第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,担保権者(金融機関等)の協力が得られず,民事再生では事業に必要な工場,在庫,売掛金等を守れないおそれがある会社について,経営陣が残ったまま会社更生を使う方法(いわゆるDIP型会社更生)と,東京地方裁判所民事第20部が令和7年4月から始めた小規模会社更生の運用を扱う。
あわせて,米国の連邦倒産法第11章(チャプター11)が日本のどの手続に近いか,及び令和8年12月11日に施行される早期事業再生法との違いを整理する。
条文は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認し,運用は同日に東京地方裁判所のウェブサイトに掲載されている「よくある質問」と標準スケジュール等の資料で確認した。
2 結論
①民事再生では,担保権者は別除権者として手続の外で担保権を実行でき(民事再生法53条2項),再生計画は別除権者の担保権に影響を及ぼさない(同法177条2項)。
担保権の実行の中止命令(同法31条)は一時的なものにとどまる。
②会社更生では,担保権の被担保債権のうち担保の目的財産の時価の範囲のものが「更生担保権」として手続に取り込まれ(会社更生法2条10項),更生手続開始の決定があると担保権の実行も禁止され,既にされているものは中止する(同法50条1項)。
更生計画で更生担保権の権利を変更でき,同意しない組があっても権利保護条項を定めて認可できる(同法200条1項)。
③会社更生では事業の経営と財産の管理処分の権利が裁判所の選任した管財人に専属する(同法72条1項)が,現経営陣を管財人に選ぶことは条文上禁じられておらず,東京地方裁判所は一定の要件の下で現経営陣が管財人になるDIP型の運用をしている。
④東京地方裁判所は,令和7年4月から,負債総額50億円未満の会社のDIP型を対象に,民事再生と同程度の標準スケジュールで進める小規模会社更生の運用を導入した。
標準スケジュールでは,申立てから認可決定まで5月+2週間であり,DIP型の予納金の基準額は負債総額10億円未満で560万円である。
⑤米国のチャプター11は,経営陣が残る点は民事再生に近いが,担保権まで手続に取り込み,組ごとに決議し,反対した組にも計画を押し付けられる点で,日本ではDIP型会社更生に近い。
⑥早期事業再生法は,対象を金融機関等の貸付債権等に限り,担保権の行使によって弁済を受けられる部分を権利変更の対象から除くので,担保権者との調整の手段としては会社更生に代わるものではない。
第2 民事再生で担保権者が協力しない場合の限界
1 別除権と計画の効力
民事再生法53条は,再生手続開始の時に再生債務者の財産について存する担保権(特別の先取特権,質権,抵当権又は商事留置権)を有する者は,その目的財産について別除権を有し(1項),「別除権は、再生手続によらないで、行使することができる。」(2項)と定めている。
また,同法177条2項は,「再生計画は、別除権者が有する第五十三条第一項に規定する担保権、再生債権者が再生債務者の保証人その他再生債務者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び再生債務者以外の者が再生債権者のために提供した担保に影響を及ぼさない。」と定めている。
再生計画の多数決(同法172条の3第1項)で担保権の内容を変えることはできず,担保権者とは別除権協定で個別に合意する必要がある。
2 中止命令と担保権消滅
民事再生法31条1項は,再生債権者の一般の利益に適合し,かつ,競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないときに,相当の期間を定めて担保権の実行手続の中止を命ずることができるとする。
中止は期間を定めた一時的なものであり,その間に協定がまとまらなければ,担保権者は実行を再開できる。
同法148条の担保権消滅は,事業の継続に欠くことのできない財産について,その価額に相当する金銭を一括で裁判所に納付する必要があり,資金の手当てができなければ使えない。
売掛金や在庫を担保にした借入れ(ABL)で中止命令が問題になった裁判例は,在庫・売掛金を担保にした借入れ(ABL)と民事再生で扱う。
第3 会社更生で担保権がどう扱われるか
1 更生担保権
会社更生法2条10項は,「更生担保権」を,更生手続開始当時更生会社の財産について存する担保権(特別の先取特権,質権,抵当権及び商事留置権に限る。)の被担保債権で更生手続開始前の原因に基づいて生じたもの等のうち,「当該担保権の目的である財産の価額が更生手続開始の時における時価であるとした場合における当該担保権によって担保された範囲のもの」と定義している。
担保の目的財産の時価を超える部分は,更生債権になる。
2 実行の禁止と弁済の禁止
更生手続開始の申立てがあると,裁判所は,開始決定までの間,「強制執行等(更生債権等に基づく強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行又は更生債権等を被担保債権とする留置権による競売をいう。)の手続」の中止を命ずることができる(会社更生法24条1項2号)。
更生手続開始の決定があると,担保権の実行を含む強制執行等の申立てはすることができず,既にされている手続は中止する(同法50条1項)。
更生債権等は,更生手続開始後は,同法に特別の定めがある場合を除き,更生計画の定めるところによらなければ,弁済をし,弁済を受け,その他これを消滅させる行為をすることができない(同法47条1項)。
他方,更生会社の事業の更生のために必要でないことが明らかな担保の目的財産については,担保権の実行の禁止を解除する決定がされることがある(同法50条7項)。
3 担保権消滅の要件
会社更生法104条1項は,「更生会社の事業の更生のために必要であると認めるとき」に,管財人の申立てにより,担保の目的財産の価額に相当する金銭を裁判所に納付して担保権を消滅させることを許可できるとする。
民事再生法148条1項の「事業の継続に欠くことのできないもの」よりも,文言の上では要件が緩い。
ただし,この許可は,更生計画案を決議に付する旨の決定があった後はすることができない(会社更生法104条2項)。
4 組ごとの決議と権利保護条項
更生計画案の決議は,更生担保権,一般の優先権がある更生債権,それ以外の更生債権,約定劣後更生債権及び株式等の種類ごとに分かれて行う(会社更生法196条1項,168条1項)。
可決の要件は種類ごとに違い,更生担保権については次のとおりである(同法196条5項2号)。
| 更生計画案の内容 | 同意が必要な議決権 |
|---|---|
| 期限の猶予の定めをするもの | 更生担保権者の議決権の総額の3分の2以上 |
| 減免その他期限の猶予以外の方法で権利に影響を及ぼす定めをするもの | 同じく4分の3以上 |
| 更生会社の事業の全部の廃止を内容とするもの | 同じく10分の9以上 |
更生債権の組は,議決権の総額の2分の1を超える議決権を有する者の同意で可決される(同項1号)。
同意を得られなかった種類の権利があっても,裁判所は,その権利を保護する条項を定めて更生計画認可の決定をすることができる(同法200条1項)。
更生担保権者については,更生担保権の全部を担保権の被担保債権として存続させる方法や,担保の目的財産を裁判所が定める公正な取引価額以上の価額で売却し,その売得金から売却の費用を控除した残金で弁済する方法等が定められている(同項1号)。
第4 経営陣が残るDIP型の運用
1 条文上の根拠
会社更生法72条1項は,更生手続開始の決定があった場合には,「更生会社の事業の経営並びに財産(日本国内にあるかどうかを問わない。第四項において同じ。)の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した管財人に専属する。」と定めている。
管財人は裁判所が選任し(同法67条1項),役員等責任査定決定を受けるおそれがあると認められる者は管財人に選任することができない(同条3項)。
この制限に当たらない限り,現経営陣を管財人に選ぶことは条文上禁じられていない。
2 東京地方裁判所のDIP型の要件
東京地方裁判所民事第20部の資料は,DIP型の要件として,次の4つを挙げている。
①現経営陣に不正行為等の違法な経営責任の問題がないこと
②主要債権者が現経営陣の経営関与に反対していないこと
③スポンサーとなるべき者がいる場合はその了解があること
④現経営陣の経営関与によって会社更生手続の適正な遂行が損なわれるような事情が認められないこと
手続の開始時には監督委員兼調査委員が選任される(東京地方裁判所の標準スケジュールでは申立ての日に監督命令兼調査命令が発令される)。
経営陣が残るといっても,裁判所と監督委員兼調査委員の監督の下で手続を進めることになる。
3 小規模会社更生
東京地方裁判所民事第20部のウェブサイトの「よくある質問」は,令和7年4月から,負債総額50億円未満の会社のDIP型を対象として,簡易・迅速な会社更生手続(DIP型)の運用(小規模会社更生)を導入したとし,その特徴を,民事再生事件と同程度の標準スケジュールに従った迅速な手続進行をする点にあると説明している。
予納金は,資金繰りが厳しいもののDIPファイナンスや事業譲渡の見通しがあるような場合,柔軟に分納を認めるとしている。
ただし,更生計画案の提出までの期間が標準スケジュールよりも長期化した場合や,更生計画が付議されて認可にまで至った場合等には,追納が必要になることがあるとしている。
東京地方裁判所民事第20部の標準スケジュールを並べると,次のとおりである(いずれも申立日からの日数)。
| 手続 | 民事再生 | 会社更生(DIP型) | 小規模会社更生 |
|---|---|---|---|
| 開始決定 | 1週間 | 2週間 | 2週間 |
| 債権届出期限 | 1月+1週間 | 2月+2週間 | 1月+2週間 |
| 計画案の提出期限 | 3月 | 5月+2週間 | 4月 |
| 認可決定 | 5月 | 7月+2週間 | 5月+2週間 |
会社更生(DIP型)の標準スケジュールには,管財人及び調査委員の意見を聴いた上で,短期間での進行が可能な場合には,申立てから認可決定までの期間を短縮する(例えば,約5月など)との注記がある。
小規模会社更生の資料は,更生計画の遂行の期間を「最大3年間」と図示している。
4 予納金
東京地方裁判所の「会社更生事件の手続費用一覧」(令和6年12月1日)によれば,申立手数料は2万円,予納金の基準額は次のとおりである(具体的な予納額は,基準額を基に諸事情を総合的に判断して決定される)。
| 負債総額 | 管理型(自己申立て) | DIP型 |
|---|---|---|
| 10億円未満 | 800万円 | 560万円 |
| 10億円~25億円未満 | 1000万円 | 700万円 |
| 25億円~50億円未満 | 1300万円 | 910万円 |
同一覧は,DIP型から管理型に移行した場合には,追加で予納を求める可能性があるとしている。
第5 民事再生・会社更生・早期事業再生法の比較
1 比較表
| 項目 | 民事再生 | 会社更生(DIP型) | 早期事業再生法 |
|---|---|---|---|
| 使える者 | 法人・個人 | 株式会社(1条) | 事業者 |
| 経営 | 再生債務者が続ける(38条1項) | 裁判所が選任した管財人(現経営陣) | 事業者が続ける |
| 担保権 | 別除権として手続外(53条2項) | 更生担保権として手続内(2条10項) | 担保でカバーされる部分は対象外(11条) |
| 実行の停止 | 中止命令は一時的(31条) | 開始決定で禁止・中止(50条1項) | 一時停止の要請と裁判所の中止命令(6条~8条) |
| 対象債権者 | 再生債権者全体 | 更生債権者等全体 | 金融機関等(2条) |
| 可決要件 | 頭数の過半数かつ議決権総額の2分の1以上(172条の3) | 種類ごと(196条5項) | 議決権総額の4分の3以上(20条1項) |
| 反対した組 | 押し付けられない | 権利保護条項(200条) | 組分けなし |
2 早期事業再生法との関係
「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律」(令和7年法律第67号。早期事業再生法)は,令和8年12月11日に施行される。
対象債権者は銀行,保険会社,貸金業者等の金融機関等に限られ(同法2条),権利変更の対象は,対象債権者の権利のうち「対象債権者が担保権の行使によって弁済を受けることができる対象債権の部分に係る権利」を除いたものである(同法11条)。
担保権の行使によって弁済を受けることができる部分については,議決権もない(同法19条3項)。
したがって,担保権者が協力しないことが問題の中心である場合には,早期事業再生法ではなく,会社更生を検討することになる。
早期事業再生法の概要は,早期事業再生法の概要―対象債権,4分の3決議及び裁判所認可で整理している。
3 米国のチャプター11との関係
米国のチャプター11は,申立てにより担保権の実行を含む取立てが自動的に停止し,計画で担保付債権の権利を変更でき,組ごとの決議と反対した組への計画の押付け(クラムダウン)の制度を持つ。
経営陣が原則として経営を続ける点は民事再生に近いが,担保権の扱いと決議の仕組みは,日本では会社更生に近い。
他方,日本の会社更生でも,申立てだけで担保権の実行が当然に止まるわけではなく,中止命令(会社更生法24条)か開始決定(同法50条)が必要である。
チャプター11と民事再生の違いの詳細は,米国のチャプター11と日本の民事再生手続の徹底比較で扱っている。
第6 手続を選ぶときの確認事項
①担保権者の数と,事業に不可欠な財産(工場,主要店舗,在庫,売掛金)に担保が付いているか
②担保権者が別除権協定に応じる見込みがあるか,担保権消滅に必要な資金を用意できるか
③会社が株式会社か(会社更生は株式会社に限られる)
④負債総額が50億円未満か(東京地方裁判所の小規模会社更生の対象)
⑤DIP型の4要件(経営責任の問題がないこと,主要債権者が反対していないこと,スポンサーの了解,手続の適正な遂行が損なわれる事情がないこと)を満たすか
⑥予納金と,手続中の資金繰り(DIPファイナンス,事業譲渡の見通し)
⑦主要な取引先の中小企業者への弁済(会社更生法47条2項)や少額債権の弁済(同条5項)の必要
第7 関連記事
在庫・売掛金を担保にした借入れ(ABL)と民事再生
ファクタリング・債権流動化は倒産時に譲渡担保とされるか
米国のチャプター11と日本の民事再生手続の徹底比較
早期事業再生法の概要―対象債権,4分の3決議及び裁判所認可
民事再生の担保権消滅許可―売却予定財産も「事業継続に欠くことのできないもの」といえるか
倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理
第8 出典
1 法令
①会社更生法1条・2条・24条・47条・50条・67条・72条・104条・168条・196条・200条(e-Gov法令検索)
②民事再生法31条・38条・53条・148条・172条の3・177条(e-Gov法令検索)
③円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律2条・6条~8条・11条・19条・20条(e-Gov法令検索。令和8年12月11日施行)
2 東京地方裁判所の資料
①東京地方裁判所民事第20部「よくある質問」(会社更生手続についてのQ7~Q9)
②東京地裁における小規模会社更生(小規模DIP型)の標準スケジュール等
③小規模会社更生(小規模DIP型)標準スケジュール
④会社更生手続(DIP型)標準スケジュール
⑤民事再生手続 標準スケジュール
⑥会社更生事件の手続費用一覧(令和6年12月1日)