第1 訴訟費用の基礎——費目と「弁護士費用は含まれない」こと
民事訴訟の「訴訟費用」は,申立手数料や裁判所による送付・送達に関する費用,出頭の旅費日当など,法律が費目と額を定めた費用です。
自分が依頼した弁護士へ支払う報酬は,この訴訟費用に含まれません(裁判所「訴訟費用について」)。
まず,「裁判を始めるときに納める額」「裁判の結果,誰が負担するか」「相手方からどのように回収するか」を分けて確認します。
| 知りたいこと | 答えの要点 | 詳しく見る箇所 |
|---|---|---|
| いくらかかるか | 訴額100万円・被告1人の新法事件の訴え提起手数料は,電子申立て1万1400円,書面申立て1万2500円です。訴訟費用全体の合計額ではありません。 | 金額の見方・手数料の早見表 |
| 誰が払うか | 敗訴者負担が原則ですが,一部敗訴などでは裁判所が割合を定めます。裁判中に費用を納める人と,最後に費用を負担する人は一致しないことがあります。 | 負担の原則・判決・和解の文言 |
| 勝ったら返ってくるか | 金額が定められていなければ費用額確定処分を申し立て,相手方へ支払を求めます。判決だけで自動的に返金されるわけではありません。 | 費用額の確定と回収 |
令和8年5月21日以後の対象事件では,郵便費用相当額が申立手数料に組み込まれ,従来の予納郵券の扱い等が変わりました。
同日前に提起された事件へ新制度の金額をそのまま当てはめず,提訴日と適用される制度を確認してください(裁判所の手数料額早見表1頁・注4)。
民事事件の費用を確認するときは,提訴時に納める費用,裁判終了後に相手方へ求める法定の訴訟費用,弁護士との契約に基づく報酬を分けて考えます。訴額別の納付額は民事訴訟の申立手数料の計算方法,依頼時の見積りは弁護士費用の見方で確認できます。
| 場面 | 確認すること |
|---|---|
| 申立て時 | 手数料等の納付額と納付方法。費用負担の最終判断とは別に確認します。 |
| 訴訟終了後 | 費用負担の裁判と,請求できる費目・額の確定手続を確認します。 |
| 弁護士へ依頼 | 着手金・報酬・実費と,控訴・執行等の追加費用を契約で確認します。 |
1 主な訴訟費用の費目
訴訟費用は,費用法と費用規則が費目と額を定めた費用です。主な費目は次のとおりで,自分が依頼した弁護士に支払う報酬は含まれません。
| 費目 | 根拠 | 内容の概要 |
|---|---|---|
| 訴えの提起・上訴の提起の手数料 | 費用法2条1号 | 訴え・反訴・上訴等の申立手数料。新法対象の特定申立てでは原則として現金(電子納付)で納め,書面申立てができ,やむを得ない事由がある場合に収入印紙を用いる。訴えの変更等で額が変わるときは,最終的な請求に対応する額になる。 |
| 書類の送付・送達費用 | 費用法2条2号 | 訴状副本・判決正本などの送付・送達に関する費用。新法対象事件では,書面申立ても郵便費用相当額を手数料に含む。旧法適用事件の予納郵券等とは区別する(第2)。 |
| 当事者・訴訟代理人の出頭旅費 | 費用法2条4号イ・5号 | 直線距離に基づく額,又は往復の実費額の償還(第5の1)。 |
| 当事者・訴訟代理人の出頭日当 | 費用法2条4号ロ・5号 | 1日当たり3950円(費用規則2条2項)。 |
| 証人の旅費 | 費用法18条1項・21条 | 鉄道賃・船賃・路程賃・航空賃を費用法21条の基準で算定する。急行料金や座席指定料金等には,距離・裁判所書記官の判断などの条件がある。 |
| 証人の日当 | 費用法22条 | 現行の証人日当の上限は1日8750円(令和8年7月1日以後に支給原因が生じたもの)。実際の支給額は担当裁判所に確認する。 |
| 書類の作成・提出の費用 | 費用法2条6号・費用規則別表第二1項 | 審級ごと1500円が基本。準備書面・書証の通数に応じて加算される(下記)。 |
| 資格証明書取得費用 | 費用法2条7号 | 資格証明書の取得手数料の実費と,費用規則2条の3による額を区別する。通常の書面請求で取得手数料600円と往復郵便相当額220円を計上する例では合計820円となる。 |
「書類の作成・提出の費用」は,通常訴訟では審級ごとに基本1500円を計上し,次の通数加算を行います(費用規則別表第二1項)。準備書面等を送付すべき相手方が5人以下ならこの額を用い,6人以上の場合は,相手方の数を5で除した数(端数切上げ)を乗じます。和解・支払督促・労働審判から訴訟へ移行した事件等には控除の規定もあります(同規則2条の2第2項)。
- 訴状その他の申立書と準備書面等の主張書面の合計が6通以上で1000円,21通以上で2000円,36通以上で3000円を加算(以後15通区切りで1000円ずつ加算)。証拠申出書・証拠説明書は当事者の主張を明らかにする書面ではないため,通数加算の対象になりません(民事訴訟費用等に関する執務資料(全訂版)30頁)。
- 書証が16通以上で1000円,66通以上で2000円,116通以上で3000円を加算(以後50通区切りで1000円ずつ加算)。書証に枝番号があるときは枝番号ごとに1通と数えます(同執務資料31頁)。
例えば,送付すべき相手方が5人以下で,訴状1通と原告準備書面20通,枝番なしの書証の写し115通が資料とされた場合,この費用は5500円(基本1500円+主張書面21通の加算2000円+書証115通の加算2000円)です。文書提出命令の申立てをすると800円が加わります(費用規則別表第二5項イ)。
資格証明書の取得に伴う費用規則2条の3の額は,原則として第一種郵便物の最低料金の2倍です(下回る額が告示された場合はその額)。定形郵便物の最低料金110円を基にした往復相当額は220円であり,旧額の160円を現在も固定して使うことはできません。なお登記事項証明書は,オンライン請求・窓口交付なら490円,オンライン請求・郵送なら520円で取得できます(書面請求の窓口手数料600円は令和7年4月の手数料改定後も据え置かれています)。
2 訴訟に必要な費用のすべてが訴訟費用ではないこと
裁判所は,訴訟費用について「訴訟を追行するのに必要なすべての費用を含むわけではなく,例えば,弁護士費用は訴訟費用に含まれません」と説明しています(裁判所ウェブサイト「訴訟費用について」)。
この点について最高裁は,費用法2条が費目と額を法定した趣旨を,「当該手続に一般的に必要と考えられるものを定型的,画一的に定めることにより,……当事者等に予測できない負担が生ずること等を防ぐとともに,当該費用の額を容易に確定することを可能とし,……適正な司法制度の維持と公平かつ円滑なその利用という公益目的を達成する趣旨に出たもの」と述べています(最高裁令和2年4月7日判決・民集74巻3号646頁。強制執行に要した費用のうち費用法2条各号の費目のものを不法行為の損害として請求することはできないとした事案)。
この趣旨から,法定された費目に当たらない支出は訴訟費用になりません。当事者が準備書面を相手方に直送するためにした支出については,費用法2条2号は類推適用されず,訴訟費用になりません(最高裁平成26年11月27日決定・民集68巻9号1486頁)。
もっとも,訴訟費用として回収できないことと,実体法上の損害賠償として請求できることは別です。不法行為や安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求では,相当因果関係の範囲で弁護士費用を損害として請求できます。契約の文言を根拠とする「弁護士費用実額」の請求可能性については「#モデル契約書の沼」の一考察(改訂版が自由と正義2021年12月号48頁以下に掲載)が,責任の種類による分類はみずほ中央法律事務所の解説が参考になります。
弁護士費用を相手方へ請求できるかを調べる場合は,費用額確定処分による訴訟費用の回収と,損害賠償又は契約条項に基づく請求を分けます。
契約の履行を求めるための費用と,不法行為による損害としての費用の違いは,債務不履行と弁護士費用で詳しく説明しています。
3 100万円の訴訟費用はいくらですか?
訴額100万円・被告1人の新法適用事件では,第一審の訴え提起手数料は,電子申立て1万1400円,書面申立て1万2500円です。
これは訴えを起こすときに裁判所へ納める手数料であり,弁護士報酬・出頭費用・証人や鑑定の費用まで含めた総額ではありません。
令和8年5月21日前に提起された旧法適用事件では,同じ訴額100万円の手数料は1万円で,郵便費用を別に確認します(裁判所の手数料額早見表1頁・注4)。
訴訟費用全体には,全事件に共通する一律の総額はありません。
請求の内容から訴額を定め,提訴日・提出方法・被告数に応じた申立手数料に,その事件で必要になる費用を加えて考えます。
自分の弁護士に支払う費用は,弁護士費用の種類と見積りの確認方法で別に整理してください。
第一審の手数料額を調べたい場合は,申立手数料の計算方法と訴額別早見表を参照してください。
判決後に相手方へ請求する法定費用の合計額を計算したい場合は,訴訟費用額確定処分の記事の費用計算書例を参照してください。
また,費用を支払う資力が乏しいときは,裁判所への費用の支払猶予等を受ける訴訟上の救助と,弁護士費用等を立て替える法テラスの民事法律扶助を区別して検討します。
第2 令和8年5月の民事裁判IT化で変わった訴訟費用の扱い
令和8年5月21日に施行された改正民事訴訟法等(令和4年法律第48号)により,訴訟費用の納め方が大きく変わりました。弁護士が代理する事件では次が原則になります。改正の全体像は裁判所「民事裁判手続のデジタル化」を参照してください。
1 予納郵券の廃止と郵便費用の手数料一本化
従来は,申立手数料とは別に,送達用の郵便費用を予納郵券(郵便切手)で納める必要がありました。改正後は,オンラインで行うことができる申立て(費用法3条2項の「特定申立て」)について,郵便費用相当額が手数料に組み込まれ,予納郵券を納める必要がなくなりました(費用法11条1項ただし書)。予納の規定(費用法12条・13条)自体は,特定申立て以外の手続などのために残っています。
2 手数料の電子納付とオンライン提出義務
特定申立て等の手数料は,最高裁判所規則の定めにより現金(電子納付。ペイジー)で納めるのが原則となり,収入印紙の貼付は,書面で申立てができる場合でやむを得ない事由があるときの例外的な方法になりました(費用法8条)。
また,委任を受けた訴訟代理人(弁護士)は,事件の申立て等を電子情報処理組織(裁判所のシステム)を使ってしなければならないとされました(民事訴訟法132条の11第1項1号)。本人訴訟では,従来どおり書面で提出することもできます。送達も,当事者がシステムで裁判書類を閲覧・ダウンロードした時,又は閲覧できる旨の通知から1週間を経過した時に効力を生じるシステム送達が導入されています。
3 オンライン申立てと書面申立てで手数料額が異なること
郵便費用が手数料に組み込まれた結果,同じ訴額でも,オンライン(電子)申立てか書面申立てか,また施行日前に提起された旧法適用事件かによって手数料額が異なります。裁判所の手数料額早見表で確認できます。民事・行政訴訟の訴え提起手数料の例は次のとおりです(被告1名を前提とします。被告が増えると1名につき2000円が加算されます)。
| 訴額 | 電子申立て | 書面申立て | 参考:旧法適用事件・人事訴訟 |
|---|---|---|---|
| 100万円 | 11,400円 | 12,500円 | 10,000円 |
| 500万円 | 31,400円 | 32,500円 | 30,000円 |
| 1000万円 | 51,400円 | 52,500円 | 50,000円 |
| 3000万円 | 111,400円 | 112,500円 | 110,000円 |
| 5000万円 | 171,400円 | 172,500円 | 170,000円 |
「旧法適用事件・人事訴訟」の欄が,郵便費用相当額を含まない従来の手数料額(費用法別表第一の基本額)です。この額に対し,電子申立てでは訴額にかかわらず一律1400円,書面申立てでは一律2500円の郵便費用相当額が上乗せされています。以下の第3では,まず従来からの基本額の計算方法を説明します。
第3 訴えの提起・上訴の手数料と訴額
1 訴額を定めてから手数料を計算する
まず,訴えによって主張する利益を基準に訴額を定めます(民事訴訟法8条・9条)。請求額と訴額が常に同じとは限らず,複数請求の利益の重複や附帯請求の扱いを確認します。条文,訴額通知,土地・住民訴訟の例と最高裁判例は,訴額の算定に関する最高裁判例へまとめています。
その上で,事件の新旧,審級,オンライン・書面の申立方法,被告数等に応じて,訴額に応じた部分と郵便費用相当額を計算します。訴額別の早見表,反訴・請求変更,上訴の計算は,民事訴訟の申立手数料の計算方法を参照してください。控訴・上告の額を郵便費用相当額まで含めて機械的に1.5倍・2倍にするのではなく,現行の別表を確認します。
2 納付方法と手数料の還付
mintsの概算額と裁判所が発行した納付情報を区別し,番号・金額・期限を確認して納付します。実際の操作は,mintsの手数料をPay-easyで納付する方法で説明しています。
過納と早期取下げ等による還付は,理由,戻る額及び申立期間が異なります。還付処分と会計担当への支払請求も別です。訴訟手数料の還付及び手数料還付請求権を差し押さえた債権者の還付申立てを参照してください。
第4 郵便費用と特別送達
1 予納郵券から手数料一本化への移行
前記のとおり,オンラインで行うことができる申立てでは郵便費用が手数料に一本化され,予納郵券は不要です(第2の1)。もっとも,特定申立て以外の手続では,従来どおり郵便切手による予納が求められる場面が残ります。予納郵券の組み合わせは裁判所ごとに異なるため,提訴先の裁判所のウェブサイトや事件係で確認してください。
2 特別送達の料金(令和6年10月改定)
訴状副本や判決正本の送達に使われる特別送達の料金は,基本の郵便料金に一般書留料金と特別送達料金を加算した額です。令和6年10月1日の郵便料金改定で基本料金が上がり,令和6年10月1日以降の特別送達の最低料金は1220円以上になりました。内訳は,通常の郵便料金が110円以上,一般書留料金が480円,特別送達料金が630円です(日本郵便「オプションサービスの加算料金一覧」)。
枚数の目安として,第一種郵便物(定形外・規格内)の基本料金は,令和6年10月改定後,50gまで140円,100gまで180円,150gまで270円,250gまで320円,500gまで510円,1kgまで750円です(日本郵便「国内の料金表」)。特別送達では,これに一般書留480円と特別送達630円を加算します。用紙が数枚で定形郵便物(110円)に収まる場合は,最低額の1220円になります。
第5 出頭・尋問と訴訟費用
1 当事者・訴訟代理人の出頭旅費・日当
(1) 旅費の計算
同一の簡易裁判所の管内から出頭した場合,住所地から直線距離で500mまでは0円,500mを超えると300円です(費用法2条4号イ(1)本文,費用規則2条1項2号)。直線距離はグーグルマップの「地点間の距離を測定する」で計測できます。
簡易裁判所を超えて出頭した場合は,次のいずれかで算定します。
- 直線距離に基づく額の償還(費用法2条4号イ(1)本文,費用規則2条1項1号)。往復分の旅費に相当します(民事訴訟費用等に関する執務資料(全訂版)14頁注3)。住所地の簡易裁判所と出頭地の簡易裁判所の直線距離を基準に,近距離(10km以上100km未満)は1km当たり30円,中距離(100km以上301km未満)は1km当たり50円,長距離(301km以上)は301km未満の部分が1km当たり50円・301km以上の部分が1km当たり40円で計算し,最低額は300円です。
- 実費額の償還(費用法2条4号イ(1)ただし書)。通常の経路・方法により,直線距離に基づく額を超える交通費を実際に支払ったことを明らかにする領収書等を提出すれば,実費額の償還を受けられます。
例えば,大阪簡裁と堺簡裁の直線距離は13kmで1回当たり390円,大阪簡裁と東京簡裁の直線距離は401kmで1回当たり1万9040円です。実務では,乗車区間と宛名を補充した領収書を提出することで,指定席利用の東海道新幹線の往復料金(通常期で2万9440円)が実費額として認められた例があります。
訴訟代理人の旅費は,当事者本人が出頭した場合の旅費として裁判所が相当と認める額を超えることができません(費用法2条5号ただし書)。ここでいう「裁判所」は,費用額確定処分が裁判所書記官の権限とされていること(民事訴訟法71条1項)に照らし,裁判所書記官を指すと解されています(同執務資料19頁)。
(2) 出頭日当
出頭日当は1日当たり3950円です(費用規則2条2項)。当事者と訴訟代理人の両方が出頭した場合,原則として当事者の旅費・日当だけが認められます(費用法2条5号本文の括弧書き参照)。当事者が出頭命令又は呼出しを受けた期日に出頭した場合は,代理人の費用を除くこの規定の対象から外れ,当事者と代理人それぞれの旅費・日当等が認められることがあります。当事者尋問についても,出頭命令・呼出しの有無を確認します。代理人の費用には,同号ただし書の上限等があるため,双方が出頭したという事情だけで無条件に同額を計上できるわけではありません。
(3) 電話会議・ウェブ会議で出席した場合
弁論準備手続の期日に電話会議で出席した場合でも,出頭日当(費用法2条4号ロ又は5号)が訴訟費用として認められます。電話会議の方法で期日に関与した当事者は出頭したものとみなされ(民事訴訟法170条4項),費用法もこの場合を日当の対象から除外していないためです(札幌高裁平成26年6月25日決定・判例時報2291号16頁。裁判所ウェブサイト未掲載。この決定に対する許可抗告は最高裁平成26年12月17日決定が棄却)。
双方がウェブで参加するウェブ会議についても,それが弁論準備手続の期日として行われた場合(令和5年3月1日以降の取扱い)は,期日が開かれた以上,同様に出頭日当を請求できます。他方,書面による準備手続の協議としてウェブ会議が行われた場合は,期日が開かれたわけではないため,出頭日当は請求できません。
2 当事者尋問と訴訟費用
当事者尋問では,証人のような尋問自体に対する旅費日当の支給はなく,期日への出頭旅費・出頭日当が訴訟費用として認められるにとどまります。当事者と訴訟代理人の双方が出頭している場合,原則として当事者についてのみ認められるため,訴訟代理人が主尋問をした場合でも,訴訟代理人の出頭旅費・日当が別に発生することはありません。
例外は,当事者が呼出しを受けて出頭した場合です。呼出状(民事訴訟規則127条本文・108条)の送達を受けた当事者の当事者尋問では,当事者とは別に,訴訟代理人の出頭旅費・出頭日当(1日3950円)も訴訟費用になります。
3 証人の旅費・日当
民事の証人は,費用法18条により旅費・日当・宿泊料を請求できます。令和8年7月1日以後に支給原因となる事実が生じた証人日当の上限は1日8750円であり,必ずこの額が支給されるわけではありません。当事者本人・代理人の出頭日当とは別の制度です。
交通経路と宿泊の条件,申請当事者の予納,証人の請求・放棄,当事者からの直接支払との区別は,民事裁判の証人の旅費・日当で説明しています。請求予定と必要な資料を,出廷前に担当書記官へ確認してください。
4 証人への金銭提供の可否
証人の出廷や打合せの負担を考慮して一定額の金銭の提供を申し出ることが許されるかについて,解説弁護士職務基本規程(第3版)208頁(令和8年9月刊行の第4版では235頁)は,事前の打合せに要する旅費等は国から支給されないため,証人の現実の負担を考慮すれば一切許されないというのは疑問があるとしつつ,金額の多寡(実費を基本とすべき)や提供の時期・方法など,公正さを疑われることのないよう十分に留意すべきとしています。
これに対し,虚偽の陳述をした証人が翻意し,真実を陳述する対価として金員を要求したのに応じて締結された金員支払契約は,公序良俗に反します(最高裁昭和45年4月21日判決・集民99号99頁)。
第6 訴訟費用の負担の裁判
1 裁判費用は負けた側が払うのですか?
原則として,法定の訴訟費用は負けた側が負担します(民事訴訟法61条)。
ただし,敗訴しただけで,相手方が依頼した弁護士の報酬まで当然に全額支払う制度ではありません。
一部敗訴の場合の各当事者の負担は裁判所が裁量で定め,事情により一方に全部を負担させることもできます(同法64条)。
また,全部勝訴しても,不必要な行為をしたり訴訟を遅延させたりした場合は,訴訟費用の一部を負担させられることがあります(同法62条・63条)。
準備書面等の提出期限を慢性的に徒過した当事者に,民事訴訟法63条を活用して訴訟費用を負担させた運用例も紹介されています。
さらに,法定代理人・訴訟代理人・裁判所書記官・執行官が故意又は重大な過失によって無益な訴訟費用を生じさせたときは,裁判所は,申立て又は職権により,これらの者にその費用額の償還を命ずることができます(民事訴訟法69条1項)。
2 負担の裁判の方法
裁判所は,事件を完結する裁判(通常は終局判決)において,職権で,その審級の訴訟費用の全部について負担の裁判をしなければなりません(民事訴訟法67条1項)。判決主文では負担の割合だけが示され,例えば全部認容判決では「訴訟費用は被告の負担とする。」,一部認容判決では「訴訟費用はこれを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。」などと記載されます。
上級審が本案の裁判を変更する場合(例えば高裁が地裁判決を取り消す場合)は,訴訟の総費用について負担の裁判をします(同条2項)。この場合,主文では「訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。」などと記載されます。
3 平成16年に廃案となった弁護士費用敗訴者負担制度
訴訟係属後に当事者双方の共同の申立てがあったときに,訴訟代理人の報酬に係る費用を訴訟費用として敗訴者に負担させることを主な内容とする民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案(第159回国会閣法第65号)は,平成16年3月2日に提出されましたが,同年12月3日に審査未了で廃案となりました。
敗訴者の負担とする弁護士報酬額は,訴額に応じて必要最小限の法定額(訴額100万円で10万円,1000万円で30万円,1億円で57万円など。法テラス基準の着手金程度の水準)とし,代理人が複数でも増額せず,実際に代理人に支払う額とは関係しないものとされていました。詳細は法務省の開示文書(法律案審議録)が,反対の立場は日弁連「弁護士報酬敗訴者負担」法案に反対する決議(平成16年10月8日付)が参考になります。
4 「被告の負担」「各自負担」などの文言の読み方
判決や和解条項にある費用負担の記載は,「誰がどの割合を負担するか」を読むためのものです。
弁護士費用を含むすべての支出の返金や,裁判所からの自動送金を意味するものではありません。
| 文言の例 | 意味 | 金額・手続の確認 |
|---|---|---|
| 訴訟費用は被告の負担とする。 | 法定の訴訟費用を被告が負担するという指定です。損害賠償などの本体の請求とは別です。 | 金額が定められていなければ,民事訴訟法71条の費用額確定手続によって定めます。 |
| 訴訟費用はこれを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 | 原告1割・被告9割の負担です。請求額の認容割合から自分で変更することはできません。 | 双方の法定費用と,費用計算書の提出・相殺の扱いを確認します。 |
| 訴訟費用及び和解費用は各自の負担とする。 | それぞれが自分の支出した費用を負担し,相手方へその償還を求めない趣旨です。双方の合計を半分ずつに分ける意味ではありません。 | 和解条項に別の費用負担や金額の定めがないかも確認します。 |
裁判所における和解で費用負担を特に定めなかった場合も,民事訴訟法68条により各自負担となります。
一方,和解で相手方の負担を定め,その額を定めなかった場合には,同法72条による費用額確定手続があります。
「各自負担」の意味については,司法研修所の「はじめての和解条項」15頁が参考になります。
「勝訴したので弁護士へ払った着手金や報酬金も全額返る」とは考えないでください。
自分が依頼した弁護士への報酬は法定の訴訟費用に含まれず,損害賠償としての弁護士費用の請求等とは区別されます(第1の2)。
負担の定めを具体的な請求・回収へ進める方法は,訴訟費用額確定処分の申立てで説明しています。
和解条項全体の確認については,民事訴訟の和解案・和解条項案の作り方も参照してください。
5 訴えられた側にはどのような費用がかかるか
被告になっただけで,原告の訴え提起手数料と同額を裁判所へ直ちに支払うわけではありません。
請求を争うために必要な書類の作成・提出や出頭等の費用,自分が依頼する弁護士の報酬,敗訴した場合に負担する法定の訴訟費用を分けて確認します。
自分から反訴や控訴をする場合には,その申立ての手数料も別に検討する必要があります(民事訴訟費用等に関する法律3条・別表)。
判決や和解で費用負担が定まった後,相手方から請求を受けたときは,本案の請求額と費用額を混同せず,負担の文言・計上された費目・回数・額を確認します。
裁判所書記官から費用計算書等の提出を求める催告を受けた場合と,費用額確定処分そのものの告知を受けた場合では,対応と期限が異なります。
費用計算書への対応と相殺,費用額確定処分への異議を区別して確認してください。
第7 訴訟費用額の確定と相手方からの回収
判決で「訴訟費用は被告の負担」とされても,その記載だけでは具体的な支払額は定まりません。費用負担の裁判が執行力を生じた後,第一審裁判所の書記官へ費用額確定を申し立て,法定の費目・額を確定します(民事訴訟法71条)。
現行71条2項の10年の申立期間には経過措置があり,費用額確定を申し立てる日だけで新旧を判断できません。処分への異議は告知から1週間の不変期間内で,執行停止効があります。一般の書記官処分への異議と区別してください。
申立書・費用計算書・疎明資料,相手方への直送,双方の費用の相殺,期間制限の適用範囲,異議及び支払がない場合の回収は,訴訟費用額確定処分の申立てで詳しく説明しています。費用額確定処分と裁判所への手数料還付は別の手続です。
第8 関連する論点と資料
1 破産・更生手続との関係
更生債権に関する訴訟が更生手続開始前に係属し,会社更生法156条又は158条により受継されることなく終了したときは,その訴訟に係る訴訟費用請求権は更生債権に当たります(最高裁平成25年11月13日決定・民集67巻8号1483頁)。破産債権に関する訴訟が破産手続開始決定前に係属し,破産管財人に受継されることなく終了した場合の訴訟費用請求権も,同様に破産債権になると考えられます(破産法44条3項の反対解釈のほか,前掲決定参照)。
なお,抗告提起手数料の納付を命ずる補正命令を受けた者が期間内に納付しなかった場合でも,不納付を理由とする抗告状却下命令が確定する前に納付すれば,瑕疵は補正され,抗告状は当初に遡って有効になります(最高裁平成27年12月17日決定・集民251号121頁)。
2 訴訟上の救助
裁判費用等の支払猶予を求める制度です。資力の要件,疎明資料,審級ごとの申立て及び法テラスとの違いは,訴訟上の救助の申立要件と必要書類を参照してください。私選弁護士の報酬が当然に無料になる制度ではありません。
訴訟上の救助の決定を受けた者の全部敗訴が確定し,かつ,その者に訴訟費用を全部負担させる裁判が確定した場合には,救助決定は当然にその効力を失い,裁判所は,救助決定を民事訴訟法84条に従って取り消すことなく,猶予した費用の支払を命ずることができます(最高裁平成19年12月4日決定・民集61巻9号3245頁)。救助により納付を猶予された費用の取立決定には執行力があります(費用法16条1項)。
最高裁令和5年10月19日第一小法廷決定(令和5年(許)第1号)は,豪雨被災を理由に32名が共同して損害賠償請求訴訟を提起し,訴訟上の救助を申し立てた事案です。争点は,共通の訴訟代理人の報酬ではなく,訴え提起の手数料でした。各原告の請求価額を合算して訴額を定める場合,訴え提起の手数料の総額を各原告の請求価額に応じて按分し,各原告について,按分額だけが救助の付与対象となり,民事訴訟法82条1項本文の「訴訟の準備及び追行に必要な費用」として考慮されます。最高裁は,手数料全額を各原告について考慮した原決定を破棄し,同項の資力要件等を更に審理させるため差し戻しました。
また,弁護士費用を含む訴訟費用の全額を一方の当事者に負担させる外国裁判所の裁判は,実際に生じた費用の範囲内でその負担を命ずるものである限り,民事訴訟法118条3号の「公の秩序」に反しません(最高裁平成10年4月28日判決・民集52巻3号853頁)。
差押債権者による還付申立てについて,最高裁令和8年9月30日決定(令和7年(許)第23号)があります。
3 掲載資料(最高裁通達等)
訴訟費用の運用に関する最高裁の通達・規程等を掲載しています。
- 「民事訴訟費用等に関する法律」,「刑事訴訟費用等に関する法律」等の運用について(平成9年12月22日付の最高裁判所事務総長通達)
- 訴訟上の救助により支払を猶予した裁判費用に関する債権管理について(平成22年3月16日付の事務連絡)
- 鑑定委員に対する日当等の支給について(平成4年7月8日付通達)
- 予納郵便切手の取扱いに関する規程(昭和46年6月14日最高裁判所規程第4号)
- 予納郵便切手の取扱いに関する規程の運用について(平成7年3月24日付通達)
4 関連記事
出典
法令
- 民事訴訟費用等に関する法律(e-Gov法令検索)
- 民事訴訟法(e-Gov法令検索)
- 民事訴訟費用等に関する規則(裁判所の現行規則集)・民事訴訟規則(令和8年5月21日施行版・経過措置を含む)(PDF)
裁判例
- 最高裁令和2年4月7日判決・民集74巻3号646頁
- 最高裁平成26年11月27日決定・民集68巻9号1486頁
- 最高裁昭和49年2月5日判決・民集28巻1号27頁
- 最高裁昭和47年12月26日判決(判例秘書に掲載。裁判所ウェブサイト未掲載)
- 最高裁昭和44年6月24日判決・民集23巻7号1109頁
- 最高裁昭和53年3月30日判決・民集32巻2号485頁
- 東京高裁平成22年4月2日決定・判例時報2121号4頁(裁判所ウェブサイト未掲載)
- 最高裁平成27年5月19日決定・民集69巻4号635頁
- 札幌高裁平成26年6月25日決定・判例時報2291号16頁(裁判所ウェブサイト未掲載)
- 最高裁昭和45年4月21日判決・集民99号99頁
- 最高裁平成25年11月13日決定・民集67巻8号1483頁
- 最高裁平成27年12月17日決定・集民251号121頁
- 最高裁平成19年12月4日決定・民集61巻9号3245頁
- 最高裁平成10年4月28日判決・民集52巻3号853頁
公的資料・手続案内
司法研修所「はじめての和解条項」15頁(訴訟費用の負担条項・各自負担の意味)。
- 裁判所「訴訟費用について」
- 裁判所「民事裁判手続のデジタル化」
- 裁判所「手数料」・手数料額早見表(PDF)
- 裁判所「証人等日当及び宿泊(止宿)料」
- 日本郵便「オプションサービスの加算料金一覧」・「国内の料金表」
- 民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案(第159回国会閣法第65号)
- 日弁連「弁護士報酬敗訴者負担」法案に反対する決議(平成16年10月8日付)
文献
- 民事訴訟費用等に関する執務資料(全訂版)(最高裁判所事務総局民事局監修,司法協会)14頁・19頁・30頁・31頁
- 〔三訂版〕事例からみる訴額算定の手引(新日本法規)29頁・30頁
- 民事実務講義案1(司法協会)
- 解説弁護士職務基本規程(第3版)(日本弁護士連合会)208頁
- 解説弁護士職務基本規程(第4版)(日本弁護士連合会)235頁
- 破産事件における書記官事務の研究——法人管財事件を中心として——(司法協会)