第1 判決の費用負担と,具体的な回収額は別である
判決主文の「訴訟費用は被告の負担とする」という記載だけでは,支払うべき金額までは決まらない。法定の訴訟費用の償還を求めるためには,費用負担の裁判に対応する費目と額を整理し,訴訟費用額確定処分を申し立てる。
自分が費用の支払を求める側なら,まず費用負担の裁判とその執行力を確認し,費用計算書の費目と計算例に沿って整理する。
訴訟費用額確定処分は,本案の損害賠償や委任契約に基づく弁護士報酬の額を新たに認定する手続ではない。
相手方から費用を請求された側は,届いたものが相手方の計算書,裁判所書記官の催告,又は費用額確定処分の告知のいずれかを確かめる。
計算書と疎明資料への対応は第5,処分自体に不服がある場合は第6の1を参照されたい。
民事訴訟法71条1項は,負担の裁判が執行力を生じた後に,申立てにより,第一審裁判所の裁判所書記官が負担の額を定めるとしている。控訴審で費用負担が変更された場合も,申立先を控訴審裁判所と取り違えず,第一審裁判所の担当部へ確認する。
本記事は,令和8年10月12日に確認した民事訴訟法,民事訴訟規則及び費用規則に基づき,通常の民事訴訟の費用額確定と回収の手順を説明する。費用の全体像は訴訟費用の費目と敗訴者負担,提訴・上訴の納付額は民事訴訟の申立手数料の計算方法を参照されたい。
1 弁護士報酬の全額を請求する手続ではない
費用計算書に載せるのは,民事訴訟費用等に関する法律2条が定める費用である。自分の弁護士との契約に基づく着手金・成功報酬を,支払ったという理由だけで計上することはできない。当事者が独自に支出した費用のすべてを取り戻す手続でもない。
弁護士費用を損害賠償として請求できるか,契約上の費用負担条項があるかは別の問題である。弁護士費用の見方及び債務不履行と弁護士費用を参照されたい。
2 最初に確認する書類
まず,判決・決定又は和解調書等の費用負担に関する部分,事件番号,各審級の裁判の結果,確定の有無,手数料の納付記録及び還付の有無を確認する。複数の審級があるときは,どの裁判が最終的にどの範囲の費用を誰へ負担させたかを整理する。
判決の請求認容額に一定割合を掛けて訴訟費用を算定するのではない。訴訟費用の額と負担割合は,主文と費用法の費目に従って別に計算する。
3 流れ・計算方法・書式・期限
訴訟費用額確定処分の流れは?
- 費用負担の裁判と,その裁判が執行力を生じたことを確認する。
- 申立先である第一審裁判所の担当部を確認する。
- 申立書,費用計算書及び費用額を疎明する資料を準備する。
- 申立書と費用計算書を裁判所へ提出し,相手方へ直送する。
- 双方が費用を負担する場合は,相手方の費用計算書とみなし相殺を確認する。
- 裁判所書記官が,償還すべき訴訟費用の額を定める。
- 告知後は,異議,任意の支払又は強制執行の要否を確認する。
申立ての条件は第2,計算は第3,提出と直送は第4,相殺は第5,異議と回収は第6を参照されたい。
訴訟費用確定処分の計算方法は?
手数料,書類作成提出費用,送達費用,旅費・日当等を費目ごとに計算し,費用負担の割合と相手方の費用とのみなし相殺を反映する。
判決の認容額に一定割合を掛けて算定するものではない。
訴訟費用確定処分の書式は?
申立書と費用計算書を作成し,費用額を疎明する資料を添える。
担当部の現行案内を確認し,旧法事件用の郵券額・押印等の記載を新制度の対象事件へ無条件に転用しない。
訴訟費用額確定処分の期限はいつまでですか?
現行民事訴訟法71条2項の対象事件では,費用負担の裁判が確定した日から10年以内である。
ただし,令和4年法律第48号附則2条による経過措置があるため,申立日だけで旧法事件にも10年の期間を適用してはならない。
第2 申立ての時期と期間制限
1 負担の裁判が執行力を生じた後に申し立てる
申立てができる時点は,費用負担の裁判が執行力を生じた後である。判決の場合は,確定後に申し立てるのが一般的である。判決書を受け取った日だけで判断せず,控訴等の有無と確定の状態を担当部へ確認する。
訴訟上の和解で費用負担だけを定め,金額を定めていない場合には民事訴訟法72条がある。取下げ等により裁判・和解によらず訴訟が完結した場合には,同法73条に基づく費用負担の裁判が問題になる。「費用は各自の負担とする」という和解条項がある事件で,相手方へ自分の費用を当然に請求できるわけではない。
2 10年の申立期間を旧法事件へ一律に適用しない
現行の民事訴訟法71条2項には,訴訟費用の負担の裁判が確定した日から10年以内という申立期間がある。ただし,令和4年法律第48号附則2条が適用範囲を定めている。
この規定は,令和8年5月21日以後に提起される対象の訴えに係る事件や,同日以後に開始される対象の訴え以外の申立事件等について適用される。人事訴訟等の除外や,施行前の申立てから訴訟に移行した事件の経過措置もある。費用額確定を申し立てる日が同日以後であるという理由だけで,旧法事件にもこの10年の期間制限を適用してはならない。
申立期間と,確定した償還請求権の消滅時効や執行の条件も区別する。旧法事件について「申立期間の新規定が適用されないから,いつまでも問題なく回収できる」と判断せず,事件の経過に応じて検討する。
第3 費用計算書に計上するもの
1 費目ごとに,支出額と法定額を区別する
| 主な費目 | 計算・確認する事項 |
|---|---|
| 申立手数料 | 各審級の手数料,請求変更等による調整,既に受けた還付を確認する。現行の対象事件では郵便費用相当額が手数料に含まれるため,二重計上を避ける。 |
| 裁判所が行う送付・送達の費用 | 旧法事件の予納郵券は,預けた総額と現実に使用された額を区別する。対象外の手続等における別途の費用も事件記録で確認する。 |
| 当事者・代理人の出頭費用 | 出頭日,出頭者,呼出し・出頭命令,出発地と出頭地を整理し,費用法・費用規則に従って計算する。 |
| 書類の作成・提出費用 | 通常訴訟では審級ごとの基本額と主張書面・書証の通数加算を確認する。実際の印刷代をそのまま計上する制度ではない。 |
| 資格証明書等の取得費用 | 必要な書類の種類,取得手数料,費用規則の額を確認する。 |
| 証人・鑑定人等への給付 | 裁判所が法に従って支給した旅費日当等を確認する。当事者から証人への独自の支払とは区別する。 |
2 当事者と代理人の旅費日当
当事者の出頭日当は,費用規則2条2項により1日3950円である。旅費は,費用法2条4号イと費用規則2条・別表第一による計算と,通常の経路・方法による実費額を明らかにして償還を求める場合とを区別する。
代理人が出頭した場合の費用には,費用法2条5号の制限がある。当事者と代理人の双方が出頭したというだけで,両者の旅費日当を常に二重計上できるわけではない。当事者が出頭命令・呼出しを受けて出頭した期日等の例外を,呼出状と事件記録により確認する。代理人の旅費等の上限にも注意する。
ウェブ会議での参加については,裁判所へ移動していないのに交通費を計上しない。日当は,その参加が期日への出頭として扱われる手続か,期日によらない協議かを区別して確認する。
3 書類作成費用の通数加算
費用規則別表第二1項の通常訴訟では,基本1500円に,主張書面の合計が5通を超える場合は超える15通までごとに1000円,書証の写しが15通を超える場合は超える50通までごとに1000円を加算する。
例えば,主張書面6通・書証16通で,他の加減算がない通常訴訟の一審分なら,1500円+1000円+1000円=3500円となる。これは規則を当てはめた仮定例である。主張書面と証拠関係書類を混同せず,資料とされた書面の種類・通数を記録から確認する。相手方が6人以上の場合や,支払督促・労働審判等から移行した事件の乗算・控除も,同規則2条の2第2項で確認する。
4 申立書へつなげる費用計算書の例
次は,訴額100万円の通常訴訟を令和8年5月21日以後に電子申立てし,被告1人に対して原告甲が全部勝訴したという仮定例である。
訴訟費用を全て被告乙の負担とする判決が確定し,手数料の変更・還付,上訴,証人・鑑定,資格証明書取得その他の費用はないものとする。
代理人はおらず,甲本人が裁判所の期日に実際に出頭した日は1日だけで,通常の経路・方法による出頭・旅行の日数も合計1日とする。
甲の住所地(普通裁判籍の所在地)と出頭地を管轄する簡易裁判所は同一で,出発地もこの住所地とし,出頭場所からの直線距離は500メートルを超えるものとする。
主張書面は訴状を含む6通,資料とされた書証の写しは枝番号なし16通,相手方は1人で,通数のほかに乗算・控除のない場合である。
| 費目 | 計算 | 金額 | 記録・資料の確認 |
|---|---|---|---|
| 訴え提起手数料 | 訴額部分1万円+電子申立ての郵便費用相当額1400円 | 1万1400円 | 納付済み手数料・請求内容・還付の有無 |
| 本人の出頭日当 | 3950円×1日 | 3950円 | 出頭日の期日記録 |
| 本人の出頭旅費 | 同一の簡易裁判所管轄内の法定額300円×1回 | 300円 | 出発地・出頭地・距離・回数 |
| 書類作成・提出費用 | 基本1500円+主張書面の加算1000円+書証の加算1000円 | 3500円 | 書類の種類・資料とされた通数 |
| 合計 | 1万1400円+3950円+300円+3500円 | 1万9150円 | 乙が全額負担するという仮定 |
この表と以下の申立書例では,本案の第一審で生じた費用だけを計上している。
費用額確定の申立手続自体に要する費用も計上する場合は,その費目・金額・負担の扱いを確認して別行に記載し,申立書の請求額も対応させる。
手数料額は裁判所の手数料額早見表1頁,出頭費用は費用法2条4号・費用規則2条,書類作成費用は同規則2条の2・別表第二1項に基づく。
書類作成・提出費用は実際のコピー代の合計ではなく,電子的な記録についても書面に出力した場合の通数を基準として計算する(費用法2条6号)。
この例では新法の訴え提起手数料に郵便費用相当額が含まれるため,同じ送達の費用を別欄で重ねて足さない。
書面申立ての同条件なら,訴え提起手数料を1万2500円に置き換え,合計は2万250円となる。
出発地が出頭場所から500メートル以内で旅費が認められない場合は,この例の300円を計上しない。
裁判所へ移動していないウェブ参加に,この旅費300円をそのまま当てはめることもできない。
一部敗訴,代理人の出頭,複数回の期日や上訴がある事件では,この合計額を流用せず,各審級の費目・回数・負担の裁判に従って計算する。
最終的な算入と額は裁判所書記官の処分で定まる。
第4 申立書・資料の提出と相手方への直送
民事訴訟規則24条は,申立書,費用計算書及び費用額の疎明に必要な資料の提出を定めている。申立書には,本案の事件番号・当事者・費用負担の裁判・求める費用額を特定する。申立書と費用計算書は相手方にも直送する。
事件記録にある納付額・出頭日等と,記録外で説明を要する実費とを分ける。実費交通費の償還を求める場合などには,領収書,経路・区間・利用日を示す資料を準備する。何が既存記録から確認でき,何を追加提出するかを担当書記官に確認する。
同条1項が書面による申立てを定めることは,電子提出を禁止するという意味ではない。新制度の対象事件では,民事訴訟法132条の10・132条の11及び同規則24条3項から5項に基づく電子提出の可否・義務と原本提示の扱いも確認する。旧法事件用の書式に記載された郵券額・押印・処分書の方式を,新法事件へ無条件に転用しない。
1 申立書の記載例
第3の4の仮定例を申立書へつなげると,次のようになる。
裁判所名,事件番号,住所・氏名,判決日・確定日及び申立日を実際の事件に合わせて記載し,提出方法・書式・記名押印等は担当部の現行案内に従う。
これは記載内容を示す説明例であり,特定の裁判所の指定書式ではない。
訴訟費用額確定処分申立書
令和8年○月○日
○○簡易裁判所 裁判所書記官 御中
本案事件 令和8年(ハ)第○号 貸金請求事件
申立人(本案原告)甲 住所○○ 連絡先○○
相手方(本案被告)乙 住所○○
申立ての趣旨
上記事件について,相手方乙が申立人甲に償還すべき訴訟費用の額を1万9150円と定めるとの処分を求める。
申立ての理由
上記事件について,令和8年○月○日,訴訟費用を被告乙の負担とする判決が言い渡され,令和8年○月○日に確定した。
申立人甲の訴訟費用は別紙費用計算書記載のとおり,合計1万9150円である。
よって,民事訴訟法71条1項に基づき,費用の額を定めることを求める。
添付・提示する資料
別紙費用計算書,費用の額の疎明資料,その他担当部から求められる資料。
別紙費用計算書の冒頭にも本案事件番号と甲・乙の表示を記載し,第3の4の表を費目・計算・額が分かるように記載する。
この例では全額を乙が負担するため計算書の合計と申立ての趣旨の額が一致するが,一部負担の事件では負担割合と相手方の費用を踏まえる必要がある(第5)。
2 費用計算書と疎明資料の添え方
民事訴訟規則24条は,申立てに費用計算書と費用額の疎明に必要な書面を添付し,申立書と費用計算書を相手方へ直送することを定めている。
納付記録,期日記録,主張書面・書証の一覧を計算書の各行と対応させ,既に事件記録にある資料と追加提出する資料を分ける。
判決・確定に関する資料を別途添付する必要があるかも,既存記録で確認できる範囲と併せて担当部へ確認する。
実費交通費を請求する場合には,通常の経路・方法と実費額を示す領収書等を用意する。
この例の法定旅費300円について,実費で300円を支払った領収書が必須であるかのように説明しない。
新法の電子提出では,同条3項から5項に従う画像情報の提出・原本提示の扱いがあるため,古い書式の郵券額や押印の記載を無条件に移さない。
第5 相手方の計算書と相殺
裁判所書記官は,原則として相手方に費用計算書・疎明資料・申立人の計算書への陳述を提出するよう催告する。
相手方だけが費用を負担し,記録から額が明らかな場合には例外がある(民事訴訟規則25条1項)。
催告を受けた側は,指定された提出期間を確認し,自分の費用と,相手の計算のうち争う費目・回数・額を,資料と対応させて具体的に提出する。
この催告で指定された提出期間と,費用額確定処分の告知を受けた日から1週間の異議申立期間は別である。
相手方の費用計算書を受け取っただけで,当然に処分への異議申立期間が始まったと考えてはならない。
一方,処分の告知を受けた後は,先の催告への回答を済ませていても,不服があれば第6の1の異議申立てを別に検討する(民事訴訟法71条5項)。
双方が費用を負担する場合には,民事訴訟法71条3項の相殺のみなしが問題になる。仮に,原告の法定費用が2万円,被告の法定費用が8000円,原告1割・被告9割の負担で,双方の計算が手続上考慮される場合を考える。被告が原告の費用について負担する1万8000円と,原告が被告の費用について負担する800円との差額は1万7200円である。
これは説明用の仮定であり,各費目の算入や最終的な額は書記官の処分で定まる。相手方が期間内に計算書・疎明資料を提出しなかった場合には,民事訴訟規則25条3項・27条により扱いが異なるため,双方の費用を常に自動的に控除すると考えてはならない。
第6 処分への異議と,支払を受けられない場合
1 異議は告知から1週間の不変期間内
費用額確定処分は,相当と認める方法による告知で効力を生じる。不服がある場合は,告知を受けた日から1週間の不変期間内に異議を申し立てる。異議には執行停止の効力があり,異議についての決定には即時抗告ができる(民事訴訟法71条4項から8項)。
費目・回数・額・負担割合のどこが誤っているかを示し,処分を受け取った日と受取方法を記録する。一般的な書記官処分への異議については,裁判所書記官の処分に対する異議申立てを参照されたい。
2 額の確定と現実の回収は別である
処分により金額が定まったら,相手方へ処分の内容・支払先・支払期限を明示して任意の支払を求める方法が考えられる。支払がなければ,相手方の財産を対象とする強制執行を検討する。処分を得たことだけで,裁判所が自動的に相手の預金から振り込んでくれるわけではない。
執行では,処分の方式,告知・異議の状態,執行に必要な書類と証明,対象財産,執行費用を確認する。紙の債務名義と電子的に作成された債務名義では提出方法が異なるため,執行先の最新案内に従う。回収見込み額と追加費用を比較して判断する。
相手方について破産等が始まった場合には,通常の執行をそのまま進めず,請求権の性質と倒産手続での扱いを確認する。当事者が破産したときの民事訴訟も参照されたい。
第7 出典と関連記事
① 民事訴訟法61条から73条,132条の10・132条の11及び令和4年法律第48号附則2条。
② 民事訴訟費用等に関する法律2条。
③ 裁判所民事訴訟規則24条から27条・47条の2及び改正規則の経過措置。
④ 裁判所民事訴訟費用等に関する規則2条・2条の2・別表第一・第二。
⑤ 松江地方裁判所訴訟費用額確定処分申立書の提出について。旧制度の印紙・郵券・処分正本の説明を含むため,新法事件では現行条文と担当部の案内に照合する。
⑥ 裁判所民事訴訟で使う書式及び事件特定情報の提供方法。
⑦ 訴訟手数料の還付。相手方からの費用回収とは別の手続である。
⑧ 裁判所手数料額早見表1頁(新法事件の訴え提起手数料・被告数加算)。