第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日
本記事は,民事訴訟の係属中に原告又は被告が死亡した場合に,訴訟手続がどうなるかを整理する。
具体的には,訴訟手続の中断と受継,訴訟代理人がいる場合の扱い,相続の放棄との関係,中断中の判決と控訴期間,中断を見落としてされた判決の是正方法を扱う。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で書誌を確認し,判例秘書で判決の全文を読んだものに限って紹介している。
2 結論
①訴訟代理人がいない当事者が死亡すると,訴訟手続は法律上当然に中断し,相続人等が訴訟手続を受け継ぐ(民事訴訟法124条1項1号)。
②訴訟代理人がいる間は,当事者が死亡しても訴訟手続は中断せず(同条2項),訴訟代理人は,その審級では相続人等の訴訟代理人として訴訟を続ける。
③相続人は,相続の放棄をすることができる間は,訴訟手続を受け継ぐことができない(同条3項)。
④受継の申立ては相手方もすることができ,裁判所は,申立てに理由があるかを職権で調べる。
⑤中断中は,控訴期間を含む期間の進行が止まり,受継の通知又は続行の時から新たに全期間が進行する(同法132条2項)。
⑥判決の言渡しは中断中でもすることができる(同条1項)が,中断を見落として口頭弁論期日を開き,弁論を終結して判決を言い渡すことは法令違反であり,最高裁判所は,旧民事訴訟法の下で,上告審でそのような判決を破棄している。
⑦離婚訴訟のような人事訴訟では,当事者の死亡によって訴訟そのものが終了する場合がある(人事訴訟法27条)。
第2 当事者の死亡と訴訟手続の中断
1 中断と受継の条文
民事訴訟法124条1項は,各号の事由があるときは訴訟手続は中断し,各号に定める者が訴訟手続を受け継がなければならないと定める。
当事者の死亡について,同項1号は,受け継ぐべき者を「相続人、相続財産の管理人、相続財産の清算人その他法令により訴訟を続行すべき者」としている。
中断の間に口頭弁論期日を開いて手続を進めることは,法令違反となる(第5の3)。
2 中断は法律上当然に生じる
中断は,裁判所の決定を待たずに生じる。
最高裁判所第三小法廷平成19年3月27日判決(第7の1①)は,外国国家の代表権の消滅による中断について,「訴訟手続の中断は,中断事由の存在によって法律上当然に生ずるもの」であると述べている。
そのため,裁判所や相手方が死亡を知らないまま手続が進むと,後で手続のやり直しが必要になることがある(第5の3)。
3 相続の対象にならない権利と人事訴訟
相続人は,相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するが,被相続人の一身に専属したものは承継しない(民法896条)。
訴訟の対象が相続される権利義務であれば,相続人が訴訟手続を受け継ぐことになる。
人事訴訟については,人事訴訟法27条1項が,人事訴訟の係属中に原告が死亡した場合には,特別の定めがある場合を除き,当該人事訴訟は当然に終了すると定める。
同条2項は,離婚,嫡出否認(父を被告とする場合を除く。)又は離縁を目的とする人事訴訟の係属中に被告が死亡した場合にも,当該人事訴訟は当然に終了すると定める。
人事訴訟の係属中に当事者が死亡したときは,受継を考える前に,同法の規定で訴訟が終了していないかを確かめる必要がある。
第3 訴訟代理人がいる場合
1 中断しない
民事訴訟法124条2項は,「前項の規定は、訴訟代理人がある間は、適用しない。」と定める。
また,訴訟代理権は,当事者の死亡によっては消滅しない(同法58条1項1号)。
したがって,弁護士に訴訟を委任している当事者が死亡しても,訴訟手続は中断しない。
2 訴訟代理人は承継人の代理人になる
最高裁判所第一小法廷昭和50年12月25日判決(第7の1②)は,「訴訟代理人は、訴訟委任をした当事者が訴訟係属中に死亡しても、訴訟代理権を失うものではなく、当該審級については右当事者の承継人の訴訟代理人たる地位に立つものである」と述べた。
同判決は,控訴人が原審の訴訟代理人に訴訟委任をしていた事案で,控訴人の死亡後は,その訴訟代理人が控訴人の相続人の訴訟代理人の地位に立ったとした。
同判決は,その根拠として当時の民事訴訟法85条及び213条を挙げている。
3 中断しない理由と例外
最高裁判所第三小法廷平成19年3月27日判決は,民事訴訟法124条2項の趣旨について,「訴訟代理人が選任されているときには,当該訴訟代理人が訴訟の実情に通暁しており,一般にそのまま訴訟を追行させたとしても,当事者の利益を害するおそれがないことから」訴訟手続の中断についての例外を定めたものと述べた。
その上で,同判決は,外国国家の政府承認の変更によって外交使節の代表権が消滅した事案では,その外交使節から訴訟代理権の授与を受けた訴訟代理人がいても,代表権の消滅の時点で訴訟手続は中断するとした。
同判決の事案は当事者の死亡ではないが,訴訟代理人がいる場合の例外の理由を示したものとして参考になる。
同判決の内容は,光華寮訴訟とは―中国政府の承認,原告の確定及び訴訟手続の中断・受継で整理している。
4 上訴には特別の委任が要る
訴訟代理人が控訴,上告若しくは上告受理の申立て又はこれらの取下げをするには,特別の委任を受けなければならない(民事訴訟法55条2項3号)。
訴訟代理人がいて訴訟手続が中断しない場合でも,判決に対して上訴するかどうかは,相続人の意思を確かめて決める必要がある。
訴訟代理人としては,当事者の死亡を知った時点で,相続人の範囲と連絡先を確かめ,相続人から改めて委任を受けるかを整理しておくことになる。
第4 受継の手続
1 相続の放棄をすることができる間は受け継げない
民事訴訟法124条3項は,当事者の死亡による中断の場合でも,相続人は,相続の放棄をすることができる間は,訴訟手続を受け継ぐことができないと定める。
相続人は,原則として,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に,相続について承認又は放棄をしなければならない(民法915条1項)。
相続の放棄をした者は,その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされる(民法939条)。
相続の放棄が有効であれば,その者は訴訟手続を受け継ぐべき者に当たらないことは,後記3の判決が示している。
2 受継の申立てと裁判所の調査
受継の申立ては,受け継ぐべき者だけでなく,相手方もすることができる(民事訴訟法126条)。
受継の申立てがあったときは,裁判所は相手方に通知しなければならない(同法127条)。
裁判所は,受継の申立てについて職権で調査し,理由がないと認めるときは,決定でその申立てを却下しなければならない(同法128条1項)。
当事者が受継の申立てをしない場合でも,裁判所は,職権で訴訟手続の続行を命ずることができる(同法129条)。
3 相続放棄と受継決定の当否
最高裁判所第二小法廷昭和48年3月23日判決(第7の1③)は,控訴審の終局判決の言渡し後,判決正本の送達前に控訴人が死亡し,相手方の申立てにより,相続人とされた者に訴訟手続を受け継がせる決定がされた事案である。
受継決定を受けた者は,その後,家庭裁判所に相続の放棄の申述をし,受理されていた。
同判決は,「訴訟手続受継の申立の当否については、裁判所は職権をもつて調査すべきものである」とした上で,相続の放棄をすることができる期間を経過しているか否か,相続の放棄を無効とすべき理由はないか等について審理を尽くさずに受継決定をしたことは違法であるとして,受継決定を破棄し,事件を差し戻した。
また,同判決は,受継決定に不服のある者は,終局判決に対する上告によって,受継決定のみの破棄を求めることができるとした。
同判決は,その理由として,受継決定は終局判決の名宛人である当事者を新しい当事者に変更する効果を伴うものであり,受継決定のみの破棄を求める上告を許さなければ,終局判決は新しい当事者との関係で確定することになる点を挙げている。
4 判決の送達後に中断した場合
電子判決書又は電子調書の送達後に中断した訴訟手続について受継の申立てがあったときは,その判決をした裁判所が,その申立てについて裁判をしなければならない(民事訴訟法128条2項)。
判決の言渡し後,送達前に当事者が死亡した前記3の事案でも,受継決定は判決をした控訴審がしている。
第5 中断中の判決と控訴期間
1 中断中は期間が止まる
民事訴訟法132条2項は,訴訟手続の中断があったときは期間の進行が停止し,訴訟手続の受継の通知又はその続行の時から,新たに全期間の進行を始めると定める。
控訴期間は,判決書(電子判決書)等の送達を受けた日から2週間の不変期間である(同法285条)が,この期間も中断によって進行を止める。
したがって,当事者の死亡によって訴訟手続が中断している間は,判決の送達がされ,2週間が経過したように見えても,控訴期間は進行しておらず,判決は確定していない。
相続人は,受継の手続をとった上で控訴を提起することになる。
不変期間を過ぎた場合の救済一般は,訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)―控訴期間を過ぎた場合の救済,送達日の誤認,通知メールの見落とし及び事務所内の事務処理で整理している。
2 判決の言渡しは中断中でもできる
民事訴訟法132条1項は,「判決の言渡しは、訴訟手続の中断中であっても、することができる。」と定める。
口頭弁論を終結した後に当事者が死亡した場合には,裁判所は,受継を待たずに判決を言い渡すことができる。
もっとも,言い渡された判決に対する控訴期間は,前記1のとおり,受継の通知又は続行の時まで進行しない。
3 中断を見落としてされた判決
最高裁判所第二小法廷昭和52年12月23日判決(第7の1④)は,控訴審の係属中に訴訟代理人のいない控訴人が死亡して訴訟手続が中断したのに,控訴審がその後に口頭弁論期日を開き,弁論を終結して判決を言い渡した事案である。
同判決は,「原審の訴訟手続には、中断中に手続を進行させた法令違背があり、右法令違背は判決に影響を及ぼすことが明らかである」として,死亡した控訴人に関する部分の原判決を破棄し,事件を原審に差し戻した。
同判決は,死亡していない他の上告人については,訴訟手続の中断はないとして上告を棄却した。
最高裁判所第三小法廷平成19年3月27日判決も,中断を看過して第1審が審理及び判決をし,控訴審まで訴訟手続が続行された事案で,中断の時点以後の訴訟手続は,当事者について「訴訟行為をするのに必要な授権を欠いていたものというほかはなく」,当時の民事訴訟法395条1項4号に該当するとして,原判決を破棄し,第1審判決を取り消して事件を第1審に差し戻した。
同判決は,差し戻す理由を,中断の時点に立ち戻って訴訟手続の受継をさせた上で第1審の審理をやり直させるためであるとしている。
平成19年判決は代表権の消滅による中断を看過した事案に当時の民事訴訟法395条1項4号を当てはめたものであり,当事者の死亡による中断を看過した昭和52年判決は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背を理由に原判決を破棄している。
いずれも現行の民事訴訟法の施行前の判決である。
現在の民事訴訟法では,法定代理権,訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたことは,上告の理由とされ(同法312条2項4号),確定判決に対する再審の事由ともされている(同法338条1項3号)。
4 死亡を知ったときに確かめること
当事者の死亡を知ったときは,次の事項を確かめる。
①死亡の日と,その時点で訴訟代理人がいたか
②死亡の時点で,事件がどの審級のどの段階にあったか(口頭弁論の終結前か後か,判決の送達前か後か)
③相続人の範囲と,相続の承認又は放棄の状況
④訴訟の対象が相続される権利義務か,人事訴訟のように死亡によって訴訟が終了するものか
⑤裁判所への死亡の連絡と,受継の申立ての要否(相手方として申し立てるかを含む。)
⑥控訴期間その他の期間が進行しているか
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第7 出典・参考資料
1 裁判例
①最高裁判所第三小法廷平成19年3月27日判決(昭和62年(オ)第685号,民集61巻2号711頁,裁判所ウェブサイト)
②最高裁判所第一小法廷昭和50年12月25日判決(昭和49年(オ)第590号,集民116号875頁,裁判所ウェブサイト)
③最高裁判所第二小法廷昭和48年3月23日判決(昭和46年(オ)第748号,民集27巻2号365頁,裁判所ウェブサイト)
④最高裁判所第二小法廷昭和52年12月23日判決(昭和52年(オ)第588号,集民122号605頁,裁判所ウェブサイト)
2 法令
①民事訴訟法(e-Gov法令検索)55条,58条,124条,126条,127条,128条,129条,132条,285条,312条,338条
②人事訴訟法(e-Gov法令検索)27条
③民法(e-Gov法令検索)896条,915条,939条
3 調査範囲
最高裁判所の判決は,令和8年9月27日に裁判所ウェブサイトの裁判例検索で事件番号,掲載誌の巻号頁及び裁判年月日により検索し,書誌を確認したものである。
判例秘書では,同日,民事訴訟法124条を参照条文とする判例(23件)と,「訴訟手続の中断」及び「看過」を含む判例(14件)を検索し,本記事で紹介した4件の判決の全文を読んだ。
訴訟代理人に上訴の特別の委任がない場合に,いつ訴訟手続が中断するかについては,本記事では扱っていない。