メインコンテンツへスキップ
       

建設業者の不法行為責任等―建築瑕疵,契約不適合,破産及び石綿判例(AIリライト)

第1 建築瑕疵をめぐる責任の全体像

1 契約責任と不法行為責任の区別

建築工事に不具合がある場合,誰が誰に対して,どの契約又は法令に基づいて責任を負うかを分けて検討する必要がある。
注文者が請負人に責任を追及する場面では請負契約上の契約不適合責任が中心となるのに対し,契約関係にない買主,居住者,隣人又は通行人等が設計者,施工者又は工事監理者に責任を追及する場面では不法行為責任が中心となる。

契約上の責任については追完,報酬減額,損害賠償及び解除が問題となるため,施工者が負う責任を損害賠償だけに限定することはできない。
これに対し,不法行為に基づく救済は原則として金銭による損害賠償であり,契約に適合しない施工があったというだけで不法行為責任まで当然に成立するものではない。

2 責任主体ごとに異なる義務

建築紛争では,設計者,施工者,工事監理者,専門工事業者,建材メーカー並びに建物の占有者及び所有者の責任根拠が異なる。
「建設業者」という一括した呼称だけで結論を出さず,各主体が実際に担当した業務,危険を予見できた時期,防止措置の可能性及び損害との因果関係を確認する必要がある。

建物の設置又は保存の瑕疵については,民法717条により,占有者が必要な注意をしたときは所有者が責任を負うという別の制度もある。
設計・施工上の過失に基づく民法709条の責任と,土地工作物の占有者・所有者に関する民法717条の責任は,成立要件を区別して検討すべきである。

第2 注文者が請負人に追及する契約上の責任

1 追完,報酬減額,損害賠償及び解除

請負の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合,民法559条が売買の契約不適合責任に関する規定を準用するため,注文者は,民法562条から564条まで及び415条等に基づき,追完,報酬減額,損害賠償又は解除を問題にできる。
どの救済が認められるかは,不適合の内容,修補の可能性,催告の有無,請負人の帰責事由,契約目的を達成できるかどうか等によって異なる。

追完の方法については,注文者が指定した方法と異なる方法であっても,注文者に不相当な負担を課さない場合には,請負人が別の方法による履行の追完をすることができる。
したがって,修補方法及び修補費用を争う場合には,単に不具合を列挙するだけでなく,契約図書に適合させる具体的な方法と,各方法の安全性,耐久性,費用及び施工上の影響を比較する必要がある。

2 通知期間,消滅時効及び新築住宅の特則

注文者は,原則として,契約不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人へ通知しなければ,追完,報酬減額,損害賠償又は解除を主張できない(民法637条1項)。
もっとも,請負人が引渡しの時に不適合を知り,又は重大な過失によって知らなかった場合には,この通知期間による制限は適用されない(同条2項)。

通知をすれば請求権が無期限に存続するわけではなく,民法166条等による消滅時効も別に検討する必要がある。
発見日,通知日,通知内容及び相手方への到達を後から確認できるようにし,契約書,電子メール,写真及び調査報告書を一体として保存するのが相当である。

新築住宅の建設工事請負契約では,住宅の品質確保の促進等に関する法律94条により,構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分の瑕疵について,引渡しから10年間の責任が定められている。
注文者に不利な特約は同条の範囲で無効となり,同法97条により責任期間を20年以内へ伸長することができる。

3 建築基準法上の最低基準と契約上の仕様

建築基準関係規定に適合していることと,請負契約の内容に適合していることは同じではない。
最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決(平成15年(受)第377号)は,構造計算上の安全性に問題がなくても,耐久性及び耐震性を高めるためにより太い鉄骨を使用するとの明確な約定に反する施工は瑕疵に当たるとした。

契約不適合の判断では,請負契約書だけでなく,設計図書,仕様書,見積書,打合せ記録,承認図及び施工中の変更合意を確認する必要がある。
法令上の最低基準を満たすという事実だけから,合意された仕様どおりに施工されたと結論付けることはできない。

第3 契約関係にない買主等に対する不法行為責任

1 最高裁平成19年7月6日判決が示した注意義務

建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者は,契約関係にない居住者等との関係でも,建物としての基本的な安全性を欠くことがないよう配慮すべき注意義務を負う。
この義務を怠ったために建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵が生じ,居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合,設計・施工者等は,瑕疵を知りながらこれを前提として建物を買い受けたなどの特段の事情がない限り,不法行為による損害賠償責任を負う(最高裁平成19年7月6日第二小法廷判決・平成17年(受)第702号・民集61巻5号1769頁)。

同判決は,違法性が強度である場合に限って不法行為責任を認めるという原審の限定を採用しなかった。
他方,請求する側は,誰のどの業務にどの注意義務違反があり,どの瑕疵及び損害へ結び付いたかを主張立証する必要があるため,設計者,施工者及び工事監理者の責任が常に一律となるわけではない。

2 最高裁平成23年7月21日判決が示した瑕疵の範囲

「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,居住者等の生命,身体又は財産を危険にさらす瑕疵をいう。
現実の危険が既に発生している場合に限られず,瑕疵の性質に照らし,放置すればいずれ危険が現実化する場合も含まれる(最高裁平成23年7月21日第一小法廷判決・平成21年(受)第1019号)。

同判決は,構造耐力に関わる瑕疵だけに限定せず,例えば,外壁材が落下するおそれや,漏水,有害物質の発生等によって建物利用者の健康又は財産が損なわれる危険がある場合も含み得るとした。
他方,建物の美観又は居住環境の快適さを損なうにとどまる不具合は,それだけでは基本的安全性を損なう瑕疵に当たらない。

3 法令違反,不具合及び損害を分ける必要性

建築基準関係規定への違反は,瑕疵及び過失を判断する重要な資料となり得るが,法令違反があれば直ちに全ての損害について不法行為責任が成立するわけではない。
反対に,明確な法令違反を特定できない場合でも,建物利用者の生命,身体又は財産を危険にさらす設計・施工上の欠陥があれば,不法行為責任の検討対象となり得る。

請求する側は,①契約又は設計上予定された状態,②実際の施工状態,③不具合の原因,④基本的安全性への影響,⑤必要な修補方法,⑥損害額,⑦各責任主体の関与を区別して整理すべきである。
施工者側は,各不具合について,契約不適合の有無,経年劣化,維持管理,第三者工事,因果関係及びより低額で相当な修補方法を個別に検討することになる。

4 不法行為の消滅時効

不法行為による損害賠償請求権は,原則として,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき,又は不法行為の時から20年間行使しないときに時効によって消滅する(民法724条)。
人の生命又は身体を害する不法行為については,前者の期間が5年間となる(民法724条の2)。

建築紛争では,引渡し,瑕疵の発生,損害の顕在化,専門調査による原因判明及び責任主体の判明が別の時点となることがある。
期間制限の起算点は事案ごとの検討を要するため,危険又は不具合を把握した段階で,安全確保と並行して早期に資料を保全する必要がある。

第4 建築瑕疵による損害と建築士の責任

1 修補費用,建替費用及び利益控除

建物に重大な瑕疵があり,建替えを余儀なくされる場合,注文者は請負人に対して建替費用相当額の損害賠償を求めることができる(最高裁平成14年9月24日第三小法廷判決・平成14年(受)第605号・裁判集民事207号289頁)。
もっとも,建替えが必要か,適切な修補によって契約内容を実現できるかは,安全性,耐久性,施工可能性及び費用を踏まえて個別に判断される。

構造耐力上の安全性を欠き,社会通念上,建物自体に社会経済的価値がないと評価される事案では,買主がそれまで居住した利益又は建替えによって耐用年数が伸びる利益を建替費用相当額から控除することはできない(最高裁平成22年6月17日第一小法廷判決・平成21年(受)第1742号・民集64巻4号1197頁)。
この判決は重大な瑕疵により社会経済的価値がないとされた事案の判断であり,通常の修補事案へ利益控除の否定を一律に広げるべきではない。

2 建物を売却した後の修補費用

最高裁平成23年7月21日判決は,所有者が建物を第三者へ売却した後であっても,売却時に修補費用相当額の補填を受けたなどの特段の事情がない限り,一旦取得した修補費用相当額の損害賠償請求権を当然には失わないとした。
売却価格,瑕疵の開示,買主との負担合意及び修補費用の転嫁の有無は,損害の補填又は二重取得が生じないかを判断する資料となる。

3 建築士による実体に沿わない工事監理者の記載

最高裁平成15年11月14日第二小法廷判決(平成12年(受)第1711号・民集57巻10号1561頁)は,一級建築士が確認申請書に自己が工事監理を行う旨の実体に沿わない記載をした事案を扱った。
同判決は,自己が工事監理を行わないことが明確になった段階で,建築主に工事監理者の変更届をさせるなどの適切な措置を執る法的義務を認め,これに違反した建築士が瑕疵のある建物を購入した者に不法行為責任を負い得るとした。

ここでいう建築士法上の「工事監理」と,施工会社が工程,品質,原価又は安全を管理する意味で用いる「工事管理」は同じではない。
建築士の責任を検討するときは,確認申請上の記載,工事監理契約,設計図書との照合状況,現場確認記録及び是正指示を確認する必要がある。

第5 別府マンション事件の経緯と建築訴訟の期間

1 二度の最高裁判決に至った経緯

最高裁平成19年7月6日判決及び同平成23年7月21日判決の事案は,平成2年4月25日に検査済証が交付された大分県内のマンションについて,平成8年7月2日に訴訟が提起されたものである。
公表資料で確認できる訴訟経緯は,次のとおりである。

大分地裁平成15年2月24日判決(平成8年(ワ)第385号)は,請求の一部を認容した。
② 福岡高裁平成16年12月16日判決は,請求を棄却した。
③ 最高裁平成19年7月6日判決は,原判決を破棄し,福岡高裁へ差し戻した。
④ 福岡高裁平成21年2月6日判決は,再び請求を棄却した。
⑤ 最高裁平成23年7月21日判決は,原判決を破棄し,福岡高裁へ再度差し戻した。
⑥ 福岡高裁平成24年1月10日判決は,差戻し後の請求の一部を認容した。
⑦ 最高裁平成25年1月29日決定により,上告不受理となった。

訴訟提起から終結まで約16年半を要したのは,個別の瑕疵及び損害の認定だけでなく,契約関係にない設計・施工者等が負う注意義務と「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の法的範囲が二度にわたり最高裁で問題となったためである。
この経緯は,建築訴訟一般が常に同程度の期間を要することを示すものではない。

2 建築関係訴訟の平均審理期間

最高裁判所事務総局民事局が公表した「建築関係訴訟事件の審理期間」によれば,令和5年に終局した建築請負代金等事件の平均審理期間は19.6月,建築瑕疵損害賠償事件は26.8月であった。
旧記事が掲げていた平成26年の15.7月及び25.2月は過去の数値であるため,現在の目安としては令和5年の年次値を用いるのが相当である。

平均値は,個々の事件に必要な期間を予測する保証値ではない。
争点数,専門調査の要否,補修方法及び費用の対立,鑑定又は付調停の利用,当事者数並びに和解可能性によって期間は大きく変わる。

第6 請負人が破産した場合の違約金債権と相殺

1 最高裁令和2年9月8日判決

最高裁令和2年9月8日第三小法廷判決(平成31年(受)第61号)は,請負人である破産者の支払停止前に締結された請負契約に基づく注文者の違約金債権について,破産法72条2項2号の「前に生じた原因」に基づく場合に当たり,その違約金債権を自働債権とする相殺を認めた。
判決の対象は,支払停止前に締結された契約に定められた違約金債権と相殺禁止の関係であり,請負人の破産時にはどのような債権でも相殺できるという判断ではない。

実際の相殺の可否は,契約締結時期,支払停止を知った時期,違約金債権の発生原因,請負代金債権との対応関係,破産法71条及び72条の要件並びに契約条項によって判断される。
注文者及び請負人は,倒産時の解除,違約金,出来高精算,前払金及び相殺に関する条項を,契約締結時に具体的に確認すべきである。

2 現行の建設工事標準請負契約約款

国土交通省の建設工事標準請負契約約款は,令和7年12月2日に改正され,同月12日から実施されている。
旧記事が参照していた平成29年の解説資料は現行版ではないため,契約作成又は改訂の際は,国土交通省「建設工事標準請負契約約款について」に掲載された最新の約款本文及び改正履歴を確認する必要がある。

標準約款を参照したというだけで,個別契約に同じ条項が当然に適用されるわけではない。
採用した約款の名称と版,特約による変更及び契約書への組込みを確認することが必要である。

第7 建設リサイクル法の対象工事と手続

1 特定建設資材と対象規模

建設リサイクル法は,コンクリート,コンクリート及び鉄から成る建設資材,木材並びにアスファルト・コンクリートを特定建設資材とし,これらを用いた建築物等の解体工事又は施工にこれらを使用する新築工事等のうち一定規模以上の工事について,分別解体等及び再資源化等を義務付けている。
対象規模は,次のとおりである。

① 建築物の解体工事は,床面積の合計が80平方メートル以上である。
② 建築物の新築又は増築工事は,床面積の合計が500平方メートル以上である。
③ 建築物の修繕又は模様替等は,請負代金が1億円以上である。
④ 建築物以外の工作物に関する工事は,請負代金が500万円以上である。

対象規模に達するかどうかは,工事を不自然に分割した契約名だけで判断するものではなく,実際の工事範囲及び同一工事としての関係を確認する必要がある。
また,建設廃棄物の処理には廃棄物処理法等も関係するため,建設リサイクル法への対応だけで全ての廃棄物処理義務を満たすものではない。

2 発注から再資源化完了までの主な手続

対象建設工事では,工事の発注,受注,施工及び完了の各段階に義務が置かれている。
主要な手続は,次のとおりである。

① 元請業者は,発注者に対し,分別解体等の計画等を書面で説明する。
② 発注者又は自主施工者は,原則として工事着手日の7日前までに都道府県知事へ届け出る。
③ 発注者と受注者は,分別解体等の方法,解体工事費,再資源化施設の名称及び所在地等の法定事項を書面へ記載する。
④ 受注者は,分別解体等及び特定建設資材廃棄物の再資源化等を行う。
⑤ 元請業者は,再資源化等の完了後,その結果を書面で発注者へ報告し,実施状況に関する記録を保存する。

発注者,元請業者及び下請業者では担当する義務が異なる。
具体的な工事では,e-Gov法令検索の建設リサイクル法,同法施行令及び工事場所を管轄する自治体の届出様式を確認すべきである。

第8 石綿をめぐる最高裁判例

1 責任主体,作業場所及び時期を分ける必要性

石綿関係の裁判例には,①石綿が吹き付けられた建物の占有者・所有者,②工場又は建設現場の安全規制を担う国,③石綿含有建材のメーカー等,異なる責任主体が登場する。
さらに,屋内作業か屋外作業か,新築・改修時の作業か解体時の作業か,作業時期にどのような医学的・技術的知見が存在したかによって,予見可能性,警告義務及び因果関係の判断が異なる。

このため,判決を単純に「責任を肯定したもの」と「責任を否定したもの」に二分することは適切でない。
以下では,請求原因と争点に沿って主要最高裁判例を整理する。

2 土地工作物責任と国の規制権限責任

最高裁平成25年7月12日第二小法廷判決(平成22年(受)第1163号,平成22年(オ)第946号)は,吹付け石綿が露出する建物について,土地工作物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった時点及びその時点以後の曝露と疾患との因果関係を十分に審理しなかった原判決を破棄した。
同判決は,土地工作物責任を一律に否定したものではなく,安全性を欠くと評価される時点と因果関係を具体的に審理するよう求めた判決である。

最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決(平成26年(受)第771号)は,石綿製品の製造又は加工を行う工場・作業場について,労働大臣の省令制定権限不行使を国家賠償法上違法とした泉南アスベスト訴訟の判決である。
これは工場労働者に対する国の規制権限責任を扱うものであり,建物の施工者又は建材メーカーの責任を判断した判決ではない。

3 最高裁令和3年5月17日の建設アスベスト4判決

最高裁は,令和3年5月17日,建設アスベスト訴訟について4件の判決を言い渡した。
各判決は,国の責任,一人親方等,建材メーカーの責任,屋内・屋外作業及び建材の現場到達の立証を別々に判断している。

裁判例ID90298の判決は,屋内建設作業に従事した一人親方等に対する国の責任を認め得ること,主要原因建材を製造販売したメーカーに民法719条1項後段を類推適用し得ること及び同一建物で後に作業する者にも警告義務が及び得ることを示した上で,メーカーらに損害の3分の1について連帯責任を認めた。
裁判例ID90299の判決は,屋内作業に従事した一人親方等に対する国の責任部分を破棄差戻しとする一方,当該期間の屋外作業について,建材メーカーの警告義務の前提となる予見可能性の立証を否定した。
裁判例ID90300の判決は,国土交通省のデータベース,建材のシェア及び使用頻度等を組み合わせた立証方法によって,特定メーカーの建材が特定の作業者の現場へ相当回数到達した事実を立証し得ることを一律に否定した原審判断を,経験則又は採証法則に反するとした。
裁判例ID90301の判決は,平成13年から平成16年頃までの屋外建設作業について,当時の知見を前提に,国及び建材メーカーの責任を否定した。

4判決からは,建材メーカーを被告とする請求で,石綿含有建材を扱ったという一般的な事実だけでは足りず,メーカー,建材,現場への到達,作業内容,曝露時期,疾患及び損害を結び付ける立証が必要であることが分かる。
民法719条1項後段の類推適用も,個々のメーカーを特定できない全ての事案について当然に認められるものではない。

4 解体作業者に対する警告義務

最高裁令和4年6月3日第二小法廷判決(令和3年(受)第1125号,第1126号)は,製造販売時に建材本体又は建物へ表示を残すなど,原告側が主張した方法について,解体作業者への警告としての実現可能性及び有効性を認めず,建材メーカーの警告義務を否定した。
他方,同判決は,一部の原告について建築作業時の曝露可能性をさらに審理させるため,原判決を破棄差戻しとしている。

したがって,同判決を,解体作業に関係する建材メーカーの責任をあらゆる主張について全面的に否定したものと読むことはできない。
判決が否定した警告方法と,破棄差戻しとなった建築作業時の曝露を区別する必要がある。

5 建設アスベスト給付金制度

建設アスベスト訴訟の最高裁判決を受け,特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律に基づく給付金制度が設けられている。
対象となる業務期間,作業場所,疾病,請求期限及び必要書類が定められているため,制度の利用を検討する場合は,厚生労働省「建設アスベスト給付金制度」の最新案内を確認する必要がある。

第9 建築紛争の初期調査と手続選択

1 最初に保全すべき資料

建築紛争の初期段階では,現場を改変する前に,①請負契約書,設計図書,仕様書及び見積書,②確認申請書,検査済証及び工事監理報告書,③施工写真,工程表,検査記録及び是正記録,④引渡し後の修繕・維持管理記録,⑤不具合の位置,発見日及び進行状況が分かる写真・動画,⑥当事者間の通知及び回答を集める必要がある。
漏水,落下,倒壊,石綿粉じん等の危険がある場合は,証拠保全だけを優先せず,立入制限,応急措置及び行政機関・専門家への連絡によって安全を確保すべきである。

請求する側は,不具合ごとに,契約上予定された状態,現状,原因,責任主体,修補方法及び費用を対応させた一覧表を作成すると争点を把握しやすい。
大阪地裁第10民事部が公開する瑕疵一覧表の記載例は,主張と証拠を整理する際の参考となる。

2 低負担の確認から専門調査へ進む条件

まず,当事者が保有する契約資料,施工記録,写真及び通知記録を照合し,不具合の範囲と争いのある事実を絞るべきである。
その上で,結論を左右する構造,漏水経路,地盤,材料又は修補方法が残る場合に,建築士その他の専門家による現地調査,非破壊検査又は限定的な破壊調査を検討する。

調査を依頼するときは,何を確認する調査か,誰が資料を保有するか,検査で何が判明すれば責任又は修補方法の結論が変わるかを明確にする必要がある。
高額な鑑定又は広範な破壊調査は,低負担の資料確認後も残る具体的争点を解決できる場合に限定し,想定費用が請求額又は安全確保上の必要性に見合わない場合は範囲を縮小するのが相当である。

3 交渉,住宅紛争処理及び訴訟

評価住宅又は保険付き住宅については,住宅紛争審査会によるあっせん,調停又は仲裁を利用できる場合がある。
対象住宅,申請できる当事者及び対象紛争に要件があるため,住まいダイヤルの案内で確認する必要がある。

訴訟では,裁判所が鑑定又は付調停を利用して専門的知見を得ることがあるが,申立てをすれば必ず採用されるものではない。
大阪地裁の建築関係訴訟・調停の案内及び本ブログの地方裁判所の専門部及び集中部も参照されたい。

資料を照合しても基本的安全性を損なう瑕疵,契約不適合,責任主体又は相当な修補費用を具体化できず,追加調査をしても結論が変わる見込みが乏しい場合は,訴訟又は高額な追加調査へ進まないことも選択肢となる。
反対に,人身危険,急速な劣化,証拠の消失又は期間制限が迫る場合は,費用対効果だけで先送りせず,安全措置と法的手続を早急に検討すべきである。

第10 出典・参考資料

1 法令

民法(明治29年法律第89号)166条,415条,559条,562条~564条,636条,637条,709条,717条,719条,722条,724条及び724条の2
破産法(平成16年法律第75号)71条及び72条
住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成11年法律第81号)94条及び97条
建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(平成12年法律第104号)9条~13条,16条及び18条
建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律施行令(平成12年政令第495号)2条及び3条

2 裁判例

① 最高裁平成14年9月24日第三小法廷判決・平成14年(受)第605号・裁判集民事207号289頁・判例時報1801号77頁(最高裁判所「建築関係訴訟委員会答申」所収)
② 最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決・平成15年(受)第377号・裁判集民事211号13頁・判例時報1840号18頁(同答申所収)
③ 最高裁平成15年11月14日第二小法廷判決・平成12年(受)第1711号・民集57巻10号1561頁・判例時報1842号38頁(同答申所収)
大分地裁平成15年2月24日判決・平成8年(ワ)第385号
最高裁平成19年7月6日第二小法廷判決・平成17年(受)第702号・民集61巻5号1769頁
最高裁平成22年6月17日第一小法廷判決・平成21年(受)第1742号・民集64巻4号1197頁
最高裁平成23年7月21日第一小法廷判決・平成21年(受)第1019号
⑧ 福岡高裁平成24年1月10日判決・判例タイムズ1387号238頁(裁判所HP未掲載)
最高裁令和2年9月8日第三小法廷判決・平成31年(受)第61号・民集74巻6号1643頁
最高裁平成25年7月12日第二小法廷判決・平成22年(受)第1163号,平成22年(オ)第946号・集民244号49頁
最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決・平成26年(受)第771号・民集68巻8号799頁
最高裁令和3年5月17日第一小法廷判決・平成30年(受)第1447号,第1448号,第1449号,第1451号,第1452号・民集75巻5号1359頁
最高裁令和3年5月17日第一小法廷判決・平成31年(受)第491号,第495号・裁判集民事265号267頁
最高裁令和3年5月17日第一小法廷判決・平成31年(受)第596号・民集75巻6号2303頁
最高裁令和3年5月17日第一小法廷判決・平成31年(受)第290号,第291号,第292号・裁判集民事265号201頁
最高裁令和4年6月3日第二小法廷判決・令和3年(受)第1125号,第1126号・裁判集民事268号1頁

3 公的資料

① 最高裁判所事務総局民事局「建築関係訴訟事件の処理状況及び平均審理期間(平成24年~令和6年)」1頁
② 国土交通省「建設工事標準請負契約約款について」(令和7年12月2日改正,令和8年2月25日訂正)
③ 国土交通省「建設リサイクル法の概要
④ 公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅紛争審査会の取り扱う紛争
⑤ 大阪地方裁判所「建築関係訴訟・調停」及び「瑕疵一覧表の記載例
⑥ 一般財団法人不動産適正取引推進機構「建物の瑕疵と設計・施工者等の不法行為責任」RETIO121号,2021年,99頁~112頁
⑦ 厚生労働省「建設アスベスト給付金制度について

4 文献

① 笠井修『建設工事契約法』有斐閣,2023年,379頁~387頁
② 齋藤繁道編著『建築訴訟 最新裁判実務大系6』青林書院,2017年,176頁~211頁
③ 須藤典明・深見敏正編著『損害賠償訴訟IV』青林書院,2025年,156頁~157頁
④ 吉村良一「建設アスベスト最高裁4判決と建材メーカーの責任」『法律時報93巻11号e-Book 建設アスベスト訴訟最高裁判決の意義と課題』日本評論社,2021年,16頁~21頁
⑤ 松本克美「建物の安全性確保義務と不法行為責任」立命館法学2011年3号,222頁~279頁