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従業員持株会における株式譲渡価格の税務上の取扱い/従業員持株会における株式譲渡価格の税務上の取扱い(AI作成)

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。

目次

第1 結論と検討の順序

1 結論

(1) 持株会価格と税務上の時価は別の概念であること

従業員持株会の規約で定めた譲渡価格は,会員間の権利義務を規律する契約上の価格である。

これに対し,贈与税,所得税及び法人税における時価は,各税法の趣旨及び通達の評価体系に従って判定される価格である。

したがって,規約どおりの価格で売買したこと,長年同じ算式を用いてきたこと,又は売主と買主がその価格に合意したことだけで,税務上の時価であるとの結論にはならない。

もっとも,規約,継続的な運用,取得時と退出時の対称性,価格決定過程及び会員への説明は,価格の恣意性を否定する重要な資料になり得る。

(2) 最初に当事者と株式の流れを確定すること

検討の出発点は,誰が誰に株式を譲渡するのかを確定することである。

典型的には,①退会者から他の会員への譲渡,②退会者から持株会それ自体への譲渡,③退会者から発行会社への譲渡,④退会者から役員その他の特定個人への譲渡が考えられる。

この区別により,売主側のみなし譲渡,買主側のみなし贈与,みなし配当,源泉徴収及び会社法上の自己株式取得手続の有無が変わる。

名義上は持株会の理事長が買主であっても,理事長が会員のために株式を受託管理しているだけであれば,実質的な取得者は会員である可能性がある。

反対に,持株会が権利能力なき社団として独立した財産主体と認められる実態を有する場合には,税法上,法人とみなされる場面を検討する必要がある。

2 本記事の射程

(1) 一般論であること

本記事は,非上場会社の従業員持株会をめぐる一般的な検討手順を示すものであり,特定の取引に関する結論を示すものではない。

実際の課税関係は,持株会規約,株主構成,議決権関係,売買時期,取得者の属性,直前の取引及び対象会社の財務内容によって異なる。

本記事は,2026年7月16日現在の法令,通達及び公表資料を前提とし,既発行の非上場株式を退会者から他の会員,持株会又は発行会社等へ移転する場面を中心に扱う。新株発行,自己株式の処分,奨励金及びESOPの課税は対象外である。

(2) 基準日を固定して検討すること

株価評価では,評価基準日を売買日,契約日又は権利移転日のいずれとするかを契約及び実態から確定し,その日の法令,通達及び会社資料を用いる必要がある。

決算後の業績変動,増資,自己株式取得,組織再編,上場準備又は重要な資産処分がある場合には,直前期末の数値を機械的に用いるだけでは足りないことがある。

第2 従業員持株会の法的構造と納税義務者

1 民法上の組合として運営される場合

(1) 会員による共同保有

一般的な従業員持株会は,民法667条及び668条を基礎とする組合として設計され,会員の拠出金で株式を共同取得し,理事長が会員のために名義管理する。

この構造では,帳簿上の持株会口座と,税務上の所得又は財産の帰属主体とが常に一致するとは限らない。

会員別の持分記録,配当金の配分,議決権行使の方法及び退会時の精算方法を確認し,誰が経済的利益を享受しているかを明らかにする必要がある。

(2) 退会時の取引の実質

退会株式を持株会口座でいったん受け入れた後,新規又は既存会員に配分する運用であれば,持株会は決済及び名義管理の窓口にすぎず,会員間売買と評価される余地がある。

他方,持株会が自己の計算で恒常的に株式を保有し,価格変動損益を負担し,配当も会員に帰属させないのであれば,独立した取得主体であるとの評価に近づく。

資金の流れ,株式の受入れ先及び最終的な持分帰属を,契約書,預金記録,株主名簿及び会員別持分台帳の相互関係から確認すべきである。

2 人格のない社団等と扱われる余地

(1) 名称ではなく実態による判定

所得税法4条及び法人税法3条は,人格のない社団等を法人とみなして各法を適用する一方,法人税法4条1項ただし書は,人格のない社団等の法人税の納税義務を,原則として収益事業を行う場合等に限っている。

民法上の組合という規約上の表示だけで判定するのではなく,団体としての組織,多数決の原則,構成員の変更にかかわらない存続,代表方法及び財産管理の実態を総合して検討する必要がある。

(2) 確認すべき事実

少なくとも,①設立規約及び現行規約,②総会及び理事会の権限,③代表者の選任方法,④会員の加入及び退会による団体財産への影響,⑤預金及び株式の名義,⑥配当及び譲渡損益の帰属,⑦会社からの補助及び指揮監督を確認する必要がある。

この法的性質の認定を飛ばして株価計算だけを争うと,納税義務者及び適用税目という前提で議論が食い違うおそれがある。

第3 個人間の低額譲渡とみなし贈与

1 売主側の所得税

(1) 実際の対価による譲渡所得計算

個人が株式を別の個人に譲渡した場合,売主の譲渡所得は,原則として実際に受け取る対価を収入金額として計算する。

売主が時価より低い価格で譲渡したという理由だけで,常に時価収入があったものとされるわけではない。

ただし,所得税法施行令169条にいう時価の2分の1未満の対価で個人に譲渡し,対価が取得費及び譲渡費用の合計額を下回る場合は,所得税法59条2項により,その不足額は譲渡所得等の計算上なかったものとされ,譲渡損失を計上できない。対価以外の利益供与又は特殊な関係に伴う別の課税問題も切り分ける必要がある。

(2) 法人に対する低額譲渡との区別

個人が法人に資産を著しく低い価額で譲渡した場合には,所得税法59条のみなし譲渡が問題となる。

したがって,持株会が単なる会員の集合なのか,法人とみなされる人格のない社団等なのか,それとも発行会社が直接取得するのかは,売主側の所得税にも直結する。

2 買主側の贈与税

(1) 相続税法7条の適用

個人が著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合,相続税法7条により,時価と対価との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなされることがある。

同条は,当事者に贈与の認識又は好意があった場合だけに適用される制度ではない。

従業員間の機械的な規約取引であっても,取得者側では,取得後の株主区分に応じた税務上の時価と実際の対価との差を検討する必要がある。

(2) 固定的な割合基準がないこと

個人間の低額譲渡について,時価の50%未満であれば課税され,50%以上であれば課税されないという一般的な安全基準はない。

50%という数値は,個人から法人への低額譲渡に関する所得税法上の基準と混同されやすい。

国税庁のタックスアンサーNo.4423も,土地及び家屋以外の財産の時価について,相続税評価額により判定する旨を示しており,一律の割合だけで判断していない。

(3) 基礎控除の誤用を避けること

暦年課税の基礎控除は,租税特別措置法70条の2の4により110万円とされ,その年の1月1日から12月31日までに取得した贈与財産の価額を合計して適用するものであり,1取引ごと又は贈与者ごとに110万円を控除する制度ではない。

タックスアンサーNo.4408に照らして年間合計額を確認する必要がある。

また,差額が基礎控除内に収まる見込みであることは,規約価格が時価であることの根拠にはならない。

第4 配当還元方式と株主区分

1 原則的評価方式と特例的評価方式

(1) 評価方式の分岐

取引相場のない株式については,会社規模及び業種に応じた類似業種比準方式,純資産価額方式又はその併用方式が原則的評価方式となる。

同族株主以外の株主等が取得する株式については,例外的に配当還元方式が用いられる。

この分岐は,会社全体として非上場であるという事実だけで決まるものではなく,取得者及びその同族関係者を含む議決権割合,中心的な同族株主又は中心的な株主への該当性等により決まる。

会社規模,株主区分及び各評価方式の関係については,「遺産相続における非上場株式の評価方法」でも整理している。

(2) 取得後の株主区分

国税庁のタックスアンサーNo.4638は,財産を取得した後の株主構成により,取得者が同族株主等に当たるかを判定する枠組みを示している。

したがって,退会者である売主が少数株主であったという事実だけで,買主の配当還元方式適用を導くことはできない。

各買主について,取得直前及び取得直後の株主名簿を作成し,親族,特殊関係法人及び共同して議決権を行使する関係を含めて判定する必要がある。

2 配当還元価額の構造

(1) 計算の骨格

財産評価基本通達188-2は,1株当たりの年配当金額を10%で還元し,1株当たりの資本金等の額に応じて調整する算式を定めている。

年配当金額が2円50銭未満となる場合は2円50銭とし,算定額が原則的評価方式による価額を超える場合は原則的評価方式による価額を上限とする。

具体的な計算では,株式分割,増資,1株当たり資本金等の額,直前期及び直前々期の配当,特別配当又は記念配当の扱いを原資料から確認する必要がある。

(2) 少数株主性と固定価格を混同しないこと

配当還元方式は,少数株主が会社支配を通じて事業資産を直接実現する立場になく,主として配当を期待するという評価上の考え方に基づく。

他方,従業員持株会の固定価格は,安定保有,福利厚生,退出時の資金手当及び会員間の公平等を目的として設計されることがある。

両者は背景を異にするため,固定価格であるという理由から配当還元方式が当然に適用されるわけでも,配当還元価額と一致する固定価格が当然に私法上妥当となるわけでもない。

3 裁判例から分かる射程

(1) 東京高裁平成17年1月19日判決

東京高裁平成17年1月19日判決・平成16年(行コ)第123号・相続税更正処分等取消請求控訴事件・訟務月報51巻10号2629頁・税務訴訟資料255号順号9900は,少数持分の評価における配当還元の趣旨を検討した事例である(裁判所ウェブサイト未掲載)。

同判決は医療法人の出資持分に関するものであり,従業員持株会の株式売買に直接適用される判例ではない。

もっとも,会社支配に乏しく配当を主な経済的利益とする持分について,なぜ支配株主と異なる評価が問題となるのかを説明する際の参考になる。

(2) 最高裁令和2年3月24日判決

最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決・平成30年(行ヒ)第422号・所得税更正処分取消等請求事件・集民263号63頁は,所得税法59条1項の「その時における価額」の算定に当たり,譲受人の取得後の少数株主性を用いた原審の判断を是認せず,譲渡人の譲渡直前の株主区分を前提として通達を適用すべきことを示した。

この判決は所得税法59条のみなし譲渡に関するものであり,贈与税の取得者区分を判定する場面と同じではない。

同じ株式及び同じ取引日であっても,売主側のみなし譲渡と買主側のみなし贈与とでは,評価主体及び参照する株主区分が異なり得ることに注意を要する。

第5 売買実例と評価通達の関係

1 税目ごとに入口が異なること

(1) 譲渡所得及び法人税の評価

所得税基本通達23~35共-9は,株式の価額について,売買実例のあるものは最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額を参酌する枠組みを示している。

所得税基本通達59-6及び法人税基本通達9-1-13は,取引相場のない株式について,財産評価基本通達の手法を一定の修正を加えて利用する場面を定めている。

したがって,所得税又は法人税の時価を検討する際には,売買実例の有無及び適正性を確認した上で,通達による補充的評価へ進む順序を意識すべきである。

(2) 贈与税の評価

贈与税では,相続税法22条の時価を具体化する財産評価基本通達に従い,取得者の株主区分等を判定するのが通常である。

会社法上又は取引実務上の価値評価額が存在しても,それだけで相続税法上の評価額に置き換わるわけではない。

ただし,通達による画一的評価をそのまま適用することが著しく不適当となる特別の事情があるかという問題は,別途残る。

2 売買実例を使うための比較可能性

(1) 比較すべき要素

売買実例の適正性は,価格だけを横に並べるのではなく,①売買日と評価基準日の近接性,②株数,③売主及び買主の株主区分,④支配権の移転の有無,⑤親族又は会社関係者間の取引か,⑥退職又は相続等による換価圧力,⑦支払条件,⑧情報量,⑨同時に締結された契約,⑩会社の業績及び資本政策の変化を比較して判断すべきである。

少数株式の会員間取引と,支配権を取得する役員への一括譲渡とは,比較可能性が乏しい場合がある。

(2) 東京地裁平成17年10月12日判決

東京地裁平成17年10月12日判決・平成15年(行ウ)第214号・贈与税決定処分取消等請求事件・税務訴訟資料255号順号10156は,銀行等へのより高額な売買実例が存在する中でも,取得者の株主区分に応じた財産評価基本通達上の配当還元価額を上回る対価で取得した事案について,通達によらない評価を正当化する特別の事情を認めず,贈与税決定処分を取り消した。

この判決からは,高い取引価格が一つ存在するだけで,取得者の株主区分を無視した時価が直ちに導かれるわけではないことが分かる。

もっとも,売買実例の当事者,数量及び目的が同一に近い場合や,通達評価を形式的に利用した租税回避的な事情がある場合まで,同じ結論になると断定することはできない。

(3) 大分地裁平成13年9月25日判決

大分地裁平成13年9月25日判決・平成9年(行ウ)第6号・所得税更正処分等取消請求事件・税務訴訟資料251号順号8982は,評価基準日前の売買実例と課税庁側の評価額との関係が争われた事例である(裁判所ウェブサイト未掲載)。

売買実例は評価基準日と同日でなければ一律に排除されるものではなく,その後の業績,資産及び取引条件の変化を検証し,比較可能性を具体的に論証する必要がある。

(4) 東京地裁平成19年1月31日判決

東京地裁平成19年1月31日判決・平成17年(行ウ)第199号・贈与税決定処分取消請求事件・税務訴訟資料257号順号10622は,多数の株主から株式を取得した価格が評価額を大幅に下回るとして,相続税法7条のみなし贈与が問題となった事例である(裁判所ウェブサイト未掲載)。

同判決は,取引相手が多数であること又は価格が交渉で形成されたことだけで,相続税法上の時価との差額課税が排除されるとは限らないことを示す。

したがって,従業員持株会で同一価格の取引が反復されている事実は重要であるものの,その価格の形成方法及び取得者区分を説明する資料と併せて主張すべきである。

第6 定額譲渡条項の私法上の効力と税務

1 最高裁平成21年2月17日判決

(1) 判決の内容

最高裁平成21年2月17日第三小法廷判決・平成20年(受)第1207号・株主権確認等,株主名簿名義書換等,株式保有確認等請求事件・集民230号117頁は,非上場の新聞会社における従業員株主制度について,退職等の際に株式を額面額で指定先へ譲渡する旨の合意を有効とした。

同判決は,株式取得時にも額面額で取得していたこと,制度内容を認識して自由な意思で参加したこと,配当が不合理に抑制されていたとはいえないこと等の具体的事情を重視した。

したがって,定額譲渡条項の有効性は,取得時と譲渡時の対称性,参加の任意性,情報提供,配当政策及び制度目的を含む事実関係に依存する。

(2) 税務上の限界

同判決は契約の私法上の効力を判断したものであり,相続税法7条その他の税法上の時価を判定したものではない。

定額譲渡条項が私法上有効であっても,取得者に相続税法上の経済的利益が移転すれば,みなし贈与の検討は残る。

反対に,税務上の評価額が定額より高いからといって,直ちに退会者が規約を離れて高値売却を請求できるとも限らない。

私法上の請求権と税務上の時価を,それぞれの規範に沿って分けて論じる必要がある。

2 札幌地裁平成14年2月15日判決

(1) 合理的な算定と手続

札幌地裁平成14年2月15日判決・平成12年(ワ)第1951号・退職金等請求事件は,退職者の持株について,従前の1株550円から退職時に1株152円へ変更された払戻価格の効力が争われた事例である。

同判決は,理事会の裁量を認める規約であっても,合理的な算定方法により合理的な金額を定める範囲で効力を有するとし,1株152円の決定を有効とせず,改定後の併用方式による1株423円を採用した。

これは個別事案の民事判決であり,1株423円という数値又は同じ算定方式が他社に妥当することを意味しない。

重要なのは,規約が裁量を付与していても,退会時だけ価格を不利に変更することなく,合理的な算定根拠と意思決定手続を説明できるようにする点である。

(2) 会社からの独立性

同判決は,会社が持株会の設立及び運営に深く関与し,持株会に独立性が乏しかった事実を認定した。

会社が事務局を支援すること自体は一般的であるが,会社の利害だけで価格を決定したとの疑いを避けるには,持株会の機関が規約に従って審議し,会員全体の利益を踏まえた記録を残す必要がある。

3 仙台地裁平成3年11月12日判決

(1) 額面による取得とみなし贈与

仙台地裁平成3年11月12日判決・昭和59年(行ウ)第7号・贈与税決定処分等取消請求事件・判例時報1443号46頁・税務訴訟資料187号64頁は,会社代表者が従業員持株会関係者から1株50円で株式を取得した取引について,相続税法7条のみなし贈与を認めた事例である(裁判所ウェブサイト未掲載)。

額面又は規約価格であることは,税務上の時価との差を当然に消滅させるものではない。

(2) 支配株主となる取得者の評価

同判決では,取得者が会社支配に関わる立場であったため,少数株主に用いられる配当還元価額ではなく,純資産価額を基礎とする評価が問題となった。

従業員持株会からの退出という同じ形式でも,株式が多数の一般会員に分散する場合と,特定の支配株主に集中する場合とでは,取得者側の時価が大きく異なり得る。

第7 発行会社による自己株式取得との区別

1 会社法上の手続

(1) 取得主体の特定

退会者の株式を発行会社が買い取る場合は,持株会内部の会員間取引ではなく,会社による自己株式取得である。

代金を会社が負担し,株式が会社名義となるにもかかわらず,書面上だけ持株会を買主とする運用は避けるべきである。

(2) 機関決定と財源規制

会社法156条から165条まで及び461条により,取得方法に応じた株主総会又は取締役会の決定,特定株主からの取得に関する手続及び分配可能額による財源規制を確認する必要がある。

譲渡制限株式の承認手続と自己株式取得の決定は別の制度であり,一方の決議だけで他方の手続を代替できるとは限らない。

2 売主側の課税

(1) みなし配当

個人株主が発行会社へ株式を譲渡し,交付を受けた金銭のうち,その株式に対応する資本金等の額を超える部分がある場合には,所得税法25条のみなし配当が生じ得る。

残余部分は株式譲渡の対価として扱われるため,会社側の源泉徴収と売主側の譲渡所得計算を分けて確認する必要がある。

国税庁のタックスアンサーNo.1536も,自己株式取得時のみなし配当の基本的な取扱いを示している。

(2) 相続株式に関する特例

相続又は遺贈により取得した非上場株式を一定期間内に発行会社へ譲渡する場合には,租税特別措置法9条の7により,一定の要件の下で,みなし配当を適用せず譲渡所得として扱う特例がある。

適用期限,対象株式,相続税の課税及び届出手続を,タックスアンサーNo.1477及び当該時点の法令で確認すべきである。

第8 企業価値評価と税務評価の接続

1 評価目的を明示すること

(1) 評価目的による差

非上場株式の価値は,組織再編,第三者間売買,少数株式の退出,財務報告,会社法上の公正な価格及び課税という目的ごとに,評価の前提が異なり得る。

インカム・アプローチ,マーケット・アプローチ及びネットアセット・アプローチによる評価額が合理的であっても,その評価目的が税務上の時価判定と異なれば,税務評価額と直ちに同一にはならない。

(2) 税務評価への橋渡し

取引目的の評価報告書を税務上も用いる場合には,評価基準日,価値のレベル,株主区分,支配権の有無,非流動性,財産評価基本通達との数値差及びその理由を明示する必要がある。

複数の評価額から最も低い数値だけを選ぶのではなく,取引の法的構造にどの評価が対応するかを説明すべきである。

2 評価報告書に必要な検証

(1) 事業価値から株主価値への調整

事業計画を用いる場合には,売上高,利益率,設備投資,運転資本,割引率及び継続価値を検証し,事業価値から有利子負債を控除し,非事業用資産等を調整して株主価値へ至る計算過程を示す必要がある。

上場準備中の会社では,業績予測と公開価格の検討資料が存在することがあるが,公開前の少数株式の換価制約及び上場不確実性も併せて検討すべきである。

(2) 少数性及び流動性の扱い

少数株主ディスカウント又は非流動性ディスカウントを用いる場合には,評価手法の中に既に同じ要素が織り込まれていないかを確認し,二重控除を避ける必要がある。

税務上の通達評価に,取引目的評価のディスカウントをそのまま重ねることはできないため,法的根拠及び経済的根拠を分けて記載すべきである。

第9 主張立証の組立て

1 納税者側で先に固める事項

(1) 法的構成

主張の第1段階では,売主,買主,受託名義人,代金負担者及び最終的な持分取得者を特定する。

その上で,民法上の組合,人格のない社団等又は発行会社による自己株式取得のいずれであるかを,規約と運用の双方から論証する。

(2) 評価変数

第2段階では,評価基準日,発行済株式数,議決権数,取得前後の株主構成,同族関係,会社規模,業種,配当,利益,純資産,1株当たり資本金等の額及び売買実例を一覧化する。

計算結果だけでなく,各変数をどの一次資料から採用したかが追跡できるようにする。

(3) 証拠化

主要な証拠は,①設立時からの規約及び改定履歴,②加入申込書及び退会届,③株主名簿,④会員別持分台帳,⑤総会及び理事会議事録,⑥価格算定書,⑦対象会社の申告書及び決算書,⑧配当決議,⑨過去の全売買一覧,⑩送金記録,⑪価格通知書,⑫外部評価書である。

評価用の表計算ファイルは,数式を残し,採用した資料の版及び取得日も記録すべきである。

2 想定される反論と備え

(1) 取得者は少数株主ではないとの反論

課税庁から,取得者と親族又は特殊関係法人を合算すれば同族株主等に当たるとの反論が想定される。

これに備え,取得後の議決権表を作成し,名義株,自己株式,議決権制限株式及び共同議決権行使の有無を1名ずつ確認する必要がある。

(2) 持株会が買主であるとの反論

持株会名義の口座から代金が支払われ,株式もいったん持株会名義となる場合には,持株会自体が取得主体であり,人格のない社団等として法人税法の適用を受けるとの反論が考えられる。もっとも,法人税法4条1項ただし書により,人格のない社団等の法人税課税は原則として収益事業を行う場合等に限られるため,当該株式取得が収益事業に属するかを分けて検討する必要がある。

会員の拠出金と代金の対応,取得後の会員別配分,配当の帰属及び価格変動リスクの負担を証拠により示し,名義と実質の関係を説明すべきである。

(3) 高額な売買実例があるとの反論

役員,取引先,金融機関又は第三者との高額な取引がある場合には,それが時価を示すとの反論が想定される。

単に持株会取引と異なると述べるのではなく,株数,支配権,付随契約,売買時期,情報量,資金条件及び取引目的を対照表にし,比較可能性の有無を具体化する必要がある。

(4) 評価通達によらない特別の事情があるとの反論

租税回避を目的とした株主区分の一時的変更,評価基準日前後の異常配当,実質的な支配権移転,又は近い将来の高値転売があれば,財産評価基本通達による画一的評価が著しく不適当であるとの反論が考えられる。

取引の事業目的,意思決定の時系列,価格改定の一般性,取得後の保有方針及び一連取引の相互依存性を,後から作成した説明書だけでなく同時資料で示すことが重要である。

3 争訟段階の立証テーマ

(1) 処分理由を分解すること

課税処分を争う場合は,①適用税目,②納税義務者,③評価基準日,④株主区分,⑤評価方式,⑥各計算変数,⑦実際の対価,⑧差額,⑨税額及び附帯税という順に,処分理由を分解する。

課税庁が依拠した株主関係図,売買実例,評価明細書及び特別の事情の内容を特定し,争いのある前提事実を明示する必要がある。

(2) 代替計算を提出すること

課税庁の計算の一部を争う場合でも,正しいと主張する株主区分及び評価方式に基づく代替計算を提出する方が,取消範囲を明確にしやすい。

主位的な時価に加え,裁判所が一部の前提を採用しなかった場合に備えた予備的計算を用意し,各計算と証拠の対応を示すことが有用である。

課税処分の通知を受けた場合は,原則として,通知を受けた日の翌日から3か月以内に,再調査の請求又は国税不服審判所長への審査請求を選択する。再調査の請求を経た場合の審査請求は,再調査決定の通知を受けた日の翌日から1か月以内である。取消訴訟は,原則として,裁決があったことを知った日の翌日から6か月以内で,かつ,裁決の日から1年以内に提起する必要がある。再調査の請求から3か月を経過しても決定がない場合は審査請求へ進むことができ,審査請求から3か月を経過しても裁決がない場合は訴訟を提起できるため,国税庁の不服申立て案内及び当該時点の法令を確認すべきである。

第10 規約及び運用の設計

1 価格決定条項

(1) 算式と更新日

規約には,「理事会が相当と認める額」のような抽象的な文言だけでなく,基準とする税務評価又は評価手法,参照決算期,端数処理,更新日及び適用開始日を記載することが望ましい。

取得時と退出時で異なる算式を用いる場合には,その理由及び適用条件を明示し,会員の一方的な不利益にならないよう検討する必要がある。

(2) 臨時見直し事由

合併,会社分割,株式分割,大規模増資,重要資産の譲渡,特別配当,急激な業績変動,上場申請又は第三者への支配権譲渡等を,臨時評価の検討事由として定めることが考えられる。

ただし,臨時見直しを退会申出後に遡及適用すると紛争を招きやすいため,基準日と経過措置をあらかじめ定めるべきである。

2 意思決定手続

(1) 利益相反への対応

発行会社,支配株主又は取得予定者が価格決定を主導すると,持株会及び退会者の利益より自己の利益を優先したとの疑義が生じ得る。

利害関係者を審議又は決議から外し,必要に応じて外部評価を取得し,採用しなかった評価方法の理由も議事録に残すことが望ましい。

(2) 記録の保存

価格算定書だけでなく,基礎資料,照会事項,修正履歴,決議資料,出席者及び会員への通知を一体として保存する必要がある。

過去の取引を含む全件一覧を維持すれば,特定の退会者だけに異なる条件を適用していないことを説明しやすい。

3 退会者への説明

(1) 事前開示

加入時に,譲渡制限,退会事由,売却先,価格算式,支払時期,税負担及び規約改定手続を説明し,受領確認を残すべきである。

退会時には,適用規約の版,評価基準日,1株当たり価格,株数,控除項目及び支払額を記載した明細を交付することが望ましい。

(2) 税務上の留保

規約価格が税務上の時価と一致することを保証する表現は避け,取得者の株主区分及び各人の年間贈与額等により申告関係が異なり得ることを明示すべきである。

重要又は反復継続する取引については,事実関係を確定した上で,所轄税務署への事前相談又は国税庁の文書回答手続の利用可能性を検討することが考えられる。

第11 実務上の確認表

1 取引前の確認

(1) 当事者及び株主区分

①売主,名義人,代金負担者,買主及び最終取得者は一致しているか。

②持株会は民法上の組合として運営されているか,人格のない社団等に当たる事情があるか。

③各取得者について,取得後の議決権割合及び同族関係を確認したか。

④発行会社が取得する場合に,自己株式取得手続及び分配可能額を確認したか。

(2) 価格資料

①評価基準日と使用する決算期は整合しているか。

②配当,利益,純資産及び資本金等の額を申告書別表と照合したか。

③評価基準日前後の全売買実例を把握したか。

④規約価格,財産評価基本通達による価格及び取引目的評価額の差を説明できるか。

⑤組織再編,上場準備又は重要な後発事象を反映すべきか検討したか。

2 取引後の確認

(1) 申告及び源泉徴収

①買主ごとにみなし贈与額と年間贈与額を集計したか。

②売主が法人への低額譲渡をした場合に,みなし譲渡の有無を確認したか。

③発行会社による取得について,みなし配当及び源泉徴収を確認したか。

④取得者の取得価額及び将来譲渡時の資料を保存したか。

(2) 継続管理

①株主名簿と会員別持分台帳を取引直後に更新したか。

②次回評価日と臨時見直し事由を管理しているか。

③規約改定と会員への通知を同時に記録したか。

④価格差が拡大したときに,取引を続ける前の再検討手続があるか。

第12 今後の制度動向

1 現行通達を適用すること

(1) 検討資料と現行法の区別

国税庁の取引相場のない株式等の評価に関する資料では,配当還元方式の還元率,年配当金額の下限,議決権割合と保有株数の関係及び従業員持株会の固定価格との関係が検討対象として示されている。

これらは制度検討の資料であり,公表された検討内容だけで現行の財産評価基本通達が変更されたものとして申告することはできない。

(2) 改正時の再点検

評価方式又は株主区分に関する通達改正が行われた場合には,規約価格そのものだけでなく,価格算式,更新時期,取得者別の税額試算,会員説明及び過去取引との継続性を再点検する必要がある。

結局のところ,従業員持株会の株式譲渡価格を安全に運用するための中心は,定額か変動額かという二者択一ではなく,取引主体,税目,取得者区分,評価基準日及び価格決定手続を一つの証拠体系として整えることにある。

第13 出典

1 法令

① 民法667条及び668条

② 所得税法4条,25条及び59条並びに所得税法施行令169条

③ 法人税法3条及び4条

④ 相続税法7条,21条の5及び22条

⑤ 会社法156条から165条まで及び461条

⑥ 租税特別措置法9条の7及び70条の2の4

⑦ 国税通則法75条,77条及び115条

⑧ 行政事件訴訟法14条

2 裁判例

① 最高裁平成21年2月17日第三小法廷判決・平成20年(受)第1207号・株主権確認等,株主名簿名義書換等,株式保有確認等請求事件・集民230号117頁

② 最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決・平成30年(行ヒ)第422号・所得税更正処分取消等請求事件・集民263号63頁

③ 東京地裁平成17年10月12日判決・平成15年(行ウ)第214号・贈与税決定処分取消等請求事件・税務訴訟資料255号順号10156

④ 札幌地裁平成14年2月15日判決・平成12年(ワ)第1951号・退職金等請求事件

⑤ 仙台地裁平成3年11月12日判決・昭和59年(行ウ)第7号・贈与税決定処分等取消請求事件・判例時報1443号46頁・税務訴訟資料187号64頁(裁判所ウェブサイト未掲載)

⑥ 東京高裁平成17年1月19日判決・平成16年(行コ)第123号・相続税更正処分等取消請求控訴事件・訟務月報51巻10号2629頁・税務訴訟資料255号順号9900(裁判所ウェブサイト未掲載)

⑦ 大分地裁平成13年9月25日判決・平成9年(行ウ)第6号・所得税更正処分等取消請求事件・税務訴訟資料251号順号8982(裁判所ウェブサイト未掲載)

⑧ 東京地裁平成19年1月31日判決・平成17年(行ウ)第199号・贈与税決定処分取消請求事件・税務訴訟資料257号順号10622(裁判所ウェブサイト未掲載)

3 文献

① 国税庁「財産評価基本通達」及び「同188-2

② 国税庁「所得税基本通達23~35共-9」及び「同59-6

③ 国税庁「法人税基本通達9-1-13

④ 国税庁「著しく低い価額で財産を譲り受けたとき

⑤ 国税庁「取引相場のない株式の評価

⑥ 国税庁「取引相場のない株式等の評価に関する資料

⑦ 国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)

⑧ 国税庁「株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合

⑨ 国税庁「相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例

⑩ 国税庁「事前照会に対する文書回答手続

⑪ 日本証券業協会「持株制度に関するガイドライン」(2025年6月12日)4頁~19頁

⑫ 日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」(2013年)11頁~35頁,163頁~169頁

⑬ BUSINESS LAWYERS「従業員持株会制度を導入するには,どうしたらよいか」(2017年3月27日)

⑭ 中島茂幸『非上場株式の税務〔第2版〕―譲渡・贈与・相続・遺贈への対応―』(中央経済社,2017年)45頁~48頁

⑮ 釜井英法編『Q&A任意団体の実務―法務と税務・規約例―』(新日本法規出版,2009年)31頁~33頁,225頁,253頁,256頁

⑯ 米倉裕樹ほか『企業法務で知っておくべき税務上の問題点100』(清文社,2021年)101頁~107頁

⑰ 三菱UFJリサーチ&コンサルティング総合相談部,大森正嘉,後藤陽子『改訂版 従業員持株会導入の手引』(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2017年)35頁~39頁,54頁,68頁,79頁

⑱ 佐藤信祐『改訂版 会社法・租税法からアプローチする非上場株式評価の実務』(日本法令,2021年)84頁~92頁,104頁~108頁,170頁~172頁

⑲ TAXパートナーズ税理士法人・山口満編著,清水希江子著『Q&Aと事例にみる みなし贈与・みなし譲渡―生前対策の課税リスク―』(新日本法規出版,2024年)27頁~37頁,177頁~184頁,230頁,248頁,294頁,297頁~299頁

⑳ 国税庁「税務署長の処分に不服があるとき