第1 結論と対象
法人が資産を時価より低い対価で譲り受けた場合,買主法人には,原則として,取得時の適正な価額と実際の対価との差額に相当する受贈益が生じ得る。対価を支払っているため「贈与ではない」と直ちに処理することはできない。
検討の順序は,①取得した資産と取引単位,②取得時の時価,③実際の対価,④当事者の関係,⑤完全支配関係に関する益金不算入の有無,⑥売主側の課税,⑦買主側の取得価額である。本記事は令和8年9月28日現在の法令及び公表資料を基準とする。
第2 法人側に受贈益が生じる基本構造
法人税法22条2項は,各事業年度の所得計算上の益金に,有償又は無償による資産の譲渡,役務の提供,無償による資産の譲受けその他の取引に係る収益を含める。国税庁が公表する平成27年の税務訴訟資料(順号12643)は,適正な額より低い対価で資産を譲り受けた場合にも,対価と譲受時の適正な価額との差額が無償による資産の譲受けに類する受贈益として収益を構成すると判断している。
したがって,仕訳だけで結論は変わらない。契約書に売買と記載され,代金の支払があっても,税務上は低額部分を独立して認識する必要がある。反対に,時価との差があるように見えても,数量,支払条件,瑕疵,処分費用,換金制約その他の条件差を合理的に説明できれば,そもそも比較した価格が同じ条件の時価でない可能性がある。
1 買主法人の判定を先に分ける
まず買主法人の所得計算を判定し,売主及び株主の課税を別に検討する。
次の表は買主法人についての基本的な分岐であり,時価評価や寄附金額との対応が確定していることを前提とする。
| 相手方・関係 | 買主法人の基本的な検討 | 確認する事項 |
|---|---|---|
| 個人又は通常の取引先法人 | 時価との差額に係る受贈益 | 取得対象,取得時の時価,対価及び差額の実質 |
| 法人による完全支配関係がある他の内国法人 | 法人税法25条の2の益金不算入を検討 | 相手方の寄附金との対応及び完全支配関係 |
| 同じ個人が所有する2つの法人 | 同じオーナーというだけでは前行の例外を適用できない | 法人による支配か,個人による支配かを区別する |
完全支配関係の例外を検討しても,買主の取得価額,売主の寄附金の取扱い及び株主側の課税がすべて同時に確定するわけではない。
第3の取得価額と,第4から第6の当事者別の検討を組み合わせる。
2 時価の2分の1以上でも受贈益を確認する
例えば,取得時の適正な価額が1,200万円の資産を法人が900万円で取得し,差額300万円が実質的な無償の利益供与に当たる場合は,買主法人ではその差額について受贈益を検討する。
代金が時価の75%であっても,それだけで受贈益が生じないとはいえない。
価格差が取引条件等で合理的に説明できるかを先に確認し,完全支配関係の例外等がある場合は別に判定する。
個人から法人への著しい低額譲渡に係る2分の1の基準は,第5の1で説明する売主個人の所得税の基準であり,買主法人の安全基準ではない。
法人税額は受贈益だけに一律の税率を掛けて決まるものではなく,他の益金・損金と合わせて計算する。
第3 時価と取得価額
1 基準時は取得時である
比較するのは,原則として,法人が資産を取得した時点における適正な価額と実際の対価である。契約締結日,引渡日,所有権移転日又は停止条件成就日が異なるときは,契約の効力発生と資産取得の時点を資料から確定する。
2 評価方法は資産の性質に応じる
上場有価証券,不動産,非上場株式,営業権,債権,知的財産権では,時価を示す資料が異なる。売買実例を用いるときは,評価日,数量,権利内容,支配権,付随契約,情報量,支払条件及び当事者の特殊関係を比較する。相続税評価額,帳簿価額又は固定資産税評価額を用いたことだけで法人税法上の時価が確定するものではない。
取得時から転売先や転売価格が法的に拘束されている取引では,制限のない資産の時価をそのまま買主側の価値に用いず,取得した権利と制限を一体として検討する。
契約の有効性,拘束の範囲,解除・変更の可能性及び実際の履行を確認し,契約書に価格が記載されていることだけで税務上の価値を確定しない。
令和3年司法試験租税法第2問の出題の趣旨は,転売価格が拘束された設例につき,買主にとっての価値を7500万円とする説明をしているが,個々の契約すべてへ同じ結論を当てはめるものではない。
3 取得価額との対応
無償又は低額で取得した資産について受贈益を時価まで認識する場合,その資産の取得価額も,資産の種類に応じた法人税法施行令の規定により,通常要する価額を基礎として検討する。実際の支払額だけを取得価額とすると,同じ価値移転について取得時に受贈益を計上しながら,将来の譲渡又は償却で対応する原価を認識できないという不整合が生じる。
受贈益を認識する年度と,棚卸資産の原価を損金にする年度も区別する。
例えば,上記の設例のように7500万円の価値の販売用土地を7000万円で取得し,取得年度に500万円の受贈益を認識する構成では,その価値を取得価額へ対応させる。
翌年度に7500万円で販売するときの原価は7500万円となり,取得年度に土地代全額を直ちに損金としたり,売却年度に支払額7000万円だけを原価として再び500万円の差益を計上したりしない。
これは出題の趣旨が採る構成に沿った例であり,資産区分,取得価額の規定及び事実関係を変える場合は,同じ前提のまま受贈益と原価を組み直す。
4 株式の取得と個々の資産の取得を分ける
M&Aの検討では,対象会社の株式を取得する取引と,事業譲渡等により対象会社の個々の資産を取得する取引を分ける。
株式の取得価格が対象会社の資産の取得価額へ当然に置き換わるわけではない。
債務超過会社の株式が低廉な価格で売買されたという事実だけで,直ちに受贈益の有無を決めず,取得した資産,取得時の価値,負債・簿外債務,価格調整及び関連する合意を確認する。
株式価値を検討する際には,退職金や借入金返済による現預金・純資産の変動と価格算定を整合させる。
企業価値,株式価値,仲介・FAの手数料算定基礎及び税務上の時価は,用途と定義が異なり得るため,同じ「取引額」という表示だけで共通の金額として扱わない。
中小M&Aガイドライン(第3版)63頁~65頁が説明する仲介者・FAの成功報酬の基準価額は手数料の算定方法であり,税務上の時価を決める基準ではない。
売却代金と役員退職金の支払関係・税務は「中小M&Aの売却代金と役員退職金(AI作成)」で整理している。
第4 完全支配関係がある法人間の例外
法人税法25条の2は,内国法人が,法人による完全支配関係がある他の内国法人から受けた受贈益のうち,贈与側の寄附金に対応するものを益金不算入とする。贈与側では,同法37条の完全支配関係にある法人間の寄附金に関する損金不算入が対応する。
ただし,「同じオーナーの会社」というだけでは足りない。完全支配関係の連鎖,直接・間接保有,国内法人か,法人による支配か,取引時点の資本関係,寄附金額との対応を確認する。国税庁の法人税基本通達4-2-4及び4-2-5も,寄附金に対応しない受贈益には益金不算入が及ばない場合があることを示している。
個人による完全支配関係にある法人間の価値移転は,法人による完全支配関係と同じ取扱いになるとは限らない。株主間の贈与税その他の問題も生じ得るため,資本関係図と価値移転前後の株式価値を分けて検討する。
同族会社が時価より著しく低い価額の対価で財産を譲り受け,その会社の資産の価額が増加した場合には,株主が相続税法9条のみなし贈与の課税を受けることがある。東京地裁平成26年10月29日判決(平成23年(行ウ)第46号等)は,母が子の経営する同族会社に有限会社の持分を低額で譲渡した事案でこれを認め,東京高裁平成27年4月22日判決(平成26年(行コ)第457号)も控訴を棄却した。
第5 売主が個人の場合
1 法人への著しい低額譲渡
個人が法人へ譲渡所得の基因となる資産を著しく低い価額で譲渡した場合,所得税法59条1項2号により,時価で譲渡したものとみなされることがある。同法施行令169条は,著しく低い価額の基準を時価の2分の1に満たない金額とする。
2分の1という基準は,個人から法人へのみなし譲渡の判定であり,買主法人の受贈益が生じるかどうかの一般的な安全基準ではない。また,個人間の低額譲受けに関する相続税法7条の「著しく低い価額」とも同じではない。
東京地裁令和2年10月23日判決(平成29年(行ウ)第550号等)は,被相続人が死亡の6日前に,自らと子が株式を持つ同族会社へ不動産を時価の約51%の代金で売却した事案で,時価の2分の1を下回らないとして所得税法59条1項2号の適用を否定し,所得税の更正処分のうち申告額を超える部分を取り消した。他方,同判決は,相続税法9条の「著しく低い価額の対価」は2分の1の基準によらないとして,株式の価額の増加分を株主である子へのみなし贈与とし,会社には時価との差額の受贈益を認めた。同じ売買でも,所得税と,相続税・法人税とで結論が分かれ得ることを示す例である(親の賃貸建物だけを子の資産管理会社へ売る相続対策―無償返還届出,時価での売買,所得税・相続税・法人税及び遺留分(AI作成))。
2 自己創作の著作権を法人へ低額譲渡した場合
自ら創作したソフトウェアの著作権を法人へ譲渡する場合も,著作権は譲渡所得の基因となる資産である。
所得税法33条3項1号括弧書きは,所得税法施行令82条所定の自己の研究の成果である著作権等を短期譲渡所得から除外しているため,創作から5年以内であっても長期譲渡所得として扱う。
法人へ時価の2分の1に満たない対価で譲渡したときは,所得税法59条1項2号及び同法施行令169条により,時価で譲渡したものとみなされる。
例えば,時価400万円の自己創作ソフトウェアの著作権を法人へ100万円で譲渡し,他に譲渡所得がなく,取得費及び譲渡費用もないときは,譲渡収入は400万円とみなされる。
長期譲渡所得は,特別控除50万円後の350万円の2分の1である175万円が総所得金額に算入される。
買主法人は,時価400万円と実際の対価100万円との差額300万円について受贈益を検討し,著作権の取得価額も原則として時価400万円を基礎にする。
個人側のみなし譲渡と法人側の受贈益は,それぞれ別の法的根拠に基づいて判定する。
3 役員・株主から会社への移転
売主が買主法人の役員又は株主であるときは,単純な第三者間売買とせず,増資,現物出資,債務免除,配当又は株主間の価値移転との関係を確認する。会社法上の手続及び会計処理と法人税の所得計算は,根拠を分けて整理する。
第6 売主が法人の場合
法人が資産を時価より低額で譲渡した場合,譲渡法人側では,法人税法22条2項に基づく時価相当額の譲渡収益と,対価との差額に係る寄附金,給与その他の性質を検討する。最高裁平成7年12月19日第三小法廷判決(民集49巻10号3121頁)は,無償譲渡と低額譲渡の益金認識を考える上で参照される。
差額の性質は相手方との関係で変わる。取引先への経済的利益であれば寄附金,役員又は従業員への利益であれば給与,株主への利益移転であれば配当等の問題が生じ得る。消費税は法人税と同じ時価課税になるとは限らず,役員への著しい低額譲渡等の個別規定を確認する。
低額譲渡による社外流出については,法人税法22条3項3号の損失に当たるかという一般則と,同項柱書の「別段の定め」である同法37条の適用を順に示す。
同条8項により差額のうち実質的な贈与等と認められる金額が寄附金となる場合,一般の寄附金は同条1項等に基づく損金算入限度額を超える部分が損金不算入となる。
寄附金と認定したことだけで常に全額が損金不算入になるとせず,完全支配関係その他の特例の有無,支出先の区分及び適用される限度額を確認する。
国税庁「寄附金の範囲と損金不算入額の計算」も参照されたい。
第7 実務上の確認資料
- 契約書,見積書,価格交渉,取締役会議事録及び利益相反手続。
- 取得日を確定する引渡書,登記,名義書換,検収及び条件成就資料。
- 同時期の売買実例,鑑定書,算定書及び評価前提。
- 当事者の資本関係図,完全支配関係の判定資料及び取引前後の株主構成。
- 売主が個人か法人か,居住者・内国法人か,関連当事者かを示す資料。
- 買主の仕訳,税務申告調整,固定資産台帳及び将来譲渡時の取得価額資料。
- 売主側の譲渡収益,寄附金,給与,みなし譲渡及び消費税の検討記録。
価格算定書には,結論だけでなく,基準日,採用方法,除外した方法,主要数値,感応度及び第三者取引との差を記載する。後日,申告担当者が変わっても同じ資料から判断過程を再現できる状態にする。
M&Aでは,弁護士・税理士・価値算定担当者が共有する資料に,取引形式,取得対象,評価基準日,各価格の定義,負債の扱い,退職金等の支払,価格調整及び不採用とした評価方法を記載する。
契約書の最新版と税務の試算に異なる価格・条件が使われていないかを,契約締結前と実行前に照合する。
第8 個別取引で確認すべき事項
本記事の設例と裁判例は,個別資産の時価や実際の契約条件まで確定するものではない。
取引対象,評価時点,対価,価格差の理由及び資本関係を具体的な資料で照合し,判例を参照する場合も当事者関係と価値移転の仕組みが同じかを確認する必要がある。
申告前には,買主の受贈益と取得価額,売主の譲渡収益・寄附金等,株主に対する課税を区別し,契約書,評価資料,仕訳及び申告調整を対応させる。
非公開の取引資料によって結論が変わるため,本記事だけから個別取引の申告額を決めることはできない。
第9 出典・関連記事
税率,所得計算及び申告期限の全体像は「法人税とは―税率・計算方法・申告期限と会社経営で注意する法律問題(AI作成)」を参照されたい。
①e-Gov法令検索「法人税法」22条,25条の2,37条
②e-Gov法令検索「所得税法」33条・59条及び所得税法施行令82条・169条
③国税庁「完全支配関係がある法人間の受贈益」
④国税庁「税務訴訟資料・順号12643」
⑤国税庁「譲渡所得の対象となる資産と課税方法」及び国税庁「所得税基本通達・法第59条関係」
⑥従業員持株会における株式譲渡価格の税務上の取扱い(AI作成)
⑦東京地裁平成26年10月29日判決・平成23年(行ウ)第46号等(裁判所ウェブサイト)
⑧東京高裁平成27年4月22日判決・平成26年(行コ)第457号(裁判所ウェブサイト)
⑨東京地裁令和2年10月23日判決・平成29年(行ウ)第550号,第554号,第555号(裁判所ウェブサイト未掲載。判例秘書で全文を確認)
⑩親の賃貸建物だけを子の資産管理会社へ売る相続対策―無償返還届出,時価での売買,所得税・相続税・法人税及び遺留分(AI作成)
⑪中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」63頁~65頁
⑫中小M&Aの売却代金と役員退職金―支払義務,後払い,税務と手取り額の確認(AI作成)