第1 ボーナスの支給日と算定期間を分ける
育休明けにボーナス(賞与)が減ったときは,賞与明細の支給日と,どの期間の勤務や成果を対象に計算したかを分けて確認する。
算定期間内に実際に休んだ分を日数や時間に応じて反映することと,育休を取ったために実際に働いた期間の成果まで評価から外すことは,扱いが異なる。
「社内ルールどおり」と説明されたときは,適用した規程,算定期間,勤怠による控除,人事評価による調整及び支給資格を一つずつ確かめる。
本記事の記載は,令和8年11月8日時点の法令,厚生労働省の指針・通達及び裁判所ウェブサイト掲載の判決に基づく。
1 支給日に育休中でも,どの期間の賞与かを確認する
賞与を受け取る日と,賞与額を計算するための期間は別である。
例えば,12月に支給する賞与の算定期間が6月から11月までで,12月から育休に入った場合,その育休の日数は当該算定期間に入らない。
支給日に休業中であることを理由に支払われなかったときは,会社がどの支給要件を適用したのかと,育休の申出・取得を理由とする不利益取扱いに当たらないかを確認する。
2 算定期間の一部だけ休んだ場合と,全期間を休んだ場合
勤務日数を考慮する制度では,算定期間の一部を育休で休んだときに,その期間に対応する分を按分することがある。
算定期間の全てが休業だったときの扱いは,賞与の性質,規程,労使の合意及び算定方式を確認して判断する。
算定期間の全部を休んだ場合と,働いた期間があるのに出勤率の条件だけで全額を失う場合では,確認すべき点が違う。
第2 減額を勤怠,評価,支給資格に分ける
1 実際に働かなかった日数・時間の扱い
育児・介護休業法10条は育児休業の申出・取得等を理由とする不利益取扱いを,同法23条の2は同法23条に基づく所定労働時間の短縮措置等の申出や措置の適用を理由とする不利益取扱いを,それぞれ禁止している。
3歳から小学校就学前までの子を養育する労働者について,事業主が同法23条の3第1項に基づいて講じた措置(育児のための所定労働時間の短縮措置を含む。)の申出や適用を理由とする不利益取扱いは,同条7項が禁止している。
同法に基づく厚生労働省の両立指針(平成21年厚生労働省告示第509号)第2の11(3)ニ(イ)は,賞与の算定に当たり現に勤務した日数を考慮する場合に,休業した期間や,所定労働時間の短縮措置等により現に短縮された時間の総和に相当する日数を日割りで算定対象期間から控除するなど,専ら労務を提供しなかった期間を働かなかったものとして扱うことは,不利益な取扱いに当たらないとしている。
他方で,同指針は,それらの日数を超えて働かなかったものとして扱うことは,賞与等における「不利益な算定」に当たるとしている。
産前産後休業を理由とする不利益取扱いには,男女雇用機会均等法9条3項も関係する。
例えば,算定期間の所定労働日が100日,育休で就労しなかった所定労働日が20日,按分前の基準額が25万円で,勤務日数に比例させる制度であれば,勤怠だけを反映した額は20万円(25万円×80÷100)である。
ここからさらに評価係数を掛ける場合は,その係数が実際の成果を評価したものか,同じ休業を別の名目で減点したものかを確かめる。
この計算は説明用の仮定例であり,実際の算式は支給規程や合意に従って確認する。
時短勤務で基本給が変わる場合は,所定労働時間の変更に対応する額と,役職・等級・手当の変更による額を分ける。
同じ所定労働日数で1日8時間から6時間に変わり,時間に比例して基本給を計算するなら,時間の比率は75%である。
賞与も75%になるかは,賞与の算定基礎や勤怠の控除方式によって異なる。
2 評価対象外と最低評価は区別する
休業中に業務実績がなく評価対象に含めないことと,休業の取得自体を理由に低い評定を付けることは別である。
両立指針第2の11(3)ニ(ロ)は,実際には労務の不提供が生じていないのに,育児休業等の申出等をしたことのみをもって賞与を減額することも,「不利益な算定」に当たるとしている。
算定期間中に勤務した月があれば,その月の目標,成果,担当替えまでに完了した業務及び評価の基準を確かめる。
前年の評定は比較資料になるが,今期の評価が前年と異なるときは,対象期間,担当業務及び評価理由を照らし合わせて判断する。
3 支給資格の条件を調べる
会社によっては,出勤率などの条件を支給資格に設けている。
勤怠控除の欄とは別に,条件を一つ満たさないだけで賞与が全額不支給になる仕組みがないかを見る。
産後休業の日数や育児のための勤務時間短縮による短縮時間分を欠勤として出勤率を算定し,基準に届かなければ賞与を全く支給しない扱いについては,次の最高裁判決が参考になる。
第3 裁判例で見る全額不支給と成果報酬ゼロ査定
1 東朋学園事件――産後休業と育児のための勤務時間短縮
最高裁平成15年12月4日第一小法廷判決(平成13年(受)第1066号,東朋学園事件)は,産後8週間休業し,続いて1日1時間15分の勤務時間短縮措置を受けた従業員について,出勤率が90%以上であることを賞与の支給要件とする就業規則の定めを満たさないとして,賞与が支給されなかった事案である。
同判決は,産前産後休業の日数や勤務時間短縮措置による短縮時間分を欠勤として出勤率を算定し,90%未満なら一切賞与を支給しないとする部分について,権利等の行使に対する事実上の抑止力が相当強く,労働基準法等が権利等を保障した趣旨を実質的に失わせるものであるとして,公序に反し無効とした。
他方で,賞与の額を欠勤日数に応じて一定の範囲で減額する計算式に,産前産後休業の日数や短縮時間分を欠勤として算入することは,直ちに公序に反し無効とはいえないとした。
その上で,原審で判断されていない就業規則の不利益変更及び信義則違反の成否等の点について更に審理を尽くさせる必要があるとして,賞与全額の支払を命じた原判決のうち会社敗訴部分を破棄し,東京高等裁判所に差し戻した。
同判決は,当時の労働基準法65条の産前産後休業と,当時の育児休業法10条に基づく勤務時間の短縮措置を前提とする判断である。
現在の育児・介護休業法の育児休業による不就労の扱いは,同法10条と両立指針に照らして確認する。
2 コナミデジタルエンタテインメント事件――担当変更と査定を分けた判断
東京高裁平成23年12月27日判決(平成23年(ネ)第2946号)は,産休・育休から復職した社員について,海外ライセンス業務から国内ライセンス業務への担当変更には合理的な理由があるとしつつ,それに伴って役割グレードを引き下げ,年俸のうち役割報酬を年550万円から年500万円に減額したことと,成果報酬をゼロと査定したことを,いずれも人事権の濫用とした。
役割報酬の減額については,就業規則や年俸規程に明示的な根拠がなく,本人の同意もないまま,使用者の一方的な行為で賃金額を不利益に変更することは許されないとした。
成果報酬については,前年度の業務実績を前提に翌年度に期待できる業務実績を金銭評価して予め支給する見込報酬の一種と理解した。
その上で,休業前に勤務した期間に成果がなかったとしたこと自体が相当でなく,復職後は何らかの成果を上げる見込みが高かったのに,前年度の評価の据置き,同じ役割グレードの者の平均値の使用又は合理的な範囲での仮の評価といった代替的な方法を検討せず,機械的にゼロと査定したことを人事権の濫用とした。
同判決は,役割報酬の差額35万4168円と,慰謝料及び弁護士費用の合計60万円の支払を命じた。
他方で,同判決は,ゼロ査定が男女雇用機会均等法や育児・介護休業法により直接無効になると判断したものではないことを明記している。
同判決が挙げた代替的な方法は,その報酬制度と事案に即したものであり,一般の賞与の算定額は各社の規程・制度に照らして判断する。
第4 復職後の昇給を見送られた場合
まず,見送られたのが定期昇給,査定による昇給又は昇格に伴う昇給のいずれかを確認する。
両立指針第2の11(3)ホ(イ)は,育児休業をした労働者について,休業期間を超える一定期間昇進・昇格の選考対象としない人事評価制度とすることを,昇進・昇格の人事考課における不利益な評価に当たるとしている。
育児・介護休業法の施行通達(令和7年1月20日付け職発0120第2号・雇均発0120第1号)は,休業期間を人事考課の選考対象としないことは不利益取扱いに当たらないとする一方,休業期間を超える一定期間昇進・昇格の選考対象としない人事評価制度は不利益取扱いに当たるとしている。
休業期間と評価期間がずれる場合に一定の範囲でこれを認める趣旨であり,「休業期間を超える一定期間」に当たるかは,人事評価制度の合理性,公平性を勘案して個別に判断するとされている。
例として,「三年連続一定以上の評価であること」という昇格要件がある場合に,休業取得の前々年と前年に2年連続で一定以上の評価を得ていたのに,休業取得後に改めて3年連続一定以上の評価を求める人事評価制度は,不利益な取扱いに該当するとしている(同通達62頁~63頁)。
第5 会社に照会する事項と相談先
1 手元の資料をそろえる
賞与明細,賃金・賞与・評価規程,休業や時短の申出とその承認,出勤記録,評価通知及び算定期間内の業務実績をそろえる。
前年との支給差は手掛かりになるが,会社業績,基準額,勤怠及び個人評価が前回からどう変わったかを切り分ける。
復帰時に配属や役職も変わった場合は,辞令,手当の変更通知及び復帰前後の職務内容も確認する。
2 会社への照会文例
会社に照会するときは,例えば次のように尋ねることが考えられる。
「今回の賞与について,算定対象期間と適用した規程,育児休業・短時間勤務による勤怠控除,実際に勤務した期間の評価,最終支給額の算定方法を教えてください。」
「昇給が見送られた場合は,その判断の対象期間,適用した昇給の基準及び見送りの理由も教えてください。」
3 相談先
回答と手元の資料を照合しても会社と解決できないときは,都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の紛争解決援助制度を利用することができる。
育児・介護休業法52条の4は都道府県労働局長による助言,指導又は勧告を,同法52条の5は紛争調整委員会による調停を定めている。
具体的に請求できる金額や方法は,賞与の規程や支給決定,評価の内容及び証拠に応じて判断する。
第6 関連する山中弁護士ブログの記事
育休からの復職と処遇に関係する事項は,次の記事で説明している。
①復職時の降格・役職外しと差額賃金の請求は,産休・育休からの復職時の降格・役職外し―均等法9条3項・育児介護休業法10条と「特段の事情」(AI作成)
②賞与の算式,勤怠係数及び支給額通知の設計は,賞与制度をどう設計するか―会社・部門・個人の業績,勤怠係数と支給額通知(AI作成)
③配置の変更と転勤命令の有効性は,配転命令(転勤命令)の有効性―就業規則の根拠,職種・勤務地の限定合意と東亜ペイント事件の判断枠組み(AI作成)
④妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止措置は,職場のハラスメント防止-種類・事業主の措置義務・主要最高裁判例(AIリライト)
第7 出典
1 法令
①育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(e-Gov法令検索)10条,23条の2,23条の3,52条の4及び52条の5
②雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(e-Gov法令検索)9条3項
2 裁判例
①最高裁平成15年12月4日第一小法廷判決,平成13年(受)第1066号(東朋学園事件)
②東京高裁平成23年12月27日判決,平成23年(ネ)第2946号(コナミデジタルエンタテインメント事件)
3 行政資料
①厚生労働省「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」(平成21年厚生労働省告示第509号)第2の11
②厚生労働省「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について」(令和7年1月20日職発0120第2号・雇均発0120第1号)62頁~63頁
③厚生労働省「職場でのトラブル解決の援助を求める方へ」