第1 司法試験の合格点と採点の全体像
1 合格判定には三つの関門がある
司法試験の合否を理解するためには,①短答式試験の合格に必要な成績,②論文式試験の科目別最低ライン,③短答式試験と論文式試験を合算した総合点の合格点を区別する必要がある。
令和8年司法試験では,短答式試験について,各科目で満点の40%点以上を取り,かつ,3科目の合計得点が99点以上でなければならない。
短答式試験の合格に必要な成績を得ても,論文式試験で1科目でも満点の25%点に達しなければ,それだけで不合格となる。
これら二つの関門を通過した者について,短答式試験と論文式試験の総合点を計算し,司法試験委員会がその年度の合格点を決定する。
2 本記事の基準日
本記事は,令和8年8月29日現在の法令,司法試験委員会決定及び法務省公表資料に基づく。令和8年10月4日,採点方針の根拠資料の名称,最低ラインの判定単位及び採点方針の共有と得点調整の違いを原典で再確認して補足した。
令和8年司法試験については短答式試験の結果まで公表されているが,最終合格発表は令和8年11月11日午後4時の予定であり,令和8年の総合点の合格点はまだ公表されていない。
第2 「足切り」と合格判定の法的な仕組み
1 司法試験法2条2項の構造
司法試験法2条2項は,司法試験の合格者の判定を,短答式試験の合格に必要な成績を得た者について,短答式試験及び論文式試験の成績を総合して行うものとしている。
したがって,短答式試験は単なる参考資料ではなく,論文式試験とともに最終の総合点へ組み込まれる一方,短答式試験の合格に必要な成績を得られなければ総合評価の対象にならない。
司法試験法8条によれば,司法試験の合格者は,司法試験考査委員の合議による判定に基づき,司法試験委員会が決定する。
合格者数は,この判定の結果として年ごとに決まる。
政府の法曹養成制度改革推進会議は,平成27年6月30日の決定で,当面,司法試験合格者として1,500人程度が輩出されるよう必要な取組を進め,更にこれにとどまらずより多くの質の高い法曹が輩出される状況を目指すとしたが(同決定2頁),令和3年の合格者は1,421人であった。
日本弁護士連合会の「法曹人口政策に関する当面の対処方針」(2022年3月17日)も,合否の判定は近年の合格者数の維持を所与の目標とすることなく,司法試験法1条に基づいて厳正に実施されるべきであるとしている(同方針3頁)。
2 「足切り」は公式資料の用語ではない
受験案内や受験指導では「足切り」という表現が広く用いられるが,令和8年司法試験の方式・内容等については,短答式試験について「合格に必要な成績」と「最低ライン」,論文式試験について「最低ライン」という用語を用いている。
本記事では検索上の分かりやすさから「足切り」に触れるものの,短答式試験の合計得点の基準と,短答式・論文式の科目別最低ラインを分けて記載する。
第3 短答式試験の合格に必要な成績
1 二つの基準を同時に満たす必要がある
短答式試験では,次の二つの基準を同時に満たす必要がある。
①憲法,民法及び刑法の各科目で,それぞれ満点の40%点以上を取ること
②3科目の合計得点が,司法試験委員会が当該年度について決定した点数以上であること
科目別最低ラインは40%点で固定されているが,合計得点の基準は年度ごとに決定される。
2 令和8年は合計99点以上である
令和8年司法試験短答式試験の結果によれば,令和8年の基準は次のとおりである。
| 科目又は区分 | 満点 | 科目別最低ライン又は合計基準 |
|---|---|---|
| 憲法 | 50点 | 20点以上 |
| 民法 | 75点 | 30点以上 |
| 刑法 | 50点 | 20点以上 |
| 3科目合計 | 175点 | 99点以上 |
採点対象者は3,822人であり,短答式試験の合格に必要な成績を得た者は3,068人,その平均点は126.2点であった。
合計得点が99点以上でも,いずれか1科目が40%点未満であれば,短答式試験の合格に必要な成績を得たことにはならない。
反対に,3科目がすべて40%点以上でも,合計得点が99点未満であれば,同様に総合評価の対象にならない。
3 短答式の得点は最終の総合点にも入る
短答式試験を通過した後も,短答式試験の得点は消えるわけではない。
175点満点の短答式得点は,後記第5の算式により,論文式得点と合算される。
4 各問の配点と部分点
司法試験の方式・内容等については,短答式試験の問題別配点について,憲法は問題の出題形式,難易度等を考慮して各問題の配点に差を設け,民法は1問2点配点を基本としつつ3点以上配点する問題も出題し,刑法は各問題ごとに配点に差を設けるとしたうえで,「問題文に配点を記載する。」としている。
憲法を例にとると,令和8年の「憲法の正解及び配点」では,2点の問題が10問,3点の問題が10問であり,3点の問題は3つの記述の正誤を一つずつ答える形式で,備考欄に「2問正解で部分点1点」と記載されている。
3つとも正解なら3点,2つが正解なら1点,1つ以下なら0点であり,2点の問題に部分点は無い。
4つの記述の正誤を答える問題では,平成29年の「憲法の正解及び配点」の第6問のように「3問正解で部分点1点」とされた例がある。
民法は,令和8年の「民法の正解及び配点」では37問のうち36問が2点,1問が3点であり,平成27年から令和8年までのいずれの年も,各問の解答欄は1つで,備考欄に部分点の記載は無い。
刑法は,令和8年の「刑法の正解及び配点」では,5つの記述の正誤を答える4点の問題に「4問正解で部分点2点」と記載され,正しいものを2個選ぶ3点の問題は「順不同(部分点なし)」とされている。
部分点は記述の数で割った点数ではないので,自己採点で各科目の40%点に届くかを見積もるときは,問題ごとの配点と備考欄を確認する必要がある。
旧司法試験の短答式(各問1点で部分点なし)との比較は,科目ごとに,短答式の憲法は旧試験と現行試験でどう変わったか―出題形式・配点・部分点の比較,短答式の民法は旧試験と現行試験でどう変わったか―出題形式・配点・部分点の比較及び短答式の刑法は旧試験と現行試験でどう変わったか―出題形式・配点・部分点の比較で扱っている。
第4 論文式試験の採点と最低ライン
1 答案の評価区分と採点の目安
令和8年用の司法試験考査委員会議申合せは,100点配点の答案について,おおむね次の範囲で採点する方針を示している。
| 評価区分 | 100点配点の得点範囲 | 50点配点の得点範囲 |
|---|---|---|
| 優秀 | 75点~100点 | 38点~50点 |
| 良好 | 58点~74点 | 29点~37点 |
| 一応の水準 | 42点~57点 | 21点~28点 |
| 不良 | 0点~41点 | 0点~20点 |
抜群に優れた答案は,100点配点では95点以上,50点配点では48点以上とされ,特に不良な答案は,それぞれ5点以下又は3点以下とされている。
また,各問の答案分布は,優秀5%程度,良好25%程度,一応の水準40%程度,不良30%程度が目安とされている。
もっとも,この割合は一応の目安であり,採点を拘束するものではない。
2 素点と調整後の得点は異なる
論文式試験では,多数の答案を複数の考査委員が分担して採点するため,考査委員や問題による平均点及び得点のばらつきの差を調整する。
具体的には,各考査委員が付けた素点について,その考査委員が採点した答案全体の平均点及び標準偏差を用いて位置を求め,採点格差を調整する。
各問の得点は,複数の考査委員による調整後得点の平均点であり,1科目の得点は,その科目に含まれる各問の得点の合計点である。
したがって,考査委員が答案に付けた素点,採点格差を調整した後の各問の得点,成績通知に現れる科目別得点を同一視してはならない。
採点資料の算式は,調整後得点=〔素点-当該委員の担当答案全体の平均点〕÷当該委員の標準偏差×配点に応じた一定の掛け率+配点に応じて按分した全科目の平均点,という構造である。
標準偏差の計算では担当受験者数から1を引いた数を分母とする。同じ素点でも担当集団の平均・ばらつきが違えば調整後得点は異なり,模試・外部採点と公式得点を満点だけで対応させることはできない。
3 論文式の最低ラインは各科目の25%点である
論文式試験の最低ラインは,公法系科目,民事系科目,刑事系科目及び選択科目の4科目について,各満点の25%点である。7つの必須法律分野ごとに判定するという意味ではない。
| 科目 | 満点 | 最低ライン |
|---|---|---|
| 公法系科目 | 200点 | 50点 |
| 民事系科目 | 300点 | 75点 |
| 刑事系科目 | 200点 | 50点 |
| 選択科目 | 100点 | 25点 |
1科目でも最低ラインに達しなければ,総合点が高くても,それだけで不合格となる。
4 最低ラインの判定は素点平均で行う
論文式試験の最低ラインは,成績通知に現れる調整後の科目別得点によって判定するものではない。
公法系科目,刑事系科目及び選択科目は,問1と問2について,それぞれ考査委員が付けた素点の平均点を合計する。
民事系科目は,問1から問3までについて,同様に素点の平均点を合計する。
このため,公表された採点結果でいう「最低ライン点未満」と,通知された調整後の科目別得点の見かけを単純に比較することはできない。
5 採点方針の共有と得点調整は役割が違う
平成30年8月3日の委員会決定は,試験後に研究者・実務家の検証担当者が問題,採点,出題の趣旨及び採点実感等を検証し,翌年度の改善に生かす仕組みを定めている。
何をよい法的分析や理由付けと評価するかを共有することと,採点者ごとの平均点・標準偏差の違いを調整することは,別の作業である。
松岡久和教授の回想には,過去の作問・採点において答案を試しに採点して方針を調整した経験が記されている。ただし,当時の基準案の頁数や試し採点の通数を,現在の全科目共通の手順として扱うことはできない。
司法試験の作問・採点と法科大学院教育―考査委員の回想を制度資料で読むでは,過去の経験談と現在の制度,採点方針の共有と得点調整,公表資料と内部基準を区別している。
第5 総合点の計算と最終合格点
1 短答式と論文式の比重は1対8である
総合点は,次の算式で計算する。
総合点=短答式試験の得点+(論文式試験の得点×1400/800)
短答式試験は175点満点,論文式試験は800点満点であり,論文式得点を1400点相当に換算するため,両者の比重は1対8,総合点は1,575点満点となる。
例えば,短答式試験が120点,論文式試験が380点であれば,総合点は785点となる。
2 令和7年の最終合格点は770点である
令和7年司法試験の採点結果によれば,論文式試験の全科目で最低ライン以上となった者のうち,総合点770点以上の1,581人が合格者とされた。
令和7年の総合点の最高点は1,288.99点,最低点は381.53点,平均点は794.22点であった。
ここでいう最低点は総合評価対象者全体の最低点であり,最終合格点を意味しない。
3 近年の最終合格点
司法試験の結果について(平成23年~令和7年)によれば,近年の総合点の合格点は次のとおりである。
| 年度 | 総合点の合格点 |
|---|---|
| 令和3年 | 755点 |
| 令和4年 | 750点 |
| 令和5年 | 770点 |
| 令和6年 | 770点 |
| 令和7年 | 770点 |
過去3年が770点であったとしても,770点が恒久的な基準であるわけではない。
令和8年の最終合格点は,令和8年の採点結果と司法試験委員会の決定を待つ必要がある。
第6 成績通知の対象,内容及び時期
1 全科目を受験した者が通知対象である
司法試験における試験成績の本人通知については,短答式試験及び論文式試験の全科目を受験した者に成績を通知するものとしている。
途中欠席その他の理由により全科目を受験しなかった者には,成績は通知されない。
2 短答式試験の通知内容
短答式試験について通知されるのは,①科目別得点及び合計得点と,②合計得点による順位である。
令和8年司法試験Q&Aによれば,令和8年は,電子出願の場合は令和8年8月中旬からマイナポータルで通知され,郵送出願の場合は同月中旬に発送される予定とされた。
3 論文式試験と総合評価の通知内容
論文式試験の成績は,短答式試験の合格に必要な成績を得た者に限って通知される。
通知事項は,①論文式試験の科目別得点及び合計得点,②公法系,民事系及び刑事系科目の各問別順位ランク,③論文式試験の合計得点による順位である。
選択科目については,現行の委員会決定が列挙する各問別順位ランクの対象に含まれていない。
短答式試験及び論文式試験の総合得点と総合順位は,論文式試験の全科目で最低ラインに達した者に限って通知される。
令和8年は,電子出願の場合は令和8年11月中旬からマイナポータルで通知され,郵送出願の場合は同月中旬に発送される予定である。
4 マイナポータルでの確認方法
電子出願者は,マイナポータルのトップページから「さがす」,「証明書」,「国家資格の登録・各種申請」,「司法試験」の順に進み,「試験結果」画面で司法試験結果通知書をダウンロードして確認する。
電子出願者には成績通知書が郵送されないため,自らマイナポータルで取得する必要がある。
法務省は,電話等による合否又は成績の問合せには応じないとしている。
第7 成績通知書を読む際の注意点
1 論文式合計得点と総合得点を区別する
論文式合計得点は800点を基礎とする得点であるのに対し,総合得点は,論文式得点を1400点相当に換算して短答式得点を加えた1,575点満点の得点である。
例えば,論文式合計得点だけを過年度の総合合格点770点と比較しても,合否の位置は判断できない。
2 順位にはそれぞれ対象集団がある
短答式順位,論文式合計順位及び総合順位は,それぞれ異なる得点と通知条件に基づく順位である。
順位の数字だけを見るのではなく,何の得点による順位であるかを確認する必要がある。
3 現行の通知事項を旧情報と混同しない
本記事で確認した現行の委員会決定は,論文式について,科目別得点,合計得点,公法系・民事系・刑事系の各問別順位ランク及び論文式合計順位を通知事項としている。
現行司法試験の通知内容を,旧司法試験の成績通知又は司法試験予備試験の評価区分と混同してはならない。
4 模試・自己採点・外部評価を公式得点へ読み替えない
模試も調整後の点数であったとしても,採点者,受験者集団及び変換の尺度が違えば,公式得点と同じ尺度にはならない。
図書館の海のnote記事は,模試等の経験から得点の幅を狭く想定し,自分の答案を悲観的に評価した受験経験を述べている。これは個人の経験談であり,公式の得点分布又は現在の高得点の頻度を示す資料ではない。
令和2年司法試験の採点結果2頁の論文式最高点は598.77点である。
全ての100点相当の得点が65点以下なら800点を基礎とする合計は520点以下となるため,そのような一律の上限を公式得点に当てはめる理解は成り立たない。ただし,この最高点だけで個々の問の高得点の頻度は分からない。
AI答案の外部採点も,公式の考査委員が付けた素点そのものではない。
予備試験と本試験の違い,公式得点との比較の限界及び同じ条件での答案比較の意義は司法試験で「合格水準」と評価されたAIを弁護士実務でどう評価するかで説明している。
第8 よくある質問
1 短答式は各科目40%を取れば通過できるのか
各科目40%は科目別最低ラインにすぎない。
これとは別に,3科目合計で当該年度の基準点以上を取る必要があり,令和8年は99点以上である。
2 論文式の科目別得点が25%を超えていれば最低ラインを通過したと断定できるか
単純には断定できない。
最低ラインは考査委員が付けた素点の平均を科目内で合計して判定する一方,通知される論文式の科目別得点は採点格差を調整した後の得点を基礎とするからである。
3 総合点770点を取れば令和8年も合格できるのか
令和8年の合格点はまだ決定・公表されていないため,断定できない。
770点は令和5年から令和7年までの合格点であり,年度によって変動し得る。
4 不合格者にも順位は通知されるのか
短答式については,全科目を受験した者に,合計得点による順位が通知される。
論文式の成績は短答式試験の合格に必要な成績を得た者に限られ,総合得点及び総合順位は論文式の全科目で最低ラインに達した者に限られる。
5 短答式の答案が採点されなければ成績通知もないのか
成績通知の一般的な条件は,短答式試験及び論文式試験の全科目を受験したことである。
ただし,法務省の公表資料では,途中欠席者を受験者数に含めつつ,採点対象者数を別に示しているため,自分の個別状況については司法試験委員会の案内を確認する必要がある。
第9 関連記事
論文式試験の採点実感が繰り返し重視する,問いへの正面からの応答,法令・判例等の正確な理解,具体的事実の法的評価,反対論への応答及び論理的で明確な文章を,準備書面・意見書・相談メモの確認項目として整理した記事は,司法試験の採点実感から学ぶ法律文書の書き方―準備書面・意見書・相談メモのチェックリスト(AI作成)である。
採点実感は司法試験答案についての公式資料であり,裁判所へ提出する書面の法的要件又は採否基準そのものではない点に注意を要する。
①司法試験とは―受験資格,5年間の受験期間,試験科目,合格判定及び合格後の流れ
②司法試験制度の改正経緯―旧司法試験から法科大学院・予備試験・在学中受験・CBTまで
③旧司法試験の成績分布及び成績開示
④旧司法試験の成績開示範囲の拡大
⑤司法試験合格後から司法修習開始まで―採用申込み,実務修習地,住居・社会保険及び就職活動の期限
⑥司法試験のCBTとオンライン手続―電子出願,当日の操作,持込品,端末障害及び受験特別措置(AI作成)
⑦予備試験の合格点・採点基準―短答式・論文式の配点,口述試験の基準点及び総合点によらない三段階の合否判定
⑧旧司法試験の短答式試験―試験の構成,平成8年度から平成22年度までの合格点・合格率及び問題・正解の所在
⑨短答式の憲法は旧試験と現行試験でどう変わったか―出題形式・配点・部分点の比較
⑩短答式の民法は旧試験と現行試験でどう変わったか―出題形式・配点・部分点の比較
⑪短答式の刑法は旧試験と現行試験でどう変わったか―出題形式・配点・部分点の比較
第10 出典
①e-Gov法令検索「司法試験法」
②法務省「司法試験の実施に関する司法試験委員会決定等」
③司法試験考査委員会議申合せ事項「司法試験の方式・内容等について」(令和7年11月26日)
④司法試験委員会「司法試験における試験成績の本人通知について」
⑤法務省「令和8年司法試験(短答式試験)の結果」
⑥法務省「令和8年司法試験Q&A」
⑦法務省「令和7年司法試験の採点結果」
⑧法務省「司法試験の結果について(平成23年~令和7年)」
⑨法曹養成制度改革推進会議決定「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日)
⑩法務省「司法試験受験資格別受験・合格状況」
⑪日本弁護士連合会「法曹人口政策に関する当面の対処方針」(2022年3月17日)