裁判所書記官の処分に対する異議申立て


目次
1 総論
2 異議申立て後の取扱い
3 口頭弁論調書の記載に対する異議の申立て
4 口頭弁論調書の更正
5 関連記事その他

1 総論

(1) 裁判所書記官による以下の処分に対しては,500円の印紙を貼付して(民事訴訟費用等に関する法律3条1項・別表第一の17項イ(イ)),異議申立てをすることができます。
① 何人でも行える,訴訟記録の閲覧(民事訴訟法91条1項)の拒絶処分
② 当事者及び利害関係を疎明した第三者が行える,訴訟記録の謄写,謄抄本の交付請求,訴訟に関する事項の証明書の交付請求(民事訴訟法91条3項)の拒絶処分
③ 当事者及び利害関係を疎明した第三者が行える,判決確定証明書交付請求(民事訴訟規則48条)の拒絶処分
(2) 相手方がいない処分に対する異議申立ての場合,私の経験では,「異議申立てに対する決定については御庁書記官室まで取りに行く予定であるから,予納郵券は添付していない。」と記載しておけば,予納郵券は不要でした。

2 異議申立て後の取扱い
(1) 裁判所書記官の処分に対する異議の申立てがあった場合,裁判所書記官所属の受訴裁判所が決定で裁判をします(民事訴訟法121条)。
(2) 受訴裁判所の決定に対して不服がある場合,抗告の利益がある限りいつでも通常抗告ができますし(民事訴訟法328条1項),高等裁判所の決定に対して不服がある場合,裁判の告知を受けた日から5日以内に特別抗告(民事訴訟法336条)及び許可抗告(民事訴訟法337条)ができます。

3 口頭弁論調書の記載に対する異議の申立て
(1) 口頭弁論調書の記載に対する異議の申立て(民事訴訟法160条2項)(「調書異議の申立て」といいます。)は,当該調書作成後の最初の口頭弁論期日までに行う必要があります(東京地裁昭和31年3月31日判決及び名古屋高裁平成4年11月10日決定(いずれも判例秘書掲載)参照)。
(2)ア 口頭弁論期日が実質的に公開されていなかった場合,調書異議の申立てによりその旨の指摘をしておけば,高裁の判決に対する上告理由となります(民事訴訟法312条2項5号)。
イ 公開の有無は口頭弁論調書の形式的記載事項であり(民事訴訟規則66条1項6号),調書によってのみ証明されます(民事訴訟法160条3項)から,判決期日までに調書異議の申立てをしておかないと,上告理由とはなり得ません。
(2)ア 第一審手続に非公開の瑕疵があるものの,控訴審では公開されて第一審の弁論の結果が陳述された場合に民事訴訟法312条2項5号に該当するかについては争いがあります(基本法コンメンタール民事訴訟法3(第三版追補版)67頁参照)。
イ 東京高裁平成19年5月30日判決(裁判長は24期の南敏文)(判例秘書掲載)は,裁判官,双方代理人が立ち会う弁論準備手続において判決期日が指定され,判決が言い渡されたところ,密かに上記手続直後に公開法廷による口頭弁論が実施され,弁論準備手続の結果を陳述した上弁論を終結した旨の口頭弁論調書が作成されていた事案について,調書記載の口頭弁論は開催されていなかった事実を認定して原判決を破棄差戻しとした事案です。
(3) 弁論準備手続調書については,調書異議の申立てはできません(民事訴訟法170条5項は民事訴訟法160条2項を準用していないため。)。


4 口頭弁論調書の更正
(1) 最高裁昭和62年7月17日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
① 口頭弁論調書は、作成権限を有する裁判所書記官がこれを作成して署名(又は記名)捺印し、裁判長が認証のため捺印することによつて完成し、外部的には、完成された調書が当事者及び利害関係人の閲覧請求に応じうる状態に置かれた時、通常は当該事件記録に編綴されて裁判所書記官の保管のもとに置かれた時に成立する。
② 口頭弁論調書の記載内容に誤りがあるときは、当該調書を作成した裁判所書記官において、その認証者である裁判長の認証ないし承認のもとに、その誤りの内容に応じ適宜の方法でこれを更正することができるが、調書が外部的に成立した後においては、原調書とは別に更正調書を作成するか又は原調書の欄外に更正の個所・内容を明記して署名(又は記名)捺印する等、更正の趣旨及びその内容を明らかにするための措置を講ずることを要する。
(2)  当該口頭弁論期日の開かれた事跡が記録上見当らないことが上告理由で指摘されたといった事実関係のもとにおいては,その後,右期日の開かれた旨を記載する口頭弁論調書を作成することは許されません(最高裁昭和42年5月23日判決)。

5 関連記事その他
(1) 当事者尋問又は証人尋問の調書の誤記については,誤記を指摘したのに職権では訂正しないといわれた後に調書異議の申立てをした方がいいと思います。
(2) 弁護士法人金岡法律事務所HP「弁護士コラム 余りに情けない調書異議の事例」(2018年8月1日)が載っています。
(3)  「甲から丁に建物所有権を移転する」旨の調停調書の条項を,「甲は乙に仮登記の本登記をなし、乙は丙を経て丁に建物所有権を移転する。そして登記は中間省略により乙から丁にする。」旨の条項に更正することは,権利移転の経緯および態様において,旧条項の実質的内容を変更するものであって,許されません(最高裁昭和42年7月21日判決)。
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 上訴記録等の査閲における指導の在り方について(平成28年7月28日付の最高裁判所総務局第三課長の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 即時抗告,執行抗告,再抗告,特別抗告及び許可抗告の提出期限
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 民事事件記録一般の閲覧・謄写手続
・ 裁判文書及び司法行政文書がA4判・横書きとなった時期
・ 民事事件の裁判文書に関する文書管理
・ 司法行政文書に関する文書管理
・ 裁判所書記官の役職
・ 家庭裁判所調査官の役職
・ 最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携
・ 書記官事務等の査察
・ 秘匿情報の管理に関する裁判所の文書


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