建設業者の不法行為責任等に関するメモ書き


目次
1 設計・施工者等の不法行為責任
2 最高裁平成19年7月6日判決の元となった事案の訴訟経緯
3 請負人が破産した場合における相殺主張
4 建設リサイクル法
5 石綿関連疾患に関する最高裁判例
6 関連記事その他

1 設計・施工者等の不法行為責任
(1) 建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者を含む建物利用者,隣人,通行人等に対する関係でも,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い,これを怠ったために建築された建物に上記安全性を損なう瑕疵があり,それにより居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合には,設計者等は,不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り,これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負います(最高裁平成19年7月6日判決)。
(2)  最高裁平成17年(受)第702号同19年7月6日第二小法廷判決・民集61巻5号1769頁にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,居住者等の生命,身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい,建物の瑕疵が,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず,当該瑕疵の性質に鑑み,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,当該瑕疵は,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当します(最高裁平成23年7月21日判決)。
(3)ア マンションに瑕疵があった場合,施工業者が負うのは損害賠償責任に限られます(不動産投資DOJO「マンションに瑕疵があった場合、責任は誰が負うのか?」参照)。
イ 三井住友トラスト不動産HPに「購入した建物の瑕疵について設計・施工者等に対する損害賠償請求は認められるか」が載っています。

2 最高裁平成19年7月6日判決の元となった事案の訴訟経緯
(1) 最高裁平成19年7月6日判決の元となった事案は,平成2年4月25日に検査済証が交付された大分県内のマンションに関するものでありますところ,平成8年7月2日に訴訟が提起された後の経緯は以下のとおりですから,訴訟提起から終結までに16年半ぐらいがかかっています。
① 大分地裁平成15年2月24日判決(原告の一部勝訴)
② 福岡高裁平成16年12月16日判決(原告の全部敗訴)
③ 最高裁平成19年7月6日判決(破棄差戻し)
④ 福岡高裁平成21年2月6日判決(原告の全部敗訴)
⑤ 最高裁平成23年7月21日判決(破棄差戻し)
⑥ 福岡高裁平成24年1月10日判決(原告の一部勝訴)
→ 元金ベースでは,3億5084万9329円の請求に対し,2848万8751円が認められました。
⑦ 最高裁平成25年1月29日決定(上告不受理)
(2) 平成26年の場合,建物の瑕疵を主張する建築瑕疵損害賠償事件の平均審理期間は25.2ヶ月であり,建物の請負代金を請求する建築請負代金事件の平均審理期間は15.7ヶ月です(弁護士の選び方HPの「民事裁判にかかる期間はどのくらい?」参照)。


3 請負人が破産した場合における相殺主張
(1) 最高裁令和2年9月8日判決は, 請負人である破産者の支払の停止の前に締結された請負契約に基づく注文者の破産者に対する違約金債権の取得が,破産法72条2項2号にいう「前に生じた原因」に基づく場合に当たり,上記違約金債権を自働債権とする相殺が許されるとされた事例です。
(2) 「建設工事標準請負契約約款の改正について」10頁及び11頁に,最高裁令和2年9月8日判決を踏まえた違約金条項の条文が載っています。

4 建設リサイクル法
・ 建設リサイクル法は,特定建設資材(コンクリート(プレキャスト板等を含む。),アスファルト・コンクリート及び木材)を用いた建築物等に係る解体工事又はその施工に特定建設資材を使用する新築工事等であって一定規模以上の建設工事について,その受注者等に対し,分別解体等及び再資源化等を行うことを義務付けています(環境省HPの「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(平成12年5月31日法律第104号)」参照)。

5 石綿関連疾患に関する最高裁判例
(1) 責任を肯定する方向の判断
 最高裁平成26年10月9日判決は,労働大臣が石綿製品の製造等を行う工場又は作業場における石綿関連疾患の発生防止のために労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの)に基づく省令制定権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例です。
・ 最高裁令和3年5月17日判決は,石綿含有建材を製造販売した建材メーカーらが,中皮腫にり患した大工らに対し,民法719条1項後段の類推適用により,上記大工らの各損害の3分の1について連帯して損害賠償責任を負うとされた事例です。
・ 最高裁令和3年5月17日判決は,原告らの採る立証手法により特定の建材メーカーの製造販売した石綿含有建材が特定の建設作業従事者の作業する建設現場に相当回数にわたり到達していたとの事実が立証され得ることを一律に否定した原審の判断に経験則又は採証法則に反する違法があるとされた事例です。
(2) 責任を否定する方向の判断
・ 最高裁平成25年7月12日判決は,原審が,壁面に吹き付けられた石綿が露出している建物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった時点を明らかにしないまま,同建物の設置又は保存の瑕疵の有無について判断したことに審理不尽の違法があるとされた事例です。
・ 最高裁令和3年5月17日判決は,建材メーカーが,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する屋外の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者に対し,上記石綿含有建材に当該建材から生ずる粉じんにばく露すると重篤な石綿関連疾患にり患する危険があること等の表示をすべき義務を負っていたとはいえないとされた事例です。
・ 最高裁令和4年6月3日判決は,建材メーカーが、石綿含有建材の製造販売に当たり、当該建材が使用される建物の解体作業に従事する者に対し、当該建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険があること等を表示すべき義務を負っていたとはいえないとされた事例です。

6 関連記事その他
(1) J-Net21「民法改正による新制度(第2回)- 請負契約」が載っています。
(2)ア 二弁フロンティア2021年4月号「建築紛争処理の実務」には「新民法下では、請負人は、注文者に不相当な負担を課すものでないときには、注文者が請求した方法と異なる方法により修補で対応する旨反論することが可能となりました(民法 562 条 1 項ただし書、559 条)。」と書いてあります。
イ 住宅紛争審査会は,評価住宅及び保険付き住宅(1号保険付き住宅及び2号保険付き住宅)について,その建設工事の請負契約又は売買契約に関する紛争の処理を行っています(住まいダイヤルHPの「住宅紛争審査会の取り扱う紛争」参照)。
(3)ア 大阪地裁第10民事部(建築・調停部)HP「瑕疵一覧表」の記載例が載っています。
イ 日本建築学会HP「報告書 修補工事費見積り方法の検討」(2019年3月)が載っています。
(4) 「注文者が受ける利益の割合に応じた報酬」について定める民法634条は,最高裁昭和56年2月17日判決を明文化したものです。
(5)ア 最高裁平成22年7月20日判決は,「請負人の製造した目的物が,注文者から別会社を介してユーザーとリース契約を締結したリース会社に転売されることを予定して請負契約が締結され,目的物がユーザーに引き渡された場合において,注文書に「ユーザーがリース会社と契約完了し入金後払い」等の記載があったとしても,上記請負契約は上記リース契約の締結を停止条件とするものとはいえず,上記リース契約が締結されないことになった時点で請負代金の支払期限が到来するとされた事例」です。
イ  最高裁平成22年10月14日判決は,「数社を介在させて順次発注された工事の最終の受注者XとXに対する発注者Yとの間におけるYが請負代金の支払を受けた後にXに対して請負代金を支払う旨の合意が,Xに対する請負代金の支払につき,Yが請負代金の支払を受けることを停止条件とする旨を定めたものとはいえず,Yが上記支払を受けた時点又はその見込みがなくなった時点で支払期限が到来する旨を定めたものと解された事例」です。
ウ 新銀座法律事務所HPに「請負代金の請求と入金リンク条項、その解釈と有効性」が載っています。
(6) 以下の記事も参照してください。
・ 地方裁判所の専門部及び集中部
→ 建築専門部は東京地裁22民及び大阪地裁10民だけです。
・ 最高裁判所庁舎
・ 最高裁判所の庁舎平面図の開示範囲
・ 最高裁判所の庁舎見学に関する,最高裁判所作成のマニュアル


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