第1 結論と対象
法人が資産を時価より低い対価で譲り受けた場合,買主法人には,原則として,取得時の適正な価額と実際の対価との差額に相当する受贈益が生じ得る。対価を支払っているため「贈与ではない」と直ちに処理することはできない。
検討の順序は,①取得した資産と取引単位,②取得時の時価,③実際の対価,④当事者の関係,⑤完全支配関係に関する益金不算入の有無,⑥売主側の課税,⑦買主側の取得価額である。本記事は令和8年9月24日現在の法令及び公表資料を基準とする。
第2 法人側に受贈益が生じる基本構造
法人税法22条2項は,各事業年度の所得計算上の益金に,有償又は無償による資産の譲渡,役務の提供,無償による資産の譲受けその他の取引に係る収益を含める。国税庁が公表する平成27年の税務訴訟資料(順号12643)は,適正な額より低い対価で資産を譲り受けた場合にも,対価と譲受時の適正な価額との差額が無償による資産の譲受けに類する受贈益として収益を構成すると判断している。
したがって,仕訳だけで結論は変わらない。契約書に売買と記載され,代金の支払があっても,税務上は低額部分を独立して認識する必要がある。反対に,時価との差があるように見えても,数量,支払条件,瑕疵,処分費用,換金制約その他の条件差を合理的に説明できれば,そもそも比較した価格が同じ条件の時価でない可能性がある。
第3 時価と取得価額
1 基準時は取得時である
比較するのは,原則として,法人が資産を取得した時点における適正な価額と実際の対価である。契約締結日,引渡日,所有権移転日又は停止条件成就日が異なるときは,契約の効力発生と資産取得の時点を資料から確定する。
2 評価方法は資産の性質に応じる
上場有価証券,不動産,非上場株式,営業権,債権,知的財産権では,時価を示す資料が異なる。売買実例を用いるときは,評価日,数量,権利内容,支配権,付随契約,情報量,支払条件及び当事者の特殊関係を比較する。相続税評価額,帳簿価額又は固定資産税評価額を用いたことだけで法人税法上の時価が確定するものではない。
3 取得価額との対応
無償又は低額で取得した資産について受贈益を時価まで認識する場合,その資産の取得価額も,資産の種類に応じた法人税法施行令の規定により,通常要する価額を基礎として検討する。実際の支払額だけを取得価額とすると,同じ価値移転について取得時に受贈益を計上しながら,将来の譲渡又は償却で対応する原価を認識できないという不整合が生じる。
第4 完全支配関係がある法人間の例外
法人税法25条の2は,内国法人が,法人による完全支配関係がある他の内国法人から受けた受贈益のうち,贈与側の寄附金に対応するものを益金不算入とする。贈与側では,同法37条の完全支配関係にある法人間の寄附金に関する損金不算入が対応する。
ただし,「同じオーナーの会社」というだけでは足りない。完全支配関係の連鎖,直接・間接保有,国内法人か,法人による支配か,取引時点の資本関係,寄附金額との対応を確認する。国税庁の法人税基本通達4-2-4及び4-2-5も,寄附金に対応しない受贈益には益金不算入が及ばない場合があることを示している。
個人による完全支配関係にある法人間の価値移転は,法人による完全支配関係と同じ取扱いになるとは限らない。株主間の贈与税その他の問題も生じ得るため,資本関係図と価値移転前後の株式価値を分けて検討する。
第5 売主が個人の場合
1 法人への著しい低額譲渡
個人が法人へ譲渡所得の基因となる資産を著しく低い価額で譲渡した場合,所得税法59条1項2号により,時価で譲渡したものとみなされることがある。同法施行令169条は,著しく低い価額の基準を時価の2分の1に満たない金額とする。
2分の1という基準は,個人から法人へのみなし譲渡の判定であり,買主法人の受贈益が生じるかどうかの一般的な安全基準ではない。また,個人間の低額譲受けに関する相続税法7条の「著しく低い価額」とも同じではない。
2 役員・株主から会社への移転
売主が買主法人の役員又は株主であるときは,単純な第三者間売買とせず,増資,現物出資,債務免除,配当又は株主間の価値移転との関係を確認する。会社法上の手続及び会計処理と法人税の所得計算は,根拠を分けて整理する。
第6 売主が法人の場合
法人が資産を時価より低額で譲渡した場合,譲渡法人側では,法人税法22条2項に基づく時価相当額の譲渡収益と,対価との差額に係る寄附金,給与その他の性質を検討する。最高裁平成7年12月19日第三小法廷判決(民集49巻10号3121頁)は,無償譲渡と低額譲渡の益金認識を考える上で参照される。
差額の性質は相手方との関係で変わる。取引先への経済的利益であれば寄附金,役員又は従業員への利益であれば給与,株主への利益移転であれば配当等の問題が生じ得る。消費税は法人税と同じ時価課税になるとは限らず,役員への著しい低額譲渡等の個別規定を確認する。
第7 実務上の確認資料
- 契約書,見積書,価格交渉,取締役会議事録及び利益相反手続。
- 取得日を確定する引渡書,登記,名義書換,検収及び条件成就資料。
- 同時期の売買実例,鑑定書,算定書及び評価前提。
- 当事者の資本関係図,完全支配関係の判定資料及び取引前後の株主構成。
- 売主が個人か法人か,居住者・内国法人か,関連当事者かを示す資料。
- 買主の仕訳,税務申告調整,固定資産台帳及び将来譲渡時の取得価額資料。
- 売主側の譲渡収益,寄附金,給与,みなし譲渡及び消費税の検討記録。
価格算定書には,結論だけでなく,基準日,採用方法,除外した方法,主要数値,感応度及び第三者取引との差を記載する。後日,申告担当者が変わっても同じ資料から判断過程を再現できる状態にする。
第8 確認済み事項と未確認事項
確認済みは,法人税法22条,25条の2及び37条,所得税法59条,所得税法施行令169条,国税庁の法人税基本通達並びに公表税務訴訟資料である。
資料の記述として,国税庁公表の平成27年税務訴訟資料は,低額譲受けの差額が受贈益として収益を構成すると判断している。
未確認は,個別資産の時価,非公開の契約資料及び判例秘書を用いた同種事案の網羅的な検索である。したがって,本記事だけから個別取引の申告額を決めることはできない。
第9 出典・関連記事
①e-Gov法令検索「法人税法」22条,25条の2,37条
②e-Gov法令検索「所得税法」59条
③国税庁「完全支配関係がある法人間の受贈益」
④国税庁「税務訴訟資料・順号12643」
⑤国税庁「所得税基本通達・法第59条関係」
⑥従業員持株会における株式譲渡価格の税務上の取扱い(AI作成)