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競合会社の代表取締役を兼ねる取締役の競業取引――兼任・取引・承認・損害を分けて考える(AI作成)

第1 兼任の事実だけで結論を出さない

ある会社の取締役が、同業他社の代表取締役にも就任した場合、兼任という地位と、その他社のために具体的な取引を行うことを分けて検討する必要がある。
会社法356条1項1号が承認の対象とするのは、取締役が自己又は第三者のために「株式会社の事業の部類に属する取引」をしようとする場合である。
兼任の登記は取引の当事者と時期を調べる重要な端緒となるが、それだけで個々の競業取引の成立や損害額まで証明するものではない。

本記事は令和8年10月2日時点の裁判所公開資料を中心に、取締役の任務懈怠責任を検討する手順を整理する。
同日の確認ではe-Gov法令検索の会社法本文を直接表示できなかったため、条文は逐語引用せず、裁判所の訴状記載例及び後掲の裁判所公開判決に照らして要点を示す。

第2 何が競業取引となるか

1 会社の事業と取引の中身を対比する

まず、兼任先の定款上の目的だけではなく、両社が現実に扱う商品・役務、顧客、地域、取引時期を確認する。
次に、問題の取締役が兼任先を代表して締結した契約、受注、納品など、どの行為を会社の事業の部類に属する取引と主張するのかを特定する。
第三者である競合会社のために取引した場合も356条1項1号の検討対象となる。

2 就任・準備・勧誘と取引成立

大阪地裁令和5年4月17日判決・令和3年(ワ)第11560号25頁~27頁は、原告会社の取締役が競合会社の代表取締役を兼ねた事案である。
裁判所は、在任中の売買契約の証拠とされた請求書データについて、ファイル作成時期、振込先、相手方の回答などを検討し、契約締結も取引の申出も認めなかった。
また、展示会の来場者への名刺交付や取引の勧誘について、在任中に取引が行われていなければ356条・365条違反の競業取引には当たらないとし、この事件では善管注意義務・忠実義務違反も認めなかった。

この判断から、単なる兼任や勧誘を直ちに「取引」と言い換えることはできない。
ただし、準備・勧誘の態様によっては秘密情報の持出しや忠実義務違反など別の問題が生じ得るし、個々の勧誘が取引の申出に至ったかは証拠に即して判断する必要がある。
同判決の結論を、在任中の顧客勧誘が常に適法という一般論に広げてはならない。

第3 承認手続と兼任者の立場

取締役会設置会社では、競業取引に先立ち重要な事実を示して取締役会の承認を受け、取引後にも重要な事実を報告する(会社法356条1項1号、365条)。
取締役会を置かない会社では、事前承認の機関は株主総会である。
兼任先の商号・事業、取引相手、商品・役務、地域、期間、価格その他の重要な条件を具体化し、取引前の議事録に残すことが実務上重要である。
「兼任を了承した」ことと「どの競業取引を承認したか」は同じではない。

取締役会の決議では、当該取締役の特別利害関係の有無を検討し、該当するときは議決に加えない(会社法369条2項)。
競合会社の代表者であるという事実を踏まえ、当該取引についての利害を議事録上明らかにして判断すべきである。
また、競合会社と元の会社が互いに契約する場合には、競業取引の問題とは別に、356条1項2号・3号の利益相反取引にも該当するかを検討する。

承認を得ても、顧客情報の流用や会社に対する説明不足が当然に免責されるわけではない。
東京地裁民事第8部の訴状記載例13頁も、承認済みの競業取引についてなお善管注意義務違反が問題となり得る旨を注記している。
これは訴状の記載例であり、個別事件の判決ではない。

第4 取引が認められた裁判例と在任期間

大阪地裁令和7年4月24日判決・令和3年(ワ)第10753号47頁~49頁では、原告会社の取締役が退任前に競合会社を設立し、その会社で電子応用製品の開発等を行った。
取締役は令和元年末をもって勤務と報酬の支払を終えたが、株主総会で令和2年3月31日付けの辞任に賛成していた。
裁判所は同日まで取締役の義務が続くとし、その間に競合会社が行ったATOUNとの取引を無承認の競業取引と認めた。
他方、主張された別の取引先との在任中の取引は証明されていないとした。

実務では辞任届、会社による承諾、株主総会議事録、登記、報酬や勤務の終了日を時系列で照合する必要がある。
勤務や報酬が先に終わった事実だけで、取締役としての義務もその日に消えたとはいえない。
退任後の競業は、在任中の取引とは期間を区切って検討する。

もっとも,前記令和7年判決56頁~58頁は,在任中に始まったATOUNとの取引から生じた損害の因果関係を検討し,退任後も継続した令和2年6月30日までの取引を算定対象に含めた。退任後の売上を当然に除外する趣旨ではなく,取引の連続性と損害の因果関係を顧客別・期間別に確かめる必要がある。

第5 損害と立証資料

無承認の競業取引によって取締役又は第三者が得た利益の額は、会社に生じた損害額と推定される(会社法423条2項)。
この規定を使うにも、在任中の対象取引、その取引と会社の事業との競合、承認の欠如、利益の主体・額を具体的な証拠で示す必要がある。
兼任先の全売上や退任後の全利益が、そのまま対象となるわけではない。

前記大阪地裁令和7年判決55頁~58頁は、対象顧客との取引期間を絞り、競合会社の売上262万9110円と利益率約61.08%から、対象取引の利益を160万5977円と算定した。
弁護士費用16万0598円を加えた競業避止義務違反関係の認容額は176万6575円である。
裁判所は、原告が主張した別顧客との取引や調査費用をそのまま採用していない。
競合会社も、代表者と認識を共通にして取引した事情から、共同不法行為責任を負うと判断された。

会社側は契約書、発注書、請求・入金記録、納品記録、顧客との通信、兼任先の会計帳簿を取引別に整理する。
取締役側も承認議事録と事後報告、取引と無関係の売上・費用、在任期間外の取引を区分して示すべきである。
前記令和5年判決のように、請求書らしいデータ1件でも、作成履歴や取引相手の回答と整合しなければ取引の証明にはならない。

第6 依頼時の確認順序と関連論点

相談を受けたときは、①両社の実際の事業、②兼任者の役職と在任期間、③顧客ごとの具体的な取引、④事前承認と事後報告、⑤取引別の利益、⑥秘密情報や顧客引抜き等の別個の問題を順に確認する。
承認のない契約が当然に無効となるという結論へ飛躍せず、競業取引を行った取締役の責任、競合会社の不法行為責任、別の利益相反取引の成否を分けて検討する。

会社が取締役の兼任先の債務を保証する場面では、競業取引とは別の利益相反・重要財産処分の論点が生じ得る。
この点は「会社が別会社の債務を保証するときの取締役会決議と利益相反―確認資料と争い方」を参照されたい。
承認議案・議事録の記載事項と利益額の証拠整理は「取締役の競業取引を承認し損害を立証する実務」で扱う。

第7 出典と確認範囲

①会社法(e-Gov法令検索)――令和8年10月2日は本文の直接表示ができず、現行条文の逐語引用はしていない。
②東京地裁民事第8部「取締役の任務懈怠責任」訴状記載例――要件・請求原因の例示であり、判決ではない。
③大阪地裁令和5年4月17日判決・令和3年(ワ)第11560号――兼任、取引不成立、勧誘に関する判断。
④大阪地裁令和7年4月24日判決・令和3年(ワ)第10753号――在任期間、競業取引、利益・損害の判断。

判例秘書は本記事の調査時にログイン状態が失効しており、同データベースを検索できていない。
したがって、上記2判決が関連裁判例の全件であるとの意味ではない。