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所有権留保の新しいルール―譲渡担保法109条~111条の対抗要件,留保所有権の実行と売買契約の解除,倒産解除特約と附則16条(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,代金を完済するまで売った物の所有権を売主や信販会社に残しておく所有権留保について,令和7年に成立した「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(令和7年法律第56号。以下「譲渡担保法」という。)が定めるルールを整理する。
対象は,機械・在庫・自動車などを所有権留保付きで売る売主,代金を立て替えて所有権の留保を受ける信販会社等,留保付きで買う事業者と,その倒産事件に関わる者である。

譲渡担保法の条文は,令和8年9月29日にe-Gov法令検索で取得した未施行の条文と,法務省が掲載している法律の本文で確認した。
立法の経緯は,法制審議会担保法制部会の部会資料・議事録,法務省民事局参事官室「担保法制の見直しに関する中間試案の補足説明」(令和5年1月)及び国会の会議録で確認した。
最高裁判例は裁判所ウェブサイトで確認した。

譲渡担保法は,附則1条により,一部の規定を除き,公布の日(令和7年6月6日)から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。
令和8年9月29日の時点では,施行日を定める政令はe-Gov法令検索では確認できなかった。
施行されるまでは,所有権留保は現行の判例法理によって処理される。

2 結論

①譲渡担保法の所有権留保契約には,売主が自ら所有権を留保する型(2条16号イ)と,信販会社等の第三者が代金を支払って所有権を留保する型(同号ロ)がある。
目的物は動産であり,登録自動車も含まれる。

②所有権留保は,原則として引渡し(登記・登録が対抗要件となる動産では,留保売主等を所有者とする登記・登録)がなければ第三者に対抗できない(109条1項)。
ただし,代金の支払債務やその立替払による償還債務だけを担保する所有権留保は,引渡しがなくても対抗できる(同条2項)。
他の債務も担保する「拡大された所有権留保」は,動産譲渡担保と同じく対抗要件が必要になる。

③所有権留保には,動産譲渡担保の規定が広く準用される(111条1項)。
留保所有権を実行するときは,帰属清算・処分清算の通知,見積価額,2週間の猶予,清算金の支払といった動産譲渡担保の実行のルールに従う。

④他方,法務省の中間試案の補足説明は,留保所有権の実行と売買契約の解除を「異なる制度として併存させる」ことを前提に,両者の関係について規定を置かないとしている。
売主は,代金の不履行があれば,実行と解除のどちらを選ぶこともできる。
解除なら清算金は要らないが受け取った代金を返すことになり,実行なら代金は返さないが清算金が生じることがある。

⑤留保買主について再生手続・更生手続の申立て又はその開始の原因となる事実が生じたことを解除事由とする特約は,無効になる(110条)。
ただし,対象は売主が自ら留保する型(2条16号イ)に限られ,破産手続開始の申立てを理由とする特約は対象になっていない。

⑥110条は,施行日前にされた特約には適用されない(附則16条)。
施行前に結んだ契約の倒産解除特約は,施行後も,最高裁昭和57年3月30日判決等の判例により個別に効力が判断される。

⑦自動車の所有権留保では,留保売主等を所有者とする登録が対抗要件であり,代金債務だけを担保する場合でも,登録なしで対抗できる特例は使えない。

第2 所有権留保契約の範囲

1 売主が留保する型と第三者が留保する型

譲渡担保法2条16号は,所有権留保契約を次の2つの型に分けて定義している。
①イ 動産の所有権を移転する売買等の契約で,代金の支払債務その他の金銭債務を担保するため,その全部の履行がされるまで,所有権を移転すべき者(売主)に留保する旨の定めのあるもの
②ロ 買主が第三者に売主への代金の支払を委託し,第三者がその支払をしたときに,償還債務その他の金銭債務の担保として第三者に所有権を取得させることを約する契約で,その全部の履行がされるまで所有権を第三者に留保する旨の定めのあるもの

ロは,信販会社が販売店に代金を立替払し,自動車等の所有権を信販会社に留保する三者間の取引を想定した型である。
留保所有権を有する者を「留保売主等」(同条19号),所有権の移転を受ける者を「留保買主等」(同条20号)という。

2 対象は動産(登録自動車を含む)

所有権留保契約の目的は動産である。
2条16号イの括弧書きは,抵当権の目的とすることができるものを動産から除きつつ,農業用動産と登録自動車(2条1号イ⑴⑵)はその除外から外している。
したがって,登録自動車の所有権留保は譲渡担保法の対象になる。
不動産の所有権留保は対象外である。

第3 対抗要件(109条)

1 原則は引渡し

譲渡担保法109条1項は,「所有権留保契約に基づく動産の所有権の留保は、所有権留保動産の留保買主等から留保売主等への引渡し(登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産にあっては、留保売主等を所有者とする登記又は登録)がなければ、第三者に対抗することができない。」と定める。
留保買主が目的物を使い続ける以上,この「引渡し」は通常,占有改定(民法183条)である。

2 代金債務等だけを担保する場合(109条2項)

同条2項は,次の債務(その利息,違約金,留保所有権の実行の費用及び損害賠償を含む。)のみを担保するために締結された所有権留保契約に基づく所有権の留保は,「所有権留保動産(登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産を除く。以下この項において同じ。)の引渡しがなくても、第三者に対抗することができる。」と定める。
①2条16号イの所有権留保契約における代金の支払債務
②2条16号ロの所有権留保契約における償還債務(代金の支払債務を履行したことによって生ずるものに限る。)

担保法制部会資料46(70頁)は,この規律が二者間・第三者のいずれの所有権留保も引渡しなしで対抗できるとするもので,「平成30年最判(最判平成30年12月7日)の結論を維持するものである」と説明している。
国会では,政府参考人(竹内努法務省民事局長)が,判例上,目的物と牽連性のある金銭債務のみを担保する所有権留保の売主は対抗要件なしで第三者に対抗できるとされていると述べ,その根拠を,売主が信用を供与したことによって目的の動産が設定者の財産を構成するに至ったという関係から,その売主が他の債権者に優先して弁済を受けることが実質的公平にかなうことなどに求めている(第217回国会参議院法務委員会第13号,令和7年5月29日)。

3 拡大された所有権留保

代金以外の債務(他の売買の代金,貸付金等)も担保する所有権留保は,109条2項の対象にならず,同条1項の原則に戻る。
担保法制部会資料37-3(7頁)は,「拡大された留保所有権は、目的物と必ずしも牽連性のない被担保債権を担保するものであり、実質は動産譲渡担保と異ならない。」とし,形式的に所有権が移転していないことを理由に他の担保権に優先させれば留保所有権者が不当に利益を得るとして,対抗要件の要否でも動産譲渡担保権と同様に扱うと説明している。

継続的な取引で,その取引から生じる一切の債務の完済まで所有権を留保すると定める条項は,この拡大された所有権留保に当たり得る。
施行後は,占有改定で対抗要件を備えた拡大された所有権留保は,後から登記等で対抗要件を備えた担保権者に劣後する(後記第4の2)。

4 所有権留保登記と附則5条2項

整備法(令和7年法律第57号)による改正後の「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(以下「特例法」という。)13条の2は,所有権留保登記の制度を設けた。
ただし,対象は法人を留保買主等とする所有権留保契約に限られる。

施行日前に占有改定で対抗要件を備えた留保所有権は,施行日から起算して2年を経過する日までの間に,「この項の適用を受ける所有権留保である旨」を登記原因として記録した所有権留保登記がされれば,占有改定劣後ルール等の適用について,当初の引渡しの時に占有改定以外の方法で対抗要件を備えたものとみなされる(附則5条2項)。
第51回担保法制部会の議事録(17頁)では,事務当局が,動産譲渡登記は施行日前でも備えられるのに対し,「所有権留保については施行日後しか登記を備えることができませんので、施行日前にあらかじめ登記を備えておくということはできない点が異なります。」と説明している。
動産譲渡担保の順位保全の登記については,在庫・機械を担保に取るときの占有改定劣後ルールと順位保全の登記で扱っている。

第4 他の担保権との競合

1 動産譲渡担保権と留保所有権の競合(111条3項)

譲渡担保法111条3項は,「同一の動産について動産譲渡担保権と留保所有権とが競合する場合においては、これを同一の動産について数個の動産譲渡担保権が互いに競合する場合とみなして」,順位(32条),占有改定劣後ルール(36条1項),牽連性のある金銭債務の優先(37条)等の規定を適用すると定める。
同じ在庫に,仕入先の所有権留保と,金融機関の集合動産譲渡担保が重なる場面が典型である。

最高裁平成30年12月7日第二小法廷判決(平成29年(受)第1124号,民集72巻6号1044頁)は,売主が代金の完済まで所有権を留保して納入した金属スクラップ等について,買主の在庫に集合動産譲渡担保権の設定を受けた者は売主に譲渡担保権を主張することができないとした。
法制審議会では,同判決を踏まえて狭義の所有権留保では留保所有権と他の担保権との競合が生じないとする案も示されたが(担保法制部会資料37-3,2頁),部会では競合が生ずることを前提とした規律とすべきという意見が大半を占め(同42,62頁),競合が生じることを前提に優劣を定める規律が採られた。
国会でも,政府参考人(竹内努法務省民事局長)が,留保所有権と集合動産譲渡担保権とが競合し得ることを前提に優劣関係を定めており,その動産の代金債務を担保する留保所有権はその限度で集合動産譲渡担保権を含む他の担保権に優先する旨を答弁している(第217回国会衆議院法務委員会第16号,令和7年5月21日)。

2 代金債務だけを担保する留保所有権の優先と,拡大された所有権留保の劣後

111条1項の読替えにより,代金債務等だけを担保する所有権留保(109条2項)については,留保の時に占有改定以外の方法で引渡しがあったものとみなされ(31条2項の読替え),その債務を担保する限度で,競合する他の動産譲渡担保権等に優先する(37条の読替え)。
ただし,37条ただし書の場合(他の担保権者が先に占有改定以外の方法で引渡しを受けていた場合等)は除かれる。

これに対し,拡大された所有権留保を占有改定で対抗要件を備えたにとどまる場合には,占有改定劣後ルール(36条1項)が及び,後から登記等で対抗要件を備えた動産譲渡担保権等に劣後する。
仕入先が拡大された所有権留保で与信を守ろうとしても,買主(法人)の在庫について金融機関が動産譲渡登記を備えると,その金融機関に負けることになる。
代金債務だけを担保する条項に改めるか,所有権留保登記を備えるかを検討することになる。

3 留保買主による処分と重ねての担保設定

111条1項により,6条(設定者はその権利を第三者に譲渡することができる)と7条(譲渡担保財産は重ねて譲渡担保契約の目的とすることができる)も留保所有権に準用される。
したがって,留保買主等は,留保所有権の負担が付いた権利を譲渡し,目的物を後順位の担保に供することができることになる。
他方,5条(担保権者は実行手続によらなければ譲渡担保財産を譲渡することができない)も準用される。

第5 留保所有権の実行と売買契約の解除

1 現行法(判例)

最高裁昭和57年3月30日第三小法廷判決(昭和53年(オ)第319号,民集36巻3号484頁)は,判決理由の中で,「動産の売買において代金完済まで目的物の所有権を売主に留保することを約したうえこれを買主に引き渡した場合においても、買主の代金債務の不履行があれば、売主は通常これを理由として売買契約を解除し目的物の返還を請求することを妨げられない」と述べている。

他方,最高裁昭和46年1月26日第三小法廷判決(昭和45年(オ)第885号,民集25巻1号126頁)の裁判要旨は,所有権留保の特約を付して自動車を代金月賦払で売り渡した者は,特段の事情のない限り,「販売代金債権の確保のためにだけ所有権を留保するものにすぎず」,自動車を買主に引き渡しその使用に委ねた以上,自動車損害賠償保障法3条の運行供用者に当たらないとまとめている。
最高裁平成21年3月10日第三小法廷判決(平成20年(受)第422号,民集63巻3号385頁)も,判決理由の中で,立替払をした者の留保所有権は,原則として,残債務の弁済期が到来するまでは「当該動産の交換価値を把握するにとどまる」としている。
判例は,留保所有権の担保としての性質を認めてきた。

2 施行後の実行の方法

譲渡担保法111条1項は,動産譲渡担保の実行に関する規定を留保所有権に準用する。
したがって,留保売主等が担保として目的物を取得し,又は第三者に売却する場合には,次のルールに従う。
①帰属清算の通知(目的物を被担保債権の弁済に充てること,見積価額とその算定根拠,被担保債権の額)をする(60条1項)。
②見積価額は合理的な方法により算出しなければならない(同条2項)。
③被担保債権は,通知の日から2週間を経過した時か,目的物の現実の引渡しを受けた時のいずれか早い時に消滅する(同条1項)。
④目的物の価額が被担保債権の額を超えるときは,清算金を支払わなければならない(同条4項)。
⑤処分清算(第三者への売却)による場合も同様の通知が必要である(61条)。
⑥実行のための保全処分や引渡命令(75条・76条)を申し立てることができる。

担保法制部会資料31(13頁)は,留保所有権の実行について動産譲渡担保権の実行に関する規定を準用することとし,中間試案から「実質的な変更はない」と説明している。
動産譲渡担保の実行の手順は,動産譲渡担保の私的実行の新しいルールで扱っている。

3 解除との併存

譲渡担保法には,留保売主が売買契約を解除することを制限する規定はない。
中間試案の補足説明(124頁)は,目的物の所有権が売主に留保されているとしても,「売買代金債務の不履行があった場合に民法第541条等に基づく解除が許されないものとする根拠を説明することは容易でないように思われる。」とし,売買契約の解除を認めないことは契約当事者の合理的意思にも反すると述べた上で,「本文では、所有権留保売買においては留保所有権の実行と売買契約の解除を異なる制度として併存させることを前提として、所有権留保売買による留保所有権の実行と売買契約の解除の関係については特段の規定を置かないこととしている。」と説明している。
同頁は,この考え方によれば,所有権留保売主は,代金の不履行があった場合に実行と解除のいずれを選択することもでき,解除した場合には,目的物の返還を請求できる一方で,「受領済みの代金の返還義務を負うこととなる。」としている。
担保法制部会資料31(13頁)も,中間試案が実行と解除を「異なる制度として併存させることを前提として」いたことを確認した上で,実行の規律に実質的な変更はないとしている。

4 実行と解除の比較

中間試案の補足説明(124頁~125頁)が挙げる違いは,次のとおりである。

項目留保所有権の実行売買契約の解除
受け取った代金返さない(清算金が生じない限り支払は不要)原状回復として返す
目的物の価額が上がった場合被担保債権を超える部分は清算金として支払う清算金は生じない
根拠譲渡担保法111条1項(60条・61条の準用)民法541条等
倒産手続別除権等として規律される解除による返還請求が制約される可能性がある

倒産手続について,同補足説明(124頁)は,破産管財人が民法545条1項ただし書の第三者に当たるとすれば,売主は解除しても目的物の返還を請求することができず,再生手続でも同様の解釈を採り得ると指摘している。
また,同補足説明(141頁)は,中止命令との関係で,「通常の売買契約の解除が中止命令の対象とならない以上、所有権留保売買の解除を中止命令の対象としないのが相当であると考えられる」としている。

2週間の猶予(60条1項)は,条文上,帰属清算・処分清算による実行についての規律であり,譲渡担保法は売買契約の解除について同様の規律を置いていない。
損害賠償や使用利益を除いて単純化すると,実行では売主の手元に売買代金の額(既払額と,清算後の目的物の価値)が残り,解除では目的物の価値が残る(既払額は返す)。
したがって,目的物の価額が売買代金を下回っていれば実行の方が,上回っていれば(値上がりしていれば)解除の方が,売主にとって有利になり得ると考えられる。

5 引渡命令を使った後の解除

担保法制部会資料49(42頁)は,実行のための保全処分・引渡命令を使った後に売買契約を解除することについて,私的実行と解除を別個の制度として併存させている以上,一定の法的手続をとったことが解除権の喪失に結び付くとは説明し難いとする。
一方で,同頁は,「当初から売買契約を解除することを意図していたにもかかわらずこれを秘して引渡命令を得て」引渡しを受けたような場合には,留保買主等に対する不法行為が成立し得るとしている。
実行の制度を使うなら,初めから実行として進めるべきである。

第6 倒産手続での扱い

1 別除権・更生担保権と中止命令

111条1項は,倒産手続での扱いを定めた第2章第3節(97条~108条)を準用から除いていない。
留保所有権は,破産手続・再生手続では質権と同様の担保権(別除権)として,更生手続では更生担保権として扱われ(97条),再生手続等で担保権の実行手続の中止命令の対象となる(97条3項・4項の準用)。
在庫をまとめて所有権留保の目的とする集合動産所有権留保には,開始決定による固定(106条),再生・更生の申立て等を処分権の消滅事由とする特約の無効(105条)及び取消命令(99条・101条)も準用される。

2 倒産解除特約の無効(110条)

譲渡担保法110条は,次の場合に所有権留保契約(2条16号イに規定するものに限る。)が解除される旨の特約,又はこれらの場合に該当することを理由として留保売主等に解除権を与える特約を,無効とする。
①留保買主等について再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てがあったとき
②留保買主等に再生手続開始の原因となる事実又は更生手続開始の原因となる事実が生じたとき

担保法制部会資料32(15頁)は,最高裁昭和57年3月30日判決が,買主に更生手続開始の申立ての原因となるべき事実が生じたことを売買契約の解除事由とする特約を無効としていることを挙げ,開始の原因となる事実が生じたことを解除事由等とする特約も無効とすべきと説明している(②)。
中間試案の補足説明(154頁)は,最高裁昭和57年3月30日判決とフルペイアウト方式のファイナンス・リースに関する最高裁平成20年12月16日第三小法廷判決(平成19年(受)第1030号,民集62巻10号2561頁)等からすると,再生・更生の申立てを解除事由とする約定は無効と考えられるとしている。

3 110条の射程

①破産は対象外である。
中間試案の補足説明(155頁)は,破産手続開始の申立てを解除事由とする特約の効力については現行法で見解が分かれていることを踏まえ,「そのような特約の効力についてはなお解釈に委ねるという趣旨で、規定を設けないことを提案するものである。」と説明している。
第35回担保法制部会の議事録(43頁)でも,再生・更生について規定を置くことが,破産について別の態度決定をしたものではないことが確認されている。

②期限の利益喪失を経由した解除は妨げられない。
同補足説明(154頁)は,この規律は「飽くまで再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを直接の解除事由等とする条項を意図したものであり、例えば、それらの申立てを期限の利益喪失事由とし、それに伴う債務不履行を理由に解除等を行うことを妨げるものではない。」とする。
ただし,最高裁昭和57年3月30日判決の裁判要旨一は,会社更生法(旧法)上の弁済禁止の保全処分が命じられた後に弁済期が到来した場合には,債権者は履行遅滞を理由として契約を解除することはできないとまとめている。

③信販会社等が留保する型(2条16号ロ)は対象外である。
法制審議会の部会資料等を見る限り,この限定の理由を説明した記載は見当たらない。
ロの型の倒産解除特約の効力は,施行後も解釈に委ねられる。

4 附則16条(施行前の特約)

譲渡担保法附則16条は,「第百十条の規定は、施行日前にされた同条の特約については、適用しない。」と定める。
施行前に結んだ所有権留保契約の倒産解除特約には110条が適用されず,施行後も判例による個別の判断が続く。
同じ形の経過措置は,105条の特約についての附則13条にもある。

附則16条だけの趣旨を説明した資料は見当たらないが,経過措置の考え方について,国会では,政府参考人(竹内努法務省民事局長)が,「施行日前に締結された譲渡担保契約等の当事者は、その契約に譲渡担保法の規定が適用されることは予測をしていませんので、当事者の期待を害するおそれもございます。」と述べ,このような不都合が生ずる場合には個別に経過措置を設けて適用を排除していると答弁している(第217回国会参議院法務委員会第13号,令和7年5月29日)。

第7 自動車の所有権留保

1 登録が対抗要件

登録自動車は「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産」に当たるので,所有権留保の対抗要件は留保売主等を所有者とする登録である(109条1項括弧書き)。
代金債務だけを担保する場合に引渡しなしで対抗できる特例(同条2項)も,登記・登録を対抗要件とする動産を除いているので,自動車には使えない。
担保法制部会資料46(71頁)は,その理由を,「登記又は登録上に表れない担保権者に優先権を与えることとなり、抵当権との競合等において混乱を生じさせる可能性があり、公示制度の趣旨に照らして問題がある。」と説明している。

2 信販会社が留保する型と最高裁判例

最高裁平成22年6月4日第二小法廷判決(平成21年(受)第284号,民集64巻4号1107頁)は,立替払をした者は,再生手続開始の時点で自己を所有者とする登録がない限り,販売会社名義の登録があっても,留保所有権を別除権として行使することはできないとした。
施行後も,信販会社等が留保する型(2条16号ロ)では,その信販会社等が「留保売主等」になるので,信販会社等を所有者とする登録が対抗要件になる(担保法制部会資料46,70頁~71頁)。

最高裁平成29年12月7日第一小法廷判決(平成29年(受)第408号,民集71巻10号1925頁)は,販売会社が留保した所有権について,保証人が売買代金残額を支払って法定代位した後に購入者の破産手続が開始した場合,開始の時点で販売会社名義の登録があれば,保証人は留保所有権を別除権として行使できるとした。
担保法制部会資料46(71頁)は,109条の規律について,「本文の規律は、このような法定代位について何ら規律するものではなく、この点の実務に変更を生じさせるものではない。」としている。

3 サブディーラーから買ったユーザー

最高裁昭和50年2月28日第二小法廷判決(昭和49年(オ)第1010号,民集29巻2号193頁)は,ディーラーがサブディーラーとユーザーの売買の履行に協力しておきながら,サブディーラーとの売買に所有権留保特約を付し,代金不払を理由に解除した上で,代金を完済したユーザーに留保所有権に基づいて自動車の返還を請求することは,権利の濫用として許されないとした事例である。
最高裁昭和57年12月17日第二小法廷判決(昭和54年(オ)第656号,集民137号589頁)も,ディーラーが営業政策としてユーザーへの転売を容認しながら所有権留保特約付きで販売した事案で,同様の結論をとった。
いずれも事案の事情を踏まえた事例判断であり,代金を完済したユーザーに対する請求が常に権利の濫用になるとしたものではない。

4 駐車場に置かれた自動車

最高裁平成21年3月10日判決の裁判要旨は,立替払をした者が立替金債務の担保として自動車の所有権を留保し,期限の利益喪失による残債務全額の弁済期の到来前は自動車を占有・使用する権原がなく,その経過後は引渡しを受けて売却し残債務の弁済に充てることができるとされている場合,第三者の土地上にある自動車について,弁済期が到来するまでは特段の事情がない限り撤去義務や不法行為責任を負わないが,弁済期が経過した後は,留保所有権が担保権の性質を有するからといってこれらを免れることはないとまとめている。
同判決は原判決を破棄して差し戻したもので,詳細は放置車両の撤去を所有権留保会社・登録名義人に請求できるか―土地所有権に基づく妨害排除と最高裁判例で扱っている。

第8 経過措置の一覧

譲渡担保法の規定は,原則として施行日前に締結された所有権留保契約にも適用される(附則2条本文)。
所有権留保に関わる主な例外は次のとおりである。

附則内容
3条根所有権留保の元本確定期日の定め(17条3項の準用)は,施行日前の定め・変更に適用しない
5条2項施行前に占有改定で対抗要件を備えた留保所有権は,施行日から2年以内の所有権留保登記で順位を保全できる
7条集合動産所有権留保の実行に関する特約の無効(66条6項・69条5項)は,施行日前の特約に適用しない
8条組入義務(71条)は,施行日前に締結された集合動産所有権留保契約に適用しない
9条~11条配当要求・動産競売の申立て,第三者異議の訴え,売却による消滅の規定は,施行日前の申立て・訴え・事件に適用しない
12条中止命令等の規定は,施行日前の申立て等に係る中止命令に適用しない
13条・14条処分権の消滅事由とする特約の無効(105条)は施行日前の特約に,開始決定による固定(106条)は施行日前の集合動産所有権留保契約に,適用しない
16条倒産解除特約の無効(110条)は,施行日前の特約に適用しない

第9 契約と実務の確認事項

1 売主(留保売主)の側

①所有権留保の条項が,代金債務だけを担保するものか,他の債務も担保する拡大型か
②拡大型であれば,施行後に買主(法人)の在庫に動産譲渡登記を備えた担保権者が現れると劣後するので,代金債務だけを担保する条項に分けるか,所有権留保登記を備えるか
③施行前の契約で占有改定により対抗要件を備えている拡大型は,施行日から2年以内に所有権留保登記をするか(附則5条2項)
④代金の不履行があったときに,実行(清算金の可能性)と解除(代金の返還)のどちらを選ぶか,その判断の材料(既払額,目的物の現在の価額)
⑤倒産解除条項は,施行後に結ぶ契約では,再生・更生の申立て等を直接の解除事由とする部分が無効になることを前提に,期限の利益喪失条項と組み合わせて設計する

2 信販会社等(第三者が留保する型)の側

①自動車では,自社を所有者とする登録を備えているか
②保証人として代位する構成と,立替払により所有権の移転を受ける構成のどちらをとっているか(最高裁平成22年6月4日判決と平成29年12月7日判決の違い)
③弁済期の到来後に,第三者の土地にある目的物について撤去を求められる可能性(最高裁平成21年3月10日判決)

3 買主(留保買主)の側

①同じ物に他の担保を設定するときに,留保所有権の存在を相手方に開示しているか
②民事再生を検討するときに,所有権留保の目的物が事業に必要かどうか,中止命令等を使うか,売主との間で別除権協定を結ぶか
③売主から解除の通知を受けたときに,弁済禁止の保全処分の有無と時期

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第11 出典

1 法令

①譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律2条・5条~7条・31条・36条・37条・60条・61条・75条・76条・97条・99条・101条・105条・106条・109条~111条,附則1条~3条・5条・7条~14条・16条(e-Gov法令検索。未施行。法務省掲載の法律の本文とも照合)
②動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律13条の2(e-Gov法令検索。整備法による改正後の未施行の条文)
③民法183条・541条・545条(e-Gov法令検索)

2 裁判例

①最高裁昭和46年1月26日第三小法廷判決(昭和45年(オ)第885号,民集25巻1号126頁)
②最高裁昭和50年2月28日第二小法廷判決(昭和49年(オ)第1010号,民集29巻2号193頁)
③最高裁昭和57年3月30日第三小法廷判決(昭和53年(オ)第319号,民集36巻3号484頁)
④最高裁昭和57年12月17日第二小法廷判決(昭和54年(オ)第656号,集民137号589頁)
⑤最高裁平成20年12月16日第三小法廷判決(平成19年(受)第1030号,民集62巻10号2561頁)
⑥最高裁平成21年3月10日第三小法廷判決(平成20年(受)第422号,民集63巻3号385頁)
⑦最高裁平成22年6月4日第二小法廷判決(平成21年(受)第284号,民集64巻4号1107頁)
⑧最高裁平成29年12月7日第一小法廷判決(平成29年(受)第408号,民集71巻10号1925頁)
⑨最高裁平成30年12月7日第二小法廷判決(平成29年(受)第1124号,民集72巻6号1044頁)

3 立法資料・国会会議録

①法務省民事局参事官室「担保法制の見直しに関する中間試案の補足説明」(令和5年1月)124頁~125頁・141頁・154頁・155頁
②法制審議会担保法制部会「部会資料31」13頁,「部会資料32」15頁,「部会資料37-3」2頁・7頁,「部会資料42」62頁,「部会資料46」70頁~71頁,「部会資料49」42頁
③法制審議会担保法制部会「第35回会議議事録」(令和5年7月11日)43頁,「第51回会議議事録」(令和7年1月28日)17頁
④第217回国会衆議院法務委員会第16号(令和7年5月21日)
⑤第217回国会参議院法務委員会第13号(令和7年5月29日)(経過措置について)
⑥同上(牽連性のある金銭債務のみを担保する所有権留保について)

4 公的資料

①法務省「「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(譲渡担保法)について」
②法務省「譲渡担保法の概要」