第1 結論
民事再生法148条の担保権消滅許可は,別除権の目的財産が再生債務者の事業継続に欠くことのできないものであるとき,裁判所に財産価額相当額を納付して,その財産上の全ての担保権を消滅させる制度である。
再生債務者が財産自体を使用し続けず売却する予定である場合,文言上の「欠くことのできないもの」に当たらないという反論が成り立つ。他方,売却がスポンサー支援の具体的な条件であり,維持費の流出を止めることと併せて事業継続に直結するなら,処分の不可欠性を主張する余地がある。売却代金を事業に使える事案と,その代金は担保権者への弁済に充て,事業資金は別途スポンサーの出資から得る事案とを分けて資金繰りを示す必要がある。
許可要件と財産価額は別の問題である。売買価格が妥当でも不可欠性がなければ許可されず,不可欠性があっても担保権者は民事再生法149条の価額決定請求により納付価額を争うことができる。
第2 制度の目的と効果
再生手続では,抵当権等は別除権として原則として手続外で行使できる(民事再生法53条)。担保権がそのまま実行されると事業継続が困難になる場合に,共同の事業価値を維持しつつ担保権者へ目的物価値を保障する調整制度が担保権消滅許可である。
許可決定だけで直ちに担保権が消滅するわけではない。再生債務者等が裁判所の定める期限までに価額相当額を納付した時に消滅する(民事再生法152条2項)。申立書には財産の表示,申出価額,消滅すべき担保権及び被担保債権額を記載する。
会社更生法104条1項も担保権消滅の許可を定めるが,その要件は「更生会社の事業の更生のために必要であると認めるとき」であり,民事再生法148条1項の「事業の継続に欠くことのできないもの」よりも文言上は緩い。ただし,更生計画案を決議に付する旨の決定があった後は,許可をすることができない(会社更生法104条2項)。
第3 「事業の継続に欠くことのできないもの」
1 典型例
本社工場,主要店舗,生産設備,営業に不可欠な知的財産等を再生債務者が引き続き使用する場合は,事業継続への不可欠性を説明しやすい。代替可能性,移転費用,操業停止期間,売上への影響及び再生計画との関係を具体化する必要がある。
2 売却予定財産に対する担保権者の反論
売却予定財産は,再生債務者が事業に使用し続けるものではない。閉鎖済み施設等であれば,その財産がなくても本業を続けられるため,148条が想定する不可欠財産ではないという反論が考えられる。
また,担保権者は,任意売却への不同意を担保権消滅制度で容易に回避できるとすれば,別除権を手続外で行使できる原則が損なわれると主張できる。単に高く売りたい,維持費を削減したい,又は無担保債権者への配当原資を増やしたいというだけでは足りないという見方である。
3 再生債務者の主張
再生債務者は,財産の継続使用ではなく,その担保を外して売却することが再生事業の存続に不可欠であると主張できる。例えば,①スポンサーが売却を支援条件としている,②維持費が本業の資金を圧迫する,③売却代金の担保権者への配分とスポンサー出資の入金時期が整合する,④代替スポンサーや別の資金調達手段がない,⑤担保権者には客観的価額相当額が確保される,という事情である。売却代金に担保権者への弁済後の剰余が見込める場合だけ,その剰余の事業資金への使途を別途示す。
この構成では,財産そのものの使用価値ではなく,担保を外した処分,維持費の削減及びスポンサー出資が事業継続へどう結び付くかを示す必要がある。スポンサーの意向だけを掲げず,支援契約の停止条件,売買契約の抹消条件,担保権者への配分表,出資金の入金予定,月次資金繰り及び代替案の検討記録を揃える。
第4 価額をめぐる手続
担保権者は,許可決定と申立書の送達を受けた日から1か月以内に価額決定を請求できる(民事再生法148条3項,149条1項)。やむを得ない事由による期間伸長には担保権者の申立てが必要であり,当然に延びるものではない(149条2項)。価額決定請求には裁判所が定める費用の予納を要する。受任時には送達日,満了日,予納額及び査定資料の入手予定を同時に記録する。
裁判所は鑑定等を踏まえて価額を定める。売買契約の価格は重要な資料であるが,それだけで価額が確定するわけではない。現状利用,住宅地等への転用可能性,解体費,造成費,売却期間,処分費用及び市場変動を織り込む必要がある。
例えば,売買価格が1億円である一方,担保権者が時間をかければ1億2500万円以上で売却できると主張する場合,両者は,査定の前提時点,売却期間,維持費,解体費,転用規制及び成約可能性を同じ比較表に置く必要がある。将来の最高値ではなく,法が定める評価基準に沿った客観的価額が問題となる。
東京高裁令和2年2月14日決定(令和元年(ラ)第2368号,判例秘書の判例番号 L07520187)は,医療法人の診療報酬債権の「流動化」の契約を実質は譲渡担保であるとした上で,担保権消滅の許可はこのような譲渡担保も対象とすると解するのが相当であるとした。同決定は,病院を経営する医療法人では診療報酬債権が収益の大部分を占めることなどから,その債権を事業の継続に欠くことのできない財産であるとし,担保の評価額の妥当性は民事再生法149条1項の価額決定の請求手続で決せられるべき問題であって,許可の決定の違法を基礎づける事情にはならないとした。許可要件と価額の争いを分けるという本記事の整理と同じ考え方である。
東京高裁平成21年7月7日決定(平成21年(ラ)第410号)は,戸建分譲事業の販売用土地について,担保権消滅がなければ分譲事業の仕組みが機能しない事情を踏まえ,不可欠性を認めた。販売用財産も一律に除外されないことを示すが,閉鎖済み施設の処分がスポンサー出資の条件になる事案とは,事業と財産の結び付きが異なる。前者の結論を後者へ直結させず,支援条件の客観性と代替手段の有無を立証する。日弁連法務研究財団の裁判例紹介も参照できる。
前記東京高裁令和2年2月14日決定の詳しい内容と,ファクタリング等の債権譲渡が倒産時に譲渡担保とされる判断要素は,ファクタリング・債権流動化は倒産時に譲渡担保とされるか―東京高裁令和2年2月14日決定と,売買か融資かを分ける判断要素で扱っている。売掛金や在庫を担保にした借入れでの担保権消滅と中止命令の使い分けは,在庫・売掛金を担保にした借入れ(ABL)と民事再生―集合債権譲渡担保の実行を止める中止命令,担保権消滅及び譲渡担保法の施行後の変化で扱っている。
第5 実務で確認する資料
①担保権設定契約,被担保債権残高及び登記事項証明書
②不動産鑑定,複数査定,入札記録及び売買契約
③解体・造成・修繕費,租税公課,保険料及び月次維持費
④スポンサー契約,支援条件及び条件不成就時の扱い
⑤売却前後の資金繰り,弁済計画及び清算価値比較
⑥許可決定・申立書の送達日,価額決定請求の1か月の期限,費用予納及び査定資料
⑦許可要件を争う即時抗告と申出額を争う価額決定請求の各検討記録
第6 令和8年司法試験倒産法との関係
令和8年司法試験倒産法第2問設問1は,閉鎖済みレジャー施設を売却しなければスポンサー支援を受けられず,維持費が月額約300万円である一方,後順位担保権者が売却価格を争う事例である。
答案では,①売却予定財産が148条の不可欠財産に当たるか,②制度趣旨から機能的不可欠性を認められるか,③スポンサー条件・維持費・代替手段をどう評価するか,④許可要件と149条以下の価額争いを分けられるかが中心となる。
平成27年司法試験倒産法の公式出題趣旨は,売却予定財産について条文上の不可欠性が一見問題となることを踏まえ,担保権消滅制度の趣旨を考慮した説得的な論述を求めていた。これは令和8年度の公式見解ではなく,類似論点の答案作法を確認する比較資料として参照するにとどまる。
令和8年9月28日現在,同年度の公式出題趣旨及び採点実感は公表されていない。
第7 出典
①民事再生法53条及び148条~153条
https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000225
②平成27年司法試験論文式試験出題の趣旨・倒産法
https://www.moj.go.jp/content/001166241.pdf
③令和8年司法試験論文式試験問題・倒産法
https://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00295.html
④会社更生法104条
https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000154
⑤東京高裁令和2年2月14日決定(令和元年(ラ)第2368号,判例秘書の判例番号 L07520187)
⑥東京高裁平成21年7月7日決定(平成21年(ラ)第410号,判例時報2054号3頁)。日弁連法務研究財団の裁判例紹介