第1 この記事の対象と法制度の全体像
1 基準日と対象
本記事は,令和8年9月6日現在の法令及び公表資料に基づき,職場のハラスメントの法的区分,パワーハラスメントの判断要素,事業主の措置義務,調査実務,精神障害の労災認定並びに主要最高裁判例を整理するものである。
令和8年10月1日に施行される改正については,現行制度と区別して第8で取り上げる。
職場のハラスメントという名称だけで,民事上の違法性,労災認定,懲戒処分の有効性又は事業主の措置義務違反が直ちに決まるものではない。
それぞれの制度ごとに,適用される法令,指針及び判断要素を確認する必要がある。
2 法律上の類型と通称の区別
職場のハラスメントについては,主として,①パワーハラスメント,②セクシュアルハラスメント,③妊娠・出産に関するハラスメント,④育児・介護休業等に関するハラスメントの防止措置が法律上定められている。
また,業務委託の相手方であるフリーランスに対しては,特定の発注事業者に別の措置義務が定められている。
アルコールハラスメント,時短ハラスメントその他の通称は,問題となる言動の特徴を示すことはあっても,それ自体が独立した法律上の類型であるとは限らない。
通称だけで結論を出さず,実際の言動と当事者の関係を各法令の要件に当てはめる必要がある。
3 四つの判断枠組み
実務では,少なくとも,①事業主に防止措置義務があるか,②個別の言動について民事上の責任が生じるか,③精神障害が労災として認定されるか,④行為者に対する懲戒処分等が有効かを区別する必要がある。
例えば,パワーハラスメント防止措置の対象となる言動と,精神障害の労災認定で心理的負荷を評価する出来事とは,目的も判断方法も同一ではない。
第2 法律上の主なハラスメント
1 パワーハラスメント
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2第1項は,職場における優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されることのないよう,事業主が必要な措置を講じなければならないと定めている。
この三つの要素は,第3で説明する。
同条2項は,労働者が相談したこと又は事業主による事実確認に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他の不利益取扱いを禁止している。
同法30条の3は,国,事業主及び労働者の責務を定めている。
2 セクシュアルハラスメント
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律11条1項は,職場における性的な言動に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受け,又は性的な言動により就業環境が害されることのないよう,事業主が必要な措置を講じなければならないと定めている。
被害を受ける者の性別を問わず,同性に対する言動も対象となり得る。
同条2項は,相談又は事実確認への協力を理由とする不利益取扱いを禁止している。
同条3項は,他の事業主から事実確認等に必要な協力を求められた場合に,事業主がこれに応ずるよう努めることを定めている。
3 妊娠・出産及び育児・介護休業等に関するハラスメント
男女雇用機会均等法11条の3第1項は,女性労働者が妊娠又は出産に関する制度若しくは措置を利用したこと,妊娠したこと又は出産したこと等に関する言動により就業環境が害されることのないよう,事業主が必要な措置を講じなければならないと定めている。
同条2項は,相談又は事実確認への協力を理由とする不利益取扱いを禁止している。
育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律25条1項は,育児休業,介護休業その他の制度又は措置の利用に関する言動により就業環境が害されることのないよう,事業主が必要な措置を講じなければならないと定めている。
同条2項は,相談又は事実確認への協力を理由とする不利益取扱いを禁止している。
4 フリーランスに対するハラスメント
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律14条は,特定業務委託事業者に対し,業務委託に係る特定受託業務従事者について,性的な言動,妊娠又は出産に関する言動及び取引上の優越的な関係を背景とした言動による就業環境の侵害を防ぐため,相談対応その他の必要な体制整備等を義務付けている。
同条2項は,相談又は事実確認への協力を理由とする契約解除その他の不利益取扱いを禁止している。
この制度は,雇用される労働者を対象とする前記各法とは対象者及び義務主体が異なる。
契約の名称だけで判断せず,法律上の定義を確認する必要がある。
第3 パワーハラスメントの三つの要素
1 優越的な関係を背景とした言動
優越的な関係を背景とした言動とは,言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することが困難である関係を背景として行われるものをいう。
典型は上司から部下への言動であるが,同僚又は部下であっても,業務上必要な知識若しくは経験を持つ者である場合又は集団による行為で抵抗が困難な場合等には該当し得る。
2 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動かどうかは,言動の目的,言動を受けた労働者の問題行動の有無及び内容,言動の態様,頻度及び継続性,労働者の属性及び心身の状況,行為者との関係等を総合して判断される。
客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示又は指導は,パワーハラスメントには当たらない。
3 就業環境が害されること
就業環境が害されるとは,言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ,就業環境が不快なものとなったため,能力の発揮に重大な悪影響が生じる等,就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいう。
判断に当たっては,平均的な労働者の感じ方を基準としつつ,言動の内容及び状況を個別に検討する。
4 職場及び労働者の範囲
職場は,労働者が通常就業している場所だけでなく,業務を遂行する場所であれば,出張先,取引先,業務で使用する車中,接待の席等も含み得る。
勤務時間外の懇親の場についても,職務との関連性,参加者,参加が強制的か任意か等により,実質上職務の延長と評価される場合がある。
ここでいう労働者には,正規雇用労働者だけでなく,パートタイム労働者,契約社員その他の非正規雇用労働者も含まれる。
派遣労働者については,派遣元事業主だけでなく,派遣先事業主も自ら雇用する労働者と同様に措置を講ずる必要がある。
第4 パワーハラスメントの六つの代表的類型
1 身体的な攻撃及び精神的な攻撃
身体的な攻撃は,暴行又は傷害である。
精神的な攻撃は,脅迫,名誉毀損,侮辱又はひどい暴言等であり,人格を否定する言動,必要以上に長時間の厳しい叱責又は他の労働者の面前での大声による威圧的な叱責等が問題となる。
2 人間関係からの切り離し
人間関係からの切り離しは,隔離,仲間外し又は無視である。
本人を仕事から外して長期間別室に隔離すること又は同僚が集団で無視して孤立させること等が問題となる。
3 過大な要求及び過小な要求
過大な要求は,業務上明らかに不要なこと若しくは遂行不可能なことの強制又は仕事の妨害である。
業務と関係のない私的な雑用を強制すること等も含まれ得る。
過小な要求は,業務上の合理性なく,能力若しくは経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じ,又は仕事を与えないことである。
管理職である労働者を退職させる目的で,誰でも遂行できる業務だけを行わせること等が問題となる。
4 個の侵害
個の侵害は,私的なことに過度に立ち入ることである。
労働者を職場外でも継続的に監視すること又は私物を撮影すること等が問題となる一方,労働者への配慮を目的として家族の状況等を確認する必要がある場合は,目的及び方法の相当性を検討する必要がある。
これら六類型は,典型例を整理したものであり,限定列挙ではない。
該当性は,第3の三要素に照らして個別に判断される。
第5 事業主が講ずべき措置
1 方針の明確化と周知・啓発
事業主は,ハラスメントの内容,これを行ってはならない旨の方針及び行為者を厳正に対処する旨の方針を明確にし,労働者に周知・啓発する必要がある。
行為者に対する懲戒その他の対処方針は,就業規則その他の服務規律を定めた文書に規定し,周知する必要がある。
2 相談体制の整備
事業主は,相談窓口をあらかじめ定め,労働者に周知するとともに,担当者が相談内容及び状況に応じて適切に対応できる体制を整える必要がある。
現実にハラスメントが発生している場合だけでなく,発生のおそれがある場合又は該当するか微妙な場合にも広く相談に対応することが求められる。
3 事後の迅速かつ適切な対応
相談があった場合,事業主は,事実関係を迅速かつ正確に確認しなければならない。
確認できたときは,被害を受けた労働者への配慮,行為者に対する適正な措置及び再発防止措置を講ずる必要がある。
事実確認では,相談者と行為者の双方から事情を聴き,必要に応じて第三者からも聴取し,供述,文書,電子メール,チャットその他の資料を相互に検討することが考えられる。
申告があったことだけで事実を確定せず,他方で明白な物証がないことだけで申告を否定しないことが重要である。
4 プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
事業主は,相談者,行為者その他の関係者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ,その内容を労働者に周知する必要がある。
秘密保持は,関係者の氏名だけでなく,相談内容,性的指向,性自認,妊娠及び家族介護等の機微な情報にも及ぶ。
相談又は事実確認への協力を理由とする解雇その他の不利益取扱いは禁止される。
もっとも,行為者に弁明の機会を与えた上で適正に判断する必要があるため,事実確認と手続の公正を両立させなければならない。
5 匿名性と反論機会を両立させる調査方法
匿名又は氏名非開示を希望する申告を扱う場合は,①調査担当者の内部で識別できる情報,②行為者に反論のため開示する情報,③社内又は社外に公表する情報を分けて管理する方法が考えられる。
匿名性を尊重することと,行為者に具体的な事実を全く示さないことは同じではなく,行為,時期,場所及び文脈のうち,反論に必要な範囲を示しつつ,申告者を特定させる細部の開示を必要最小限にする必要がある。
開示を制限したため十分な反論機会を確保できなかった事項は,その制約及び残る不確実性を記録し,認定の強さを調整すべきである。
調査実務では,争点ごとに,申告内容,反論,支持証拠,反証,証拠の限界及び暫定評価を一覧にした証拠対応表を作成すると,取り漏れ及び結論先行を防ぎやすい。
供述の信用性は,供述態度又は虚偽を述べる動機が見当たらないことだけで決めず,電子メール,チャット,予定表,録音その他の資料及び前後の経過との整合性を検討する必要がある。
第三者調査委員会その他の調査担当者による認定は,それ自体が裁判所の判決又は法的拘束力のある命令となるものではなく,後日の訴訟では証拠及び手続が改めて評価される。
地方公共団体が設置する第三者調査委員会に固有の設置根拠,独立性及び記録管理については,「地方公共団体の第三者調査委員会-附属機関条例主義、匿名性、記録管理及び報告書の効力」を参照されたい。
6 相談窓口の設置と実効性は別である
相談窓口が設置されていることと,労働者が安心して利用できることは別である。
窓口の周知度,庁外又は勤務時間外からの利用可能性,匿名相談の可否,秘密保持への信頼,対象者との権限関係,初動対応及び不利益取扱いへの不安を確認する必要がある。
相談件数が少ないこと又はゼロであることだけから,ハラスメントが存在しないと結論付けることはできない。
制度を評価するときは,相談しなかった理由及び利用上の障害も調べ,早期相談で扱う通常対応と独立した調査が必要な重大事案とを段階的に振り分ける仕組みを検討することが望ましい。
7 行政上の援助と紛争解決
労働者は,まず勤務先の相談窓口又は労働組合に相談するほか,都道府県労働局の雇用環境・均等部又は雇用環境・均等室に相談することができる。
厚生労働省の労働条件相談ページは,労働局長による助言,指導若しくは勧告又は紛争調整委員会による調停の制度を案内している。
第6 精神障害の労災認定との関係
1 令和5年認定基準
厚生労働省は,令和5年9月1日付け基発0901第2号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」により,精神障害の労災認定基準を改正した。
これにより,平成23年12月26日付け基発1226第1号による旧認定基準は廃止された。
認定要件は,①対象疾病を発病していること,②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること,③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないことである。
心理的負荷は,同種の労働者が一般にどう受け止めるかという客観的な基準により評価される。
2 パワーハラスメントの評価
業務による心理的負荷評価表の項目22は,「上司等から,身体的攻撃,精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」という出来事を掲げている。
評価では,言動に至る経緯,身体的攻撃又は精神的攻撃等の内容及び程度,反復・継続性,就業環境,会社の対応等が考慮される。
同表の「強」の具体例には,治療を要する程度の暴行,執拗な身体的攻撃,人格又は人間性を否定する等の精神的攻撃,必要以上に長時間の厳しい叱責,面前での大声による威圧的な叱責,過大な要求,過小な要求又は個の侵害が反復・継続した場合等が示されている。
また,会社に相談しても適切な対応がなく,改善されなかったことも評価要素となる。
具体例は限定列挙ではなく,反復されていない言動でも,長時間継続し,態様が強烈又は悪質である場合は,一連の行動として評価されることがある。
パワーハラスメント防止措置の対象となるかどうかと労災認定の結論は,同じ名称の言動であっても別に判断される。
3 ハラスメントを理由とする休職と休職期間満了による退職
ハラスメントにより精神疾患を発症して休職した労働者について,その休職が業務上の疾病による休業に当たれば,労働基準法19条1項の解雇制限との関係で,休職期間満了による退職扱いの効力が争われることがある。
その場合,前提となるハラスメントの事実が認められるかどうかが結論を左右する。
東京地方裁判所令和6年11月14日判決(令和5年(ワ)第17302号,判例秘書登載,裁判所HP未掲載)は,上司からセクシュアルハラスメント及びパワーハラスメントを受けて精神疾患に罹患したと主張して,休職期間満了による退職の無効等を求めた事案で,そのような事実を認めるに足りる証拠はないとした。
同判決は,原告が上司に好意を示すメッセージを繰り返し送信し,二人で旅行やホテルでの宿泊をしていたこと等から交際関係にあったことが合理的に推認されるとし,性的な言動があったとしても直ちにセクシュアルハラスメントないし不法行為に当たるとはいえないとして,休職期間満了による労働契約の終了を認めた。
ハラスメントの調査では,申告者の供述だけでなく,当事者間のメッセージ等の客観的な資料を確認する必要があることを示す例である。
第7 主要最高裁判例
1 最高裁平成27年2月26日第一小法廷判決
最高裁平成27年2月26日第一小法廷判決(平成26年(受)第1310号,懲戒処分無効確認等請求事件,民集69巻1号143頁)は,管理職であった従業員らの女性従業員に対する性的な発言等を理由とする出勤停止処分及び降格について,処分等を有効とした。
最高裁は,被害を受けた従業員から明白な拒絶の姿勢が示されていなかったことを行為者に有利な事情として重視しなかった。
また,行為者らが管理職であり,職場のセクシュアルハラスメント防止方針や研修を認識すべき立場にあったこと等を踏まえ,事前に個別の警告を受けていなかったことだけで処分が重すぎるとはいえないと判断した。
2 最高裁令和4年6月14日第三小法廷判決
最高裁令和4年6月14日第三小法廷判決(令和3年(行ヒ)第164号,懲戒処分取消等請求事件,裁判集民事268号23頁)は,地方公共団体の消防職員に対する停職6月の懲戒処分について,裁量権の範囲を逸脱又は濫用したとはいえないとして,違法とした原判決を破棄し,事件を差し戻した。
最高裁は,過去の暴行等による停職処分中に,関係者に対して働き掛けをした行為の目的,態様,組織への影響及び公務員に対する信用への影響等を総合した。
一部の行為だけを切り離さず,一連の経過を踏まえて処分の相当性を検討した点に注意が必要である。
3 最高裁令和4年9月13日第三小法廷判決
最高裁令和4年9月13日第三小法廷判決(令和4年(行ヒ)第7号,分限免職処分取消請求事件,裁判集民事269号21頁)は,部下に対する暴行等を繰り返した地方公共団体の消防職員について,地方公務員法28条1項3号の「その職に必要な適格性を欠く場合」に当たるとした分限免職処分を適法と判断した。
最高裁は,行為の内容,反復性,被害の広がり,職責及び従前の指導後も改善しなかったこと等を踏まえ,職員としての適格性を欠く程度と改善可能性を判断した。
この判決は懲戒処分ではなく,分限免職処分に関するものである。
4 最高裁令和7年9月2日第三小法廷判決(停職処分)
最高裁令和7年9月2日第三小法廷判決(令和6年(行ヒ)第214号,懲戒処分取消請求事件)は,消防職員が訓練中に部下に対してした行為等を理由とする停職6月の懲戒処分について,裁量権の逸脱又は濫用はないと判断した。
最高裁は,訓練目的との関係,行為の危険性,態様,従前の注意及び職責等を考慮した。
現実に重大な傷害が生じなかったこと又は過去に正式な懲戒処分歴がなかったことだけで,停職6月が重すぎるとはいえないとした。
5 最高裁令和7年9月2日第三小法廷判決(懲戒免職処分)
最高裁令和7年9月2日第三小法廷判決(令和6年(行ヒ)第241号,懲戒免職処分取消等請求事件)は,消防職員が長期間にわたり多数の部下に暴行又は威圧的な言動等を反復したことを理由とする懲戒免職処分について,裁量権の逸脱又は濫用はないと判断した。
最高裁は,個々の行為だけでなく,長期間にわたる反復性,被害者の範囲,職場秩序及び職務遂行への影響,職責並びに改善可能性を総合した。
過去に正式な懲戒処分を受けていなかったことは,当然に処分を軽くすべき事情となるものではないとした。
6 各判決の射程
平成27年判決は民間企業におけるセクシュアルハラスメントを理由とする懲戒処分に関する判決であり,令和4年及び令和7年の各判決は地方公務員である消防職員に対する懲戒処分又は分限処分に関する判決である。
適用法令及び処分制度は同一ではないため,各判決の結論を民間企業の事案にそのまま当てはめることはできない。
もっとも,行為の内容及び危険性,反復・継続性,被害者及び職場への影響,行為者の職責,防止方針又は指導の認識,改善可能性等を総合するという考慮方法は参考となる。
処分歴がないこと又は個別の事前警告がないことは考慮要素となり得るが,重大な行為について常に処分を軽くする決定的な事情となるわけではない。
下級審の例として,横浜地方裁判所令和8年3月18日判決(令和6年(行ウ)第8号,判例秘書登載,裁判所HP未掲載)は,小学校の教諭が,ソフトバレーボールの授業中にレシーブの練習として,女子児童の背後から両手を伸ばして両肘に下から触れる動作を二度にわたり行ったことを理由とする懲戒免職処分を取り消した。
同判決は,ある言動が「性的な言動」に当たるかは客観的に観察して判断すべきであり,行為者の性的意図の有無は判断に影響しないとして,指導目的があっても本件の行為はセクシュアルハラスメントに当たるとし,事前に児童の意思を確認していないこと等から過失の度合いも軽視できないとした。
他方で,触れた部位が両肘にとどまり時間も長くても数十秒程度であったこと,動機自体に非難すべき点がないこと,過去に処分歴がないこと及び他の処分例との均衡を考慮し,免職は重きに過ぎるとした。
ハラスメントに当たるかどうかと,どの程度の処分が相当かは,別に判断されることを示す例である。
第8 令和8年10月1日施行の改正
1 カスタマーハラスメント対策
令和8年10月1日から,事業主には,顧客,取引先,施設利用者その他の事業に関係を有する者による言動のうち,社会通念上許容される範囲を超え,労働者の就業環境を害するものについて,雇用管理上必要な措置を講ずる義務が課される。
厚生労働省のハラスメント対策ページは,令和7年法律第63号及び令和8年2月26日告示の指針を掲載している。
施行前の令和8年9月2日現在,この新たな措置義務はまだ適用されていない。
具体的な準備事項については,「令和8年10月1日施行のカスハラ対策義務化―全事業主が整える10項目(AI作成)」で整理している。
2 求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策
令和8年10月1日から,事業主には,求職者その他これに類する者に対するセクシュアルハラスメントを防止するため,雇用管理上必要な措置を講ずる義務も課される。
採用面接,インターンシップ,会社説明会及びOB・OG訪問等について,方針の明確化,相談体制及び事後対応を準備する必要がある。
第9 関連記事
職場のハラスメントに関係する制度及び実務上の手順は,次の記事で詳しく説明している。
①セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産に関する制度は,「男女雇用機会均等法の内容・改正経過・主要判例(AIリライト)」
②精神障害の労災認定は,「業務による精神障害の労災・公務災害―民間労働者と司法修習生の比較(AIリライト)」
③カスタマーハラスメント対策は,「令和8年10月1日施行のカスハラ対策義務化―全事業主が整える10項目(AI作成)」
④社内調査,注意指導及び処分までの手順は,「問題社員対応の基本手順―事実確認・注意指導・改善機会・記録化から処分まで(AI作成)」
⑤司法研修所における過去の女性差別発言問題は,「30期前期修習の女性差別発言問題―日弁連調査,最高裁答弁及び厳重書面注意(AIリライト)」
⑥事業主が行う産休・育休後の復職時の降格は,「産休・育休からの復職時の降格・役職外し―均等法9条3項・育児介護休業法10条と「特段の事情」(AI作成)」
第10 出典・参考資料
1 法令
①e-Gov法令検索・労働施策総合推進法
②e-Gov法令検索・男女雇用機会均等法
③e-Gov法令検索・育児・介護休業法
④e-Gov法令検索・フリーランス法
2 行政資料
①厚生労働省「あかるい職場応援団・パワーハラスメントの定義」
②厚生労働省「あかるい職場応援団・ハラスメントに関する法律とハラスメント防止のために講ずべき措置」
③厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
④厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日付け基発0901第2号)
⑤厚生労働省「業務による心理的負荷評価表」16頁~17頁
3 裁判例
①最高裁平成27年2月26日第一小法廷判決(平成26年(受)第1310号,民集69巻1号143頁)
②最高裁令和4年6月14日第三小法廷判決(令和3年(行ヒ)第164号,裁判集民事268号23頁)
③最高裁令和4年9月13日第三小法廷判決(令和4年(行ヒ)第7号,裁判集民事269号21頁)
④最高裁令和7年9月2日第三小法廷判決(令和6年(行ヒ)第214号)
⑤最高裁令和7年9月2日第三小法廷判決(令和6年(行ヒ)第241号)
⑥東京地裁令和6年11月14日判決(令和5年(ワ)第17302号,判例秘書登載,裁判所HP未掲載)
⑦横浜地裁令和8年3月18日判決(令和6年(行ウ)第8号,判例秘書登載,裁判所HP未掲載)
4 解説資料
①東京弁護士会「どう変わる?ハラスメント対応-労働者の人権保障と企業価値の向上に向けて-」LIBRA2022年6月号2頁~16頁
②日本弁護士連合会「第24回弁護士業務改革シンポジウム第6分科会資料」資料5・50頁~73頁及び資料7・94頁~116頁(PDF56頁~79頁及びPDF100頁~122頁)
③南城市「南城市ハラスメント調査特別委員会調査報告書」