第1 本記事の位置付け
カメラ・マイクの事前確認,画面共有時の誤表示防止,Teamsの参加経路及び遠隔操作との違いは,Zoom・Teams・リモートデスクトップを弁護士業務で使う際の設定と注意点で整理している。
本記事の手続上の実施要件と,一般の会議アプリで利用できる機能は別である。
アプリに録画・文字起こし・AI要約機能があることをもって,裁判所での尋問等を自由に記録できると判断してはならず,裁判所の指示と関係法令を確認する必要がある。
本記事は,民事訴訟におけるウェブ尋問の実施要件,証人の所在場所,証拠提示及び宣誓を扱う分割記事である。
mintsの全体像と論点別の入口は,mints(ミンツ)とは―料金・対象事件・登録・ログイン・提出・送達の実務Q&Aにまとめている。
画面上のクリック,入力,アップロード,ダウンロードその他の操作手順は,mints操作マニュアル~当事者ユーザ編~の解説を参照されたい。
証拠の提出方法,証拠説明書の作成及び証拠原本の取扱いは,mints後の証拠説明書を参照されたい。
第2 証人尋問のウェブ実施(ウェブ尋問)
1 ウェブ尋問の実施要件の拡大
令和8年5月21日の改正民事訴訟法の全面施行により,証人尋問をウェブ会議の方法で実施できる場合が広がった。
改正前の遠隔地居住等の要件が見直され,民事訴訟法第204条は,次のいずれかに該当し,かつ,裁判所が相当と認める場合にウェブ尋問を認めている。
①証人の住所,年齢又は心身の状態その他の事情により,証人が受訴裁判所に出頭することが困難であると認める場合
②証人が裁判長及び当事者の在席する場所で陳述すると,圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合
③当事者に異議がない場合
①では,証人の住所は出頭の困難性を判断する事情の一つであり,遠隔地に居住している場合だけに限られない。
③についても,当事者に異議がないだけで必ず実施されるのではなく,裁判所が相当と認める必要がある。
裁判所の準備の手引は,手元のメモ等を見て回答するおそれや,表情・声・動作等の判別に関する制約などと,ウェブ尋問を実施する必要性を比較する考え方を示している。
実施に当たっては当事者の意見を聴き,②の圧迫のおそれを理由とする場合には,証人の意見も聴く(民事訴訟規則第123条第1項)。
ウェブ尋問に関する第204条の改正後の定めは,令和8年5月21日より前に係属した旧法事件にも適用される。
ただし,後記の宣誓の方式や調書の作成方法まで一律に新方式になるわけではなく,それぞれの経過措置を確認する必要がある。
鑑定人が口頭で意見を述べる場合についても,同じ令和8年5月21日の施行により,民事訴訟法第215条の3から遠隔地居住に関する例示文言が削除された。
もっとも,改正前も遠隔地に居住している場合のほか,相当と認められる場合には映像と音声の送受信による意見陳述が認められていた。
医療訴訟で鑑定人質問を求めるときの実情は,医療訴訟の鑑定人はどう選ばれるかで紹介している。
当事者本人の尋問にも,民事訴訟法第210条により第204条が準用される。
証人尋問と本人尋問の一般的な違いは,証人尋問及び当事者尋問を参照されたい。
2 証人の所在場所に関する要件
ウェブ尋問では,証人を,裁判所が相当と認める場所に出頭させる必要がある。
その場所は,原則として当事者本人又はその代理人が在席する場所であってはならず,証人の陳述の内容に不当な影響を与えるおそれがあると裁判所が認める者が在席する場所であってもならない(民事訴訟規則第123条第1項)。
ただし,民事訴訟法第204条第1号又は第3号の場合には,証人の所在場所が当事者双方の在席する場所であるとき,又は当事者本人若しくは代理人がその場所に在席することにつき当事者に異議がないときは,同席禁止の例外となる。
この例外があっても,不当な影響を与えるおそれがあると裁判所が認める者の在席禁止は別に満たす必要がある。
裁判所の準備の手引は,医師・学者等の専門家証人について,最寄りの裁判所のほか,他者が入ってこられず音漏れ等も生じない職場の独立した個室を例示している。
一方,供述の信用性を慎重に判断すべき重要な証人については,不正防止の必要性も踏まえ,基本的には最寄りの裁判所を想定している。
これらは場所の選択に関する運用上の説明であり,職場からの参加が当然に認められるという意味ではない。
圧迫のおそれを理由とする民事訴訟法第204条第2号の場合に,証人を受訴裁判所へ出頭させてウェブ尋問をするときは,裁判長及び当事者が尋問のために在席する場所以外の場所に証人を在席させる(民事訴訟規則第123条第2項)。
3 書証等の提示方法
書証等を証人に示す必要があるときは,情報通信技術を使用する方法により,証人の使用するパソコンの画面に画像等を表示して閲覧させることができる(民事訴訟規則第123条第3項)。
この規定自体が,Teamsを唯一の提示方法として指定しているわけではない。
文書等を利用して証人に質問するには,裁判長の許可が必要である。
証拠調べをしていない文書等については,質問の前に相手方に閲覧の機会を与えなければならないが,相手方に異議がないときは例外となる(同規則第116条第1項及び第2項)。
提示方法は,事案の内容や当事者・証人の出頭状況等に応じて検討し,必要な準備をした上で,裁判所にあらかじめ連絡しておく。
裁判所の準備の手引は,証人等が受訴裁判所の法廷以外から参加する場合にはTeamsの画面共有を,双方当事者・証人等が法廷に出頭する場合には紙又はパソコン等の画面を使った提示を挙げている。
多数の証拠,ページ数の多い証拠,大きな図面等では,紙による提示が効率的なこともある。
弾劾証拠も紙とデータの双方が考えられるが,手引が紙による提示をより効率的とする説明は,双方当事者が在廷している場合についてのものである。
データで示す場合の裁判長及び相手方の事前確認の方法も含め,担当裁判所と調整しておく。
新法事件では,いずれの方法で提示した場合も,人証調べ終了後,速やかに当該弾劾証拠をmintsにアップロードする必要がある。
証人等に図面などへ書込みをさせる予定がある場合には,提示するだけの場合とは別に,書込み用の紙又はデータと,書き込んだ内容の保全方法を準備する。
最寄りの裁判所から参加する場合には,書込み用資料を事前に送付するなどの準備が必要となる。
データへの書込みを希望するときも,裁判所書記官による準備に時間を要するため,あらかじめ担当裁判官・担当書記官と打ち合わせる。
裁判所以外の場所から参加する場合には,書込み用資料の送付や書込み内容の保全に制約がある。
裁判所の準備の手引は,最寄りの裁判所以外の場所への書込み用データ送付はできないとしており,書込みの必要性を踏まえて証人等の出頭場所を検討する必要がある(同規則第119条,手引34頁)。
4 宣誓手続の変更
宣誓の方式は,原則として,令和8年5月21日以後に提起された訴えに係る新法事件と,同日より前に提起された訴えに係る旧法事件とで区別する必要がある。
新法事件では,民事訴訟規則第112条第3項により,裁判長が証人に対し,良心に従って真実を述べ,何事も隠さず,また,何事も付け加えないことを誓う旨を口頭で述べさせる。
証人がこれを述べることができない場合には,宣誓書に署名させ,裁判所書記官に朗読させる方式が残る(同項ただし書)。
このただし書の場合に,裁判長が相当と認めるときは,署名に代えて,宣誓書に宣誓の趣旨を理解した旨を記載させることもできる(同条第4項)。
旧法事件では,令和6年最高裁判所規則第14号附則第23条第2項の読替えにより,宣誓書を朗読させ,かつ,これに署名させる方式による。
いずれの事件でも,条文上,宣誓書への押印は求められていない。
新法事件では,証人の宣誓の有無及び宣誓をさせなかった理由が電子調書に記録される(民事訴訟規則第67条第1項第4号)。
旧法事件における口頭弁論調書の作成及び記載は,経過措置により従前の例による(令和4年法律第48号附則第14条)。
宣誓の方法を変更することと,宣誓をさせることができるかどうかは別の問題である。
16歳未満の者又は宣誓の趣旨を理解できない者には宣誓をさせることができず,そのほかにも宣誓をさせない場合や宣誓を拒むことができる場合がある(民事訴訟法第201条第2項から第4項まで)。
第3 出典
① e-Gov法令検索「民事訴訟法」第201条・第204条・第210条・第215条の3
③ 裁判所「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引」令和8年10月2日版31~34頁・43頁(相当性,所在場所,証拠提示,書込み及び旧法事件への適用)
④ 裁判所「民事訴訟規則」(PDF)第67条・第112条・第116条・第119条・第123条・第127条及び同PDF所収の令和6年最高裁判所規則第14号附則第23条
⑤ 衆議院「民事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第48号)第215条の3の改正文・附則第14条等