倒産事件に関するメモ書き


目次

1 信販会社による留保所有権の行使
2 大阪地裁の破産事件において0円評価となる自動車
3 破産事件に関する電気代,ガス代,携帯電話代及び水道代の取扱い
4 破産管財人による帳簿類の保管
4の2 「支払の停止」の意義
4の3 否認権に関するメモ書き
5 その他破産事件に関するメモ書き
6 個人再生に関するメモ書き
7 任意整理に関するメモ書き
8 強制執行に関するメモ書き
9 関連記事その他

1 信販会社による留保所有権の行使
・ 信販会社のために破産者の購入した普通自動車に所有権留保がされている場合,信販会社が別除権者として管財人に対して権利を行使することができるかに関する取扱いは以下のとおりと思います。
① 当初から所有者の登録が信販会社とされている場合,管財人に対して権利を行使できることに問題ありません(破産管財手続の運用と書式[第3版]159頁)。
② 販売会社,信販会社及び購入者の三者間において,販売会社に売買代金残額の立替払をした信販会社が,販売会社に留保された自動車の所有権について,売買代金残額相当の立替金債権に加えて手数料債権を担保するため,販売会社から代位によらずに移転を受け,これを留保する旨の合意がされたと解される場合(実務的には,信販会社が購入者の連帯保証人をしていない場合),信販会社は別除権者として管財人に対して権利を行使することはできません(最高裁平成22年6月4日判決)。
③ 自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するため販売会社に留保される旨の合意がされ,売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後,購入者の破産手続が開始した場合(実務的には,信販会社が購入者の連帯保証人をしている場合)において,その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされているときは,保証人は,上記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができます(最高裁平成29年12月7日判決)。
→ 保証人は,自動車につき保証人を所有者とする登録なくして,販売会社から法定代位により取得した留保所有権を別除権として行使することができるということです。

2 大阪地裁の破産事件において0円評価となる自動車

(1) 大阪地裁第6民事部(倒産部)の運用として,破産管財手続の運用と書式[第3版]76頁には以下の記載があります。
a 評価額
    白動車は,査定評価額が評価額となる。
    しかし,普通自動車で初年度登録から7年,軽自動車・商用の普通自動車で5年以上を経過しており,新車時の車両本体価格が300万円未満であって,外国製自動車でない場合には,損傷状況や付属品等からみて価値があるとうかがわせる特段の事情がない限り,査定評価を受けることなく0円と評価してよい。
(2)ア 普通自動車の初年度登録がいつであるかについては,車検証記載の「初度登録年月」を見れば分かります(保険の窓口インズウェブHP「車の初度登録年月とは?どこで確認できる?」参照)。
イ 検査対象軽自動車の場合,自動車登録制度(道路運送車両法4条)の適用がないため,新規検査(道路運送車両法59条)の年月である,初度検査年月から5年以上が経過していれば原則として0円評価になります。
    なお,検査対象軽自動車の初度検査年月がいつであるかについては,車検証記載の「初度検査年月」を見れば分かります。(生駒市HPの「【軽自動車税】初度検査年月とは、何ですか?」参照)。
ウ 250CC以下のバイクについては車検証がないのであって,①50CCから125CCまでのバイクについては標識交付証明書が交付され(登録申告済証といった書類で代用されていることがあります。),②125CCから250CCまでのバイクについては軽自動車届出済証が交付されます。
(3)  動産の購入代金を立替払し立替金債務の担保として当該動産の所有権を留保した者は,第三者の土地上に存在しその土地所有権の行使を妨害している当該動産について,その所有権が担保権の性質を有することを理由として撤去義務や不法行為責任を免れることはできません(最高裁平成21年3月10日判決)。

3 破産事件に関する電気代,ガス代,携帯電話代及び水道代の取扱い

(1) 破産法55条1項は「破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由としては、破産手続開始後は、その義務の履行を拒むことができない。」と定めていますから,破産手続開始決定後につき,破産手続開始決定前に電気代,ガス代,携帯電話代又は水道代を滞納していたことを理由として,電気,ガス,携帯電話又は水道の供給を停止されることはないですそこが知りたい!借金問題HP「自己破産したらガス、電気は止められるの?」参照)。
(2)ア 破産手続開始の申立日及び決定日が属する月の電気代,ガス代,携帯電話代及び上水道代は財団債権となります(破産法55条2項参照)。
イ 下水道代は租税等の請求権となる(地方税法231条の3第3項・附則6条3号)ために破産手続開始決定の1年以上前のものだけが破産債権となり,その後に発生したものは財団債権となります(破産法148条1項1号参照)。
(3)ア 破産手続開始決定開始決定前に発生した電気代,ガス代,携帯電話代及び上水道代は破産法55条2項により財団債権となった部分も含めて免責許可決定により免責されます。
    つまり,破産手続開始決定後の代金を支払えば,電気,ガス及び水道の供給を維持できるということです(弁護士江木大輔のブログ「水道・下水道料金と破産法の規定など」参照)。
イ 下水道代は租税等の請求権となるため,そのすべてが非免責債権です(破産法253条1項1号)。
(4) 破産実務Q&A220問117頁には以下の記載があります。
    債務者が個人の場合は携帯電話やインターネットを継続利用したいと希望するケースが多いと思われます。管財業務には不要ですので利用料を財団債権として破産財団から支弁することはできませんが、契約を継続したままにして破産者に利用料を負担してもらう対応が考えられます。

4 破産管財人による帳簿類の保管

(1) 破産事件における書記官事務の研究-法人管財事件を中心として-308頁には以下の記載があります(ただし,平成29年の債権法改正により民法171条を含む短期消滅時効に関する条文は削除され,消滅時効期間は一律に5年又は10年となっています(民法166条1項)。)。
    商人は,帳簿閉鎖の時から10年間,その商業帳簿及びその営業に関する重要な資料を保存しなければならない(商法19Ⅲ)。
    株式会社及び持分会社は,会計帳簿の閉鎖の時から10年間,その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない(会社432Ⅱ, 615Ⅱ)。
    一般社団法人及び一般財団法人は,会計帳簿の閉鎖の時から10年間,その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない(一般法人120Ⅱ,199)。
    清算人は,清算株式会社の清算結了の時から10年間,その帳簿並びに清算に関する重要な資料を保存しなければならない(会社5081)。
    これらの規定によると,破産管財人が破産者から引渡しを受けた商業帳簿類は,破産手続終了後も保存すべきものであり,破産手続終了に伴い,保存義務が破産管財人から破産者に移ると考えられる。
◯ しかし,実務においては,破産者代表者や破産者本人の所在不明,引取り拒否などにより引渡しできない場合がある。このような場合には,会社法508条2項の帳簿資料を保存する者の選任申立てが認められるなどしない限り,破産管財人が破産手続終了前に保管料・処分費用につき裁判所から財団債権の承認を得て,倉庫業者等に寄託することになる。破産財団の費用負担を考慮して,重要でないものは破棄し,保存する帳簿類についても3年間保存した後(民法171を根拠にしていると思われる。)は廃棄して差し支えないものとする運用がある。重要でないものは裁判所の許可の下に廃棄し,重要な帳簿のみ保存期間を1年から3年の範囲で認め,その期間経過後は裁判所の許可を得て廃棄するという運用もある。
(2) 破産事件21のメソッド67頁には以下の記載があります。
    各種法令をみると、書類の保存期間は、商法・会社法は上記のとおり10年ですが、税法上は7年となっているものが多く、労働関係は3年、社会保険関係は2年となっているものが多いです(あくまで目安です。また同じ書類の保存期間が社会保険関係と税法で異なる場合もあります)。実務上破産手続終了後も参照する必要性が生じる可能性が高いのは労働・社会保険関係だと思われますので、3年は今後も保存期間の一つの目安になると思われます。

4の2 「支払の停止」の意義

(1)  破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」とは,債務者が,支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて,その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいいます(最高裁平成24年10月19日判決。なお,先例として,最高裁昭和60年2月14日判決参照)。
(2)ア 債務者の代理人である弁護士が債権者一般に対して債務整理開始通知を送付した行為は,①上記通知に,(a)上記債務者が自らの債務整理を弁護士に委任した旨並びに(b)当該弁護士が債権者一般に宛てて上記債務者,その家族及び保証人への連絡及び取立て行為の中止を求める旨の各記載がされていたこと,②上記債務者が単なる給与所得者であり広く事業を営む者ではないことなどといった事情の下においては,上記通知に上記債務者が自己破産を予定している旨が明示されていなくても,破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たります(最高裁平成24年10月19日判決)。
イ 最高裁平成24年10月19日判決の裁判官須藤正彦の補足意見には「一定規模以上の企業の私的整理のような場合の「支払の停止」については,一概に決め難い事情がある。」と書いてあります。
(3) 支払の停止があったかどうかは,①相殺禁止(破産法71条及び72条)及び②破産管財人による否認(破産法160条及び162条)との関係で問題となります。
(4) 支払不能とは,債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいいます(破産法2条11号)。

4の3 否認権に関するメモ書き
(1) 動産の売主が買主から動産売買の先取特権の目的物である右動産を売買代金債権の代物弁済として譲り受けても,その弁済額の範囲内においては,右代物弁済は他の債権者を害するものではありませんから,破産法160条1項1号所定の否認の対象とはなりません(最高裁昭和53年5月25日判決(判例秘書に掲載)。なお,先例として,最高裁昭和41年4月14日判決及び最高裁昭和39年6月26日判決参照)。
(2) 債権差押命令の送達を受けた第三債務者が,差押債権につき差押債務者に対して弁済をし,差押債権者に対して更に弁済をした後,差押債務者が破産手続開始の決定を受けた場合,後者の弁済は,破産法162条1項の規定による否認権行使の対象となりません(最高裁平成29年12月19日判決)。
(3) 大阪地裁第6民事部(倒産部)が執筆した「はい6民です お答えします vol.271」には「親族等の協力が得られるなら、当該協力者が直接第三者弁済をするのであれば偏頗弁済の問題にはなりません」とか,「せっかく協力者が資金を提供しても、いったん申立人がこれを受け取って自分で弁済してしまうと、やはり偏頗弁済となってしまいます。」と書いてあります(月刊大阪弁護士会2022年5月号56頁)。
(4) 法律事務所エソラの「破産法では,破産管財人に否認権という権利が認められており、執行行為である差押えも否認権の対象とります(給与の差押えと破産手続き)。大阪地裁の運用はどうなっているのでしょうか?」には以下の記載があります。
    否認権を行使して、債権者から金銭を取戻すには、管財事件に移行させる必要があります。管財事件に移行するには、申立人は予納金を準備しなければなりません。そして、管財事件に移行したとして、必ずしも全額を回収できる保障はありません。
    以上を考慮し、大阪地方裁判所では、差押債権者に支払われた金額が40万円以上の場合、破産手続きへの移行を検討するとされています。

5 その他破産事件に関するメモ書き
(1) 自由財産に対する強制執行は許されないこと
・ 破産手続中,破産債権者は破産債権に基づいて債務者の自由財産に対しても強制執行をすることはできません(最高裁平成18年1月23日判決参照)。
(2) 破産財団の範囲
ア 破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権は,破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するものとして,上記死亡保険金受取人の破産財団に属します(最高裁平成28年4月28日判決)。
イ 最高裁平成28年4月28日判決の調査官解説には以下の記載があります。
     本判決は,直接的には,第三者のための生命保険契約の保険金請求権について判示したものであるが,いわゆる定額保険に係る保険金請求権については,契約者と保険金受取人とが同一人の場合であるか否かを問わず,その射程が及ぶ可能性が高いと考えられる。
(3) 他の手続の失効
・ 株券が発行されていない株式(振替株式を除く。)に対する強制執行の手続において,当該株式につき売却命令による売却がされた後,配当表記載の債権者の配当額について配当異議の訴えが提起されたために上記配当額に相当する金銭の供託がされた場合において,その供託の事由が消滅して供託金の支払委託がされるまでに債務者が破産手続開始の決定を受けたときは,当該強制執行の手続につき,破産法42条2項本文の適用があります(最高裁平成30年4月18日判決)。
(4) 詐害行為取消権
・ 詐害行為の取消しの効果は相対的であり,取消訴訟の当事者である債権者と受益者との間においてのみ当該法律行為を無効とするに止まり,債務者との関係では当該法律行為は依然として有効に存在するのであって,当該法律行為が詐害行為として取り消された場合であっても,債務者は,受益者に対して,当該法律行為によって目的財産が受益者に移転していることを否定することはできません(最高裁平成13年11月16日判決)。
(5) 交付要求
ア 破産法人の清算中の事業年度の所得に係る法人税について国税徴収法82条の規定により税務署長がした交付要求は,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たりません(最高裁昭和59年3月29日判決)。
    そのため,交付要求に係る租税の納税義務自体を争うには,更正,決定,賦課決定などの租税を確定させる処分に対する不服申立てによることとなりますし,納税義務自体ではなく, それが財団債権であるか否かの問題であれば,財団債権でないことの確認を求める訴訟によることとなります(最高裁昭和62年4月21日判決のほか,破産管財手続の運用と書式(第3版)284頁参照)。
イ 交付要求につき,事実上の行為についての審査請求(行政不服審査法47条1号)ということで,国税庁長官を相手方として(行政不服審査法4条4号),国税不服審判所に対する審査請求ができるのかもしれません(月刊大阪弁護士会2022年1月号67頁参照)。
(7) 相殺禁止
ア 以下の相殺は禁止されています。
① 不法行為により生じた債権(例えば,交通事故に基づく損害賠償請求権)を受働債権とする相殺(民法509条)
② 差押禁止債権(例えば,未払の婚姻費用又は養育費の4分の3)を受働債権とする相殺(民法510条)
イ 不法行為の被害者が相殺を主張することは許されます(最高裁昭和42年11月30日判決)。
(2)ア 不法行為の被害者が使用者であり,不法行為の加害者が労働者である場合,賃金の全額払いを定める労働基準法24条1項との関係で,使用者による相殺は許されません(最高裁大法廷昭和36年5月31日判決)。
イ 賃金の過払を原因とする相殺は,過払のあった時期から見て,これと賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされる場合であり,しかも,その金額,方法等においても,労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合に限り許されます(最高裁昭和45年10月30日判決。なお,先例として,最高裁昭和44年12月18日判決参照)。
(8) 破産管財人の善管注意義務
・ 破産管財人が,破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除するに際し,賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に破産者が差し入れていた敷金を充当する旨の合意をし,上記賃料等の現実の支払を免れた場合において,当時破産財団には上記賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており,これを現実に支払うことに支障がなかったなど判示の事情の下では,破産管財人は,敷金返還請求権の質権者に対し,敷金返還請求権の発生が阻害されたことにより優先弁済を受けることができなくなった金額につき不当利得返還義務を負います(最高裁平成18年12月21日判決)。
(9) その他
・ 私の経験では,法テラスを利用した破産事件の場合,令和2年12月22日時点において,管財事件になった場合の追加の弁護士報酬の支払がなくなっていました。
・ 東京地裁平成28年3月11日判決(判例秘書に掲載)は,原告の被告(不倫女性)に対する不貞慰謝料請求権が破産法253条1項2号所定の非免責債権に該当しないとされた事例です。

6 個人再生に関するメモ書き

(1) 民事再生法25条4号に基づき再生手続開始の申立てが棄却される類型としては,①受任通知後の意図的偏頗弁済,②受任通知後の浪費,③清算価値や履行可能性に直ちに大きな影響のない虚偽報告等,④債務の大半が非免責債権である場合及び⑤破産手続において免責不許可となった直後の個人再生申立てがありますところ,大阪地裁第6民事部の場合,個人再生の申立てが棄却されたとしても牽連破産としない運用をしています(月刊大阪弁護士会2024年3月号86頁ないし88頁の「はい6民です お答えしますvol.280 個人再生の申立てが不当目的・不誠実申立てであるとして棄却されるのはどのような場合ですか。」参照)。
(2) 民事再生法174条2項3号所定の「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」には,議決権を行使した再生債権者が詐欺,強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより,再生計画案が信義則に反する行為に基づいて可決された場合も含まれます(最高裁平成20年3月13日決定)。
(3)   いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約中の,ユーザーについて民事再生手続開始の申立てがあったことを契約の解除事由とする旨の特約は,無効です(最高裁平成20年12月16日判決)。
(4) 小規模個人再生において,再生債権の届出がされ(民事再生法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。),一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても,住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては,当該再生債権の存否を含め,当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができます(最高裁平成29年12月19日決定)。

7 任意整理に関するメモ書き

(1)  債務整理に係る法律事務を受任した弁護士が,当該債務整理について,特定の債権者に対する残元本債務をそのまま放置して当該債務に係る債権の消滅時効の完成を待つ方針を採る場合において,上記方針は,債務整理の最終的な解決が遅延するという不利益があるほか,上記債権者から提訴される可能性を残し,一旦提訴されると法定利率を超える高い利率による遅延損害金も含めた敗訴判決を受ける公算が高いというリスクを伴うものである上,回収した過払金を用いて上記債権者に対する残債務を弁済する方法によって最終的な解決を図ることも現実的な選択肢として十分に考えられたなど判示の事情の下では,上記弁護士は,委任契約に基づく善管注意義務の一環として,委任者に対し,上記方針に伴う上記の不利益やリスクを説明するとともに,上記選択肢があることも説明すべき義務を負います(最高裁平成25年4月16日判決)。
(2)  債権者が会社に金銭を貸し付けるに際し,社債の発行に仮託して,不当に高利を得る目的で当該会社に働きかけて社債を発行させるなど,社債の発行の目的,会社法676条各号に掲げる事項の内容,その決定の経緯等に照らし,当該社債の発行が利息制限法の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められるなどの特段の事情がある場合を除き,社債には同法1条の規定は適用されません(最高裁令和3年1月26日判決)。
(3) マンション.naviに「不動産一括査定サイト大手7社を徹底比較!マンション売却に最適なのは?」が載っていますところ,これによれば,不動産一括査定サイトとして,マンションナビ,イエウール,イエイ,HOME4U,すまいValue,SUUMO及びHOME’Sがあります。
    通常売買(不動産の売却代金から住宅ローンをすべて支払える売買)であれば,これらの一括査定サイトを使って売却相場を把握した方がいいと思いますものの,オーバーローン不動産に関する任意売却の場合,売買代金の中から売主がもらえるのは引越代ぐらいですし,売却相場から外れた売却について抵当権者が承諾することはありませんから,一括査定サイトを使う必要性は乏しいと思います。

8 強制執行に関するメモ書き(1) 配当異議の訴え

ア 配当異議の訴えにおいて,競売申立書における被担保債権の記載が錯誤,誤記等に基づくものであること及び真実の被担保債権の額が立証されたときは,真実の権利関係に即した配当表への変更を求めることができます(最高裁平成15年7月3日判決)。
    なお,関西大学レポジトリに,最高裁平成15年7月3日判決の解説記事として,「配当異議の訴えにおいて競売申立書の被担保債権の記載と異なる真実の権利関係に即した配当表への変更を求めるための要件」が載っています。
イ 破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合において,破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額が実体法上の残債権額を超過するときは,その超過する部分は当該債権について配当すべきです(最高裁平成29年9月12日決定)。
(2) 財産開示
ア  財産開示手続は,権利実現の実効性を確保する見地から,債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続であり,債務者(開示義務者)が財産開示期日に裁判所に出頭し,債務者の財産状況を陳述する手続となります(東京地裁HPの「財産開示手続を利用する方へ」参照)。
イ 民事執行法197条1項2号に該当する事由があるとしてされた財産開示手続の実施決定に対する執行抗告においては、請求債権の不存在又は消滅を執行抗告の理由とすることはできません(最高裁令和4年10月6日決定)。
(3) その他
・ idlenessブログ「物上代位権の行使時期」には「実際に被担保債権の弁済期到来前に物上代位権の行使ができるかというと,おそらく否です。」と書いてあります。
・ 不動産執行の申立てにおける付随処分は原則として以下の記載となります(桃風呂ブログの「土地・建物明渡強制執行の流れ」参照)。
① 同時送達の申立て:要
② 執行の立会い:有
③ 執行日時の通知:要
④ 執行調書謄本の関係人への送付:要
⑤ 事件完了時の債務名義正本及び送達証明書の還付:要
・  ハーグ条約実施法134条に基づき子の返還を命ずる終局決定を債務名義としてされた間接強制の方法による子の返還の強制執行の申立ては,当該申立ての後に当該終局決定を債務名義とする子の返還の代替執行により子の返還が完了したという事実関係の下においては,不適法です(最高裁令和4年6月21日決定)。

9 関連記事その他

(1) 株式会社の清算人の員数は,法律上必ずしも2人以上であることを要せず,1人しか選任されなったときは,同人が当然にその会社を代表する権限を有します(最高裁昭和46年10月19日判決)。
(2)  法律上の原因なく代替性のある物を利得した受益者は,利得した物を第三者に売却処分した場合には,損失者に対し,原則として,売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負います(最高裁平成19年3月8日判決)。
(3) 契約切替又は債権譲渡により取引先がクォークローンからプロミスに変わった事例につき,契約切替に応じた人については,プロミスによる債務引受についての受益の意思表示があるものとして,クオークローンとの取引の際に発生した過払金も含めてプロミスに請求できると判断され(最高裁平成23年9月30日判決),契約切替ではなく債権譲渡によりプロミスに債権者が変わったケースについては、平成20年12月15日の債務引受条項の変更までに、債務引受についての受益の意思表示はされていないとして、クオークローンとの取引の際に発生した過払金はプロミスに請求できないと判断されました(最高裁平成24年6月29日判決)ところ,この点については過払い金ナビ「合併・債権譲渡等により債権者が変わった場合の問題点」が参考になります。
(4) 最高裁昭和42年3月9日判決は,「破産者は破産財団の所属財産に関して管理処分権を有しないのにかかわらず、会社の代表取締役となつて会社財産の管理処分の権限を有するに至るということは、到底是認し得ないところというべきである。」と判示していましたが,平成18年5月1日に会社法が施行されてからは,破産者であることは取締役の欠格事由ではなくなりました(会社法331条のほか,弁護士法人クラフトマンHPの「1. 1.1 取締役の資格と欠格事由」参照)。
(5)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 差押禁止債権が振り込まれた預貯金口座に係る預貯金債権の差押えについて(令和2年1月31日付の国税庁徴収部長の指示)
→ 大阪高裁令和元年9月26日判決(裁判長は36期の中村也寸志裁判官)を踏まえた取扱いを指示した文書です。
イ 以下の記事も参照してください。
・ 破産管財人の選任及び報酬
・ 司法研修所弁護教官の業務は弁護士業務でないものの,破産管財人として行う業務は弁護士業務であること
・ 大阪弁護士会の負担金会費
→ 大阪弁護士会所属の弁護士が破産管財人報酬を受領した場合,税抜価格の7%を負担金会費として大阪弁護士会に支払う必要があります。


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