メインコンテンツへスキップ
       

財産評価基本通達6項(総則6項)の適用――最高裁令和4年判決の枠組みと不動産・株式の事例(AI作成)

第1 この記事が扱う対象と時点

1 対象とする論点

この記事は,財産評価基本通達6(いわゆる総則6項)により,課税庁が通達の定める方法によらずに財産を評価する場合の判断枠組みを扱う。
中心となるのは,不動産の事案で判断枠組みを示した最高裁令和4年4月19日判決と,その後に取引相場のない株式について判断した裁決・裁判例である。
納税者が通達の定める方法による評価額より低い評価を求める場面は,本記事の対象外とする。

2 調査基準日と資料

本記事は,令和8年9月17日時点で,e-Gov法令検索の相続税法,国税庁の財産評価基本通達及び公表資料,裁判所ウェブサイトの裁判例,国税庁「税務訴訟資料」,国税不服審判所の公表裁決事例を確認して作成した。
裁判所ウェブサイトに掲載されていない判決は,判例秘書及び国税庁「税務訴訟資料」で確認した。
個別の事案で通達6項が適用されるかどうかは,取引の経緯,評価額と時価の差,税負担の軽減の程度及びそれを裏付ける記録によって異なる。

第2 相続税法22条と財産評価基本通達

1 時価と通達の関係

相続税法22条は,相続等により取得した財産の価額は「当該財産の取得の時における時価により」と定めるだけで,評価の方法を定めていない。
財産評価基本通達1の(2)は,時価を「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」とし,「その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」としている。
課税実務はこの通達に従って行われているが,最高裁令和4年4月19日判決は,評価通達について「上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。」と述べている。
通達の法的性質一般は,通達の法的性質・拘束力と争い方で扱っている。

2 通達6項の文言

財産評価基本通達6は,「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定めている。
最高裁令和4年判決の事案では,札幌国税局長からの上申を受けた国税庁長官が,平成28年3月10日付けで,通達の定めによらず他の合理的な方法によって評価するよう指示している。
国税庁のウェブサイトの通達,事務運営指針及び財産評価に関する情報の各一覧には,通達6項の適用基準を定めた公表物は見当たらない。

第3 最高裁令和4年4月19日判決

1 事案の概要

最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(令和2年(行ヒ)第283号,民集76巻4号411頁)は,被相続人が借入れにより購入した賃貸用不動産の評価が争われた事案である。
原審は東京高裁令和2年6月24日判決(令和元年(行コ)第239号),第一審は東京地裁令和元年8月27日判決(平成29年(行ウ)第539号)である。
判決が認定した主な数字は,次のとおりである。

事実判決の認定
甲不動産平成21年1月に6億3000万円を借り入れ,8億3700万円で購入
乙不動産平成21年12月に合計4億2500万円を借り入れ,5億5000万円で購入
相続開始平成24年6月17日(被相続人は94歳)
通達評価額甲不動産2億0004万1474円,乙不動産1億3366万4767円
申告課税価格の合計額2826万1000円,基礎控除により相続税の総額0円
鑑定評価額甲不動産7億5400万円,乙不動産5億1900万円
更正処分課税価格の合計額8億8874万9000円,相続税の総額2億4049万8600円

判決によれば,購入・借入れがなければ課税価格の合計額は6億円を超えるものであり,乙不動産は相続開始の翌年に5億1500万円で売却されている。

2 判断の枠組み

判決は,まず相続税法22条との関係について,同条の時価は客観的な交換価値をいうとし,課税庁の評価額が客観的な交換価値としての時価を上回らない限り同条に違反しないとした。
その上で,平等原則について,「課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。」と述べた。
そして,「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められる」とした。

判決は,通達評価額と鑑定評価額との間に大きなかい離があることについて,「このことをもって上記事情があるということはできない。」としている。
かい離の大きさだけでは,通達によらない評価を正当化できない。

3 当てはめ

判決は,購入・借入れを行わなければ課税価格の合計額が6億円を超えるのに,通達評価額によると2826万1000円にとどまり,基礎控除の結果相続税の総額が0円となることから,「上告人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきである。」とした。
また,被相続人と相続人らは,購入・借入れが近い将来発生することが予想される相続において相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り,かつ,これを期待して,あえて企画して実行したとし,「租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。」とした。
その結果,このような行為をせず又はすることのできない他の納税者との間に「看過し難い不均衡」が生じ,実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるとして,鑑定評価額による課税を適法とした。

第4 取引相場のない株式の事例

1 国税不服審判所令和6年3月25日裁決

(1) 事案と評価額

国税不服審判所の令和6年3月25日裁決(裁決事例集No.134)は,主に不動産賃貸業を営む同族会社の株式について,通達6項の適用を是認した事例である。
相続開始前に,会社が1株当たり1,000円の配当金相当額を支払い,決算期を12月31日から5月31日に変更する異動届出書を提出した。
申告では中会社として類似業種比準方式との併用で評価して21億3130万0096円としたが,これらの行為がなかった場合の評価額は,比準要素数1の会社として34億1966万8784円であった。
原処分庁は,国税庁長官の指示を受け,時価純資産法による報告書を基礎として40億6380万7600円と評価した。

(2) 判断

裁決は,これらの行為によって納付すべき税額が「約50%もの税額が減少することになる」とし,相続税の負担が著しく軽減されたとした。
意図の認定では,銀行の顧客管理システムに記録された交渉履歴について「T銀行の行員が顧客との面談等の内容を聴取したとおりに事務的に記録したものと認められる。」とし,税理士法人作成の書面ともおおむね符合するとした。
その上で,否認されるおそれがあることを承知の上で「あえてこれにチャレンジすることを承諾したと認められる。」とし,議事録に記載された日時に臨時株主総会が開催されたとは認めるに足りないとした。
相続対策の検討過程は,金融機関や専門家の側の記録として残ることがある。

2 配当と新株発行により評価額を下げた事案

(1) 第一審――東京地裁令和7年1月17日判決

東京地裁令和7年1月17日判決(令和4年(行ウ)第100号)は,被相続人が資産管理会社の第三者割当増資で36億0002万9440円を払い込み,会社が配当をした事案である。
判決の認定によれば,これにより投資有価証券の割合は約89.2%から約26.1%に下がり,課税価格の合計額は17億0885万4000円(約45%),相続税の総額は8億5442万7000円(約49%)減少することとなった。
判決は,課税価格の合計額が21億2513万4000円,相続税の総額が8億8156万6500円となお相当高額であり,「それらの減少の割合も5割未満にとどまるものであって、」とした。
さらに,減少は小会社の株式について通達が純資産価額方式と併用方式の選択を認めていることにもよるものであり,相続税法18条による加算がされる行為もしていたことなどを考慮して,通達6項による評価は平等原則に違反するとし,更正処分を取り消した。

(2) 控訴審――東京高裁令和7年6月19日判決

東京高裁令和7年6月19日判決(令和7年(行コ)第51号,訟務月報72巻2号79頁)は,原判決中の国の敗訴部分を取り消し,納税者の請求を棄却した。
判決は,新株発行等により,課税価格の合計額が17億0885万4000円(軽減割合は約44.6パーセント),相続税法18条による加算額を含む納付すべき相続税額の合計額が9億7872万4900円(軽減割合は約48.1パーセント)軽減されるとした上で,「上記認定の軽減される相続税の額、割合等を総合的に考慮して判断すると、被控訴人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきである。」と述べた。
軽減割合が5割に満たないという納税者の主張に対しても,軽減される相続税の額を総合的に考慮して判断すると著しい軽減に当たるとしている。
本判決は裁判所ホームページ未掲載であり,判例秘書で確認した。
第一審と控訴審は,軽減の割合を重く見るか,軽減の額を含めて総合的に見るかで結論を分けた。

3 売却交渉中の相続で国側が敗訴した事案

東京高裁令和6年8月28日判決(令和6年(行コ)第36号)は,被相続人が経営する会社の株式の売却交渉中に相続が開始し,相続人が相続開始後に株式を売却した事案で,国の控訴を棄却した。
本判決は裁判所ホームページ未掲載であり,事件番号は判例秘書で,判決の本文は国税庁「税務訴訟資料」第274号順号14013で確認した。
判決は,譲渡予定価格(1株10万5068円),課税庁の算定報告額(8万0373円)と通達評価額(8186円)の差について,「合理的な理由がないのに、特定の相続財産のみについて専門的評価を行い、これを基にして課税処分を行うことは、平等原則に反するものというべきである。」とした。
また,「相続税の負担を減じ、又は免れさせる行為をしたと認めることができない以上、」他の納税者との関係で不公平であると判断する余地はないとした。
他方で,国の「租税回避行為があることは要件とならない」との主張については,「当裁判所はそのような要件が存するものと説示しているものではないから、同主張に対する判断の必要はない。」としている。
第一審の東京地裁令和6年1月18日判決(税務訴訟資料第274号順号13924)は,一定の納税者側の事情が必要とする判示をしていたが,控訴審はその部分を含む原判決の相当部分を改めているから,第一審の一般論をそのまま規範として引用することには注意を要する。

第5 適用の実情と国税庁の説明

1 適用件数

国税庁が「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第1回会議(令和8年4月20日)に提出した資料上15頁は,通達6項の適用件数を次のとおり示している。

年分(事務年度)適用件数不動産株式
平成27
平成28
平成29
平成30
令和元
令和2
令和3
令和4
令和511
令和6
271314

「年分(事務年度)」は資料の表記のとおりである。
資料では年分を横に並べているが,本記事では縦に並べ替えた。
同資料上16頁は,近年,通達6項による評価に係る訴訟等が増加傾向にあり,納税者の予見可能性の観点からの批判等があると記載している。

2 謙抑的な運用

同会議の第5回議事要旨資料上3頁によれば,事務局は,6項を適用する場合には「訴訟での対応を見据えた証拠保全や事実認定が必要となり、極めて謙抑的かつ慎重な対応が必要となってくる。」と説明し,「適用件数が少ないことをもって、通達を見直して対応すべき事案が少ないことを意味するものではない。」としている。
これは議事要旨に記録された事務局の説明であり,通達や事務運営指針ではない。
国税庁は,取引相場のない株式の評価方法そのものの見直しを検討しており,その経過は取引相場のない株式の評価に関する有識者会議――国税庁が示した見直しの骨格と論点で整理している。

3 居住用の区分所有財産の評価との関係

国税庁は,令和5年9月28日付けで「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)を定め,令和6年1月1日以後に相続等により取得した分譲マンション等に適用している。
通達本文には6項への言及はないが,国税庁が公表した同通達に関するQ&A(令和6年5月)の問9は,「本通達を適用した場合であっても同様に適用があるため、一室の区分所有権等に係る敷地利用権及び区分所有権の価額について、評価基本通達6の定めにより、本通達を適用した価額よりも高い価額により評価することもあります。」としている。
新しい評価方法が定められても,6項の適用の余地が残ることを国税庁自身が示している。

第6 事例から読み取れる判断の要素

本記事で取り上げた判決・裁決から,通達6項の適用が問題となる場面で検討される要素を整理すると,次のようになる。
これは個別の事例判断を並べた整理であり,数値基準を示すものではない。
①通達評価額と時価のかい離が大きいことだけでは足りないこと(最高裁令和4年判決)。
②課税庁の評価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないこと(同判決)。
③相続税の負担が著しく軽減されること。
その判断では,軽減の割合だけでなく軽減される税額も総合的に考慮されることがあること(東京高裁令和7年6月19日判決)。
④その軽減をもたらす行為と,租税負担の軽減をも意図したことが認められること(最高裁令和4年判決,令和6年3月25日裁決)。
ただし,租税回避行為の存在を要件とする判示は確認できず,行為が認められない事案で課税庁が敗訴した例がある(東京高裁令和6年8月28日判決)。
⑤意図の認定には,金融機関の記録や専門家の書面など,相続対策の検討過程の記録が用いられること(令和6年3月25日裁決)。

令和6年3月25日裁決の「約50%」や東京地裁令和7年1月17日判決の「5割未満」は各事案の認定であり,軽減割合が5割を超えるかどうかで適用が決まるとは読めない。

第7 出典

1 法令・通達

相続税法18条,22条(e-Gov法令検索)
②国税庁「財産評価基本通達」1,6
③国税庁「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」(令和5年9月28日課評2-74ほか)

2 裁判例・裁決

最高裁判所第三小法廷令和4年4月19日判決(令和2年(行ヒ)第283号,民集76巻4号411頁,裁判所ウェブサイト)
東京地方裁判所令和7年1月17日判決(令和4年(行ウ)第100号,裁判所ウェブサイト)
③東京高等裁判所令和7年6月19日判決(令和7年(行コ)第51号,訟務月報72巻2号79頁。裁判所HP未掲載。判例秘書により確認)
④東京高等裁判所令和6年8月28日判決(令和6年(行コ)第36号。裁判所HP未掲載。事件番号は判例秘書により確認。国税庁税務訴訟資料第274号順号14013にも掲載)
⑤東京地方裁判所令和6年1月18日判決(国税庁税務訴訟資料第274号順号13924。裁判所HP未掲載)
⑥国税不服審判所令和6年3月25日裁決(裁決事例集No.134,国税不服審判所)

3 国税庁の資料

①国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)資料」(令和8年4月20日)15頁,16頁
②国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)議事要旨」(令和8年8月20日開催)3頁
③国税庁「居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A」(令和6年5月)問9(資料上13頁)