第1 本記事の対象と結論
1 対象と資料
本記事は,旧司法試験第二次試験の短答式試験(以下「旧試験」という。)の刑法と,現行の司法試験の短答式試験(以下「現行試験」という。)の刑法とを,出題形式,配点及び部分点の三つの観点から比べるものである。
対象とした年度は,旧試験が平成8年度から平成22年度までの15年度分(刑法の各20問,計300問),現行試験が刑法を単独の科目として出題するようになった平成27年から令和8年までの12年分(各20問,計240問)である。
資料は,法務省ウェブサイトに掲載された各年度の問題,旧試験の「短答式正解等」,現行試験の「正解及び配点」,司法試験の実施日程等及び「旧司法試験の概要」であり,条文はe-Gov法令検索で令和8年10月9日時点の司法試験法を確認した。
出題形式の件数は,本記事の作成に当たり,各年度の刑法の問題文を1問ずつ読み,後記第2の4及び第3の4に記載した基準で機械的に数えた結果である。
2 結論
①旧試験の刑法は,憲法・民法・刑法の3科目60問を通し番号で並べた問題のうちのNo.41からNo.60までの20問であり,各問1点,部分点はなかった。
②現行試験の刑法は,独立の科目として20問・50点満点で出題され,試験時間は50分である(令和2年及び令和8年の実施日程)。
③現行試験の配点は1問2点,3点又は4点であり,5つの記述の正誤をそれぞれ答える問題(配点4点)には,部分点がある(5つの解答欄のうち4つが正しければ2点)。
④現行試験で正しいものを2個選ぶ問題(配点3点)は,順不同で,部分点はない。
⑤旧試験の平成8年度から平成15年度までは,正しい記述や語句の個数・使用回数を答えさせる問題が毎年度4問から13問あったが,平成16年度以降はほとんど出題されなくなった。
⑥旧試験の平成16年度以降は,学生の会話や発言を素材にした学説問題が毎年度12問から17問を占めた。現行試験では,こうした問題は平成27年から令和4年まで2問又は3問であったが,令和5年以降は5問から9問に増えている。
第2 旧司法試験の短答式刑法
1 3科目60問の中の20問
法務省の「旧司法試験の概要」によれば,旧試験の短答式試験は,憲法,民法及び刑法について択一式(マークシート方式)で実施され,平成22年においては,試験時間は3時間30分,出題は60問であった。
問題は3科目を通し番号で並べており,憲法がNo.1からNo.20まで,民法がNo.21からNo.40まで,刑法がNo.41からNo.60までである。
同ページは3科目を通じた試験時間として3時間30分を示しており,科目ごとの試験時間は示していない。
刑法の20問にどれだけの時間を使うかは,受験者が自分で決めることになる。
2 配点は各問1点で部分点はなかった
旧試験の「短答式正解等」は,平成13年度から平成22年度までの正解を掲載しており,多くの年度で,正解の番号に添えて「各問1点,60点満点中46点以上が合格」(平成20年度)のように配点と合格点を示している。
各問は1から5までの番号から一つを選ぶ形式であり,正解の番号を選べば1点,それ以外は0点である。
組合せや個数を答える問題であっても,途中まで正しく考えたことが点数になることはなかった。
3 合格点の推移
「短答式正解等」に記載された合格点(3科目60点満点の合計点)は,次のとおりである。
平成18年度と平成19年度は,正解等のページに配点・合格点の記載がないため,各年度の「短答式試験の結果」のページに記載された合格点(「各問1点で60点満点,46点以上が合格」(平成18年度)等)を示した。
平成12年度以前の正解等は同じページに掲載されておらず,平成8年度以降の全年度の合格点は,後記の関連記事の一覧で扱っている。
| 年度 | 合格点(60点満点) |
|---|---|
| 平成22年度 | 47点 |
| 平成21年度 | 48点 |
| 平成20年度 | 46点 |
| 平成19年度 | 47点 |
| 平成18年度 | 46点 |
| 平成17年度 | 42点 |
| 平成16年度 | 45点 |
| 平成15年度 | 47点 |
| 平成14年度 | 41点 |
| 平成13年度 | 46点 |
「短答式正解等」の注記は3科目の合計点による合格点だけを示しており,科目ごとの基準点は示していない。
例えば平成22年度の47点は,60問中の約78%に当たる。
4 出題形式の特徴
旧試験の刑法は,条文や判例の知識を直接問う問題よりも,学説の対立や学生の会話を素材にして,空欄に語句を入れさせる問題,学生とその採る見解を対応させる問題及び見解ごとの結論を判断させる問題が中心であった。
本記事では,次の二つの基準で各年度の刑法20問を数えた。
①問題文の柱書(「…はどれか。」で終わる問いの部分)が,正しい記述の個数,語句の使用回数,語の種類の数,人数,枚数又はそれらの合計・差を答えさせるもの(以下「個数型」という。)
②問題文に「学生」が登場するもの(以下「学生型」という。)
| 年度 | 個数型 | 学生型 |
|---|---|---|
| 平成22年度 | 2問 | 17問 |
| 平成21年度 | 1問 | 12問 |
| 平成20年度 | 0問 | 13問 |
| 平成19年度 | 0問 | 13問 |
| 平成18年度 | 0問 | 16問 |
| 平成17年度 | 1問 | 17問 |
| 平成16年度 | 0問 | 16問 |
| 平成15年度 | 4問 | 10問 |
| 平成14年度 | 8問 | 10問 |
| 平成13年度 | 5問 | 5問 |
| 平成12年度 | 11問 | 8問 |
| 平成11年度 | 13問 | 6問 |
| 平成10年度 | 7問 | 10問 |
| 平成9年度 | 11問 | 5問 |
| 平成8年度 | 9問 | 11問 |
個数型は,平成8年度から平成15年度までの各年度に4問から13問あった。
例えば,学説の説明文の空欄に語句を入れた上で「使用回数の最も多い語句と最も少ない語句の使用回数の差」を答えさせる問題や,10個の組合せのうち誤っているものの個数を答えさせる問題がある。
個数型では,一つの空欄や一つの組合せの判断を誤るだけで正解の番号が変わるので,全部の判断がそろわなければ1点にならない。
平成9年度から平成11年度までは,一つの事例や文章を素材に2問を続けて出す「共通資料」の形式も各年度6問(3組)あった。
共通資料の2問は同じ前提を使うので,前提の読み違えが2問の失点につながる。
平成16年度以降は,個数型がほとんど出題されなくなり,代わりに学生型が毎年度12問から17問を占めた。
学生型の典型は,学生AないしDが異なる見解を採って会話し,その発言の空欄に入る語句の組合せや,学生と見解の組合せを選ばせるものである。
問題文も長くなり,本記事で空白を除いて数えた概数では,平成19年度と平成20年度の刑法は1問平均で約1,000字であった。
第3 現行司法試験の短答式刑法
1 刑法単独の科目として20問・50点
司法試験法3条1項は,「短答式による筆記試験は、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とし、次に掲げる科目について行う。」とし,憲法,民法及び刑法を掲げている。
法務省の「司法試験法の一部改正等について」によれば,短答式の試験科目を憲法,民法及び刑法の3科目とする司法試験法の一部を改正する法律は,平成26年6月4日に公布され,平成27年司法試験から適用された。
それまでの短答式は7科目で行われており,その経緯は後記の関連記事で扱っている。
平成27年から令和8年までの「正解及び配点」では,刑法は毎年20問で,満点は50点である。
令和2年及び令和8年の「司法試験の実施日程等について」では,短答式試験は同じ日に憲法(50分),民法(75分)及び刑法(50分)の順で行われる。
旧試験のように3科目の時間を受験者が配分する方式ではなく,刑法には刑法の試験時間がある。
令和8年からは,受験者が試験会場の端末で問題を読み,解答する方式(CBT)で実施されている。
司法試験委員会の「令和8年司法試験の実施状況について」は,端末の不具合等による試験時間の変更が,短答式の刑法で3件あったとしている。
2 配点は1問2点・3点・4点
現行試験の刑法の配点は,問題の形式によって1問2点,3点又は4点である。
「正解及び配点」では,一つの問題(「問」)の中に解答欄(「No」)が一つ又は複数あり,解答欄の数は年によって34欄又は36欄である。
| 年 | 解答欄 | 4点の問 | 3点の問 | 2点の問 | 学生型 |
|---|---|---|---|---|---|
| 令和8年 | 36欄 | 3問 | 4問 | 13問 | 7問 |
| 令和7年 | 36欄 | 3問 | 4問 | 13問 | 9問 |
| 令和6年 | 36欄 | 3問 | 4問 | 13問 | 7問 |
| 令和5年 | 36欄 | 3問 | 4問 | 13問 | 5問 |
| 令和4年 | 36欄 | 3問 | 4問 | 13問 | 3問 |
| 令和3年 | 36欄 | 3問 | 4問 | 13問 | 2問 |
| 令和2年 | 36欄 | 3問 | 4問 | 13問 | 3問 |
| 令和元年 | 36欄 | 2問 | 6問 | 12問 | 3問 |
| 平成30年 | 36欄 | 3問 | 4問 | 13問 | 3問 |
| 平成29年 | 36欄 | 3問 | 4問 | 13問 | 2問 |
| 平成28年 | 36欄 | 3問 | 4問 | 13問 | 2問 |
| 平成27年 | 34欄 | 2問 | 6問 | 12問 | 2問 |
4点の問は,5つの記述(ア~オ等)の正誤をそれぞれ解答欄に答える問題である。
3点の問の多くは,正しいもの(又は誤っているもの)を2個選ぶ問題であり,令和元年第5問だけは4つの記述の正誤をそれぞれ答える問題であった。
2点の問は,1から5までの番号から一つを選ぶ問題であり,記述の組合せや見解の組合せを選ばせる問題もこの形で出題される。
学生型の数え方は,旧試験と同じく,問題文に「学生」が登場するかどうかによった。
3 部分点のルール
「正解及び配点」の備考欄は,部分点を次のとおり定めている。
①5つの記述の正誤を答える問(配点4点)は,「4問正解で部分点2点」(平成27年の表記。令和元年以降は「4問正解で部分点2点」と算用数字を半角で書いている。)である。
5つの解答欄のうち4つが正しければ2点,5つとも正しければ4点であり,3つ以下しか正しくなければ0点である。
②令和元年第5問(4つの記述の正誤,配点3点)は,「3問正解で部分点2点」であった。
③正しいものを2個選ぶ問(配点3点)は,「順不同(部分点なし)」である。
2つの解答欄に入れる番号の順序は問わないが,2個とも正しくなければ0点である。
④1つの番号を選ぶ問(配点2点)は,正解なら2点,それ以外は0点である。
令和5年の「正解及び配点」には,「第6問の採点に当たっては、受験者全員を正答として取り扱うこととします。」という注記がある。
第6問は5つの記述の正誤を答える配点4点の問であり,令和5年は,この1問について受験者全員に4点が与えられたことになる。
4 出題形式の特徴
現行試験の刑法は,判例の立場や条文の適用を前提に,事例の記述の正誤を判断させる問題が中心である。
学説の対立を素材にする問題もあるが,平成27年から令和4年までは,学生の会話を素材にする学生型は各年2問又は3問にとどまっていた。
令和5年は5問,令和6年は7問,令和7年は9問,令和8年は7問と,学生型が増えている。
一方,個数型は各年0問から2問であり,旧試験の平成15年度以前のように個数型が多く出題される年はない。
第4 旧試験と現行試験の比較
1 比較表
| 項目 | 旧試験(平成8~22年度) | 現行試験(平成27年~令和8年) |
|---|---|---|
| 刑法の位置付け | 3科目60問の中のNo.41~60 | 独立の科目 |
| 試験時間 | 3科目で3時間30分(平成22年) | 刑法50分(令和2年・令和8年) |
| 問題数 | 20問 | 20問(解答欄34~36) |
| 配点 | 各問1点(刑法分20点) | 1問2点・3点・4点(50点満点) |
| 部分点 | なし | 5肢の正誤の問は4つ正解で2点 |
| 合格の基準 | 3科目の合計点 | 科目別の最低ラインと合計点 |
| 中心の形式 | 学説・会話の穴埋め,個数型 | 判例・事例の正誤,2個選択,組合せ |
現行試験の合格に必要な成績(各科目の最低ラインと3科目の合計点)は,司法試験の合格点・採点・成績通知の記事で扱っている。
2 1問の重みと部分点の違い
旧試験では,刑法の20問はどれも1点であり,問題文が1,000字を超える学生型の問題も,短い知識問題も同じ重みであった。
現行試験では,5つの記述の正誤を答える問題が1問4点と最も重く,しかも部分点があるので,1つの記述の判断を誤っても2点が残る。
これに対し,2個を選ぶ問題は3点であるが部分点がないので,2個のうち1個を誤ると0点になる。
例えば,現行試験で50点満点の7割(35点)を取る場合を考えると,2点の問13問と3点の問4問を全部正解すれば,それだけで38点になる。
反対に,4点の問3問で5つの記述のうち1つずつを誤ると,3問で得られるのは6点(満点なら12点)にとどまる。
旧試験の7割(20問中14問)には,このような配点による差はなかった。
3 解き方の違い
旧試験の個数型と学生型では,一つの空欄や一つの見解の割当てを誤ると正解の番号が変わり,その問題の1点を失う。
そのため,全部の空欄を埋め,選択肢を一つずつ照合する作業が求められた。
現行試験では,5つの記述の正誤を答える問題について,自信のある記述を確実に正解することが部分点につながる。
2個を選ぶ問題は,2個目の選択に迷っても部分点がないので,2個とも根拠を確かめる必要がある。
いずれの試験でも,選択肢を見る前に各記述の正誤を判断し,その後で組合せに直す手順は共通している。
第5 関連記事
旧試験の短答式試験の構成,平成8年度から平成22年度までの全年度の合格点・合格率及び問題・正解の所在は,旧司法試験の短答式試験―試験の構成,平成8年度から平成22年度までの合格点・合格率及び問題・正解の所在で扱っている。
同じ観点で憲法の短答式を比べた結果は,短答式の憲法は旧試験と現行試験でどう変わったか―出題形式・配点・部分点の比較で扱っている。
民法の短答式を比べた結果は,短答式の民法は旧試験と現行試験でどう変わったか―出題形式・配点・部分点の比較で扱っている。
旧試験の短答式試験の成績分布と成績通知は,旧司法試験の成績分布,成績通知及び成績開示で扱っている。
現行試験の短答式試験の合格に必要な成績と総合点の計算は,司法試験の合格点・採点・成績通知―短答式の足切り,論文式の最低ライン,総合点及び順位で扱っている。
短答式の科目が7科目から3科目になった平成26年の司法試験法改正を含む制度の経緯は,司法試験制度の改正経緯――旧司法試験から法科大学院・予備試験・在学中受験・CBTまでで扱っている。
令和8年から始まったCBTの操作は,司法試験のCBTとオンライン手続―電子出願,当日の操作,持込品,端末障害及び受験特別措置で扱っている。
法務省ウェブサイトのどこに各年度の問題や正解が掲載されているかは,法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在―年度別の実施・結果・出題趣旨・採点実感のページ一覧で扱っている。
第6 出典
①法務省「旧司法試験の概要」
②法務省「第二次試験短答式試験問題」(平成8年度~平成22年度。例えば平成22年度,平成8年度)
③法務省「短答式正解等」(平成13年度~平成22年度。例えば平成22年度,平成21年度,平成13年度)
④法務省「刑法の正解及び配点」(例えば平成27年,令和元年,令和5年,令和7年,令和8年)
⑤法務省「令和8年司法試験短答式試験問題(刑法)」
⑥司法試験委員会「令和2年司法試験の実施日程等について」(令和2年5月15日)
⑦司法試験委員会「令和8年司法試験の実施日程等について」(令和7年11月11日決定)
⑧司法試験委員会「令和8年司法試験の実施状況について」(令和8年8月6日)
⑨e-Gov法令検索「司法試験法」3条1項
⑩法務省「司法試験法の一部改正等について」
⑪法務省「平成18年度旧司法試験第二次試験短答式試験の結果」,「平成19年度旧司法試験第二次試験短答式試験の結果」