったものの,無罪判決が出る前の昭和58年3月18日に死亡しました。
(5)ア 高松地裁昭和59年3月12日判決(担当裁判官は7期の古市清,21期の横山敏夫及び33期の横山光雄)は無罪判決となり,検察官は控訴を断念しました。
イ 日弁連HPに「財田川事件の無罪判決確定について」(昭和59年3月23日付)が載っています。

3 松山事件(昭和59年7月11日無罪判決)
(1) 松山事件は,昭和30年10月18日に,宮城県志田郡松山町(現在の大崎市)で発生した放火殺人事件です。
(2) 仙台地裁古川支部昭和32年10月29日判決は死刑判決であり,仙台高裁昭和34年5月26日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和35年11月1日判決は上告棄却判決でした。
(3) 昭和36年3月20日に第1次再審請求が出されて,仙台地裁古川支部昭和39年4月30日決定は再審請求棄却決定であり,仙台高裁昭和41年5月13日決定は即時抗告棄却決定であり,最高裁昭和44年5月27日決定は特別抗告棄却決定でした。
(4)ア 昭和44年6月7日に第2次再審請求が出されて,仙台地裁古川支部昭和46年10月26日決定は再審請求棄却決定であり,仙台高裁昭和48年9月18日決定は差戻し決定でした。
イ 仙台地裁昭和54年12月6日決定は再審開始決定であり,
仙台高裁昭和58年1月31日決定は即時抗告棄却決定でした。
(5)ア 仙台地裁昭和59年7月11日判決(担当裁判官は11期の小島建彦,26期の片山俊雄及び30期の加藤謙一)は無罪判決であり,検察官は控訴を断念しました。
イ 日弁連HPに「松山事件再審無罪判決言渡しについて」(昭和59年7月11日付)が載っています。

4 徳島ラジオ商殺し事件(昭和60年7月9日無罪判決)
(1) 徳島ラジオ商殺し事件は,昭和28年11月5日に徳島市で発生した強盗殺人事件であり,被告人は殺害されたラジオ商の内縁の妻でした。
(2) 徳島地裁昭和31年4月18日判決は懲役13年の有罪判決であり,高松高裁昭和32年12月21日判決は控訴棄却判決であり,被告人が昭和33年5月10日に上告を取り下げたために有罪判決が確定しました。
(3)ア 第6次再審請求に基づき,徳島地裁昭和55年12月13日決定は再審開始決定となりました。
イ 徳島地裁昭和60年7月9日判決は無罪判決でした。

5 梅田事件(昭和61年8月27日無罪判決)
(1) 梅田事件は,昭和25年10月10日,北海道北見市の山径上で北見営林局の職員が現金19万円を奪われて殺害され,現場付近に埋められていたのが6か月後に発見された
という事件であり,本件の主犯とされる者は,当初は単独犯行であると供述していたが,その後,梅田義光に殺害させたと供述したことから,その供述を根拠に梅田義光が逮捕・起訴されました。
(2) 釧路地裁網走支部昭和29年7月7日判決は無期懲役判決であり,その後の控訴及び上告は棄却されました。
(3) 第2次再審請求に基づき,釧路地裁網走支部昭和57年12月20日決定は再審開始決定となり,札幌高裁昭和60年2月4日は即時抗告棄却決定でした。
(4) 釧路地裁昭和61年8月27日判決は無罪判決であり,同年9月8日,検察官が控訴断念を発表しました(日弁連HPの「梅田事件再審無罪判決確定にあたって」(昭和61年9月8日付)参照)。

6 島田事件(平成元年1月31日無罪判決)
(1) 島田事件は,昭和29年3月10日に静岡県島田市で発生した幼女誘拐殺人,死体遺棄事件です。
(2) 静岡地裁昭和33年5月23日判決は死刑判決であり,東京高裁昭和35年2月17日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和35年12月5日判決は上告棄却判決でした
(3)ア 昭和44年5月9日に第4次再審請求が出されて,静岡地裁昭和52年3月11日決定は再審請求棄却決定であり,東京高裁昭和58年5月23日判決は差戻決定でした。
イ 静岡地裁昭和61年5月30日決定は再審開始決定であり,東京高裁昭和62年3月25日決定は即時抗告棄却決定であり,検察官は特別抗告をしませんでした(日弁連HPの「島田事件再審開始決定に対する検察官の特別抗告断念にあたって」(昭和62年3月31日付)参照)。
(4)ア 再審公判において検察官は2度目の死刑求刑を行いましたが,静岡地裁平成元年1月31日判決(担当裁判官は14期の尾崎俊信,28期の高梨雅夫及び37期の桜林正己)は無罪判決であり,検察官は平成元年2月10日に控訴を断念しました。
イ 日弁連HPに「島田事件無罪判決への控訴断念について」(平成元年2月10日付)が載っています。
(5) Wikipediaの「紅林麻雄」(袴田事件発生前の昭和38年7月に警察を辞職しました。)には以下の記載があります。
自身が担当した幸浦事件死刑判決の後、無罪)、二俣事件(死刑判決の後、無罪)、小島事件無期懲役判決の後、無罪)、島田事件(死刑判決の後、無罪)の各事件で無実の者から拷問自白を引き出し、証拠捏造して数々の冤罪を作った。
(中略)
上記4事件のうち島田事件を除く3事件が一審・二審の有罪判決の後に無罪となり、島田事件も最高裁での死刑判決確定後の再審で無罪が確定した。

7 榎井村事件(平成6年3月22日無罪判決)
(1) 榎井村事件は,昭和21年8月21日午前2時頃に香川県仲多度郡(なかたどぐん)榎井村(えないむら)(現在の琴平町)で発生した殺人事件です。
(2) 高松地裁昭和22年12月8日判決は無期懲役判決であり,高松高裁昭和23年11月9日判決は懲役15年の有罪判決であり,最高裁昭和24年4月28日決定は上告棄却決定でした。
(3) 平成2年3月19日に再審請求が出されて,高松高裁平成5年11月1日決定(担当裁判官は9期の村田晃18期の山脇正道及び26期の湯川哲嗣)は再審開始決定でした。
(4) 高松高裁平成6年3月22日判決(担当裁判官は13期の米田俊昭18期の山脇正道及び26期の湯川哲嗣)は無罪判決でした。

8 足利事件(平成22年3月26日無罪判決)
(1) 足利事件は,平成2年5月12日,栃木県足利市にあるパチンコ店の駐車場から女児が行方不明になり,翌日の朝,近くの渡良瀬川の河川敷で女児の遺体が発見された,殺人・死体遺棄事件です。
(2) 宇都宮地裁平成5年7月7日判決(裁判長は22期の久保真人)は無期懲役判決であり,東京高裁平成8年5月9日判決(裁判長は14期の高木俊夫)は控訴棄却判決であり,弁護人の求めを拒否してDNA型鑑定の再鑑定がされないまま出された最高裁平成12年7月17日決定(裁判長は10期の亀山継夫)は上告棄却判決でした。
(3) 平成14年12月25日に再審請求があり,宇都宮地裁平成20年2月13日決定(裁判長は31期の池本寿美子裁判官)は再審請求棄却決定であり,平成20年12月24日に23期の田中康郎東京高裁裁判長がDNA型の再鑑定を決定し,平成21年6月4日に再審請求人が釈放され,東京高裁平成21年6月23日決定は再審開始決定(26期の矢村宏裁判官)でした。
(4) 宇都宮地裁平成22年3月26日判決(裁判長は45期の佐藤正信裁判官)は無罪判決となり,同日,宇都宮地検が上訴権を放棄して即日確定となりました。
(5)ア 検察庁HPに載っていた「いわゆる足利事件における捜査・公判活動の問題点等について(概要)」(平成22年4月の最高検察庁の文書)を掲載しています。
イ 警察庁HPに載っていた「足利事件における警察捜査の問題点等について(概要)」(平成22年4月の警察庁の文書)を掲載しています。
(6) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾63頁ないし67頁に足利事件が載っています。

9 布川事件(平成23年5月24日無罪判決)
(1) 布川事件は,昭和42年8月30日の朝,茨城県北相馬郡利根町布川(ふかわ)で,独り暮らしだった大工の男性(当時62歳)が,仕事を依頼しに来た近所の人によって自宅8畳間で他殺体で発見された殺人事件です。
(2) 水戸地裁土浦支部昭和45年10月6日判決は無期懲役判決であり,東京高裁昭和48年12月20日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和53年7月3日決定は上告棄却決定でした。
(3) 昭和58年12月23日に第1次再審請求申立てがありましたところ,水戸地裁土浦支部昭和62年3月31日(裁判長は21期の榎本豊三郎)は再審請求を棄却し,東京高裁昭和63年2月22日決定(裁判長は7期の小野幹雄裁判官)は弁護側の即時抗告を棄却し,最高裁平成4年9月9日決定(裁判長は3期の大堀誠一)は弁護側の特別抗告を棄却しました。
(4)    平成13年12月6日に第2次再審請求がありましたところ,水戸地裁土浦支部平成17年9月21日決定(裁判長は32期の彦坂孝孔)は再審開始決定を出し,東京高裁平成20年7月14日決定(裁判長は22期の門野博裁判官)は検察側の即時抗告を棄却し,最高裁平成21年12月14日決定(裁判長は竹内行夫)は検察側の特別抗告を棄却しました。
(5) 水戸地裁土浦支部平成23年5月24日判決(担当裁判官は47期の神田大助,52期の朝倉(吉田)静香及び59期の信夫絵里子)は,再審無罪を言い渡しました。
(6) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾56頁ないし60頁に布川事件が載っています。

10 東電OL殺人事件(平成24年11月7日無罪判決)
(1) 東電OL殺人事件は,平成9年3月19日に東京都渋谷区にあるアパートの1室から東京電力に勤務していた女性の死体が発見された殺人事件です。
(2) 東京地裁平成12年4月14日判決(裁判長は25期の大渕敏和)は無罪判決であり,東京高裁平成12年12月22日判決(裁判長は14期の高木俊夫)は無期懲役判決であり,最高裁平成15年10月20日決定(裁判長は藤田宙靖)は上告棄却決定でした。
(3) 平成17年3月24日に再審請求が出されて,東京高裁平成24年6月7日決定(裁判長は29期の小川正持)は再審開始決定であり,異議審としての東京高裁平成24年7月31日決定(裁判長は28期の八木正一)は異議申立棄却決定でした。
(4) 東京高裁平成24年11月7日判決(裁判長は29期の小川正持)は無罪判決でした。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾67頁ないし71頁に東電OL殺人事件が載っています。

11 東住吉事件(平成28年8月10日無罪判決)
(1) 東住吉事件は,平成7年7月22日午後4時50分頃,大阪市東住吉区内の自宅において火災が発生し,小学6年生の女児が焼死したという事件であり,被告人は女児の母親及びその内縁の夫です。
(2)ア 内縁の夫に関しては,大阪地裁平成11年3月30日判決(裁判長は29期の川合昌幸)は無期懲役判決であり,大阪高裁平成16年12月20日判決(裁判長は21期の近江清勝)は控訴棄却判決であり,最高裁平成18年11月24日決定(裁判長は15期の上田豊三)は上告棄却決定でした。
イ 母親に関しては,大阪地裁平成11年5月18日判決(裁判長は32期の毛利晴光)は無期懲役判決であり,大阪高裁平成16年11月2日判決(裁判長は18期の白井万久)は控訴棄却判決であり,最高裁平成18年12月11日決定(裁判長は津野修)は上告棄却決定でした。
(3)ア 平成21年7月7日及び同年8月7日に再審請求が出されて,大阪地裁平成24年3月7日決定(裁判長は32期の水島和男)は再審開始決定であり,大阪高裁平成27年10月23日決定(裁判長は30期の米山正明)は即時抗告棄却決定でした。
イ 大阪地裁平成28年8月10日判決(裁判長は46期の西野吾一)は無罪判決でした。
(4) 被告人の背景事情については,デイリー新潮HPの「新聞は一切書かない東住吉放火冤罪「釈放男」が女児に許されざる暴行」が参考になります。)。
(5) 大阪高裁令和5年2月9日判決(担当裁判官は39期の牧賢二42期の和久田斉及び49期の西森みゆき)は,元金ベースで大阪府に対して1224万4094円の支払を命じた大阪地裁の判決に対する女児の母親及び大阪府の控訴を棄却しました。
(6) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾71頁ないし75頁に東住吉事件が載っています。


12 松橋事件(平成31年3月28日無罪判決)
(1) 松橋事件は,昭和60年1月上旬頃,熊本県下益城郡松橋町(まつばせまち)(現在の宇城市)で発生した殺人事件です。
(2) 熊本地裁昭和61年12月22日判決(裁判長は12期の荒木勝己裁判官)は懲役13年を言い渡し,福岡高裁昭和63年6月2日判決(裁判長は2期の生田謙二裁判官)は被告人の控訴を棄却し,最高裁平成2年1月26日決定(裁判長は高輪2期の大内恒夫裁判官)は被告人の上告を棄却しました。
(3)ア 平成24年3月12日に再審請求があり,熊本地裁平成28年6月30日決定(裁判長は44期の溝国禎久裁判官)が再審開始を決定し,福岡高裁平成29年11月29日決定(裁判長は32期の山口雅高裁判官)が検察官の即時抗告を棄却し,最高裁平成30年10月10日決定(裁判長は32期の菅野博之裁判官)が検察官の特別抗告を棄却しました。
イ 熊本地裁平成31年3月28日判決(裁判長は44期の溝国禎久裁判官)は無罪判決でしたた。
(4) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾60頁ないし63頁に松橋事件が載っています。

13 湖東記念病院事件(令和2年3月31日無罪判決)
(1) 湖東記念病院事件は,平成15年5月22日,滋賀県愛知郡湖東町(現在の東近江市)の湖東記念病院で人工呼吸器のチューブが外れて入院中の男性患者が死亡したという事件です。
(2) 湖東記念病院の看護助手(平成16年7月逮捕)に対し,大津地裁平成17年11月29日判決(裁判長は37期の長井秀典)は懲役12年の有罪判決であり,大阪高裁平成18年10月5日判決(裁判長は26期の若原正樹)は控訴棄却判決であり,最高裁平成19年5月21日決定(裁判長は15期の泉徳治)は上告棄却決定でした。
(3) 平成22年9月21日に第1次再審請求が出されて,大津地裁平成23年3月30日決定は再審請求棄却決定(裁判長は39期の坪井祐子)であり,大阪高裁平成23年5月23日決定(裁判長は26期の松尾昭一)は即時抗告棄却決定であり,最高裁平成23年8月24日決定は特別抗告棄却決定でした。
(4)ア 平成24年9月28日に第2次再審請求が出されて,大津地裁平成27年9月30日決定(裁判長は47期の川上宏)は再審請求棄却決定であり,大阪高裁平成29年12月20日決定(裁判長は35期の後藤真理子)は再審開始決定であり,最高裁平成31年3月18日決定(裁判長は32期の菅野博之)は特別抗告棄却決定でした。
イ 大津地裁令和2年3月31日判決(裁判長は47期の大西直樹)は無罪判決でした。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾52頁及び53頁に湖東記念病院事件が載っています。

第2 日弁連支援の再審無罪が確定した事件又は再審開始が確定した事件において,有罪方向の判断をした下級裁判所の裁判官
・ 2期の生田謙二
→ 松橋事件
・ 7期の小野幹雄
→ 布川事件
・ 9期の高井吉夫
→ 袴田事件
・ 12期の荒木勝己
→ 松橋事件
・ 14期の高木俊夫
→ 足利事件,東電OL殺人事件
・ 18期の白井万久
→ 東住吉事件
・ 20期の鈴木勝利
→ 袴田事件
・ 21期の榎本豊三郎
→ 布川事件
・ 21期の安廣文夫
→ 袴田事件
・ 21期の近江清勝
→ 足利事件
・ 21期の神吉正則
→ 免田事件
・ 22期の久保真人
→ 足利事件
・ 23期の牧弘二
→ 免田事件
・ 26期の松尾昭一
→ 湖東記念病院事件
・ 26期の若原正樹
→ 湖東記念病院事件
・ 27期の小西秀宣
→ 袴田事件
・ 28期の竹花俊徳
→ 袴田事件
・ 29期の川合昌幸
→ 東住吉事件
・ 31期の池本寿美子
→ 足利事件
・ 32期の大島隆明
→ 袴田事件
・ 32期の毛利晴光
→ 東住吉事件
・ 37期の長井秀典
→ 湖東記念病院事件
・ 39期の坪井祐子
→ 湖東記念病院事件
・ 39期の菊池則明
→ 袴田事件
・ 47期の川上宏
→ 湖東記念病院事件
・ 57期の林欣寛
→ 袴田事件

第3部 日弁連支援以外の再審事件
第1 氷見事件(検察官の再審請求に基づき,平成19年10月10日無罪判決)
1 氷見事件は,平成14年1月14日及び同年3月13日に富山県氷見市(ひみし)で相次いで発生した強姦および強姦未遂事件であり,犯人としてタクシー運転手の男性Xが誤認逮捕された冤罪事件です。
2 富山地裁高岡支部平成14年11月27日(担当裁判官は43期の中牟田博章)は,氷見事件で起訴されたXに対し,懲役3年・未決勾留日数130日算入の有罪判決を言い渡しました。
3(1) 平成19年1月19日に真犯人が逮捕され,富山地検高山支部は同年2月9日に真犯人を起訴するとともに,Xへの無罪判決を求める再審を請求しました。
(2) 富山地裁高岡支部平成19年10月10日判決(裁判長は33期の藤田敏)は無罪判決となりました(Wikipediaの「氷見事件」参照)。
4(1) NAVERまとめに「【冤罪も謝罪無し】氷見事件の様子が放送され富山県警に批判殺到で大荒れ #アンビリバボー」が載っています。
(2) 桜井昌司『獄外記』「鹿児島入り」(2012年11月14日付)に以下の記載があります。
   大崎事件の再審請求を担当する中牟田博章裁判長は、富山地裁在任当時、氷見事件を担当して、柳原さんを有罪にした。
   その後、真犯人が鳥取県で犯行を重ねて逮捕され、中牟田裁判長の誤判も明らかになったのだ。
5 検察庁HPに「いわゆる氷見事件及び志布志事件における捜査・公判活動の問題点等について」(平成19年8月の最高検察庁の文書)が載っています。
6  公文書毀棄の公訴事実を肯認しうる証拠として犯行を目撃したとするYの証言しかなく,被告人は一貫として犯行を否認し,被告人にとって有利なFほか四名の証言も存在する場合に,上告審になって,真犯人が別におり起訴猶予処分に付された旨の検察官の答弁書が提出されたときは,前記Yの証言を信用して被告人に対し有罪の言渡をした一,二審判決には重大な事実誤認の疑いがあるものとしてこれを破棄すべきものとなります(最高裁昭和47年2月10日判決)。
7 氷見事件の元被告人が提起した国家賠償請求事件において,富山地裁平成27年3月9日判決(裁判長は42期の阿多麻子)は,以下のとおり判示して1500万円の慰謝料を認めました。
   原告(山中注:氷見事件の元被告人)は、平成一四年四月八日以降、被告Y1ら本件警察官らにより強い心理的圧迫を伴う取調べを受け、犯行態様の主要な部分について漫然と「確認的」取調べ方法を行うという違法な誘導により虚偽自白を余儀なくされ、これに基づき、無実の罪で約二年一か月間服役することとなった。原告は、家族からも、未成年の女性に対する連続強姦及び強姦未遂事件の犯人と認識され、刑務所での服役中は面会に訪れる者もなく、仮出獄後も家族に身元引受人を断られ、更生保護施設での生活を余儀なくされた。また、原告は、刑の執行後も、家族や周囲から「強姦犯人として逮捕され、服役した者」として排斥されて事実上自宅に住めなくなり、運転他行業、ホテルや不燃ごみの仕分け等により収入を得ることはあったものの、十分な労働の機会は得られなかった。さらに、再審無罪判決が確定し、性犯罪者でないことが公になった後も、平成一四年の有罪判決及び服役の影響が完全に消失しなかったことから、原告は、周囲からの好奇の目により富山県内に居づらくなり東京に転居し、現在もPTSD症状とみられる、突発的な希死念慮、侵入性想起、回避症状等を訴えている。

第2 再審無罪となった再審事件(事件発生日順)
1 暴力団組長覚醒剤密輸偽証事件(平成13年7月17日無罪判決)
(1) 暴力団組長覚醒剤密輸偽証事件は,昭和56年7月に元暴力団組長が傷害罪及び覚せい剤取締法違反等で逮捕された事件です。
(2) 福岡地裁昭和57年9月30日判決は懲役16年の有罪判決であり,控訴及び上告を経て昭和60年4がつ4日に確定しました。
(3) 平成5年7月1日に第3次再審請求が出されて,福岡地裁平成8年3月31日決定は再審開始決定であり,福岡高裁平成12年2月29日決定は即時抗告棄却決定であり,同年3月7日に再審開始決定が確定しました。
(4) 福岡地裁平成13年7月17日決定(担当裁判官は22期の濱崎裕41期の向野剛及び53期の岡崎忠之)は無罪判決でした(ただし,再審開始事由ではない傷害罪については懲役1年6月となりました。)。

2 ロシア人おとり捜査事件(平成29年3月7日無罪判決)
(1) ロシア人おとり捜査事件は,ロシア人船員であった請求人(当時27歳)が,平成9年11月13日,けん銃1丁,実包16発等を持って小樽に来航し,翌14日,けん銃及び実包を持って船舶から降り,船舶が停泊していた場所から
ほど近い現場で,北海道警察本部生活安全部銃器対策課の警察官らにより,銃刀法違反の罪で現行犯逮捕された事件です。
(2) 札幌地裁平成10年8月25日判決(裁判長は26期の矢村宏)は懲役2年の判決であり,同年9月9日に確定しました。
(3) 平成25年9月25日に再審請求が出されて,札幌地裁平成28年3月3日判決(裁判長は46期の佐伯恒治)は再審開始決定であり,
札幌高裁平成28年10月26日決定(裁判長は33期の高橋徹)は即時抗告棄却決定であり,同年11月1日に同決定が確定しました。
(4) 札幌地裁平成29年3月7日判決(裁判長は中桐圭一)は無罪判決であり,同日に確定しました。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾91頁ないし93頁にロシア人おとり捜査事件が載っています。

3 大阪市強姦虚偽証言再審事件(平成25年10月16日無罪判決)
(1) 大阪市強姦虚偽証言再審事件は,請求人(当時61歳)が平成16年頃から繰り返し少女を強姦していたとして逮捕され,平成20年9月30日に強制わいせつ罪で,同年11月12日に強姦罪で起訴された事件です。
(2) 大阪地裁平成21年5月15日判決(裁判長は34期の杉田宗久)は懲役12年の判決であり,大阪高裁平成22年7月21日判決(裁判長は26期の湯川哲嗣)は控訴棄却判決であり,最高裁平成23年4月21日決定(裁判長は28期の岡部喜代子)は上告棄却決定でした。
(3) 平成26年9月12日に再審請求が出されて,大阪地裁平成27年2月27日判決(裁判長は37期の登石郁朗)は再審開始決定となり,同決定は即時抗告されずに確定しました。
(4) 大阪地裁平成27年10月16日判決(裁判長は40期の芦高源)は無罪判決でした。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾94頁及び95頁にロシア人おとり捜査事件が載っていますところ,「⑤確定審の裁判所の判断」として以下の記載があります。
    「弱冠14歳の少女がありもしない強姦被害等をでっち上げるまでして親族を告訴することは非常に考えにくい」「そのような稀有なことがあるとすればよほどの特殊な事情がなければならない」などとして,少女の供述が虚偽である可能性は基本的に乏しいという見方をした。そして客観証拠が無く,前記のように変遷や不自然があるにもかかわらず,いずれも小さな問題であるとして,少女の供述の信用性を肯定した。
    控訴審においては,弁護人は前記のように,少女の医療機関の受診歴を調査するための事実取調べ請求を行ったが,裁判所はその請求を却下した。

第3 再審で免訴となった横浜事件
1(1) 横浜事件は,治安維持法違反の容疑で編集者,新聞記者ら約60人が逮捕され,約30人が有罪となり,4人が獄死した刑事事件であり,元中央公論編集者の妻ら元被告人5人の遺族AないしEが平成10年8月14日に第3次再審請求を申し立てていました。
(2) 横浜事件の被告人らは,大赦令(昭和20年10月17日勅令第579号)に基づき大赦を受けていました。
2 第3次再審請求に基づき,横浜地裁平成15年4月15日決定(担当裁判官は26期の矢村宏45期の柳澤直人及び53期の石井芳明)は再審開始決定となり,東京高裁平成17年3月10日決定(担当裁判官は20期の中川武隆32期の毛利晴光及び37期の鹿野伸二)は検察側の即時抗告棄却決定であり,特別抗告なしに確定しました。
3 横浜地裁平成18年2月9日判決は刑訴法337条2号に基づく免訴判決であり,東京高裁平成19年1月19日判決(担当裁判官は22期の阿部文洋28期の高梨雅夫及び40期の森浩史)は控訴棄却判決であり,最高裁平成20年3月14日判決は上告棄却判決でした。
4(1) 横浜事件の別の被告人の遺族V及びWは平成14年3月15日に第4次再審請求をしたところ,横浜地裁平成20年10月31日決定は再審開始決定であり,横浜地裁平成21年3月30日決定(担当裁判官は32期の大島隆明,53期の五島真希及び59期の横倉雄一郎)は免訴判決でした。
(2) 横浜地裁平成21年3月30日決定は,名誉回復は刑事補償請求の中で,一定程度は図ることができると判示しため,控訴されずに確定しました。

第4 有罪の判断が維持されている再審事件(事件発生日順)
1 三鷹事件
(1) 三鷹事件は,昭和24年7月15日午後9時24分(当時のサマータイムの時間で,現在の午後8時24分),東京都北多摩郡三鷹町(現在の三鷹市)と武蔵野市にまたがる日本国有鉄道中央本線三鷹駅構内で起きた無人列車暴走事件であり,再審請求人だけが有罪となり,残り9人の被告人は無罪となりました。
(2)ア 東京地裁昭和25年8月11日判決(裁判長は鈴木忠五)は無期懲役判決であり,東京高裁昭和26年3月30日判決(裁判長は田中薫)は死刑判決であり,最高裁大法廷昭和30年6月22日判決(裁判長は田中耕太郎)は上告棄却判決であり,最高裁昭和30年12月23日決定は判決訂正申立棄却決定でした。
イ 最高裁大法廷昭和30年6月22日判決では,8対7という意見の相違がある事件(意見の内訳は,8人が上告棄却(死刑確定),7人が破棄差戻し(死刑判決の審理やり直し))であり,かつ,地裁判決の無期懲役が書面審理だけの高裁判決で死刑に変更された重大事件であるにもかかわらず,「理由がないことが明らかである」場合にのみ適用される刑訴法408条に基づき(判決文12頁),弁論を開かないで判決をしたことが物議を醸しました。
   そのため,最高裁大法廷昭和30年6月22日判決より後は,どの小法廷においても,また,大法廷においても,死刑事件については必ず弁論を開くようになりました(「最高裁判決の内側」(昭和40年8月30日発行)142頁及び143頁参照)。
(3) 昭和31年2月3日に第1次再審請求が出されたものの,昭和42年1月18日に収監先の東京拘置所で病死したため,昭和42年6月7日に再審請求手続が終了しました。
(4) 平成23年11月10日に長男から第2次再審請求が出されたものの,東京高裁令和元年7月31日決定(担当裁判官は35期の後藤眞理子47期の金子大作及び51期の福島直之)は再審請求棄却決定となり,異議審としての東京高裁令和4年3月1日決定(裁判長は40期の伊藤雅人)は異議申立棄却決定となり,令和5年3月18日現在,特別抗告が係属中と思います。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾75頁ないし77頁に三鷹事件が載っています。

2 菊池事件
(1) 菊池事件(別名は「藤本事件」です。)は,熊本県菊池郡において,①昭和26年8月1日に発生したダイヤマイトによる爆破事件(第1事件),及び②昭和27年7月7日に第1事件の被害者が惨殺されているのが発見された殺人事件(第2事件)であり,被告人がハンセン病療養者であったことから,ハンセン病療養所内の特別法廷で公判が実施されました。
(2) 第1事件に関しては懲役10年の有罪判決となり(昭和28年9月15日上告棄却決定),第2事件に関しては,熊本地裁昭和28年8月29日判決(裁判長は竜口甚七)は死刑判決であり,福岡高裁昭和29年12月13日判決(裁判長は西岡稔)は控訴棄却判決であり,最高裁昭和32年8月23日判決(裁判長は小西勝重)は上告棄却判決でした。
(3) 昭和37年9月13日,熊本地裁が第3次再審請求を棄却し,同月14日,福岡刑務所に移送された上で死刑が執行されました。
(4) 熊本地裁令和2年2月26日判決(判例秘書に掲載)は,菊池事件の審理が憲法違反だったかどうかが焦点となった訴訟において,「特別法廷での審理は人格権を侵害し、患者であることを理由とした不合理な差別で、憲法に違反する」との判断を示したものの,賠償請求は棄却しました(東京新聞HPの「ハンセン病特別法廷 違憲 熊本地裁判決「不合理な差別」」参照)。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾77頁ないし81頁に菊池事件が載っています。

3 砂川事件
(1) 砂川事件は,昭和32年7月8日,特別調達庁東京調達局が強制測量をした際に,在日米軍立川基地の拡張に反対するデモ隊の一部が立ち入り禁止の境界柵を壊し,立川基地内に数メートル立ち入ったとして,デモ隊のうち7名が日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(日米地位協定の前身です。)違反で起訴された事件です。
(2)ア 東京地裁昭和34年3月30日判決(裁判長は伊達秋雄)は無罪判決であり,跳躍上告に基づく最高裁大法廷昭和34年12月16日判決(裁判長は田中耕太郎)は破棄差戻し判決でした。
イ 差戻審としての東京地裁昭和36年3月27日判決(裁判長は岸盛一)は罰金2000円の有罪判決であり,最高裁昭和38年12月7日決定は上告棄却決定でした。
(3) 平成26年6月17日に再審請求が出されて,東京地裁平成28年3月8日決定(裁判長は41期の田邊三保子)は再審請求棄却決定であり,東京高裁平成29年11月15日決定(裁判長は33期の秋葉康弘)は即時抗告棄却決定であり,最高裁平成30年7月18日決定(裁判長は32期の菅野博之)は特別抗告棄却決定でした。

4 狭山事件
(1) 狭山事件は,昭和38年5月1日,埼玉県狭山市で女子高校生が下校後行方不明となり,その夜に身代金を要求する脅迫状が届けられ,脅迫状で指定された翌日,警察が犯人を取り逃すという大失態を犯し,同月4日に農道に埋められていた被害者の死体が発見された事件です。
(2) 浦和地裁昭和39年3月11日判決(裁判長は内田武文)は死刑判決であり,東京高裁昭和49年10月31日判決(裁判長は寺尾正二)は無期懲役判決であり,最高裁昭和52年8月9日決定(裁判長は吉田豊)は上告棄却決定でした。
(3) 昭和52年8月30日に第1次再審請求が出されて,東京高裁昭和55年2月5日決定(裁判長は1期の四ツ谷巌)は再審請求棄却決定であり,異議審としての東京高裁昭和56年3月23日決定(裁判長は2期の新関雅夫)は異議申立棄却決定であり,最高裁昭和60年5月27日決定(裁判長は大橋進)は特別抗告棄却決定でした。
(4) 昭和61年8月21日に第2次再審請求が出されて,東京高裁平成11年7月8日決定(裁判長は14期の高木俊夫)は再審請求棄却決定であり,異議審としての東京高裁平成14年1月23日決定(裁判長は20期の高橋省吾)は異議申立棄却決定であり,最高裁平成17年3月16日決定は特別抗告棄却決定(裁判長は16期の島田仁郎)でした。
(5) 平成18年5月23日に第3次再審請求が出され,令和5年3月14日現在,東京高裁に係属中です(毎日新聞HPの「冤罪訴える石川一雄さん「次は狭山だ」 袴田事件の再審開始決定で」参照)。
(6) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾81頁ないし84頁に狭山事件が載っています。

5 日産サニー事件(平成4年3月23日決定に再審開始決定が出たものの,その後に取り消された。)

(1) 日産サニー事件は,昭和42年10月27日に福島県いわき市の日産サニー福島販売で発生した強盗殺人事件です。
(2) 福島地裁いわき支部昭和44年4月2日判決は無期懲役判決であり,仙台高裁昭和45年4月16日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和46年4月19日決定は上告棄却決定でした。
(3) 福島地裁平成4年3月23日決定(担当裁判官は22期の西理,24期の園田小次郎及び35期の中村俊夫)は再審開始決定であったものの,仙台高裁平成7年5月10日決定(担当裁判官は11期の藤井登葵夫,17期の田口祐三及び21期の富塚圭介)は再審開始取消決定であり,最高裁平成11年3月9日決定(裁判長は7期の尾崎行信)は特別抗告棄却決定でした。

6 飯塚事件(平成20年10月28日死刑執行)
(1) 飯塚事件は,平成4年2月20日に福岡県飯塚市で小学1年生の女児2名が行方不明になり,翌日に他殺体となって発見された事件です。
(2) 福岡地裁平成11年9月29日判決(裁判長は24期の陶山博生)は死刑判決であり,福岡高裁平成13年10月10日判決(裁判長は19期の小出錞一)は控訴棄却判決であり,最高裁平成18年9月8日判決(裁判長は15期の滝井繁男)は上告棄却判決であり,平成20年10月28日に死刑が執行されました。
(3) 平成21年10月28日に再審請求(死後再審)が出されて,福岡地裁平成26年3月31日決定(裁判長は44期の平塚浩司)は再審請求棄却決定であり,福岡高裁平成30年2月6日決定(裁判長は34期の岡田信)は即時抗告棄却決定であり,最高裁令和3年4月21日決定(裁判長は小池裕)は特別抗告棄却決定でした。
(4) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾84頁及び86頁に飯塚事件が載っています。

7 和歌山毒物カレー事件
(1) 和歌山毒物カレー事件は,平成10年7月25日に和歌山市園部で発生した毒物混入・無差別大量殺傷事件であり,カレーを食べた67人が急性ヒ素中毒となり,そのうちの4人が死亡した事件です。
(2)ア 和歌山地裁平成14年12月11日判決(裁判長は28期の小川育央)は死刑判決であり,大阪高裁平成17年6月28日判決(裁判長は18期の白井万久)は控訴棄却判決であり,最高裁平成21年4月21日判決(裁判長は21期の那須弘平(元弁護士))は上告棄却判決でした。
イ 最高裁平成21年4月21日判決は,「カレー毒物混入事件の犯行動機が解明されていないことは,被告人が同事件の犯人であるとの認定を左右するものではない。」と判示しています。
(3) 平成21年7月22日に第1次再審請求が出されて,和歌山地裁平成29年3月29日決定(裁判長は40期の浅見健次郎)は再審請求棄却決定であり,大阪高裁令和3年3月24日決定(裁判長は34期の樋口裕晃)は即時抗告棄却決定であり,令和3年6月20日付で特別抗告が取り下げられました。
(4) 令和3年5月31日に第2次再審請求が出されました。

8 北陵クリニック事件

(1) 北陵クリニック事件(Wikipediaでは,「筋弛緩剤点滴事件」です。)は,平成12年に宮城県・仙台市泉区の北陵クリニック(平成15年3月31日廃院)で発生した患者殺傷事件です。
(2) 仙台地裁平成16年3月30日判決(裁判長は27期の畑中英明)は無期懲役判決であり,仙台高裁平成18年3月22日判決(裁判長は24期の田中亮一)は控訴棄却判決であり,最高裁平成20年2月25日決定(裁判長は藤田宙靖)は上告棄却決定でした。
(3) 平成24年2月10日に再審請求が出されて,仙台地裁平成26年3月25日決定(裁判長は45期の河村俊哉)は再審請求棄却決定であり,仙台高裁平成30年3月28日決定は即時抗告棄却決定(裁判長は32期の嶋原文雄)であり,最高裁令和元年11月13日決定(裁判長は林景一)は特別抗告棄却決定でした。
(4) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾86頁ないし91頁に北陵クリニック事件が載っています。

9 美濃加茂市長汚職事件
(1) 美濃加茂市長汚職事件は,藤井浩人 美濃加茂市長(平成25年6月2日当選)が市議時代に自身の出身中学校への雨水濾過機設置に便宜を図った見返りに,名古屋市北区の浄水設備業者社長から,現金30万円を2回に分けて受け取った疑いがあるとして,平成26年6月24日,愛知県警・岐阜県警による合同捜査本部は事前収賄容疑等により藤井を逮捕した事件です。
(2)ア 名古屋地裁平成27年3月5日判決(裁判長は45期の鵜飼祐充56期の伊藤大介及び64期の柘植明子)は無罪判決であり,名古屋高裁平成28年11月28日判決(担当裁判官は35期の村山浩昭50期の大村泰平及び55期の赤松亨太)は逆転有罪判決(懲役1年6月・執行猶予3年・追徴金30万円)であり,最高裁平成29年12月13日決定(裁判長は27期の山崎敏充)は上告棄却決定でした。
イ Wikipediaの「藤井浩人」には「2021年夏、藤井の陣営は電話による世論調査を実施し、市民の反応を探った。「無実だと思う」「わからない」がそれぞれ4割、「有罪だと思う」は2割にとどまった。」と書いてあります。
(3) 令和3年11月30日に再審請求が出されて,名古屋高裁令和5年2月1日決定(裁判長は41期の田邊三保子)は再審請求棄却決定でした。



第4部 再審請求等に関する最高裁判例
第1 再審請求に関するもの
1 刑訴法435条6号の一般論に関する最高裁判例
(1)ア 最高裁昭和50年5月20日決定(白鳥事件に関するものですから,「白鳥決定」といいます。)の裁判要旨は以下のとおりです。
① 刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる盡然性のある証拠をいう。
② 刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとすれば、はたしてその確定判決においてされたような事実認定に到達したであろうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべきである。
③ 刑訴法436条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」であるかどうかの判断に際しても、再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用される。
イ 白鳥事件は,昭和27年1月21日に札幌市で発生した,日本共産党による白鳥警部射殺事件です。
(2) 刑訴法435条6号の再審事由の存否を判断するに際しては,F作成の前記書面等の新証拠とその立証命題に関連する他の全証拠とを総合的に評価し,新証拠が確定判決における事実認定について合理的な疑いをいだかせ,その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠(最高裁昭和50年5月20日決定最高裁昭和51年10月12日決定財田川事件に関するもの),名張毒ぶどう酒事件に関する最高裁平成9年1月28日決定参照)であるか否かを判断すべきであり,その総合的評価をするに当たっては,再審請求時に添付された新証拠及び確定判決が挙示した証拠のほか,たとい確定判決が挙示しなかったとしても,その審理中に提出されていた証拠,更には再審請求後の審理において新たに得られた他の証拠をもその検討の対象にすることができます(マルヨ無線事件に関する最高裁平成10年10月27日決定)。
2 再審事由の存否等の判断資料
・ 狭山事件に関する最高裁平成17年3月16日決定(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
① (山中注:4つの鑑定書)は,第1次再審請求で上記と同一の論点について刑訴法435条6号の再審事由として主張されて既に判断を経たものであり,これを今回の第2次再審請求で再び再審事由として主張することは,刑訴法447条2項に照らし不適法である。
② (山中注:異議審において初めて提出された鑑定書が)異議申立ての趣意の理解に資する参考資料とする趣旨であるならばともかく,これらを再審事由として追加的に異議審で主張する趣旨であるとすれば,再審請求審の決定の当否を事後的に審査する異議審の性格にかんがみ,不適法といわざるを得ない。
③ 
弁護人は再審請求審でその主張する他の論点の裏付けとなる資料として上記供述調書(山中注:第一審の第1回公判で撤回された検察官請求証拠)を援用したものであるが,再審請求手続に上程した以上は,これを再審事由の存否等の判断資料として考慮することは許されると解すべきである。
④ 再審請求段階で検察官が提出した反論のための証拠を再審事由の判断資料として考慮し得ることは,最高裁平成7年(し)第49号同10年10月27日第三小法廷決定・刑集52巻7号363頁参照

3 前審に関与した裁判官の取扱い
(1)ア 再審請求の目的となつた確定判決に関与した裁判官であっても再審請求事件の裁判に関与することができます(最高裁昭和34年2月19日決定)。
イ 関連事件の控訴審の審判を担当した裁判官が,再審請求事件の抗告審の審判に関与しても,憲法37条1項の公平な裁判所の裁判でないとはいえません(最高裁昭和47年10月23日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和25年4月12日判決)。
(2)  裁判官が公訴棄却の判決をし,又はその判決に至る手続に関与したことは,その手続において再起訴後の第1審で採用された証拠又はそれと実質的に同一の証拠が取り調べられていても,再起訴後の審理において,刑訴法20条7号本文所定の除斥原因に当たりません(最高裁平成17年8月30日決定)。
4 再審請求事件の手続終了宣言
(1) 最高裁平成3年1月25日決定は,旧刑訴法による再審請求事件の特別抗告審において申立人の死亡により再審請求事件の手続の終了宣言がされた事例です。
(2) 最高裁平成16年6月24日決定は,再審請求事件の特別抗告審において申立人の死亡により再審請求事件の手続の終了宣言がされた事例です。
(3) 最高裁平成25年3月27日決定は,再審請求事件の特別抗告審において有罪の言渡しを受けた者の兄である申立人の死亡により再審請求事件の手続の終了宣言がされた事例です。
(4) 最高裁平成26年1月27日決定は,有罪の言渡しを受けた者の養子である申立人の死亡を理由とする旧刑訴法による再審請求事件の手続終了宣言に対する特別抗告が棄却された事例です。
5 再審の審判手続は再審が開始した理由に拘束されないこと
・ 再審制度がいわゆる非常救済制度であり,再審開始決定が確定した後の事件の審判手続が,通常の刑事事件における審判手続と,種々の面で差異があるとしても,同制度は,所定の事由が認められる場合に,当該審級の審判を改めて行うものであって,その審判は再審が開始された理由に拘束されるものではありません(横浜事件に関する最高裁平成20年3月14日判決)。
6 その他の最高裁判例
(1)  海軍軍法会議が言い渡した有罪の確定判決に対しては,旧刑訴法485条による再審の請求が許されます(最高裁昭和63年4月12日決定)。
(2)  旧刑事訴訟法の下において有罪の確定判決を受けた事件に対する再審請求につき高裁がした決定に対し,刑訴応急措置法18条により最高裁判所に申し立てられた特別抗告については,刑訴法411条3号は準用されません(最高裁平成2年10月17日決定)。
(3)  再審判決の一部有罪部分についての執行猶予付き本刑に裁定算入及び法定通算された未決勾留は,再審判決確定当時既に執行猶予期間が満了し本刑の執行の可能性がない場合には,刑事補償の対象となります(最高裁平成6年12月19日決定)。
(4) 高等裁判所のした再審請求棄却決定に対し再度の事実審理を受ける機会を設けなかった裁判所法,刑訴応急措置法,刑訴法施行法の各規定は憲法11条,13条,14条1項,31条,32条に違反しません(最高裁平成15年10月20日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和23年2月6日判決,最高裁大法廷昭和23年3月10日判決,最高裁大法廷昭和23年7月19日判決及び最高裁平成2年10月17日決定参照)。
(5)  即時抗告の申立てを受理した裁判所は,刑訴法375条を類推適用してその申立てを自ら棄却することはできません(最高裁平成18年4月24日決定)。
(6)ア 旧刑訴法適用事件について再審が開始された場合,その対象となった判決の確定後に刑の廃止又は大赦があったときは,再審開始後の審判手続においても,同法363条2号,3号の適用を排除して実体判決をすることはできず,免訴判決が言い渡されます(最高裁平成20年3月14日判決)。
イ 再審の審判手続が開始されてその第1審判決及び控訴審判決がそれぞれ言い渡され,更に上告に及んだ後に,当該再審の請求人が死亡しても,同請求人が既に上告審の弁護人を選任しており,かつ,同弁護人が,同請求人の死亡後も引き続き弁護活動を継続する意思を有する限り,再審の審判手続は終了しません(最高裁平成20年3月14日判決)。
(7) 再審請求人により選任された弁護人が記録確認を目的として当該再審請求がされた刑事被告事件に係る保管記録の閲覧を請求した場合には,同弁護人は,刑事確定訴訟記録法4条2項ただし書にいう「閲覧につき正当な理由があると認められる者」に該当し,保管検察官は,同項5号の事由の有無にかかわらず,保管記録を閲覧させなければなりません(最高裁平成21年9月29日決定)。
(8)  第1審裁判所と控訴裁判所に再審請求が競合した場合において,控訴を棄却した確定判決に対する再審請求が適法な再審事由の主張がないため不適法であることが明らかなときは,控訴裁判所は,刑訴規則285条1項による訴訟手続の停止をすることなく,当該再審請求を棄却することも許されます(最高裁平成24年2月14日決定)。
(9)  刑訴法448条2項による刑の執行停止決定に対しては,同法419条による抗告をすることができます(最高裁平成24年9月18日決定)。
(10) 再審請求人が,住居の届出をした後,裁判所に対してその変更届出等をしてこなかった一方で,裁判所も,同人の所在を把握できず,その端緒もなかったなどの判示の事実関係の下では,同人が別件で刑事施設に収容されていたとしても,上記届出住居に宛てて行った同人に対する再審請求棄却決定謄本の書留郵便に付する送達は,刑訴規則63条1項によるものとして有効です(最高裁平成27年3月24日決定)。
(11) 刑訴法435条1号にいう「確定判決」とは,刑事の確定判決をいうものと解すべきであり,民事の確定判決やこれと同一の効力を有する和解調書等は含まれません(最高裁平成31年2月12日決定)。

第2 国家賠償請求に関するもの
1 司法警察員による留置の違法性
 司法警察員による被疑者の留置については,司法警察員が,留置時において,捜査により収集した証拠資料を総合勘案して刑訴法203条1項所定の留置の必要性を判断する上において,合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず,あえて留置したと認め得るような事情がある場合に限り,右の留置について国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けます(最高裁平成8年3月8日判決(判例秘書に掲載))。
2 検察官による公訴の提起及び追行の違法性
(1) 刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに公訴の提起が違法となるということはなく、公訴提起時の検察官の心証は、その性質上、判決時における裁判官の心証と異なり、右提起時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により被告人を有罪と認めることができる嫌疑があれば足りるものと解すベきである(最高裁平成5年11月25日判決(判例秘書に掲載)。なお,先例として,最高裁昭和53年10月20日判決)。
(2)ア 公訴提起時において,検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により被告人を有罪と認めることができる嫌疑があれば、右公訴の提起は違法性を欠きます(最高裁平成5年11月25日判決(判例秘書に掲載)。なお,先例として,最高裁平成元年6月29日判決)。
イ 最高裁平成26年3月6日判決(判例秘書に掲載)は, 強制わいせつ致傷罪で起訴され,無罪判決を受けた元被告人が,検察官の公訴提起は,有罪判決を得る合理的な根拠がないのにされた違法なものと主張し,国賠法に基づく損害賠償を求めた事案において,国の上告に基づき原判決を破棄した上で,元被告人の請求を棄却しました。
(3) 再審により無罪判決が確定した場合であっても,公訴の提起及び追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があったときは,検察官の公訴の堤起及び追行は国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為に当たりません(最高裁平成2年7月20日判決)。
3 裁判の違法性
・ 再審により無罪判決が確定した場合であっても,裁判官がした裁判につき国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が認められるためには,当該裁判官が,違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合であることを要します(最高裁平成2年7月20日判決)。
4 公務員個人の責任は追及できないこと
    国家賠償法1条1項は,公務員が,公権力の行使にあたって故意又は過失によって違法に他人に損害を与えたときにおいて,国又は公共団体が賠償責任を負うとしており,同項により,公務員個人の責任を追及できないとする最高裁判例としては例えば,以下のものがあります。
・ 最高裁昭和30年 4月19日判決
・ 最高裁昭和40年 3月 5日判決
・ 最高裁昭和40年 9月28日判決
・ 最高裁昭和46年 9月 3日判決
・ 最高裁昭和47年 3月21日判決
・ 最高裁昭和52年10月25日判決
・ 最高裁昭和53年10月20日判決
・ 最高裁平成 9年 9月 9日判決
・ 最高裁平成19年 1月25日判決

第5部 関連記事その他
第1 日弁連HPの掲載資料
1 日弁連HPの「再審法改正に向けた取組(再審法改正実現本部)」以下の資料が載っています。
・ 再審における証拠開示の法制化を求める意見書(2019年5月10日付)
・ えん罪被害者を一刻も早く救済するために再審法の速やかな改正を求める決議(2019年10月4日付)
 刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」(2023年2月17日付)

2 日弁連HPの「弁護士白書2022」に,「日弁連が支援している再審事件」及び「日弁連が支援した再審事件の成果」が載っています。
3 日弁連HPに2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書が載っています。
第2 再審に関する下級裁判所の決定を破棄した最高裁決定
1 下級裁判所の再審開始決定を破棄した最高裁決定としては以下のものがあります。
① 最高裁平成29年 3月31日決定(刑訴法411条1号準用)
② 最高裁平成29年12月25日決定(刑訴法411条1号準用)
③ 大崎事件に関する最高裁令和 元年 6月25日決定(刑訴法411条1号準用)
2 下級裁判所の再審請求棄却決定を破棄した最高裁決定としては以下のものがあります。
① 財田川事件に関する最高裁昭和51年10月12日決定
② 名張毒ぶどう酒事件に関する最高裁平成22年4月5日決定
③ 袴田事件に関する最高裁令和2年12月22日決定
3 上記6つの最高裁決定はすべて,原決定には刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があるということで刑訴法434条・426条2項・411条1号に基づく職権発動としての破棄決定であって,刑訴法433条・405条所定の抗告理由に基づくものではありません。
第3 再審冬の時代

・ えん罪被害者を一刻も早く救済するために再審法の速やかな改正を求める決議(2019年10月4日付)には以下の記載があります(改行を追加しています。)。
    1970年代から1980年代にかけては、「死刑再審4事件」で相次いで再審無罪判決が出たことによって、市民の関心が高まった時期もあった。
    しかし、その後の検察による激しい抵抗と裁判所の姿勢の後退によって、「再審冬の時代」、「逆流現象」などと言われるように、再審をめぐる状況は非常に厳しくなり、1990年代、当連合会の支援事件で再審が開始されたのは、榎井村事件(1993年(平成5年)11月に再審開始決定、1994年(平成6年)3月に再審無罪判決)のわずか1件にとどまった。
第4 再審請求で世論をあおるような行為は慎むべきとされていること
・ 財田川事件(さいたがわじけん)に関する最高裁昭和51年10月12日決定には「矢野弁護人(山中注:矢野伊吉弁護士(元裁判官)のこと。)は、正規の抗告趣意書を提出したほか、累次にわたり印刷物、著書等により、世間に対して申立人の無実を訴え、当裁判所にもそれらのものが送付されたが、弁護人がその担当する裁判所に係属中の事件について、自己の期待する内容の裁判を得ようとして、世論をあおるような行為に出ることは、職業倫理として慎しむべきであり、現に弁護士会がその趣旨の倫理規程を定めている国もあるくらいである。」と書いてあります(リンク先のPDF9頁及び10頁)。
第5 再審事件の不服申立ての期限
1 再審開始決定(刑訴法448条1項)又は再審請求棄却決定(刑訴法446条又は447条1項)に対する即時抗告(刑訴法450条)は3日以内にする必要があり(刑訴法422条),即時抗告棄却決定に対する特別抗告は5日以内にする必要があります(刑訴法433条2項)。
2 例えば,即時抗告棄却決定が月曜日に届いた場合,週明けの月曜日が特別抗告の期限となります。
第6 少年事件の再審制度
1(1) 柏の少女殺し事件に関する最高裁昭和58年9月5日決定は以下の判示をしています。
少年法三五条は、抗告棄却決定に対する再抗告事由を、憲法違反、憲法解釈の誤り及び判例違反のみに限定しているが、刑訴法上の特別抗告につき同法四一一条の準用を認める確立された当審判例の趣旨に照らせば、たとえ少年法三五条所定の事由が認められない場合であつても原決定に同法三二条所定の事由があつてこれを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるときは、最高裁判所は、その最終審裁判所としての責務にかんがみ、少年法及び少年審判規則の前記一連の規定に基づき、職権により原決定を取り消すことができると解すべきである。
(2) 「千葉県柏市少女刺殺事件について」(昭和58年9月9日付の日弁連会長の文書)には以下の記載があります。
このたび、最高裁判所は、千葉県柏市の少女刺殺事件について、現行少年法において、従来実務上行われてきた非行事実の不存在を理由とする保護処分取消の申立を運用上ほぼ確立したものとして容認し、かつ、新たに右申立につき保護処分を取消さないとの決定がされた場合、これに対しても抗告ができる旨の決定をした。
これにより、少年の保護処分に関しても、いわゆる「再審」が、抗告をも含めて、現行法上できることが、最高裁判所によって確認され、無実の少年を救済する途が一層大きく開かれた。
2(1) 少年法27条の2第1項は,保護処分の決定の確定した後に処分の基礎とされた非行事実の不存在が明らかにされた少年を将来に向かって保護処分から解放する手続等を規定したものであって,同項による保護処分の取消しは,保護処分が現に継続中である場合に限り許され,少年の名誉の回復を目的とするものではありません(最高裁平成3年5月8日決定。なお,先例として,最高裁昭和58年9月5日決定最高裁昭和59年9月18日決定及び最高裁昭和60年5月14日決定参照)。
(2) 平成13年4月1日以降に終了した保護処分については,少年法27条の2第2項(保護処分が終了した後においても、審判に付すべき事由の存在が認められないにもかかわらず保護処分をしたことを認め得る明らかな資料を新たに発見したときは、前項と同様とする。ただし、本人が死亡した場合は、この限りでない。)に基づき,保護処分が終了した後においても保護処分の取消しが認められるようになりました(平成12年12月6日法律第142号附則2条4項)。
第7 民事事件の再審の請求期限
1 民事事件の再審の場合,①当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき,又はこれを知りながら主張しなかったときは再審の事由とはなりませんし(民訴法338条1項ただし書),②判決確定後に再審事由を知った日から30日以内に再審の訴えをする必要がありますし(民訴法342条1項),③判決確定日から5年を経過したときは再審の訴えをすることができません(民訴法342条2項)。
2 民訴法338条1項ただし書後段に規定する「これを知りながら主張しなかったときとは,再審事由のあることを知ったのにかかわらず,上訴を提起しながら上訴審においてこれを主張しない場合のみならず、上訴を提起しないで判決を確定させた場合も含むものと解すべきあり,判断遺脱のような再審事由については,特別の事情のない限り,終局判決の正本送達により当事者は,これを知ったものとして取り扱われます(最高裁昭和41年12月22日判決)。
第8 関連記事その他メモ書き
1 再審請求棄却決定があったときは,何人も,同一の理由によっては,更に再審の請求をすることはできません(刑訴法447条2項)。
2 日弁連の再審支援事件であるとともに,日本国民救援会の支援中の事件としては,小石川事件,福井女子中学生殺人事件,袴田事件,豊川事件,名張毒ぶどう酒事件,日野町事件及び大崎事件があります(日本国民救援会HP「国民救援会の支援事件」参照)。
3(1) 死刑再審無罪者は,無罪判決確定日から1年以内に死刑判決確定日以降の国民年金保険料を納付すれば,死刑判決確定日以降に係る国民年金を受給できます(死刑再審無罪者に対し国民年金の給付等を行うための国民年金の保険料の納付の特例等に関する法律2条)。
(2) 参議院HPの「これからの冤罪補償を考える」立法と調査270号)に刑事補償のことが書いてあります。
4 死刑の確定裁判を受けた者につき長期間にわたる拘置を継続したのちに死刑を執行することは,憲法36条にいう「残虐な刑罰」に当たりません(最高裁昭和60年7月19日決定)。
5(1) 東弁リブラ2023年10月号「今こそ変えよう!再審法-えん罪被害者の速やかな救済のために-」が載っています。
(2) 自由と正義2023年10月号に「特集 再審法改正にむけて」が載っています。
6 以下の記事も参照してください。
・ 刑事の再審事件の各種決定及び無罪判決(榎井村事件以降の日弁連再審支援事件に限る。)
・ 刑事事件の上告棄却決定に対する異議の申立て
・ 冤罪事件における捜査・公判活動の問題点
・ 司法研修所刑事裁判教官の名簿

最高裁判所における刑事事件の弁論期日

目次
1 最高裁判所における刑事事件の弁論期日
2 関連記事その他

1 最高裁判所における刑事事件の弁論期日
・ 最高裁裁判所裁判部が作成した,刑事書記官実務必携(平成31年4月1日現在)71頁ないし75頁には以下の記載があります。

第9 公判
1 期日前の準備
(1) 弁護人がない場合の措置
   審議の結果,弁論が開かれることになった事件について,上告審の弁護人が選任されていないときは,次の要領により,弁護人の選任に関する照会等の手続を進める。
ア 必要的弁護事件であるときは,担当調査官と相談の上,被告人に対して弁護人選任に関する照会を行い,被告人が弁護人を選任しないときは,速やかに東京地方事務所に国選弁護人候補指名通知を依頼する。
イ 任意的弁護事件であるときは,担当調査官に相談の上,主任裁判官の指示を待って前記弁護人選任に関する照会等の手続を進める。
(2) 期日の調整,指定及び変更
ア 審議の結果,弁論が開かれることとなった事件については,担当調査官又は先任裁判官の秘書官から,審議終了後直ちにその旨の連絡があり,担当調査官から期日の指定等について必要事項の連絡ないし指示がある。担当書記官は,直ちに首席書記官に報告するとともに,前記指示に基づき, 当該小法廷の所定の開廷日の中から複数期日を選定して検察官及び弁護人に電話で期日の都合を打診する。
   この場合,期日の選定に当たっては,弁論要旨等の作成提出に要する期間,弁護人の住所地からの交通の便等をも考慮し,期日指定の日から公判期日まで少なくとも1箇月くらいの余裕を見込むのが通例である。
   また,要警備事件については,期日調整の時点で,裁判関係庶務係を通して,東京地裁警務課の差支えの有無を確認しておく。
   なお,この期日調整は,情報管理の観点からできるだけ短時間のうちに済ませ,調整後直ちに,期日の指定・通知等の事務処理を完了する。
イ 期日の調整が終了したときは,直ちに首席書記官に報告するとともに,担当調査官の承諾を得,秘書官を通じて当該主任裁判官の支障の有無を確認した上,公判期日指定書を作成し,裁判長の決裁を受ける。
ウ 期日の調整の際, 出頭予定の弁護人の数及び氏名,弁論時間その他弁論進行予定等を確かめるほか,事案によっては被告人を含めた傍聴人の見込み数等法廷警備に関する情報をも収集する。
エ 期日が指定告知された後, この期日の変更請求があったときは,直ちに,その旨担当調査官に連絡するとともに,相手方の意見を聴いた上,所要事項を記載した決裁票,期日変更請求書,相手方の意見書(又は電話聴取書)の順にクリップで一括し, 当審記録とともに担当調査官,主任裁判官に提出して決裁を受ける。
   その上で,公判期日変更決定(又は却下決定)書を作成し,裁判体の押印を受ける。変更決定の場合は訴訟関係人にその謄本を送達する。
(3) 公判期日の通知
   期日が指定されると,弁護人には特別送達郵便により,被告人には簡易書留郵便により,検察官には検察庁送付簿により,それぞれ公判期日通知書を送達又は送付して通知する。収容被告人であっても封筒の表書きは被告人本人あてとする。被告人に通知したことは,記録表紙継続用紙の通知事項欄に所要事項を記入し,書記官が認印してこれを明らかにするとともに,前記公判期日指定書及び公判期日通知書の写しを記録に編てつする。
   なお,国選弁護人の場合は,東京地方事務所(霞が関分室)に当該事件について公判期日が指定された旨電話連絡する。それを受けて同事務所から公判等時間連絡メモが送付される。
(4) 期日表の作成及び配布
   期日指定後,同期日の立会検察官が決まった段階で刑事弁論期日表を作成し,関係者に配布する。
   期日表の作成は, 開廷時刻,立会検察官名を記入するほか, 同表の「摘要」欄には,経過を明らかにする趣旨で「21.1.29の弁論期日変更」等と記入し,更に該当する事件は「検察官上告」, 「双方上告」, 「死刑事件」と記入する。
   事例によっては,弁論後即日判決を宣告することが予想される場合(非常上告事件にその例が多い。)があるが,期日表には弁論期日のみ記載することとされている期日表の配布先と必要部数は,原則として以下のとおりである。

期日表の配布先と部数

配 布 先弁論期日表宣告期日表備考
各裁判官室3(×5)3(×5)
首席・上席調査官室
主任調査官室
各調査官室1(×3)1(×3)
大法廷書記官室
小法廷書記官室首席・上席書記官控えを含む
他の小法廷書記官室1(×2)1(×2)死刑事件のみ参考送付
裁判関係庶務係
合   計3131

(5) 答弁書,弁論要旨等の提出と付随事務
   公判期日における弁論に備え, 当事者から答弁書,弁論要旨等が提出されたときの措置は,次の要領による。
ア 答弁書は,原本を記録に編てつするとともに,その謄本を速やかに相手方に送達し,その写しを全裁判官及び担当調査官に配布する。公判期日までに相手方に送達する時間的余裕がないときは,公判開廷前に交付送達する。
イ 弁論要旨についても前記と同様であるが,相手方には,普通郵便その他適宜の方法で送付すれば足りる。送付したことは,原本初葉左欄外下部に,その旨及び年月日を記載し,書記官が認印するなどの方法により, これを記録上明らかにしておくのが相当である。
(6) 期日の接近に伴う準備
ア 記録を再点検し,追加された弁護人の氏名,その他変動のあった事項の記録表紙への記載の有無や,公判期日等の通知,答弁書の送達,弁論要旨の送付の有無,適否などについて調査する。
   また,公判期日において陳述,顕出が予定される書面については,事案により,その初葉下部に書面の標題を記載した附せんを付けるなどして,法廷での検索がしやすいように記録を整理する。さらに,顕出が予定される証拠物,取寄せ記録等があるときは,仮出し手続をするなどの準備をしておく必要がある。
イ 弁論進行予定表は,担当調査官から必要なデータの提供を受けて担当書記官が作成するが,担当調査官の了解を得た後,必要部数をコピーし,各裁判官及び首席書記官等に配布する。
ウ 法廷備付けの録音機を使用する事件にあっては, 開廷日の前日にマイクロホンを設置した上,試験操作を行う。
(7) 法廷内の準備
   小法廷には, 当事者席10 (検察官側,弁護人側各5) ,報道記者席24,傍聴席48が設けられている。出頭弁護人が多数で5人を超える場合の当事者席の増設については,担当調査官を経由して,主任裁判官の指示を受ける。
   また,被告人の出頭が予定されるときは,傍聴券(特別傍聴券を含む。)を発行し,指定された傍聴席に被告人を着席させる(法廷警備事件以外で被告人が出頭したときは,一般の傍聴席に着席させる。) 。

2 期日の開催
(1) 開廷準備
ア 法廷出入口の開扉,法廷内空調及び照明等の設備の調整,法廷入口の所要事項の掲示,裁判官入退廷扉の開閉点検, 当事者出頭確認,合議室の整備及び法卓上の裁半リ官席札の配列(注①),法廷内のマイクロホンの設置等の開廷準備は,法廷担当事務官が行う。
   なお,法廷担当事務官は,2人で一期日の事務を担当し, 1人は法廷内における事件の呼上げ等に,他の1人は合議室と法廷との連絡等に,それぞれ従事する。
イ 事件記録は,1,2審判決のつづられている記録及び当審記録のみを裁判長の法卓上に置き,その他の記録(注②),証拠物等は書記官の卓上に置く。
ウ 立会書記官が法廷に携行するものは,筆記用具,手控え用紙,弁論期日表,録音テープ,陳述が予定される書面の写し等である。
(2) 入廷
   訴訟関係人及び傍聴人の入廷は,原則として, 開廷15分前までに終了させる。
   訴訟関係人は,それまでは控室において待機する。傍聴人の入廷が終わった段階で,裁判関係庶務係職員から傍聴人に対し,傍聴心得が伝達される。
(3) 審判
ア 審判の進行順序等
   開廷宣言は主任裁判官(裁判長)が,休廷宣言は当該事件の裁判長が, 閉廷宣言は最後の事件の裁判長が,それぞれ行うこととされている。また,同一日に民事及び刑事の判決及び弁論が行われるときは,原則として次の順序による。
(ア) 刑事
判決 裁判官就任順
弁論 裁判官就任順
(イ) 民事
判決 裁判官就任順
弁論 裁判官就任順
イ 弁論の実施
(ア) 立会書記官の執務
   立会書記官のうち1人は,主として弁論経過の記録を担当する。他の1人は,主として法廷の秩序維持に関する事務を担当し,法廷担当事務官に対して必要な指示を与えるほか,弁論経過以外の法廷内の状況を記録する。
(イ) 弁論の経過
当審における弁論は
a  告申立人上告趣意書陳述
b 相手方答弁書(又は弁論要旨)陳述
c 裁判長(当事者双方に対し,他に陳述する事項があるかどうかを確かめた上)弁論終結,判決宣告期日追って指定
の経過によって終了するのが通例である。
ウ 調書の作成
(ア) 公判調書
   公判調書は,立会書記官のうち1人が作成し, これを板目紙に添付して担当調査官に供閲の上,裁判長に提出して認印を受ける。
   なお,期日に行われた訴訟行為について,公判調書への記載に疑問を生じた場合は,担当調査官の意見を聞く。
(イ) その他の調書等
    立会書記官のうち法廷の秩序維持に関する事務を担当した者は,法廷等の秩序維持に関する規則9条に定める制裁調書等を作成するほか,法廷内における特異な事項, これに対する裁判長の措置等について経過書を作成する。
注① 各小法廷における裁判官の入廷・着席は,合議室では,裁判官就任順に着席される。法廷では,主任裁判官が中央に着席し,続いて傍聴席に向かって右,左と就任順に交互に着席される。構成が5人に満たないときは,必要に応じて入廷・着席順序を繰り上げることとされているので,席札もこれに従って配列する。
    なお,数件のうち1件の弁論について不関与の裁判官の退席を必要とする場合は, 当該事件の呼上げを最後に回し,席札の移動はしない。もっとも,いったん裁判官全員が退廷し,構成を改めて再入廷する場合は,席札の配列替えをする。
② 事件記録が多数のときは,法廷に搬入する記録につき, 、担当調査官を経由して裁判体の指示を受ける。


2 関連記事その他
(1) 昭和24年7月15日発生の三鷹事件(死者6名,負傷者20名)に関する最高裁大法廷昭和30年6月22日判決では,8対7という意見の相違がある事件(意見の内訳は,8人が上告棄却(死刑確定),7人が破棄差戻し(死刑判決の審理やり直し))であり,かつ,地裁判決の無期懲役が書面審理だけの高裁判決で死刑に変更された重大事件であるにもかかわらず,「理由がないことが明らかである」場合にのみ適用される刑訴法408条に基づき(判決文12頁),弁論を開かないで判決をしたことが物議を醸しました。
   そのため,最高裁大法廷昭和30年6月22日判決より後は,どの小法廷においても,また,大法廷においても,死刑事件については必ず弁論を開くようになりました(「最高裁判決の内側」(昭和40年8月30日発行)142頁及び143頁参照)。
(2) 以下の判示をした最高裁平成16年2月16日判決に関して同年1月23日に開催された口頭弁論の体験談が,福岡県弁護士会HPの「最高裁判所弁論出席感想記」に載っています。
    第1審判決が,起訴された事実を理由中で無罪とした上,同事実に含まれるとして,同事実と併合罪の関係にある事実を認定して有罪の判決をし,それに対し被告人のみが控訴したなど判示の訴訟経過の下では,控訴審裁判所が,刑訴法378条3号前段,後段に違反する違法があるとして第1審判決を破棄するに当たり,第1審判決の理由中で無罪とされた事実について,有罪とする余地があるものとして第1審に差し戻すことは,職権の発動の限界を超えるものであって,許されない。
(3) 上告裁判所が原判決を破棄するに当たり,原判決の宣告手続に法律に従って判決裁判所を構成しなかった違法があるという破棄事由の性質,被告事件の内容,審理経過等によっては,必ずしも口頭弁論を経ることを要しません(最高裁平成19年7月10日判決)。
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 刑事上訴事件記録の送付事務について(令和3年6月18日付の最高裁判所訟廷首席書記官の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 死刑執行に反対する日弁連の会長声明等
・ 弁護人上告に基づき原判決を破棄した最高裁判決の判示事項(平成元年以降の分)
・ 最高裁判所における民事事件の口頭弁論期日
 最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携