第1 本記事の対象と結論
1 対象とする資料
本記事は,当ブログに掲載している次の資料を読んで,組織再編税制(合併,分割,現物出資等に係る法人税等の取扱い)の実務上の要点を整理するものである。
基準日は令和8年10月1日である。
東京国税局課税第一部審理課「組織再編税制一問一答(平成24年6月)」
資料は,冒頭の「組織再編税制関係インデックス」4頁と,41問の一問一答から成る全115頁のスキャンPDFである。
インデックスの各行には,掲載区分として「組織再編税制一問一答(平成24年6月)」,作成部署として「東京国税局課税第一部審理課」と記載されており,インデックスの欄外には「2013/9/11」の印刷日時が付いている。
各問は【質問】【回答】【解説】【関係法令通達】の順で書かれ,末尾に「平成23年7月1日現在の法令・通達に基づいて作成しています。」という注記がある。
以下,この資料を「一問一答」と呼び,問の番号はインデックスの番号(001から041まで)に従って「問1」のように示す。
一問一答は,国税局の職員が作成した解説資料であり,法令でも国税庁長官の通達でもないので,納税者や裁判所を拘束するものではない。
もっとも,課税庁の担当部署が組織再編税制をどのように読んでいるかを具体例で示している点で,実務上の参考になる。
本記事では,一問一答の結論が現在も使えるかを確かめるため,法人税法,法人税法施行令及び消費税法施行令の現行条文を照合した。
照合には,判例秘書の「現行法令アーカイブ」(画面の表示では「令和8年8月1日 現在の現行法令」)を用いた。
本記事の作成時は,e-Gov法令検索がシステムメンテナンス中で利用できなかったため,e-Govでの照合はしていない。
2 結論
結論は次のとおりである。
①組織再編成が適格か非適格かは,法令の要件に当たるかどうかで決まり,納税者が選ぶことはできない(問3)。
②適格要件は,合併等の当事者の関係(完全支配関係,支配関係又は共同事業)ごとに異なり,再編後に資本関係が変わる予定や,再編後に更に合併する予定があるときは,その予定まで含めて判定する(問8,問11,問12,問18から問22まで)。
③未処理欠損金額の引継ぎと合併法人自身の欠損金額の使用は,5年前の日からの支配関係又はみなし共同事業要件がなければ制限され,設立日を基準にする特例にも,制限を免れるための迂回を封じる除外規定がある(問25から問34まで)。
④形式的に要件を満たしても,組織再編成を利用した租税回避と認められると,法人税法132条の2により否認され得る(問7)。
最高裁判所は,平成28年2月29日の2つの判決で,その判断基準を示している。
⑤一問一答は平成23年7月1日現在の法令に基づくので,欠損金額の繰越期間(現在は10年),無対価合併・無対価分割の適格要件,再編後の再編の扱い,親法人株式のみなし譲渡の項番号,減価償却の方法等は,現行法に読み替えて使う必要がある。
第2 一問一答の構成
一問一答の41問は,インデックスの分類によると次のとおりである。
| 分類 | 問 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 共通 | 問1~問5 | 支配関係と完全支配関係,適格・非適格の選択の可否,資産等の移転の取扱い,「同一の者」と「一の者」 |
| 合併 | 問6~問12,問14,問15,問25~問34 | 合併の適格判定,三角合併,未処理欠損金額の引継ぎと制限 |
| 分割 | 問16~問23,問38 | 無対価分割,分割後の資本参加・合併,主要な資産負債,新設法人の償却率 |
| 現物出資 | 問24 | 外国法人による現物出資 |
| その他 | 問13,問35~問37,問39~問41 | 事業規模要件,棚卸資産・減価償却資産,申告期限の延長,消費税 |
第3 共通事項
1 支配関係と完全支配関係
一問一答は,「支配関係」を,一の者が法人の発行済株式等の50%を超えて直接又は間接に保有する関係と,一の者との間にその関係がある法人相互の関係であると説明する(問1)。
「完全支配関係」は,これを100%にしたものである(問2)。
一の者が個人である場合には,その個人だけでなく,親族等の特殊の関係のある個人を含めて保有割合を数える(法人税法施行令4条の2第1項・第2項)。
発行済株式等からは,その法人が有する自己株式を除くので,A社がB社株式の97%を持ち,残り3%をB社が自己株式として持つ場合,A社の保有割合は100%になる(問9)。
また,完全支配関係の判定では,従業員持株会が取得した株式と役員等が新株予約権の行使で取得した株式の合計が5%未満であれば,その株式を発行済株式等から除く(同条2項。問2)。
これらの点は,現行の法人税法施行令4条の2でも同じである。
2 適格か非適格かは選べない
一問一答は,適格合併の要件を満たす合併について,適格か非適格かを法人が選ぶことはできないとし,合併以外の組織再編成でも同じであるとする(問3)。
帳簿価額による引継ぎを望まない場合でも,要件に当たれば適格として扱われるので,含み損を実現させる目的で再編を設計するときは注意が要る。
3 資産等の移転の取扱い
一問一答は,資産等の移転の取扱いを次のように整理している(問4)。
| 形態 | 適格の場合 | 非適格の場合 |
|---|---|---|
| 合併 | 被合併法人は帳簿価額による引継ぎ,合併法人も帳簿価額で引継ぎ | 被合併法人は時価による譲渡,合併法人は時価による取得 |
| 分割型分割 | 分割法人・分割承継法人とも帳簿価額による引継ぎ | 時価による譲渡・取得 |
| 分社型分割 | 帳簿価額による譲渡・取得 | 時価による譲渡・取得 |
| 現物出資 | 帳簿価額による譲渡・取得 | 時価による譲渡・取得 |
| 現物分配 | 帳簿価額による譲渡・取得 | 時価による譲渡・取得 |
一問一答は,根拠として法人税法22条2項,62条1項,62条の2第1項・第2項,62条の3第1項,62条の4第1項,62条の5第1項・第3項等を挙げている。
引継ぎの場合には,取得日等の従前の課税関係も引き継ぐことになる(問36。第7の2)。
4 「同一の者」と「一の者」
一問一答は,完全支配関係がある法人間の合併の要件にいう「同一の者」には特殊関係のある個人が含まれる一方,無対価合併が適格となる関係を定めた規定(当時の法人税法施行令4条の3第2項2号ロ)の「一の者」には含まれず,文字どおり1人を指すとしていた(問5)。
例えば,Xが合併法人の株式の70%,被合併法人の株式の90%を持ち,Xの妻が残りを持つ場合,Xと妻を合わせた「同一の者」による完全支配関係はあるが,X1人では双方の全株式を持っていないので,当時の規定では無対価合併は適格にならないという説明である。
もっとも,無対価合併が適格となる関係は,平成30年政令第132号による改正で書き改められた(第4の4)。
現行の同号ロは,「一の者」ではなく,被合併法人及び合併法人の株主等の全てについて持株割合が等しいかどうかで判定するので,問5の「一の者」の議論は,現行法の無対価合併の判定には,そのままでは当てはまらない。
他方で,同号柱書の「同一の者」に特殊関係のある個人が含まれるという点は,完全支配関係の定義(法人税法施行令4条の2第2項)から導かれるものであり,現在も同じである。
第4 適格合併の判定
1 3つの類型と対価要件
適格合併は,次のいずれかに当たる合併で,被合併法人の株主等に合併法人又は合併親法人のいずれか一の法人の株式以外の資産が交付されないものである(法人税法2条12号の8)。
①完全支配関係がある法人間の合併(同号イ)
②支配関係がある法人間の合併で,従業者の引継ぎと事業の継続が見込まれるもの(同号ロ)
③共同で事業を行うための合併(同号ハ)
現行の同号は,平成23年当時と比べて,次の2点で範囲が広がっている。
第一に,合併の直前に合併法人が被合併法人の発行済株式等の3分の2以上を有する場合に,合併法人以外の株主等に交付される金銭その他の資産は,交付が禁じられる資産から除かれている。
第二に,支配関係がある法人間の合併の従業者引継要件と事業継続要件について,合併法人との間に完全支配関係がある法人の業務や,合併後の適格合併で事業が移る先の法人の業務も含めて判定する。
一問一答の対価要件の説明(各問の解説の冒頭)は,この2点を反映していない。
2 外国法人が株主である子会社同士の合併
外国法人P社が発行済株式の全部を持つ内国法人A社とB社の合併について,一問一答は,完全支配関係の「同一の者」から外国法人は除かれていないので,P社による完全支配関係があり,合併後もP社がA社株式の全部を持ち続ける見込みであれば適格合併になるとする(問6)。
3 合併後に合併法人が他社から資本参加を受ける場合
親会社A社の100%子会社であるB社とC社が合併し,その後にB社が資本関係のないD社から20%の出資を受ける予定の場合,合併後にA社による完全支配関係は続かない(問8)。
一問一答は,この場合でも,A社の持株割合が80%で支配関係は続くので,支配関係がある法人間の合併の要件,すなわち従業者引継要件(被合併法人の従業者のおおむね80%以上が合併法人の業務に従事する見込み),事業継続要件及び対価要件を満たせば,適格合併になるとする。
完全支配関係のつもりで計画していても,再編後の資本政策によっては,支配関係の要件で判定し直すことになる点に注意が要る。
4 無対価合併
無対価合併とは,被合併法人の株主等に合併法人の株式その他の資産が交付されない合併である。
親会社A社が全株式を持つB社とC社の無対価合併について,一問一答は,合併前にA社がB社とC社の全株式を持つ関係(当時の法人税法施行令4条の3第2項2号ロ)に当たり,合併後もA社がB社の全株式を持ち続けるので適格合併になるとする(問10)。
現行の法人税法施行令4条の3第2項は,無対価合併について次の関係がある場合に限って完全支配関係による適格を認める。
①合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係(同項1号)
②同一の者による完全支配関係がある場合のうち,合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係(同項2号イ)
③同一の者による完全支配関係がある場合のうち,被合併法人と合併法人の株主等(両法人を除く。)の全てについて,その者が持つ被合併法人株式の割合と合併法人株式の割合が等しい関係(同項2号ロ)
この規定は平成30年政令第132号により改められたもので,同政令の附則3条により,平成30年4月1日以後に行われる合併に適用されている。
問10の事例は,A社の持株割合が両社とも100%で等しいので,現行法でも③に当たり,結論は変わらない。
他方で,例えば兄弟会社の株主が親族2名で,その持株割合が会社ごとに異なる場合には,同一の者による完全支配関係はあっても,③に当たらないので,無対価合併は適格にならない。
無対価合併を計画するときは,両社の株主名簿を並べて,株主ごとの持株割合を比べる必要がある。
5 合併後に更に合併を予定している場合
兄弟会社同士の合併(最初の合併)では,合併後も同一の者による完全支配関係が続く見込みであることが要件になる。
一問一答は,最初の合併の後に,親会社(同一の者)を被合併法人とする適格合併(2回目の合併)が予定されている場合でも,2回目の合併の合併法人による完全支配関係が続く見込みであれば,最初の合併は適格合併になるとする(問11)。
また,最初の合併の合併法人自身が2回目の合併の被合併法人になる予定の場合は,最初の合併の時から2回目の合併の直前の時まで完全支配関係が続く見込みであればよいとする(問12)。
現行法では,後者は法人税法施行令4条の3第2項2号のかっこ書に,前者は同条25項に規定されている。
同条25項は,同一の者を被合併法人とする適格合併が見込まれている場合に,その適格合併の合併法人を,適格合併後は同一の者とみなして要件を当てはめる規定である。
問11及び問12の結論は現行法でも変わらないが,根拠の条項は異なる。
6 事業規模要件の比較期間
共同事業を行うための合併の要件の一つである事業規模要件は,被合併事業と合併事業の売上金額,従業者の数,資本金の額等の規模の割合がおおむね5倍を超えないことである(法人税法施行令4条の3第4項2号)。
同号は,この事業規模要件に代えて,被合併法人と合併法人の特定役員(社長,副社長,代表取締役,専務取締役,常務取締役等)のいずれかが合併後に合併法人の特定役員となる見込みがあることでもよいとしている。
一問一答は,売上金額を比べる期間の定めはないが,合併前1年間の売上金額で比べれば季節変動等の事情が除かれるので差し支えないとし,比べる期間の長さは同じにするとしている(問13)。
また,いずれか一つの指標が要件を満たせばよい(法人税基本通達1-4-6(注))。
合併前1年間という期間は,通達ではなく一問一答の見解である。
7 三角合併と親法人株式
合併の対価として合併法人の親会社の株式(合併親法人株式)だけを交付する三角合併も,対価要件を満たす(問14)。
一問一答は,会社法上,吸収合併の対価の種類は特に限定されていないこと(会社法749条1項2号等)を前提にしている。
問題は,合併法人が交付のために持っている親法人株式の含み益である。
法人が合併等の対価として親法人株式を交付しようとする場合,契約日にその親法人株式を有していたときは,契約日の価額で譲渡し,同じ価額で取得したものとみなされる(現行の法人税法61条の2第24項)。
一問一答は,帳簿価額1億円の親法人株式の契約日の時価が3億円であった事例で,差額2億円を契約日の属する事業年度の益金の額に算入すると回答している(問15)。
この規定は合併が適格か非適格かを問わず適用され,その後,適格合併で親法人株式を交付した時には,直前の帳簿価額で譲渡したことになるので,交付の時の譲渡損益は生じない(現行の同条6項。金銭等不交付合併に限る。)。
一問一答はみなし譲渡の根拠を「法法61の2㉒」としているが,現在は24項に繰り下がっている。
第5 適格分割と現物出資
1 無対価分割は分割型分割か分社型分割か
100%兄弟会社の間で,分割承継法人の株式を交付しない分割(無対価分割)をする場合,分割の直前に分割法人が分割承継法人の株式を持っていなければ,分割型分割に当たる(法人税法2条12号の9ロ。問16)。
分割法人が分割承継法人の株式を持っている場合(分割承継法人が分割法人の全株式を持つ場合を除く。)は,分社型分割である(同条12号の10ロ)。
これらの定義は現行法でも同じである。
2 孫会社への無対価分割は適格にならない
A社がB社の全株式を,B社がC社の全株式を持つ場合に,A社がC社へ事業を移す無対価分割をしても,一問一答は,無対価分割が適格となる類型のいずれにも当たらないので,適格分割にならないとする(問17)。
現行の法人税法施行令4条の3第6項1号ロも,当事者間の完全支配関係による無対価分割を,分割法人が分割承継法人の発行済株式等の全部を保有する関係がある場合に限っており,A社自身はC社株式を持っていないので,結論は変わらない。
グループ内で事業を移す場合には,無対価にするか対価を交付するかで適格性が変わり得るので,資本関係図を作って確かめる必要がある。
3 分割後の資本参加と分割後の合併
分割の後に分割承継法人が他社から資本参加を受ける場合も,合併と同じく,支配関係が続く見込みであれば,主要な資産負債の移転,従業者引継ぎ,事業継続及び対価の要件を満たして適格分割になり得る(問18,問19)。
分割の後に,分割法人,分割承継法人又は同一の者を被合併法人とする適格合併が予定されている場合について,一問一答は,いずれも適格分割に当たり得るとする(問20から問22まで)。
現行法では,分割承継法人等が合併される場合は法人税法施行令4条の3第6項1号ロのかっこ書等で,分割法人や同一の者が合併される場合は同条25項で扱われており,結論は変わらない。
4 「主要な資産及び負債」の判定
支配関係がある法人間の分割では,分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していることが要件になる(法人税法2条12号の11ロ(1))。
主要かどうかは,分割法人がその事業を行う上での資産負債の重要性のほか,種類,規模,事業再編計画の内容等を総合的に勘案して判定する(法人税基本通達1-4-8)。
一問一答は,製造業であれば工場の建物や製造設備,貸金業であれば貸付金や借入金が主要な資産負債に当たると考えられるとし,鉄道車両部品の製造業を分割する事例では,少なくとも工場用の建物や製造設備は主要な資産に当たるとする(問23)。
5 外国法人による国外資産の現物出資
外国法人が,日本の子会社に国外の事業所に属する資産を現物出資する場合,一問一答は,適格現物出資から除かれる類型に当たるので,適格現物出資にならないとする(問24)。
現行の法人税法2条12号の14も,外国法人が内国法人に本店等を通じて行う事業に係る資産(国内にある不動産等を除く。)の移転を行う現物出資を適格現物出資から除いている。
条文の文言は大きく改められているが,問24の結論は変わらない。
第6 未処理欠損金額の引継ぎと制限
1 引継ぎの原則と繰越期間
適格合併の場合,被合併法人の未処理欠損金額は,合併法人の欠損金額とみなされて繰越控除の対象になる(法人税法57条2項)。
引き継ぐ欠損金額は,合計額ではなく,生じた事業年度ごとに扱われ,被合併法人のその事業年度の開始の日が属する合併法人の事業年度に生じたものとみなされる(問31)。
合併法人に対応する事業年度がない場合(合併法人の設立が新しい場合等)には,対応する事業年度があるものとみなす特例がある(法人税法施行令112条2項。問32)。
一問一答は,繰越控除の対象を「前7年内事業年度」に生じた欠損金額としている。
現行の法人税法57条1項及び2項は,これを10年としている。
ただし,平成30年4月1日前に開始した事業年度に生じた欠損金額は,所得税法等の一部を改正する法律(平成27年法律第9号)附則27条1項により従前の例によるとされている(現行の法人税法の附則のうち,令和2年法律第8号附則の読替規定で確認した。)。
また,繰越控除できる額は,中小法人等を除き,各事業年度の所得の金額の100分の50が限度である(法人税法57条1項ただし書,同条11項1号)。
一問一答の問25から問33までの数値例は,この期間と限度額の点で現在の計算と異なる。
2 引継制限がかからない3つの場合
支配関係がある法人間の適格合併では,次のいずれにも当たらないと,被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎが制限される(法人税法57条3項)。
①みなし共同事業要件を満たす場合(問25)
②合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日から継続して支配関係がある場合(問26)
③5年前の日より後に設立された法人については,設立の日から継続して支配関係がある場合(問27)
みなし共同事業要件は,事業関連性要件,事業規模要件(おおむね5倍以内),被合併事業と合併事業の規模継続要件(支配関係発生時から合併直前までおおむね2倍以内)の全部,又は事業関連性要件と特定役員引継要件(双方の特定役員のいずれかが合併後に合併法人の特定役員になる見込み)である(法人税法施行令112条3項)。
一問一答は,買収の4か月後に合併する事例でも,みなし共同事業要件を満たせば,被合併法人の欠損金額を制限なく引き継げ,合併法人の欠損金額にも制限はないとする(問25)。
3 設立日を基準にする場合の除外
③の設立日を基準にする扱いには,制限を免れるための迂回を封じる除外がある(法人税法施行令112条4項2号イからハまで)。
一問一答は,次の3つの事例で,引継ぎ又は使用ができないとする。
①欠損金額を持つC社を買収した後,新たにB社を設立し,B社がC社を適格合併して欠損金額を引き継ぎ,その後に親会社A社がB社を合併する場合(問28)
②C社を買収した後,C社株式を現物出資してB社を設立し,C社の残余財産の確定によりB社がC社の欠損金額を引き継いだ後,A社がB社を合併する場合(問29)
③含み益のある土地を持つC社を買収した後,新設分割で土地をB社に移し,A社がB社を合併して土地を売却し,A社自身の欠損金額と相殺しようとする場合(問30)
一問一答は,いずれもB社を設立しなければ制限を受けた取引であり,B社の設立によって制限を免れることを防ぐために除外が置かれていると説明している。
これらの除外の構造は,現行の法人税法施行令112条4項でも同じである。
4 制限される欠損金額
引継制限がかかる場合でも,全部が引き継げなくなるわけではない。
制限されるのは,①支配関係が生じた日の属する事業年度(支配関係事業年度)より前の事業年度に生じた欠損金額と,②支配関係事業年度以後に生じた欠損金額のうち,支配関係発生日前から持っていた資産の譲渡等による損失(特定資産譲渡等損失額)に相当する部分である(法人税法57条3項各号)。
一問一答は,平成21年4月1日に買収した会社の欠損金額のうち,平成21年3月期以前の分と,平成23年3月期の欠損金額4,000万円のうち平成3年取得の土地の譲渡損失3,000万円の部分が制限されるとしている(問33)。
5 支配関係の起算は当事者の間で見る
A社が,C社を適格合併してC社の100%子会社であったB社の株式を引き継ぎ,その後にB社を合併する場合,C社がB社を長く支配していても,A社とB社の間に支配関係が生じたのはA社がC社を合併した日である(問34)。
一問一答は,元々のB社とC社の間の支配関係は引き継がれないので,5年前の日からの継続した支配関係はなく,引継制限を受けるとしている。
6 合併法人自身の欠損金額の使用制限
制限は,被合併法人から引き継ぐ欠損金額だけでなく,合併法人が元々持っている欠損金額にも及ぶ(法人税法57条4項)。
5年前の日からの継続した支配関係等がない場合,合併法人の支配関係事業年度前の欠損金額等は,ないものとされる(問30)。
含み益のある資産を持つ会社を買収して合併し,自社の欠損金額で含み益を相殺する取引を防ぐ趣旨である。
第7 包括的否認規定(法人税法132条の2)
1 一問一答の問7
A社がB社株式の80%を持ち,残り20%を買い取って100%子会社にした直後にB社を合併する場合について,一問一答は,形式的には適格合併の要件を全て満たしても,B社を100%子会社として合併することが法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には,組織再編成に係る行為又は計算の否認の規定が適用される可能性があるとする(問7)。
仮にA社がB社を100%子会社にしなければ適格要件を満たさない場合に,適格合併とすることで税負担が減るときが想定されている。
法人税法132条の2は,合併,分割,現物出資,現物分配,株式交換等又は株式移転に係る法人の行為又は計算で,これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,税務署長がその行為又は計算にかかわらず法人税額等を計算できると定めている。
2 最高裁平成28年2月29日の2判決
最高裁判所第一小法廷平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第75号,民集70巻2号242頁)(いわゆるヤフー事件)は,同条の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは,「法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいう」と判示した。
同判決は,濫用の有無の判断に当たっては,①当該法人の行為又は計算が,通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり,実態とは乖離した形式を作出したりするなど,不自然なものであるかどうか,②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するとした。
その上で,組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって,組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当であるとした。
事案は,買収した会社の欠損金額を引き継ぐため,買収前に親会社の代表取締役社長が被買収会社の取締役副社長に就任し,特定役員引継要件を満たす形を作ったというもので,同判決は,この就任が同条の否認の対象に当たるとした原審の判断を是認し,上告を棄却した。
同日の最高裁判所第二小法廷平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第177号,民集70巻2号470頁)(いわゆるIDCF事件)も同じ判断基準を示し,分割法人が,新設分割で設立した分割承継法人の発行済株式全部を譲渡する計画を前提として行われた分割について,同条の対象に当たるとした原審の判断を是認し,上告を棄却した。
3 5年を超える支配関係があっても否認された下級審の例
東京地方裁判所令和元年6月27日判決(平成28年(行ウ)第508号)は,親会社が完全子会社を吸収合併して未処理欠損金額を引き継いだ事案である。
同判決の認定によれば,親会社は,合併の直前に,子会社と商号,目的及び役員構成を同じくする新会社を設立し,合併と同じ日に,子会社の全従業員を新会社に転籍させ,棚卸資産等を新会社に譲渡し,製造設備を新会社に賃貸した。
同判決は,5年を超える資本関係の要件を満たす適格合併であっても同条の適用が排除される理由はないとし,未処理欠損金額の引継ぎが同条にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるとして,請求を棄却した。
本記事では,この判決の控訴審の結論は確認していない。
4 実務上の意味
これらの判決からすると,一問一答が個別の要件ごとに示した結論は,要件の形式的な当てはめにとどまり,最終的には,再編の手順の自然さと事業目的の有無を説明できるかが問われる。
再編の直前に資本関係や役員構成を整える取引,再編の直後に事業や従業員を別会社へ移す取引は,その理由を取締役会資料等で説明できるようにしておく必要がある。
第8 合併後の会計処理・申告・消費税
1 棚卸資産の評価方法
吸収合併で被合併法人の工場の移転を受けた合併法人は,同じ種類の事業については,原則として既に選定している評価方法で棚卸資産を評価する(問35)。
もっとも,事業所別に異なる評価方法を選定することは認められているので(法人税基本通達5-2-12),合併の日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までに評価方法の届出をすれば,被合併法人が採用していた方法によることができるとされている(問35)。
2 減価償却資産の取得日と償却方法
適格合併では従前の課税関係を引き継ぐので,減価償却資産の取得日も引き継がれる(問36)。
例えば,平成10年3月31日以前に取得された建物の移転を受けた合併法人は,旧定額法又は旧定率法を選定でき,既に同じ区分の建物について旧定率法を選定していれば,届出なしに旧定率法で償却できる(問36)。
合併で工場の移転を受けて操業する場合は新たに事業所を設けたことになるので,合併の日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までに届け出れば,その事業所について別の償却方法を選定できるとされている(問36,問37)。
新設分割で設立された法人の最初の事業年度が1年未満の場合には,事業年度が1年未満の場合の償却率による(例えば定率法の償却率0.500で6か月なら0.250。問38)。
一問一答の償却方法の表は,平成23年当時のものである。
現行の法人税法施行令48条の2第1項1号は,平成28年4月1日以後に取得された建物附属設備及び構築物について,定額法だけを認めている。
平成19年4月1日以後に取得された資産の定率法は,平成24年4月1日以後に取得されたものが200%定率法,それより前に取得されたものが250%定率法である(同号イ(2))。
取得日を引き継ぐ資産については,取得日ごとに選定できる方法を確かめる必要がある。
3 申告期限の延長
事業年度の中途で合併により解散した被合併法人は,事業年度開始の日から合併の日の前日までの期間が事業年度とみなされる(法人税法14条1項2号)。
被合併法人が確定申告書の提出期限の延長の特例(同法75条の2)を受けていた場合,一問一答は,同条は残余財産の確定の日の属する事業年度を除くとするだけで,合併によるみなし事業年度を除いていないので,みなし事業年度の申告期限も延長されるとする(問39)。
4 消費税
合併による資産及び負債の移転は,会社法上の包括承継であり,消費税法施行令2条1項4号が「承継」から包括承継を除いているので,適格・非適格を問わず,消費税の課税の対象にならない(問40)。
一問一答は,分割も不課税,現物出資は課税(同項2号),現物分配は不課税と整理している(問40)。
また,被合併法人の消費税の課税期間は,原則として,法人税法上の事業年度とみなされた期間になる(問41)。
第9 一問一答と現行法の主な違い
| 項目 | 一問一答(平成23年7月1日現在) | 現行法(令和8年8月1日現在) |
|---|---|---|
| 欠損金額の繰越期間 | 前7年内事業年度 | 前10年内事業年度(平成30年4月1日前に開始した事業年度の欠損金額は従前の例) |
| 繰越控除の限度 | 記載なし | 中小法人等を除き所得の金額の100分の50 |
| 対価要件 | 合併法人株式又は合併親法人株式以外の資産の交付がないこと | 3分の2以上を保有する合併法人による少数株主への金銭等の交付は除外 |
| 従業者・事業の引継先 | 合併法人 | 合併法人との間に完全支配関係がある法人等を含む |
| 無対価合併 | 「一の者」が双方の全株式を保有する関係等 | 株主等の持株割合が等しい関係等(平成30年4月1日以後の合併) |
| 再編後の再編 | 各規定のかっこ書 | かっこ書と法人税法施行令4条の3第25項のみなし規定 |
| 親法人株式のみなし譲渡 | 法人税法61条の2第22項 | 同条24項 |
| 建物附属設備・構築物の償却 | 定額法又は定率法 | 平成28年4月1日以後取得分は定額法のみ |
この表に掲げたほかにも,その後の改正で,株式分配(いわゆるスピンオフ)や株式交換等の制度が加わっている。
一問一答を使うときは,問の結論を引用する前に,その問が依拠する条項の現在の項番号と文言を確かめる必要がある。
第10 実務上の判断手順と注意点
1 判断手順
組織再編成の相談を受けたときは,次の順で確かめると漏れが少ない。
①再編の前後の資本関係図を作り,株主ごとの持株割合を書き込む(自己株式は除き,完全支配関係の判定では5%未満の従業員持株会等の株式も除く。)。
②当事者の関係が,完全支配関係,支配関係又はそれ以外のどれに当たるかを決め,再編後の資本参加,株式譲渡,更なる合併の予定まで書き出す。
③対価の内容(株式,親法人株式,金銭,無対価)を確かめ,無対価の場合は現行の法人税法施行令4条の3の該当類型を確かめる。
④支配関係又は共同事業の類型では,従業者の人数,主要な事業,主要な資産負債,事業規模,特定役員の見込みを資料で確かめる。
⑤当事者が欠損金額を持つ場合は,支配関係が生じた日,設立日,5年前の日を並べ,みなし共同事業要件と法人税法施行令112条4項の除外に当たらないかを確かめる。
⑥含み損益のある資産について,特定資産譲渡等損失額の制限(法人税法62条の7)を確かめる。
⑦三角合併等で親法人株式を使う場合は,契約日の保有と時価を確かめる。
⑧棚卸資産と減価償却資産の届出の期限,申告期限の延長,消費税の課税期間を確かめる。
⑨再編の手順と事業目的を説明する資料を整え,法人税法132条の2のリスクを検討する。
2 注意点
一問一答は,個別の問いに対する国税局の担当部署の見解であり,具体的な取引への適用は,事実関係によって変わり得る。
重要な取引では,国税庁の文書回答手続による事前照会や,税理士との協議を検討すべきである。
また,組織再編成の会社法上の手続(合併契約,株主総会決議,債権者保護手続等)と税務上の適格判定は別のものであり,会社法上有効な再編でも税務上は非適格になり得る。
合併比率等の会社法上の論点は,吸収合併の合併比率が不公正なときの少数株主の手段―事前開示,差止め,株式買取請求,決議取消し及び合併無効の訴えで整理している。
第11 別の機会に掘り下げる点
本記事は一問一答の整理と現行法との主な違いの確認を中心としており,次の点は別の機会に検討する。
①テーマ:株式交換等・株式移転と適格株式分配の適格要件。
未検討点:一問一答は合併・分割・現物出資を中心としており,その後に整備された株式交換等,株式移転及び株式分配の要件は確認していない。
②テーマ:グループ通算制度と組織再編成の欠損金額の関係。
未検討点:令和2年度改正で導入されたグループ通算制度への加入・離脱時の欠損金額の制限と,本記事の引継制限との関係は確認していない。
③テーマ:ヤフー事件・IDCF事件以後の法人税法132条の2の裁判例。
未検討点:東京地方裁判所令和元年6月27日判決の控訴審の結論と,その後の裁決例・裁判例は確認していない。
④テーマ:組織再編成に係る消費税の納税義務の特例。
未検討点:合併・分割があった場合の納税義務の免除の特例(基準期間の課税売上高の合算等)は確認していない。
⑤テーマ:一問一答の各問の数値例の現行法による再計算。
未検討点:問25から問33までの数値例を,前10年内事業年度と繰越控除の限度額に当てはめて計算し直していない。
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第13 出典
1 本記事で読んだ資料
①東京国税局課税第一部審理課「組織再編税制一問一答(平成24年6月)」(インデックス4頁を含む全115頁。各問は平成23年7月1日現在の法令・通達に基づく。)
2 法令・通達
①法人税法2条12号の7の5,12号の7の6,12号の8,12号の9,12号の10,12号の11,12号の14,14条1項2号,57条1項から4項まで及び11項,61条の2第6項及び24項,75条の2第1項並びに132条の2
②法人税法施行令4条の2第1項・第2項,4条の3第2項,4項,6項及び25項,48条の2第1項並びに112条2項から4項まで
③平成30年政令第132号附則1条及び3条
④消費税法施行令2条1項2号及び4号
⑤会社法749条1項
⑥国税庁・法人税基本通達第1章第4節1-4-6及び1-4-8
⑦国税庁・法人税基本通達第5章第2節5-2-12
①から④までは,判例秘書の現行法令アーカイブ(令和8年8月1日現在の現行法令)で確認した。
本記事の作成時(令和8年10月1日)は,e-Gov法令検索がシステムメンテナンス中で利用できなかったため,e-Govでの照合はしていない。
⑤は一問一答の記載によるものであり,本記事では条文を照合していない。
3 裁判例
①最高裁判所第一小法廷平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第75号,民集70巻2号242頁)(裁判所ウェブサイト)
②最高裁判所第二小法廷平成28年2月29日判決(平成27年(行ヒ)第177号,民集70巻2号470頁)(裁判所ウェブサイト)
③東京地方裁判所令和元年6月27日判決(平成28年(行ウ)第508号)(裁判所ウェブサイト)