第1 本記事が扱う異議申立て
1 民訴法121条の位置付け
裁判所書記官が独立の権限に基づいてした処分に不服がある場合,その裁判所書記官の所属する裁判所に異議を申し立てることができる。民訴法121条は,異議について所属裁判所が決定で裁判をすることを定めている。本記事では,通常の民事訴訟における同条の異議申立てを中心に,その決定に対する通常抗告,口頭弁論調書の記載に対する異議及び調書の更正を説明する。
2 特別規定を先に確認する必要
裁判所書記官の処分であっても,すべてが民訴法121条の対象となるわけではない。次の処分には期間又は効力を含む特別規定があるため,民訴法121条及び期間の定めのない通常抗告という一般論をそのまま当てはめてはならない。
- ① 訴訟費用額確定処分に対する異議は,民訴法71条4項により告知から1週間の不変期間内にする必要があり,異議には執行停止の効力があり,異議についての決定には即時抗告ができる。
- ② 訴え提起手数料の納付命令に対する異議は,民訴法137条の2第3項により告知から1週間の不変期間内にする必要があり,異議には執行停止の効力がある。
- ③ 口頭弁論調書の更正処分に対する異議は,民訴法160条の2第3項が準用する71条4項,5項及び8項に従う。
- ④ 民事執行,支払督促,家事事件,非訟事件及び倒産事件には,それぞれの法律に特別の不服申立てがある。
第2 民訴法121条による異議申立て
1 対象となり得る処分
民訴法121条の対象となり得る典型例は,裁判所書記官が独立の権限に基づいてする訴訟記録の閲覧等又は証明に関する処分である。令和8年5月21日に全面施行された改正民訴法の下では,非電磁的訴訟記録の閲覧,謄写,謄本若しくは抄本の交付又は複製は91条,電磁的訴訟記録の閲覧,複写又は記録事項証明は91条の2,訴訟に関する事項の証明は91条の3に分かれている。民訴規則48条に基づく判決確定証明の請求に対する処分も,裁判所書記官の権限に属する。
もっとも,裁判所が民訴法92条に基づいて訴訟記録の閲覧等を制限し,裁判所書記官がその決定に従って閲覧等を拒絶した場合,争うべき対象は裁判所の閲覧制限決定である。この場合は,同条3項の取消申立て又は同条4項の即時抗告によるべきであり,民訴法121条の異議によって裁判所の先行判断を迂回することはできない。
2 申立人,申立先及び方式
異議を申し立てることができるのは,対象となる請求をする資格があり,裁判所書記官の拒絶その他の処分によって不利益を受けた者である。申立先は,処分をした裁判所書記官の所属する裁判所であり,常に「受訴裁判所」と表現できるとは限らない。処分日,処分内容及び所属裁判所が不明確な場合は,まず担当係に処分の内容を確認すべきである。
申立ては,事件の適用法及び提出者に応じて,mintsによる電子申立て又は書面提出の方法で行う。手数料を納付すべき申立書はファクシミリ提出の対象外であるため,提出方法を担当係に確認する必要がある。令和8年5月21日以後に提起された新法事件では,弁護士等の訴訟代理人は原則としてmintsの利用が義務付けられている。
3 申立書に記載する事項
申立書では,裁判所が対象処分及び求める結論を短期間で特定できるようにする。少なくとも,①対象事件,②処分をした裁判所書記官の所属及び処分日,③異議の対象となる処分,④求める裁判,⑤処分が違法又は不当である理由,⑥閲覧等を求める記録又は証明事項を記載するのが相当である。拒絶理由を記載した書面又は担当係との連絡記録がある場合は,その内容も特定する。
4 500円の手数料と納付方法
裁判所書記官の処分に対する異議申立ての手数料は,民事訴訟費用等に関する法律3条及び別表第2の13の項により500円である。ただし,現在は常に申立書へ500円の収入印紙を貼るわけではない。
裁判所の民事訴訟手続デジタル化案内によれば,令和8年5月21日以後に提起された新法事件では,申立手数料は原則としてペイジーを利用して現金で納付し,送達のための郵便費用は申立手数料へ一本化された。同日前に提起された旧法事件では,収入印紙及び予納郵券による従前の取扱いが残る。控訴事件又は抗告事件が新法事件か旧法事件かは上訴又は抗告の日ではなく,原審事件の申立日を基準に判定されるため,裁判所のmints利用案内及び担当係の案内を確認すべきである。
第3 異議についての決定と抗告
1 所属裁判所の決定
異議申立てを受けた裁判所は,決定で裁判をする。異議に理由がある場合は裁判所書記官の処分を取り消して相当な処分をするよう命じ,理由がない場合は異議を棄却する。申立ての対象が裁判所書記官の独立した処分ではない場合又は特別規定によるべき場合は,民訴法121条の申立てとして適法かが先に問題となる。
2 通常抗告
民訴法121条の異議についての決定に不服があり,抗告の利益がある者は,民訴法328条1項に基づく通常抗告をすることができる。通常抗告には即時抗告のような一律の申立期間はないが,処分の取消しによる実益がなくなれば抗告の利益を失い,著しく長期間行使しなかった場合には信義則上許されないこともある。そのため,決定の告知を受けた後は速やかに申し立てるべきである。
通常抗告には当然の執行停止効がないため,原決定の実施を止める必要がある場合は民訴法334条2項に基づく執行停止その他の処分を併せて検討する。抗告状は不服の対象となる決定をした原裁判所へ提出する。即時抗告等を含む期間と提出方法については,即時抗告・特別抗告・許可抗告等の期限と執行停止も参照されたい。
3 高等裁判所の決定に対する不服申立て
高等裁判所の決定に対する特別抗告は,憲法解釈の誤りその他の憲法違反を理由とする場合に限られる。許可抗告は,判例相反その他の法令解釈に関する重要な事項を含み,高等裁判所が許可した場合に限られる。いずれも決定の告知を受けた日から5日の不変期間内に申し立てる必要があり,通常の再審査を求める制度ではない。
第4 口頭弁論調書の記載に対する異議
1 新法事件と旧法事件
令和8年5月21日以後に提起された新法事件では,当事者その他の関係人が口頭弁論に係る電子調書の内容について異議を述べたとき,裁判所書記官は異議があった旨及びその内容を記録した電磁的記録を作成し,ファイルに記録しなければならない(民訴法160条3項,民訴規則67条4項)。同日前に提起された旧法事件には改正前160条2項がなお適用され,異議が述べられた旨を紙の調書に記載する。
この調書異議は,当事者等が述べた異議自体を訴訟記録に残す制度である。裁判所が異議の理由の有無について独立の認容又は棄却決定をする制度ではなく,民訴法121条の異議とも異なる。
2 異議の方式及び時期
民訴法160条3項には不変期間の定めがないが,注釈書では調書作成後最初の期日までに述べるべきであるとの見解が有力である。他方,その時期を過ぎれば異議を述べる機会が絶対に失われるとすることには疑問も示されている。実務上は,調書の作成後直ちに閲覧又は複写をし,遅くとも次の期日までに異議書を提出して,次回期日でも提出済みであることを明らかにするのが安全である。
異議書には,①対象期日,②調書の該当箇所,③現在の記録内容,④実際の手続又は陳述として主張する内容,⑤相違を裏付ける提出書面,録音,期日メモその他の資料を記載する。録音の存在だけで調書が当然に変更されるわけではないため,資料が何を示すかを具体的に説明する必要がある。
3 調書の証明力と公開違反
新法事件では,口頭弁論が民訴法160条所定の方式に従って行われたことは,電磁的記録である調書によってのみ証明することができる(同条4項)。旧法事件には改正前160条3項がなお適用される。口頭弁論が公開されたかは調書の形式的記録事項であり(民訴規則66条1項6号),裁判の公開違反は民訴法312条2項5号の絶対的上告理由となり得るため,実際の手続と調書が異なる場合に早期に異議を記録へ残す意義は大きい。
もっとも,調書異議を述べただけで公開違反又は上告理由が当然に成立するわけではない。実際に公開されていなかったこと,その手続が民訴法上の口頭弁論であったこと及び上告理由の要件を満たすことは別に検討する必要がある。
4 弁論準備手続調書にも異議を述べられること
弁論準備手続の調書について調書異議を述べることができないとする説明は正確でない。民訴規則88条4項は,新法事件の弁論準備手続に係る電子調書について民訴法160条及び同規則中の口頭弁論に係る電子調書に関する規定を準用しているため,160条3項の異議を述べることができる。旧法下の同項も旧160条全体及び口頭弁論調書に関する規則を準用していたため,旧法事件でも改正前160条2項の異議を述べることができる。
他方,民訴規則88条4項は令和8年に新設された民訴法160条の2を明示的に準用していない。したがって,弁論準備手続調書について160条の2の更正処分及びその不服申立てが当然に適用されるとはいえず,明白な誤りを発見した場合は調書異議を述べるとともに,該当箇所及び根拠を特定して担当裁判所へ速やかな訂正を求め,その法的取扱いを確認する必要がある。
第5 口頭弁論調書の更正
1 民訴法160条の2による更正
口頭弁論に係る電子調書に計算違い,誤記その他これらに類する明白な誤りがあるときは,裁判所書記官は申立て又は職権により,いつでも更正することができる(民訴法160条の2第1項)。更正の内容は事件記録上明らかにされ,更正処分及び更正申立てを却下する処分は当事者へ告知される。この明文の制度は令和8年5月21日に施行されたものであり,同日前に提起された旧法事件の紙の口頭弁論調書にも読替えの上で適用される(令和4年法律第48号附則14条2項)。
2 更正処分に対する異議
当事者は,更正処分又は更正申立てを却下する処分の告知を受けた日から1週間の不変期間内に異議を申し立てることができる。異議には執行停止の効力があり,異議についての決定には即時抗告をすることができる(民訴法160条の2第3項,71条4項,5項及び8項)。民訴法121条の異議及びその決定に対する通常抗告とは,期間,停止効及び次の不服申立てが異なる。
3 更正できる範囲
更正の対象は,計算違い,誤記その他これらに類する明白な誤りに限られ,当事者の陳述,証言内容又は和解条項の実質的内容を後から変更することはできない。最高裁昭和42年7月21日第二小法廷判決(昭和39年(オ)第156号,民集21巻6号1615頁)は,調停調書の条項について権利移転の経緯及び態様を本質的に変更する更正は許されないとした(裁判所判決PDF)。
最高裁昭和42年5月23日第三小法廷判決(昭和39年(オ)第924号,民集21巻4号916頁)は,期日が開かれた事跡が記録上なく,その手続上の欠缺が上告理由として指摘された後に,その期日が開かれた旨の調書を作成することは許されないとした(裁判所判決PDF)。現行法でも,更正制度は実際に行われなかった手続を後から記録するためのものではない。
第6 申立て前の確認手順
1 どの処分を争うかを特定すること
最初に,拒絶された請求,処分をした主体,処分日,告知方法及び拒絶理由を確認する。裁判所の決定に従った処理なのか,裁判所書記官が独立の権限で判断した処分なのかによって救済方法が変わる。また,訴訟費用額確定処分,手数料納付命令又は調書更正処分などの特別規定がある場合は,1週間の不変期間を直ちに確認しなければならない。
2 低負担の資料確認を先に行うこと
訴訟記録又は電子記録を取得できる場合は,対象となる処分書,調書,提出書面及び告知記録を先に確認する。口頭弁論調書の誤りを問題とする場合は,民事事件記録の閲覧・謄写手続により調書を取得し,期日直後のメモ,提出書面及び録音の有無を照合する。これらの資料で対象処分又は誤りを特定できない段階では,高負担の証拠収集へ進むより,担当係への確認及び記録取得を優先すべきである。
3 異議申立てをしない場合
処分を取り消しても閲覧又は証明を得る実益が既にない場合,争う対象が裁判所書記官の独立した処分ではない場合,又は特別規定による不服申立期間を徒過して回復の余地がない場合は,民訴法121条の申立てを続けても目的を達成できないことがある。申立て前に,どの事実が認められれば処分が変わるか,取消しによって現在も具体的な利益を得られるかを確認すべきである。
第7 出典・参考資料
1 法令・規則
2 裁判例
- ① 最高裁昭和42年7月21日第二小法廷判決,昭和39年(オ)第156号,民集21巻6号1615頁
- ② 最高裁昭和42年5月23日第三小法廷判決,昭和39年(オ)第924号,民集21巻4号916頁
3 公的資料・ウェブ資料
4 文献
- ① 田中敦編『抗告・異議申立ての実務』新日本法規出版,令和3年,78頁~86頁
- ② 秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅲ〔第2版〕』日本評論社,平成30年,413頁~416頁
- ③ 佐藤陽一『実践講座 民事控訴審』日本加除出版,令和5年,191頁~193頁
- ④ 岡口基一『民事訴訟マニュアル 第3版 上巻』ぎょうせい,令和3年,250頁~251頁
- ⑤ 松本博之『民事・家事抗告審ハンドブック』日本加除出版,令和2年,59頁,95頁,98頁及び116頁