戦前の勅令恩赦及び特別基準恩赦

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1 法律のひろば1989年4月号39頁ないし43頁によれば,戦前の勅令恩赦及び特別基準恩赦の実例は以下のとおりです(昭和時代につき平成元年版犯罪白書「5 恩赦」も同旨)。
(1) 明治時代の恩赦
① 明治 元年 1月15日の恩赦
・ 明治天皇の御元服及び御即位に伴い,大赦令及び特別基準恩赦が実施されました。
② 明治 元年 9月 8日の恩赦
・ 明治改元に伴い,減刑令が実施されました。
③ 明治22年 2月11日の恩赦
・ 大日本帝国憲法発布に伴い,大赦令が実施されました(西南戦争を起こした西郷隆盛はこのときの恩赦に赦されました。)。
④ 明治30年 1月30日の恩赦
・ 英照皇太后(孝明天皇の女御)の御大喪に伴い,大赦令(台湾住民が対象)及び減刑令が実施されました。
⑤ 明治43年 8月29日の恩赦
・ 日韓併合に伴い,大赦令(旧韓国法令の罪を犯した者が対象)が実施されました。
(2) 大正時代の恩赦
① 大正 元年 9月26日の恩赦
・ 明治天皇の御大喪に伴い,大赦令及び特別基準恩赦が実施されました。
② 大正 3年 5月24日の恩赦
・ 昭憲皇太后(明治天皇の皇后)の御大喪に伴い,減刑令が実施されました。
③ 大正 4年11月10日の恩赦
・ 大正天皇の御即位に伴い,減刑令及び特別基準恩赦が実施されました。
④ 大正 8年 5月18日の恩赦
・ 皇太子殿下(裕仁親王)の成年式に伴い,特別基準恩赦が実施されました。
⑤ 大正 9年 4月28日の恩赦
・ 王世子 李垠(イ・ウン)(大韓帝国最後の皇太子)のご結婚に伴い,減刑令(朝鮮人が対象)が実施されました。
⑥ 大正13年 1月26日の恩赦
・ 皇太子殿下(裕仁親王)のご結婚に伴い,減刑令及び特別基準恩赦が実施されました。
⑦ 大正14年 5月 8日の恩赦
・ 25歳以上の男子による普通選挙を導入した衆議院議員選挙法の公布に伴い,特別基準恩赦が実施されました。
(3) 昭和時代・戦前の恩赦
① 昭和 2年 2月 7日の恩赦
・ 大正天皇の御大喪に伴い,大赦令,減刑令及び復権令並びに特別基準恩赦が実施されました。
② 昭和 3年11月10日の恩赦
・ 昭和天皇の御大礼に伴い,減刑令及び復権令並びに特別基準恩赦が実施されました。
③ 昭和 9年 2月11日の恩赦
・ 皇太子殿下(明仁親王)ご誕生に伴い,減刑令及び復権令が実施されました。
④ 昭和13年 2月11日の恩赦
・ 憲法発布50周年祝典に伴い,減刑令及び復権令並びに特別基準恩赦が実施されました。
⑤ 昭和15年 2月11日の恩赦
・ 紀元2600年式典に伴い,減刑令及び復権令並びに特別基準恩赦が実施されました。
⑥ 昭和17年 2月18日の恩赦
・ 第一次戦捷祝賀に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。

2(1) 昭和時代の戦前の恩赦では,昭和17年2月18日の恩赦を除き,減刑令が実施されていました。
(2) 戦後の恩赦では,昭和27年4月28日の恩赦を最後に,減刑令は実施されていません。

3 平成2年5月24日の参議院内閣委員会において以下の質疑応答がありました(田渕哲也は民社党参議院議員であり,佐藤勲平は法務省保護局長です。)。
○田渕哲也君 昭和天皇が亡くなられたときにも恩赦が行われましたけれども、天皇崩御という出来事と罪を犯した者が許されるということの関係は一般国民にとっては必ずしも理解できるものではないと思うんです。やはり国民主権の平和憲法のもとでは恩赦制度の性格は昔とは変わってきておるのではないかと思うんです。恩赦は皇室に慶弔があれば必ず実施しなければならないものかどうか、この点はどうですか。
○政府委員(佐藤勲平君) 申し上げます。
   委員申されましたとおりに、恩赦は戦前は天皇の大権事項でありまして、天皇の恩恵的行為というふうに考えられたわけでございますけれども、現行憲法下におきましてはいわゆる刑事政策的配慮というものが強く要求されておるというところがございまして、そのような観点から法的安定性というものを具体的妥当性という理念で修正するというような性格があるものと承知しております。
   ところで、御質問の皇室の慶弔があれば実施しなければならないものかどうかという点につきましては、特に必ず実施するとかしないとか、そういうような定めはございません。ただ、必ず実施しなければならないというわけではございません。

4 明治憲法時代の恩赦の効力に関する最高裁判決の判示内容

(1) 昭和21年5月19日の飯米獲得人民大会(「食糧メーデー」とか「米よこせメーデー」ともいいます。)において,昭和天皇を揶揄する文言を含むプラカードを掲げたことが不敬罪に該当するとして立件されたプラカード事件に関する最高裁大法廷昭和23年5月26日判決は以下のとおり判示しています。
① そもそも恩赦は、ある政治上又は社会政策上の必要から司法権行使の作用又は効果を、行政権で制限するものであつて、旧憲法下でいうならば、天皇の大権に基いて、行政の作用として、既に刑の言渡を受けたものに対して、判決の効力に変更を加え、まだ、刑の言渡を受けないものに対しては、刑事の訴追を阻止して、司法権の作用、効果を制限するものであることは、大正元年勅令第二〇号恩赦令の規定に徴し明瞭である。であるから、どの判決の効力に変更を加え、又は、どの公訴について、その訴追を阻止するかは、専ら、行政作用の定むるところに従うべきである。
② 大赦の効力に関しては、前示恩赦令は、大赦は、大赦ありたる罪につき、未だ刑の言渡を受けないものについては、公訴権は消滅する旨(恩赦令第三条)を定めている。即ち、本件のごとく公訴繋属中の事件に対しては、大赦令施行の時以後、公訴権消滅の効果を生ずるのである。
③ 裁判所が公訴につき、実体的審理をして、刑罰権の存否及び範囲を確定する権能をもつのは、検事の当該事件に対する具体的公訴権が発生し、かつ、存続することを要件とするのであつて、公訴権が消滅した場合、裁判所は、その事件につき、実体上の審理をすゝめ、検事の公訴にかゝる事実が果して真実に行われたかどうか、真実に行われたとして、その事実は犯罪を構成するかどうか、犯罪を構成するとせばいかなる刑罰を科すべきやを確定することはできなくなる。これは不告不理の原則を採るわが刑事訴訟法の当然の帰結である。
(2) 大正元年勅令第23号恩赦令第3条の条文は以下のとおりでした。
   大赦ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外大赦アリタル罪ニ付左ノ効力ヲ有ス。
一 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ニ付テハ其ノ言渡ハ将来ニ向テ効力ヲ失フ。
二 未ダ刑ノ言渡ヲ受ケザル者ニ付テハ公訴権ヲ消滅ス

5 「戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦」も参照してください。

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