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旧司法試験の「丙案」制度とは―合格枠制の仕組み,導入及び廃止(AIリライト)

旧司法試験の「丙案」とは,論文式試験の合格者の一部を,初めて短答式試験を受けた時から3年以内の受験者だけから選ぶ「合格枠制」の通称である。

平成8年度(1996年度)から平成15年度(2003年度)まで実施され,平成16年度(2004年度)から廃止された。

「受験回数が3回以内の者を優遇する制度」と説明されることがあるが,実施された制度の基準は実際の受験回数ではなく,初回の短答式試験から論文式試験までの期間であった。

この記事では,昭和63年(1988年)の改革試案,平成3年(1991年)の法改正,平成8年度の実施及び平成16年度の廃止までを,一次資料と当時の基本資料集に基づいて整理する。

第1 丙案(合格枠制)の仕組み

1 制度の一文定義

平成3年法律第34号による改正後の旧司法試験法8条2項は,司法試験管理委員会が必要と認めるときは,論文式試験の合格者の一部を,短答式試験を初めて受けた時から一定期間内の者から定めることができるとした。

具体的な期間と枠の比率は,平成3年7月4日の司法試験管理委員会規則第1号が定めた。

同規則による当初の仕組みは,論文式試験の合格者のおおむね7分の5を受験期間にかかわらず定め,残りのおおむね7分の2を,初回の短答式試験から論文式試験までが3年以内の者から定めるというものであった。

2 二つの合格枠

(1) 無制限枠

無制限枠では,受験期間にかかわらず,論文式試験の全受験者を成績順に判定した。

平成8年度から平成10年度までの無制限枠は,論文式試験合格者のおおむね7分の5であった。

(2) 制限枠

制限枠では,無制限枠で合格しなかった者のうち,初回の短答式試験から3年以内という要件を満たす者だけを対象として,別の合格最低点を定めた。

そのため,制限枠の最低点が無制限枠の最低点を下回る年には,論文式試験の得点がより高い長期受験者が不合格となり,得点がより低い3年以内の受験者が合格することがあった。

ただし,合格者には,どちらの枠によって合格したかは通知されない仕組みであった(法務大臣官房司法法制調査部編『法曹養成制度改革―司法試験制度はこう変わる』25頁~26頁)。

3 誤解しやすい三つの点

  • ① 実施された制度は,「3回受験したら受験できなくなる」という受験資格制限ではない。
  • ② 基準は実際の受験回数ではなく,初回短答式受験からの期間である。
  • ③ 合格枠制が適用されたのは論文式試験の合否判定だけであり,短答式試験及び口述試験には適用されなかった。

平成3年法律第34号の経過措置により,期間計算には平成4年以前の試験を含めないこととされたため,3年の期間が経過する平成8年度が最初の実施可能年度となった。

第2 丙案が提案された背景

1 長期受験者の滞留と合格者の高年齢化

旧司法試験では,合格者数が長く抑制され,多数回受験者の滞留,合格までの長期化及び合格者の高年齢化が制度上の問題として取り上げられた。

昭和39年(1964年)の臨時司法制度調査会意見書も,受験回数又は受験年齢を制限するかどうかを検討したが,職業選択の自由,長年の勉学を経た受験者を排除することの当否及び受験者照合の技術的問題などから,直ちに結論を出さず,関係当局の検討課題とした。

その後,昭和62年4月に発足した法曹基本問題懇談会は,昭和63年3月公表の意見において,合格者の増加と併せて,受験回数を一定範囲で制限することを提言した。

継続受験者の受験回数別・年齢別断念状況
継続受験者の受験回数別・年齢別断念状況(平成元年11月20日配布資料)

2 昭和63年の人事課長試案

法務省は,昭和63年4月13日,「司法試験改革試案」を公表した。

その骨子は,①合格者を700人程度に増加すること,②第二次試験を連続した3年以内に3回以内とする受験回数制限,③大学推薦制の導入及び④教養選択科目の廃止であった(前掲書16頁)。

この段階の案は,後に実施された合格枠制とは異なり,第二次試験の受験そのものを制限する案であった。

日弁連は回数制限及び大学推薦制に反対し,昭和63年12月から最高裁判所,法務省及び日弁連による法曹三者協議が始まった。

3 平成元年の甲案・乙案・丙案

法務省が平成元年11月20日に示した「司法試験制度改革の基本構想」は,次の三案を提示した。

  • ① 甲案は,第二次試験を初回受験から5年以内に限る受験期間制限である。
  • ② 乙案は,合格者の80%以上を初回受験から5年以内の者から定める案である。
  • ③ 丙案は,全受験者を対象とする枠で全合格者の70%を定め,残りを初回受験から3年以内の者から定める案である。

この基本構想の丙案は論文式試験と口述試験を対象としていたが,平成3年に法制化された合格枠制は論文式試験だけを対象とした。

司法試験制度改革の基本構想
司法試験制度改革の基本構想(平成元年11月20日)

第3 法制化と平成8年度からの実施

1 平成2年の基本的合意

平成2年10月16日の司法試験制度改革に関する基本的合意は,合格者を段階的に増員するとともに,平成7年度までに少数回受験者の合格割合について所定の改善がみられなければ,平成8年度から合格枠制を実施することを定めた。

また,平成12年度試験の終了後に,制度を継続するか,廃止するか,他の方法を採るかを検討することとした。

司法試験制度改革に関する法曹三者協議の経緯
司法試験制度改革に関する法曹三者協議の経緯

2 平成3年の法律と規則

法制審議会は平成3年2月4日,制度の法制化を相当とする答申をした。

同年4月23日に公布された司法試験法の一部を改正する法律(平成3年法律第34号)は,旧司法試験法8条に合格枠制の根拠規定を加えた。

法律は「短答式による試験を初めて受けた時から一定の期間内」とだけ定め,3年という期間及び枠の比率は司法試験管理委員会規則に委ねた。

したがって,法律自体が「受験回数3回以内」と定めたものではない。

法案審議の資料は,法律案審議資料1/2及び法律案審議資料2/2にも掲載している。

3 平成7年の実施決定

合格者の増員等によっても,平成2年の基本的合意が掲げた基準に達しなかったため,司法試験管理委員会は平成7年12月11日,平成8年度から合格枠制を実施することを決定した。

最高裁判所及び法務省から選任された委員が賛成し,日弁連から選任された委員が反対する多数決であったことは,日弁連の「司法試験『丙案』の廃止を求める決議」に記録されている。

平成8年度司法試験の合格者は51期司法修習生に,最後の平成15年度司法試験の合格者は58期司法修習生に対応する。

第4 制限枠の比率変更と廃止

1 制限枠の推移

合格者数の増加に伴い,制限枠が全合格者に占める比率は段階的に縮小された。

実施年度対応する司法修習期無制限枠:制限枠制限枠の全体比
平成8年度~平成10年度51期~53期5:22/7
平成11年度~平成13年度54期~56期7:22/9
平成14年度~平成15年度57期~58期9:22/11

「7対2から9対2への変更」は,平成13年11月9日に司法試験管理委員会が決定し,同月29日に規則改正及び官報告示が行われた。

2 制度廃止までの年表

年月主な出来事
昭和39年8月臨時司法制度調査会意見書が,受験回数・年齢制限を検討課題とした。
昭和63年3月法曹基本問題懇談会が,受験回数制限を提言した。
昭和63年4月法務省人事課長試案が,3年以内・3回以内の受験回数制限等を提示した。
平成元年11月基本構想が甲案・乙案・丙案を提示した。
平成2年10月法曹三者が,条件付きで平成8年度から合格枠制を実施することに合意した。
平成3年4月・7月法律が制度の骨格を,委員会規則が3年以内・7分の2という具体的基準を定めた。
平成7年12月司法試験管理委員会が平成8年度からの実施を決定した。
平成8年度合格枠制が初めて実施された。
平成13年11月枠比率の変更と,平成16年度から合格枠制を用いない方針が決定された。
平成15年度合格枠制が最後に実施された。
平成16年度合格枠制が廃止された。旧司法試験自体はその後も経過措置として続いた。

3 廃止決定の経緯

平成9年10月28日の法曹三者合意では,日弁連が,導入後の短期間受験者の増加を理由に,遅くとも平成13年度には合格枠制を廃止すべきであると提言したことを踏まえ,制度の存廃を引き続き検討するとされた。

日弁連は平成12年10月18日にも廃止を求める決議をした。

平成13年6月12日の司法制度改革審議会意見書が,平成14年に合格者1200人程度,平成16年に1500人を目指すとしたことを受け,司法試験管理委員会は平成13年11月9日,平成16年度以降は合格枠制によらないことを決定した。

この方針と規則改正は,法務省の平成13年11月29日公表資料で確認できる。

第5 合格枠制の実績

1 3年以内の最終合格者の割合

法務省の平成15年度司法試験第二次試験結果によれば,最終合格者のうち初回短答式受験から3年以内の者が占める割合は,次のとおりである。

年度3年以内の最終合格者の割合
平成8年度54.1%
平成9年度55.0%
平成10年度48.2%
平成11年度47.1%
平成12年度50.6%
平成13年度42.6%
平成14年度38.4%
平成15年度37.4%

導入直後の平成8年度及び平成9年度には5割を超えたが,終了時の平成15年度には37.4%まで低下した。

もっとも,この推移だけから合格枠制の因果的効果を測ることはできない。

同じ期間に,合格者数,試験科目,受験者構成及び枠比率も変化しているためである。

司法試験合格者の受験回数別構成比等の推移
司法試験合格者の受験回数別構成比等の推移(昭和34年度~平成2年度)

2 平成15年度の論文式試験

法務省の平成15年度論文式試験結果及び及落決定考査委員会議議事要旨によれば,論文式試験合格者1201人の内訳は,無制限枠988人,制限枠213人であった。

合格最低点は,無制限枠が140.75点,制限枠が137.25点であり,その差は3.50点であった。

6科目平均では1科目当たり約0.58点の差となる。

3 平成15年度の最終結果

法務省の平成15年度司法試験第二次試験結果によれば,最終合格者は1170人,平均受験期間は5.75年,平均年齢は28.15歳であった。

同年度の論文式試験では,無制限枠と制限枠の最低合格点に対応する順位の差は約745番であった。

したがって,合格枠制は単なる呼称ではなく,論文式試験の合否を現実に分ける制度として機能していた。

第6 制度を評価するときの留意点

1 導入目的と公平性批判を区別すること

制度の導入目的は,多数回受験者の滞留を緩和し,より多くの者がより短期間で合格できるようにすることであった。

これに対し,日弁連側からは,学識及び応用能力とは別の受験期間によって合否が分かれることは公平性に問題があるとの批判が示された。

平成3年4月16日の参議院法務委員会会議録には,制度の目的,反対論及び法曹三者の基本合意に至った事情が記録されている。

制度史を記述するときは,導入目的,反対者の評価及び実施結果を別の層として扱う必要がある。

2 「3回以内」という説明の出所

昭和63年の人事課長試案は,「連続した3年以内に3回以内」という受験回数制限を提案していた。

しかし,平成3年に法制化され,平成8年度から実施された合格枠制は,初回短答式受験から3年以内という期間基準であった。

また,通常は毎年受験するため,3年以内の者が結果的に3回以下の受験者であることが多かったと考えられる。

この試案,制度上の基準及び受験実態を混同すると,「丙案は受験回数3回以内の制度であった」という不正確な説明になる。

3 確認できない呼称や回想の扱い

丙案をめぐっては,当時の受験生による回想や俗称も残っている。

もっとも,制度の要件,年度,枠比率又は合格実績を説明する根拠としては,法令,委員会規則,国会会議録及び法務省統計を優先すべきである。

本記事では,公的資料又は同時代の基本資料集で確認できない俗称を,制度上の事実としては採用していない。

第7 関連資料及び出典

1 関連資料

また,本ブログでは,最高裁判所が法務省から司法試験合格者の順位が分かる文書を受領した際に取得した文書に関する理由説明書も公開している。

2 法令・国会会議録

3 公的資料・統計

4 書籍

  • ① 法務大臣官房司法法制調査部編『法曹養成制度改革―司法試験制度はこう変わる』(有斐閣,平成3年)1頁~2頁,9頁,16頁,25頁~26頁,39頁(PDF実頁11頁~12頁,19頁,26頁,35頁~36頁,49頁)