第1 成績通知と保有個人情報開示請求の違い
旧司法試験の成績に関する「開示」には,①司法試験管理委員会又は司法試験委員会の決定に基づき,受験者の希望に応じて試験後に行われた成績通知と,②法務省が保有する本人の旧司法試験第二次試験ファイルについて行う保有個人情報開示請求がある。成績通知の対象者・通知事項と,保有個人情報開示請求によって開示される情報の範囲は同じではない。
現在の開示請求は,個人情報の保護に関する法律76条及び77条に基づく手続であり,同法78条所定の不開示情報に該当する部分があれば不開示となり得る。以下では,試験当時の成績通知,個別の不開示決定に関する裁判・答申及び現在の請求手続を区別して整理する。
第2 平成14年度・平成16年度・平成18年度の成績通知の拡充
平成14年1月23日司法試験管理委員会決定により,平成14年度の第二次試験から,短答式試験の全受験者のうち希望者には科目別得点・順位ランク並びに総合得点・順位・順位ランクが通知され,論文式試験の不合格者のうち希望者には科目別順位ランク並びに総合得点・順位・順位ランクが通知されるようになった。口述試験の不合格者のうち希望者には,総合得点及び順位が通知された。
平成16年2月23日司法試験委員会決定は,平成16年度から通知対象を合格者にも拡大した。論文式試験合格者のうち希望者に通知されたのは,①科目別順位ランク,②総合順位ランク及び③総合得点であり,口述試験合格者のうち希望者には総合得点が通知された。この時点では,合格者に正確な総合順位までは通知されなかった。
平成17年12月15日司法試験委員会決定により,平成18年度から,論文式試験合格者及び口述試験合格者の双方について総合順位が通知事項に追加された。したがって,成績通知の拡充は,平成16年度に論文式合格者だけを対象として一度に完了したものではなく,平成14年度,平成16年度及び平成18年度の各段階で対象者又は通知事項が広がったものである。
平成16年度には,いわゆる「丙案」である合格枠制も廃止された。もっとも,同日の司法試験委員会議事要旨は,成績通知の拡充を受験者への情報提供を進める施策として説明しており,合格枠制の廃止だけを成績通知拡充の直接の理由と断定することはできない。
第3 東京地裁平成16年判決及び東京高裁平成17年判決
東京地裁平成16年9月29日判決(平成15年(行ウ)第396号)は,平成9年度から平成11年度までの旧司法試験第二次試験ファイルに関する事件である。同判決は,①平成9年度から平成11年度までの論文式試験の科目別得点,②平成11年度の論文式試験の総合順位及び③平成11年度の口述試験の科目別得点を不開示とした部分を適法とする一方,平成11年度の口述試験の総合順位を不開示とした部分を取り消した。
控訴審の東京高裁平成17年7月14日判決(平成16年(行コ)第357号)は,論文式試験及び口述試験の科目別得点を不開示とした部分を適法とした一方,平成11年度の論文式試験の総合順位を不開示とした部分を取り消した。同判決は,科目別得点が開示されなければ,総合順位を利用して各科目の高得点答案を精度よく分析することは困難であることなどを理由とした。
これらの判決が扱ったのは,各判決当時の旧司法試験の継続を前提とする特定年度の保有個人情報である。後に成績通知の対象が拡大したことや旧司法試験が終了したことを考慮せず,科目別得点又は総合順位の開示可否について現在まで一律に同じ結論が妥当すると解することはできない。
第4 平成20年度(行個)答申第1号と合格枠制
平成20年度(行個)答申第1号(平成20年4月14日答申)が対象としたのは,平成11年度の旧司法試験第二次試験ファイルのうち,合格枠制対象者である合格者の論文式試験の総合得点及び総合順位を不開示とした処分である。情報公開・個人情報保護審査会は,これらの情報を開示すべきであると判断した。
合格枠制は,平成8年度から平成15年度までの論文式試験において,合格者の一部を,初めて短答式試験を受験した時から当該論文式試験までの期間が3年以内である受験者から選ぶ制度であった。実際に受験した回数が3回以内であることを要件とする制度ではなく,対象期間内の最終合格者がすべて制限枠によって合格したわけでもないため,「受験回数3回以内の丙案合格者」と表現するのは正確でない。
同答申は,平成20年度から法令又は成績通知制度を一律に改めたものではない。平成11年度ファイルに関する一人の請求者の不開示決定について,論文式試験の総合得点及び総合順位を開示すべきであると判断した答申であり,科目別得点一般の開示可否を判断したものでもない。
第5 福岡地裁平成22年判決と論文式科目別得点
福岡地裁平成22年1月18日判決(平成20年(行ウ)第44号)は,平成13年度の旧司法試験第二次試験論文式試験の科目別得点を不開示とした処分を取り消し,法務大臣にその開示を命じた。個人情報保護委員会「施行状況調査事例表 平成21年度」24頁により,裁判所名,事件番号,判決年月日,対象情報,請求認容及び判決確定を確認できる。
同判決の判決書は裁判所の裁判例検索では確認できず,裁判所HP未掲載である。宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』563頁~564頁は,旧論文式試験の終了が迫っていたことなどを踏まえて科目別得点の開示が命じられた判決として紹介している。したがって,旧司法試験の科目別得点については,東京高裁平成17年判決だけを示して一貫して不開示であったと説明することはできない。
もっとも,福岡地裁判決は平成13年度の特定受験者に関する確定判決である。法務省の現行請求書が標準項目として掲げる「論文式科目別成績区分」と,判決が対象とした「論文式科目別得点」は別の情報であるため,同判決から,すべての年度の科目別得点が現在の定型請求によって当然に交付されるとまではいえない。
第6 現在の旧司法試験ファイルの開示請求
法務省の開示請求案内及び「よくある質問」によれば,旧司法試験第二次試験ファイルは,昭和58年度以降平成23年度までの出願者について保存されている。ただし,記録項目のうち「論文式合計点」及び「論文式成績」は平成4年度以降のものに限られる。
旧司法試験第二次試験ファイル用の保有個人情報開示請求書には,受験者情報,短答式の合否・合計点・成績・科目別得点,論文式の合否・合計点・成績・成績区分・科目別成績区分,口述の合否・合計点・成績など,29項目が列挙されている。項目を指定しない場合は全項目が請求対象となるが,年度によって記録されている項目が異なる。
開示請求手数料は一件につき300円であり,窓口又は郵送で請求できる。郵送請求では,本人確認書類の写しに加え,請求日前30日以内に作成された,個人番号の記載がない住民票の写しの原本等が必要となる。法務省のFAQによれば,開示決定は原則として請求日から30日以内に行われるが,事務処理上の事情によって延長されることがある。
論文式科目別得点を求める場合,現行請求書の標準項目に丸を付けるだけでは対象が明確にならないため,請求する保有個人情報を具体的に記載する必要がある。その場合も,対象年度の記録の有無や不開示情報該当性については,個別の開示決定を待つ必要がある。
第7 関連資料及び関連記事
平成17年11月8日司法試験委員会決定は,平成18年から始まった司法試験の成績通知に関する決定であり,旧司法試験第二次試験ファイルの保有個人情報開示請求を定めるものではない。旧司法試験の成績通知・開示と,現在実施されている司法試験の成績通知は別の制度として扱う必要がある。
弁護士法人福間法律事務所の平成30年10月7日付記事には,昭和61年度合格者が開示請求をした結果,論文式試験について段階評価が,口述試験について総合順位が開示された体験が記載されている。個々の年度に残る情報が異なることを示す具体例である。
合格枠制の仕組み,導入経緯及び廃止については,旧司法試験の「丙案」制度とは―合格枠制の仕組み,導入及び廃止(AIリライト)で整理している。得点別人員調,成績分布及び「人員累計」の読み方については,旧司法試験の成績分布・成績通知・成績開示|得点別人員表の読み方(AIリライト)を参照されたい。
最高裁判所が法務省から司法試験合格者の順位が分かる文書を受領した際の理由説明書については,次の投稿で資料画像を掲載している。これは,受験者本人に対する成績通知又は保有個人情報開示請求とは異なる資料である。
R040328 最高裁の理由説明書(最高裁が法務省から司法試験合格者の順位が分かる文書を受領した際に取得した文書)を添付しています。 pic.twitter.com/beMmWC9vfH
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) April 10, 2022
第8 出典・参考資料
① 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)76条~78条(e-Gov法令検索)
② 司法試験管理委員会「試験成績の本人通知の拡充について」(平成14年1月23日決定,法務省PDF1頁)
③ 司法試験委員会「試験成績の本人通知の拡充について」(平成16年2月23日決定,法務省PDF1頁)及び同日の司法試験委員会議事要旨(法務省PDF2頁~3頁)
④ 司法試験委員会「旧司法試験における成績本人通知の拡充について」(平成17年12月15日決定,法務省PDF1頁)
⑤ 東京地裁平成16年9月29日判決(平成15年(行ウ)第396号,裁判所HP,判例集等巻・号・頁は裁判所HPに記載なし)
⑥ 東京高裁平成17年7月14日判決(平成16年(行コ)第357号,裁判所HP,判例集等巻・号・頁は裁判所HPに記載なし)
⑦ 情報公開・個人情報保護審査会平成20年度(行個)答申第1号(平成20年4月14日答申,国立国会図書館WARP保存PDF1頁及び10頁~13頁)
⑧ 個人情報保護委員会「施行状況調査事例表 平成21年度」24頁(PDF24頁)
⑨ 法務省「各種試験に係る保有個人情報開示請求について」,「よくある質問」及び旧司法試験第二次試験ファイル用保有個人情報開示請求書(令和8年7月30日確認)
⑩ 司法試験委員会「司法試験における試験成績の本人通知について」(平成17年11月8日決定,法務省PDF1頁~2頁)
⑪ 宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』(有斐閣,2021年)563頁~564頁
⑫ 弁護士法人福間法律事務所「司法試験(口述)の成績開示,11番でした。」(平成30年10月7日)