第1 民事訴訟における送達の基本
1 送達の意味と本記事の対象
送達は,訴状,判決その他の訴訟関係書類又は電磁的記録を,法定の方式によって当事者その他の受送達者に告知する手続である。通常の郵送や当事者間の直送とは異なり,どこで誰に交付したか,又はシステム上のどの時点で効力が生じたかが,上訴期間その他の手続期間に影響する。
本記事は,民事訴訟法上の国内送達を中心に,送達場所,補充送達,差置送達,付郵便送達,公示送達及びシステム送達を整理する。令和8年5月21日以後に提起された訴訟等には全面デジタル化後の規定が適用される一方,同月20日以前に提起された事件は原則として従前の規定で処理されるため,係属事件の適用法を最初に確認する必要がある。
2 職権送達,送達事務及び送達実施機関
送達は,特別の定めがある場合を除き,裁判所が職権で行い,送達に関する事務は裁判所書記官が取り扱う(民訴法98条)。書類の送達は,特別の定めがある場合を除き,郵便又は執行官によって行い,郵便による送達では郵便業務従事者が送達をする者となる(同法101条)。裁判所書記官は,所属裁判所の事件について出頭した者に自ら送達することもできる(同法102条)。
郵便による送達では,郵便法49条の特別送達が用いられる。郵便法66条は旧条文の番号であり,現行法上の根拠条文ではない。また,送達をした者が作成する送達報告書の根拠は,現行民訴法100条であり,書面の提出に代えて所定の電子情報処理組織又は記録媒体を用いることもできる。
第2 送達場所と交付の方法
1 住所等,就業場所及び送達場所の届出
書類は,受送達者の住所,居所,営業所又は事務所で送達するのが原則である。これらの場所が知れないとき,又はその場所で送達するのに支障があるときは,雇用,委任その他の法律関係に基づく就業場所で送達できる(民訴法103条)。
当事者,法定代理人又は訴訟代理人は,日本国内の送達場所を受訴裁判所へ届け出なければならず,送達受取人を併せて届け出ることもできる。届出後は,原則として届出場所で送達する(民訴法104条)。
2 書記官送達と出会送達
裁判所書記官は,所属裁判所の事件について出頭した者に書類を交付できる。これに対し,国内に住所等を有することが明らかでない者には出会った場所で送達でき,国内住所等が明らかな者又は送達場所を届け出た者には,受領を拒まない場合に出会送達ができる(民訴法105条)。
郵便業務従事者が日本郵便の営業所で受送達者本人に交付する場合も,送達場所で本人に交付する場合と同様に処理される。本人に会えず,補充送達の要件を満たす者が郵便局窓口に出頭した場合には,民訴法106条1項後段による交付が問題となる。
3 補充送達と差置送達
就業場所以外の送達場所で本人に会えないときは,使用人その他の従業者又は同居者で,書類の受領について相当のわきまえがある者に交付できる(民訴法106条1項)。就業場所では,雇用主,その法定代理人又は従業者等が相当のわきまえを有し,受領を拒まない場合に限って補充送達ができる(同条2項)。就業場所で補充送達がされたときは,裁判所書記官がその旨を本人へ通知する(民事訴訟規則43条)。
本人又は住居所等にいる補充送達受領資格者が正当な理由なく受領を拒んだときは,書類を送達場所に差し置くことができる(民訴法106条3項)。もっとも,就業場所にいる雇用主や従業者等が受領を拒んだ場合には同項の差置送達はできないため,住居所等に宛てた付郵便送達を含む別の方法を検討することになる。
第3 法人に対する送達
1 代表者と送達場所
法人が当事者であるときは,法人の代表者が受送達者となる(民訴法37条及び99条)。代表者の住所等に加え,本人である法人の営業所又は事務所も送達場所になる(同法103条1項ただし書)。代表者が受送達者であることと,法人の本店,支店その他の営業所又は事務所が送達場所になることは,区別して理解する必要がある。
法人の営業所又は事務所で代表者本人に会えない場合でも,その場所で勤務し,書類の受領について相当のわきまえがある従業者等に交付すれば,補充送達が成立し得る。形式的な所属だけでなく,当該送達場所との関係,担当業務,年齢及び書類を名宛人へ渡すことを期待できる立場であるかを具体的に検討する。
2 支店の受付係への交付と企業の期限管理
最高裁判所第三小法廷昭和54年1月30日判決(昭和53年(オ)第923号,集民126号51頁)は,銀行支店宛ての債権差押命令等が同支店の受付係へ交付された時に送達の効力が生じ,その後に本店へ転送されても効力に影響しないとした事例である。この判断を,同一所在地にいる別法人の従業者や当該送達場所と無関係な者への交付まで常に有効とする一般論へ広げることはできない。
企業では,本店,支店又は営業所で特別送達を受け取った部門から,法務・総務部門及び訴訟担当者へ速やかに回付し,封筒,送達日及び受領者を記録する必要がある。本店の所管部署へ届いた日ではなく,支店等で適法に交付された日から手続期間が進行し得るためである。
第4 付郵便送達と住所等調査
1 要件と効力発生時期
民訴法106条の方法による送達ができず,かつ,同法109条の2のシステム送達もできない場合,裁判所書記官は,書留郵便等に付して書類を発送できる(民訴法107条)。実務上「付郵便送達」と呼ばれ,書類が現実に受領された時ではなく,発送した時に送達があったものとみなされる。裁判所書記官は,付郵便送達をした旨と発送時に効力が生じる旨を受送達者へ通知する(民事訴訟規則44条)。
「被告が訴状を受け取らない」ことだけで直ちに付郵便送達となるわけではない。住居所で本人又は補充送達受領資格者が正当な理由なく拒絶した場面では差置送達が可能であり,住所等で送達できず,就業場所の有無や同所での送達可能性も確認した上で,裁判所書記官が付郵便送達の相当性を判断する。執行官送達は有用な選択肢であるが,法律上の必須前置ではない。
2 住居所及び就業場所の調査
付郵便送達又は公示送達を申し立てる側は,係属裁判所の最新の上申書兼調査報告書と記載例を確認するのが出発点となる。一般には,①住民票及び戸籍の附票等の公簿,②表札及び郵便受け,③電気,ガス及び水道の使用状況,④建物の外観,カーテン,ベランダ及び車両等の状況,⑤管理人,管理会社又は近隣者からの聴取,⑥就業場所の有無を組み合わせる。
建物管理会社やライフライン事業者等が保有する情報について調査嘱託を申し立てられる場合はあるが,採否及び質問事項は裁判所の判断に委ねられる。必要な調査の範囲は裁判所,担当部,事件類型及びこれまでの送達結果によって異なるため,東京地方裁判所「民事訴訟手続の住所等調査の御案内」その他の係属裁判所の案内を確認すべきである。
第5 公示送達
1 公示送達を利用できる場合
当事者の住所,居所その他の送達場所が知れず,システム送達もできない場合,付郵便送達ができない場合,外国送達ができない場合等には,裁判所書記官が申立てにより公示送達をすることができる(民訴法110条1項)。同じ当事者に対する2回目以後の公示送達は,外国の管轄官庁へ嘱託後6か月を経過しても送達証明が届かない場合を除き,職権で行う(同条3項)。
公示送達は現実の受領を必要とせずに効力を生じるため,所在調査の結果が制度選択の前提となる。住所等調査が不足したまま進めると,被告の手続関与の機会を失わせ,再審その他の救済が問題となり得る。
2 オンライン公告と効力発生時期
現行法では,公示事項をインターネットで不特定多数の者が閲覧できる状態に置くとともに,裁判所の掲示場又は裁判所設置端末でも閲覧できる状態にする(民訴法111条,民事訴訟規則46条)。裁判所の「公示送達・公告」によれば,令和8年5月21日以後に申立て等があった事件は各裁判所のウェブページで公告され,同月20日以前の事件は従前どおり裁判所の掲示場で確認する。
公示送達は,原則として公告等の措置を開始した日から2週間の経過によって効力を生じる。外国においてすべき送達については6週間であり,同じ当事者に対する2回目以後の公示送達は原則として措置開始日の翌日に効力を生じる(民訴法112条)。
第6 出力書面による送達とシステム送達
1 二つの送達方法
送達対象が電磁的記録である場合,原則は,記録事項を出力して作成した書面による送達である(民訴法109条)。全面デジタル化後も,本人訴訟の被告に対する最初の訴状送達等では,出力書面による送達が基本となる。
これに対し,受送達者が所定の届出をしているときは,裁判所書記官が記録を閲覧又はダウンロードできる状態にし,届出済みの電子メールアドレスへ通知するシステム送達を利用できる(民訴法109条の2,民事訴訟規則45条の2から45条の4まで)。訴状送達前から被告に訴訟代理人が選任されている場合や,被告が包括的な届出をしている場合には,最初の訴状等もシステム送達となり得る。
2 効力が生じる時点
システム送達は,①受送達者が記録事項を閲覧した時,②受送達者の使用する端末のファイルへ記録した時,③通知が発せられた日から1週間を経過した時のうち,最も早い時に効力を生じる(民訴法109条の3第1項)。メールを実際に開いた時だけが送達時点になるわけではない。
受送達者の責めに帰することができない事由により閲覧又はダウンロードができなかった期間は,前記1週間へ算入しない(同条2項)。システム障害等があった場合には,発生時間,画面表示,裁判所への連絡及び復旧時刻を記録しておく必要がある。
3 届出義務者と無届出時の特例
委任を受けた訴訟代理人のうち許可代理人を除く者,国の訴訟に関する指定代理人及び地方公共団体から委任を受けた職員は,電子申立て等を行う義務を負い,システム送達を受ける旨を届け出なければならない(民訴法132条の11第1項及び2項)。
これらの者が届出をしていない場合でも,システム送達は可能であり,通知を発することを要しない。この場合,閲覧又はダウンロードが先に行われなければ,閲覧等を可能にする措置が取られた日から1週間の経過によって効力が生じる(民訴法109条の4)。
第7 送達の瑕疵と当事者の救済
1 補充送達の有効性と再審事由は別であること
最高裁判所第三小法廷平成19年3月20日決定(平成18年(許)第39号,民集61巻2号586頁)は,補充送達を受けた同居者等と受送達者との間に当該訴訟に関する事実上の利害対立があるだけでは,補充送達の効力は妨げられないとした。
もっとも,同決定は,その対立のため書類が速やかに交付されることを期待できず,実際にも交付されず,受送達者が訴訟を知らないまま判決がされた場合には,民訴法338条1項3号の再審事由があるとした。補充送達が形式的に有効かという問題と,当事者が現実に訴訟へ関与できなかった場合の救済は別の問題である。
2 誤った住所等調査と損害賠償
最高裁判所第一小法廷平成10年9月10日判決(平成5年(オ)第1211号,集民189号743頁)は,前訴原告が必要な調査を尽くさず,被告の就業場所が不明であると誤って回答したため,付郵便送達を受けた被告が手続に関与しないまま判決が確定した事案を扱った。
同判決は,当該事実関係の下で,確定判決に基づいて支払った金員の損害賠償請求は許されない一方,第一審の手続へ関与する機会を奪われた精神的苦痛についての慰謝料請求は,前訴判決の既判力と実質的に矛盾しないとした。送達の有効性,確定判決の効力,再審及び損害賠償は,それぞれの要件に従って検討する必要がある。
第8 銀行口座情報しか分からない相手への訴え
1 名古屋高裁金沢支部平成16年決定
名古屋高裁金沢支部平成16年12月28日決定(平成16年(ラ)第99号,基本事件は富山地裁平成16年(ワ)第315号,公刊物未掲載,裁判所HP未掲載,判例体系により全文確認)は,口座名義の片仮名氏名と口座情報しか判明しない事案で,直ちに訴状を却下することは許されないとした。
同事案では,原告が提訴前に弁護士会照会等によって警察署及び銀行へ照会したものの協力を得られず,訴え提起と同時に銀行への調査嘱託を申し立てていた。この経過から,住所及び漢字氏名が判明して訴状を補正できることが予想され,原告が被告特定のために可能な努力を尽くした例外的な場合であると評価された。
2 決定の射程と調査嘱託
この決定は,口座番号と片仮名名義を記載すれば常に訴えを提起できるとするものではない。提訴前に利用可能な調査を行ったこと,提訴時に具体的な調査嘱託を申し立てたこと,回答によって被告の表示を補正できる見込みがあったことが判断の前提である。
調査嘱託の採否と照会事項は裁判所が判断し,銀行その他の照会先が必ず回答するとは限らない。被告を特定するための新たな一般的調査制度は研究会で検討されているが,現行民訴法上の一般制度として成立したことは確認できない。
第9 送達を要しない例外
最高裁判所第三小法廷平成8年5月28日判決(平成7年(行ツ)第67号,集民179号95頁)は,不適法であることが明らかで,当事者の訴訟活動によって適法になることが全く期待できない訴えを,口頭弁論を経ずに却下する場合等には,被告とされた者へ訴状,控訴状又は判決正本を送達する必要がないとした。
これは,補正や当事者の訴訟活動によって適法となる可能性が全くない場合に限られた例外である。通常の事件について,被告の応訴が見込めないことや住所調査に手間を要することを理由に,送達を省略できるものではない。
第10 判決・和解調書,外国送達及び関連資料
1 判決と和解・放棄・認諾調書
電子判決書又は判決内容を記録した所定の電子調書は,当事者に送達しなければならず,裁判所書記官が内容の同一性を証明した出力書面又はシステム送達によって行う(民訴法255条)。これに対し,和解調書,放棄調書及び認諾調書には,判決と同じ職権送達の規定がないため,期日に口頭で,又は期日後に書面で送達を申し立てる実務がある。
民事執行法29条により,強制執行は,債務名義等があらかじめ又は同時に債務者へ送達された場合に限って開始できる。和解等に基づく執行を予定するときは,調書の送達申請と送達証明の取得を確認する必要がある。
2 外国送達
外国における送達は,裁判長が外国の管轄官庁又はその国に駐在する日本の大使,公使若しくは領事へ嘱託して行う(民訴法108条)。条約,外交経路,翻訳及び国ごとの取扱いが関係するため,詳細は「外国送達」で整理している。法人代表者その他の受送達者については,「訴訟能力,訴状等の受送達者,審判前の保全処分及び特別代理人」も参照されたい。
3 送達実務に関する裁判所事務連絡
送達又は送達事務の誤りに関係する資料として,次の事務連絡を掲載している。
①「更正決定等に伴い国費を支出する場合の基本的な考え方等について(令和3年7月28日付の最高裁判所総務局第一課長等の事務連絡)」
②「書記官等の事務処理の誤りに伴い国費を支出する場合の基本的な考え方等について(平成31年4月16日付の最高裁判所経理局の事務連絡)」
③「特別送達における郵便業務従事者への注意喚起の方法について(平成28年3月22日付の最高裁判所事務総局総務局第三課長の事務連絡)」
④「特別送達及び回送嘱託における郵便物の取扱い等について(平成28年3月22日付の最高裁判所事務総局総務局第三課課長補佐及び民事局第三課課長補佐の事務連絡)」
裁判所における送達関係文書の管理については,「裁判文書の文書管理に関する規程及び通達」に関係資料を掲載している。
第11 出典・参考資料
1 法令・規則
①民事訴訟法(平成8年法律第109号)37条,98条から112条まで,132条の11,255条及び338条(e-Gov法令検索)
②郵便法(昭和22年法律第165号)49条(e-Gov法令検索)
③民事執行法(昭和54年法律第4号)29条(e-Gov法令検索)
④最高裁判所「民事訴訟規則」43条から46条まで(裁判所ウェブサイト掲載の改正後規則,資料13頁~14頁,PDF13頁~14頁)
2 裁判例
①最高裁判所第三小法廷昭和54年1月30日判決(昭和53年(オ)第923号,集民126号51頁,裁判所ウェブサイト)
②最高裁判所第三小法廷平成19年3月20日決定(平成18年(許)第39号,民集61巻2号586頁,裁判所ウェブサイト)
③最高裁判所第一小法廷平成10年9月10日判決(平成5年(オ)第1211号,集民189号743頁,裁判所ウェブサイト)
④最高裁判所第三小法廷平成8年5月28日判決(平成7年(行ツ)第67号,集民179号95頁,裁判所ウェブサイト)
⑤名古屋高等裁判所金沢支部平成16年12月28日決定(平成16年(ラ)第99号,基本事件・富山地方裁判所平成16年(ワ)第315号,公刊物未掲載,裁判所HP未掲載,判例体系により全文確認)
3 裁判所その他の公的資料
①裁判所「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」
②裁判所「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引」4頁~5頁(PDF4頁~5頁)
③裁判所「公示送達・公告」
④東京地方裁判所「民事訴訟手続の住所等調査の御案内」
⑤商事法務「証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会・資料25」12頁(PDF11頁)
4 文献及びウェブ資料
①裁判所職員総合研修所監修・山崎正彦・土田林太郎『民事訴訟関係書類の送達実務の研究―新訂―』(司法協会,2006年)125頁,231頁
②秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ〔第3版〕』(日本評論社,2022年)390頁~391頁,418頁,430頁,432頁
③山本弘『民事訴訟法・倒産法の研究』(有斐閣,2019年)339頁~357頁
④荒井哲朗ほか『改訂Q&A投資取引被害救済の実務』(日本加除出版,2015年)13頁
⑤川嶋四郎監修・山本真『パラリーガルの実務感覚から学ぶ民事訴訟・執行・保全』(日本評論社,2023年)121頁
⑥大坪和敏「民事訴訟のデジタル化の実務―訴状提出からウェブ尋問まではどう変わるか」『ビジネス法務』2026年6月号(中央経済社)81頁~84頁
⑦福谷賢典「訴状が送られてきた場合どのように対応すればよいか」(BUSINESS LAWYERS,2017年11月1日)
⑧福谷賢典「相手方が行方不明の場合の訴えの提起」(BUSINESS LAWYERS,2017年9月25日)