第1 この記事が扱う対象
1 倒産事件の論点を混同しないこと
倒産事件では,破産,民事再生,私的整理及び個別執行が相互に関係する一方,それぞれの制度目的と法的効果は異なる。本記事は,実務で繰り返し問題となる論点について,現行法上の結論,事実確認の順序及び判例の射程をまとめるものである。
同じ金銭債権であっても,破産債権,財団債権,優先的破産債権又は非免責債権のいずれに当たるかで,届出,弁済及び免責の扱いが変わる。また,条文上の全国共通ルール,裁判所ごとの提出資料・運用,専門家の経験則及び施行前の新制度は,同じ確度の情報として扱うべきではない。
2 実務で先に確定すべき時点と資料
個別論点を検討する前に,①支払不能及び支払停止の時期,②破産手続開始の申立日,③開始決定日,④問題となる契約又は処分の成立日,⑤登記・登録その他の対抗要件具備時,⑥給付期間又は納期限を時系列にする必要がある。これらの時点を曖昧にしたままでは,所有権留保,継続的給付,相殺,否認及び租税債権のいずれも正確に分類できない。
法人事件では,会計データ,預金履歴,総勘定元帳,契約書,担保資料,固定資産台帳,在庫資料,従業員関係資料及び電子メール等を早期に保全する。個人事件でも,預金履歴,保険,自動車,不動産,退職金,家計及び親族間取引の資料を,名義だけでなく取得原資と実質的な管理状況まで確認する必要がある。
第2 所有権留保と自動車
1 留保所有権を確認する四つの事項
自動車の所有権留保では,①販売会社,購入者及び信販会社の契約関係,②破産手続又は再生手続開始時の所有者登録,③留保所有権が担保する債権の範囲,④保証履行又は立替払による権利移転の根拠を確認する。信販会社が関与しているという事実だけで,別除権を行使できるとは限らない。
自動車の価額が被担保債権残高を上回るときは,担保権者が別除権を行使できる場合であっても,余剰価値が破産財団に帰属し得る。契約解釈と対抗要件の問題を解決した後に,査定額,残債務,処分費用及び余剰の有無を別に計算する必要がある。
(1) 最高裁平成22年判決
最高裁第二小法廷平成22年6月4日判決(平成21年(受)第284号,民集64巻4号1107頁)は,販売会社に留保された所有権が立替払をした信販会社へ移転し,立替金等を担保する旨の三者間合意があった事案を扱った。同判決は,再生手続開始時に信販会社を所有者とする登録がなければ,販売会社名義の登録が残っていても,信販会社がその合意に基づく留保所有権を別除権として行使することはできないとした。
(2) 最高裁平成29年判決
最高裁第一小法廷平成29年12月7日判決(平成29年(受)第408号,民集71巻10号1925頁)は,販売会社に留保された所有権について,保証人が売買代金残額を保証履行し,法定代位した事案を扱った。同判決は,破産手続開始時に販売会社を所有者とする登録があるときは,保証人が留保所有権を別除権として行使できるとしたため,前記判決との違いは保証人という呼称だけでなく,権利移転の法的原因と登録の対応関係にある。
2 自動車の評価と提出資料
自動車を評価するときは,初度登録年月又は初度検査年月だけで機械的に無価値とせず,車種,年式,走行距離,損傷,装備,中古市場,ローン残高及び処分費用を確認する。各裁判所の申立資料には地域差と改訂があるため,事件係属裁判所の最新資料を確認し,必要に応じて複数の査定資料又は価格資料を提出するのが安全である。
電子車検証では,券面だけで所有者情報等の全部を確認できない場合がある。自動車検査証記録事項又は電子車検証のICタグ情報も取得し,登録名義と契約書の記載を照合する必要がある。
3 公布済みで未施行の担保法制
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(令和7年法律第56号)は,譲渡担保及び所有権留保の効力,対抗要件,実行並びに倒産手続上の扱いを成文化した。同法の本則は,令和8年8月9日現在では施行されておらず,法務省の案内によれば,施行時には既存契約に関する経過措置も含めて再確認する必要がある。
したがって,現時点の事件は現行法及び前記最高裁判例により処理し,新法を現在の適用法として先取りしてはならない。他方,長期契約,集合動産担保及び施行日をまたぐ契約については,施行日,対抗要件及び経過措置を継続的に確認する必要がある。
第3 継続的給付契約と財団債権
1 供給拒絶を制限する破産法55条1項
破産法55条1項は,破産者に継続的給付義務を負う契約相手方が,申立て前の給付に係る破産債権の不払だけを理由として,開始後の履行を拒むことを制限する。電気,ガス,水道又は通信サービスが典型例であるが,契約の解除原因が別にある場合まで一律に履行拒絶を禁ずる規定ではない。
携帯電話料金の請求書に端末代金の分割払が含まれる場合には,通信役務の継続的給付と端末売買の代金債権を分けて検討する。水道料金についても,上水道料金と公共下水道使用料では法的性質が異なることがあるため,請求書の名称だけで同一分類にしてはならない。
2 申立て後・開始前の給付
同条2項が財団債権とするのは,原則として申立て後・開始前にされた給付に係る請求権である。一定期間ごとに債権額を算定する継続的給付については,申立日の属する料金算定期間内の給付に係る請求権を含むが,申立月と開始決定月の請求額を常に二か月分とも財団債権にする規定ではない。
開始後の給付については,管財人が契約の履行又は解除を選択したか,契約がいつ終了したか,その給付が破産財団の管理に必要であったかを確認し,破産法53条及び148条等により分類する。個人破産者が生活上利用した通信料等を,債権区分だけを理由として破産財団から支払えるわけではない。
3 財団債権と免責
免責許可決定の効力を定める破産法253条1項は,責任を免れる対象を破産債権としている。財団債権は破産債権とは別の債権区分であるため,破産法55条2項等により財団債権となる給付代金は,免責許可決定によって免責されない。
この区別は,財団債権であれば現実に全額回収できることまで意味しない。破産財団が不足するときは財団債権相互の優先関係及び按分弁済が問題となるため,債権区分,免責の有無及び回収可能性を三段階に分ける必要がある。
4 公共下水道使用料
地方自治法231条の3第3項及び同法附則6条3号は,下水道法20条の公共下水道使用料について地方税の滞納処分の例による徴収を認める。このため,公共下水道使用料は破産法97条4号の租税等の請求権に当たり得る。
開始前の原因に基づく租税等のうち,開始時に納期限が到来していないもの又は原則として納期限から1年を経過していないものは,破産法148条1項3号により財団債権となる。それ以外の部分が破産債権となる場合でも,租税等の請求権は同法253条1項1号により非免責であるから,財団債権部分と非免責の破産債権部分を分けて記載すべきである。
第4 法人破産における帳簿と電子データ
1 法定保存期間
会社法432条2項は,株式会社の会計帳簿及び事業に関する重要資料を帳簿閉鎖時から10年間保存することを求め,同法615条2項は持分会社について同様に定める。商法19条3項も,商人の商業帳簿及び営業に関する重要資料について帳簿閉鎖時から10年間の保存を求める。
清算株式会社について会社法508条が適用される場面では,清算人又は裁判所が選任した保存者が,清算結了登記時から10年間,帳簿並びに事業及び清算に関する重要資料を保存する。これらの法定期間と,破産管財人が事件終了時に保管場所及び費用をどう処理するかは別の問題である。
労働基準法109条の保存期間は本則5年であるが,同法143条により当分の間は3年とされている。税務,社会保険,許認可及び業法上の保存期間は資料ごとに異なるため,「帳簿は数年で一括廃棄できる」と扱うことはできない。
2 受任直後の資料保全
法人破産では,代表者又は従業員による廃棄,クラウド契約の停止,端末返却及び自動消去により,電子資料が短期間で失われることがある。受任直後に,①会計ソフトのデータと認証情報,②インターネットバンキング及び決済サービスの履歴,③メール及びクラウドストレージ,④重要契約,⑤在庫・固定資産・売掛金資料,⑥給与・勤怠・社会保険資料を保全する必要がある。
保全に当たっては,業務上必要な範囲を定め,個人情報,営業秘密及び従業員の私的データを区別する。外部委託先が保有するデータについては,契約終了前にエクスポート方法,保存形式及び閲覧可能期間を確認する。
3 手続終了時の取扱い
手続終了時には,資料の法定保存義務,係属中又は予想される訴訟・税務調査,従業員の証明需要及び個人情報保護を確認する。その上で,代表者等への返還,保存者の選任,保管業者への委託又は裁判所との協議を経た廃棄を事件ごとに選択すべきであり,一律の1年又は3年を一般的な廃棄基準とすることはできない。
第5 支払不能と支払の停止
1 両概念の違い
破産法2条11項の支払不能は,支払能力を欠くため,弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できない客観的状態である。これに対し,支払の停止は,支払不能である旨を外部に表示する行為であり,同法15条2項は支払停止があれば支払不能を推定する。
支払不能は開始原因であるだけでなく,相殺禁止及び否認の基準時とも関係する。支払停止は支払不能の推定を介して各規定に影響するが,通知又は相談が一度あっただけで,常に支払停止が成立するわけではない。
2 受任通知に関する最高裁判例
最高裁第二小法廷平成24年10月19日判決(平成23年(受)第462号,裁判集民事241号199頁)は,給与所得者である個人債務者について,弁護士への債務整理委任及び債権者一般への取立停止要請を記載した通知を送付した行為が,自己破産予定を明記していなくても支払の停止に当たるとした。これは通知内容,送付範囲及び債務者の属性を踏まえた判断であり,企業の私的整理にそのまま一般化することはできない。
他方,最高裁第一小法廷昭和60年2月14日判決(昭和59年(オ)第467号,裁判集民事144号109頁)は,債務整理方法を弁護士に相談し,破産申立ての方針を決めただけでは,特段の事情がない限り支払の停止に当たらないとした。内部方針の決定と外部表示を区別する判例として読む必要がある。
3 実務上の時系列表
否認又は相殺を検討するときは,資金繰り表だけでなく,弁済遅滞,手形不渡り,期限の利益喪失,受任通知,支払猶予要請,事業停止及び申立ての各日付を並べる。その上で,取引相手がどの事実をいつ知ったかを,通知書,メール,面談記録及び入出金履歴から立証する必要がある。
第6 否認権と詐害行為取消し
1 否認類型を分けること
破産法上の否認には,財産減少行為,特定債権者への偏頗行為,無償行為及び対抗要件具備等に関する類型がある。行為時期,支払不能又は申立ての認識,相手方の主観,対価の相当性,義務に属する行為かどうかを類型ごとに検討し,申立て前の行為であるというだけで否認してはならない。
適正価格で資産を売却しても,代金を隠匿又は費消する意図があり,相手方がそれを知っていた場合には否認が問題となり得る。他方,担保目的物の価値が被担保債権額を超えず,一般債権者の共同担保が実質的に減少しない場合には,財産減少の有無を慎重に検討する必要がある。
2 第三者資金による弁済
親族又は関係会社が自己固有の資金から債権者へ直接弁済した場合には,債務者の財産が直ちに減少しないことがある。しかし,資金がいったん債務者へ帰属したか,資金提供者が求償権を取得したか,弁済先の選択を誰が支配したか,通謀があったかにより評価が変わるため,「第三者から直接支払えば否認されない」という一般的な安全港はない。
3 差押債権者への弁済
最高裁第三小法廷平成29年12月19日判決(平成28年(受)第1797号,裁判集民事257号29頁)は,債権差押命令を受けた第三債務者が,差押債務者へ弁済した後,差押債権者へ重ねて弁済したという事案で,後者の弁済は破産法162条1項による否認対象にならないとした。差押えがあるという一事だけで結論を出さず,誰のどの債務を消滅させる弁済であったかを確定する必要がある。
4 回収額と費用対効果
否認権行使の要否を判断する際には,見込回収額,立証の難易,訴訟費用,相手方の資力及び配当への影響を考慮する。しかし,破産法は一定額未満の否認を一律に排除する固定的な金額基準を定めていないため,特定の金額を全国共通又は現在の裁判所運用として断定すべきではない。
5 詐害行為取消しとの違い
民法424条以下の詐害行為取消請求と,破産管財人が行使する否認権は,行使主体,要件及び手続が異なる。現行民法425条は,詐害行為取消請求を認容する確定判決が債務者及び全ての債権者にも効力を有すると定めており,改正前民法の判例が説いた相対的効力を現行法の一般命題として用いることはできない。
第7 破産財団,自由財産及び将来請求権
1 破産財団の範囲
破産法34条1項は,開始時に破産者が有する一切の財産を破産財団とし,同条2項は,開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来請求権も破産財団に属すると定める。名義,請求権の発生時及び現実の支払時だけでなく,権利発生の基礎となる契約又は法律関係がいつ成立したかを確認する必要がある。
個人については,差押禁止財産,法定の金銭及び裁判所が拡張した財産が自由財産となり得る。自由財産の範囲拡張は,財産の種類,生活状況,収入見込み,扶養関係及び債権者利益を踏まえた個別判断である。
2 自由財産からの弁済
最高裁第二小法廷平成18年1月23日判決(平成17年(受)第1344号,民集60巻1号228頁)は,破産者が手続中に自由財産から破産債権を任意弁済すること自体は妨げられないとした。他方,弁済が任意であるためには,破産者が自由財産からの弁済を強制されないことを認識し,自由な判断で支払ったといえる必要がある。
この判例は,自由財産に対する債権者の強制的な取立てを一般的に正当化するものではない。相殺,天引き又は口座控除が問題となる場合には,破産法上の個別執行制限と本人の任意性を分けて検討すべきである。
3 将来の死亡保険金請求権
最高裁第一小法廷平成28年4月28日判決(平成27年(受)第330号,民集70巻4号1099頁)は,開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき,破産者である死亡保険金受取人が有する将来の死亡保険金請求権を,破産法34条2項の将来請求権として破産財団に属するとした。
もっとも,保険契約者,被保険者,受取人,受取人変更権及び保険事故発生時期によって法律関係は異なる。生命保険という名称だけで財団帰属を決めず,契約内容と判例の事案を照合する必要がある。
第8 租税等の請求権と交付要求
1 租税債権の分類
租税等の請求権は,課税原因,法定納期限,納期限,開始時期及び滞納処分着手の有無により,財団債権,優先的破産債権又は劣後的破産債権等に分類される。名称だけで判断せず,破産法97条,98条,148条及び253条のどの要件に当たるかを税目・年度ごとに確認する必要がある。
破産法人の清算中の事業年度に係る法人税等についても,全額が当然に破産財団に関して生じた請求権になるわけではない。最高裁第三小法廷昭和62年4月21日判決(昭和59年(行ツ)第333号,民集41巻3号329頁)は,予納法人税,土地重課税,住民税及び事業税を税目と発生原因に応じて分けて判断している。
2 交付要求の性質と争い方
最高裁第一小法廷昭和59年3月29日判決(昭和58年(行ツ)第10号,裁判集民事141号523頁)は,国税徴収法82条による交付要求が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとした。交付要求は,強制換価手続に参加して配当等を求める手続上の行為であり,この判例を前提とすれば,交付要求自体に対する取消訴訟を予定すべきではない。
争点が納税義務の存否又は税額であれば,基礎となる更正,決定又は賦課決定等に対する税務上の不服申立てを検討する。争点が破産手続上の財団債権該当性又は配当順位であれば,届出の認否,裁判所との協議及び確認訴訟等の民事上の手段を検討するのであり,行政不服審査法47条だけから交付要求自体への審査請求ができると推測することはできない。
第9 破産管財人の職務と敷金返還請求権の質権
1 管財人の判断過程
破産管財人は,破産財団の管理,換価及び配当を行う際に,財団の利益だけでなく,担保権,取戻権,契約相手方の権利及び裁判所の許可を要する行為を確認する。裁判所の許可を得たという一事だけで第三者に対する実体法上の義務が消滅するわけではなく,契約処理が担保価値を失わせるかを事前に検討する必要がある。
2 最高裁平成18年判決の三つの判断
最高裁第一小法廷平成18年12月21日判決(平成17年(受)第276号,民集60巻10号3964頁)は,敷金返還請求権に質権が設定されていた事案について三つの判断を示した。第1に,管財人が賃貸借を合意解除し,開始後の未払賃料等へ敷金を充当する合意をして質権の目的債権の発生を阻害したことは,判示事情の下で担保価値維持義務に違反するとした。
第2に,当時は学説・判例が乏しく,管財人が裁判所の許可を得ていたことなどから,質権者に対する善管注意義務違反による損害賠償責任は否定した。第3に,財団が未払賃料等の現実の支払を免れた利益について,質権者に対する不当利得返還義務を認めたため,この判例を単に「管財人の善管注意義務違反を認めた判例」と要約するのは正確でない。
第10 個人再生の申立てと再生計画
1 不当目的・不誠実申立て
民事再生法25条4号は,不当な目的でされた申立てその他誠実にされたものでない申立てを棄却事由とする。個人再生でも,財産・債権者の意図的な不記載,虚偽資料,制度趣旨を潜脱する債権操作又は裁判所の補正命令への不合理な不応答は,申立ての誠実性を損なう事情となり得る。
もっとも,同号は抽象的な一般条項であり,軽微な記載ミスと意図的な手続濫用を区別しなければならない。棄却後に当然に破産手続が開始するという全国一律の効果もないため,棄却事由とその後の手続選択を分けて説明する必要がある。
2 不正な方法による再生計画の成立
最高裁第一小法廷平成20年3月13日決定(平成19年(許)第24号,民集62巻3号860頁)は,民事再生法174条2項3号の「不正の方法」に,詐欺,強迫又は不正利益の供与だけでなく,信義則に反する行為に基づいて計画案が可決された場合も含まれるとした。議決権要件を満たすため,申立て直前に回収可能性のない債権を役員らへ移転した事案であり,債権数又は議決権額を形式的に満たすだけでは足りないことを示す。
3 倒産解除特約と住宅資金特別条項
最高裁第三小法廷平成20年12月16日判決(平成19年(受)第1030号,民集62巻10号2561頁)は,フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約について,再生申立てを解除事由とする特約を無効とした。倒産申立てを理由とする解除特約は,契約類型,強行法規及び手続目的との関係で効力を検討する必要があり,全契約に同じ結論が及ぶわけではない。
最高裁第三小法廷平成29年12月19日決定(平成29年(許)第19号,民集71巻10号2632頁)は,小規模個人再生で異議なく届出が確定した債権であっても,住宅資金特別条項を定めた計画案の可決が信義則に反するかを判断する際には,債権の存否を含む届出等の諸事情を考慮できるとした。民事再生法225条のみなし届出又は異議期間経過を,計画認可場面でのあらゆる実体審査を遮断するものと理解してはならない。
第11 債権者企業の初動と私的整理
1 信用不安を把握した債権者の初動
取引先の信用不安を把握した企業は,①契約書,注文書,納品書及び検収資料の保全,②債権額・弁済期・遅延損害金の確定,③所有権留保,担保及び保証の確認,④相殺適状と相殺禁止規定の確認,⑤未出荷品,委託品及び預け在庫の所在確認,⑥売却代金その他の回収原資の追跡を行うべきである。
出荷停止,期限の利益喪失,担保実行又は相殺は,契約と倒産法上の制限を確認してから行う。相手方の同意や法的手続を経ずに商品を持ち出すなどの自力救済は,所有権又は占有権限に争いがある場合に新たな紛争を生じさせるため避ける必要がある。
2 法的整理と私的整理
企業の私的整理は,事業価値の毀損を抑え,対象債権者と金融支援を調整できる利点がある一方,従来型手続では原則として対象債権者全員の同意が必要となる。資金繰り,主要金融債権者の構成,担保,商取引債権の維持,事業計画の実現可能性及び清算価値を確認し,法的整理との比較を早期に行う必要がある。
個人の任意整理,不動産の任意売却及び企業の私的整理は,同じ「任意」という語を用いても対象と手続が異なる。任意売却でも,担保権者の同意,売却価格の相当性,諸費用,抵当権抹消条件及び残債務を個別に確認し,売主の手取額又は査定方法を一律に断定すべきではない。
3 令和8年12月施行予定の早期事業再生制度
経済産業省の早期事業再生法案内によれば,円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律(令和7年法律第67号)は,令和8年12月11日の施行が予定されている。同制度は,金融債権を対象とし,議決権総額の4分の3以上の多数決と裁判所の認可を組み合わせ,原則として非公表で手続を進めるものである。
令和8年8月9日現在は施行前であるため,現在利用できる手続として記載してはならない。施行後は,対象事業者,対象債権,債権者数要件,一時停止,例外弁済,清算価値保障及び裁判所認可の要件を施行令・省令・裁判所規則とともに確認する必要がある。
第12 関連記事
1 破産・免責
破産管財人の選任及び報酬では,管財人選任と報酬決定の考慮要素を扱っている。破産免責の許可・不許可の限界事例(AI作成)では,免責不許可事由と裁量免責に関する公刊裁判例及び裁判所公表資料を整理している。また,破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為」―非免責債権の判断基準と主張立証(AI作成)では,同項2号の「悪意」,同項3号との区別,免責後の手続及び主張立証を扱っている。破産手続のIT化では,令和8年5月に施行されたウェブ期日と,令和10年6月までに予定されるオンライン申立て・電子記録等を整理している。
2 強制執行
強制執行に対する債務者の対抗手段及び債権差押えに関するメモ書きでは,執行抗告,請求異議,第三者異議及び債権差押えの個別論点を扱っている。倒産手続開始による包括的な制限と,民事執行手続内の不服申立ては区別して参照する必要がある。
第13 出典・参考資料
1 法令
①破産法(平成16年法律第75号)2条,15条,34条,55条,71条,72条,97条,98条,148条,162条及び253条,②民法(明治29年法律第89号)424条及び425条,③民事再生法(平成11年法律第225号)25条,174条及び225条(e-Gov法令検索)。
④会社法(平成17年法律第86号)432条,508条及び615条,⑤商法(明治32年法律第48号)19条,⑥労働基準法(昭和22年法律第49号)109条及び143条(e-Gov法令検索)。
⑦地方自治法(昭和22年法律第67号)231条の3及び附則6条,⑧下水道法(昭和33年法律第79号)20条,⑨国税徴収法(昭和34年法律第147号)82条,⑩行政不服審査法(平成26年法律第68号)47条(e-Gov法令検索)。
2 裁判例
①最高裁第二小法廷平成22年6月4日判決(平成21年(受)第284号,民集64巻4号1107頁),②最高裁第一小法廷平成29年12月7日判決(平成29年(受)第408号,民集71巻10号1925頁),③最高裁第二小法廷平成24年10月19日判決(平成23年(受)第462号,裁判集民事241号199頁)。
④最高裁第一小法廷昭和60年2月14日判決(昭和59年(オ)第467号,裁判集民事144号109頁),⑤最高裁第三小法廷平成29年12月19日判決(平成28年(受)第1797号,裁判集民事257号29頁),⑥最高裁第二小法廷平成18年1月23日判決(平成17年(受)第1344号,民集60巻1号228頁),⑦最高裁第一小法廷平成28年4月28日判決(平成27年(受)第330号,民集70巻4号1099頁)。
⑧最高裁第一小法廷昭和59年3月29日判決(昭和58年(行ツ)第10号,裁判集民事141号523頁),⑨最高裁第三小法廷昭和62年4月21日判決(昭和59年(行ツ)第333号,民集41巻3号329頁),⑩最高裁第一小法廷平成18年12月21日判決(平成17年(受)第276号,民集60巻10号3964頁)。
⑪最高裁第一小法廷平成20年3月13日決定(平成19年(許)第24号,民集62巻3号860頁),⑫最高裁第三小法廷平成20年12月16日判決(平成19年(受)第1030号,民集62巻10号2561頁),⑬最高裁第三小法廷平成29年12月19日決定(平成29年(許)第19号,民集71巻10号2632頁)(いずれも裁判所ウェブサイト)。
3 公的資料
①法務省「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律について」,②大阪地方裁判所第6民事部(倒産部),③国土交通省「電子車検証特設サイト」,④経済産業省「早期事業再生法」。
4 文献
①小川秀樹編著『一問一答 新しい破産法』(商事法務,2004年)117頁~118頁,220頁~229頁,250頁~275頁及び354頁~378頁,②深山卓也・花村良一・筒井健夫・菅家忠行・坂本三郎『一問一答 民事再生法』(商事法務,2000年)77頁~80頁及び252頁~278頁。
③尾島史賢編集代表『実務家が陥りやすい 破産管財の落とし穴』(新日本法規出版,2021年)290頁~295頁,④永野達也『事例でわかる リアル破産事件処理』(学陽書房,2023年)64頁,⑤伊藤眞『破産法・民事再生法〔第5版〕』(有斐閣,2022年)848頁。
⑥中森亘・野村剛司・落合茂監修,破産管財実務研究会編著『破産管財BASIC―チェックポイントとQ&A』(民事法研究会,2014年)248頁,⑦野村剛司・森智幸『倒産法講義』(日本加除出版,2022年)77頁及び348頁,⑧『金融機関の法務対策6000講 第Ⅵ巻 保証・取引先支援・事業再生編』(金融財政事情研究会,2022年)875頁~877頁。
5 企業法務の解説
①BUSINESS LAWYERS「否認」,②同「法人破産」,③同「取引先の信用不安への初動」,④同「私的整理」,⑤同「早期事業再生法」。