目次
1 最高裁判決の記載
2 最高裁判決の個別意見の記載
3 最高裁判所規則,最高裁判所規程及び通達の違い
4 関連記事その他
1 最高裁判決の記載
(1) 通達の法的効力
ア 最高裁昭和43年12月24日判決は以下のとおり判示しており(改行を追加しています。),結論として,法律の解釈に関する通達は取消訴訟の対象とはならないと判示しました。
元来、通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は右機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されることはあつても、一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、このことは、通達の内容が、法令の解釈や取扱いに関するもので、国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものである場合においても別段異なるところはない。
このように、通達は、元来、法規の性質をもつものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない。また、裁判所がこれらの通達に拘束されることのないことはもちろんで、裁判所は、法令の解釈適用にあたつては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ、通達に定める取扱いが法の趣旨に反するときは独自にその違法を判定することもできる筋合である。
イ 最高裁平成19年2月6日判決は以下のとおり判示しています。
通達は,行政上の取扱いの統一性を確保するために,上級行政機関が下級行政機関に対して発する法解釈の基準であって,国民に対し直接の法的効力を有するものではないとはいえ,通達に定められた事項は法令上相応の根拠を有するものであるとの推測を国民に与えるものである
ウ 最高裁令和4年4月19日判決は,「評価通達(山中注:財産評価基本通達(昭和39年4月25日付の国税庁長官通達))は、上記の意味における時価の評価方法を定めたものであるが、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。」と判示しています。
(2) 通達に従った取扱いと国家賠償法上の違法
・ 最高裁平成19年11月1日判決は以下のとおり判示しています。
上告人(山中注:国)の担当者の発出した通達の定めが法の解釈を誤る違法なものであったとしても,そのことから直ちに同通達を発出し,これに従った取扱いを継続した上告人の担当者の行為に国家賠償法1条1項にいう違法があったと評価されることにはならず,上告人の担当者が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と上記行為をしたと認められるような事情がある場合に限り,上記の評価がされることになるものと解するのが相当である(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。
2 最高裁判決の個別意見の記載
(1) 最高裁平成24年1月13日判決の裁判官須藤正彦の補足意見には「もとより,法規より下位規範たる政令が法規の解釈を決定付けるものではないし,いわんや一般に通達は法規の解釈を法的に拘束するものではない」と書いてあります。
(2)ア 最高裁令和2年3月24日判決の裁判官宇賀克也の補足意見には以下の記載があります(改行を追加しています。)。
通達は,法規命令ではなく,講学上の行政規則であり,下級行政庁は原則としてこれに拘束されるものの,国民を拘束するものでも裁判所を拘束するものでもない。
確かに原審の指摘するとおり,通達は一般にも公開されて納税者が具体的な取引等について検討する際の指針となっていることからすれば,課税に関する納税者の信頼及び予測可能性を確保することは重要であり,通達の公表は,最高裁昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第三小法廷判決・裁判集民事152号93頁にいう「公的見解」の表示に当たり,それに反する課税処分は,場合によっては,信義則違反の問題を生ぜしめるといえよう。
しかし,そのことは,裁判所が通達に拘束されることを意味するわけではない。さらに,所得税基本通達59-6は,評価通達の「例により」算定するものと定めているので,相続税と譲渡所得に関する課税の性質の相違に応じた読替えをすることを想定しており,このような読替えをすることは,そもそも,所得税基本通達の文理にも反しているとはいえないと考える。
イ 最高裁令和2年3月24日判決の裁判官宮崎裕子の補足意見には以下の記載があります(改行を追加しています。)。
通達は,どのような手法で作られているかにかかわらず,課税庁の公的見解の表示ではあっても法規命令ではないという点である。
そうであるからこそ,ある通達に従ったとされる取扱いが関連法令に適合するものであるか否か,すなわち適法であるか否かの判断においては,そのような取扱いをすべきことが関連法令の解釈によって導かれるか否かが判断されなければならない。
税務訴訟においても,通達の文言がどのような意味内容を有するかが問題とされることはあるが,これは,通達が租税法の法規命令と同様の拘束力を有するからではなく,その通達が関連法令の趣旨目的及びその解釈によって導かれる当該法令の内容に合致しているか否かを判断するために問題とされているからにすぎない。
そのような問題が生じた場合に,最も重要なことは,当該通達が法令の内容に合致しているか否かを明らかにすることである。
通達の文言をいかに文理解釈したとしても,その通達が法令の内容に合致しないとなれば,通達の文理解釈に従った取扱いであることを理由としてその取扱いを適法と認めることはできない。このことからも分かるように,租税法の法令解釈において文理解釈が重要な解釈原則であるのと同じ意味で,文理解釈が通達の重要な解釈原則であるとはいえないのである。
こちらは、↓の所基通59-6に関する最高裁判決(R2.3.24)で、行政法の大家の宇賀先生と、租税法の宮崎先生がそれぞれ補足意見を書かれている通りで、裁判での税法通達の取扱いはそれ以上でもそれ以下でもないと理解しております。https://t.co/mqwtDOWUQW
2019年だと最高裁判決前の資料になりますね。 https://t.co/6YjD47EfCt
— 弁護士•税理士 栗原宏幸 / Hiroyuki KURIHARA (@HiroyukiKURIHA5) December 11, 2022
3 最高裁判所規則,最高裁判所規程及び通達の違い
最高裁判所規則,最高裁判所規程及び通達の違いは以下のとおりです(文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)参照)。
① 最高裁判所規則とは,主に訴訟当事者その他一般国民に関係のある事項又は重要な事項について定めるものであって,公布を要するものをいいます。
② 最高裁判所規程とは,主に裁判所の内部規律等について定めるものであって,公布を要しないものをいいます。
③ 通達とは,上級庁が下級庁に対し,又は上級の職員が下級の職員に対し,職務運営上の細目的事項,法令の解釈,行政運営の方針等を指示し,その他一定の行為を命ずるものをいいます(裁判所法80条参照)。
文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)からの抜粋です。
4 関連記事その他
(1) 国家行政組織法14条2項は「各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達をするため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。」と定めています。
(2) みずほ中央法律事務所HPの「【通達の意味・種類・法的性質(国民・企業・裁判所への法的拘束力)】」によれば,通達は命令的であり,通知は助言的であり,事務連絡は簡略的であるとのことです。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所の情報公開に関する通達等
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 最高裁判所事務総局の組織に関する法令・通達
・ 裁判所書記官,家裁調査官及び下級裁判所事務局に関する規則,規程及び通達
・ 平成29年7月1日施行の裁判所会計事務規程及び関連通達
・ 国税庁の法令解釈通達及び事務運営指針,並びに国税庁の文書回答事例及び質疑応答事例
・ 下請法に関する手形通達
・ 法務省の定員に関する訓令及び通達
1 「通達の改正」を添付しています。
2 文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)からの抜粋です。https://t.co/4lojjCQYFE pic.twitter.com/GRfthAk9Fh
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) March 19, 2022