第1 この記事が扱う対象と時点
1 対象とする見直し
この記事は,賃貸マンション等の貸付用不動産と,不動産小口化商品について,相続税・贈与税の評価方法を見直す国税庁の法令解釈通達案「貸付用不動産の評価について(案)」を扱う。
見直しの中心は,①課税時期前5年以内に取得・新築した貸付用不動産と,②不動産特定共同事業契約等による不動産小口化商品を,路線価等による評価ではなく,原則として課税時期における通常の取引価額で評価することにある。
通達案は,令和9年1月1日以後に相続,遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用するとしている。
2 調査基準日と資料の段階
本記事は,令和8年9月19日時点で,e-Govのパブリックコメント(案件番号410080055)に掲載された通達案・概要・実施要領,財務省の令和8年度税制改正大綱,政府税制調査会の資料及び議事録,e-Gov法令検索の相続税法・租税特別措置法・不動産特定共同事業法,裁判所ウェブサイトの裁判例を確認して作成した。
通達案は,国税庁が令和8年9月18日に意見募集を始めたものであり,募集期間は同年10月18日までである。
確定した通達ではないから,意見募集の結果によって文言が変わる可能性がある。
特に,経過措置の基準日となる「通達制定日」は,通達案では「令和8年●月●日」と空欄になっている。
第2 見直しに至る経緯
1 国税庁が示した評価額と取引価額の開き
(1) 一棟賃貸マンションの駆け込み取得の事例
国税庁は,令和7年11月13日の政府税制調査会「経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」に,説明資料「財産評価を巡る諸問題」を提出した。
同資料5頁の事例②は,被相続人が相続開始の約2年8か月前に主宰法人から22億円を借り入れ,一棟賃貸マンションを21.0億円で購入したものである。
このマンションの通達評価額は4.2億円で,取得価額の約5分の1(資料の表記では「4.99倍」)にとどまり,相続税額は12.3億円から4.4億円に減ったとされている。
同資料7頁は,相続開始前の駆け込み取得の事例では,かい離が「3倍超(中央値)」であったとしている。
(2) 不動産小口化商品の贈与の事例
同資料6頁の事例③は,68歳の贈与者が不動産小口化商品(信託受益権)を3,000万円で購入し,約5か月後に9歳の受贈者に贈与した事例である。
通達評価額は480万円で,受贈者は贈与後にこれを取得価額とほぼ同額で売却して現金化したとされている。
同資料9頁は,不動産小口化商品の贈与事例3件を挙げ,評価額の減少割合を▲82.8%,▲83.8%,▲78.2%としている。
同会合の議事録によれば,国税庁の担当者は,事例②の評価額について「約80%減」と説明している(議事録7頁)。
いわゆる「8割減」は,これらの個別事例の数値であり,貸付用不動産全体の平均値として示されたものではない。
2 令和8年度税制改正大綱
令和7年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正大綱は,資産課税の「相続税等の財産評価の適正化」として,「相続税法の時価主義の下、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離の実態を踏まえ、その取引実態等を考慮し、次の見直しを行う。」とした(大綱52頁)。
大綱は,被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築をした一定の貸付用不動産と,不動産特定共同事業契約又は信託受益権に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産について,課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するとした。
また,大綱は,この改正を「通達に定める日」と書いており,法律の改正ではなく通達で行うことを前提としている。
3 通達案の公表と意見募集
国税庁は,令和8年9月18日,「貸付用不動産の評価について」の法令解釈通達(案)を公表し,意見募集を始めた。
通達案は,財産評価基本通達を改正するのではなく,財産評価基本通達第2章から第4章まで及び「居住用の区分所有財産の評価について」(令和5年9月28日付課評2-74ほか)の定めにかかわらず適用される,新しい個別通達の形をとる。
通達案の趣旨は,「近年における貸家等の市場価格と相続税評価額との乖離等の実態を踏まえ、評価の適正化とともに、予測可能性の向上を図るものである。」とされている。
国税庁の概要は,乖離を利用した相続税対策が広く喧伝され,財産評価基本通達6項による評価の適否が問題となる訴訟等が増加していたことなどを踏まえ,関係団体等から納税者の予測可能性の確保が要請されていたと説明している。
第3 課税時期前5年以内に取得等した貸付用不動産
1 対象となる貸付用不動産
(1) 貸付用不動産の意味
通達案の「貸付用不動産」は,その全部又は一部が借家権の目的となっている家屋と,その家屋の敷地の用に供されている宅地又は宅地の上に存する権利をいう。
賃貸されている附属設備・構築物や,宅地とともに賃貸されている土地等も含まれる。
一棟の賃貸マンションやアパートのほか,一部を賃貸している建物とその敷地も対象になり得る。
(2) 5年以内の判定と取得の時期
対象となるのは,課税時期前5年以内に「対価を伴う取引により取得又は新築」された貸付用不動産である。
課税時期は,相続の場合は相続開始の時,贈与の場合は贈与の時である。
取得等の時期は,通達案の注1により「原則としてその引渡しの時」とされている。
売買契約の日ではなく引渡しの日から数えることになるから,契約と引渡しの間が空く取引では,どちらの日で5年を超えるかを確かめる必要がある。
2 評価の方法
(1) 原則――課税時期における通常の取引価額
対象となる貸付用不動産は,「課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する」とされている。
路線価や固定資産税評価額を基にする従来の評価ではなく,市場で取引される価額を基準にするということである。
(2) 取得価額を基にする方法――100分の80
ただし,土地等又は家屋等の取得価額が「その取得等の時における通常の取引価額に相当すると認められる場合」には,次の金額の「100分の80」に相当する金額によって評価することができる。
①土地等は,取得価額に地価変動率を乗じた金額
②家屋等は,取得価額から,取得等の時から課税時期までの期間の償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額
地価変動率は,課税時期の属する年の評価基準額(PX)を,取得の時の属する年の評価基準額(PN)で除して求める。
評価基準額は,原則としてその土地等が面する路線の路線価,路線価がなければ倍率方式による価額である。
家屋等の償却費は所得税法施行令120条の2第1項1号イ(1)の定額法で計算し,期間の1年未満の端数は1年とする。
「取得価額」には,取得に要した金額のほか改良費及び設備費が含まれる。
この80%の評価は「することができる」とされた選択肢であり,原則は通常の取引価額である。
取得価額が取得時の通常の取引価額に相当すると認められない場合,例えば親族間や関連会社との間で相場と離れた価額で取引した場合には,この方法を使えないと考えられる。
また,通達案の注6は,土地等の価格の著しい変動その他この方法によりがたい事情がある場合には,その事情を考慮して評価することに留意するとしている。
3 対象から除かれるもの
(1) 収用・交換・買換え等による取得
通達案は,課税上弊害がない限り,次の土地等又は家屋等を対象から除いている。
①収用等・交換処分等・換地処分等に伴って取得等したもので,租税特別措置法33条から33条の4までの特例の適用に係るもの
②所得税法58条1項(固定資産の交換)の適用を受けたもの
③租税特別措置法37条1項(特定の事業用資産の買換え)の適用を受けたもののうち一定のもの
①と③は,取得価額が譲渡価額の100分の120に相当する金額を超えないものに限られる。
(2) 増改築と通達制定日までの新築
5年を超えて所有している家屋等を課税時期前5年以内に増築又は改築した場合の,その増改築部分も除かれる。
さらに,通達制定日までに,①同日前5年以内に取得した土地等以外の土地等,又は②同日前5年以内に相続等により取得した土地等に新築された家屋等は除かれ,同日において建築中のものも含まれる。
「建築中」とは,通達制定日までに請負契約その他新築に係る契約が締結され,同日において工事が行われており,かつ,その費用の全部又は一部が支払われていることをいう。
長く所有してきた土地にアパートを建てる地主の場合,通達制定日までに着工し,費用の一部を支払っていれば,完成が後になっても対象外となる。
この経過措置は新築の家屋等に関するものであり,既存の賃貸物件を購入する場合には当たらない。
4 同族会社の株式の純資産価額との関係
通達案の注7は,財産評価基本通達185(純資産価額)に定める土地等又は家屋等を評価する場合には,この定めの適用がないことに留意するとしている。
同族会社等の株式を純資産価額方式で評価する際に,会社が保有する貸付用不動産を評価する場面には,今回の通達案は及ばない。
会社が課税時期前3年以内に取得した土地等・家屋等については,財産評価基本通達185の括弧書きが通常の取引価額で評価すると定めており,この3年の扱いの見直しは,国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」で別に検討されている。
経過は,国税庁が例示した非上場株式の評価額圧縮スキーム8類型及び資産管理会社の株式評価の見直し案で整理している。
第4 不動産小口化商品(特定小口化商品)
1 対象となる権利
通達案は,次の権利を「特定小口化商品」とし,その目的となっている貸付用不動産を,取得の時期にかかわらず,課税時期における通常の取引価額で評価するとしている。
①不動産特定共同事業法2条3項に規定する不動産特定共同事業契約のうち同項1号又は3号に掲げるもの(同項4号又は5号に掲げる契約で,これらに相当するものを含む。)に係る,不動産取引から生ずる収益の分配を受ける権利その他これに類するもの
②土地等又は家屋等の管理及び処分を目的とする信託の受益権で,事業関係者により分割されたもの又は分割された土地等若しくは家屋等に係るもの
不動産特定共同事業法2条3項1号は,各当事者が出資を行い,共同の事業として一部の者に業務の執行を委任して不動産取引を営む契約(任意組合型)であり,3号は,自らの共有に属する不動産を賃貸し,又はその賃貸を委任する契約である。
同項2号の契約(当事者の一方が相手方の行う不動産取引のため出資を行う契約)は,通達案の⑴には掲げられていない。
5年以内の貸付用不動産と異なり,小口化商品は取得から5年を超えていても対象になる。
2 評価の方法
(1) 原則と精通者意見価格等の参酌
原則は,課税時期における通常の取引価額である。
ただし,特定小口化商品の元本等相当額が適正な価格情報に基づくと認められる場合には,精通者意見価格,売買実例価額,定期報告書等の不動産の価格等を参酌して評価することができる。
この場合は,次のP1で評価し,P2又はP3が明らかなときは,P1からP3までのうち最も低い金額によってもよいとされている。
①P1は,元本等相当額の100分の90である(事業が課税時期前5年以内に開始されたものであるときは,元本等相当額を第3の2(2)に準じて修正した金額の100分の95)。
②P2は,課税時期における貸付用不動産の精通者意見価格である。
③P3は,課税時期前1年以内に事業者の依頼により不動産鑑定士が行った鑑定評価額の100分の95である。
「元本等相当額」は,事業開始の時に設定された商品の価格のうち,元本の額を構成する貸付用不動産の価格に相当する部分の金額をいう。
定期報告書等に記載された価格については,通達案の注2が,鑑定評価額から償却費相当額だけを控除した残額や固定資産税評価額などが記載されることがあるため,通常の取引価額に相当するかを判定するよう求めている。
小口化商品の評価に80%の選択肢は設けられておらず,参酌による評価でも元本等相当額の90%又は95%が基準になる。
(2) 事業の継続が困難な場合
事業者の破綻,許可又は登録の取消しその他の事情により,事業の継続が不可能又は著しく困難であると見込まれ,かつ,精通者意見価格等に当たるものがない場合には,第3の5年以内の貸付用不動産の定めに準じて評価するとされている。
事業者の行政処分や分配の停止が起きている商品では,この定めの適用を検討することになる。
第5 適用時期と贈与・購入の関係
1 令和9年1月1日以後の相続,遺贈又は贈与
通達案は,令和9年1月1日以後に相続,遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用する。
相続だけでなく贈与にも適用されるから,令和9年以後に,取得から5年以内の貸付用不動産や小口化商品を贈与した場合も,通常の取引価額を基準に贈与税が課される。
2 令和8年中の贈与――加算は贈与の時の価額
(1) 暦年課税の贈与
相続税法19条1項は,相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始前7年以内に被相続人から贈与を受けた財産の価額を,相続税の課税価格に加算するとしている。
加算される価額は,国税庁の相続税法基本通達19-1により,その財産の「贈与の時における価額」とされている。
令和8年中に贈与した財産は,贈与の時点では通達案の適用前であるから,現行の評価方法による価額で贈与税が計算され,後に相続が起きたときの加算も贈与の時の価額による。
(2) 相続時精算課税の贈与
相続時精算課税の適用を受けた贈与財産について,相続税法21条の16第3項1号は,その価額を「贈与の時における価額とする」と定めている。
したがって,令和8年中に相続時精算課税で贈与した財産も,相続の時点で評価し直されることはない。
もっとも,国税庁は前記の税調資料で,不動産小口化商品を購入の約5か月後に贈与した事例を問題として挙げている。
令和8年中の贈与であっても,購入から贈与までの期間や贈与後の売却の経緯によっては,次の第6で述べる財産評価基本通達6項の適用が問題になり得ると考えられる。
3 令和8年中の購入――相続が令和9年以後なら対象
令和8年中に貸付用不動産を購入しても,相続が令和9年1月1日以後に起き,その時点で購入(引渡し)から5年以内であれば,通達案の対象になる。
「令和8年12月31日までは従来どおり」といえるのは,令和8年中に相続又は贈与が起きた場合であって,令和8年中に購入した場合ではない。
新築の家屋等についての経過措置は,前記第3の3(2)のとおり,通達制定日前5年以内に取得した土地以外の土地(同日前5年以内に相続等により取得した土地を含む。)に,同日までに新築(建築中を含む。)した場合に限られる。
4 相続時精算課税の基礎控除110万円
相続時精算課税の贈与には,令和6年1月1日以後,年110万円の基礎控除がある(租税特別措置法70条の3の2第1項)。
相続税法21条の11の2第1項の本則は「六十万円」であり,110万円は租税特別措置法による特例である。
相続時に加算されるのは,贈与財産の価額から基礎控除をした「残額」である(相続税法21条の15第1項,21条の16第3項2号,租税特別措置法70条の3の2第2項)。
基礎控除の部分は納税が先送りされるのではなく,相続税の課税価格にも加算されない。
他方,特別控除2,500万円を超える部分に課された贈与税は,相続税額から控除される(相続税法21条の15第3項)。
暦年課税の生前贈与加算の期間は,所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)附則19条により段階的に延びる。
相続開始が令和8年12月31日までなら3年,令和9年1月1日から令和12年12月31日までなら令和6年1月1日から相続開始日までの間,令和13年1月1日以後は7年である。
相続放棄と組み合わせた場合の扱いは,相続放棄と生前贈与スキームの限界で扱っている。
第6 総則6項との関係
1 通達案の対象外でも総則6項は残る
財産評価基本通達6は,「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定めている。
最高裁令和4年4月19日判決(令和2年(行ヒ)第283号,民集76巻4号411頁)は,借入れにより購入した賃貸用不動産について,実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるとして,鑑定評価額による課税を適法とした。
今回の通達案は,取得から5年を超えた貸付用不動産や,令和8年以前の相続・贈与には適用されない。
しかし,それらについて通達6項の適用が否定されるわけではなく,国税庁は分譲マンションの評価通達についても,同項による評価があり得ることをQ&Aで示している。
通達6項の判断枠組みは,財産評価基本通達6項(総則6項)の適用で整理している。
2 相続直前の不動産取得に関する裁判例
(1) 東京地裁令和2年11月12日判決
東京地裁令和2年11月12日判決(平成30年(行ウ)第546号)は,89歳で死亡した被相続人が,肺がんにり患していることが発覚した後の平成25年7月25日に,賃貸マンションとその敷地を15億円で購入する契約を結び,同年8月20日に銀行から15億円を借り入れた事案である。
判決の認定によれば,この購入は相続開始の約2か月前であり,通達評価額は4億7761万1109円,国税庁長官の指示を受けて採用された鑑定評価額は10億4000万円であった。
判決は,被相続人側が金融機関の担当者と相続税対策の相談を重ね,相続税の圧縮効果を期待して購入したことなどを認定し,鑑定評価額による課税を適法として請求を棄却した。
控訴審の東京高裁令和3年4月27日判決(令和2年(行コ)第242号)も,控訴を棄却している。
(2) 東京地裁平成4年7月29日判決
東京地裁平成4年7月29日判決(平成2年(行ウ)第184号)は,入院中の被相続人が死亡の約5か月前に18億2000万円を借り入れ,同日に土地を16億6100万円で購入し,相続人が相続開始の翌年に18億円で売却して借入金を返済した事案である。
判決は,通達による評価額1億2102万2498円ではなく,取得価額等から算定した市場価格による評価を適法とした。
控訴審の東京高裁平成5年3月15日判決(平成4年(行コ)第93号)も,控訴を棄却している。
今回の通達案が5年以内の取得について取得価額を基準とするのは,これらの事例で課税庁が個別に行ってきた評価を,あらかじめ通達に定める形になっていると考えられる。
3 旧租税特別措置法69条の4との比較
(1) 旧特例と大阪高裁平成10年4月14日判決
相続開始前に取得した不動産を取得価額で課税する仕組みは,以前にも法律で設けられていた。
平成8年法律第17号による廃止前の租税特別措置法69条の4は,相続開始前3年以内に被相続人が取得した土地等の価額を取得価額で課税価格に算入する特例であった。
大阪高裁平成10年4月14日判決(平成7年(行コ)第65号)は,この特例の廃止時に設けられた経過措置に従って行われた課税について,その根拠となる規定は憲法84条,31条,14条1項及び29条1項・2項に違反しないとした。
同判決は,地価の高騰が終わって下落に転じ,実勢価格と路線価等による評価額との開差が縮まり,一部では逆転したことなどから,特例の存在意義が失われ,平成8年度の税制改正で廃止されたと認定している。
(2) 地価の変動と通達による見直し
今回の通達案が,取得価額に地価変動率を乗じる方法を定め,さらに注6で土地等の価格の著しい変動等を考慮するとしているのは,このような地価下落の局面に対応するためのものと考えられる。
今回の見直しは法律ではなく通達で行われるから,評価額を争う場面では,通達の定める方法が相続税法22条の「時価」として合理性を持つかが問われることになる。
第7 相談の際に確認する事項
貸付用不動産や小口化商品を持つ人から相談を受けたときは,少なくとも次の点を確かめる必要がある。
①物件ごとの取得(引渡し)の日と,令和9年1月1日以後の相続・贈与の時点で5年以内に当たる期間
②取得の経緯(収用・交換・買換え特例の適用の有無,親族間取引など取得価額が通常の取引価額に相当するか)
③新築の場合は,土地の取得時期と,通達制定日時点で請負契約・着工・費用の支払があるか
④小口化商品の場合は,不動産特定共同事業法2条3項の何号の契約か,又は信託受益権か,事業開始時期と定期報告書等の価格の記載内容
⑤令和8年中に贈与を考えている場合は,購入から贈与までの期間と,受贈者が売却する予定の有無
⑥同族会社を通じて不動産を保有している場合は,株式の評価の見直しの検討状況
通達の確定版と通達制定日は,意見募集の終了後に国税庁ウェブサイトで確認する必要がある。
第8 出典
1 法令
①相続税法19条1項,21条の11の2第1項,21条の15第1項・3項,21条の16第3項,22条(e-Gov法令検索)
②租税特別措置法70条の3の2(e-Gov法令検索)
③所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)附則19条(e-Gov法令検索の相続税法の附則として確認)
④不動産特定共同事業法2条3項(e-Gov法令検索)
2 通達・通達案
①国税庁「『貸付用不動産の評価について』の法令解釈通達(案)に対する意見公募手続の実施について」(令和8年9月18日,e-Govパブリックコメント案件番号410080055。別紙1「概要」,別紙2「貸付用不動産の評価について(案)」)
②国税庁「財産評価基本通達」6,185
③国税庁「相続税法基本通達」19-1
④国税庁「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」(令和5年9月28日課評2-74ほか)
⑤国税庁「居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A」(令和6年5月)問9
3 裁判例
①最高裁判所第三小法廷令和4年4月19日判決(令和2年(行ヒ)第283号,民集76巻4号411頁,裁判所ウェブサイト)
②東京地方裁判所令和2年11月12日判決(平成30年(行ウ)第546号,裁判所ウェブサイト)
③東京高等裁判所令和3年4月27日判決(令和2年(行コ)第242号,裁判所ウェブサイト)
④東京地方裁判所平成4年7月29日判決(平成2年(行ウ)第184号,裁判所ウェブサイト)
⑤東京高等裁判所平成5年3月15日判決(平成4年(行コ)第93号,裁判所ウェブサイト)
⑥大阪高等裁判所平成10年4月14日判決(平成7年(行コ)第65号,裁判所ウェブサイト)
4 税制改正大綱・政府税制調査会の資料
①「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)52頁
②国税庁「財産評価を巡る諸問題」(令和7年11月13日,政府税制調査会 経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合 説明資料)5頁~7頁,9頁
③政府税制調査会「経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合(第4回)議事録」(令和7年11月13日)7頁