第1 司法試験制度の改正史を読む視点
1 司法試験だけでなく法曹養成全体を見る必要があること
司法試験制度の改正は,試験科目や実施方法だけの変化ではない。司法試験が誰に受験資格を認め,大学教育及び法科大学院教育とどのように接続し,合格後の司法修習へ誰を送り出すかという法曹養成制度全体の変化である。戦後の改正史は,①受験資格を広く開くこと,②受験者を適切に選抜すること,③大学・法科大学院での教育成果を試験へ反映すること,④養成に必要な時間と費用を抑えること,⑤多様な経歴を持つ人の参入を確保することの間で,制度の重点を移してきた歴史である。
2 主要な改正の一覧
| 時期 | 制度の中心 | 主な変更 |
|---|---|---|
| 昭和24年~昭和35年 | 戦後司法試験 | 裁判官・検察官・弁護士に共通する試験と統一司法修習を接続 |
| 昭和36年~平成3年 | 旧司法試験の基本形 | 短答式で選抜した後に論文式・口述を実施 |
| 平成4年~平成15年 | 科目合理化と合格枠制 | 論文式を7科目から6科目へ変更し,平成8年から平成15年まで期間基準の合格枠制を実施 |
| 平成16年~平成22年 | 法科大学院と新司法試験 | 法科大学院を中核とする養成へ転換し,平成18年から新司法試験を実施 |
| 平成23年~平成26年 | 予備試験と受験回数制限 | 予備試験を開始し,受験資格取得後5年間に3回まで受験可能 |
| 平成27年~令和4年 | 制度の修正 | 3回の上限を廃止して5年間毎年受験可能とし,短答式を3科目へ縮減 |
| 令和5年~令和7年 | 在学中受験 | 法科大学院在学中の受験を開始 |
| 令和8年~ | CBT | 司法試験の短答式・論文式をコンピュータで実施 |
第2 戦前の試験から昭和24年司法試験法まで
1 職業別試験から高等試験司法科へ
明治期には,判事・検事の登用試験と弁護士試験が別に存在した。その後,大正7年勅令第7号による高等試験令が司法科を含む高等試験の体系を設け,昭和4年勅令第15号へ引き継がれたが,これは現行法のように裁判官・検察官・弁護士の志望者に共通する司法試験とは制度的な位置付けが異なる。
高等試験令は昭和23年法律第222号により廃止された。この戦前史を踏まえると,昭和24年司法試験法の重要性は,単に名称を司法試験へ変えたことではなく,三者に共通する試験と戦後の統一司法修習を結び付けた点にある。
2 昭和24年の統一司法試験
司法試験法(昭和24年法律第140号)の制定時原文は,司法試験を第一次試験と第二次試験に分け,第二次試験を裁判官・検察官・弁護士となろうとする者に必要な学識及び応用能力を判定する試験とした。第二次試験には筆記試験と口述試験が置かれ,特定の大学又は学部の卒業を一律の受験資格としない構造が採用された。
国会審議では,高等試験司法科の廃止と,裁判所法に基づく統一司法修習との接続が説明された。司法試験はそれ自体で法曹資格を完成させる試験ではなく,合格者が司法修習を経て法曹となる制度の入口として設計されたのである。
第3 昭和33年改正と旧司法試験の基本形
1 短答式・論文式・口述の段階選抜
司法試験法の一部を改正する法律(昭和33年法律第180号)による制度は昭和36年から実施され,第二次試験の短答式に合格した者だけが論文式へ進む段階選抜を明確にした。多数の受験者を短答式で選抜した後,論文式で法的な応用能力を精密に判定し,さらに口述を行うという旧司法試験の基本形が成立した。
もっとも,この仕組みは大量受験者の処理を可能にする一方,大学教育より受験対策が重視されること,合格までの期間が長くなること及び合格者の年齢が上がることを次第に問題化させた。昭和37年頃から第一次試験,試験科目及び管理機関の抜本的な見直しが検討されたものの,法改正には至らず,これらの課題は平成期へ持ち越された。
2 旧司法試験の開放性と長期受験問題
旧司法試験は,第一次試験の免除制度を前提としつつ,法学部又は法科大学院の修了を第二次試験の受験資格としなかった。この開放性は多様な経歴から法曹を目指せる利点を持ったが,試験合格という一つの時点へ競争が集中し,受験生活の長期化を招くとの批判も強まった。
平成期の改革で繰り返し問われたのは,開放性を維持しながら長期受験をどう抑えるか,国家試験と大学教育をどう役割分担させるかという問題である。この対立は,後の法科大学院と予備試験の関係にも形を変えて現れている。
第4 平成3年改正,合格枠制及び平成10年改正
1 平成3年改正の緊急措置
司法試験法の一部を改正する法律(平成3年法律第34号)は平成4年から施行され,論文式試験を7科目から6科目へ減らし,法律以外の選択科目を廃止した。また,司法試験管理委員会が一定期間内の受験者について論文式合格者の枠を設けられる仕組みを置いた。
改正の背景には,受験期間の長期化と合格者の高齢化への危機感があった。しかし,平成3年改正は法曹養成の全体構造を変えるものではなく,旧司法試験の枠内で若い受験者の合格を促そうとする緊急措置であった。
2 実施された「合格枠制」の正確な意味
平成8年度から平成15年度まで実施されたのは,短答式試験を最初に受けた時から一定期間内にある受験者へ論文式合格者の一部を割り当てる期間基準の合格枠制である。改革過程で受験回数を直接制限する案も検討されたが,実施制度を「3回まで受験できる制度」と説明するのは正確でない。
合格枠制の仕組み,対象期間及び比率の変化は,旧司法試験の「丙案」制度とは―合格枠制の仕組み,導入及び廃止で詳しく整理している。合格枠制は平成16年度から廃止され,法科大学院を中核とする新制度への移行が進められた。
3 平成10年改正による訴訟法の必修化
司法試験法の一部を改正する法律(平成10年法律第48号)は平成12年から施行され,民事訴訟法と刑事訴訟法を論文式及び口述の必須科目とした。実体法を具体的な紛争解決に用いるための訴訟法を必須化し,実務との接続を強める改正であった。
他方,科目変更だけでは,合格という一時点に選抜が集中する構造は変わらなかった。このため,平成11年に設置された司法制度改革審議会では,試験単体ではなく,法学教育から司法修習までを含む法曹養成全体の再設計が議論された。
第5 司法制度改革と新司法試験
1 「点」から「プロセス」への転換
司法制度改革審議会意見書は平成13年6月12日,司法試験という「点」のみによる選抜を改め,法学教育,司法試験及び司法修習を有機的に連携させる「プロセス」としての法曹養成を提言した。中核とされたのが,理論と実務を架橋する専門職大学院である法科大学院である。
意見書は,法科大学院が教育実績を積み重ねた段階で,修了者の相当程度,例として約7~8割が新司法試験に合格できるよう充実した教育を行うことを掲げた。これは毎年の合格率を法的に保障する基準ではなく,将来の制度設計上の目標であった。また,法科大学院を経ない者のため,経済的事情や社会経験に配慮した予備的な試験を設けることも提言した。
2 平成14年改正と新旧試験の移行
司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律(平成14年法律第138号)は,法科大学院修了又は司法試験予備試験合格を新司法試験の受験資格とし,短答式と論文式による新司法試験を設けた。法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律(平成14年法律第139号)は,法科大学院教育,司法試験及び司法修習の有機的連携を法律上の基本構造とした。
法科大学院は平成16年度に開設され,最初の新司法試験は平成18年に実施された。旧司法試験は経過措置として新司法試験と併行し,平成23年には前年の論文式合格者を対象とする口述試験だけが実施された。予備試験も平成23年から始まり,新旧制度の移行が完了した。
3 当初の受験回数制限と予備試験
新司法試験は当初,法科大学院修了又は予備試験合格後,最初の4月1日から5年間に3回まで受験できる制度であった。受験回数を制限することで,長期受験を抑え,法科大学院で身に付けた知識と能力が新しいうちに受験させるという考え方が採られた。
予備試験は,法科大学院修了者と同等の学識・応用能力及び法律実務の基礎的素養を判定する試験として設けられた。所得,年齢又は職歴による受験資格の限定は採用されず,誰でも受験できる開放的な制度となったため,経済的事情等に対応する代替経路であると同時に,法科大学院を経ない独立した有力ルートとして発展した。
第6 制度実績を受けた修正
1 法科大学院の収縮と合格者数目標の修正
法科大学院は平成16年度に68校・入学定員5590人で始まり,平成17年度には74校・5825人となった。その後,志願者の減少,司法試験の合格実績及び教育資源の集中政策等により募集停止と定員削減が進み,令和7年度に学生を募集した法科大学院は34校・入学定員2157人である。
司法制度改革期には,平成22年頃までに年間3000人程度の新規法曹を確保する政策目標が示されたが,実現しなかった。法曹養成制度改革推進会議の平成27年決定は,当面,司法試験合格者1500人程度を輩出できるよう必要な取組を進めるとした。3000人と1500人はいずれも法律上の固定合格枠ではなく,法曹需要等を踏まえた政策目標である。
2 平成26年改正による3回制限の廃止
法務省「司法試験法改正の概要」が説明する平成26年法律第52号は,平成26年10月1日に施行され,平成27年司法試験から適用された。従来の5年間に3回までという上限を廃止し,受験資格を得た後の5年間は毎年受験できる制度へ改めた。
同改正は,短答式試験の科目を憲法・行政法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法の7科目から,憲法・民法・刑法の3科目へ縮減した。これにより,3回受験した後の残存期間に受験できない問題は解消されたが,5年間という受験資格期間は維持された。
3 法科大学院中心主義をめぐる到達点
法科大学院を中核とする理念は法律上維持されているが,現実の制度は法科大学院修了,在学中受験及び予備試験という複数の受験資格を並立させている。予備試験の開放性は多様な参入を支える一方,法科大学院を経ない短期ルートへ志望者が集中し,法科大学院教育の位置付けを弱めるとの指摘もある。
したがって,現在の到達点は,法科大学院だけに法曹養成を一本化した制度ではない。教育を重視する法科大学院ルートと,開放性を確保する予備試験ルートを併存させ,実績に応じて受験制度を修正する複線型の仕組みである。
第7 令和元年改正による法曹コースと在学中受験
1 「3+2」の養成経路
法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第44号)は,大学の法曹コースと法科大学院の既修者コースを連携させる仕組みを整えた。令和2年度から始まった法曹コースでは,大学を3年で早期卒業し,法科大学院既修者コースを2年で修了する「3+2」の経路が標準的な短期ルートとして想定されている。
この改革の目的は,法科大学院教育を維持しながら法曹資格取得までの時間的・経済的負担を軽減し,法曹志望者の減少に対応することにある。他方,短期化によって幅広い学修機会が狭まるおそれや,法科大学院教育が司法試験対策へ偏るおそれも国会審議で指摘された。
2 令和5年からの在学中受験
令和元年改正は,所定の法律科目の単位を修得し,司法試験実施年の4月1日から1年以内に法科大学院を修了する見込みであると学長が認定した者に,在学中の受験資格を認めた。在学中受験は令和5年司法試験から始まり,法科大学院修了後に受験していた制度と比べ,合格から司法修習開始までの待機期間を短縮した。
最初の令和5年司法試験では,在学中受験資格による受験者1066人のうち637人が合格し,合格率は59・8%であった。ただし,所定単位の修得と修了見込みの認定を受けた集団の数値であり,法科大学院修了者又は予備試験合格者との教育効果の差をそのまま表すものではない。在学中受験資格の要件と修習開始時期は,法科大学院在学中の司法試験合格者等でも整理している。
第8 現行制度と令和7年司法試験の結果
1 三つの受験資格と試験科目
現行の司法試験法1条は,司法試験を裁判官・検察官・弁護士となろうとする者に必要な学識及び応用能力を判定する国家試験とし,法科大学院教育及び司法修習との有機的連携の下に行うと定める。受験資格は,①法科大学院修了,②所定要件を満たす法科大学院在学中受験,③予備試験合格の三経路である。
司法試験は短答式と論文式で行われる。短答式は憲法・民法・刑法,論文式は公法系・民事系・刑事系及び選択科目であり,旧司法試験にあった口述試験は現行司法試験にはない。予備試験は短答式・論文式・口述で行われ,法科大学院修了者と同等の能力及び法律実務の基礎的素養を判定する。
2 令和7年司法試験のルート別結果
法務省が公表した令和7年司法試験の結果は,受験者3837人,合格者1581人,合格率41・20%であった。合格点は770点であり,短答式で必要な成績を得た者は2902人である。
| 受験資格 | 受験者 | 合格者 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 法科大学院修了 | 2013人 | 441人 | 21・91% |
| 法科大学院在学中 | 1352人 | 712人 | 52・66% |
| 予備試験合格 | 472人 | 428人 | 90・68% |
| 合計 | 3837人 | 1581人 | 41・20% |
予備試験合格資格による司法試験合格率は高いが,令和7年予備試験自体は短答式受験者1万2432人に対して最終合格者452人であり,最終合格率は約3・64%であった。ルート別合格率は,予備試験という事前選抜,在学中受験の認定及び各集団の教育歴が異なるため,法科大学院教育の優劣を直接示す指標ではない。
第9 令和8年のCBT化と残された課題
1 司法試験及び予備試験のCBT
法務省「司法試験及び司法試験予備試験のデジタル化について」によれば,令和8年司法試験は短答式と論文式の双方をCBT方式で実施した。予備試験は令和8年には論文式だけがCBTとなり,短答式及び口述は従来方式である。
法務大臣の令和8年7月7日記者会見によれば,令和8年司法試験は同月15日から実施され,手書き答案から試験会場のコンピュータによる答案作成へ移行した。もっとも,令和8年は紙の試験用法文も配布された。CBT化は受験資格,試験科目又は合格基準を改める法律上の選抜制度改革ではなく,答案作成と試験運営の媒体を変更する行政実施上の改革である。
2 改正史から見た現在の争点
CBTでは,端末障害時の措置,障害のある受験者への合理的配慮,入力速度差,監督及び情報セキュリティ,紙の法文の今後の扱いが運用上の課題となる。令和8年8月11日現在,これらについて司法試験制度固有の裁判上の確立した基準は確認できない。
制度全体では,①法科大学院教育と在学中受験の両立,②予備試験の開放性と法科大学院中心理念の調整,③未修者・社会人・地域の多様性,④合格者数と法曹需要,⑤ルートの異なる受験者を比較する統計指標が引き続き争点である。司法試験制度は,昭和24年の開放的な統一試験,平成期の法科大学院中心改革,その後の複線化と短期化を経て,現在も完成形ではなく検証と修正を続けている。
第10 成績開示をめぐる関連裁判例
1 総合順位と科目別得点の区別
東京地方裁判所平成16年9月29日判決・平成15年(行ウ)第396号は,旧司法試験受験者が自己の論文式・口述試験成績等の開示を求めた事件であり,平成11年度口述試験の総合順位を不開示とした部分を取り消した。他方,論文式・口述の科目別得点等の不開示は維持した。
東京高等裁判所平成17年7月14日判決・平成16年(行コ)第357号は原判決を変更し,平成11年度論文式試験の総合順位も開示対象としたが,科目別得点の不開示は適法とした。両判決は制度改正の有効性を判断したものではなく,試験の透明性と試験事務の適正な遂行をどのように調整するかを示す裁判例である。
2 成績情報の公開拡大との関係
旧司法試験から現行司法試験まで,成績通知及び開示の範囲は行政運用と情報公開・個人情報保護の手続を通じて拡大してきた。もっとも,通知される情報,保有個人情報開示請求の対象及び公表統計はそれぞれ異なるため,一つの制度として混同すべきではない。
成績通知・開示の具体的な拡大経緯と現在の請求方法は,旧司法試験の成績通知・開示の拡大と現在の請求方法を参照されたい。また,旧司法試験の得点別人員表と成績分布の読み方は,旧司法試験の成績分布・成績通知・成績開示で整理している。
第11 出典・参考資料
1 法令・国会資料
②国立国会図書館日本法令索引「高等試験令(大正7年勅令第7号)」
③国立国会図書館日本法令索引「高等試験令(昭和4年勅令第15号)」
⑤司法試験法の一部を改正する法律(昭和33年法律第180号)
⑧司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律(平成14年法律第138号)
⑨法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律(平成14年法律第139号)
⑩法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第44号)
2 政府・審議会・統計資料
⑧法務省「司法試験及び司法試験予備試験のデジタル化について」
3 裁判例・書籍
①東京地方裁判所平成16年9月29日判決・平成15年(行ウ)第396号
②東京高等裁判所平成17年7月14日判決・平成16年(行コ)第357号
③法務大臣官房司法法制調査部編『司法試験制度はこう変わる 法曹養成制度改革』(有斐閣,平成3年)1頁~4頁,43頁,59頁~63頁,178頁~185頁
④日本弁護士連合会「法科大学院制度を中核とする法曹養成制度の20年」(『弁護士白書2025年版』特集)