第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,在庫や売掛金を担保にして金融機関から運転資金を借りている会社(いわゆるABL(Asset Based Lending)を利用している会社)が民事再生を申し立てたときに,担保権者による売掛金の取立てや在庫の引揚げを止められるか,止めた後に何をするかを扱う。
あわせて,令和7年に成立した「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(令和7年法律第56号。以下「譲渡担保法」という。)が施行された後に,何が変わるかを整理する。
条文は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認し,譲渡担保法は同日現在の未施行の条文を確認した。
最高裁判例は裁判所ウェブサイトで確認し,裁判所ウェブサイトに掲載されていない高等裁判所の決定は判例秘書で全文を確認した。
2 結論
①在庫や売掛金を担保にする借入れでは,売上が落ちると担保の額が減り,借りられる額も自動的に減る。
その結果,仕入れができなくなって売上がさらに落ちるという悪循環が起き,返済期限を先に延ばしていても,運転資金が先に尽きることがある。
②現行の民事再生法では,譲渡担保は別除権として扱われ,原則として再生手続の外で実行できる。
民事再生法31条1項の担保権の実行手続の中止命令は,文言上は競売を念頭に置いているが,大阪高裁平成21年6月3日決定は,売掛金(診療報酬債権)の集合債権譲渡担保にも同項を類推適用できるとした。
③中止命令を出すかどうかの「不当な損害」の判断では,中止の間に取り立てられて消える債権だけでなく,その後も新たに発生して担保に組み込まれる債権を含めた全体の状況を見る(同決定)。
福岡高裁那覇支部平成21年9月7日決定も,賃料債権の譲渡担保に同項を類推適用し,他の再生債権者の多数が反対していても,それだけで結論は左右されないとした。
④中止命令は時間を稼ぐための制度であり,その間に,別除権協定(担保権者と弁済方法を合意すること)か,民事再生法148条の担保権消滅の許可を目指すことになる。
⑤譲渡担保法の施行後は,民事再生の申立てを理由に売掛金の取立て権限を失わせる特約が無効になり(105条),在庫を目的とする担保権は開始決定の時点で固定する(106条)。
ただし,これらの規定は,施行日前に結ばれた特約や担保契約には適用されない(同法附則13条・14条)ので,既存のABL契約は,当面,現行法と判例で処理される。
第2 借入枠が縮んで倒れる仕組み
1 米国の破綻例
令和8年8月18日,米国の園芸・農業資材の卸売業者であるBFG Supply Co., LLCとその関連会社が,米国デラウェア州の連邦破産裁判所に連邦倒産法第11章(チャプター11)の手続を申し立てた(In re BFG Supply Co., LLC, Case No. 26-11284 (CTG))。
申立ての際に提出された事業再建責任者の宣誓供述書(同事件の記録番号16)は,破綻に至った経過を次のように説明している。
①連結売上高は,同社の2025事業年度の約5億8150万ドルから,2026事業年度の約5億3650万ドルへ,約8%減った。
②運転資金の借入枠は,主として適格な売掛金と在庫から計算される枠(borrowing base)に連動していたため,売上の減少によって売掛金が減り,借りられる上限も下がった。
③資金繰りが悪化すると,一部の仕入先が与信枠を減らし,支払条件を短くし,商品の供給を絞った。
④商品が仕入れられないために売上がさらに落ち,それが仕入先の懸念を強めるという悪循環(宣誓供述書は「Downward Liquidity Spiral」と呼ぶ)に陥った。
同じ宣誓供述書によれば,同社は前年(2025年11月)に貸し手と条件を変更し,運転資金の借入れの期限を2028年12月31日に,買収資金の借入れの期限を2029年12月31日に延ばしていた。
期限を延ばしても,日々の運転資金が先に尽きたことになる。
米国のチャプター11と日本の民事再生の違いは,米国のチャプター11と日本の民事再生手続の徹底比較で整理している。
2 日本での担保の形
日本で在庫や売掛金を担保にするときは,構成部分の変動する在庫全体を目的とする集合動産譲渡担保や,現在と将来の売掛金をまとめて目的とする集合債権譲渡担保が使われることが多い。
売掛金の譲渡担保には,担保権者に債権を譲渡しつつ,取引先(第三債務者)からの回収は当面は借り手が行い,一定の事由が生じたときに担保権者が取引先へ通知して自ら取り立てる形がある(最高裁平成13年11月22日判決の事案もこの形である)。
その事由に民事再生の申立てや支払の停止が定められていると,申立ての直後に担保権者が取立てを始め,借り手の手元に売上金が入らなくなる。
第3 平時の担保の効力(最高裁判例)
1 在庫を目的とする担保
最高裁平成18年7月20日第一小法廷判決(平成17年(受)第948号,民集60巻6号2499頁)は,構成部分の変動する集合動産を目的とする対抗要件を備えた譲渡担保の設定者が,目的物である動産について通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合,その動産が集合物から離脱したと認められない限り,処分の相手方は所有権を承継取得できないとした。
同判決は,同一の目的物に動産譲渡担保が重複して設定されている場合,後順位の譲渡担保権者は私的実行をすることができないともしている。
最高裁平成22年12月2日第一小法廷決定(平成22年(許)第14号,民集64巻8号1990頁)は,集合動産譲渡担保権の効力は,目的物である動産が滅失した場合に設定者に支払われる損害保険金の請求権に及ぶとした。
最高裁平成30年12月7日第二小法廷判決(平成29年(受)第1124号,民集72巻6号1044頁)は,売主が代金の完済まで所有権を留保して納入した金属スクラップ等について,買主の在庫に集合動産譲渡担保権の設定を受けた者は,売主に譲渡担保権を主張できないとした。
仕入先が所有権留保を付けていれば,在庫を担保に取った金融機関に優先することがある。
仕入先の側から見た回収の手段は,動産売買先取特権に基づく転売代金債権の差押え―要件・証拠・申立て・回収手順で扱っている。
2 売掛金を目的とする担保
将来発生する債権の譲渡については,次の最高裁判例がある。
①最高裁平成11年1月29日第三小法廷判決(平成9年(オ)第219号,民集53巻1号151頁)は,将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の締結時に目的債権の発生の可能性が低かったことは,契約の効力を当然には左右しないとした。
②最高裁平成12年4月21日第二小法廷判決(平成8年(オ)第1049号,民集54巻4号1562頁)は,既発生債権と将来債権をまとめて目的とする集合債権の譲渡予約について,他の債権から識別できる程度に特定されていれば足りるとした。
③最高裁平成13年11月22日第一小法廷判決(平成12年(受)第194号,民集55巻6号1056頁)は,集合債権譲渡担保契約に係る債権の譲渡を第三者に対抗するには,指名債権譲渡の対抗要件の方法によることができるとした。
④最高裁平成13年11月27日第三小法廷判決(平成10年(オ)第331号,民集55巻6号1090頁)は,債権譲渡の予約について確定日付のある証書で通知又は承諾がされていても,予約の完結による債権譲渡の効力を第三者に対抗することはできないとした。
⑤最高裁平成16年7月16日第二小法廷判決(平成13年(受)第1797号,民集58巻5号1744頁)は,債権譲渡人の支払停止又は破産の申立てを停止条件とする債権譲渡契約に係る債権譲渡は,破産法(旧法)の否認権行使の対象になるとした。
⑥最高裁平成19年2月15日第一小法廷判決(平成16年(行ヒ)第310号,民集61巻1号243頁)は,国税の法定納期限等以前に将来債権を目的とする譲渡担保契約が締結され,対抗要件も備えられていた場合には,目的債権が法定納期限等の後に発生したとしても,国税徴収法24条6項の「譲渡担保財産となっている」ものに当たるとした。
したがって,担保契約の段階では,予約型ではなく,契約の時点で譲渡の効力が生じる型にし,対抗要件を備えておくことが,担保権者の側の基本になる。
他方,⑤のように,倒産を条件にして初めて譲渡の効力を生じさせる型は,否認の対象になりうる。
第4 民事再生で担保の実行を止める
1 別除権と民事再生法31条
民事再生法53条は,再生手続開始の時に再生債務者の財産について存する担保権を有する者は,その目的財産について別除権を有し(1項),「別除権は、再生手続によらないで、行使することができる。」(2項)と定めている。
同条1項が列挙する担保権は特別の先取特権,質権,抵当権及び商事留置権であり,譲渡担保は列挙されていないが,後に見る裁判例は,譲渡担保についても民事再生法31条の類推適用や148条の担保権消滅の許可を認めている。
民事再生法31条1項は,「裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、相当の期間を定めて、第五十三条第一項に規定する再生債務者の財産につき存する担保権の実行手続の中止を命ずることができる。」と定めている。
「競売申立人」という文言からは,裁判所の競売手続を念頭に置いた規定であることがうかがわれ,裁判所の手続を経ないで行われる譲渡担保の実行(担保権者による取立て)に使えるかが問題になる。
なお,中止命令は,その担保権によって担保される債権が共益債権又は一般優先債権であるときは発することができない(同項ただし書)。
2 大阪高裁平成21年6月3日決定
大阪高裁平成21年6月3日決定(平成21年(ラ)第408号,判例秘書の判例番号 L06420395)の事案は,次のとおりである。
医療機関である再生債務者は,信用金庫との当座貸越契約(貸越限度額8000万円)の担保として,国民健康保険団体連合会に対する平成21年1月から12月までに支払われる診療報酬債権を,信用金庫と信用保証協会に譲渡し,連合会に通知していた。
再生債務者は平成21年4月20日に京都地方裁判所で再生手続開始の決定を受け,それに先立って,同年2月分の診療報酬債権について担保権の実行手続の中止を申し立て,京都地方裁判所は同月21日に中止命令を発した。
担保権者らは,中止命令は不動産の担保権を念頭に置いたもので,債権の譲渡担保には類推適用されないと主張して抗告した。
同決定は,担保権実行手続中止命令は,担保権の実行により再生債務者の事業に不可欠な財産が失われて事業再生が困難となり,再生債権者一般の利益に反する事態が起こりうることを想定し,担保権の実行を一時的に中止して,被担保債権の弁済方法等を協議し,利害の調整を図る機会を与える制度であるとした。
そして,債権を対象とする譲渡担保権でも同様の状況が想定できる場合は,中止命令の趣旨に沿い,民事再生法31条が類推適用されるとした。
不当な損害の有無について,同決定は,債権を対象とする譲渡担保権は,中止命令の間に再生債務者が取り立てればその範囲で債権が消滅するという特殊性を有し,不動産の担保権と同視できないとした。
他方で,集合債権譲渡担保では新たに発生して担保の対象に組み込まれる債権が存在するので,担保権者に損害が生じるかどうかは全体の状況を勘案して判断すべきであり,担保の対象の一部が事実上消滅する可能性があることだけで不当な損害があるとはいえないとした。
事案では,対象の診療報酬債権が平成21年12月分まで続き,その総額が被担保債権を大きく上回ると見込まれたことから,2月分の中止によって担保権者に不当な損害は生じないとして,抗告を棄却した。
3 福岡高裁那覇支部平成21年9月7日決定
福岡高裁那覇支部平成21年9月7日決定(平成21年(ラ)第44号,判例秘書の判例番号 L06420776)は,再生債務者が倉庫の一部を賃貸して得る賃料債権に設定された譲渡担保について,同じく民事再生法31条1項を類推適用した。
原決定は,担保権者が約3か月の間,賃料債権を取り立て,その支払金を債権の弁済に充て,賃借人に譲渡の通知をし,又は承諾を求めることを中止する旨を命じていた。
担保権者は,譲渡担保の実行によって営業用の資産が流出するわけではなく,賃料を事業資金に充てれば再生が容易になるというだけでは類推適用の前提を欠くと主張したが,同決定は,同項の趣旨を不当に狭く解釈するものとして退けた。
一般の利益への適合性について,同決定は,賃料債権を除くと手元資金が約250万円から約420万円程度しか残らないと予想されることから,中止命令は資金繰りに窮して破産に移行するのを回避させ,清算価値以上の配当を可能とさせる見込みがあるとした。
担保権者は,再生債権総額の約76%を持つ他の債権者も反対していると主張したが,同決定は,中止命令は特定の担保権者に一定の不利益を甘受させた上でなお再生債権者の一般の利益に適合する場合に発するものであるから,特定の再生債権者の意向で結論が当然に左右されるものではないとした。
不当な損害については,賃貸借契約に自動更新条項があり相当期間続くと推測されることから,担保権者は将来にわたって賃料を収受できるとして,これを否定した。
4 中止命令の後にすること
中止命令は「相当の期間」を定めて発せられる一時的なものであり,その間に次のどれかに進む必要がある。
①担保権者と別除権協定を結び,被担保債権の弁済方法(分割弁済の額や期間)と,それを守る限り担保権を実行しないことを合意する。
大阪高裁の事案でも,再生債務者は毎月500万円ずつの分割弁済を条件とする別除権協定を打診していた。
②民事再生法148条の担保権消滅の許可を申し立て,担保の目的財産の価額に相当する金銭を納付して担保権を消滅させる。
③協定も担保権消滅もできなければ,担保権者の実行を受け入れた上で,事業計画を組み直す。
別除権協定については,最高裁平成26年6月5日第一小法廷判決(平成24年(受)第880号,民集68巻5号403頁)が,再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定を受けた時から協定が効力を失う旨の合意を含むと解した事例がある。
協定を結ぶときは,再生手続が失敗して破産に移った場合の扱いを条項で明確にしておく必要がある。
第5 担保権消滅の許可と売掛金の担保
民事再生法148条1項は,担保の目的財産が「再生債務者の事業の継続に欠くことのできないもの」であるときに,その価額に相当する金銭を裁判所に納付して,その財産上の全ての担保権を消滅させることの許可を申し立てられると定めている。
東京高裁令和2年2月14日決定(令和元年(ラ)第2368号,判例秘書の判例番号 L07520187)は,医療法人の診療報酬債権の「流動化」の契約を実質は譲渡担保であるとした上で,担保権消滅の許可はこのような譲渡担保も対象とするとし,診療報酬債権は病院の事業の継続に欠くことのできない財産であるとした。
同決定は,担保の評価額(5000万円)の当否は民事再生法149条1項の価額決定の請求手続で決せられるべき問題であり,許可の決定の違法を基礎づける事情にはならないとしている。
同決定の詳しい内容は,ファクタリング・債権流動化は倒産時に譲渡担保とされるかで扱う。
売却予定の財産についての不可欠性の考え方は,民事再生の担保権消滅許可―売却予定財産も「事業継続に欠くことのできないもの」といえるかで整理している。
第6 会社更生では担保権も手続に取り込まれる
会社更生法は,担保権の被担保債権のうち担保の目的財産の開始時の時価の範囲のものを「更生担保権」とし(2条10項),更生手続開始の決定があると,担保権の実行も禁止され,既にされているものは中止する(50条1項)。
開始前でも,裁判所は「担保権の実行」を含む強制執行等の手続の中止を命じることができる(24条1項2号)。
担保権者が協力せず,民事再生では事業に必要な売掛金や在庫を守れない場合には,会社更生が選択肢になる。
経営陣が残ったまま会社更生を使う運用については,DIP型会社更生と東京地裁の小規模会社更生で扱う。
第7 譲渡担保法の施行後に変わること
1 施行日と経過措置
譲渡担保法は令和7年6月6日に公布され,附則1条により,一部の規定を除き,公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。
令和8年9月28日現在,施行日を定める政令は,e-Gov法令検索では確認できなかった。
同法は,原則として施行日前に締結された譲渡担保契約にも適用される(附則2条本文)が,倒産手続に関係する次の規定には,個別の経過措置がある。
| 規定 | 内容 | 経過措置 |
|---|---|---|
| 105条 | 再生手続開始の申立て等を理由に,在庫の処分や売掛金の取立てができなくなるとする特約は無効 | 施行日前にされた特約には適用しない(附則13条) |
| 106条 | 開始決定の時点で集合動産譲渡担保権が固定する | 施行日前に締結された集合動産譲渡担保契約には適用しない(附則14条1項) |
| 107条 | 開始決定後に発生した売掛金には集合債権譲渡担保権が及ばない(再生・更生は特約で及ぼせる) | 施行日前に締結された集合債権譲渡担保契約には適用しない(附則14条2項) |
| 97条3項 | 民事再生法中の質権者に関する規定を適用し,31条の中止命令が譲渡担保権に及ぶ | 施行日前にされた申立てに係る中止命令等には適用しない(附則12条1項) |
2 申立てを理由に取立て権限を奪う特約の無効
譲渡担保法105条は,集合債権譲渡担保権設定者について再生手続開始の申立て若しくは更生手続開始の申立てがあったとき,又はそれらの手続の開始の原因となる事実が生じたときに,設定者が「債権特定範囲に属する債権を取り立てることができない旨の特約」を無効とする。
在庫についても,同じ場合に設定者が処分できなくなる旨の特約が無効になる。
したがって,民事再生の申立てがあると売掛金の取立て(回収)の権限が当然に失われる趣旨の条項は,施行日以後に結ぶ特約では効力を持たない。
3 在庫の固定と売掛金の固定
譲渡担保法106条は,集合動産譲渡担保権設定者について再生手続開始の決定等があった場合には,担保権の実行の通知(66条1項)があったものとみなす。
その結果,開始決定の後に在庫に加わった動産には担保権が及ばず(66条2項),開始決定の時点の在庫について設定者は処分できなくなり(同条3項),分別して管理されていない動産は開始時の在庫に属していたものと推定される(同条4項)。
同条2項に反する特約は無効である(同条6項)。
売掛金については,譲渡担保法107条2項が,再生手続開始の決定があったときも,集合債権譲渡担保権はその後に発生した債権に及ばないとしつつ,「ただし、集合債権譲渡担保契約に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と定める。
特約で開始後の売掛金にも担保を及ぼした場合,担保権者が取り立てて被担保債権が消滅したときは,再生債務者は,手続中に支払った共益債権,一般優先債権及び少額弁済の許可を受けた再生債権の額を,消滅した被担保債権の額を限度として担保権者から償還させることができる(同条4項)。
4 中止命令と取消命令
譲渡担保法97条3項は,再生債務者が設定者である譲渡担保権を有する者について,民事再生法中の質権を有する者に関する規定を適用するとし,同法31条1項の「債権を目的とする質権」を「譲渡担保権」と読み替える。
施行日には,同時に成立した整備法による改正後の民事再生法31条1項が,中止の対象に「債権を目的とする質権の実行の禁止」を含めることになっており,同条2項は,担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して中止命令を発することができると定める(未施行の条文で確認)。
さらに,譲渡担保法99条1項は,再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めるときは,担保を立てさせて,集合動産譲渡担保権の実行の通知(66条1項),動産特定範囲に属する動産に係る担保権の実行としての競売の手続又は集合債権譲渡担保権の実行の通知(94条本文)の取消しを命ずることができるとする。
ただし,取消しの命令は,その発令前にされた帰属清算の通知,処分清算譲渡,取立て等の効力を妨げない(同条2項)。
施行後は,大阪高裁平成21年決定のような類推適用によらず,条文の上で中止命令と取消命令を使えることになる。
第8 実務での確認事項
1 借り手(再生を検討する会社)の側
①ABLの契約書で,民事再生の申立て,支払の停止,期限の利益の喪失の各事由と,回収の委任が終了する事由がどう書かれているか
②担保の対象の売掛金・在庫の範囲,対抗要件(債権譲渡登記,動産譲渡登記,第三債務者への通知)の具備の時期
③申立ての直後に担保権者が取引先に通知を送った場合に止まる売上金の額と,その間の資金繰り
④中止命令の申立てに必要な資料(担保の対象がその後も発生し続ける見込み,被担保債権と担保の総額の比較,担保を除いた資金繰り表)
⑤別除権協定の案(分割弁済の額・期間,破産に移行した場合の扱い)
⑥担保権者が協力しない場合に,会社更生を選ぶかどうか
2 貸し手(担保権者)の側
①契約が譲渡担保法の施行日の前か後か(施行後の契約では105条〜107条が適用される)
②中止命令が出た場合に,担保の対象が新たに発生し続けるか,被担保債権に比べて十分か(不当な損害の主張の材料)
③仕入先の所有権留保(最高裁平成30年12月7日判決)や国税との優劣(最高裁平成19年2月15日判決)
④担保権消滅の許可が申し立てられた場合に,149条の価額決定の請求を送達の日から1か月以内にするか
第9 関連記事
米国のチャプター11と日本の民事再生手続の徹底比較
ファクタリング・債権流動化は倒産時に譲渡担保とされるか
DIP型会社更生と東京地裁の小規模会社更生
民事再生の担保権消滅許可―売却予定財産も「事業継続に欠くことのできないもの」といえるか
動産売買先取特権に基づく転売代金債権の差押え―要件・証拠・申立て・回収手順
倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理
早期事業再生法の概要―対象債権,4分の3決議及び裁判所認可
第10 出典
1 法令
①民事再生法31条・53条・148条・149条(e-Gov法令検索)
②会社更生法2条・24条・50条(e-Gov法令検索)
③譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律66条・97条・99条・105条~107条,附則1条・2条・12条~14条(e-Gov法令検索。未施行)
2 裁判例
①最高裁平成18年7月20日第一小法廷判決(平成17年(受)第948号,民集60巻6号2499頁)
②最高裁平成22年12月2日第一小法廷決定(平成22年(許)第14号,民集64巻8号1990頁)
③最高裁平成30年12月7日第二小法廷判決(平成29年(受)第1124号,民集72巻6号1044頁)
④最高裁平成11年1月29日第三小法廷判決(平成9年(オ)第219号,民集53巻1号151頁)
⑤最高裁平成12年4月21日第二小法廷判決(平成8年(オ)第1049号,民集54巻4号1562頁)
⑥最高裁平成13年11月22日第一小法廷判決(平成12年(受)第194号,民集55巻6号1056頁)
⑦最高裁平成13年11月27日第三小法廷判決(平成10年(オ)第331号,民集55巻6号1090頁)
⑧最高裁平成16年7月16日第二小法廷判決(平成13年(受)第1797号,民集58巻5号1744頁)
⑨最高裁平成19年2月15日第一小法廷判決(平成16年(行ヒ)第310号,民集61巻1号243頁)
⑩最高裁平成26年6月5日第一小法廷判決(平成24年(受)第880号,民集68巻5号403頁)
⑪大阪高裁平成21年6月3日決定(平成21年(ラ)第408号,判例秘書の判例番号 L06420395)
⑫福岡高裁那覇支部平成21年9月7日決定(平成21年(ラ)第44号,判例秘書の判例番号 L06420776)
⑬東京高裁令和2年2月14日決定(令和元年(ラ)第2368号,判例秘書の判例番号 L07520187)
3 米国の事件記録
①In re BFG Supply Co., LLC, Case No. 26-11284 (CTG)(米国デラウェア州連邦破産裁判所),Declaration of Adam Zalev(記録番号16,2026年8月19日提出)(CourtListenerに掲載されたもの)