第1 実務修習地は自由に選べるか
1 希望順位と配属は同じではないこと
実務修習地は,希望を記載した本人が自由に決定できるものではない。
司法修習生に関する規則5条3項は,実務修習の時期及び場所を司法研修所長が定めるとしており,第79期の令和7年度司法修習生採用選考申込手続の手引きも,分野別実務修習及び選択型実務修習を「指定された実務修習地」で行うと説明している。
司法研修所が過去に使用した実務修習希望地調査の案内では,希望地の記載は実務修習地を決める際の参考とされ,希望どおりの配属は保証されていなかった。
希望地の選択規則,記載できる希望数及び事情欄は期によって変更され得るため,「司法修習の希望場所の記載方法」に掲載された旧様式を,そのまま第79期以降の様式として使用することはできない。
2 公表資料から確認できる配属事情の範囲
第193回国会衆議院法務委員会平成29年3月22日会議録では,当時の最高裁判所事務総局人事局長が,希望を基本として,健康状態,家族状況の切実度等を考慮して決めている旨を説明している。
同答弁は平成29年当時の運用説明であり,第79期の配属基準,事情間の優先順位又は配点を示すものではない。
現在公表されている第79期の手引からは,実務修習地ごとの定員,申込者数,具体的な配属計算又は事情ごとの優先順位を確認できない。
したがって,特定の事情があれば必ず希望地へ配属される,あるいは特定の希望順位の書き方をすれば配属可能性が上がるとは断定できない。
第2 希望順位を決めるための比較事項
1 先に固定すべき生活上の条件
本記事では,希望順位を考える前に,①転居できない事情,②同居家族,育児及び介護,③継続的な通院,④住居費及び二重家賃,⑤自動車の要否,⑥各修習機関までの通勤時間を確認する方法を基本形とする。
これらは公表された一律の配属基準を列挙するものではなく,本人が約1年間の修習を継続できる場所を比較するための確認事項である。
健康又は家族に関する事情を申告する場合は,実際に使用する期の案内に従い,事情の内容,必要な修習地及び他の修習地では支障が生じる理由を正確に記載することになる。
診断書その他の資料が必要かどうかは,過去の体験談ではなく,当該期の申込画面,案内又は司法研修所からの個別連絡で確認すべきである。
2 住居・交通と修習日程
第79期の手引によれば,指定された実務修習地における住居は各自で確保する。
同手引が示す第79期の日程では,令和8年3月19日から4月10日までが導入修習,4月14日から11月20日までが分野別実務修習であり,その後の集合修習と選択型実務修習の順序は実務修習地によって異なる。
住居を比べるときは,裁判所だけでなく,検察庁,弁護士会及び弁護修習先への移動も考える必要がある。
各地の所在地・交通・気象等は,「各地の修習情報」にある地域別記事で確認できる。
3 修習内容と就職活動
実務修習地の規模は,配属人数,取扱事件及び選択型実務修習のプログラムに関係し得るが,公表資料だけから教育効果の優劣を順位付けすることはできない。
小規模地又は大都市を一律に推奨せず,希望する進路,既に決まっている就職先,移動費及び面接方法を本人ごとに比較する必要がある。
就職活動に利用できる公開情報は,「司法修習生の就職関係情報等が載ってあるHP及びブログ」に整理している。
過去の修習生の体験談は検討のきっかけにはなるが,現在の配属基準又は各地の一般的評価を示す資料ではない。
第3 配属人数・希望倍率・配属確率の違い
1 司法修習生配属現員表が示す人数
「司法修習生配属現員表(48期以降)」は,各資料の基準日に,各実務修習地へ配属されていた司法修習生の人数を確認する資料である。
本記事で確認できた新しい資料の一つは,令和7年3月19日現在の第78期司法修習生配属現員表である。
同表によれば,令和7年3月19日現在,第78期の配属現員は全国51の実務修習地に合計1556人であり,各実務修習地の人数は次のとおりである。
| 実務修習地 | 第78期配属現員 |
|---|---|
| 東京 | 229人 |
| 立川 | 22人 |
| 横浜 | 85人 |
| さいたま | 64人 |
| 千葉 | 66人 |
| 水戸 | 22人 |
| 宇都宮 | 20人 |
| 前橋 | 22人 |
| 静岡 | 22人 |
| 甲府 | 10人 |
| 長野 | 16人 |
| 新潟 | 18人 |
| 大阪 | 153人 |
| 京都 | 64人 |
| 神戸 | 63人 |
| 奈良 | 14人 |
| 大津 | 15人 |
| 和歌山 | 14人 |
| 名古屋 | 74人 |
| 津 | 18人 |
| 岐阜 | 18人 |
| 福井 | 7人 |
| 金沢 | 16人 |
| 富山 | 7人 |
| 広島 | 47人 |
| 山口 | 12人 |
| 岡山 | 35人 |
| 鳥取 | 7人 |
| 松江 | 7人 |
| 福岡 | 71人 |
| 佐賀 | 6人 |
| 長崎 | 14人 |
| 大分 | 16人 |
| 熊本 | 23人 |
| 鹿児島 | 18人 |
| 宮崎 | 11人 |
| 那覇 | 21人 |
| 仙台 | 42人 |
| 福島 | 13人 |
| 山形 | 8人 |
| 盛岡 | 8人 |
| 秋田 | 7人 |
| 青森 | 7人 |
| 札幌 | 46人 |
| 函館 | 6人 |
| 旭川 | 6人 |
| 釧路 | 6人 |
| 高松 | 22人 |
| 徳島 | 10人 |
| 高知 | 9人 |
| 松山 | 19人 |
| 合計 | 1556人 |
配属現員は,その期の採用者総数,修習地の募集定員又は希望者数とは異なる。
配属現員表だけを用いて,希望倍率又は本人が配属される確率を計算することはできない。
2 旧期の希望倍率
希望倍率を確認できる資料として,「司法修習の場所ごとの第1希望の倍率の推移表(新63期から69期まで)」及び「第2希望までの倍率の推移表(新63期から69期まで)」がある。
これらは,司法研修所が作成した新63期から69期までの実務修習希望地調査書・調査表と各期の配属人数を基礎として,本ブログが算出した過去の比率である。第1希望の倍率は「第1希望者数÷配属人数」,第2希望までの倍率は「(第1希望者数+第2希望者数)÷配属人数」を小数第3位で四捨五入した数値である。
平成29年度(最情)答申第1号は,第69期までは実務修習地を決定する際の参考資料として利用する場合もあるため調査表を作成していたが,実際の利用状況と事務処理の合理化を踏まえ,第70期については調査表を作成しなかったと説明している。
さらに,第78期の不開示通知書及び第79期の不開示通知書は,各期の実務修習希望地調査表を作成又は取得していないことを理由としている。
そのため,旧期の倍率を第79期の応募倍率として表示したり,配属現員を分母として現在の倍率を作ったりすることは適切でない。
3 数値を利用するときの区別
①配属現員は,資料の基準日に各地へ配属されていた人数である。
②採用者数は,当該期に採用された司法修習生の総数であり,個々の修習地の定員ではない。
③希望倍率は,希望順位別人数と比較対象となる配属人数がそろう旧期について算出された指標である。
④配属確率は,公表資料だけからは算出できない。
人数の長期推移は,「司法修習の場所ごとの司法修習生の人数の推移表(10期から71期まで)」で確認できる。
旧期の数値は修習地の規模と推移を知る資料にはなるが,将来の配属を保証するものではない。
第4 住居・引越し・給付金
1 住居を確保する順序
第79期の手引が住居を各自で確保するとしていることから,配属通知後は,入居可能日,契約期間,短期解約条項,更新料,家具・家電及び通勤手段を確認することになる。
配属前に特定物件の賃貸借契約を確定する場合は,希望どおりに配属されない可能性と,解約時の負担を考慮する必要がある。
導入修習と集合修習は司法研修所で行われるため,実務修習地だけを基準として年間の移動を考えることはできない。
「司法修習等の日程(70期以降)」及び「司法修習の場所とクラスの対応関係(67期以降)」で,当該期の順序を確認する必要がある。
2 住居給付金
最高裁判所「司法修習生の修習給付金について」によれば,住居給付金には所定の要件と届出がある。
第79期の修習給付金案内は,住居届(新規)の届出期限を,要件を具備した日から初日を算入せず7日以内としている。
同案内は,期限後の届出では原則として修習給付金を支給できないと明記している。
契約書の名義,自己居住,家賃負担その他の要件を案内本文で確認し,物件を借りたことだけで支給されると考えないことが必要である。
3 移転給付金と引越し
最高裁判所の制度説明によれば,移転給付金は,修習に伴い住所又は居所を移転する必要が認められ,所定の届出をした場合に,路程に応じた定額を支給する制度である。
実際の引越費用を当然に全額補填する制度ではない。
第79期案内は,各修習の開始に伴って転居した場合の移転届について,移転を伴う各修習開始の日から初日を算入せず7日以内を届出期限としている。
導入修習,分野別実務修習,集合修習又は選択型実務修習のどの開始に伴う移転かを確認し,最新期の案内に従って届け出る必要がある。
第5 全国の実務修習地と関連記事
1 各地の修習情報
全国の実務修習地については,「各地の修習情報(都道府県・都市別の記事一覧)」から各地域の記事へ進むことができる。
地域別記事では,公表資料から確認できる範囲で,配属人数,修習日程,修習機関,交通,気象,住居及び生活環境を整理している。
特定の地域を比較するときは,同じ時点・同じ資料区分の数字を用いる必要がある。
配属人数の基準日が異なる資料,旧期の希望倍率及び現在の交通情報を一つのランキングに混在させるべきではない。
2 希望地・人数・日程を調べる記事
①希望の記載方法は,「司法修習の希望場所の記載方法」で整理している。
②第2希望を検討する際の過去資料は,「第2希望の実務修習地の選び方」に掲載している。
③配属についての過去の公的説明は,「実務修習地の決定方法等に関する国会答弁」で確認できる。
④司法修習全体の採用要件,1年間の流れ及び修習内容は,「司法修習とは」で説明している。
⑤司法試験合格後から司法修習開始までの手続と期限は,「司法試験合格後から司法修習開始まで―採用申込み,実務修習地,住居・社会保険及び就職活動の期限」で整理している。
第6 過去の人数・倍率・情報公開資料
1 過去の希望地調査表
司法研修所が作成した「実務修習希望地順位調査表等(人気調査)(56期から69期まで)」は,各期の希望順位別人数を調べるための歴史資料である。
同資料に基づく69期以前の倍率は,当時の希望状況を示すが,現在の申込者数又は配属基準を示さない。
第70期及び第72期から第74期までについて希望順位別資料が確認できないことは,それらの期に希望を聴取しなかったこと,又は希望を考慮しなかったことを当然に意味しない。
情報公開資料から確認できるのは,開示請求の対象として整理された文書の作成・取得又は保有の有無である。
2 第72期の配属決定文書
令和元年8月23日付の答申書及び「第72期司法修習生採用選考申込者の実務修習地,組,出席番号及び修習班について」は,第72期について作成された決裁文書等を確認する資料である。
これは第72期の文書管理・情報公開に関する資料であり,第79期の個別配属計算を説明するものではない。
第7 出典・参考資料
1 最高裁判所規則・年度別手続資料
①最高裁判所「司法修習生に関する規則」(昭和23年最高裁判所規則第15号。最終改正は令和7年2月12日最高裁判所規則第3号)5条3項(国立国会図書館「日本法令索引」で効力・改正沿革を確認)
②最高裁判所「令和7年度司法修習生採用選考申込手続の手引き」2頁
③司法研修所事務局「修習給付金案内(第79期)」表紙,1頁,6頁~7頁及び16頁~17頁
2 国会会議録・公文書・統計
①衆議院「第193回国会法務委員会第5号」平成29年3月22日会議録
②司法研修所作成「司法修習生配属現員表(令和7年3月19日現在)」及び本ブログ「司法修習生配属現員表(48期以降)」
③司法研修所作成の実務修習希望地調査書・調査表を収録した本ブログ「実務修習希望地順位調査表等(人気調査)(56期から69期まで)」
④山中理司作成「司法修習の場所ごとの第1希望の倍率の推移表(新63期から69期まで)」及び「司法修習の場所ごとの第2希望までの倍率の推移表(新63期から69期まで)」(前項の調査表等及び配属人数を基礎とする二次的集計表)
⑤最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会「平成29年度(最情)答申第1号」平成29年4月28日
⑥最高裁判所事務総長「第78期司法修習予定者の実務修習希望地調査表に関する司法行政文書不開示通知書」令和8年1月19日付け最高裁秘書第3778号
⑦最高裁判所事務総長「第79期司法修習予定者の実務修習希望地調査表に関する司法行政文書不開示通知書」令和8年3月18日付け最高裁秘書第782号
⑧最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会「令和元年度(最情)答申第40号」令和元年8月23日